もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

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第17話 それぞれのエース

灼熱の太陽が燦々と照りつけるこの季節。

そう、今は高校球児達の熱き戦い、夏の地方大会の真っ只中。

気温は例年より高くグラウンドレベルではもう暑くて仕方がない。

そんな暑い中、パワフル市民球場には溢れんばかりの観客、応援団が集まる。

鳴沢を見に来たのだろう。

今や猪狩と並ぶNo.2投手とまで言われる程だ。

ときめき青春高校にとってはいきなりの鬼門と言えよう。

 

 

 

 

 

ロッカールームでスタメン発表を行う。

春が青葉らと共に熟考した末に出した結末だ。

 

「一番 センター 矢部くん」

「了解でやんす!」

鳴沢は序盤は体力を温存したり相手によって手を抜いてくるからな。

一番打者の既成概念に囚われない積極打法の矢部くんを当てるのはおもしろい。

 

「二番 セカンド 小山」

「うん!」

稲田とのレギュラー争いを勝ち抜いた彼女に託す。

変化球打ちも得意だし対鳴沢にもってこいだ。

安定した守備も期待したい。

 

「んで三番 ショート 俺」

俺の仕事はランナーを返すこと。それだけじゃない。うちの打線の核である神宮寺、鬼力が自由に打てるように俺が細かい仕事をしないとな。

 

「四番 ファースト 神宮寺」

「おっしゃぁ!!」

「五番 キャッチャー鬼力」

(コクコクッ)

鬼力は直球には滅法強いが変化球には弱い。

勿論長打力は魅力だ。

対照して神宮寺は変化球を苦にせずアベレージを残せる。

 

「六番 セカンド 茶来」

「はいはい待ってましたぁー!」

茶来にはランナーを気にせず思う存分曲者っぷりを発揮して貰いたい。

 

「七番 レフト 右京」

「おう!!」

「八番 ライト 左京」

「やってやんぜ!!」

この二人は特に重要だ。

ゴロアウトが中心の鳴沢だけに内野安打が期待できる。

俊足ランナーを背負えば鳴沢は変化球を投げづらくなる。

苛ついて制球を乱してくれれば尚よしだ。

 

「九番 ピッチャー 青葉」

「ああ」

灰凶はほぼ全員一発がある。

甘い球は捉えてくるだろうしなんとか踏ん張って貰いたい。

にしても今日の青葉はやけに気合いはいってんな。

 

「稲田は終盤のチャンスで使うからな!!」

「任せろYA!!」

スタメン落ちを喫した稲田だがもちろん出番はある。

勝負強いバッティングでゲームを決定付けてほしいところだ。

 

「山口は終盤出番があるかもしれない!! 心構えはしておいてくれ」

「了解」

灰凶の強力打線相手に後ろにも投手が控えている。

これだけで山口は無形の貢献をしている。

 

 

「皆さーん! そろそろベンチに入る時間だよー」

ミヨちゃんが呼び掛ける。

負けたら終わりのトーナメント。

生まれ変わった俺たちの姿を見せてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

『さぁまもなく激闘の火蓋が切って落とされるでしょう!! 先攻、春の甲子園大会出場校、灰凶高校、対いするはときめき青春高校!!台風の目となるか!?』

 

 

両校試合前ノックを済ませ、ベンチで汗を拭ったり水分補給をしたり。

既に球場のボルテージは最高潮。

電光掲示板には灰凶高校のスターティングオーダーが映し出される。

 

 

灰凶高校

一番 ショート 倉橋

 

二番 センター 明石

 

三番 サード ゴウ

 

四番 レフト 御宝

 

五番 キャッチー 怒拳

 

六番 ファースト 堤

 

七番 ライト 栗山

 

八番 セカンド 諸岡

 

九番 ピッチャー 鳴沢

 

