※小説家になろうでも同じ物を投稿しています。
物語を語る上で――特に一人称視点においては、一体誰が何を語るのかを理解していないと、物語は理解されにくいと言う。
なので、最初からネタバレ全開で俺とこれから語ることを説明していこうと思う。
俺はどこにでもいるありふれた人間だ――などと自分を過小評価するつもりもない。勿論、過大評価するつもりもない為、身も蓋もどころかそれらの器すらない程度にはありのままを話そう。少し遅れた流行りに合わせるのなら、ありのままの自分になってありのままを話そう。
俺はどこにでもはいないが物語としては有り触れた不老不死だ。
不老不死という文字は、老いと死を懇切丁寧に不という文字で一々打ち消しているのだから白々しい。不老不死は白々しい。
白く、白い。だから俺も肌が白く、髪も白い。少し上手いこと言えたのではないだろうか。
閑話休題。
不老不死。定義することが大好きな俺が定義するに、老いず死なない。永久に若いままで永久に死なない。
それが俺だ。身も蓋もそれらを入れる器すらなく、ありのままの俺だ。
そしてそんな不老不死の俺が話す物語は、俺の不老不死という特性を活かして戦うアグレッシブでデンジャーでファンでインタースティングな物語ではない。
ただ数えるのも馬鹿らしくなるほどの時を生きている中で偶然出会った少女と、少しばかり昔話をしただけの、思い出だ。昔語りだ。
思い出というのも何千年もの期間を経ていると流石に脚色やら美化やら都合のいい改編などが起こっているかもしれない。
俺は不老不死というだけで、それ以外が優れている訳ではない。死なず、死ねず、老いず老えないだけなのだ。
だから昔語りが、昔騙りになるのかもしれないがその当たりは許して欲しい。話の根幹は覚えているが細かいことが覚えていないだけなのだ。そのぐらいを許してくれないと、それは人間性を疑うぞ。人間じゃない奴に人間性を疑われたならそれは人間としておしまいだろう。そうだな、心配なら疑って欲しい。俺が嘘と語るのではなく騙っているのではないかと疑って欲しい。いや、そんなことよりも、まず最初に俺が不老不死であることを疑っているとするならば、それほど大差ないのだろうか。
ならば騙りでもいい。ただの創作話でもいい。思い出したから聞いて欲しいだけだ。
あれは、数年前のことだ。長い年月を生きていると、時間間隔が曖昧になるのは定番なのだろう、正確な頃は覚えていないがそれでも漠然と覚えている。
ハッキリと覚えているのは今ではガラケーと呼ばれる種類の携帯電話が広まっていた頃の話だ。ポケベルの存在を知らない若者が現れ始めた頃だ。
俺は今と変わらず街を転々として、裏路地やら何やらで雨風を凌いで、悠々自適で怠惰な日々を送っていた。
その時だ。彼女に会ったのは。あの時、彼女は確か高校生だったと思う。
そんなことを言われても、と私は思う。私は、ただ傷心旅行の終わりに一時的に帰郷してのんびりと思いつくがままに適当な道を歩き、途中で疲れたので行き止まりだった路地に不自然にあった折りたたみ式の簡易椅子を利用して休憩していただけだ。
そりゃ、その簡易椅子が彼のものであり、だからこそ話しかけられたのだから話を聞く必要があるかもしれない。だけど、それならば何故昔話を始めるのだろうか。昔話というのは無駄に長いのが当たり前だというのに。
そりゃ、彼を見た時、彼の白い肌と白い髪を見て神々しいと思った。白々しいまでに神々しさが爆発しており、だからもしかすれば彼は神なのかもしれないと思って話を聞いていたがどうやらただの不老不死だったようだ。――不老不死はただごとではないが。
まぁ、しかし、私はまだ疲れており、彼は立ったままで私は座ったまま。もうしばらく休憩をして、そうなんですか、とでも言って別れてしまえばいいか。そんなことを思っていた。
こういう適当さが、元カレや母親にダメなんだと言われるが、当の母親だってまともな父親を捕まえておらず、私は母子家庭の中で十八歳まで過ごした。まぁ、そんな親の悪いところばかりが遺伝したらしく、私はズボラで適当で軽率でまともな相手を見つけられない――これは母親からの遺伝だ――上に放浪癖があり、記憶力が良い癖に重要な事は思い出せず、不器用でお喋りの口下手――こちらは父親の遺伝だ――そんな人間である。
だから、多分断ろうにも断れないのだと思う。私は口下手なのだから。
