もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

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更新ペースが遅めですいません。
読んでくださる皆様をお待たせさせぬよう努力します。



第20話 再会、因縁、そして払拭

「ここがときめき青春高校か…」

 

ときめき青春高校の校門前で一人、立ち尽くす男。

スポーツサングラスを外し練習用のシャツの襟にかける。

 

今は一般生徒達にとっては下校時間。

 

「あ?」

「誰だあいつ?」

鞄を手に家路につく不良達を横目に足を踏み入れる。

 

一歩足を踏み入れると

「え?あの人誰? 」

「やだ!めっちゃカッコいい~」

「アンタ声かけてみなよ~」

このようになる。

その容姿からは容易に想定できる。

 

「あ、あの!良かったらこのあとお茶でも…」

一人の女学生が友人に促されて声をかけてみたようだ。

 

「ああ、ボクは今忙しいんだ、すまないね、それより野球部はどこで練習しているか知ってるかい?」

返す返事はそれまた容姿に負けず劣らずの品行方正で聞く人を魅了する。

 

「ちゅ、駐車場の奥を行ったところにグラウンドがあります…」

勇気を振り絞って声をかけた女学生はもう気が気じゃない。

眩い彼を直視することが出来ず視線がいったり来たりと定まらない。

「そうか、ありがとう」

 

そう言って男はグラウンドへと向かった。

 

「カッコよかったね~まさにウチの男子とは品が違う!! いつかあーいう人とお付き合いしてみたいなあ…」

「う、うん…」

「ちょっとアンタ完全に惚れちゃってるじゃない!」

「でも、どっかで見たことあるような、ないような…」

 

 

 

 

「おっしゃいくぞぉぉー!!!」

気持ちのいい掛け声が響く。

ここはときめき青春高校野球部グラウンド。

決して広くはない。

ポジション事のノックによる守備練習の最中だ。

恐らくノッカーは部員の一人だろう。人材不足が伺える。

ボールや練習機材などもはた目から見てでも充分なものとは言い難い。

マネージャーと思われる女性はボロボロになったボールを縫い合わせ修繕している。

あのようなまでになるほどボールを酷使している事が伺える。

しかしわざわざ素人の手で修繕することから恐らく部の予算もたかが知れて居るのだろう。

部員も少ないだけになんだか寂しくも感じる風景だ。

創部2年目感満載の練習風景。

しかし絶対に譲れない想いが男を駆り立て、ここへ連れてきた。

あの日のあの一瞬をこの目で確かめる為に。

 

「なるほど、、、」

ボソリと口に出す。

このような環境もチームレベルも想像通りだったのだろう。

彼はグラウンド全体から個人個人へと焦点を移す。

違う…。あいつじゃない。あいつでもない。

次々と、且つじっくりとその目で探し求める。

 

ピピピッとストップウォッチのタイマーが鳴り響く。

「おーしノック終了!十分休憩の後打撃練習な! 今日は山口が投げてくれ!!あくまでも調整程度でいいからな!」

一人の部員の声が響き渡る。

彼が統率者だろう。

身長170cm前半、やや細身の体型。

野球選手としては決して恵まれた体格ではない。

さほど気にかける程の選手ではあるまい。

しかし彼は遠くからその男を凝視する。

 

「…見つけた」

目を閉じる。

そして数年前の記憶をゆっくりと遡る。

薄れることも、上書きされる事もなかったあの出来事を。

やっと。

待ち焦がれたこの瞬間が訪れようとしている。

 

「春くん、どこいくの?もうすぐ休憩時間も終わっちゃうよ?」

「ああ、部室にバッティンググローブ忘れちゃってな、急いで取ってくるよ」

と言い駆け足で部室へと向かう。

部室は校舎に隣接しておりそこそこの距離がある。

グラウンドは敷地内の南東に位置しており大きな防護用ネットが張り巡らされている。

そこから北へ真っ直ぐ進むと職員駐車場の経て校舎、部室のエリアとなる。

 

彼は早く取ってこなくちゃというかのように急いで向かう。

一歩、二歩、どんどんこちらへ近づいてくる。

もう一度目を閉じる。

そしてゆっくり、瞑想する。

さあ、事はボクの予想通りか、期待以上か、以下か。

おもしろい。

 

「待ち詫びていたよ、荒波春」

 

春は急いで走っていた為、通り過ぎる直前まで気が付かなかった。

ん?とふと声のほうに目をやると、顔をあげると、

信じられない光景が目にはっきりと映し出される。

衝撃、なんというレベルではなかった。

頭のなかで整理がつかない。

それより、身体、心の内に潜む何かが仕切りに飛び出そうとし、自分でもよくわからない、負の感情が込み上げてくる。

何故だ。

何故あいつが今ここに。

おれを…待っていただと?と。

 

