もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~ 作:たまくろー
「へえ、、、 鳴沢とゴウ達にそんなことがあったのか」
俺達は春の選抜出場校の灰凶高校をコールドで下した。
「ああ」
あの試合から3日が過ぎた今日。
青葉は俺だけに話してくれた。
鳴沢がどういう状況におかれていたか
灰凶高校のプレーは昔の自分達と少し似ていた。
同じ野球部のチームメイトなのに全員が全員違うベクトルを向いてて
誰一人他の為に動こうとせず
何の為に野球をやっているかも解らなかった。
結成間もない俺達が挑んだ去年夏の帝王戦
一回戦はボロ勝ちした事も相まって
絶対に行ける!勝てるんだ!
試合前は皆が思っていた。
しかしそんな弱者のくだらない希望は圧倒的な力により脆くも崩れていった
通用しない、あれもこれも全部
何だ、俺達逆上せてただけじゃん
バカみてえ。何を思って勝てるという希望を持って居たのか
こうして一度バラバラになった
こてんぱんにされて、悔しくて、でもどこか淘汰される事が当たり前だと認めている自分もいて、、、
それでも
例え弱者の小さな小さな希望でも構わない
悔しいから? 何となく?
理由はどうだっていいんだ
自分達の足でまたグラウンドに来て
自分達の口でまた野球をやる
そう言って皆戻って来た
一度負けて一度バラバラになった事が
俺達をもっと強くしてくれたんじゃないかと思う
でも大丈夫。
最後のプレー、鳴沢は三振した後
悔しさを露にし膝から崩れ落ちた。
今まで突っ張ってたやつがあんなにも。
勝利の喜びを噛み締めあう俺達を横目に
青葉は鳴沢の元へ駆け寄った。
何を話していたかは分からない。
でもあの時の鳴沢の目
試合後の青葉
何となく灰凶も変われる気がするんだ。
「で、何で灰凶の内情を知ってんだ?」
「大したことじゃねぇよ、ただ、、次当たった時は一筋縄じゃいかねえぞ」
青葉、何か嬉しそうだな
「俺はまだあいつにも灰凶にも勝ったとは思ってない。 これからだぞ、春」
飽くなき向上心。
青葉は実力以上にこういう姿勢がうちのエースたる所以なのかもな。
「勿論だ! まだトーナメントは始まったばっかだしな! 青葉こそ途中でへばったりすんなよな!」
「上等だ」
その時ふと部室のドアが開く
「春くん、ちょっと話があるでやんす!」
矢部くんまだ学校にいたのか
いつになく自信に満ち溢れた顔してんな
「何? ここじゃダメな話?」
「そうでやんす! 良いから来るでやんす」
一体どうしたってんだ、、、
「そう言うことなら俺は帰るぜ」
そう言うとユニフォームをバッグに詰め込む。
悪いな、青葉。
「よし、もう誰もいないでやんすね、、、鍵を閉めるでやんす」
えっ?
何ですかこの展開
「グフフ、やっと二人きりになれたでやんす。二人とも今日は早めに練習切り上げたというのに遅くまで自主練するもんだから参ったでやんす」
まさか矢部くんって、、、
「じゃあ単刀直入に言うでやんすよ」
ちょ、何かヤバイ気がする!
かつてないほど俺の危機察知能力が働いている!!
脳が俺に逃げろというシグナルをしきりに送ってくる!!
頼む、青葉帰って来てくれー!!
「実は春くんって、、、」
「ギャー!!すまん!矢部くんは大切な親友でありチームメイトだ、だけどそれ以上でも以下でも無いんだ! だからつまり君の気持ちには応えられn
「雅ちゃんの事好きでやんすか?」
「いやだからさすがに無理… えっ?」
「何かとんでもない勘違いしているようでやんすね、安心するでやんす、おいらこの次元には興味ないでやんす」
今なんと…?
俺が小山を…?
「実は前々から茶来くんと計画していたでやんす」
「春くんが雅ちゃんのことを好きなのは見てて検討はつくでやんす、てゆーかバレバレでやんす(茶来くんに言われるまで気付かなかったでやんすが)」
「なん、だと…?」
バレてたのか…?
いやでも小山には今まで普通に接してたし小山の話題になってもごく自然に話に入っていたのに何故バレた。。。
「見ていて焦れったいでやんすからオイラに秘策があるでやんす(ホントはお婆さんの看病で練習を早引きした茶来くんからの指示でやんす)」
うーん。
小山が気になっているのは確かだ。
初めて会った時はそんなに意識しなかったのに
段々日を重ねる毎に好きになっていたのかもしれない。
でも今は大会の真っ最中。
小山の集中を遮る事はしたくない。
やっぱ大会が終わってからの方が…
「あーもう焦れったいでやんす! どうせ雅ちゃんの為に大会が終わってからとか考えてるでやんしょ!! 」
「何故またバレた!? やっぱり矢部くん俺の事…」
「んなわけないでやんす!! いいでやんすか、モタモタしてたら誰かに取られちゃうでやんすよ!!」
「取られる、、、?」
確かに小山は野球部における紅一点。
それどころかセーラー服姿はもう破壊力抜群でゴリゴリな不良達がファンクラブを立ち上げる程だ。
モタモタしていたらやばい
でもこういうのは人に急かされて決断するものでもないし
そもそも告白して果たしておれはOKを貰えるのか?
