遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~   作:久本誠一

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期末テストやってました。


ターン65 鉄砲水と移動砲台と侵略者

「翔、大丈夫?」

「ああ、今は部屋で寝てるはずだぜ」

「そう……お休み、十代」

「ああ、また明日な」

 

 エド相手にこっぴどくやられてから戻ってくると、翔がヘルカイザー相手にこっぴどくやられていた。十代の話によると、最後まで一歩も引かずに戦い抜いたらしい。なんでも、受けたダメージがそのまま電流になって体を走るとかいう闇のゲームを科学の力で再現したような変態兵器を用いてデュエルしたらしい。今ヘルカイザーが立っている、そして見据えているその先とやらが僕にはさっぱりわからない。

 

「ま、人のことばっかり心配してられない、か」

 

 冷たいようだけど、そもそもヘルカイザーのデュエルをまだ見たことがない僕では何のアドバイスもできやしない。それに、僕だってそろそろ目を背け続けてきた現実に向き合うべき時が来ているのだ。

 

「………」

 

 誰もいなくなった食卓机に、自分のデッキを1枚1枚確かめるようにして置く。思えばこのカードにも、このカードにも、僕は何度も助けられてきた。

 だけど、それだけじゃもうだめなんだ。今のデッキのままだと、もうこの学校のペースには付いていけない。今日のエド戦は、それを僕に改めて思い知らせてくれた。組み換えよう、デッキを。水属性で戦う基本コンセプトは変えないままに、よりデッキパワーを高めよう。

 もっとも、そんなにうまくいくなら苦労しない。デッキを組み替えるということは、当たり前だけどこれまで使ってきたカードをデッキから抜くということ。稲石さんのフロストやうさぎちゃんみたいに1枚単位ならともかく、デッキそのものを見直すような改革となるとこれがなかなか難しい。あーでもないこーでもないと考えていると、ふと気づけば夜中の2時を回っていた。

 

「……ハァ」

 

 水道水でも飲もうかと、席を立つ。するとその時、2階の方からかすかに何かが動く気配がした。こんなところに入って得する泥棒がいるとは間違っても思えないので最初は気のせいかとも思ったが、もう1度気配がしたのでもしかして島の外から来た人がうちの貧乏っぷりも知らずに物色しに来たのかもしれないと思い直す。とりあえず台所にあった麺棒を掴み、足音を殺してそろそろとドアの前で待ち伏せる。

 数秒後、食堂のドアノブがカチリ、と回転した。ギリギリまでひきつけておいてから、麺棒を振り下ろす!

 

「せりゃーっ!………あれ、何やってんのこんな夜中に」

「そ、それはこっちのセリフだ!殺す気かお前は!?」

 

 見事命中する寸前に慌てて手を止める。なぜなら、そこにいたのが万丈目だったからだ。まあでもそりゃそうか、一目見ただけでブルー、イエロー寮と比べても明らかに貧相なこの寮に入る泥棒なんざ初見でもいるわけないね。

 

「単に水を飲みに来ただけだ。で、お前こそ何やってるんだ?もう2時だぞ」

「ちょうどいいや、万丈目。万丈目には明日相談しようと思ってたんだけど………」

 

 かくかくしかじかと説明し、全部聞いたうえでの第一声がまず、

 

「なるほど、事情は分かった。で、なんで俺なんだ?」

「え?」

「え?じゃない。別に俺じゃなくとも、十代あたりに相談すればいい話じゃないか。相談に乗ってやるのはやぶさかではないが、なぜわざわざ俺をピンポイントで狙ってきた?」

 

 本気で不思議そうな万丈目。だけど、そんなの決まってる。

 

「デッキ強化の方法として宇宙行って未知のカード拾ってくるような相手に何相談しろってのさ」

「ああ……うん、そうだな」

「わかってくれて嬉しいよ。んで、どうするのがいいかな?」

 

 お互いに理解しあえたところで、改めて聞いてみる。

 

「デッキ枚数を減らせ」

「……それ以外でお願い」

「面倒くさいなお前は」

 

 うん、悲しいことに自覚はしてる。いっそのこと、僕もテーマデッキに手を出してみようかな。そんなことを考えたその時、地面が大きく揺れた。

 

「な、なに!?」

「地震か?………いや、違うな。外だ」

『んもーアニキったら、なんなのよ一体。うるさいから起きちゃったじゃない』

 

 ふわふわと目をこすりながら眠そうにやってきたおジャマ・イエロー。その体をわしづかみにして、有無を言わさず言いつける。

 

「俺も知らん、見に行くからお前もついて来い。行くぞ、清明」

「もちろん!」

 

 

 

 

 

 で、早速外に出てみたのだが。そこには予想よりもはるかにぶっ飛んだものが地面に突き刺さっていた。

 

「えーっと……」

「なんだなんだ!?」

「どうしたんだ!?」

 

 そのとんでもないものとは、あえて表現するならすごく正統派なデザインのUFOである。そんな現実の斜め上にすっ飛ばしていったようなものを前にどうしようか本気でわからなくなって固まっていると、校舎の方から白服の2人が同じく走ってきた。あれ、野郎の顔なんざ興味はないから今一つ自信はないけど、あの2人はどっかで見たことあるような。

 

「お前はオシリスレッドの遊野清明!」

「それに、裏切り者の万丈目準!」

「万丈目さん、だ!お前ら、確か中野に野中、とかいったな」

「あれ、知り合い?」

 

 そう聞くと、険しい顔でああ、と頷く。気のせいか一瞬、UFOの近くで3つの影が動いたような気がした。万丈目が離し始めたころにはまた見えなくなったから、たぶん気のせいだろう。

 

「お前にも見覚えがあるはずだが、こいつらは今年のノース校との対抗戦前にお前と河風夢想の邪魔をして俺が葵・クラディーとデュエルをしている間の時間稼ぎをしていた奴らのうちの2人だ」