 

「なんでお前がここに、、、」

動揺を隠せる訳がない。

もはやなんて声をかけたらいいか、

どんな話をすればいいのか、

どんな話をされるのか

見えないなにかが襲いかかる。

 

 

「猪狩守…」

校庭隅の人気のない場所で

二人は再開した。

彼は天下のあかつき大付属高校の史上最強投手、猪狩守。

今、野球に少しでも携わる、興味、関心のある人間で彼の名を知らぬものなど一人もいない。

それに反して春はただの弱小高のイチキャプテン。

そんな猪狩がわざわざこのような野球部のキャプテンに会いに来た理由はただひとつ。

 

 

「覚えてくれていたとはね」

猪狩は満更でもなさそうに話す。

しかし春へと向けられるその目は流暢な口調とは正反対で、真剣なんて言葉では言い現せない程であった。

 

「忘れるわけないだろ!! 」

そう。忘れられない過去がある。

どんなに充実した今があろうとも、消し去ることの出来ない事が彼との間にはあった。

 

「おいおい、そんなに声を張り上げないでくれるか?」

猪狩の言う通りかもしれない。

怒っているような険相でもないし、そんなことをしにここまで来るような人間ではなかろう。

だが猪狩の言葉に耳を傾けなかった。

いや、正確には傾けたくない。

出来れば彼とは接触したくはなかった。

封じ込めていた想いが、トラウマが今にでも爆発してしまいそうだからだ。

それに今は高校球児にとって最も大切といっても過言ではない、夏の甲子園大会地方予選の真っ最中。

名門高所属の彼がこんなところに油を売りに貴重な時間を裂く訳がなし猪狩の様子からも罵り倒しに来たわけでもないだろう。

そんなことをわざわざしにくるほど猪狩は野球というスポーツにたいしてルーズな人間ではない。

 

猪狩はすぐ側に転がっていたボールを手にしポンポンと右手で遊ばせる。

「なあに、すぐに帰るさ、用を済ませたらな」

用を済ませたら ー。

その用がこれからの春にとって何をもたらすのだろうか。

ただ、どちらにせよ整備された平坦な道は閉ざされてしまった。

それが良い意味でか悪い意味でかはさておき。

 

「単刀直入に言わせてもらおうか」

猪狩が用件を伝えようとしたその時、もう春にとっては動揺はなくなっていた。

別に怖じ気づいて逃げ出したくて慌ててるんじゃない。

ただ妙な胸騒ぎがしてならない。

その訳は、、、この時はよくわからなかっただろう。

 

 

 

「宣戦布告だ。荒波春。ボクはこの手で、、、ボクの経歴に唯一傷をつけたキミを、、、この手で叩きのめす」

 

 

 

 

 

「フム…」

ここまで足を運んで正解だった。

中学生の試合とは言え観ておく価値はあった。

この歳でまた勉強させて貰えるとはな。

やはり猪狩くんは一級品。

付属中校に所属する彼はそのままあかつき(高等部)に進学するだろう。

この試合、相手の帝王も悪いチームではない。

だがここまでパスボールとエラーで得た一点のみ。

友沢くんも要所を抑える踏ん張ってはいるが、、、

 

『ーーー蛇島くんに代わりまして、ピンチヒッター荒波くん、バッター荒波くん、背番号17』

 

「勝負アリ、、、か」

めぼしい選手の情報を手にいれては球場に足を運び長年培ってきた観察眼を研ぎ澄ました。

危機感からだ。

近年の野球人気低迷、それは顕著に現れている。

野球というスポーツ自体をはじめとし、高校野球の体質が疑われはじめている。

数年前、とある弱小校のエースが地方予選から一人で投げきってチームを夏の甲子園初優勝に導いた事があった。

だが体の出来上がっていない高校生を炎天下に加え過密スケジュールでの酷使が議論に発展した。

全く、嫌な時代になったものだ。

以前はそのような子が出てくるとあれやこれやと持て囃して報道していたというのに。

今では充分な力を持った選手でも高校野球からプロの道へ進む事を断る選手も少くない。

これではいけない。

野球人気復活に今足りないのは単に実力を持った選手、

と言えば一言で済むであろう。

だがそれだけでは足りない。

 

圧倒的実力で他を淘汰し、どんな野球嫌いでも惹き付けるようなスター性を持った選手が必要とされている。

 

まぁ、私はプロ野球のスカウトだ。

今から猪狩くんに接触する訳にもいかないだろう。

ただ期待する価値は充分にある。

たかがイチスカウトだがな。

 

