もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~ 作:たまくろー
ときめき青春高校対灰凶高校の第2回戦。
試合は初回、荒波春が鳴沢怜斗のストレートを捉えソロホームラン、先制点を挙げる。
その後鳴沢の変化球攻めに苦しみながらも追加点のチャンスを作るが鳴沢は新たな球種カットボールを解禁しトリプルプレーに仕留められる。
しかしその灰凶もときめき青春高校エース青葉の前にヒット2本に抑え込まれる。
試合は四回表。
チャンスの後にはピンチあり。
ラッキーなポテンヒットでノーアウト二塁、この試合初のピンチを迎える。
しかし青葉は物怖じない。
ピンチを迎えるとストレート主体の攻めから変化球で組み立て、三番ゴウを内角のストレートでファウルを打たせカウントを稼ぎ、最後は外に逃げるスライダーで空振り三振、御宝、五番努拳も同様に三者連続三振に切って取り
超重量クリーンナップを快刀乱麻のピッチングで圧倒。
高校生のスイングスピードレベルを遥かに越えていたが。
味方のミスなどでこの日最大のピンチを招くも嫌な顔ひとつせずピンチを切り抜けた。
スライダーを多く使い始めてきたな。
序盤、ストレートが走っていただけにあのスライダーもかなりのものに見えただろう。
課題の二順目もしっかりと抑えた。
灰凶又も反撃ならず…。
青葉が作ったこのリズム…ときめき青春としてはこのまま一気に突き放したい所だ。
「バカが…どいつもこいつも大振りしやがって」
ドリンクを一口分口に含み鳴沢はゆっくりとマウンドへ向かう。
一点が惜しい。
援護が欲しい。
守りきるから、負けられないから。
『四回の裏、ときめき青春高校の攻撃は ー 四番 ファースト 神宮寺くん』
「おっしゃーーー!! 一発ぶちかましてやんぜ!!!」
気合充分で左バッターボックスに入る。
神宮寺のフォームは構えはどっしりときて大きいものの上手く合わせる技術がある。
容貌に合わず変化球や直球による緩急差で崩されようと敢えて詰まらせて内野の頭を抜くような高等技術を持ち合わせている。
これで機動力さえあればとても怖い選手だが
狙いさえ合えば捉えられないボールはないということだ。
鳴沢は静かに振りかぶる。
そして投じた第一球。
「っしゃあもらったぁぁ!!!」
といいつつも外角低めのシンカーを打ち上げレフトフライ。
ボールの下を掬い上げてしまった。
「ケッ、なーにが貰っただよバーカ」
鳴沢は打球に目もくれずロージンバッグにニ三度触れる。
しかしただの凡フライなのにやけにより大きな歓声が耳に響く。
『あっーーレフト落としている!! 神宮寺執念で出塁!!』
レフト御宝が打球の目測を誤りボールはレフト線にポトリと落ちた。
左打者の打球で少しスライスしたようだ。
「あんのバカ野郎!! 足引っ張ってんじゃねーぞコラァ!!!」
鳴沢は歯軋りをし手にしていたロージンバッグを地面に思い切りたたきつけた。
確かに太陽の光と被ってはいるが決して難しい打球ではない。
御宝は恐ろしく強肩だが守備、とくに球際は苦手なようだな。
守備でミスをしてくれれば鳴沢のイライラは増す。
なおかつリズムを上手く生み出せず打撃にも影響してくれればときせーとしてはこの上なく有難いことだ。
『五番 キャッチャー 鬼力くん』
静かに右バッターボックスに入る。
鬼力が変化球を苦手としているデータが知られているかはわからないが…エラーの後だ。
力強い打球を頼む。
外角のカーブ、内角のシュートと厳しいコースを攻められるも粘り3-2。
「…チッ、合わせてきやがる」
怒拳からのサインをじっと見つめる。
(こいつにカットかよ…。さっきから配球ほぼ同じじゃねぇかよ)
鳴沢はなにやら不満そうな顔をした。
そして投じた六球目。
真ん中低めのカットボール。
バットが一閃。
『キィィン!!!』
ボールは地を這う様にショートへ。
しかし打球は正面だ。
打球が早い上にランナーは神宮寺に鬼力、ゲッツーコースか…。
ショート倉橋がきっちりと捕球し二塁へグラブトス。
万事休すか…。
『おっとセカンドベースには誰もいない!!? 諸岡のカバーが遅れた様です!誰もバックアップをしていない!!? ボールは転々と転がっている!!』
