もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

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第10話 迫り来る毒牙

大会六日目。

15分程前パワフル高校対雪国高校の試合が行われパワフル高校が7-0とコールド勝ちを決めた。

その熱気が覚めやらぬ中俺達は球場へと足を踏み入れる。

俺達には実績がない、キャリアもない、世間の風も冷たい。

だからといってどうしろというのか。

世間の望む通り強豪チームに叩きのめされればいいのか。

違う。俺達には勝つ以外の道はない。

 

選手控え室にて着替えを済ませ試合前最後のミーティングに入る。

 

「…以上これが今日のオーダーだよ。 じゃあ10分後ノックが始まるからみんな準備してね」

監督から今日のオーダーが言い渡された。今日からは特別に小山のベンチ入り許可が降りた。ウチは人数がぴったりだからバス停前戦では打線がつながるとランナーコーチ無しの状態で試合してたからな。

皆は前日入念に手入れしたグラブを手に取りベンチへと向おうとする。

 

「皆! ちょっといいか?」

ロッカールームから出ようとする皆に俺は大きな声で呼びかける。

 

「なんだよキャプテン、改まって」

 

「…俺達は悪者だ。 誰も俺達の番狂わせなんて見たくねぇ。」

 

「んな事知ってるでやんす!」

呆れた表情で返答する矢部くん。

 

「…でもよ、それって俺達にはぴったりじゃないか? こんな大舞台でエリート軍団ぶっ潰すってワクワクすんだろ?」

俺はみんなに檄を飛ばす。このセリフ、昨日遅くまで考えてたのは内緒だ。

 

「…勝つのは俺達だ」

 

「わかってんよ! いらねー心配すんなよ!」

 

「燃えてきたYO~!」

皆グラブをバシバシと叩き、活きのいい返事をした。

大丈夫だ。誰もビビってなんかいない。

誰も俺達なんか見てねぇんだ。ビビる必要なんてねぇ。

 

時間となり俺達は淡々と試合前のノックをこなす。

会場は帝王一色。俺達がグラウンドに出ると一斉に帝王ファンが野次を飛ばし始める。

 

「ときせー!!! 今日は覚悟しとけよ!!」

 

「ファーストぉ! 何だその頭ぁ! ナメてんのか!!」

 

「ノックなんかしたって無駄無駄!」

 

「試合前だけ真面目にやってんじゃねぇよ!!」

 

三塁側ベンチには既にノックを終えた帝王ナインがスタンバイしている

 

「いやぁーときせーさんは嫌われ者だねぇ」

 

「おいおい、荒波のやつショート守ってやがるぜ! 相変わらずセンスねぇなぁ」

 

「こら、相手を侮辱する暇があったら素振りでもしておけ」

 

「す、すいません大門さん!」

ヘラヘラしながらノックを見ていた部員に注意をし、バットを手に取り素振りをはじめるキャプテンの大門。

 

そこへ、帽子にスポーツサングラスをかけた友沢が話しを掛ける。

「大門さん、春の奴…変わりましたね」

 

「ん、友沢か…確かにな。もともと守備はそこそこ上手かったが、何か足りないな…」

 

「やはり、野球から離れていただけあって送球の精度や下半身の筋肉は大分落ちていますね」

 

「そうだな…だが油断は禁物だ」

 

二人が春の分析をしているところに蛇島が駆け寄る。

「友沢くん、試合前に二遊間の連携について話しておきたいんだけど」

 

「そうだな蛇島、なぁ蛇島は春の事どう思う?」

 

 

「ククク、所詮並以下ですよ…」

(さぁて、今日は楽しませてもらおうか…荒波くん…)

 

 

「さぁいよいよ今大会優勝候補、守木独斉(まもるぎ どくさい)監督率いる帝王実業高校の初戦です! 毎年全国でも上位クラスのチームを作り上げていますが毎回惜しくもあかつきに敗れています。 涙を呑んだ銀メダリスト達。今年の夏は悲願の甲子園出場なるか!?」

 

「対するはときめき青春高校! 一回戦ではバス停前高校を圧倒! 部員10人一丸となって大物食いなるか!? 注目です! ここで両校のスターティングメンバーをご紹介します!」

 

「先攻帝王実業高校」

1番ライト 佐伯

帝王の切り込み隊長! 彼の出塁によりチームは勢いづきます!

