もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

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第11話 苦悩

「ガシィ!!!」

蝉の声が耳につくこの季節。容赦なく照りつける太陽、正午を過ぎ更に気温が上がる中とある球場でのとある試合。

ホームベース上で両チームの主力選手が激突する。

一方はこれ以上点はやれないとホームベースを死守する男。

もう一方は…点差など気にしていない。ただ彼の心は復讐心で煮え滾っているのだ。

 

 

「…セーフ!」

両手を大きく広げる審判。

ボールは青葉のグラブからコロコロと落ち、ホームベース付近に留まった。

 

 

「青葉落球! ホームスチール成功です! これで7-0!!」

四番大門の意表を突いたスクイズ。

すかさずウエストするが鬼力の捕球領域を大きく越え、ボールは転々とバックネットへ。

そこへベースカバーに入った青葉と三塁ランナー蛇島のクロスプレー。

傍目から見れば蛇島の暴走のように思われたが、そんなことは彼も承知の上。初めからたかが1点など狙ってはいなかった。

 

 

「…く、ううぅ…」

ホームベース付近で蹲る青葉。

ホームに突入した蛇島のスライディングによりスパイクの金具が足に当たったようだ。

なんとか右手で地面をつかみ立ち上がろうとするがその左足には見るだけで痛ましいほど腫れ上がっていた。

 

 

「君ぃ! 大丈夫かね?」

駆け寄る審判に対し、立ち上がる事もできない。

そんな姿を見て不敵な笑みを浮かべこちらを見つめる蛇島。

 

 

「蛇島ぁ!!! テメー…何のつもりだ!!」

俺はそんな蛇島を見て自制心を乱してしまった。

込み上げる感情を抑えることが出来なかった。

 

 

「そんなに怖い顔しないでくださいよ…。 審判さんもセーフと言ったじゃないか。 それに言っただろう。 眼にものを見せてやると」

鋭い眼光で春を睨みつける。

 

「お前…! 俺が気にいんねぇんだろ! だったら俺にやれよ! 青葉は関係ねーだろ!!!」

 

 

「…何を言っている。 お前など潰す価値もない!! このチームでまともにやれるのはこのピッチャーだけだ。お前より遥かに潰しがいがある」

 

 

「テメぇ…」

だけど、これもおれがあんな事をしたからじゃないか? 俺は青葉まで巻き込んでしまったのか…。

自分の中にそんな思いがこみ上げる。

ああ…。そっか。俺のせいなんだな…。

 

 

 

 

「ハァ…、 俺は…大丈夫だ…!」

審判に対しそう言い張ったが青葉はすぐさま医務室に運ばれ、長い治療が施されているのだろうか。一度取られたタイムは直ぐには解かれず残された俺たちにとってとても長く、不安に駆られた。

スタンドは響めきながらも、その間帝王の応援は留まることはない。

 

 

「つーかさ、もうよくね?」

マウンド上で輪になって治療を待つ中、茶来がスパイクで地面を弄りながらぼそりと呟いた。

 

「青葉くんがダメなら棄権でやんすし。投げられたとしても次あの大門でやんす」

 

「おい! ちょっと待てよ! まだ終わってないだろ! 」

 

「決まった様なもんやDE」

 

「なんだよみんなして…、青葉だってきっとなんともないって!それに 試合前はあんなに張り切ってたじゃねーかよ!」

 

 

「じゃあお前はこっから勝てると思ってんのかよ!!」

 

「 おい神宮寺お前、今なんて…」

俺がそう言おうとした瞬間

 

 

「ちょっと神宮寺くん!皆!諦めないでよ!皆甲子園に行きたいんじゃないの?」

アクシデントに心配してベンチから飛び出してきた小山が神宮寺に向かって言った。

 

私だって、、皆の代わりになりたい。私が代わりになれるならいくらでも…。私はそれすらできないから…

小山の目には涙が浮かぶ。

普段恥ずかしがり屋で引っ込み思案の女の子が相手ベンチにも聞こえるほど大きな声で言い放った。

「皆…。諦めないでよ。 私…! 皆がスタンドの人から酷い事言われてるの悔しくて…。 でも、私は試合には…」

 

俺は小山の頭に手をポンッと乗せ

「大丈夫。 皆小山の悔しさは痛い程わかってるから。」

 

「お、おう。俺様も悪かったぜ。 別に勝ちたくねぇ訳じゃねぇんだけどよぉ」

 

「この点差で強気でいろってのも酷な話でやんす…」

 