一塁ランナー神宮寺は悠々と三塁に到達。
「おっしゃ!! 見たか俺様の劇的な好走塁!!」
危なかった。
前々からあの二遊間の連携には問題があるとは思ったが…。
諸岡がゲッツーシフトを取らなかったが為にカバーが遅れ、倉橋もそれに気付かなかった。
「テメー何俺の華麗なプレーぶち壊してんだよ!!」
「うっせーな! トス早すぎんだよ!! 」
倉橋と諸岡で口論になっている。
「…チッ」
打ち取った当たり、真正面の当たりを連続エラーでピンチを招く。
投手にとっては堪ったもんじゃない。
『六番 セカンド 茶来くん』
(こいつさっき初見のカーブを捉えて来たグス。取り敢えず威嚇の意味でサードに牽制するグス)
怒拳のサインに素直に頷く鳴沢。
(ふむ…。 やはりこのチームは協調性に欠けるか…。 いやでも鳴沢がくる前からそうだったしな。 そうだ。オレが打てばいいんだ。ククク。オレの真の力を見せてやる )
「~~っ!」
「ん? なにやら騒がしいな」
「ゴウ!!! 」
腕組みをし考え事をしているゴウの目の前を鳴沢の牽制球が静かに通過する。
もちろん捕球出来ずその間に神宮寺はホームイン。
ルーズボールをダラダラと追いかけているうちに
鬼力は三塁を陥れこれで2-0。
「追加点でやんす!!!」
「全部相手のミスやNA、でも結果オーライYA!!!」
ウチにとって三点はデカイ。
灰凶打線が青葉に合っていないだけにこの追加点はかなり嬉しいな。
ここで一気に流れを引き寄せたいところだ…。
「ゴウ!!! テメェらもそうだ!!いい加減にしねぇか!!」
一度マウンドに集まった内野陣。
「仕方ないグス。切り替えるグス」
「ああ? テメーも大概だコラ、んだよあのバカの一つ覚えみてぇなリードは!!!」
宥める怒拳に対し怒号を飛ばす鳴沢。
少しの静寂からファーストの堤が鳴沢を睨み
「お前さあ、うぜえんだよ」
「あ?」
「後から来たくせにデケェ顔してよ、練習練習ってバカじゃねぇの? 相手が青葉ってわかったら一人で気張り出してよ?」
呆れ顔で口にした。
「ま、それは一理あるな。実際青葉のが上だしよ」
倉橋も
「拘り過ぎたんだよ。オレらはお前らの確執とかお前のプライドとか知らねぇし」
諸岡も口にした。
「なんだと…?」
腕の血管が浮き出る。
「元々オレらはお前と野球しても楽しくねーんだよ、んま、それが嫌だったら代わるんだな、楽垣も哀樹も居るんだからよ」
そのまま鳴沢を見切り言い捨てる様に各々のポジションに散ってゆき試合再開のコールがかかる。
俺は勝ちてぇ。
それだけなんだ。
それの何が悪いのか、
解らない。
こんな荒れ暮れたクソみたいな俺を受け入れてくれた西の奴らを裏切ってまで勝利を選んだ。
俺は…今ここに、このマウンドに立っていることが正しかったのか…?
(鳴沢…落ち着くグス。普通にやれば打たれるような相手じゃないグス。あいつらだってお前の気持ちは汲んでるグス)
「クッソがぁぁぁ!!!!」
「…っ! まだサインが決まってないグス!!」
鳴沢が投じたのは、
普段の鳴沢からは想像がつかない程、
ど真ん中のストレートだった。
「えっちょ、マジ? とりまいただき!!」
もちろん茶来がこれを逃す訳がない。
真芯で捉えたボールは右中間を真っ二つに割る。
三塁ランナー鬼力は悠々とホームイン。
茶来は2塁を陥れタイムリー。これで3-0。
「いいぞ茶来!!!」
「よっしゃー!! 俺達も続こうぜ!!!」
誰のせいでもない。
誰のエラーでもない。
コントロールに絶対の自信を持つ鳴沢が…。
「青葉、この回長くなるかも知れない、肩だけは冷やすなよ」
俺が声をかける。
「ああ、わかってる」
(あいつ…。なんも変わってねぇ。 ただ1つ、気付けばいいんだ)
鳴沢の事を案じているようだ。
マウンド上の鳴沢は両手を膝に置き俯く。
顔を上げようとしない。
解らねぇ。
今俺はエースとして投げていいのか。
相手はあの青葉のときせーだぞ…
この対決を待ちわびていた筈だ。
なのに…。
『七番 レフト 三森右京くん』
コールがかかるとようやく顔を上げ、セットポジションを取る。
俺はなんでこんなにも投げたくねぇんだ…?