2番セカンド 蛇島

一年生にして今大会No.1セカンドの呼び声高い! 天才セカンド!守備範囲は驚異的です!

3番 ショート 友沢

黄金世代筆頭格のスーパールーキー! 一年生にしてレギュラー、本来は投手ですがクリーンナップを任されました!

4番 ファースト 大門

おなじみ帝王の主将です! 今大会注目のスラッガー、プロ注目の選手です!

5番 センター瀬尾

抜群のミート力と守備範囲が武器です!

6番サード 堂本

帝王、影の功労者です! 派手さはないが彼もクリーンナップに負けない打力の持ち主です!

7番 レフト 瀧

下位打線ですがパンチ力のある打撃が持ち味です!

8番 キャッチャー養老

強肩強打のキャッチャーです! 秋では3番を打っていました!

9番 ピッチャー 山口

帝王の一年生エースです。 伝家の宝刀フォークボールを武器に三振の山を築く大黒柱です!

 

「続いて後攻、ときめき青春高校」

1番センター矢部

俊足が光ります。 山口相手に突破口を開けるか!?

2番 ショート 荒波

二年前、あの猪狩守から劇的なサヨラナホームランを放ったあの荒波春です! 忽然と姿を消しましたが今ではときめき青春高校のキャプテンです!

3番ファースト 神宮寺

一回戦バス停前高校エース田中山からホームランを放っています。

4番キャッチャー 鬼力

頭脳明晰なリードと驚異的なパワーでチームを引っ張ります!

5番 サード稲田

鋭い打球を飛ばします。山口相手に一発でるか!?

6番 セカンド 茶来

クセ者のオールラウンダーです。 一回戦では器用さを活かすプレーが目立ちました!

7番 ライト三森左京

俊足を活かしたプレーが持ち味です!

8番レフト三森右京

こちらも俊足の外野手! 下位打線の繋がりが重要になってくるでしょう!

9番 ピッチャー 青葉

四神黄龍中学出身のエース青葉! 彼のピッチングに全てが賭かっていると言っても過言では無いでしょう!

 

「両校整列しました!さあ、いよいよ試合開始です! 」

 

俺達が帝王ナインと顔を合わせた時、瀬尾さんがニヤニヤしながら前かがみになり話し掛けてきた。

「おい、荒波ぃ、ちっとは上手くなったかよ」

 

「あはは! 聞くまでもねぇよ! こんなクソチームのキャプテンだぜ?」

 

 

「…瀬尾さんに堂本さん、確かに俺は下手くそです。だから俺は侮辱されたって構わない。 だけど…! 俺達のチームを馬鹿にする奴は許さねぇ!! 俺達をクソ呼ばわりした事後悔させてやる!!」

確かにこの人達は紛れもなく全国クラスの選手。

俺なんて足元にも及ばない。

だけどな…。下手くそだろうがクソだろうが譲れねぇもんはとことん粘らせて貰う!!

 

 

「コラ! 私語は慎みなさい!」

 

「それでは帝王実業高校対ときめき青春高校の試合を始めます!」

 

 

「「「お願いします!!!」」」

 

 

「試合前に少しいざこざがあったようですが試合開始です! さあ、1番佐伯がバッターボックスへ入ります!」

 

 

「いけぇ!佐伯ぃ!!」

 

「格の違い見せてやれぇ!!!」

審判のコール、試合開始のサイレンと共に歓声が一気に大きくなる。

 

「帝王一色だな…。 まぁそんなんじゃ俺達の顔色一つ変えられねぇけどな。」

 

「勿論だ! 頼むぜ青葉!」

 

「プレイボール!!」

マジで頼むぜ青葉…。 こんな全国レベルの打線に対抗できるのはお前しかいない!

