もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

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第13話 誓い

「稲田は反応が良すぎるんだ。早い打球でも突っ込める。そのせいで窮屈なバウンドで捕球せざるを得なくなってるんだ」

 

「でも待ってたら間に合わんDE」

 

「それはもちろん。ただ早く送球しようと考えすぎて捕球が疎かになってる。それで捕れなかったら本末転倒だよ」

 

「何かムズイNA」

 

「慣れだよ。それに少し横から回り込んで軌道を見てからだって稲田は地肩やスローイングはいいんだから充分だよ」

皆は戻ってきた。

もう二度と諦めないと誓って。

別に後悔は悪いことじゃない。

固執するから悪いんだ。

反省は絶対に必要だかそればっかりに縛られて何も見い出せないから後悔はいけないという観念が生まれる。

俺だってそうだ。" あのホームランさえ打っていなければ"とずっと思っていた。

まぐれで実力もないのにマスコミに持ち上げられた。

どんなに頑張っても創られた評判以上の結果は出せなかった。

思い悩むと 慢心して練習も努力もしないと思われ同世代の人間、チームメイトにすら疎ましく思われた。

そして、逃げ出した。

でも今なら、このチームなら、こんな闇ですら糧に出来ると思うんだ。

 

 

 

「何キロだ?」

「す、すごーい! 143キロだよ~!Max更新だね~!」

「青葉っちやばくねー? 140出んのここらじゃ猪狩と友沢くらいっしょ!俺も毎朝走って学校いこーかなー?」

バケモンみたいなスライダーもコンスタントに130台は出てるしやっぱり青葉は猪狩や友沢と遜色ない投手。

 

「なぁ矢部」

「なんでやんすか右京くん」

「俺達って足の早さ活かせてなくねぇか?」

「つーかデカイなヒット狙わなくても塁には出れるんじゃねぇか?」

「それだ、左京! フォアボールやバントだってあんじゃねぇか!転がしゃなんとかなるぜ!」

「あったまいいー!でやんす!!」

「ま、オイラのような俊足功打の一番打者ならともかく三森君達は守備に専念していいんじゃないでやんすか?ププ」

「んだとコラァ!!」

「今に見てろよこのメガネ!! てめぇなんか1日でブッちぎってやんよ!」

 

 

「えいっ!!」

打撃マシンから放たれた140キロの直球を快音残してセンター前へ運ぶ。

「小山もストレートに力負けしなくなったじゃねーか! 感覚掴めそうなら俺様の分も打ってていいぜ!」

「そ、そんなことないよ。神宮寺くんのバッティング参考にしたいから遠慮するよ」

皆練習に励んでいる。

その成長スピードは恐ろしいくらいだ。

後は俺か。流石にキャプテンがこのままだったら締まらねぇしな!

 

 

 

「ふいー、みんなお疲れでやんす。帰りミゾットスポーツに寄ろうでやんす! スパイクの紐が切れたでやんす!」

「おっいいじゃねぇか!」

「とりまパワスポでも見っか!」

 

練習が終わりたわいも無い話をしながら部室に入るや否やテレビをつける

 

『天才、猪狩守投手、連投も灰凶高校を寄せ付けず!! 大会奪三振、連続無失点記録を大幅に更新!!』

いつもはレ・リーグの試合結果や注目選手の特集などが放送時間の殆どを占める。

だか、この日は違った。

『いや~、猪狩君は今大会四試合に登板ながらひとつの失点も許しませんでしたねぇ。』

 

俺たちがひっそりとトーナメントから姿を消したうちに、メディアは猪狩守という逸材を以前より大きく取り上げ始めた。

 

『猪狩君はどの変化球も一級品ですから打者に的を絞らせないですね。その変化球があるからこそ自慢のストレートがより一層威力を増しますね。 甲子園での活躍に注目ですね~』

解説で元パワフルズの古葉さんも太鼓判を押している。

パワフルが負けようが帝王が食われようがこの猪狩守がいる限り、大会の熱気は決してどこかへ昇華していくことはなかった。

 

「この鳴沢って奴も七回まではよく耐えたんだけどな」

「なんだかキャッチャーと合わないみたい。何度もサインに首振ってたし…嫌々ストレートを投げてたのかな…」

鳴沢は7回4失点と奮闘した。

しかし一本のヒットを皮切りに足で崩されそのまま降板した。

 

「良く考えたらオイラ達こんなバケモノ高校と同じ地区でやんす…」

レギュラーの大半が1年生。

昨年甲子園ベスト4のメンバーから奪い取ったのだ。

「猪狩くんだけじゃないんだよね。打線だって隙が無いよ」

セオリー通りというか、各打者がその打順、場面毎に役割を全うし信じられないくらい噛み合う。

小さな歯車が互いに力を貸し合い

猪狩守を動かしているように。

 

「あれ?青葉っちは?」

「まだ残って練習するってよ」

「怪我が完治してから物凄い練習量でやんす…」

「気持ちはわかるけどYO~。あれじゃパンクするっSHO!」

「俺様子見てくるわ」

「春くんはミゾットスポーツ行かないでやんすか? 今なら神宮寺くんが福家花男モデルのグラブ奢ってくれるでやんすよ?」

「言ってねぇよ!?」

「青葉が心配だし今日はパスするよ!てかおれショートだし…」

「そうでやんすか。じゃお先でやんすー!」

「おう! 気をつけてなー」

さて…青葉の様子を見に行くか…。

 

 

 

「クソっ! まだだ!!」

グラウンドの隅のブルペンでひたすら投げ込みをする青葉。

 