 

 

 

「進、いちいちマウンドに来るなと言っているだろう」

七回裏、最終回、ツーアウトランナー一塁。

この回味方のエラーで出塁を許すもマウンド上の猪狩守は平然とした顔で汗を拭う。

 

「そんなことを言わないでよ、兄さん」

「わざわざタイムをかけてまでお前が来たんだ、用件を言え」

すると弟の猪狩進(いかり すすむ)は少し間をおき、ネクストバッターサークルで素振りをする荒波を見つめる。

「一点差だからね、気を抜かないでよ」

気を抜くな、、、か。

今までそんなことは一度もしたことがない。

ボクがそんな二流のする事など絶対にしない事をお前は一番よく知っているだろうに。

 

プレイコールがなされ春が打席へと立つ。

セットポジションから一球、二球、バットが空を切る。

 

フンッ、、、相手が蛇島なら多少は勝負しがいがあるんだがな、、、

そう思いながらも全力で相手を仕留めにかかる。

いつもの事だ。

手加減などは無用。

セットポジションに入り進のサインを見つめる。

と、一瞬表情が強ばった。

 

進、、、何を考えているんだ。

こんなところで『あの球』のサインを、、、?

 

(躊躇っているのかい兄さん。一発逆転のこのピンチで決まってこそ本当の完成、本物のウイニングショットだよ、、、)

 

フッ、末恐ろしい弟だよ。

まさかここで要求してくるとはな。

やはり進は並の捕手ではない。

それでこそボクの弟、ボクの捕手に相応しい。

 

セットポジションを外し、左足を後ろへ。

 

中学までは『ただのストレート』一本で行こうと思っていたが

 

両腕を頭上へ。

 

特別に見せてやろう。

 

左足に重心を残し右足を高々とあげる。

そして

 

 

「真のストレートをな!!!」

 

 

その左腕から放たれた一球は、まるで轟々と燃え盛る炎のように唸りをあげ、バットが空を切り内角に構える進のミットに収まる。

 

 

筈だった。

 

 

『カキィィィィン』

 

 

今までに聞いたことのない金属音が耳へと突き刺さる。

そんな馬鹿な、差し込まれたに違いない。

念には念だ。打球の行方を追おう。

ライトが捕球体勢にはいってゲームセット。

そうだろう。

そうに違いない。

 

しかし打球はぐんぐんのびていく。

ライトが懸命に追いかける。

まだ、まだ落ちてこない。

追いかけているうちに

ガシャン、もう後ろがない。

フェンスに到達してしまった。

しかし打球はまだ落ちてこない。

嘘だ、そんな馬鹿な。

 

打球は

ライトの頭を悠々と越えて

フェンスより遥か高くから

誰もいない外野スタンドへと消えていった。

 

 

「やっ、、、たぁーーー!!!」

「うおおおお!!! 」

「ナイスバッティン!!!」

「あかつきに勝っちまったぞ!!! これで全国大会進出だぁ!!!!」

 

打席の彼は

走ることも忘れ

喜びの声をあげることもせず

ただ、ライトスタンドを眺めていた。

そして自分の両手を見つめ

ゆっくりと一塁ベースに向かって走り始めた。

 

 

何故だ。

なぜ打たれた。

一球、二球とまるで打てる気配もなかったのに。

そんな猪狩もまた

整列のためホームベース付近に行くことも忘れ

ただただライトスタンドを見つめた。

 

 

試合は敗れ、同時に全国への道は閉ざされた。

だがそんなことはどうでもいい。

 

整列の列に混ざる。

主審からの声がまるで聞こえない。

ボクのあの球を打った選手の顔さえもよく見えない。

何が起こったのか。

全く、悪い夢だ。

誰とも口を交わさずベンチから通路へと出る。

すると記者やらがこぞってインタビューをしてくる。

 

「猪狩くん、一言お願いします!」

「先程の試合の感想は?」

「ずばり逆転サヨナラを許した要素は?」

 

わからない。

そんなものこっちが知りたいくらいだ。

なにも答えられる事などない。

 

「ちょっとやめてください! いいでしょう今日くらいは!」

進か。

進ならなぜ打たれたかわかるだろうか

 

「そうだな、いくら彼が分別のある子だとしてもまだ中学生だ、傷を広げるようなことはやめよう」

「そうだな、、、すまなかったな守くん、進くんも」

「それより打った子だよ! 帝王の荒波春! 彼にインタビューしよう!」

「こりゃ記事にすりゃ編集長に誉められるぞぉ~」

 

そういって彼らは足早にボクの元を差ってゆく。

何もかもが初めての経験だ。

 