 

「さぁ、振りかぶって第一球!」

両手を頭上に上げる。右足に重心を置き一度3塁ベースに目をやる。その後溜めた重心を左足へ。地面を掴むように足の指まで力一杯踏み込み、撓る様に、且つ鋭く腕を振り抜く。

 

 

「バシィィン!!!」

 

 

「ストライーク!」

 

 

「いきなり142km/hのストレート! 初戦では130km/h台でしたが… エース青葉気合充分です!!」

 

その後ストレートとカーブで佐伯を見送り三振に打ち取る。

 

「どうでしたか、佐伯さん」

 

「ああ、昨日のビデオ以上にストレートの威力があるな、変化球も悪くない」

 

「…所詮まともにやれるのは青葉だけですよ」

(ふっ、くだらん。 こんなクソチーム、地獄を見せてやる)

 

「2番 セカンド 蛇島くん」

 

相変わらず薄気味悪いオーラだな…。

中学時代あいつがショートだったから俺はレギュラー取れなかったんだよな…

 

「さぁ蛇島に対しての初球!」

 

(ククク、よくこんなストレートで中学時代から騒がれたもんだ 佐伯はレベルが低い。僕を1番にすれば良かったものの)

 

蛇島が勢い良くバットを出す。

しかし蛇島の予測を外れボールは大きく変化した…。

 

「ブン!」

 

「ストライーク!!」

 

「出ました青葉の生命線! 鋭く、大きく曲がりそして速い! この高速スライダーはさすがの蛇島くんも攻略出来ないか!?」

 

 

(クッ、こんなもの友沢くんに比べれば…!)

 

 

 

「ストライークバッターアウト! 蛇島くん! スライダーを空振りし三球三振!!」

 

「な、あの速さでここまで曲がるのか…」

普段冷静であるが思わず声を漏らしてしまった蛇島。

 

「…よし!」

こちらも思わず喜びの声を上げる。

 

「ヘイヘイ! バッター手ぇ出せねぇぞ!!」

 

「いいぞ青葉!!」

 

「ナイスピッチ! 青葉くん!」

 

(くっ…この僕が…こんなはずじゃ…)

 

続く3番友沢も三球三振。

 

「おいおいお前帝王相手に三者連続三振かよ!!」

 

「いい感じでやんす! 勝てばオイラのギャルにモテモテ大作戦成功でやんす!」

 

「なにそれ矢部っち!? オレも参加してイイっすか~!?」

 

 

あの友沢が一球も振ってこなかった…。

どうも引っ掛かるな。

でも青葉のピッチングであれだけのブーイングが鳴りやんだ。これがエースの威厳か。

 

「よっしゃ! 矢部ぇ! 景気づけに一発頼むぜ!」

 

 

「任せるでやんす!」

自信満々に打席へと向かう矢部くん。

頼むぜ…。

いきなり矢部くんがやられてしまうと山口という投手の凄さが先入観となって俺たちの脳裏に焼き付いてしまう。

 

「一回の裏ときめき青春高校の攻撃は1番センター矢部くん」

 

「さぁこいでやんす!」

 

「さぁ後攻ときめき青春高校! 青葉の作ったリズムに乗れるか!?さぁ山口の第一球!」

左足を高々とあげ体を大きく傾け、叩きつけるように右腕を振り落とす。

 

「バシィィン!!!」

凄まじいボールが乾いた音と共にミットへ収まる。

 

「ストライーク!」

 

「初球ストレート142km/h決まってワンストライク! 」

 

続く山口の第二球、独特のマサカリ投法から投じられた。

 

「甘い! 貰ったでやんす!」

 

矢部くんが思い切ってバットを出すがボールは打者の手元でストンと落ちる。

矢部くんは勢い余って一回転してしまう。

 

「き、消えた? なんでやんすか今のボール…」

 

 

