もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~ 作:たまくろー
「今日はここまで!! 明日はグラウンドが使えないから休みな!」
「や、やっと休みがもらえるでやんすか…」
日中容赦なく照りつけていた太陽は徐々に沈んでゆく。
夏休みももうすぐ終わり。
皆本当に頑張ったな。
毎日何十km走った。
何千回とバット振って、何千本とノックを受けてきた。
夏休み特別メニューと称された練習。
最初は「拷問でやんす」とか「名前にセンスないっしょ~」とか聞こえてたけど。
脱落者はゼロ。
練習の終頃には皆疲れ果てて口数も減ってたな。
「あっち~。おい春、もうちょっと残ってやってこうぜ!!」
「ワイもまだ行けるDE~」
「「俺達も残るぜ!」」
「鬼調子いいって感じー?」
夏休み前、大抵居残り練習をするのは俺と青葉に鬼力、夜道に女の子一人は危険だからと言う理由で暗くなる前までの約束で小山の四人のみだった。
夏休みに入って地獄の特訓が始まり、そしてあかつき大付属が夏の甲子園を制した。これに触発されて他のメンバーにも自覚が出てきたのだろうか、今では毎日全員が居残り練習までこなす。ミヨちゃんも家の手伝いがあるのにギリギリまで皆をサポートしてくれる。
いい感じだ。各個人のスキルアップだけでなく意識にも作用してる。やっぱりこの夏休みは大収穫だ。
「春、今日もやるぞ。打席に立ってくれ」
そして青葉との特訓だ。
もう部内では周知の事実だが。
「わかった!今日は練習で多く投げたから三打席だけな!」
汗まみれのアンダーシャツを着替えてすぐさま打席に立つ。
勝負を始めて数分後。グラウンドに快音が響き渡る。
グラウンドにいた全員がボールに目をやる。
夕焼け雲に向かって打球は一直線。
「うお!! 春ってそんな飛ばすのかよ!?」
トスバッティングをしていた神宮寺が思わず口にした。
「ライト線のツーベーツってとこだな」
(頭がぶれなくなったな。それだけじゃない。どの球種でもグリップの位置が一定だ。 だからすんなりバットが出て内角も肘を畳んで前で捉える事が出来る。元々ミート技術はそこそこだったが…。)
「どうした青葉? 早く次やろうぜ!!」
(これに腰の回転で壁と溜めを作り軸を安定させること、そしてスイングスピード自体が良くなれば…)
「おもしれぇ」
青葉が笑った。
期待そして対抗心を込めて。
俺自身、青葉や鬼力にアドバイスを貰ったりして
打撃が良くなった気がする。相変わらず長打は宝くじ並みの確率だけど。
同じように青葉にもリリースポイントやフォーム修正など備なアドバイスをした。
走り込みやウェイトトレーニングの成果もありスタミナはかなりついたと思う。
これなら相手打者によって力配分が出来れば9イニング投げきることは出来るだろう。
スライダーも良くなっていると思うがまだ中学時代と比較すると劣っている。青葉も納得している様子はない。
難しいな…。
平行線のまんまだけどじっくり探していくしかない。
自主練を終え、俺たちはそれぞれ家路につく。
「明日休みかー」
なんだかんだ野球やってねぇと落ち着かないな。
昔の俺からは想像もできねぇや。
家に着いて風呂に入り飯も済ませベットの上で仰向けになる。
「青葉の球を完璧に捉える為にフォームを安定させないとな。あとは送球と守備の安定か」
肩力は先天的だと聞いたことはあるが俺にはそれがない。
でもそれをカバーするために出来ることはいくらでもある筈だ!
部屋で1人。いつの間にか野球のことばかり考えていた。 野球雑誌読んだり、グラブ磨いたり。
もう寝るかなと思ったその時スマートフォンが鳴る。小山からだ。
『夜遅くにごめんね? もし明日空いてるならちょっと付き合って欲しいんだけどいいかな?』
思わず麦茶を吹き出した。
でもそれどころじゃない。
「行きたいけど…。なんて返信しよう…」
ああじゃないこうじゃないと推敲に推敲を重ねた。
やばい、早めに返信しよう。
「暇だからいいよっと…」
ちょっと素っ気なすぎたかな?