「青葉っちの復活とかもあって俺達雑誌とかに鬼書かれてたし…。注目されすぎっしょ…」

 

「んで、今はただの晒もんってとこやNA」

 

皆が押し殺していた不安を吐露し始めたその時、ベンチからゆっくりと背番号1の男がゆっくりと歩いてきた。

 

「なに辛気臭せぇ顔してんだ?」

 

 

「あ、青葉っち!」

 

「またせて悪かったな。 試合再開だ」

 

「お前、大丈夫なんKA?」

 

「ああ、少し擦りむいただけだ」

 

「にしては歩き方が妙でやんすね、まぁ頼むでやんすよ」

皆は青葉の言葉を聞いてそれぞれのホジションへと散ってゆく。その表情はどこか不安げだ。諦めムードが漂ってる。

やっぱり皆薄々感じていたのか。力の差を…。

 

 

 

 

「…骨に異常があるかもしれない。すぐに救急車を呼ぶから病院に行きなさい」

神妙な顔をした医師から告げられた。

すぐに、それはこの試合は諦める事と同じ意味であった。

 

「おい! ふざけんな! 俺は大丈夫だっつってんだろ!」

 

「青葉くん…落ち着いて!」

必死で青葉を宥める。

 

「テーピングしてくれ!頼む!」

普段の冷静さなどどこにもない。

 

「君のこれからを考えて医師としてそれは許可できない」

 

「あ、青葉くん。 もう…充分だよ~、もし怪我が酷かったらこれから先の大会に出れなくなっちゃうかもしれないし…」

 

青葉は美代子の肩をガシッと掴む。

「はひぃ!」

 

「俺は勝ちてぇんだよ! 甲子園行きてぇんだよ!」

美代子は驚いた顔をしている。

「皆が俺に入って欲しいって誘ってくれたのに…俺一人ギブアップする訳にはいかねぇだろ!!」

裏切れねぇ。期待されて応えられねぇなんて俺にはゴメンだ。

1番最後に入ったやつが足を引っ張る訳にはいかねぇ。

「俺達はまだなにもかも半端なんだよ。

何にも成し遂げてねぇ。こんな状況乗り越えられないようじゃ甲子園なんて行けやしない!!」

 

「青葉くん…」

 

 

黙って聞いていた球場医は髭を右手でジョリジョリと擦りながら

「ったく! おじさんもそんなラブラブっぷり見せられたら黙ってらんないよ! ほら、足出しな!テーピングでしっかり固定する、いいかい?決して無理はするなよ!」

 

「えっ?そんな~ラブラブだなんて~」

 

「何赤くなってんだお前…」

 

球場医はヨイショと立ち上がり戸棚からテーピングを取り出し慣れた手つき痛み止めを投与し、腫れ上がった左足を固定した。

「…よし!終わりだ! 頑張れよ!それに、彼女さんは大事にな」

 

「ただのマネージャーだ」

 

「えっ、私は別に~。 青葉くんなら…」

 

「ほらいくぞ」

 

「ちょ、ちょっと待ってよー! 」

 

医務室を出て少し歩いたところ、青葉は立ち止まり…

「おい…」

「俺は負ける気はねぇ」

 

 

「…うんっ!」

美代子はニコッと笑い、青葉の少し後ろを歩き、共にベンチへと向かった。

 

 

 

 

 

「さあアクシデントがありましたが試合再開です。 試合は7-0。 ツーアウト2塁で四番大門を迎えます。カウントは2-2!」

 

 

セットポジションに入り鬼力のサインをじっと見つめる。

チッ。 視界がボヤけてやがる…。ミットがよく見えねぇ…。 でも、あの時のマウンドに比べればこのくらい…

 

 

「…ボール!」

青葉の投じたボールはワンバウントで鬼力のミットへ。

 

 

帝王ベンチでは蛇島が密かにニヤリと頬を釣り上げる。

(まさか出てくるとはなぁ。まぁそんな足じゃお前の独特のフォームは活きてこないだろう)

青葉のフォームは右足に重心を置き、傾けたパワーを左足へ、グローブで空を切り裂くように上体を捻り、そして指先へと解き放つ。

その力を伝える重要な左足の踏み込みが甘かったり、少しでも左右にずれると溜め込んだパワーを存分に解放できない。

 

まだグラウンドに戻ってきて間もないのにも関わらず青葉の額には大粒の、滝のような汗が。

 

 

フルカウントからの一球。

それは今までの青葉からは想像もつかないほど甘く緩いスライダーだった。

 

 