「出たァァ! 山口の伝家の宝刀! 視界から消えるフォークボールだぁ!!」

 

矢部くんはその後ストレートになんとか食らいつき粘るも最後にフォークにバットを振らされ三線に倒れた。

 

 

「春くん、あのフォークヤバイでやんす、プロでもあんなの投げられないんじゃないかレベルでやんす」

 

「ビビるこたァねーよ矢部くん! 山口がすげぇのなんて試合前から知ってるだろ?」

この試合。どんな展開になろうと俺だけは折れちゃだめだ。そう胸に刻み打席へ向かう。

 

「…なんか春くんいつもと違うでやんすね…」

 

「2番ショート荒波くん」

俺が皆の柱になるんだ。

俺が皆の不安を取り除くんだ…!!

 

「さぁ元同朋、荒波! 山口をどう攻略するか」

 

正直フォークは当たらねぇ、俺には無理だ。

でも、ストレートなら…! 早打ちしてでもフォークを投げられる前に打ってやる!

 

初球はカーブ。外角高めに決まりストライク。

手が出なかった…。 カーブでタイミングを外されるのは要注意だな。

 

山口からの第二球。

来た!ストレート!

俺は思いっきりバットを出し、山口のストレートを真芯で捉える。

 

よし…行ける!

 

その瞬間キャッチャー養老がニヤリと頬を吊り上げる。

 

「…お、重い」

 

「ガギィ!」

 

「あーっと! 荒波! 完全に打ち損じました!

ボテボテのピッチャーゴロです!」

 

そんな…完璧に捉えた筈なのに…

一塁ベース目がけて懸命に走ったがもちろんアウト。

俺はライトスタンドを見上げ立ち竦んでいた。

 

「どうだ? 山口は凄いだろう?」

 

「だ、大門さん」

 

「俺達は中学時代から何度もあかつきに阻まれ、悔しい思いをしてきた。 その思いが山口を強くしたんだ」

 

「俺達だって…」

続きを言いかけたが何故か俺の口からは言えなかった。

俺達はNo.2帝王より強い思いがあるだろうか。帝王と遜色ない努力をしてきただろうか。

 

俺達は帝王と同じグラウンドに立つ資格なんてあるんだろうか。

だめだ! 俺だけは不安になっちゃだめなんだ!

 

 

続く神宮寺は三振に倒れた。

 

「いいぞ帝王ー!!!」

 

「おらどうしたーときせー!! 怖気づいたかぁー!!」

 

 

「また…強くなってきたね、」

 

「正直、あの山口って奴の球ヤバイでやんす! フォークなんて化け物でやんす!」

 

「ああ、俺様も打席に立つ前は打てると思ったけどよぉ正直ありゃ打てねぇだろ」

 

「ストレートにヤマ張るってのはどうっすか!?」

 

「でもYO~ 春の打席でわかったっSHO」

 

「うん、私コーチャーボックスから見てたけど春くん、完全に捉えたと思った。 見た目とか速さ以上に球質が重いんだよね…」

 

「いや、俺だから飛ばなかっただけだ! 鬼力や稲田なら振り抜けば内野の頭は越える! 茶来と俺はなるべく粘ろう! フォークは見逃せばボールになる! 矢部くんと右京、左京は持ち前の足を活かしてくれ! 青葉はピッチングに専念してくれ!」

 

「お、おう!」

 

「うぃーす! ミヨちゃん俺のプレー見ててね!」

 

「はいー頑張ってねー!」

 

「なぁ春、お前どうかしたか?」

 

「ん? なんで?」

 

「いや、なんかいつもと様子が変だったからな」

 

「少しはキャプテンらしくなったろ?」

 

「ふっ、そうだな。 打たせて行くから頼むぜ。 キャプテン」

 

「おう! 任せとけ!」

青葉は解っているのか?この試合で俺や監督が一番恐れていることを。

 

 

「二回の表帝王実業高校の攻撃は4番ファースト大門くん」

名前がコールされると同時に盛大な応援歌がスタンドから奏でられる。

 