 

 ああ、なんかちょっと思い出した。確かにいたなあ、そんな3人組。3人のそれぞれが攻撃、妨害、回復の3つの要素を担当して襲い掛かるコンビネーションはなかなか強烈で、夢想がいなくちゃ僕も危なかった覚えがある。ただまあ所詮は3人1組で強い若干インチキ臭いデュエルスタイル、裏を返せば1人1人はそれほどでもなかった。しかも、今はそのうちの2人しかいないわけだしね。

 

「光の結社を裏切ったお前に呼び捨てにされるいわれはない!そうか読めたぞ、このへんてこなものもお前らが作ったんだな?」

「前回は不覚を取ったが、今はあの化け物女はいない!今すぐここでぶちのめして俺たちも光の結社幹部コース入りだ!行くぜ、中野!」

「もちろんだ!デュエルディスク、起動!」

「フン、相変わらず人の話を聞こうともしない奴らだ。前々から鬱陶しかったが、味方でなくなるとここまでとはな。ここらでお灸をすえてやろう。おい清明、タッグデュエルで片を付けるぞ」

「そーだそーだ、だいたいレッド寮にこんな大それたもん作る金があるわけないじゃない!………まあいいや、それじゃ、タッグデュエルと洒落込もうかね」

 

 そう言いつつ、万丈目に合わせてさっとデュエルディスクを起動する。やっぱりデッキだって実戦じゃないと見えてこないこともあるよね。

 その様子を見て、起動とか言っておきながらデュエルディスクを動かさなかった2人もワンテンポ遅れて2人もデュエルディスクを起動した。だけど、その様子がおかしい。なんだか2人とも体中が小刻みに震えていて、表情もさっきまでのやかましいながらに元気そうなものから一転してぼんやりした無表情になっている。そもそも、この時期の学生にしては異様に起動の動作がぎこちない。まるで、今初めて見たものを見よう見まねで動かしているかのような。

 その違和感は万丈目も覚えたらしく、いささか不気味そうに2人の方へ視線をやる。その一瞬だけで、『彼ら』には十分だったのだろう。足元が何かひんやりしたものに包まれた、と思ったらあれよあれよという間に全身が氷のような寒気に包まれていく。せめて万丈目に警告しようと思ったけど、それすらもできない。僕の体なのに、完全に僕の物ではなくなってしまったようだ。

 仕方がないので最後の手段としてチャクチャルさんに心の中で通信を、としたところで、普段聞きなれたチャクチャルさんとは違う声が頭の中に響いた。

 

『すいませんすいませんっ、いやほんと申し訳ないです!ごめんなさいごめんなさいそこの人、すぐ済みますからここは大目に見てください~!』

 

 あ、いい人(?)だ。声を聞けば分かる、間違いなくこれは悪人(?)じゃない。少しだけ警戒心を解くも、それでも体が動かないことに変わりはない。とりあえずコミュニケーションが取れることが分かっただけでもよしとするか。

 

「(えっと………どちら様で?)」

『ごめんなさい申し遅れました、わたしたちはグレ……ああっ、少しだけ待ってくださいすいません、今ちょっと追われてるところなんです!あの人たちに憑りついてるのが私を追いかけてここまで来てるんですけど、あなたデュエリストですよね、少し体借りますごめんなさい!』

「おい、清明!どうしたお前までそんなにぼさっとして!ほら、はじめるぞ!」

「あ、ああ……」

 

 何が言いたいのかさっぱり要領を得ないうえにいまだ僕は喋ることすらできない。だけど、どうやら野中と中野も今は何かに乗っ取られてるらしい。………実質まともな人間が万丈目1人しかいないじゃないの。

 

「デュエル!」

「「「………」」」

「なんだかやりづらいな、本当にお前らどうしたんだ?まあいい、まずは俺のターンだ。魔法カード、予想GUY(ガイ)を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない時、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚できる。来い、V-タイガー・ジェット!」

 

 虎を模した戦闘機が、後ろ足型のジェット機から火を噴きつつ万丈目の前でホバリングする。

 

 V-タイガー・ジェット 守1800

 

「さらに俺は、W-ウィング・カタパルトを通常召喚!」

 

 W-ウィング・カタパルト 攻1300

 

 これでV、そしてWの2体がフィールドに揃った。あとはこのまま除外すれば、融合モンスターであるVW-タイガー・カタパルトを特殊召喚することができる。先攻1ターン目から手札消費2枚で融合召喚とは、さすがに万丈目は実力者だ。

 

「ゆくぞ、ユニオン合体!Wは1ターンに1度、自分フィールドのVに合体して攻守を400ポイント上げることができる!」

 

 タイガー・ジェットがウィング・カタパルトの上に陣取り、互いに磁気のようなものを放ちつつ2つの戦闘機が上下に合体する。

 

 V-タイガー・ジェット 守1800→2200

 

「カードを1枚伏せ、ターン終了だ」

「ドロー……」

 

 陰気くさい口調と死んだ目でつぶやきながら、中野がすっとカードを引く。録に見もしないまま、そのカードをモンスターゾーンに乱暴に置いた。

 

 エーリアン・ソルジャー 攻1900

 

「エーリアンだと?おいお前、そんなデッキだったか……?」

 

 万丈目の疑問は、誰にも届かない。しょうがない、実質万丈目だけが蚊帳の外状態なんだから。

 

「こう、げき」

 

 エーリアンの上級戦士が、すらりと伸びた銀色の剣を振りかざす。攻撃力の低いモンスターによる攻撃は一見無謀でしかないが、さすがにただ単に自爆しに来たわけではないようだ。

 

「はつ、どう」

 

 タイガー・ジェットに向け駆けるソルジャーの足元の影が大きく膨れ上がり、ソルジャー本体を持呑み込んで一回り大きなサイズになる。そのまま勢いは殺さずに突っ込んできたその一撃は、体が大きくなったのに比例して破壊力が増している。

