もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~ 作:たまくろー
ときめき青春高校野球部は11人となった。
山口は左投げとして野球を再開。
入部してから1ヶ月間、再び怪我をしないようミヨちゃん仕込みの筋トレをして徹底的に体を作り上げた。
なんだか拳法染みてるのは気のせいだろう。きっと。
体を作り上げてからは積極的にボールに触れ、最初は山なりで15m投げるのが精一杯であったたがさすが山口としか言いようがない。
正味3ヶ月でみるみるうちに上達。
いきなり実践で投げるのは酷かもしれないが
点差が開いたゲームには登板してもらうつもりだ。プレッシャーも少ないだろうし。
野手転向も考えられたが山口は頑なに拒否。
血の滲むような努力の末、復活の兆しを見せた。
嘗ての投球を取り戻す日は近いはずだ。
山口自身も積極的に皆から技術を吸収しようとしている。皆との関係も良好だ。
そんな山口に触発され、他の部員もいつも以上に練習に励んだ。
とくに矢部くんは「理知的イケメンキャラはオイラでやんす!!」ってつい最近まで騒いでたな
そして迎える夏の地方大会。
本日運命の抽選会となる。
「ついたでやんす」
いよいよ始まる。
トーナメント次第で戦い方は大きく変わってくるからな。
この日までの練習試合の戦績は7勝2敗。
課題も多いが確かな手応えもある。
大丈夫。行ける。
「ギャッハハ、いよいよ俺様の真の実力を発揮する時が来たぜぇ!!」
神宮寺…。頼むから長ランにドカンはやめてくれ…。
「うおっ!? 君マジ可愛くね!? このあとどう? 空いちゃってる?」
これは毎年恒例なのか。
「おい、始まんぞ」
青葉の呼び掛けにより俺達は急いで席につく。
最近台頭してきた高校が多いからな。
頼むぜおれのくじ運…。
抽選会開始から数十分。
大方は出揃った。
第1シードはあかつき大付属。
大エース猪狩守を始めとする総合力随一。
大本命ってとこか。
第二シードは灰凶高校。
いつの間にか全国区の高校だ。
相変わらず素行は悪いがエース鳴沢を目にした人間は彼の将来に期待しているだろう。
第三シードは帝王実業高校。
秋では破れたがやはり入ってきたか。
直近の戦績ではパワフルに劣る。
だか恐らく隣ブロックにあかつきが居ることを考慮されてのものだろう。
第4シードはパワフル高校。
お馴染み公立の雄。
主砲東條を始めキャプテンの握里、豪速球右腕松田が中心のチームだ。
うーんここまでは妥当かな。
これ以外の有望株と言えば聖タチバナかな。
聖タチバナがどこに入るかが注目だな。
「ときめき青春高校ー51番です」
「うおっ! 灰凶のブロックでやんす!」
「かろうじてシード下は逃れたか」
「でも聖タチバナは帝王のブロックだから比較的楽なのかも」
「一回戦は球八高校か…」
「歴史ある学校でやんすね!! 一昔前勢いで最後までいっちゃって優勝した高校でやんす!!」
「今は中堅ってとこだな」
「一度勝ったら灰凶高校だよ~ミヨちゃんまた偵察行ってくるねー」
山口がトーナメント表を見つめる。
「あまり飽和状態にはなっていないようだね。ただし後半、強豪との戦はどうしても避けられない」
「まぁ勝つしかないってことやNA」
「そういうこと~、しばらくバイト封印しなきゃだしおれ頑張っちゃう!!」
みんな気合充分だな。
いきなり灰凶とやれるチャンスだ。
大物食い上等だぜ!!
「おっしゃぁ!! 帰って練習だ!!」
「うぉー!! やってやるでやんす!! 」
まだ会場に大勢いるというのに早くもテンションブチアゲ状態だ。
「こいつらは恥を知らないのか」
「まぁ彼ららしくていいじゃないか」
お互い顔を合わせ、青葉と山口が笑う。
マジでやってやる。
待ってろ甲子園!!