「コイツが大門か…」

 

「さぁ今大会注目のスラッガー大門を迎えますときめき青春高校エース青葉!」

 

 

「カキィィィン!!!」

 

 

何が起こった? スタンドが静まり返る。あまりにも一瞬の出来事に観客も判断がつかない。

そして次の瞬間沈黙したスタンドに大歓声が巻き起こる。

 

 

「レフトスタンドに突き刺さったぁぁ! 大門! 先制ソロホームラーン! ストレートを完璧に捉えました! エース青葉、振り向きません! 完敗です!」

 

 

「…嘘だろ? 決して甘い球じゃなかった…」

思わず口から漏らしたマウンド上の青葉。

 

 

「お、おい青葉のストレートをあそこまで飛ばすかよ?初見だろ!?」

 

「つーかあれじゃね? 今の失投ってやつじゃん?」

 

「いや、今のはええボールやったDE。 完全に読まれたんYA」

 

マズイ…。たった一球で青葉を攻略された。

監督が危惧していた事の1つだ。わかっていた。こうなる可能性も。 青葉が打たれるのはチームの戦意に関わる。なのに…言葉が出ない。キャプテンとして皆を、青葉を励まさないとならないのに…。

 

 

「ボールフォア!」

 

「あーとっ! 大門の一発により平常心を保てないか!? 5番瀬尾にストレートのフォアボールです!」

 

「クソっ!」

悔しさのあまり地面を蹴り上げる青葉。

 

「青葉! 入れてこーぜ!」

 

「青葉っちー! 肩の力抜いちゃってー!」

 

 

しかし青葉は本来のピッチングを出せず6番堂本も歩かせノーアウト1,2塁となる。

 

 

「7番 レフト瀧くん」

 

 

「うぉらあ!」

 

 

「カキィーン!」

 

 

初球のカーブを叩かれ打球は三遊間へ

「よっしゃ抜けた!」

誰もがそう思った瞬間

 

「パシィ!!!」

 

「…よし!稲田!」

 

「任せろYA! 神宮寺!」

 

「おらぁ!!」

 

「ゲッツーだぁ! 完全に抜けたと思った打球でしたが荒波のファインプレー! サードへの送球! 高判断でした! そして稲田の送球がショートバウンドになりましたが神宮寺が上手くすくい上げました!これでツーアウト2塁!」

 

「ナイスでやんすー!」

 

「見たかコラァー!」

帝王スタンドには向かって雄叫びを上げる神宮寺。

ゲッツー取れてよかったぜ。これで青葉が落ち着いてくれれば…。

 

「さぁファインプレーが出ました。 帝王としてはこの回もう一点ほしいところです! さぁ追加点なるか8番キャッチャー養老!」

 

「ストライーク! バッターアウト!チェンジ!」

アウト2つ取ってもらい落ち着いた青葉。テンポの良いピッチングで養老を圧倒。

 

「よし! 1点返すぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

しかし山口という堅固で巨大な壁が立ちはだかる。

 

四番鬼力はサードゴロ5番稲田がフォアボールで出るが6番茶来が三振。

7番左京がファーストゴロに倒れランナーが出るも返せずチェンジとなる。

 

三回の表

先頭山口をセカンドゴロに打ち取るが1番佐伯に左中間のツーベースヒットを放たれ2番蛇島を迎える。

 

「やっとランナーが出たか…おもしろい」

蛇島への第一球。

内角低めのここぞという所にストレートが決まる。蛇島はそれを見逃しワンストライク。

 

続く2球目、ブレーキの聞いたカーブ。

蛇島は強引に振りにいき空振り、ツーストライクとなる。

青葉の持ち球はMAX142km/hのストレート、110km/h程のブレーキの効いたカーブ。

そしてストレートとほぼ同じ速さ、まるでカットボールのようだが変化の大きさはスライダー以上の超高速スライダーだ。まぁ調子次第ではあるが。

 

 

「ファール! 蛇島粘ります! クサイ球を尽くカットします!これで13球目!」

 