打たれるのが怖いんじゃない。
でも見えない何かに怖気づいてる自分がいるのが情けねぇ位にわかる。
ビビんじゃねぇ。
俺は間違ってねぇ。
俺が東側に行ったことも、
今こうしてときせー相手に闘っていることも。
「証明しなきゃ…ならねぇんだ!!!」
躍動感溢れるフォームから緩い緩いカーブ。
『コンッ』
「うお!?」
俺達も思わず声を上げてしまった。
てっきり右打ちして進塁打を狙っているかと思ったが右京は初球からバットを寝かせ、
ボールの勢いを完全に殺した絶妙なバント。
ボールはコロコロと三塁線に転がる。
「ゴウ!!」
鳴沢はサードのゴウに処理を託す。
「…ん?」
しかしゴウは右京のバントを全く予期していなかった。
茶来の進塁を警戒してベース近くを守っていた。
誰もボールを追う事はなくその前フェアゾーンで静止した。
「決まったぜ俺の必殺技!!!!」
快速飛ばし一塁へ駆け抜けた右京は雄叫び
挙げてガッツポーズ。
『八番 ライト 三森左京くん』
今が叩き時だ…。
青葉に繋いでくれ左京!!
鳴沢はランナーの茶来、そして右京を警戒し何度も目で制止したり牽制球を送る。
右京の足の速さは充分わかっているようだ。
ただ鳴沢には異変が生じていた。
『ボール!!ツー!』
らしくないボール先行。
右京が敢えて大きなリードを取る。
そしてバッター左京も劣らず俊足だ。
この韋駄天兄弟を前に、鳴沢の投球ペース、一球一球の間隔がどんどん狭くなっている。
そしてクイックモーションをより速くしようとしているのだろうか、少しずつだがボールが荒れ始めている。
左京は簡単には終わらせないクサイところは悉くカットし粘りに粘る。
13球も粘りに3-2で迎えた14球目。
鳴沢が投球モーションに入ると同時に一塁ランナー右京が絶妙なスタートを切る。
投じたのは外角へ逃げるシンカー。
「キィン!!」
左京は上手くおっつけて打球はショート頭上を越えレフトの前に落ちる。
茶来は楽々ホームイン
そして次のプレーが観客の度肝を抜いた。
「おい双子ちゃんYO~!! ワイは回しとらんDE!!」
『あっと一塁ランナー三森右京が三塁も蹴った!?』
ランナーコーチャー稲田のストップのサインを無視しホームへ突入。
いくら右京でもかなり厳しいぞ!?
しかもレフトは鉄砲肩の御宝だ。
もちろん矢のようなストライク送球が返ってくる。
クロスプレーでは努拳との体格差もあるし…。
これはアウトか…。
御宝からのレーザービームが努拳のミットに収まる。
(よし…。刺せるグス!!)
