もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

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第二学年編
第15話 仮初めの自由


桜咲き誇る4月。

教室の窓際の席から映ゆる桜は去年みたそれと何一つ変わらない。

でもあの時と今ではまるで違う。

まさか野球を再開してキャプテンやることになるとは想像もつかなかった。

 

「なに黄昏てるでやんすか!」

「春くん! また同じクラスだね!」

おお。この二人と今年も同じクラスか。

 

そういや夏休み最後のあの日。

小山は俺に何を言おうとしたのだろう。

2年生となった今でも気になって仕方がない。

まあそのうちまた二人で話す機会は来るだろうし今まで通りなにも言及しないでおこう。

 

「にしてもあかつきは春の甲子園も優勝したな」

夏春連覇。とんでもない偉業だ。

一年生エースを擁しての夏春連覇は史上初らしい。

もうひとつ。

鳴沢率いる灰凶高校(東野球部)が地方、地区と勝ち抜き甲子園の土を踏んだ。

2回戦で惜敗したけれども鳴沢の洗練された制球力と徹底した変化球攻めでゴロアウトを量産。

プロのスカウトをも唸らせた。

最後は無援護に泣いたが…。

 

因みに秋の大会はまず地方大会でベスト4に残らなければならない。

その後に他県の高校を含めた地区大会で結果を残した二校が選抜され春の甲子園出場となる

 

「パワフルも地区ベスト4。聖タチバナも地区大会まで勝ち上がったでやんす!」

パワフルは東條、そして背番号10の松田が中心となり甲子園こそ逃すも好成績を修めた。パワフルのエースって誰なんだろう…。

 

聖タチバナは翔曰く橘が生徒会長にブイブイ言わせて部員を大量確保。選手層が厚くなった。

なんか差着いちまったかな。

でも俺達だって遊んでた訳じゃない。

後の練習試合ではその聖タチバナにも勝ったし皆の自信にも繋がっただろう。

 

そして気がかりなのが帝王。

夏の地方大会で負傷交代した山口は秋にはベンチにも入っておらず友沢、蛇島が奮闘するも地方大会で姿を消した。

俺達敵にとって山口がいないということは願ってもない好機だがやっぱり心配だな。

 

何より女性選手の出場が可能になったことだ。

それを聞いたとき小山は喜びの涙を流し、他の部員たちも自分のことのように喜んでいた。

本当街頭で署名活動して良かった。

 

「とにかく今日は勧誘でやんす!」

「そうだな。 絶対に投手が欲しい」

「青葉くんが長いイニング投げてくれるとおもうし2~3回を纏めてくれるリリーフが必要だよね…」

確かにな。青葉はウチの絶対的エース。

しかし青葉だって鉄人じゃない。

疲れが溜まってきた大会後半や調子が悪いときに代わりに投げられる投手が欲しい。

何よりも後ろにも投手が控えている。

それだけで青葉の精神的負担は少なくなるだろう。

 

「おーい席につけー」

「あ、先生が来たでやんす。」

「先生の後ろにいる子誰だろう?」

ドアを開けるやいなや教卓の上に出席簿を広げる。

後ろの子は…男か? 青銀の髪を一本に束ねている。

凛々しく整った顔立ちで既に女子の数人がキャッキャッ言ってるぞ…。容姿端麗って言葉がよく似合う。

 

「今日から同じクラスになる転校生だ。じゃあ自己紹介宜しく」

先生の指示を受け黒板中央へ。

んー。あいつどっかでみたことあるような…。

背も高いし体つきもいい。スポーツ経験者かな?

 

 

 

 

 

 

 

「帝王実業高校から参りました山口賢(やまぐち けん)です。 今日からこのクラスにお世話になります」

 

「ややややんす!?」

矢部くんが思わず立ち上がった。

山口って…。あの山口か!?

容姿変わりすぎだろ!?