 

 エーリアン・ソルジャー 攻1900→2900→V-タイガー・ジェット 守2200

 V-タイガー・ジェット 守2200→1800

 エーリアン・ソルジャー 攻2900→1900

 

「なるほど、速攻魔法の虚栄巨影を使用して攻撃力を1000ポイントアップさせたか。だがユニオンモンスターは装備状態の時、戦闘破壊の身代わりにできる!ウィング・カタパルトをパージしてその破壊から身を護れ、タイガー・ジェット!」

 

 万丈目の指令に従い、体の下にあったウィング・カタパルトを切り離して辛くもその太刀から身をそらすタイガー・ジェット。勢いの止まらない剣は、地面に落ちた青い戦闘機を両断したのみにとどまった。

 

『おおー。あなたの相棒さん、かなりのタクティクスですね!次の反撃を予想してあえて融合しないなんて、すごいです……って、すいません急に馴れ馴れしくしちゃって!怒らないでください、次は私のターンですから!』

「(いやま、それはいいんだけどさ)」

「魔法、はつ、どう。「A」細胞増殖装置。エンド」

 

 なにやら不気味な、無数のコードが伸びたガラスの筒のようなものがフィールドにでん、と置かれる。筒の中はなにやら液体が満たされているようで、無数の気泡が常に立ち上っている。細かいところまでは半透明なためよく見えないけど、何か今筒の中で何か生き物みたいなものが動いたような……?

 

 万丈目&清明(?) LP4000 

モンスター:V-タイガー・ジェット(守)

魔法・罠:1

 中野(?)&野中(?) LP4000

モンスター:エーリアン・ソルジャー(攻)

魔法・罠:「A」細胞増殖装置

 

「では、ドローします」

「お、おい清明……?なんだその喋り方は」

「すいませんすいません、後でまた説明しますから!永続魔法、グレイドル・インパクトを発動!さらにモンスターカード、グレイドル・コブラを召喚します」

「おい!なんだそのカードは、お前のデッキにそんなカードは入っていないはずだ!」

 

 おかしい。これが僕の体である以上、あるのは僕のデッキのはずなのに。グレイドルなる聞いたこともないテーマのカードに、体がほんのりと赤いコブラ。どこか非生物的な何かを思わせるその目が、月の光を浴びて妖しく光った。

 

「タイガー・ジェットを攻撃表示にしてここで伏せカード、ゲットライド!を発動して、墓地のWをフィールドのVにユニオン合体させます」

 

 再び地中から戦闘機が砂を巻き上げながら発進し、空中のタイガー・ジェットとユニオン合体を果たす。これで再び攻守400ポイントアップだ。

 

 V-タイガー・ジェット 守1800→攻1600→2000

 

「バトルします、タイガー・ジェットでエーリアン・ソルジャーに攻撃!」

 

 V-タイガー・ジェット 攻2000→エーリアン・ソルジャー 攻1900(破壊)

 中野(?)&野中(?) LP4000→3900

 

「そのままグレイドル・コブラでダイレクトアタック!」

 

 グレイドル・コブラ 攻1000→中野(?)(直接攻撃)

 中野(?)&野中(?) LP3900→2900

 

 攻撃を受けたというのに、まったく反応がない2人。改めて、不気味だ。

 

『すみません勝手に心読んじゃって、これ終わったらすぐ出ていきますから許して下さい!で、でも1つ捕捉させていただきますと、あの2人に憑りついているヒトたちはあまり憑りつきとかそういうのに慣れていないんですよ。いつもの自分の体とはだいぶ使い勝手が違うから困っているんだと思います』

「(キミはえらく得意みたいだね。全然片言じゃないし、体もスムーズに動かしてるし)」

『えへへ、それが私たちの生きる道ですから。って今ちょっと私調子乗ってましたねこんな偉そうなこと言える立場じゃないのにすいません!』

 

 謝るだけ謝って、また体の操作に取り掛かるグレイドルさん(仮称)。なんというか、目まぐるしい。

 

「カードを1枚伏せて、エンドフェイズにグレイドル・インパクトの効果を発動します。エンドフェイズにデッキからグレイドルのカードを1枚サーチしますね。ドール・コール!来てください、グレイドル・アリゲーター。さあどうぞ、悪いですがあなた方の恨みはてんで的外れです。お願いですからもうわかってください」

「ふざけるな!お前だ、お前が我々の仲間を!」

 

 いまだ片言の中野に憑りついた方とは違い、野中に憑りついた方はこれまで一言も喋らずに野中の体の動かし方をモノにすることにのみひたすら集中していたらしくその喋りはグレイドルさんに比べればぎこちないもののそれなりに聞けるものにはなっていた。

 

「何を言っても無駄ですね本当に、だったら少し頭冷やしてあげますからかかってきなさい」

「だまれ!スタンバイフェイズ、増殖された「A」細胞がタイガー・ジェットに乗り移る!」

 

 増殖装置の上部のふたが開き、その隙間からぬらぬらと月光を反射する目の生えたぶよぶよした肉の塊のようなものが飛び出る。それは体に生えたかぎ爪のような触手のようなものを振り回しながらびちゃり、と気色悪い音を立ててタイガー・ジェットの右前脚部分にしがみつき、金属製のボディーに根を張るかのごとく触手を這わせてしがみついていく。

 

 V-タイガー・ジェット Aカウンター0→1

 

「そして、ワーム・ゼクスを通常召喚。このカードは召喚成功時、デッキから同法の爬虫類族モンスターを墓地へ送ることができる。ワーム・ヤガンを墓地に送り、墓地からヤガンの効果発動!自分フィールドにゼクス1体しか存在しない時、墓地から裏側守備表示で特殊召喚できる」

 

 ワーム・ゼクス 攻1800

 ???(ワーム・ヤガン)