丁度、この場所だ。この場所で俺は彼女と出会った。名前は何だったかな、忘れた。記憶力はいい方なんだが、ありふれた名前過ぎて忘れてしまった。同姓同名の似たような正確の人間なんていくらでもいるからな、特殊な名前なら全然覚えていられるんだがな。金堂寺とか、阿波屋とか、そういう名前は結構印象深い。苗字が複雑な奴は大抵複雑なんだよな。関係とか感情とかその他色々。名は体を表すとは言うが、実質問題は割と苗字に現れている。
んで、だ。彼女は苗字どころか名前もありふれていた。ありふれ過ぎていて、だからそいつもその頃の高校生の中ではありふれ過ぎた奴だった。
恋多き乙女というか、恋しかない乙女というか。
恋しかなく、愛はなかった。
恋と愛が果たして何なのか定義するとしたら、恐らくは子孫を残したいと思うのか実際に残すのか、という話だろう。もっとシンプルに言うならセックスをするかしないか。
恋をするというのは惹かれるということだ。顔がいい、頭がいい、運動神経がいい。こいつとの子孫を残せば、自分の子孫はもっと優れた人間になるな、なんて本能を人間の都合のいい脳が、錯覚する訳だ。
ならば愛するというのは何なのか。単純だ。ヤった後に人間の脳が「この人で間違いない」と錯覚するだけだ。恋は事前、愛は事後だ。そうなると前途と矛盾だが、矛盾ほど人間らしい物はない。
証拠、ね。そうだな、親から暴力を受けた子どもは自分の子どもに暴力を振るうという話はよく聞くはずだ。聞かないのか。ならば後で調べとけ、ググっとけ、多分そんな記述が乗ったサイトが出てくるはずだ。
何故、暴力を受けた子どもが自分の子どもに暴力を振るってしまうのかを考えればいい。
痛いし、嫌だし、何よりも辛いじゃないか。そんなことを、字の如く身を持って痛感しているのだから、愛情溢れた育て方をするのが論理的じゃないか。だけど、それでも確かに暴力を振るう奴はいる。
だってそいつは、それを愛情と履き違えているのだから。履き違えられる程度のものなんだよ、愛も恋も。それでも恋やら愛を美化するのは、誰しもが恋や愛が美しいものだと思い込みたいからだ。
綺麗な物を綺麗というのは当たり前だ。当たり前すぎて、言葉に出ない。じゃあ、今、皆が言う綺麗ってのは何なんだろうな。――間違いなく綺麗ではないものだろう。
化粧を綺麗というのは元が汚いからだし、リフォームを綺麗というのも元がボロボロだった訳だし、他人を綺麗と言うのは内心で私には負けるけどなんて思っているからだろ。
自分は綺麗なものを綺麗だと言えるぐらいには綺麗なんだと誇示したいだけなんだ。
だってそうだろ。正義よりも悪の方が自分の正義に忠実じゃないか、政府なんかよりもテロリスト達の方が自らの正義に忠実じゃないか。破壊行為なんてシンプルな方法を政府が取れないのは協和なんていう戯言を建前に金を儲けようとしているだけじゃないか。テロリストに共感を持つことを禁忌などと言うが、ならば政府やらマスメディアが共感を持てるようなことをすればいい話だろ。そんなことをしないから、別視点の正義に忠実なテロリストに共感するんだ。分かりきっているだけだろ。口だけの奴よりも実行している奴の方が好感を持てるのはごく普通のことだろ。
閑話休題。
まぁ、そんな訳で、彼女は恋しかない乙女だった。
彼女はその時恋していた彼氏に性行為を求められ、断られるとレイプされそうになった。恋する相手には性行為をしない。
んで、何とか逃げ切って、路地裏を彷徨っていたらしい。そして、俺に出会った。
彼女は俺を見て恋に落ちた。自分で言うのも何だが俺は見てくれだけは優れている。恋だけしかない乙女にとっちゃ、それだけで十分だったらしいな。
こいつは何を言い出すんだ。もう素直にそれしかなかった。
まさかいきなり卑猥なことを言うかと思えば、何かと理にかなっている。別に下ネタでキャーキャーというかギャーギャー言う年頃ではないが、そういうのを平然と言うのはどうかと思う。
しかし、先程の説明は、どこかで聞いたことがある。どこで聞いたのだろうか。高校生の頃か、それとも中学生の頃か、小学生の頃か。少なくとも母親がいた頃だと思う。
不思議と、そんな感想を持ちながらも、私は彼の話に引き込まれていた。
すぐに彼女は俺にアプローチをし始めた。驚くべき手際で彼氏と縁を切った。これ以上何かしたらクラス全員にバラすとか何とか脅してたな。あれは中々に受けた。
しかしながら、残念ながら、俺は恋も愛もしない。前途の通り、恋や愛は子孫を残す過程での人間や生物の錯覚現象。
所謂、生物が子孫を残す為の本能的感情。だけど、俺は子孫を残す理由がない。残さなくても俺が常に残り続けているんだからな。