やはり注目すべきは鳴沢怜斗。

こいつを早目にマウンドから引き摺り降ろさねぇとな。

後ろにはmax149km/hの右腕哀樹と鳴沢ほどではないが多彩な変化球を操る楽垣が控えている。

哀樹のストレートは一級品だが変化球はお世辞にも良いとは言えない。

楽垣に関しては球速こそでるがその他の点で鳴沢に劣る。

この二人ならウチの打線なら間違いなく打ち崩せるだろう。

 

そして打線だ。

甲子園で三者連続ホームランを成し遂げ観客の度肝を抜いたゴウ、御宝、怒拳のクリーンナップを始めほぼ全員の打者に一発がある。

しかし確実性はないしバントやエンドランといった技を利かせた作戦はほぼ取らない。

ガンガン振ってくるし青葉がそれをどう往なすかだ。

 

『両校整列!!』

審判が呼び掛ける。

俺たちは一度ベンチの前で列になる。

「勝つ。それだけだ」

「分かりやすくていいでやんす!!」

ホントにこれだけだ。

変に鼓舞しようと考えたって思い浮かばねぇし。

 

「負けたらミヨちゃん承知しないよー!」

ミヨちゃんはベンチからメガホンで俺達を鼓舞する。

 

当然! 秋の地方大会を辞退してまで個々の、そしてチーム力を徹底的に鍛えて来たんだ。

こんなところで負けてたまるかよ。

 

 

「番狂わせ上等だ…」

大きく息を吸い込む。

 

 

 

「いくぞぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

「ときせーーーー ファイ!!!」

 

 

 

 

「「「「オオォォォォォ!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

ホームベースへ向かって走り出す。

灰凶高校の面々はダラダラと歩きながらだが。

そして向かい合う。

 

「よぉ青葉、少しはマシな球放れるようになったかよ」

鳴沢が前屈みになりニヤニヤと笑みを浮かべながら問い掛ける。

 

「さぁな、だが負ける気はしねぇ」

青葉も鋭い眼光で返答する。

 

「チッ、可愛くねぇ野郎だ」

舌打ちをし、睨み付ける。

 

 

「「勝つのは俺だ「俺達だ」」

 

両者の間で火花が激しくぶつかり合うように。

 

 

 

『えー、只今から灰凶高校対ときめき青春高校の試合を始めます!! 互いに、礼!!!』

 

 

「「「「しゃーーす!!!!」」」」

 

 

ときせーナインがグラウンドに散る。

春もショートの定位置につこうとしたその時青葉に呼び止められる。

 

「今日の試合、最後まで行かせてくれないか?」

なにやら真剣な表情だ。

 

鳴沢には勝ちたい。あいつの目を覚ませてやりたい。

青葉は気づいている。鳴沢に足りないものを。

ライバルであり友でもあるからこその完投志願だ。

 

「わかった、 ただ明らかに限界ならなんと言われようと替えるからな!!」

青葉が最後まで大崩れなく行ってくれればこっちも助かる。

まだ左に転向して3ヶ月程の山口を灰凶打線にぶつけるのは流石に危険だ。

勿論山口の努力は充分認めている。

ただ、それだけ灰凶打線は強力なんだ…。

 

 

「わかってる。恩に着るぜ」

伝わる。この試合に懸ける青葉の並々ならぬ気持ちが。

 

 

『プレイボール!!』

審判の合図と共にサイレンが鳴り響く。

灰凶一番の倉橋が右バッターボックスに入る。

さて…青葉をバックアップしてやらねぇとな!

 

 

青葉が静かに息を吐き鬼力のサインを見つめ、

コクリと小さく頷く。

ときせーナインは固唾を呑んで見守る。

 

 

腕を高々と上げゆっくりと右足を踏み出す。

軸となる右足でタメを作りスムーズに左足をホームベース向かって真っ直ぐに運ぶ。

腰の回転から少し遅れてグラブで空を切り裂くように上半身を捻り

 

 

 

解き放つ。

 

 

 

「バシィィィン!!!」

鬼力の構えたところドンピシャにストレートが決まる。

球速は140キロ。初回にしては出ている方だな。

 