 

「バトルだ!ワーム・ゼクスでグレイドル・コブラに攻撃!」

 

 緑色の地面にへばりつく十字のような形をしたモンスターが、平べったい体を伸び縮みさせるようにして猛烈なスピードで赤いコブラの近くまで移動する。一瞬のためののち、わっと飛びかかって体の中央にある口でコブラの上半身をいっぺんに食いちぎった。

 

 ワーム・ゼクス 攻1800→グレイドル・コブラ 攻1000(破壊)

 万丈目&清明(?) LP4000→3200

 

 自分のモンスターが破壊されたというのに、グレイドルさんは慌てない。それどころか、僕の顔を使ってニヤリと笑ってさえいる。よく見ると食いちぎられたコブラも変だ。普通モンスターが戦闘破壊されたらさっさと光になるなり爆発するなりして消えるのに、なぜか血の一滴も出ていない銀色の切断面はまるでスライムか何かのようにツルンとしている。そしてその首なしの蛇が、ゆっくりとまるで目が見えているかのように正確な動きで残りの体も全部ゼクスの口の中に飛び込んでいく。

 

「(うわっ!?)」

『ごめんなさい説明遅れましたけど気持ち悪いとか思わないでくださいお願いします、私たちにとってはこれでいいんです!』

 

 あいかわらず落ち着きなく僕にそう弁解し、また僕の体でパッと野中に向き直るグレイドルさん。なんだろう、ちょっと見てて面白くなってきた気がする。

 

「グレイドル・コブラが戦闘破壊されたことで効果発動……相手モンスター1体に憑りつき、その装備カードとなってコントロールを頂きます。今のあなたの場に存在する表側表示のモンスターは1体、ゼクスはこちらで預かりましょう」

 

 何と緑色だったゼクスの体に銀色の模様が内側から浮かび上がり、その直後にゼクスが体の向きを変えて僕らのフィールドの前まで来た。なるほど、攻撃力1000のモンスターをなんの伏せカードも伏せずに出したのは、最初から破壊されることを狙っていたからなのか。

 

「なるほど、厄介だな。しかしわが同胞、必ずや取り戻す。カードを伏せてエンドだ」

 

 万丈目&清明(?) LP3200 

モンスター:V-タイガー・ジェット(攻・W)

      ワーム・ゼクス(攻・コブラ)

魔法・罠:グレイドル・インパクト

     W-ウィング・カタパルト(Ⅴ)

     グレイドル・コブラ(ゼクス)

 中野(?)&野中(?) LP2900

モンスター:???(ワーム・ヤガン・セット)

魔法・罠:「A」細胞増殖装置

     1(伏せ)

 

「俺のターン、ドロー。なんかお前ら本当に変だぞ、体調でも悪いのか?まあいい、ウィング・カタパルトのユニオンを解除して特殊召喚、そして自分フィールドのVとWをゲームから除外し、融合召喚!来い、VW-タイガー・カタパルト!」

 

 VとWが合体を解除して螺旋を描くようにぐるぐるとまわりながら上空へと駆け上り、はるか高くで1度光を放ったかと思うと再び合体して地上に降りてきた。一見すると何一つ変わっていないように見えるが、少なくともさっきまでくっついていた「A」細胞の姿はもうそこにはなかった。

 

「甘い!トラップ発動!」

「なに、奈落の落とし穴だと!?」

 

 せっかく融合合体したマシンも、奈落に引きずり込む落とし穴の前には無力だ。さっきまでの活躍が嘘のようにあっさりと消えていく融合モンスターを一瞥して、すぐに次の手を打つ。

 

「ならば、モンスターを1体セットだ。そしてバトルフェイズ、ゼクスで裏側のヤガンに攻撃!」

「ヤガンの守備力は1800のため破壊されず、さらにヤガンが表になった時相手モンスターを1体手札に戻す」

 

 ワーム・ゼクス 攻1800→??? 守1800

 

 どことなくYの字のシルエットをした黄色いワームが、ゼクスの噛みつきを辛うじて払いのける。だが万丈目の目に慌てた感じはない。それどころか、笑ってさえ見せた。

 

「そんなことはわかっているさ、だがこれでヤガンの効果は使わせた。さあ、どちらのモンスターをバウンスする?」

「何?」

「俺は今、ヤガンの効果を承知したうえでこのモンスターをセットした。この意味をよく考えてから、バウンス対象は選ぶことだ」

 

 なるほど、これはえげつない精神戦だ。万丈目の言葉が単なるハッタリなのか、それともあの伏せモンスターがリバース効果持ちのカードなのか。僕にもその本当のところはわからない。やがて迷いながらも、野中……に憑りついた何かがモンスターのうち片方を指さす。

 

「帰って来い、ゼクスよ」

「なるほど、俺のモンスターを残す方を選んだか。まあ構わん、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 果たしてこれが吉と出るか、凶と出るか。ただ次のターンプレイヤーである中野に憑りついた奴にとっては、こういった複雑な読み合いはあまり好きではないらしい。

 

「ドロー」

 

 スタンバイフェイズにはなったが、こちらのフィールドに表側モンスターが存在しないため増殖装置の蓋は開かない。筒の中でもぞもぞと先ほど見た細胞がうごめいているのを横目に見ながら、ソルジャーに次ぐ2体目のエーリアンがヤガンの隣に現れる。

 

「召喚、エーリアン・ウォリアー。ヤガンも攻撃表示に」

 

 灰色の体をした筋骨隆々のエーリアン。剣を使うソルジャーとはまた違った、いかにも格闘戦士という見た目である。

 

 エーリアン・ウォリアー 攻1800

 ワーム・ヤガン 守1800→攻1000

 

「ウォリアー、ヤガンで攻撃」

「むっ、恐れずに突っ込んできたか。これはどうしようもないな。諦めろ」

『ひ、ひどいわよアニキー!いやー!!』

 