「青葉! ちょっとやりすぎじゃないか? 鬼力だってずっと受けてるし」

そう言って歩み寄るとピタリと投げ込みをやめた。

「なぁ春。俺のスライダーどう思う?正直に言ってくれ」

珍しいな。青葉が自分の事を聞いてくるなんて。

 

「…俺が言うのも生意気かもしれないが正直昔のお前の方が凄かったな。映像で見たがバットに当たる気がしない」

中学時代の青葉の球はえげつなかった。

ストレートと変わらない球速で打者の手元のここってとこで曲がり打者の視界から消える。

今の青葉の球は球速こそ出ているが引っかかっているというか、曲がり始めが早い。

練習メニューの一環として青葉との全力勝負を行ったことがあった。

三振の山をバタバタ築いていったが俺や小山、茶来にはスライダーを見切られ粘った末のヒットが目立った。

 

「…やはりそうか」

「ああ。気を落とす程じゃないが二巡目三巡目には通用するかはわからない」

「なら話は早ぇ。春。鬼力。俺の特訓に付き合ってくれ」

「どんな特訓だ?」

「簡単だ。 練習後俺と真剣勝負して欲しい。 俺はお前みたいに選球眼のいい打者は苦手だからな」

確かに青葉は聖タチバナの翔のような長距離打者にはあまり打たれないが六道や原のような非力だがバットコントロールがウリの打者には打たれる傾向がある。

「お安い御用だ! だけどその分部活の練習中は球数は制限させてもらうからな!! いいよな鬼力?」

黙って頷く鬼力。

ウチのエースの輝きが増す。その為ならなんだってする。おれの打撃練習にもなるしな。

すぐさまグラウンドに散り特訓は始まった。

 

「行くぞ」

鋭い眼光でサインを見つめる。

なんだろうな。青葉は公式戦、練習問わずにマウンドに立つと雰囲気がガラリと変わるな。

闘志が溢れ出てるっつーか、まぁそれが青葉の良いところなんだけどな。

 

しなやかな腕の振りから放たれる快速球。

打者のタイミングを外す大きなカーブ。

そしてスライダー。

さて…どの球でくるかな…

「うおっ!!」

一球目はスライダー。確かに変化量はえげつない。

んー。ぱっと見ただけじゃ問題点がわからねぇな。

でもなんとなくストレートとスライダーの見分けがつくんだよなぁ。

青葉の投球はスライダーこそが生命線。

他の投手にはなかなかできない【スライダーとストレート、ストレートとスライダーとを錯覚させる】ことが青葉には出来る筈だ。

青葉もそれがわかっているからこんなに練習するんだろうけど。

とにかく俺も負けてらんねぇ!!

 

 

 

 

 

~翌日~

「さーて今日もバリバリブチアゲてくぜ!!」

「ワイ、体締まってきたNA」

「一文無しでやんす…」

「ガンだーロボのくじやりたいからって野球道具買い込みはまずいっしょー!」

「当たったのはパワリンだけでやんす…。皆にお裾分けでやんす…」

部室で着替えを済ませ今日もグラウンドへ向かう。

しかしすげー量だな。一体いくら使ったんだよ…。

 

そうだおれの考え。 皆に伝えないと。

「よーし! 集合!!」

全員が集まる。

はやく練習しよーぜーとか聞こえてきてちょっとグダグダだけど…

「あくまで俺の考えだけど…秋季大会は辞退しようと思う」

夏季大会が終わった頃から考えていた。

ウチのピッチャーは青葉1人。

秋季大会は夏より試合数が多く連投が予想される。

確かに試合をこなし経験を積める絶好のチャンスかもしれない。

青葉にとってはこの秋から冬にかけて酷使して怪我でもしたら大変だ。

例え調子が悪かろうが一人で投げ抜いてもらうしかない。

それに俺たちは全員一年。体を鍛える期間として夏に磐石の体制を整えよう、と言う考えだ。

それに新入生、しかも投手が入ればラッキーだ。

入る可能性は少ないだろうが、賭けるしかない。

勿論練習試合はたくさん組むつもりだ。 翔から早くやろう!ってメールも来てるし。

ただ、小山には申し訳ない。

折角試合に出れるかも知れないのに…。

「皆はどう思う?」

問いかける。皆反対すると思ったが答えはすぐ帰ってきた。

「俺様は構わねーぜ!!」

 

「今のうちに力を蓄えて帝王もあかつきもギャフンと言わせてやるでやんす!」

「実際ギャフンって言う奴見た事ねぇけどな」

「だな」

「ムキー! 顔に似合わず細かいこと気にするなでやんす!」

「「誰が双子だコラァ!!」」

 

「んなこと言ってないDE」

「いつもの事だしほっとけばいいっしょ~」

皆反対では無さそうだな。よかった。

 

「テメェとの勝負は夏休み終わってからだ!」

「上等だコラァ!首洗って待ってろ!!」

なんでいつの間にか兄弟喧嘩になってんだよ…。

 

「小山はこれでいいか?折角女子参加の機運があるのに申し訳ないけど…」

「うん! まずは基礎固めしないとね!」

彼女はニコッと笑いいつもより元気な返事をした。

本当は試合に出たくてしょうがない筈なのに…。

でも待っててくれ。来年こそは…。

 

「? 青葉くんどうかしたのー?」

「いや、なんでもない」

(時間は限られてる…。夏までには完成させねぇとな…。)

 

 

来年の夏での躍進を誓い練習に励むときせーナイン。

この期間必死に努力すれば結果はついてくるはずだ。

 

 





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