ときめき青春高校、悪ガキ達の快進撃が始まる。
☆
そして始まった初戦。
今日パワフル市民球場に足を運んだ観客はどう思ったのだろうか。
球八高校といえば高校野球好きの30-40代の人なら誰でも知っているだろう。
かつて粘り強い野球で甲子園を制し一躍人気を博した。
多くの高校野球ファンか球八の復活に期待しているだろう。
しかしスコアボードを見れば一目瞭然。
実力の差は歴然。
只今五回裏、18-0。ツーアウトランナーなし。
ときせーの大量リードだ。
そして最後の一球。
心地いいミットの音が響き渡る。
『最後は山口が締めたーー!!! ときめき青春高校!! 球八高校を圧倒!! 2回戦に駒を進めました!!』
先発は青葉。
4回丁度を投げきって被安打2 奪三振8 与四球0という圧巻のピッチング。
だが青葉は自分のスライダーに納得できていないようだ。
『あの一球』が奇跡や偶然ではないと信じて。
五回からは山口が登板。
球速は平均100キロ程。
3ヶ月前の状態と比べればかなり上がった方だ。
丁寧にコーナーを突き大振りしてくる相手打者を往なした。
そして打線は大爆発。
初回から矢部くんのヒットを皮切りにランナーを溜め鬼力のグランドスラムなど
打棒に足に小技を絡め計18得点。
青葉を休ます事、山口も経験を積めたし大収穫。
下馬評では格上だった球八高校を破った。
大勝であったがチームは慢心することなく、学校の部室に戻り続く二回戦、灰凶高校戦の入念なミーティングを行った。
幸いデータ不足に苦しんで鳴沢を打ち崩せなかった帝王の時とは違う。
灰凶は春の甲子園にも出たしデータは充分だ。
疲れを溜めないように今日はしっかり休んで貰おう。
というわけで一同は解散した筈だったが…。
「ほ~成る程。内角は肘が伸びきっちゃうとダメなのか…」
俺は部室で現極悪やんきーずの主砲、番堂長児選手の打撃に関する著書を熟読していた。
この間山口が置場所に困っていると言っていたので遠慮なく譲って貰った。
つーか番堂さんってイカツイ見た目の割に結構繊細なバット捌きしてんだな
そんな風に解説イラスト付きページを食い入る様に見ているとそっと部室のドアが開く。
「あ、春くん?」
小山だ。
まだユニフォームを着ている。俺もだけど。
「まだ帰ってなかったのか?」
うーん、なんか夏休みのあの日以来意識してるんだよなぁ。
今まではそれとなく話せてたんだけど…。
俺もしかして小山に惚れてんのか?
「うん! さっきまでウェイトトレーニングしてたんだ」
「ホント頑張ってんな」
女の子って事でどうしても肉体的ハンデがまとわりつく。
俺達の何十倍も大変な筈なのに絶対に泣き言は言わなかった。
冬のランメニュー。野球はオフシーズン、気温も低く怪我が怖いので主に体を鍛える期間とする。
ときせーでも男でもぶっ倒れるくらい走り込んだ。
当然小山もいつも以上に息を荒くする。
皆規定分走り終わり、周回遅れになろうかというところで心配になって「少し休むか?」
そう訪ねた事もあった。
しかし彼女は首を大きく横に振った。
そしてヘアゴムで一度乱れた髪を束ね直し再び走り出した。
それだけじゃない。
チームがどんなに劣勢であろうと声を出し、鼓舞する事を忘れない。
あんな華奢な体のどこにそんな力があるんだってくらい多方で頑張っている。
少し頑張りすぎちゃう所もあるけど。
「私嬉しいんだ…。このチームで野球がやれるのが」
小山は本当に心の底から楽しそうに野球をやる。
そんな小山を見て俺達も必死に頑張れるんだ。
「俺達だって嬉しいんだぜ? 小山が気兼ねなくのびのびと野球を楽しんでくれて」