 エーリアン・ウォリアー 攻1800→??? 守1000(破壊)

 

 文句の叫びとともに、完全にブラフでしかなかったおジャマ・イエローがあっさりと引き裂かれる。がら空きになった万丈目を、ヤガンの一撃がとらえた。

 

 ワーム・ヤガン 攻1000→万丈目(直接攻撃)

 万丈目&清明(?) LP3200→2200

 

「ちっ、一撃喰らったか」

「(万丈目!)」

『あああもとはといえば私のせいであなたのご友人さんにまでご迷惑かけてごめんなさい!』

「(い、いやそんなに謝らなくても大丈夫だから、ね?)」

「セット。ターン、エンド」

 

 万丈目&清明(?) LP2200 

モンスター:なし

魔法・罠:グレイドル・インパクト

     1(伏せ)

 中野(?)&野中(?) LP2900

モンスター:ワーム・ヤガン(攻)

      エーリアン・ウォリアー(攻)

魔法・罠:「A」細胞増殖装置

     1(伏せ)

 

「私のターン、ここで先ほどの布石を使いますね。グレイドル・アリゲーター召喚!」

 

 地面に銀色の染みが広がったかと思うとそれがみるみるうちに質量を増して銀色の水たまりとなり、ぶくぶくと泡立って緑色のワニのような姿になる。

 

 グレイドル・アリゲーター 攻500

 

「またステータスの低いモンスターか」

「そして永続魔法、グレイドル・インパクトのさらなる効果を発動します!このカード以外のグレイドル1枚と相手フィールドのカード1枚、その伏せカードを選択して破壊する、グレイ・レクイエム!」

 

 アリゲーターが飛びかかり、伏せカードを大きな口で噛み砕く。だがその寸前伏せカードが持ち上がり、ウォリアーの体がいきなり数倍にも膨れ上がって音もなく爆発した。

 

「惑星汚染ウイルス、活動開始。味方以外のAカウンターが乗った全生命体を駆逐し、その後もウイルスが相手フィールドに3ターンの間とどまりあらゆる生命体に寄生する」

 

 野中の暗い声をバックに、こっぱみじんになったウォリアーの肉片が空中でもぞもぞと動き出す。ふわふわと空中を漂うそれにはどれも目があり触手があり、空中に漂うためか羽のような形状のおぞましい部位がついていた。

 

「私のグレイドルコンボが封殺されましたか………」

「落ち着け、清明。俺のセットカードだ、こんなこともあろうかと用意しておいてよかった」

「セットカード?……なるほど、ありがとうございます。リバースカードオープン、(ディファレント)(ディメンション)(リバイバル)!手札1枚をコストに、除外されたモンスターを特殊召喚してこのカードを装備です。VW-タイガー・カタパルトを再び召喚、そのままヤガンに攻撃!」

「ウイルス、感染」

「覚悟の上です!」

 

 フィールドを不気味な細胞が支配する中、空のかなたから無数のミサイルが放たれて黄色のワームを一瞬で燃えカスに変える。遅れて、2台の戦闘機が融合を果たしたマシンが戦場に参戦した。だが、その全身にA細胞が侵食していく。

 

 VW-タイガー・カタパルト 攻2000→ワーム・ヤガン 攻1000(破壊)

 中野(?)&野中(?) LP2900→1900

 VW-タイガー・カタパルト Aカウンター0→1

 

「自身の効果で特殊召喚されたヤガンは、フィールドから離れるとき除外される……」

「そうですか。破壊効果を発動したターン、インパクトはサーチ効果を使用できません。ターンエンドです」

「ゼクス、ヤガン、お前たちの仇はきっととる……!ドローだ。スタンバイフェイズにA細胞が増殖されるが、この手札なら意味はないな」

 

 怒りに燃える野中が、自身の変化したデッキからカードを引く。よほどいいカードを引いたらしく、口の端が笑いに歪んだ。

 

 VW-タイガー・カタパルト Aカウンター1→2

 

「魔法カード、ワーム・コールを発動。自分フィールドにモンスターが存在しないならば、手札のワーム1体を裏側守備表示で特殊召喚することができる。俺はこの効果でレベル7、ワーム・ヴィクトリーをセット。そして魔法カード、太陽の書を発動!」

「(自分で伏せて自分で反転?)」

『これは……ごめんなさい私のさっきのコンボが決まらなかったせいで、今割とピンチです』

 

 相変わらず平謝りしながらも、グレイドルさんの声にはいささか緊張の色が見える。そうか、今そんなにきついのか。………ふーむ。

 

「ワーム・ヴィクトリーはリバースした時、ワーム以外の表側表示モンスターをすべて破壊する!吹き飛べ、タイガー・カタパルト!」

「何!?貴様、俺のウイルスコンボを阻害する気か!」

「何か勘違いしているようだが、お前とは今回たまたま利害が一致しただけでいちいちお前のデッキの都合に合わせるつもりはない。ヴィクトリー、そこの鉄くずを握りつぶせ!」

 

 微妙な仲間割れを尻目に、赤い体に6本腕を持つ全身粘液で光る爬虫類とは名ばかりの異星の生物の指が戦闘機の鋼鉄のボディーをまとめて掴むと、ほとんど力を入れた様子もなくそのまま驚異的な握力で握りつぶした。

 

「だがこれだけではない。ヴィクトリーの攻撃力は、墓地に存在する爬虫類ワームの数の500倍となる。今のままでは攻撃力0というところだが、このカードを使えばどうなると思う?魔法発動、スネーク・レイン!手札1枚をコストに、デッキから爬虫類族モンスターを4体墓地に送る!」

「(4体!?それじゃあ最高で……)」

『口をはさむようで申し訳ありませんが、今手札コストにしたのもワームモンスター、ディミレクスですね。どどどどうしましょうあれもこれも私のせいで、本当なら先ほどのターンで私が華麗に勝利しているつもりだったんですけど失敗しちゃってすいません~!』