 

(ククク、確かにいい球だ。 だがお前は気づいていない。 お前の左足に思い切り力を入れ踏ん張るフォーム、それがどんなにお前の足に負担がかかるかを)

 

「さぁマウンド上青葉! セットポジションからの14球目!」

 

(困った時にはスライダー一辺倒だろう? 見苦しい。)

 

青葉が力を振り絞り鬼力のミットめがけて思い切り腕を振る。

 

(やはり、この速さ、ここで曲がる。 今度は捉えられる)

 

「ブン!」

 

「…なっ!」

 

「ストライーク!バッターアウト! ストレートで蛇島を仕留めました! ここは2番打者としてせめてランナーを進めておきたかったところですが…」

 

 

「こ、この僕が、こんな不良相手に…」

ギリリと唇を噛み締める。

 

「気にするな蛇島! 切り替えていこう!」

 

「あ、ああ」

(こんなはずじゃ…クソ!)

 

 

続く3番友沢にストレートを捉えられライト線へのタイムリーツーベースを打たれる。前の打席はこれの布石って事か。

続く大門を特大センターフライに打ち取りチェンジ。

 

2-0で迎えた三回の裏、

8番右京が足を活かし内野安打でチーム初ヒット、すかさず盗塁を決めノーアウト2塁打者顔負けの打撃センスを持つ青葉がカーブを捉えライト前へ、ノーアウト1.3塁、この試合初のチャンスを迎えるが矢部くんがキャッチャーフライに倒れる。

 

「さぁこのチャンスでキャプテン荒波を迎えます!帝王実業は前進守備です!」

 

「山口。 春に長打はない。確実に取ろう」

すかさず友沢が声を掛ける。

 

山口は黙って頷きこちらをギロりと睨みつける。

 

ここだ、ここで1点でも入れば…!

 

「…タイム」

 

「おっとここで荒波タイムを取りました! 三森、青葉を呼びます。」

 

「まだ早いけど賭けよう。」

 

「カーブを叩いて犠牲フライか?」

 

「スクイズだ。だけどボールツーになるまでは待つ。 そして右京、多少スタートが遅れてもお前なら帰ってこれる。なんとか生きてくれ! 青葉、スキを見て二塁を狙ってくれ。」

 

「これは春の技術にかかってんな。」

 

「まぁお前の器用さはチームトップだからな。お前にしかできねぇ。 」

 

「よし! 行くぞ!」

二人は勢い良くベースへ。

 

「さぁ長いタイムが終わり試合再開です!」

 

流石にフォークは投げづらいと見ての作戦だがフォーク来たら終わるな…コレ。

 

予想通りフォークは一球も来なく、ストレートを外されボールツーとなる。

 

やべ緊張してきた。

でもフォークさえ来なければ…当てられる。

 

山口からの三球目。球種はストレート。

「…当たる!」

正面でも右京なら帰ってこれる。

行ける!

 

と思っていたがボールは唸りを上げ俺の手元でライズした。

こ、ここに来て、この球威かよ…!

 

「コン!」

 

「あー! 荒波スクイズの構えをしましたが打ち上げてしまいましたー!」

 

「お、おい! そりゃまずいって!」

右京が本塁間に挟まれる。

山口はフライを捕球しゆっくりとサードへ送球しダブルプレー。

 

「ときめき青春高校スクイズ失敗ー! 得点ならず!」

 

「あ、ああ…」

 

「一瞬にしてチェンジでやんす…」

 

「おい、今の148km/hだってよ…」

 

「そ、そんな…春くんでも当てられなかったの…チームで一番バント上手なのに…」

 

 

「く、仕方ないな」

 

「なぁ青葉、お前大変だなぁ」

ヘルメットを外し汗を拭う青葉に蛇島が詰め寄る。

 

「なんだ、敵に馴れ合うな」

 

「クックック、ホントあんな役に立たない奴らがチームメイトで可哀想に。 お前、ウチから誘い来てただろう? イップスなんてウチの専属医なら簡単に直せたのに」

 