 

「カキィィン!!」

バットが一閃。

振り返った時にはボールはスタンドへ。バックスクリーンに直撃した。

 

「行ったァァ! 本日二本目! 2ランホームラン!これで9-0!」

 

「はっはっ! なんだその球はー!」

 

「もう棄権した方がいいんじゃねーのー?」

 

スタンドは帝王一色。誰一人としてときめき青春へ声援を送る者はいなかった。

更にこちらが失点やミスをするたびにエスカレートする野次や、物凄い人数で、耳が痛く成る程盛大な応援歌。

頭では分かって居てもその帝王の本拠地であるかのような球場のムードは容赦なくときせーナインを包み込む。

 

 

 

 

「打ったぁー! 三遊間! これは抜け…」

 

 

「バシィ!!!」

 

…よし! 先っぽだけどグラブに収まってくれたぜ!諦めムードが漂う中頼りの青葉もこんな状態なんだ…。 おれがなんとかしねぇと…

 

 

「あーっと! 暴投だぁ! ショート荒波鋭いバウンドの難しい打球を逆シングルで良く取りましたがよろけながら無理やり送球! 」

 

 

(一歩目が遅いんですよ春くん…。そのスタートじゃ正面には絶対入れない。結果厳しい体勢で送球せざるを得ない。君の肩ではこのような結果にしかならない。どうやら中学時代から浮き彫りだった弱点はそのままだったようだね…。)

 

「あ、ああ…」

流れを止めるどころかランナーが二塁に…。

 

「おい春テメー! いくら俺様でもありゃとれねーつっーの!」

 

「わ、わりぃ焦っちまった」

 

「まぁこの点差だし? 気にしなくていいっしょ」

 

 

「ああ…。 わりぃな」

俺がこんなんでどうすんだよ…。 監督に言われたろ! 青葉のアクシデントは兎も角、こうなることは想定内だったんだ。一方的な展開も、スタンドからの罵声も。 なのに…。わかってるのに…。

 

 

「ヘイヘイ! どうしたショートぉ!!」

 

「カッコつけてんじゃねーよ!!」

 

「いけぇ!堂本ぉ! ショートに打ちゃあなんとかなるぜ!!」

 

 

…頼む! もう辞めてくれ…。静まってくれ…!!

 

 

 

 

「…こいつらは黙って見てられないのか?」

スタンドには先程の第一試合で圧倒的な試合で一回戦を突破した古豪パワフル高校の面々が観戦していた。

 

「まぁ、確かにうるせーけどよぉ~ オイラこの試合見てて結構燃えてきたぜ~」

 

「ほう、ベンチ外で体力が有り余ってるようだな。 帰ったら特訓するか」

 

「ちょ、それはパスするぜ…今日はラジコンの新作が…」

 

「それはそうと、青葉の怪我、心配だな。明らかにフォームが崩れているようだが…」

緑髪のこの男、東條小次郎(とうじょう こじろう)

細身ながらもスタンドまで飛ばすパワーを持つ三塁手。 天才アーチストと呼ばれるパワ高四番の1年だ。

 

「ときせーには頑張って欲しいなぁ~。昔、青葉相手に4タコ喰らったけどな…」

坊主頭のこの男、奥居紀明(おくいのりあき)

矢部と同じパワフル中出身の1年生外野手。

無名中出身の無名選手。今大会はベンチ入りしておらず実力は未知数。

 

「そうか、青葉はいいスライダーを持ってるだけにそれに頼り過ぎている。制球も甘い。」

 

「なんつーか、中学のが凄かったよな~。まぁ2年も野球やって無いから多少は仕方ないのかもな~。まぁ今でもあんな三振取れるんだからスゲェよなぁ~。」

 

「ああ。 しかし常に全力投球が青葉のいいところでもあり悪いところでもある。仮に一人の打者を抑えるのであれば青葉程優秀な投手は居ないだろう。だが試合は違う。 二巡目三巡目と打者を躱す技術、安定度、つまりゲームメイク出来る先発投手としては同じスライダー投手の友沢の方が上だろうな 」

 

「友沢は安定してるからな~。オイラ昔パーフェクトされたぜ~」

 

「そいつらを見返すためにパワフルに入ったんだろう?さぁ帰って練習だ」

 

「あ、でも夜練は勘弁だからな! 今日は釣り具も調達しないと…」

 

 

 

 

「ストライーク! バッターアウト!」

 

 

「クッソ!あんなん打てるわけないっしょ!」

 