 

 つまり、一気に墓地にモンスターが5体も増えることになる。どうすることもできずに僕らが見ている前で野中は、デッキから抜き取ったイーロキン、アポカリプス、テンタクルス、ホープの4枚をこれみよがしに見せびらかしつつ墓地へ1枚ずつ送り込んでいく。

 

 ワーム・ヴィクトリー 攻0→2500

 

(ディミレクス)(イーロキン)(アポカリプス)(テンタクルス)(ホープ)の5体だと?フン、随分と悪趣味な選出だな」

 

 憎まれ口をたたく万丈目も、目の前の圧倒的攻撃力を前にその表情は険しい。っていうか、DEATH()、ね。恥ずかしながら全っ然気づかなかったぞ僕。敵ながら、なかなか洒落たことやってくれるじゃないの。

 などと感心している暇はない。グレイドルさんが何をやらかした、あるいはやらかしたと思われてるのかはとにかくとしてもやられているのは僕と万丈目だ。なら、このままやられたら僕らにとってはまさにやられ損以外の何でもない。

 

「(ねえ、ちょっと!)」

『もうこれは駄目ですかね、ごめんなさいすいません私のわがままに無理やり付きあわせたりして……』

「(いいから聞いて!なんで手札もまともに見ようとしないのさ、悪いけどちょっと体返してもらうよ!)」

『へ?あ、あの……?』

 

 ちなみにこの会話がだいたいコンマ5秒といったところ。チャクチャルさんと話す時もそうだけど、頭の中で会話するときはなんだか妙に時間が流れるのが遅い。もっともそのおかげで、こうやって作戦を立てることもできるんだけど。

 

「これで終わらせる!ヴィクトリーでダイレクトアタック!」

「いいや、まだまだデュエルは続けるさ!直接攻撃宣言時、手札からゴーストリック・フロストの効果発動!攻撃モンスターをセット状態にして、このカードを裏側守備表示で特殊召喚!」

 

 ヴィクトリーの縦横無尽なパンチの連打が届く寸前に目の前にずどんと落ちてきた雪玉が、うまいこと一時的にとはいえヴィクトリーを押しつぶす。驚いた様子の万丈目に対し、どうにか笑いかける。むう、やっぱり急にコントロール取り戻したからか今一つ体の反応が鈍い。

 

「ふぅー、危ない危ない。ごめんね万丈目、迷惑かけて」

「な、なんだいきなり。………だが、いつものお前に戻ったようだな。あとで何があったのか教えてくれ」

「前向きに考えとくね。とりあえず、次のターンはよろしく万丈目」

 

 僕のしたことは本当にただの時間稼ぎでしかない。フロストの相手を裏側守備表示にする効果が仇となり、次に相手にターンを回したらもう1度ヴィクトリーのリバース効果を使われてしまう。だから、万丈目がいかにしてヴィクトリーを処理するかにかかっているのだ。

 

 万丈目&清明(?) LP2200 

モンスター???(ゴーストリック・フロスト)

魔法・罠:グレイドル・インパクト

備考:惑星汚染ウイルス感染中

 中野(?)&野中(?) LP1900

モンスター:???(ワーム・ヴィクトリー)

魔法・罠:「A」細胞増殖装置    

 

「よろしく、か……ああ、任せておけ。だが、1つ訂正させてもらおう。俺は万丈目、サンダーだ!俺のターン、ドロー!」

 

 何か秘策があるのか、いつも通り自身に満ち溢れた様子でカードを引く万丈目。

 

「魔法カード、黙する死者を発動。これにより、俺の墓地に存在する通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚することができる。甦れ、おジャマ・イエロー!」

『またまたアタイの出番なのね~?今度こそ活躍させてもらうわよ!………て何よこれ!?こんなフィールドにアタイを呼ぶなんて、アニキの人でなし~!!』

 

 先ほど戦闘破壊されたイエローが再び復活する。だけど、その体にも対象を選ばない節操なしな汚染ウイルスは付着する。

 

 おジャマ・イエロー 守1000 Aカウンター0→1

 

「そんな雑魚モンスターをフィールドに揃えたところで、私のヴィクトリーは守備力2500。どうあがいたところで勝てはしない!」

「誰がこの雑魚で戦うといった?俺はフィールドのおジャマ・イエローと、ゴーストリック・フロストをリリースしてアドバンス召喚!出でよ、光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)!」

『アタイの出番これでおしまいなの~!?』

 

 2体のモンスターをリリースして召喚されたのは、ずいぶん久しぶりに見る万丈目の切り札の1枚。体のきっかり半分がしみひとつない純白、もう半分はこれまた一切の妥協がない漆黒に色分けされた白黒の竜。特殊召喚できないというデメリットを補って余りある、圧倒的な制圧力を誇る2色のドラゴンだ。

 

 光と闇の竜 攻2800 Aカウンター0→1

 

「なるほど、アドバンス召喚で最上級モンスターを出してきたか。だが、そんなことをしたところでヴィクトリーに攻撃すれば実質的に相打ちに持ち込める!」

「ならば貴様の言う通りになるかどうか、試してやろうじゃないか。バトルだ、光と闇の竜でワーム・ヴィクトリーに攻撃、シャイニングブレス!」

「ヴィクトリーは戦闘破壊されるが、リバース効果発動!フィールドのワーム以外のモンスターをすべて破壊だ」

 

 真っ白い光のブレスが放たれ、ワームの強者を一瞬で薙ぎ払う。苦し紛れに伸びたヴィクトリーの腕がその首を締め落とさんと腕自体に意志があるかのような正確さでドラゴンの首を狙うが、その腕を尾の一撃でたたき落とす。

 

 光と闇の竜 攻2800→???(ワーム・ヴィクトリー) 守2500(破壊)