確かに小山からショッピングに誘ってもらった事はあったけど(人生初)
夏休み最後の日に小山が俺に言いかけた事も気になる…
正直、付き合える自信はない
小山には俺の弱いところをたくさん見せてきちゃってるし
でも
小山が他の誰かと付き合うのは嫌だ…
矢部くんの手をガシッと掴む
「矢部くん、お陰で目が覚めたよ」
「おお! てことは…?」
「俺、小山に告白する!!」
矢部くんありがとう。
俺が最近モヤモヤしてたのはこれだったんだ
俺は小山を誰にも渡したくなかったんだ
だから早く俺の想いを伝えなくちゃいけないんだ!
「矢部くん本当に感謝する!! 今日はおれの奢りだ!メシ行こう!!」
「どういたしましてでやんす(全部茶来くんの受け売りでやんすけど) じゃあ早速明日告白するための計画を…」
「それはできない」
「何故でやんす! どこが目が覚めたでやんすか!」
俺は小山にいいとこなんて何一つ見せてやれてない。
弱音吐いてばっかりで涙だって見せてしまった。
小山は励ましてくれたし、気にするような子じゃないと思う。
けどそんなんで告白しても示しがつかない。
だから
「甲子園、甲子園出場を決めたら、俺は小山に告白する!!」
これがおれのけじめだ。
俺一人で出来ることじゃない。
でも俺がこういう気概を見せるんだ。
それでこそキャプテンなんだ。
「ふーん、まあ計画とは違うでやんすが何かあったらオイラと茶来くんは協力するでやんすよ」
創部二年目で甲子園。
しかもここらは激戦区。
チームがバラバラの状態の灰凶に勝っただけであってまだまだ俺達の本当の力が試される事になるだろう。
それでもやるしかない。
掴み取るんだ。甲子園も。想いの人も。
☆
「おいしい~! 」
今日は疲れをためないように軽めの調整だったからミヨちゃんと最近流行りのスイーツ店に来ちゃった。
「ミヨちゃんのと一口交換しよー!」
「うん!いいよ!」
ホントは体を休めないといけないんだけど、たまには糖分補給しないとねっ
「雅ちゃんってさー、好きな人いないの?」
「ええっ!?」
徐に話を切り出したミヨちゃん
思わず立ち上がっちゃった。
「あははっ、動揺しすぎー! 大丈夫、誰かまでは聞かないから」
言えない…。
春くんの事が好きで
しかも告白に失敗してるなんて…
「み、ミヨちゃんは好きな人いるの?」
そう聞くとミヨちゃんはアイスティーのグラスを片手で握りカランカランと揺らす。
「ミヨちゃんはねー、いるよ。すっごく好きな人が」
ミヨちゃんもいるんだ。
そうだよね。あんなにおっとり可愛いらしくてスタイルもよくて男女共に人気あるし、私も憧れちゃうもん
でもミヨちゃんはどんな人が好みなのかちょっと気になるかも…
まさか、ミヨちゃんも春くんが好きとか!?
もしそうだったらどうしよう…
「最初はね、全然気にならなかったのー、そっけなくて、意地張ってて、自分から道を閉ざしてて。でも、怖い人達に絡まれてたミヨちゃんを助けてくれたり、自分から一歩踏み出して、目標へと突き進んで、ホントはすっごく熱い人なんだなーって。そこからかなー、どんどん好きになっていったのは」
ミヨちゃんが自分の恋愛話するなんて珍しいなぁ。
でもなんとなくミヨちゃんの好きな人わかっちゃったかも…
「でもね、その人の事を側で見てたらなんかわかっちゃったの、すっごく一生懸命で…ミヨちゃんなんて目に入らないくらい毎日頑張って、それで精一杯なのかなーって」
なんか、よくわからない。
あの人の夢を邪魔したくない
ミヨちゃんが邪魔しちゃうかもしれない
だから側で見守るだけ、それだけにしようと思った。
そうすれば諦めがつくかなって
そう決めたのに
ずっと好きだったから余計に
こんなに辛いんだろう…
「そんなことないよ!!」
「えっ?」
「私は野球をやる女の子って事がずっとコンプレックスだった。でも私の好きな人はそんなことなんて1度も否定しないで、受け入れてくれた。その人だって辛い過去があって自分の事で精一杯だったと思うの。でも、いつも私を気にかけてくれた。」
そう、どんな時だって。
ずっと春くんは私の過去を、トラウマを、消し去れるくらいに楽しませてくれた。
今まで野球をやってきてこんなにも私を受け入れてくれたくれた人はいなかった。
「男の子はひとつの事に夢中になると周りが見えなくなるものだよ! 特にウチのチームは恋愛に鈍感な人ばかりだし!! ミヨちゃんにそんな風に想って貰えるなんて他の男の子からしたら凄く羨ましい事だと思うよ!!」
ミヨちゃんに特別な恋愛感情を抱かれてるなんてそれだけでその人は幸福者だって思えるもん!!
「そっか…。そうだよね。今辛いのはホントは諦めたくなんてないからなのかも」
あの人の頭の中ではミヨちゃんなんてただのマネージャーってだけだと思う。
今まで振り向いてくれなかったのが悲しくて、悔しくて。
傷つきたくなくて、側で見守るなんて言い訳して逃げてたのかも。
でも
でもやっぱり
青葉くんに振り向いて欲しい!
「雅ちゃんありがとー。 お陰でミヨちゃん元気になれたよー!」
ミヨちゃんは笑う。
きっと大丈夫。
ミヨちゃんは私なんかより魅力的で、普段はおっとりぽわぽわしてるけどホントは芯が強い女の子なんだもん。
羨ましいくらいに。
私にも
こうやって誰かに相談できる勇気が
少しでもあれば…