「何とでも言え。俺達はお前のような奴には負けない。」

 

「…ほざいてられるのも今のうちだ」

蛇島はそう言い残しベンチへ。

普段のニコニコした温厚な様子は見られない。

 

「皆、ごめん…」

俺が決めてりゃ…1点入って、チャンスでクリーンアップだったのに…

 

「き、きにするこたぁねーよ!次は俺様が打ってやるからよ!」

 

「そーでやんす! 春くんはわるくないでやんす!」

 

マズイ。とにかく得点をと焦ってしまった。明らかに皆の雰囲気は悪くなってる。

 

 

試合は四回の表先頭瀬尾に稲田の緩慢な守備をついたセーフティバントを決められると続く堂本にレフト前ヒット。瀧を歩かせノーアウト満塁となるも養老を三振、山口をファーストフライに抑える。

トップに帰り1番佐伯にレフト線への2点タイムリーツーベースを打たれ、4-0ワンアウト23塁のピンチで蛇島を迎え、カーブを上手く合わせられ右中間への2点タイムリーツーベースを放たれ尚もワンナウト二塁のピンチに。

 

「なーんだ、大したことねぇじゃん」

 

「スライダーも当てられねぇ事はねぇしな」

 

「カーブなんて当りゃ結構飛ぶぜ?」

徐々に青葉を攻略し始めた帝王。

こんな全国クラスの打線を相手にしてるんだ。

それに大門に一発を浴びてから抜いたボールは一球も投げていない。いくら青葉でもやはり2年のブランクは…。

 

「「てーいおー! てーいおー!」」

落ち着きを見せていたスタンドが再び元気を取り戻した。

 

 

「クソっ! 今度は帝王コールかよ!」

 

「なぁ春。」

2塁ランナーの蛇島がおれに話しかけてきた。

 

「お前もめでたい奴だな。 こんなクソチーム甲子園なんて馬鹿げた夢にも程がある」

こいつは表向きは温厚で良きチームメイトのように振舞うが裏では狡猾で人を陥れる様な男だ。

 

「…悪いかよ」

 

「ああ、 俺はお前の顔も見たくないからな。 お前は俺の野球人生を狂わせた男だからな!!!」

 

「…あの事か」

 

「まぁいい。この試合で眼にものを見せてやる」

そうか。おれはまだあの時から解放されちゃいない。まぁ恨まれても仕方ないのかもな。

 

「3番ショート友沢くん」

 

 

「カキィィン!!」

 

「ショート横抜けたァァ! 友沢!鮮やかなヒットでワンナウト13塁!」

ストレートを綺麗に流された。友沢はスイッチヒッターで引っ張る打球が殆どの筈だが…。

 

ここで4番大門を迎える。

「一発があるし、1点はしょうがない。ここは長打警戒シフトにして友沢だけは返さないようにしよう」

 

 

クサイコースを突くピッチングで1-2となり続く4球目。

青葉が足をあげた瞬間絶妙なタイミングで大門がバットを寝せる

 

 

「…なっ! スクイズ!? 大門さんが!?」

 

 

「くっ、」

すかさず青葉がボールを持ち替えウエストする。

しかしボールは鬼力のミットに収まらずバックネットめがけて転々と転がってゆく。

 

「あーっと! 青葉ワイルドピッチです! 3塁ランナー蛇島が突っ込む!」

 

「しかしボールがいいところに跳ね返ってきました! これは蛇島万事休すか!?」

 

 

「鬼力! ホームだ! 投げろ!」

青葉がベースカバーに入り懸命にボールを要求する。鬼力がそれに応じて即座に送球する。

 

 

「無駄だよ…。 君はもう終わりだからね…」

蛇島が無謀なタイミングで突っ込む。

冷静沈着なあいつがこんなプレーをするなんて。

…まさか!?

 

 

「青葉ぁ!! 避けろぉ!!!」

叫んだ時にはもう遅かった。

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