 光と闇の竜 攻2800→2300 守2400→1900

 

「バカな!?」

「これこそが光と闇の竜の効果だ。チェーンブロックを作るあらゆる効果の発動を、自身の攻守を500ポイント下げることで強制的に無効化する」

「お前、あれだけ偉そうなこと言って、この結果がこれか」

「黙れ……!」

 

 こっちが何も言わなくても勝手に相手がパートナーを怒らせたり煽ったりしてくれる。分断工作を考えなくていいのは楽なもんだ。

 とはいえ、楽観ばかりはしていられない。光と闇の竜の効果は確かに強力だけど、それは強制効果という分類上カード効果が発動されたら嫌でも無効化しなければならないという弱点も含んでいる。つまり、もし中野の手札に無駄打ちできるカードとある程度のアタッカーがいればこの大型ドラゴンもあっさり突破されてしまうということだ。

 

「俺は、これでターンエンドする」

 

 だが、万丈目はそれを本当に分かっているのか、何もしない。ただいつものように不敵に笑い、自身のモンスターに全てを任せるのみだ。

 

「俺の邪魔するなら、もうパートナーなど必要ない。お前には頼らん、1人で勝つ。ドロー、スタンバイフェイズ、「A」細胞増殖装置が起動!」

「くっ……光と闇の竜は、チェーンブロックを作る効果を無効にする………」

 

 光と闇の竜 攻2300→1800 守1900→1400

 

「これでは終わらん。通常魔法、侵食細胞「A」発動」

「光と闇の竜……効果発動だ」

 

 光と闇の竜 攻1800→1300 守1400→900

 

「貪欲な壺」

 

 光と闇の竜 攻1300→800 守900→400

 

 強制効果の乱用により、あれよあれよという間に光と闇の竜の攻守はそこらのレベル3モンスターにも吹き飛ばされるような数値にまで落ち込んでしまう。守備力が500未満になったため、これ以上下がることがないのが救いといえば救いだけど。

 

「エーリアン・ハンター」

 

 体中に青い球体を持つ、ウォリアーよりもややシャープな見た目に巨大な三つ叉の槍のような武器を抱えたトカゲ戦士といった風体の宇宙人。その目には確かに知性の光が宿っていた。

 

 エーリアン・ハンター 攻1600

 

「エーリアン・ハンターはAカウンターが乗った相手を戦闘破壊した際、連続攻撃の権利を得る」

「なんだって!?」

『あああどうしましょうどうしましょう、今度こそどうすればいいんでしょうかこれ!?』

「安心しろ、清明」

 

 ハンターの攻撃力は、今の光と闇の竜より800多い。そして光と闇の竜が戦闘破壊されたら、フロストもいない今度こそ攻撃を防いでくれるモンスターはいない。1600のダイレクトが直撃で、僕らのライフは0だ。

 だというのに、万丈目は安心しろという。どう安心すればいいんだろうか。

 

「……万丈目!」

「万丈目サンダー。慌てるな、みっともないぞ。この俺が安心しろと言っているんだ、少しは信じてくれ」

「むぅ」

 

 何を言っても無駄そうなので、仕方なくこちらに槍を構えて突っ込んでくるハンターに向き合う。あの勢いからいって、おそらく光と闇の竜を串刺しにした勢いを利用してそのまま突っ込んでくる気だろう。

 

「やれ、エーリアン・ハンター」

 

 エーリアン・ハンター 攻1600→光と闇の竜 攻800(破壊)

 万丈目&清明 LP2200→1400

 

 無防備な腹の、ちょうど白と黒の境目に槍が突き刺さる。だが2色のドラゴンはそのまま消えたりせず、槍が刺さったまま最後の力を振り絞ってハンターを突き飛ばした。

 

「む?」

「かかったな、馬鹿が。光と闇の竜のもう1つの効果は、自身が破壊された時に発動される。自分フィールドのあらゆるカードを道ずれに破壊する代わりに、空になったフィールドにモンスターを墓地から蘇生させる!清明、お前のモンスターをだ!」

『ええ、そんな効果もってたんですかあのドラゴン、』

 

 そうか。万丈目は最初から光と闇の竜の能力を逆手にとって相手にアタッカーを出させ、その上でさらに攻撃力の高いモンスターを出すのが狙いだったのか。そして、僕らの墓地にはさっきグレイドルさんがD・D・Rのコストで墓地に送ったモンスターが僕のデッキ最強モンスター(固定値)が存在する!

 

「オーケイ万丈目。甦れ!青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)!」

 

 最後の力も消え、静かに消えていった白黒のドラゴンに入れ替わるかのように天空から冷風を纏いつつふわりと降りてきた氷のドラゴン。手札コスト様様だ。

 

 青氷の白夜龍 攻3000

 

「バカな!?こんな方法で最上級モンスターを呼びだすだと!?」

「勝ちを急いだお前の戦術ミスだ。貪欲な壺を光と闇の竜に無効にさせるのではなくメイン2まで温存していたら、そのドローでまだ何かできたかもしれん」

 

 ドヤ顔でそういう万丈目の言葉を、手札0でできることもない中野に代わって次にターンが回ってきた僕が引き継ぐ。

 

「もっとも、そうしなくちゃ戦闘破壊からの連撃を考えてもギリギリこっちのライフは削りきれてなかったわけだけどね。だからまあ、誰が悪いわけでもないさ」

『すごいなんか堂に入ってますね!セリフに渋みというか迫力が出てますよ2人とも!』

「だ、だがハンターの攻撃力は1600で貴様のモンスターは3000、こちらのライフを削りきるにはまだ500ほど足りていないはずだ」

「それはどうかな、ってね。僕のターンに永続魔法、水舞台装置(アクアリウム・セット)を発動して自分フィールドのみの水属性モンスターの攻守を300アップ。さらにペンギン・ナイトメアを場に出すことで自分フィールドの水属性はさらに攻撃力200アップ。これでエーリアン・ハンターに攻撃、孤高のウィンター・ストリーム!」