だからそんな感情は抱かないし、性的興奮もしない。エロいって感覚が、ハッキリ言って分からない。
あぁ、いや、分かるな。スカートからパンツが見えそうで見えない時ってのは知的好奇心が引き出される。あれは多分エロいを限りなく薄めた感じだろうな。ってことは知的好奇心も最後には性的な――つまりは子孫を残す為にある訳か。
偉大な化学も科学も最後にはエロに到達するという訳か。好奇心は猫をも殺すというが、あれはつまりエロは猫をも殺すのか。なるほどな、そりゃ猫の擬人化が流行る訳だ。なるほどなるほど。――とか言ってると規制が掛かりそうだからそろそろ真面目な話をするか。
まぁ、恋とか愛とかそういうのを抱かなかった俺は彼女のアプローチが面倒臭いので、不老不死であり、恋愛感情は存在しないと告げた。
今も変わらず、俺の体は最も若い頃であり続ける。年齢的には十三歳のままだな。学年で言うと中学二年生。訂正――容姿のいい中学二年生。
だから、姿と言動だけで言うならば俺はダブルミーニングで厨二って訳だ。まぁ、ともかく、普通ならそれで気味悪がるか、それとも面倒臭がるかで距離を置く。
だけど、残念ながら彼女はそれでは引かなかった。むしろ興味が湧いたらしい、知的好奇心がくすぐられたらしい。
それから毎日、彼女は俺のところに来た。俺は一ヶ月以上は同じ場所に滞在するのを自分のルールにしていて、出会ったのが初日だ。最悪でも一ヶ月はここにいなければなかった。不運なことに、この街は隠れられるような場所は少なく、彼女は目ざとく俺を見つけて、話をした。
「じゃあ、好き嫌いとかそういう感情じゃなく。ただの友達として、学校外の友達として私の話し相手になってくれないかな」
とか何とか言われたから俺は適当に誤魔化していたんだが、最終的には明言させられたな。
「話し相手ではなく聞き相手なら、全然いいぜ」
なんてな。
そこからは何でもない、どこにでもあるような話だった。のんびりと、ぐだぐだとその日あったことを彼女とやらが話し、彼がそれを聞いていた。
彼女が話していたことは全て覚えているのに、彼女の名前を忘れるなどおかしな物だ。
だけど、だけど、その話は、何度も、何度も聞いたことがある話だった。
何度も何度も聞いた話だ。小学生の頃から中学生の頃を経て高校生の頃まで、つまりは母親の元を離れるまで、嫌になる程、嫌になって忘れてしまう程には聞いた話だ。
「――と、結局俺はこの街に三年程いた訳だ。一ヶ月以上というルールには違反していないが、それはそれでルール違反な気が今ではしている。だけど、俺はただひたすらに彼女の話を聞くのを楽しかった。彼女の話を、快く楽しんだ。快楽だった」
本当に空気を読まないなこの人は。話に聞いた通りだ。
「――と、まぁ、こんな無駄話をしていても、その様子だと気付いたみたいだな」
「…………」
「無言か。都合が悪くなったり、訳が分からなくなったり、理解出来無くなったりすると黙る癖は親子そっくりだな」
「自分の妻の名前も覚えていないなんて、馬鹿なんじゃないの?」
「悪いな。改めて紹介してくれよ、俺の妻の名前とお前の名前」
「……私の母親の名前は鈴木百合。私の名前は鈴木未来。もう忘れないでね――お父さん」
「ああ、例え百合が死んでも、お前が死んでも絶対に忘れないさ。恋愛感情を抱かないはずの俺が、恋をして愛した人間とその娘。――もう二度と忘れないさ」
そう言って、それだけ言い残して、彼は――お父さんは街中に消えていった。
また放浪するのだろう。あの人は永久に、永遠に。
後日談。久々に実家に帰って来るとお母さんがお父さんに会ったという話をしてくれた。あの頃と変わらずイケメンだった、とハイテンションだった。この人は多分覚えていないのだと思う。
お父さんが不老不死で、生物的には抱くはずのない不老不死の人間を恋に落としたことを。そして私が、ほんの少し、つまりは心も体も、ダメージには強いことを。
またまた私は大切なことを忘れていた。私の母親も、大切なことを結構忘れてしまうのだと。
まぁ、忘れてもいいだろう。人は忘れることで幸せになる。
一方お父さんは忘れることで不幸せになる。お父さんが忘れることは常に大切なことで、大切なことを忘れてしまう悲しみは永遠に永久に蓄積されるのだから。
だから、ああして確認しに来たのだろう。今度は二度と忘れないように。
実際のところ、不老不死っていうのは割と辛いと思いますがね。……ちなみに、金堂寺と阿波屋さんと、この人とは面識があったりなかったり実は何も考えてなかったり。