 

『ストライーク!!!』

判定はストライク。

多少外に外した球だったが球威がそれを圧倒。

倉橋も手が出なかった。

 

続く2球目もストレート。

内角低めにズバッと決まりツーストライク。

今日の青葉はストレートが走っている。

それもその筈。

相手は仮にも甲子園で一勝した打線。

抜いた球を投げて抑えられる相手ではない。

 

 

3球目は高めの釣り球。

倉橋はつい手が出てしまいハーフスイング、三振となりワンナウト。

 

 

「青葉くんナイスピッチ!!」

「青葉っちイケてんねー!」

チームメイトから励ましの声が飛び交う。

その後も青葉は鬼気迫るような投球を見せる。

 

二番明石をカーブで翻弄し最後は144キロのストレートで見逃し三振を奪う。

奪三振、これが青葉の真骨頂。

それは絶対的な決め球のスライダーがあるからだが、一概にそうとも言えない。

スライダーに頼らずとも球威のある真っ直ぐ一本でも三振が奪える。

それだけ今日の青葉の真っ直ぐは良い状態だ。

下半身強化の結果去年に比べて制球もかなりよくなったし。

 

そして三番、ゴウを迎える。

ゴウの持ち味はスタンドまで飛ばすパワーに加え灰凶打線の中では珍しく確実性も兼ね備えている。

なんかアホっぽいけど。

とにかくこのクリーンナップは他とは違う。

容易に抑えられる相手じゃねぇ。

頼むぜ青葉…!

 

 

青葉はゴウに対してもストレートでグイグイ押してくる。

カウント1-2とし4球目。

投じたのは内角低めに落としたカーブ。

待ってましたというかのようにゴウはバットをだす。

 

 

「カキィィン!!」

 

 

ボールは唸るように三塁線へ。

内角のあの球を流すのかよ!?

不味い、引っ張りを警戒してレフト右京がセンターよりに守っている。

長打コースかっ!

 

 

誰もが抜けたと思った瞬間。

 

 

「パシィ!!」

 

 

『あーっと!! 小山ダイレクトで捕っています!! ダイビングキャッチ!! ファインプレーです!』

 

「うぉ! やるじゃねぇか!」

「助かったぜ、小山」

 

「うん! 三振もいいけど今日はいつもより暑いし打たせていこうね!」

小山はニコッと笑い皆とグラブタッチを交わしながらベンチへ戻る。

いやぁマジで助かったぜ。

サードにコンバートされてから球際は苦手だった筈なのに…。

やはり守備の上手さは随一だ。

さっきのはライナーだったけどゴロの場合捕ってから投げるまでの動作が流れるように軽やかだ。

おれも真似しねぇとな。

 

「さぁ、小山が作ってくれた流れに乗るぞ!! 矢部くん頼むぜ!!」

「任せろでやんす! 」

 

 

「チッ、気に入んねぇな、たかがアウト一つでギャーギャー騒ぎやがって」

ペッ、と唾を吐きマウンドを馴らす。

何が楽しくて騒いでいるか、そんな事には興味がない。ただ勝てれば、それだけでいい。

 

 

『一回の裏、ときめき青春高校の攻撃は ー番センター矢部くん』

 

「さぁこいでやんす!!」

自信満々でバッターボックスに入る矢部くん。

 

「あー? 言われなくても投げてやっから大人しくしてろクソが、そんなんじゃ女できねーぞ?」

「ムキーでやんす!! そこは触れちゃいけねぇオイラの黒歴史でやんす!! 許さんでやんす!!!」

「おーこわっ、お手柔らかに頼むぜ」

矢部くん…。相手の思う壺だぞ…。

 

 

矢部くんへの初球。

躍動感のあるフォームからは想像できない程の緩いカーブ。

だが少し外に外れ1-0。

意図して投げたのだろうか。

 

続く2球目。

今度は内ぶところを突くシュート。

矢部くんは強引に引っ張るもファウル。

 