四回裏、神宮寺がフォアボールで出塁するも後続が三者連続三振。ときせーの反撃はあまりにも短く終わった。

 

「皆!まだチャンスはあるよ! 諦めないで!」

気の滅いるようにグラブをはめるみんなに対し小山は必死に声をかける。

そこへ、今までずっとベンチに座っていた大空監督が立ち上がり

「皆…。これ以上やるのは意味がない。棄権しよう。 こうなるまで粘ってしまったワシの責任だ」

そう言って監督は審判に告げに行った。

 

悔しい。悔しいけど確かにこれ以上は…。でも俺がしっかりしねぇと…。

「お、おい青葉何突っ立てんだよ。悔しいけど監督の言う事は間違っては… 」

 

グラブをはめてマウンドに向かおうとした青葉。

俺が声をかけた瞬間、青葉はグラウンドに倒れ込んでしまった。

「おい! 青葉! !」

「青葉くん!!しっかりして!! 」

必死に呼びかけるが応じない。

この暑さ、足が痛むなか投げ続け溜まった疲労が、棄権の一言により緊張の緒が切れ一気に青葉の体に襲いかかった。

 

青葉はすぐさま病院に運ばれた。軽い脱水症状も起こしていたそうだ。

俺たちは挨拶を済まし、一言も言葉を交わす事無くロッカールームへ。

 

「クソが!!」

ベンチを思い切り蹴飛ばす神宮寺。

 

「負けちゃったでやんすね…」

試合前のロッカールームとは何もかも違っていた。

 

「青葉っち大丈夫かよ…」

試合は16対0。棄権していなかったらもっと悲惨なスコアになっていただろう。

「なんでワイら試合前あんなはしゃいでたんやろNA」

 

「しょうがねぇよ。 次絶対リベンジしようぜ!」

俺は皆を励まそうと部屋全体に響き渡る様に伝えたが誰も俺の言葉には応じなかった。

 

 

「わりぃ。俺帰るわ」

「俺も」

右京と左京がそう言ってバックを手に取りロッカールームを後にする。

 

「俺もバイト行ってき…」

続いて茶来も

 

「お、おい! まだ監督は解散っつってねーだろ!! ミーティングして次頑張ろうぜ!」

 

「悪ぃな春。今はそういう気分じゃねーんだわ」

 

「どうせオイラ達は虫けらでやんす。アリンコが束になったところでライオンには噛み付く事もできないでやんす」

 

「ええやないKA。今日は休ませてもらうDE」

皆ロッカールームから出ていってしまった。

 

「春くん…。きっと皆だって悔しいんだよ。だから無理はないと思うよ」

小山が心配そうに俺に言葉をかける。

 

「…そうだな」

 

 

 

~夜~

あれから監督の指示で現地解散。

ミヨちゃんと監督は青葉くんの元へ。私は一度学校へ戻った。

部室へ向かうと中、マウンドの上でいつになく澄んだ星空を眺めている春くんが。

「春くん…」

「なんだ…。こんな遅くに」

元気に振る舞おうとしてる…。でもそれを装うのすら辛そう。辛い。貴方のそんな顔、私は見たくない。

「春くん…。私、実は聞いちゃったの。監督と春くんの話皆のやる気だけは失わせないようにしたかったんだよね」

「聞いてたのか…見ての通り最悪の展開だ。俺は阻止出来なかった。それに蛇島のことだって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ春くん。今日はいい試合だったね。」

俺達がロッカールームを出ると廊下の壁に寄り掛かって腕を組む蛇島の姿が目に入る。にこやかに問い掛ける蛇島に対して小山は一歩前に出て

「蛇島くん…。あの青葉くんとのクロスプレイ…。わざとだよね? 」

小山は真剣な眼差しで蛇島を見つめる。

蛇島はフッと笑い

「負けたからと言って変な言いがかりはやめて欲しいですねぇ」

 

 

「なぁ、俺はお前にあやまり足り無かったようだな。本当に申し訳ない。」

蛇島に向かって深く頭を下げる。

それ以外、どうしたら良いのかわからない。

 

 

小山は驚いた様子であったが止めはし無かった。

 

 

「謝る? ふざけるな。 今更そうしたところで俺はお前を許さない」

蛇島は思いっ切り壁を叩く。

 

 

「ちょっと、春くん…。どういう…?」

 

 

「なんだ知らなかったのか。彼が猪狩守の造りあげられたライバルだということは知っているだろう? その後彼が部活を辞めるまで、全国大会決勝まで彼はショートでフル出場した。」