俺と矢部くんで小山を野球同好会に誘ったとき。
そして徐々にメンバーが集まり始めたとき。
小山は迷い、悩んでいた。
自分がいても邪魔なんじゃないか、チームの輪を乱すんじゃないか、必要ないんじゃないかって。
過去に辛い経験をしただけに気になっちゃうのは仕方がない。
でもそんな不安げな表情の小山はもう何処にもいない。
それだけで…俺達は嬉しいんだ。
静寂が訪れる。
よく考えたら部室で二人きりじゃねーか。
何か…何か話題振らないと…。
「うーん、これはクロで間違いないでやんすね」
「いや逆になんで今まで気づかなかったの?」
部室の外窓から二人の様子を覗く。
矢部と茶来だ。
「許せんでやんす、オイラの数少ないフラグを木端微塵にされたでやんす!」
「いやそもそも立ってねぇし」
部室の様子を伺いながら二人でコソコソと怪しげに話し合う。
「つーかもうやめね? これ趣味悪すぎじゃん?」
「待つでやんす! あの二人イイカンジでやんすがお互い意識しすぎてるでやんす!」
「んま~二人とも真っ直ぐで純情過ぎるしね~」
「と言う訳でオイラ達が人肌脱ぐってのはどうでやんすか?」
「おっ、なにそれ面白そう!!」
「あくまで手助けでやんす! 茶来君、決して出過ぎたマネしちゃダメでやんすよ!」
「夏に邪魔したの俺達じゃん…」
「何の事でやんすか?」
「それも気づいてないっすか…」
「とにかく今はじっくり気長に作戦を練るでやんす!!」
「なんか心配だけど~俺も協力しちゃう!」
こうして二人の極秘の計画が始動?した。
「まずは甲子園でやんす!!」
「やっぱり? とりま灰凶倒して勢い乗っちゃう?」
☆
「遂に青葉をぶちのめせる日が来たか…」
灰凶高校東グラウンド。
金色の髪を幾重にも編み込んだ男がガムを噛みながらベンチに座りトーナメント表を見つめる。
「おい怒拳!! 俺の球受けろ」
「あん? 怒拳ならゴウ様達と出掛けてったぞ」
「はあ?あいつら甲子園出てからろくに練習でやしねぇじゃねえか」
チッと舌打ちをたて唾を吐く。
「にしても鳴沢はもったいねぇよな~。四天王入り何回断ってんだよ」
東野球部ではゴウが何故か野球部を牛耳っている。
そしてゴウのお膝元で権勢を震えるのが四天王。
役得はそれなりにある(らしい)
とにかく試合に勝ちたくて東野球部に加勢した鳴沢だがこちらの環境も難儀であった。
それでも勝つ鳴沢は凄いが…。
「しゃーねぇ、そこのお前、俺の球受けろ」
「あ?てめぇ誰にいってんだコラ?」
「受けてほしかったら頭ぐれぇ下げたらどうだオラ」
鳴沢はトーナメント表を地面叩きつけ、ゆっくりと歩み寄る。
「お? なになに? お前ら先に死にてぇようだなぁ」
チームメイトの胸ぐらを掴み上げる鳴沢。
「どうした? 受けんのか? それとも断るか? 」
鷹のような鋭い眼光で睨み付ける。
「ヒィ! き、今日のところは許してやる!!」
チームメイトは怖じ気づいて逃げてしまった。
「ケッ、クソが」
荷物を纏めて帰ろうとする。
甲子園に出てからというものゴウたち主力組は練習に顔を出さない日が増え、鳴沢のイライラも次第に増えていった。
「怜斗…」
そんな鳴沢の前に元バッテリーである黒木孝介が現れる。
もう何度目だろうか。
「…何しに来た。あいつらに見つかったらまたイビられんぞ」
「構わない。なぁ、戻ってきてくれよ!!」
必死で頭を下げる。
もう見たくない。
中学時代のような協調性皆無な鳴沢を。
折角西野球部で変われそうだったのに。
「…もう来んじゃねぇ」
孝介に背を向け鳴沢はグラウンドを後にした…。