3球目は外角低め一杯に落ちるカーブ。

オーソドックスなカーブだが描く弧が大きいため視線を上下にずらされやすい。

 

矢部くんはカーブに手を出すも完全に腰砕けのファーストゴロに倒れる。

 

「おいおい許さねぇんじゃなかったのか?」

鳴沢はロージンバッグに二三度触れながら高笑いする。

 

 

『二番 サード 小山さん』

ウグイス嬢のコールと共に小山が左バッターボックスに入る。

 

「ケッ、女かよ嘗めやがって」

 

 

「むっ、挑発には乗らないもん…!」

 

冷静に打席に入った小山だったが内角高めギリギリを突くスライダーを打たされファウル、緩く落ちるカーブでタイミング崩されあっという間に追い込まれるとなんとか際どいボールを見極め2-2とするが最後は外角低めに落ちるシンカーを引っかけてサードゴロに倒れた。

 

「ごめん春くん。チャンス作れなかった…」

「まだ初回だ! 気にすんな!!」

俺は小山の頭に手をポンッと置いた。

そして打席へ向かう。

 

 

鳴沢か…。確かに並の投手じゃないな。

最近上がり調子の矢部くんと小山を意図も簡単に抑えやがった。

 

 

振りかぶって第1球。

鋭く曲がるシンカー。

見極めて1-0。 いきなり振らせようとしてきたな。

 

鳴沢の主な持ち玉はスライダーにシュート、これらは左右の内角を突く為の球種だろう。

あとはカーブとシンカー

カーブはタイミングを外す緩いもので簡単に捉えられる球速だが大きな弧を描く軌道なため目線を合わせ難くボールの上っ面を叩いてゴロになりやすい。右打者によく使ってくる。

シンカーは左右両打者によく使う、芯を外させるものだ。

それにどの球種も曲がり始めがほぼ一定だ。

映像で見たよりキレがあるな。

フォームもイメージと違ったな。

のらりくらりとしたフォームだと思ったが案外スピード感溢れるフォームだ。

それでいて緩いボールがくる。

実際の球速より速く感じるな。

 

 

2球目、今度は外へ微妙に変化するシンカー。

見逃し1-1。

 

 

そしてこれが一番恐ろしいと言えよう。

どの球種でも、左右両打者問わず内外角高低にスパッと決めてくる抜群の制球力。

この制球力があるからこそ多彩な変化球を最大限に活かすことができ相手打者を幻惑、幾多のゲームを支配してきた。

だが、弱点も明確だ。

 

 

 

『変幻自在の鳴沢! 次は何を投げてくるか!?』

 

 

 

データに顕現されている。

 

 

 

『さぁ振りかぶって第3球目を』

 

 

 

たまーにしか投げないが

 

 

 

『投げました!!』

 

 

 

この、クサイところに放る

 

 

 

 

『捉えたっ!』

 

 

 

 

 

ストレート ー

 

 

 

 

 

迷わずバットを出した。

恐らくこのストレートをファウルにさせて追い込むつもりだったのだろう。

確かに厳しいコースだ。

だがな…俺は毎日青葉のストレートを見てきたんだ。

 

 

 

 

『良い角度で上がっているぞ!!?』

ここにいる全員が打球の行方を追う

 

 

 

 

 

鳴沢の弱点。

それはストレートの球威不足。

182cmと長身、恵体であるにも拘わらずストレートには角度はあるものの球威がない。

15%程の確率でしか投げないがストレートの空振り率は僅か3%。

それを補う制球力ではあるが…

 

 

 

 

 

青葉のストレートの比ではない。

 

 

 

 

 

 

『ライトスタンドに突き刺さったあぁぁぁ!!! ときめき青春高校!! 主将の一振りで先制!!!! これで1-0!!!!! 今ゆっくりとホームインっ!!!!!』

 

 

 

 