「それとどういう関係があるっていうの?」

「僕は1年から帝王中のレギュラーだった。ポジションはショート。 つまりだ。こんな万年補欠の下手くそによって僕は試合に出れなかった。」

蛇島はその年の全国大会に賭けていた。

大会前西強高校からスカウトが来ていた。

その大会で結果を残せば推薦枠で蛇島を取る、と言う話が個人的に持ちかけられていた。

「彼のお陰で僕の推薦の話はなくなったよ。 監督は世間の声を気にする人でねぇ。 彼が辞めた後も僕はアピールする場など殆ど与えられなかった」

 

 

「でも青葉くんは関係ないじゃない!それにこうして帝王でレギュラー取れてるんだし…」

そう言い返すと蛇島は小山を睨みつける。小山は怯えた表情をするが一歩も引かない。グラウンドで卑劣なことをする蛇島が許せないのだ。

 

 

「はは、今年あかつきに各ポジションで世代を代表する人間が何人も入った時点で帝王が甲子園なんて行けるわけ無いだろう。それに気に入らないんだよ。僕の進路を潰し、チームをバラバラにした人間が目の前でのうのうと野球をやっている事がな!!」

「まぁ、あんな素人に毛が生えた程度の不良共引き連れて甲子園など軽々しく口にしない事だ。君らのチームメイトもこの試合で理解したであろう。自分らがどんなに無謀かをな…」

 

 

「俺さぁ…。本気で甲子園目指してたんだ。でも、今日、たった4イニングの試合で今までのすべてが壊れちまった。いや壊しちまったのかもな」

正直練習量では何処よりも劣っているだろう。

だけど、本気でやった。皆くだらねぇ毎日から抜け出せて嬉しかった。知らないうちに心の底から野球を楽しめるようになってた。だからバカみてぇに練習した。本気で勝つ気持ちでいた。

それが今日の試合で完膚なきまでに打ちのめされ、自分たちの力のなさを露呈。

例え強い意志を持っていたとしても越えられない壁はある。その壁は容赦なく弱者の意思を崩す。皆そう感じていた。

かくいう俺も、危惧すべきこと、今後深く傷を負わないためにすべき事。全て分かっていたのに、、スタンドの罵声に圧倒され、呑まれ、不安を吐露し始めたチームメイトに何もできず、勝機を焦りスクイズ失敗。悪い流れを助長するエラー。試合の流れも変えることは出来なかった。

俺のせいで青葉まで傷付けてしまった。猪狩からホームランなんて打たなきゃ良かったのにと今までの感情が蘇る。

 

 

「俺、野球好きなんだ…。でも、上手い奴らには叶わないから。 メンタルだってこの通り。 皆に合わせる顔がない」

 

 

「私が思うにはね…。春くんはキャプテンだからって背負い過ぎなんだと思うよ。自分の分も、人の分も。余計な分まで」

「偉そうかもしれないけど…。春くんは自分が楽する道は選ばないんだよね。チームへの思いやりが強いんだよ」

俺のせいでこうなったって極端に思い込み、偽善する。やがてその想いが強くなり自身の破滅へと繋がってしまう。

 

 

 

「春くんが背負ってる荷物、私にも分けてよ。私だって皆のやる気を保てなかった責任はあるんだよ?」

負担を全部投げつけられてもいい。それが嫌なら少しだけ、少しだけでも良いから春くんにまとわりつくモノを私に任せて。

貴方はそんなに重たい荷物を背負う必要はないんだよ。

 

 

 

「それに、前にいったよね、役に立つかどうかなんて皆は気にしないって。 春くんのミスで皆怒ってるわけじゃないんだよ。それにあんなに頑張ってる春くんの事悪く言う人なんてうちのチームに居ると思う?」

 

 

 

春くんは地面に膝をつき堪えていた涙が溢れ出した。

 

 

「ずっと辛かったんだ!! 帝王との試合も、皆が帰っちまった瞬間も!! グラウンドに立っているのがずっと怖かった…!!」

 

 

 

「泣いたって良いんだよ。不安を打ち明けたって良いんだよ。」

辛いからって強がっちゃだめ。男の子だからって泣いてもカッコ悪くなんかない。一人で我慢してる方がよっぽどカッコ悪いもん。

「青葉くんだって春くんのそんな顔見たら怒るとおもうよ?」

 

 

 

 

 

 

 

「春くんは私たちの大事なチームメイトなんだから」

膝をつき泣き崩れる春にハンカチを差し出しニコッと笑った。

 

 

 

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