少し経って返信が来た。
『よかった~。じゃあ10時にパワフル駅前集合ねっ♪』
服はどうしよう。
ラフなのしか持ってねぇぞ…。
フリーの時間なんてほとんどねぇし服なんてしばらく買ってなかったからな…。
「とにかく寝よう! 遅刻なんてしたら大変だ」
~翌日~
「あ、いたいた」
目覚まし時計を3個セットし無事時間通りに駅前へ。
ベンチに座っている小山を見つけた。
「あ、春くん!」
白を基調としたワンピースにデニムジャケット。
赤いウエストベルトがそれとなく主張している。
ワンピースの丈も長くなく短くなくいい感じだ。
「ごめん待った?」
「さっき着いたばっかりだよっ!」
そういや小山の私服みるの初めてだな。制服とユニフォーム姿しか見た事ないし…。
(うぅ、自分で選んだのに見られるのが恥ずかしい…)
「そ、その、変かな?この格好」
バッグを両手で握り締め上目遣いで問う。
恥ずかしくて直視出来ねぇ…。
「俺は好きかな! すごく似合ってるよ!」
あんまり派手じゃないけどやっぱり大人しい女の子って感じだ。
「そっか、よかったぁ…」
安心した時にふと見せた笑顔が眩しい。
「とりあえずその辺歩く?」
「うんっ!」
こんな感じでいつもとちょっと違う休日が始まった。
「あ、可愛い!」
ペットショップで展示されているに子猫に目がついたようだ。
普段から引っ込み思案だけど野球をやってる時は勝気で負けず嫌い。
「…どうかした春くん?」
「へ?あ、なんか普段とはまた違って可愛いなぁって」
「えっ、ちょっといきなりそんなこと言わないでよ…」
顔を赤らめ目線をあちらにやったりこちらにやったり。
つい口に出てしまった。
照れてるのか嫌がってるのかよくわからん。
とりあえずわかるのは自分が嘗て無い程緊張している事。なんだか情けない。
「あれ?春くん!そっちは小山さん?」
ケージの子猫に見とれていると通りの向こうから翔が大きく手を降りこちらへ向かってくる。
「おっ翔じゃん、今日は練習休み?」
「うん、今日は夏休み最後だから監督が休みくれたんだ」
「ところでどうしたの? 凄い荷物の量だけど…」
「あ、実は…」
翔が困り顔で事情を話そうとすると
「翔くん~♪ 次はあっち行くよっ!」
「げっ、みずきちゃん…」
なるほど…。何となく状況は呑み込めた。
橘の荷物持ちか。
「げって何よ…。 あ、雅じゃーん!!ってなに!? もしかしてデート!? 」
「ち、違うよ!! 私が買い物に付き合って貰ってるだけで…」
確かに違う。
そんな間柄じゃない。
そうじゃないんだけどなにもそんなに強く否定しなくても…
春の心にグサッと突き刺さる。
「ふ~ん。 にしてもお互い気の毒ねぇ。折角の休日にこんな男と買い物なんて」
「「こんな男で悪かったよ…」」
翔と肩を落としながら同時に口にした。なんとなく翔との友情が深まった気がする。
「んま、次戦った時は負けないんだから! 覚悟してなさい!ほら翔くん!荷物追加よ!」
「えぇー!まだあるの~」
「つべこべ言わない!!」
翔をズルズル引き摺って橘は去って行った。
無事を祈る。
俺達は特に目的もなくその辺をブラブラしたり、小山おすすめのケーキ屋に行ったり。
そんな楽しいひとときは驚くほど早く過ぎていった。
日もどんどん傾いて夕焼け空が広がる。
「だいぶ涼しくなってきたな」
「うん…」
「春くん! 私最後に行きたいところがあるの!」
☆
「と言うわけで来たのが…」
「そう!海!ここからの夕陽がすっごく綺麗なんだよ!」
もう海水浴シーズンは終わってるし、この時間だから人気が全くない。
でもどうしても春くんとここに来たかったんだ。
「本当に綺麗だな…」
もうすぐお別れかぁ。
なんかあっという間だったなぁ。
「ごめんね…。折角の休日なのに連れ回しちゃって。疲れも溜まってるだろうし」
誰もいない浜辺。
二人寄り添い夕日を眺める。
「いや全然大丈夫だよ! むしろ疲れが吹っ飛んだくらいだし!!」
春くんはニコッと笑う。
本当に春くんは優しいなぁ。
練習中いつも先頭にたって皆への指示やアドバイスは怠らない。
鬼力くんに任せっきりだった他校データ分析にも協力してるし。
それでいて自分への妥協は絶対許さない。
そんな春くんを見ていて私は…。
「今日は欲しいもの見つからなかったの? 翔程には出来ないかもだけど幾らでも荷物持ちやるぜ!」
「…顔、見たかったんだ」
この言葉、これこそが今日春くんを誘った理由。
「それってどういう…?」
春くんが私を見る。
私は恥ずかしくて俯いちゃった。
今は言うべきじゃないかもしれない。
でも今なら言えるかもしれない。
わからないけど…
波の音が誰もいない砂浜で静かに響き渡る。
大丈夫。言えるっ!
私の想いを。
「あのっ、私っ!」
「早くするでやんす!! 他に連絡ついた皆はもう着いてるでやんす!」
「ワリィ! バイト長引いちゃって!」
「あれは…春くんに雅ちゃんでやんす!」
「もしかしてあの二人デキちゃってる系??」
「丁度いいでやんす! 二人も誘うでやんす! 」
「ちょい矢部っち! 邪魔しちゃやばめっしょ!!」
「あ…茶来じゃん! 皆してどこ行くの?」
「やっべ。気付かれちゃった感じ?」
「今からパワフルズの試合を観にいくでやんす! さっき商店街で団体席チケットもらったでやんす! 皆への労いでやんす!」
チケットを握り締め翳す矢部くん。
「いいの? じゃあ御言葉に甘えようかな! 小山はどうする?」
「…えっ!? ああ、私も行っていいかな?」
「モチロン! じゃあダッシュでやんす! 電車に間に合わないでやんす!」
「ええっ!? いきなりかよ!!」
春くんは急いで靴紐を結び直す。
「ちょい雅ちゃん」
茶来くんか私の側に駆け寄る。
「マジごめん! 邪魔しちゃって! 」
茶来くんはゴメンと両手を合わせる。
「心配なっしんぐ! 誰にもいわないから!」
「それはそのぉ…」
茶来くんにばれちゃったのかな…。
「春っちああ見えて結構鈍感じゃん?でもイイヤツだからその辺よろ! 」
「ん? 茶来なんかいった?」
「なんでもないよん! とりま早く行こ!」
私の想い、伝えられなかった。
これで良かったような、残念だったような…。
第1学年編はこれで終わりになります。
作品はこれからも続いていくのでよろしくお願いします!