「てっめっーコノヤロー!!」

「魅せてくれんじゃねぇかキャプテン!!」

「フェンスギリギリじゃねえかよ!!」

「春くんナイスバッティング!!」

「痛てっ! 頭叩くなってー!」

チームメイトがベンチから乗り出して温かく?迎える。

 

 

自身の野球人生で二度目のホームラン。

100回に一回が今出たぜ

 

 

 

「ナイスだ春」

青葉がドリンクを差し出してくれた。

 

「おう! お前との特訓のお陰だ! それに鳴沢は序盤は抜いてくる傾向もあるしな!」

 

(読みが当たったとはいえ完璧に捉えたな…)

 

 

「…見つけたか。自分のフォーム」

「ん? なんか言った?」

「いや、なんでもない」

 

 

 

どの球種でもヘッド、グリップの位置は変わらない。

左足に体重をのせ壁と溜めを作る。

そして右足でステップした後に腰

、左膝を回転させ、やや遅れて肘を畳みスムーズにバットが出る。

 

一見何の変鉄もないフォームだ。

 

溜めが出来た事により下半身から始動できる。

従って下半身と上半身の捻転の始動に差が生まれる。

 

壁を作ることもでき上体が突っ込まない。

肩が開かないので緩急差にも崩され難く肘もバットもすんなりと出る。

 

これらは全て軸の安定によるものだ。

 

本来対応力に長けるフォームだが、先程の打席のように狙い玉のミスショットを減らす事もできる。

だから非力な春でも捉える事ができる。

 

春には傑出した才能や驚異的な身体能力はない

だが1つの可能性があった。

天性のスイングスピードも抜群のミート技術もない彼のたった1つの可能性。

それは元来から無駄も変なクセもないキレイな打撃フォームを持っていた事だ。

 

 

無駄を削ぎ落としたフォームが身についていたからこそ得た新フォームだ。

 

 

 

 

彼は信じた。

たゆまぬ努力により裏付けられる確かな実力、そして成長を。

だからどんなに進む道が暗かろうとバットを振る事を止めなかった。

その信念が彼に一筋の光をもたらしたのかもしれない。

 

 

 

 

「おい努拳! てめぇ何回言えばストレートのサイン出すのやめんだコラァ!!!」

マウンドに駆け寄る努拳を突き飛ばす。

 

「やめないグス。変化球だけじゃいつかは打たれるグス」

こちらも折れない。

努拳の言うことも一理あるが鳴沢は今までの負けた試合ではストレートを痛打される場面が目立っている。

鳴沢の自己分析した上でのリード不平だが、努拳は受け入れない。

 

「チッ、てめぇのサイン通りに投げた俺がバカだったよ」

 

 

 

結局問題は解決されないままプレイは再開。

続く神宮寺、鬼力を歩かすも茶来を全て変化球でセカンドライナーに打ち取った。

 

 

「あーうっぜぇなぁ!!!」

ベンチに戻りグローブを思いっきり投げつける。

この試合だけは負けられない。

それが不本意なストレートを強要され被弾。

青葉は立ち上がり上々。

鳴沢はどうも不機嫌だ。

過去の試合では極端なリードにより失点しても援護に恵まれなくとも中継ぎに試合を壊されようとも苛立ちは見せなかった。

 

 

 

「灰凶の人たちあんまり意志疎通出来てないのかな、アウトとっても誰も声掛け合わないし…」

小山がグラブを嵌めながら呟く。

こっちは一挙手一投足声を張り上げてるのに灰凶は怖いくらい静まり帰っている。

 

 

 

「確かにあっちが冷え過ぎててやりにくいな。でもこっちからしたらチャンスだ!! 一気に崩そうぜ!!」

 

 

 

二回表四番御宝から始まる好打順。

青葉は真っ向勝負。

ストレート2球、最後は外に逃げるスライダーで空振り三振に打ち取る。

続く五番努拳にカーブをおっつけられライト前ヒットを許すも六番堤に外角のボール球を打たせて4-6-3のダブルプレーに仕留める。

やっぱり今日の青葉は良い。

 