 

 青氷の白夜龍 攻3000→3300→3500→エーリアン・ハンター 攻1600(破壊)

 中野(?)&野中(?) LP1900→0

 

 

 

 

 

「お、おのれ……」

「この役立たずめ、お前のせいで負けたんだぞ」

「こちらのセリフだ。……だがまあ、約束は約束だ。いいだろう、俺たちは帰る」

 

 約束?だがその意味を聞く前に、中野と野中の体が糸の切れた人形のように地面に崩れ落ちる。かすかに寝息が聞こえるところを見ると、単に眠っているだけのようだ。

 

「いよしっ、お疲れ万丈目」

「ああ。そういえば、結局あのグレイドルとかいうカードはなんだったんだ?」

「おっと、そうだった!そろそろ、僕の体から出て行ってもらえないかな?」

 

 諭すように呼びかけると、僕の足のあたりをなにかが這う感触がした後で足元に銀色の水たまりができる。先ほどアリゲーターが出てきたときのように震えつつふくらみ形を変えるそれは、今度は色は銀色のままで大きな頭に長い指の上半身とスライム状の下半身を持つ、いわゆるグレイ型宇宙人の変身途中といった風体になる。とっさに万丈目が身構えるが、僕はそれをじっと見ていた。さっきまで話していたグレイドルさんがこれだと感覚でわかったからだ。

 

「えーっと……一件落着、でいいのかな?」

『ええはい、もちろんです~!本当に本当に申し訳ありませんでした、おかげで私の命もこうして……』

「お、お前は何者だ!?」

『あなたはこちらの方の相方さん、あなたにもご迷惑をおかけしました、って私まだ自己紹介も済ませてませんね、本当に失礼なことをしてしまいすいません!』

 

 本人はこう言っているが、自己紹介されなくても何となくの想像はつく。よく見るとその体はUFOともども砂浜の色と微妙にかぶっているせいでわかりにくいが半透明で、ちょうど見慣れたハネクリボーやらおジャマ三兄弟ぐらいの薄さだったからだ。

 

『私はデュエルモンスターズの精霊、グレイドル・スライムといいます。どうもおふた方は精霊が見える人間のようで、それに甘えるような形となってしまいほんっとうにご迷惑を掛けました』

「わかったわかった、わかったから何があったのか説明してちょうだい?」

 

 その後何度も挟まる悪気のない謝罪に話を中断されながら聞いたところによると、どうもあの2人、何となく察していた通りエーリアンとワームの精霊に誤ってさっき墜落した宇宙船をぶつけてしまい、それでひたすら追いかけられていたらしい。……だからって精霊世界から現実世界に来たりすんのかな、とかこれそもそも悪いの全部こいつなんじゃ、とかいろいろツッコミどころはあるけれど、とにかくちょうどそのとき近くにいた人間の体を使ってデュエルモンスターズの精霊らしく決着をデュエルでつけることにしたらしい。俺が勝ったらなかったことにしてもらおう、という奴だ。まあこの部分はデュエリストなら至極当然だね。

 

『そういうわけでUFOも自動修復装置が仕事を終えている頃でしょうし、私そろそろ自分の世界に帰りますね。お騒がせして申し訳ありませんでした』

 

 ナメクジのように、といえば聞こえは悪いが、本当にそうやってずるずると宇宙船に向けて進んでいくグレイドル・スライム。その背中を見送ろうとして、忘れていたことを思い出した。

 

「あれ、待って待って!このグレイドルカード、君のでしょ?ちゃんと持っていかないと」

『いえいえとんでもありません、今回迷惑をおかけしたせめてものお詫びの品だと思っておいてください~。って、なんか押しつけがましいですね最後まですいません、いらなければ海に捨ててもらっても全然かまいませんので!』

「でも……」

『それに、さっきまた勝手に心の中を覗いてしまって。そのことは申し訳ないですしこんなこと言うのも差し出がましいようですが、今あなたデッキに迷いがあるんですよね?レベルもステータスも低い私たちですが、せめて何かお役にたてるようでしたら喜んで力をお貸ししますので!では、さようなら!』

 

 それ以上は声をかける暇もなく、宇宙船が宙に浮きあがる。その後カクカクと何度も左右に曲がりながら上昇し、あっという間に見えなくなった。

 

「さて、俺はもう寝るとするか。清明、お前も寝坊するなよ?お前の作る朝飯はホワイト寮で食うものとは比較にならんほど美味いんだからな、寝過ごしたりして朝から俺の期待を裏切ったりしたら承知しないぞ」

『んもーアニキったら、相変わらず素直じゃないんだから~』

「なっ!?ええい黙れ鬱陶しい、この雑魚モンスターめぇ!」

『キャー、アニキが照れたー!』

 

 騒がしく帰っていく万丈目とおジャマ・イエローを見て、手元のデッキに目を落とす。グレイドル、か。これからよろしく、という意味を込めてそっとデッキを撫でてから、腰のデッキケースにまとめて戻した。




これは主人公のデッキです(コントロール奪取しながら)。
というわけでついに大幅テコ入れの入った清明のデッキ。コンセプトはどう見ても悪役だけど、はたしてちゃんと清明はちゃんとこの先も主人公できるのか。
ちなみに今回のパートナーは翔とどっちにするかギリギリまで迷ってました。ですが、いつぞやの邪魔蠍団回で『VWXYZは?』という意見をいただいたのを思い出したので結局この人に。

……グレイドル、この先も新規出るかなぁ。なんとなくスライムイーグルコブラアリゲータードラゴンだけで完結しそうで怖い。前例(アロマ)前例(黒蠍団)があるから余計に怖い。新規出ますように。それが駄目ならせめて次の制限改定で制限でいいからタイダル帰ってきますように。
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