かなり際どいタイミングだが僅かに送球のほうが速かった。
「右京!! クロスプレーは危険だ!! 無理するな!!」
ベンチからの声も飛ぶ。
努拳はホームベースに覆い被さるようにブロックを固め右京をタッチしにかかる。
しかし右京は足を緩めない。
努拳がタッチをしにややベースより前に出たその時やや右にオーバーランしながらスライディング。
そして確かに左手でベースに触れた。
『…セーーフ!!!』
「うおおおお!!?」
「なんだあいつなんつースライディングだ!?」
スタンドの観客達も思わず立ち上がり歓声を送る。
「努拳!! サードだ!!」
「!?」
『なんと言うことだ!! レフト御宝からの火の出るようなレーザービームにも関わらずプロ顔負けのスライディングでタッチをかわした右京もそうだが、その間になんとバッターランナー左京は三塁を陥れた!?』
「す、凄いでやんす…」
いつも対抗心ギラギラの矢部くんでさえ思わずそう漏らした。
「右京のスライディングは言うまでもなく、多少努拳がジャッジに気を取られていたとは言え三塁まで到達する左京…。この兄弟が味方でよかったよ」
山口も冷静に口にした。
そしていつも解説ありがとう。
今まで出塁できずなかなか攻撃で機動力を活かせなかった三森兄弟だったがこのふたりで得点したのは恐らく初めてだろう。
相手のミスなんかじゃない
俺達は明らかに成長しているんだ。
個人として、チームとして。
「ハァハァ……。 クソ共がチョコマカと…」
鳴沢は既に肩で息をしている。
この暑さにもう何分マウンドに立ち続けているか。
恐らくペース配分などしていないだろうし
☆
「怜斗……」
スタンドで誰よりも鳴沢を暗示しているのは元女房役の黒木だ。
「大丈夫。鳴沢くんは負けないよ…、」
枝毛1つない麗しい金髪でおっとりとしたこの子は須神絵久(すがみ えく)
灰凶高校西野球部のマネージャーだ。
「うーむ…、」
そして腕を組みなにやら思案しているのは灰凶高校西野球部の監督、角一直(すみ いっちょく)だ。
曲がった事が大嫌い。彼の手に懸かればどんな不良も一転、更正するという。
その角でさえ、ゴウたちの横暴な振る舞いには手を焼いているらしいが。
そして学生時代にはストレート一本で甲子園を制した豪腕投手であった。
競合必至のドラフトの目玉であったがあるスカウトから「ストレートだけでなく変化球を投げろ」と言われ
「自分の信念を曲げる位ならプロへなどいかない」と言いプロ入りを固辞した。
どれも信じられない話だが当の本人は全く後悔していないのが凄い。
「か、監督…、怜斗は勝てますよね? あいつが負ける訳がないですよね?」
鳴沢は青葉と自分の差にずっと苛まれてきた。
それを知っているからこそ黒木は気が気じゃない程心配し、いてもたってもいられなかった。
「ああ、心配するな」
優しく答える角。
しかし試合の結果以上に角が危惧している事がある。
確かに甲子園に出た事は紛れもなく凄いこと。
しかし何だこのチームは。
誰も声を掛け合わない。
守備体型もバラバラ。誰一人として自分の負担以外背負おうとしない。
努拳のリードも四隅に散らすだけの単調なリード。
これじゃあ鳴沢の持ち味は活きてこない。
そして鳴沢だ。
投げている球は悪くない。
だが…。
まるで成長していない。
俺が一目あいつの投球を見た時から俺のようなタイプじゃない事はよくわかった。
それでも自分の投球を確立し、弱点を補うための努力も、力もあることは見るだけでわかった。
だが、それだけじゃ足りないんだ。
球は曲げてもいい。それがお前の生きていく術だ。
ただ、自分のやって来たこと、想い、それだけは曲げてはいけない。
お前の勝ちたい気持ちはチームメイトに、本当に伝わってはいないんだ。
素直になれ。
伝えるんだ。お前の気持ちを。
恥ずかしいなら直接言うことはない。
背中で、その背番号で示せ。
それだけでいいんだ。
そうするだけでチームメイトを心の底から奮い立たせる力をお前は持っているんだ。
信念を真っ直ぐ貫け…!!