青葉対鳴沢。

前者はキレと球威、そして絶対的な1つの変化球で三振の山を築き、後者は七色の変化球とそれらを常人離れした制球力で操りゴロアウトを量産。

全くタイプの違う投げ合いに観客も多いに盛り上がってる。

 

 

鳴沢もそう簡単には崩れない。

七番右京を厳しいコースを突き見逃し三振、左京をレフトフライに打ち取りツーアウト。

そして注目の対決を迎える。

 

『九番ピッチャー、青葉くん』

ふぅと一息を吐き右バッターボックスに入る。

軸足を固めバットを構える。

 

 

 

「…やっときたか」

帽子を深く被り直しグラブの中のボールを見つめる。

てめぇ、中坊ん頃から言ってたよなぁ?仲間がどうとか声掛け合えばとかなんてよ。

俺にはそんな青クセェもん理解できねぇ。

投手だぜ?投手がテメェの事第一に考えて何が悪い?

のくせに野球は俺より上手かった。

死ぬ程気に入らなかった。

まるで自分の野球観を底から否定されてるようでよ。

 

「…正しいのは俺だ」

鳴沢はぼそりと呟く。

待ち望んだこの対決。

ここでときせーを倒して証明したい。確かめたい。

自分がした選択の正統性を。

 

 

躍動感溢れるフォームから投じた初球。

内角のボールからストライクになる緩いカーブ。

決まって0-1。

 

「カーブだけでもいろんな使い方してくんな」

青葉も呟く。

両者気合い十分だ。

 

2球目は外角低めいっぱいのストレート。

「…っ!」

 

声を上げてスイングするも空振り。

ここでストレートを使ってくる。

確かにストレートは明確な弱点であるがこの制球力と変化球とのコンビネーションで緩急を上手く使ってくると多少厄介だ。

 

 

鳴沢は小さく息を吐きグラブに収めたボールを見つめる。

(てめぇの鼻っ柱へし折るにはこれしかねぇ)

 

ゆっくりと腕を頭上にあげ投じた三球目。

低めだが多少甘い。

もちろん青葉はバットを出す。

しかしボールはベース手前で曲がり

ワンバウンドとなり努拳のミットに収まる。

努拳がゆっくりとタッチ。

主審が右手を挙げアウトをコール。

 

 

決め球に選んだのは、青葉の生命線でもあるスライダー。

 

 

『さんしーーん!!! 青葉春人も狙い玉を絞れないか!? 鳴沢この回二奪三振!!!』

 

 

鳴沢は青葉の方には一度も目をくれずゆっくりとベンチへ歩いて行く。

この日初対決は鳴沢に軍配が上がった。

 

 

いきなりギアを上げてきたか。

ウチとしては鳴沢のスロースタートや極端な力配分を付け入る隙としたいところだが…

 

「切り替えてこうぜ!!」

「そうでやんす、青葉くんはピッチングに専念してくれでやんす!!」

 

 

自分の得意とする球で三振を取られた。

それも鳴沢に。

これ以上悔しいことはないだろう。

 

 

それでも流石はエース。きっちり切り替えて相手打者に向かっていく。

七番栗山をストレートで押しきりサードゴロ。

八番諸岡をセンターフライ。

九番鳴沢は見逃し三振。まるでやる気がなかった。

鳴沢も打撃はそこそこの筈だが…

恐らくピッチングで圧倒するつもりだろう。

つーかおれ今日ほとんどボール触ってねぇじゃん…。

 

 

三回裏。

一番矢部くんが緩いカーブを見事にセンター前へ。

さすが矢部くんだ。2打席で攻略した。

 

続く二番小山は初球のシンカーを軽くバットに当てレフト前、ノーアウト1.2塁のチャンスとなる。

鳴沢の打たせて取るピッチングはかなりのものだがそれに対して灰凶の守備陣があまりよくない。

特に内野の守備はちぐはぐだなぁ。

 

 

上位打線が機能している。

俺も続かねぇと。

『三番 ショート 荒波くん』

 