あの鋭い眼光はどこへいった…。

 

「コラ矢部静かにしろ。山口は前の学校で成績優秀だったそうだ、お前らも少しは見習えよー。じゃ山口空いてる席に座ってくれ」

こうして朝のホームルームは終わった。

先生が教室を出ていった途端に矢部くんと小山が俺の席に来る。

 

「た、大変でやんす! もしかしてあの山口くんでやんすか!」

去年の夏の地方予選、俺達は山口率いる帝王相手にボコボコにやられている。

「人違いなのかな? 同姓同名とか…」

「その可能性はあるかもな。」

でも目深に被った帽子の下にはあんなハンサムフェイスが隠れてたとも考えられる。

 

「ていうか春くん、帝王中で一緒じゃなかったんでやんすか?」

「いいや。山口は同じ中学じゃなかったよ。 一般入試で入ったんじゃないか?」

「とにかく放課後聞いてみるでやんす! 女子が囲い混んでて今は聞けそうにないでやんす!」

 

 

 

 

~放課後~

「読書中にごめん、ちょっといいかな?」

俺が代表して山口の話を聞くことにした。他の皆には予定通り新入生の勧誘をしてもらっている。

 

「…言われるがままに屋上まで来たけど…どうかした? 」

んー、、、。一回しか戦ってないけどマウンドでの印象とまるで違うな…。やっぱ人違いか?

 

「山口ってもしかして野球やってた?」

「え?あ、まぁな…」

「じゃあ野球部に入らないか?」

「…気持ちは嬉しいけど…遠慮させてもらうよ」

山口は少し口ごもりながらも勧誘を断った。

 

「すまない。野球はもうやりたくないんだ」

「なんでだ? あんなに凄い投手なのに…」

山口は俯く。そして静かに語り始めた。

 

 

 

 

 

 

「再起不能なんだ…」

 

 

 

 

 

 

山口が帝王実業に進学が決まったとき

指導者、帝王実業OBは口を揃えてこう言った。

「帝王の黄金期が来る」と。

実際猪狩守が総合力で勝るという評価を多く耳にしたがその猪狩に一番肉薄しているのが山口、という評価も多く耳にした。

 

 

しかし世界はいつもしたたかである。

 

 

中学時代、弱小だったとある中学野球部を全国大会へと導いた山口。

いわば地元の希望だった。

そのせいか度重なる連投で1年目から酷使され続け高校に進学したとき山口の肩は既にボロボロであった。

 

そして去年の夏の地方大会準決勝。

悲劇は無情にも訪れる。

山口は4回までをパーフェクトに抑える。

「いつもの山口。いや、調子が良すぎるくらいだ」

観客の誰もが、チームメイトですらそう思った。

 

 

 

 

『さんしーん!! サイレントK山口!! 圧巻のピッチング!!』

 

五回に入り一人目の打者を三振に切って取る。

『帝王を甲子園へ導く』

山口は胸に刻んでいた。

期待に応えなければ。

いつしか野球を楽しむことも忘れ自分への重責ばかり考えていた。

 

二人目の打者が入る。

腕を大きく上げ独特のテイクバックに入る。

腕を降り下ろそうとした瞬間、右肩に未だ嘗て感じたことのない激痛が走った。

 

 

「山口!!」

チームメイトの叫びが聞こえる。

でも応えることができない。

『大丈夫』と片手を差し出すにも腕が上がらない。

それに今、右肩を抑えている左手を離したら、

右腕が取れてしまうのではないかと思うほどの傷みと、恐怖が襲いかかる。

 

不甲斐なくて、情けなくて

マウンドに駆け寄るチームメイト、急ピッチで肩を作りベンチから飛び出してきた久遠に

顔向け…出来ない。

 

捕手のミットには届くことのなかったボール。

これが山口の最後の1球となった。

 

 

 

 

「兆候はあった。肩が限界なのは気付いていた。 自業自得だろう?監督に転校を薦められたんだ。投げられない投手は必要ないんだろうな 」

 

何の脈絡もなかったわけではない。

ただ、中学時代から自分のピッチングが試合に大きく影響する。

一点も奪われてはいけない。

負けたくない。

自分が打たれなければ確実に勝てる。

そんな想いが錯綜し、自分の肩の爆弾を告白することができなかった。

 

「すまないが野球はもう出来ないんだ。 失礼する」

「おい!ちょっと待ってくれ!」

山口は足早に階段を降りていった。

 