☆
『ストライーク!! バッターアウト!!』
「ハァハァ……ケッ、ザゴがよ」
鳴沢は唾を吐きゆっくりとベンチへ戻って行く。
その足取りは重苦しく、もう余裕など感じられない。
その後鳴沢は努拳のリードを無視し投げ続けた。
精密機械の如くコースに決め込んだが完璧に捉えられたり味方の拙守が所々に目立ち打者一巡の猛攻を喰らい一挙7失点。
スコアは10-0。
試合は五回表に入り、このままではコールド負けが決まる。
それでも情けなどいらない。
青葉はトップバッターの栗山、諸岡を連続三振に切って取る。
そして運命の対決を迎える。
『九番 ピッチャー 鳴沢くん』
何球投げただろうか。
もう鳴沢の身体はボロボロだった。
「青葉っちー! 最後もガツンといっちゃってー!!」
「青葉くんボール走ってるよ!! 」
「オラァ男ならここで締めろ!!」
ときせーナインから励ましの声が響く。
青葉は帽子を深く被り直し小さく頷く。
鳴沢は相変わらず打ちにいく気配を見せない。
バッターボックスの隅に立ちバットを構えない。
しかし青葉は容赦なく快速球を投げ込む。
決まってな0-1。
俺が…この俺が…、テメェになんかに負ける訳がねぇんだ。
2球目もストライク。147キロのストレートが鬼力のミットにズドンと決まる。
認めねぇ…。 俺は負けねぇ。 テメェと俺に差なんてねぇんだ…。
鬼力のサインを見つめる。
コクリと頷きゆっくりと振りかぶる。
大きく足を踏み出し、渾身のストレートを
「『俺達』は…オメェらなんかに…負けねぇんだよ!!!!」
そう声を上げて鳴沢は思いきり踏み込み、フルスイング。
しかしボールは無情にもミットに収まる。
少しの間、スタンドが静まり返る。
『ストライーク!! バッターアウト!! ゲームセット!!!』
「うぉぉぉ!!! 勝ったでやんす!!、!」
「やったぁ…。あの灰凶に…」
「俺達もしかして…強い??」
マウンド上に集まり勝者だけの歓喜の瞬間を楽しむ。
「あったりめーだコラァ!!! なあ青葉?」
「あれ?青葉?」
「…」
青葉はバッターボックスで佇んでいる鳴沢の元へ歩みよる。
「おい鳴沢…」
声をかけようとしたその時鳴沢が片手をすっと差し出す。
「何も言うんじゃねぇ。今回は完敗だ」
そしてスゥって息を整え…
「覚悟しとけ!!! もう『俺達』はテメェらなんかに負けねぇからな!!!」
ベンチにいる灰凶ナインにもその宣言は確かに届いていた。
「…俺達ときせーも負ける気はねぇ」
こうして試合は12-0でときめき青春高校の勝利となった。
帰りのバス。
みんな疲れて眠っていたが何故か青葉は少し嬉しそうだった。
甲子園出場校相手に完封したから、チームが番狂わせの勝利を修めたから。
そんな喜びでは無いような気がする。
☆
「怜斗…」
試合後、誰も居ない筈のパワフル市民球場の外で鳴沢が出てくるのを待っていた西野球部の三人。
もう夕陽が差し込む時間だ。
「おい孝介…」
鳴沢は静かに三人の元へ歩み寄る。
「手を貸してくれ」
「え? 」
「このままじゃいけねぇのは俺もお前も絵久も角のおっさんもそしてゴウ達も一緒の筈だ」
「鳴沢くん…」
「おっさんとはなんだおっさんとはー」
黒木の両肩をガシッと掴み
「灰凶の東西対立を終わらせる!!!!
協力してくれるか?」
黒木も絵久も驚き少しの間静寂が訪れる。
そして二人向き合いにっこりと笑みを浮かべ
「「うん!!」」
もう迷うことはない。
やっと、見つけたんだ。
今、自分達がやるべき事を。
自分達の信念を…。
「絵久、心配かけたな…。もう何処にもいかねぇからよ」
「も、もう…やめてよ…、黒木くんの前で…」
「…えっ!?もしかして絵久ちゃんと怜斗って…」
黒木の声が裏返る。
「あ? 言ってなかったっけ?」
「ごめんなさい…。隠すつもりはなかったの…」
どうやらデキているようだ。
「もういい! 怜斗なんか知らん!! おれは協力しない!!」
「おい! そりゃあんまりだ!!」
「知らんったら知らん!!」
黒木は涙目で答えた。
しかしその目に浮かんだ涙は悲しさや悔しさとは程遠いものだった。
「鳴沢ー 今日の試合に負けておいてなんだそれは! 弛んどるぞー」
「げっ、今度はおっさんの喝かよ!?」
「おっさんではない!かーーーーーつっ!!!」
こうやって微笑ましく?会話をするのはいつぶりだろうか。
もう鳴沢は嘗ての混乱も自分の選択も、もう迷わない。
自分のではなく自分達の為に、選んだ道を真っ直ぐ突き進む。