「春くん頼むよ!!」

「オイラなら一打で還れるでやんす!! 大きいのは要らないでやんす!!」

 

 

本当にその通りだ。

さて、何を狙うか…。

鳴沢は傲慢なプレーが目立つが案外クレバーな所もある。

意固地になって前の打席で打たれたストレートは投げてくるほど浅はかではない。

ここで欲しいのはゲッツー、しかも俊足の矢部くんを刺したい筈だ。

恐らく三塁側に打たせてくるだろう。鳴沢に投げミスはほぼないし外角を攻めてくる筈だ

となると外角を打つしかない。

多少強引にでも引っ張って進塁打を打ちたいところだ。

 

 

セットポジションに入り第1球。

外いっぱいに入るスライダー。

手が出なかった…。

 

2球目。投じたのは内角高めのストレート

ストレートかよ!?

いける…打つしかねぇ!!!

 

 

肘を畳みバットを出す。 よしっ!捉えた!

その瞬間鳴沢は前にダッシュを切る。

 

 

 

「何っ!?」

 

 

しかしボールは僅かに胸元に向けて変化した。

完全に捉えた筈なのに芯を上手く外された。

ホテボテのピッチャーゴロ

チャージしていた鳴沢は素早く捕球し三塁に送球

ゴウは三塁ベースを踏み二塁へ送球。

矢部くん、小山はホースアウト。

 

そしてボールは一塁に送られ…

 

 

 

『アウトぉぉぉ!! 驚くべき事が起きました!!! トリプルプレー!!! トリプルプレーです!!! 一瞬にしてにチェンジだぁ!!!』

 

 

何だ今の球…。

確かに芯で捉えた筈だ…

 

 

「もー、何やってるでやんすか!!!」

「春くん…今の球って…」

 

 

あの軌道…。ストレートだと思ったが僅かに曲がった。

 

「恐らくカットボールだ」

山口が静かに口を開く。

 

「カットボール?」

「なんやそれ初めて聞くNA?」

 

 

「ストレートの握りから人差し指を中指の方へ積めて投げる球だ。ボールを切り裂くようにリリースするのが名前の由来らしい」

 

「へぇ~詳しいじゃねぇか」

「んで、それの何がやべぇんだ?」

三森兄弟が問う。

 

「ストレートとあまり変わらない球速で鋭く曲がる球。変化量こそ多くないがストレートとの識別が難しい為に打者の芯を外すにはうってつけのボール。彼の投球スタイルに適している」

 

神妙な顔つきで鳴沢を見つめる。

「ストレート自体に速さはないがカットボールとの球速差が限りなく小さい。そして打者の手元でやや斜め横に変化する。かなりの完成度だ。おそらく相当練習を積んだのだろう」

 

 

クソっ、まんまと引っ掛かったぜ。

まさかあんな球隠してたとは…。

つーか高校生でこんな持ち玉が多いのかよ。

これならストレートもより力を発揮する。

 

 

 

ときせー追加点のチャンスを活かせず…。

 

 

一気に試合の主導権を握りたいときめき青春高校。

それに対しもう一点もやれない灰凶高校。

 

 

「…一点が邪魔だな」

鳴沢は足を組みベンチに座り電光掲示板を眺める。

 

「おい諸岡、 守りん時ファースト側に寄り過ぎなんだよ」

「あぁ? 俺の守備に文句あんのか?」

「テメェの守備範囲気にして言ってやってんだろうがよ、少しは二遊間気にしろ」

「ああん? 俺にナシつけんじゃねーよ」

なにやら灰凶ベンチでは口論になっているようだ。

仲介する者は誰もいない。

 

 

「青葉! 二順目しっかり抑えてこうぜ!」

「おう、鬼力、リード頼むぜ」

「今日の青葉っちよさげじゃね? ぶっちゃけ俺ら暇だし~」

 

こちらは声を掛け合い守備につく。

 

 

 

 

 

 

果たして勝負の行方は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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