 

 

 

「春くんどうだったでやんすかー?」

「帝王の山口ってのは間違いかったんだけどな…。訳ありなんだ」

今日は1日勧誘に当てた。矢部くんたちは下校間際の一年生に声を掛けまくったらしいが収穫はゼロ。

今は一度部室に集まり互いに成果を報告している。

そして山口の事を話した。

 

「そんなに重症なんだ…」

「深く干渉しても傷付けるかもしれないし山口の事は諦めるしかないかもな…。皆も他言しないように頼む」

うぃーすとなんだか気のない返事ばかり返ってくる。

一度山口にやられているとは言え、やっぱり皆気がかりなのか。

 

「春。先にあがらせてもらうぞ」

「お、おう」

どうしたんだ? 何があってもいつもの勝負だけは欠かさなかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

「荒波にはきつく当たってしまったな…。後で謝らないと…」

夜の河原に座り込み一人きりで夜空を眺めている山口。

 

野球をしないかと誘われた。

でも今の自分を誘って一体何になるというのか。

投げられない投手など…。

部に籍を置く価値さえもない筈だ。

 

 

「おい」

そこへ制服姿の青葉が。

 

「君は…青葉か」

「ああ。お前、肩壊したんだってな」

「情報入手が早いな」

「まあな。誰にも言うつもりはないから安心しな」

「恩に着るよ。夏の大会は頑張ってくれ」

重い腰を上げその場を去ろうとする。

 

「迷ってんだろ」

「…何?」

足を止める。

 

「あまり憶測で人を語らないで欲しいのだが」

何を熱くなっているんだ。

誰に何を言われようと僕はもう投げられない。

一度壊れた肩は完全に戻る事はない。

だから誰に何を言われようと僕はプレーふることすら出来ないのに。

なぜこんなにも心になにか重苦しいものがまとわりつくのか。

 

 

「なんでこの学校に来た?」

青葉の言うことも一理ある。

例え野球をやるにしてもとてもいい環境とは言い難い。勉学優先するにしてももっとおあつらえ向きの学校がある。

 

「まだ野球やりたいんじゃないのか?」

青葉は次々と言葉をかける。なにか意図があるのか。

 

「じゃあ聞こう。全てをかなぐり捨てて夢や目標のために努力することが正義なのか?」

昔はそうだった。

形振り構わず野球をすることが生き甲斐だった。

でも今の山口はそれが勇気である事を否定する。

以前はその勇気が自分の胸の奥を熱くさせていたにも関わらず。

 

「僕の夢は甲子園に行くことだった。ただし能力が必要なんだ。それを失った僕に何が残る? 」

今まで積み重ねてきたもの。

140キロ台後半のストレート。

死に物狂いの練習の末習得したフォーク。

それをより有効に扱うための試行錯誤した時間。

それら全てを失った。

見返りとして得たものは不安と葛藤のみ。

 

「もう夢が段々と遠ざかり、目の前で消え失せて行くことに耐えられないんだ…」

 

 

静まり返る河原で一人の男の声が響く。

青葉に言っても自分の肩が治るわけでもない。

そんなことは解っていた。

 

「そりゃそうだな。自分の夢にハナから蓋してりゃ見えるもんも見えないからな」

山口の核心付いた。

山口の葛藤。

それは選手生命を絶たれたとしても自分の野球への熱意は絶たれていないこと。

右肩を壊して、非情な宣告を受けて尚、野球を諦めきれない。

それに気付いていた。痛い程に。

 

「別に強制はしない。でも野球をやらねぇんだったら左で練習してる意味はないんじゃないか?」

「…知ってたのか」

青葉が偶然見た光景だった。

夜、誰もいない河川敷グラウンド一人でひたすら投げ込みをする男の姿を。

投じたボールは強豪校のエースのそれとは程遠い。

嘗て対戦した投手とは思えない。

専らその時は容姿や利き腕からそれが山口であるとは気付かなかったが。

 

「でも仕方ないだろう。もうあの真っ直ぐもフォークも投げることが出来ない。僕はもう…誰にも勝てないんだ…!!」

不安を吐露したって現状は変わらない。

いつまでも虚空の空を眺めて行くしかない。

 

「違う。 諦めない事は勝つことより難しい」

一度野球を離れたからこそわかること。

痛みもそして再開する事のうれしさも。

 

「もう…もうやめてくれ!!!」

どんな言葉を掛けられても、

もう野球選手として山口賢は終わっているんだ。

うちなる闘争心や熱意がまだ残っていたとしても

どんなにそれを奮い立たせるような言葉を掛けられてでも

出来ないものは出来ないんだ。

 

 

「俺はよ、お前が羨ましいんだ」

青葉は一度野球から離れていた頃の自分を思い出し、それを山口の今と照らし合わせた。

二年もの間野球から離れていた。

嫌気がさすくらいやりがいのない日々。変わりゆく嘗てのチームメイト達。

何日も過ごした。

何をしても晴れることのない心の空。

そんなくだらない、多大な時間を過ごしてなお、野球への想いを忘れたことは一度もなかった。

でも行動に移せない。

何からはじめていいかもわからない。

そもそも野球部に自分の居場所などはあるはずもなく青葉が在籍していた頃の記憶など皆消し去っていただろう。

やりたくても出来ない。

有り余るエネルギーをぶつけるものがない自分が情けない。

 

でも山口は違う。

そのまだ消え失せぬ熱意を、行動に移すことができているではないか。

野球部を退部を促されてなお左利き用のグローブを買い、一人ででも必死に練習していた。

嘗ての自分には欠片もなかった言葉や想いだけでは成り立たぬ強い、ともて頑丈で揺るがない本物の不屈の魂を持っていたのだ。

 

 

そしてもうひとつ。

嘗ての青葉にはないものが。

 

「幾らでもやり直せるんだ。 また夢を見失いそうになったら…」

次の言葉を言いかけた。

その瞬間

 

「「「俺達が夢見させてやんよ!!!」」」

時間も場所も問わず大きな声を張り上げる。

春達だ。

 

「なんだお前ら来てたのか」

青葉がやれやれと言うように手を腰に当てる。

 

「途中からいたでやんす!!」

「おかしいと思ったんだよな~。青葉が勝負に誘ってこないから。探すの苦労したぜ!」

「今時コソ練なんてはやんないじゃん?」

「そうってもんよ!!俺様達とやろうぜ!!」

「おめぇの髪型もはやんねぇけどな」

「今更だけどな」

「せやNA」

「んだとコラァ!! てめぇら今日こそ俺様の怖さ思い知らせてやらぁ!!」

「ちょっとみんな落ち着いて…」

いつもの喧嘩が始まり鬼力と小山があたふたしなからも止めに入る。

 

 

 

「近所迷惑も良いところだ」

青葉が笑った。

 

彼らだ。

部を追われ一人で復活の道を模索していた山口。

投手にとって肩は消耗品だ。

肩の故障で選手生命を絶たれたなんて事は珍しい話じゃない。

それでも復活を試みるだなんてたいした根性だ。

だが一人ではこうすることしか出来なかったのだろう。

そして今ここにいる人間のなかで

山口賢の入部を拒むものはいない。

偶然かも知れないが転校先で

こんなにも自分が野球の道へと戻るために綺麗に整備された道を照らし示してくれるチームメイト。環境。

それに出会い、気づくまで無駄な時間を過ごし続けた青葉にとってはそれがとてもとても羨ましかった。

 

 

「ハハ…間違いないな」

「でもこのチームならもう一度夢が見れそうだ」

山口も笑った。

同じ投手、同じ一度野球を捨てた者同士、通じるものがあったのかもしれない。

 

「原点回帰だなんて思うなよ。超えんだぞ。お前の左腕で」

(まだたいした時間はたっちゃいない。

お前のその意思が消えねぇ限り、好きなだけやればいいんだ。)

 

 

嘗ての肩書き、期待、能力。

全てを失った。

それでも山口賢は第二の野球人生を歩み始める。

まやかしでもなんでもいい。

もう一度夢を追い掛けたい。

ときめき青春高校野球部の一員として。

 

 

 

 

 

山口賢が入部した。

 

 

 

 

 

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