 

「完璧に持っていかれたな」

 

いなくなった筈のマスコミ達だが、一人の男がおもむろに口を開く。

 

 

「ちょっと、取材なら今日はお断りします!」

「いいんだ進」

進を止める。

誰でも良い。

ボクが打たれた理由を教えてほしい。

おかしいな、いつもの自分ではないみたいだ。

 

「打たれた理由を知りたがっているようだが、、、最後の一球のなにがいけなかったかそれは私にはわからない」

「そうですか、では」

「兄さん!すいませんいつもはああじゃないんですが、、、」

その場を立ち去ろうとする。

 

「1つ。私の持論だが1つだけヒントがある」

 

振り返る。

青ずくめのこの人はメモ帳をパタンと閉じた。

 

「たまにいるんだ、ああいう、強大な敵に当たったとき、絶体絶命の場面で実力以上の信じられない力を発揮しゲームをひっくり返す選手が、、」

「偶然、と言えばそれでしまいだろう。ただそのような場面を経験し、打たれて、試合をひっくり返された。その事実が君を更に強くする」

もう猪狩くんなら理解できただろう。

なぜ万全な状態の自分が打たれたか、その理由を無意識的に知りたがっていたか。

 

「君がその事実から目をそらさず自分のすべきことを全う出来るなら、ウイニングショットも更に進化するだろう。」

今まで完璧に打たれた事などない君が更に自分の実力を高めるには必要なんだ。

ああいう、大判狂わせを起こす、『ライバル』が

 

 

そういってこの人は去っていった。

「兄さん、あの人もしかしてすごい人なのかも、最後の一球も見破ってたし」

 

なるほど。

ボクとした事が。

見ず知らずの人に教えられるとはな

 

「兄さん?」

「フフフ、荒波春とか言ったな、」

打たれたショックで忘れていた。

いや忘れるもなにも初めての経験だからな。

万全の状態のボクが、ほぼ完成していたあの球をホームランを打たれたのは。

これだから野球は面白い。

 

「リベンジだ進! 必ず荒波春にリベンジする!!」

「うん!!」

待っていろ荒波春。

必ずボクは、この左腕で更なるウイニングショットを引っ提げて再び君の前に立ちはだかる!!

 

 

 

~その頃~

「いやー参ったなぁ、一軍に昇格して初打席で初本塁打とは、あんなに記者の人達に囲まれたの初めてだよ」

「気抜くなよ、次は全国だからな」

「まぁ友沢くんいいじゃないですか、今日は春くんを祝ってあげましょう」

(チッ!! あんな下手くそのクソまぐれが!所詮は代打要因のビギナーズラックだろ)

 

「荒波くん、少しいいかい?」

「えっ?あ、はい」

「じゃあ俺達は先にバスへ行ってるぞ」

「遅刻してはダメですよ荒波くん」

「おう、わかった!」

二人は先にバスへ向かう。

 

「何ですか俺に話って?」

「私、こういう者でな」

男は春に名刺を差し出す。

そこに書かれていたのは

 

「プ、プロのスカウトぉ!!? この青ずくめの人がぁ!?」

「ゴホン、少々気にかかる言葉があったが、、先ずはなのっておくよ」

プロのスカウトがおれに?

流石になにかの間違いか冗談だろ?

 

「先程の打席はお見事だったよ、素晴らしいものを見せてもらった」

「いやいや、あんなのクソまぐれですし」

見え見えの照れ隠しをする。

そんな春をバッサリ

「ああ、ただのクソまぐれだ」

「そうそう、ただのクソまぐれでして…って、えっ?」

おいおい、いくらなんでもこんなにはっきり言わなくても、、、

 

「猪狩くんはな肩を痛めていた、症状はそこまで重くはないが、、君が打てたのはそのお蔭だろう」

マジかよ、、、。

クソまぐれってのは百も承知だったけど少しくらい褒めてくれたっていいのに。

にしても肩を痛めていたって、それであんなえげつない球を7イニングも投げてたのかよ…

 

「どうだ? これが代打要員の君と名門校エースの猪狩くんとの差だ。思い上がるにはまだまだ早すぎる。」

 

「で、でも結果が全てでしょう!?」

「ああ、試合はな、私が話しているのは実力だ。あの時猪狩くんが万全な状態だったらどうだ?同じような結果になると思えるか」

 

これで俺も帝王のレギュラーに。

なーんて思っていた。

なんせあの猪狩から打ったんだからな。

 

 

…ちくしょう、、、。

俺とあいつの差はこんなにも広いのかよ。

怪我を押してあんな球を投げていてそれを打った。

初めて結果を残して、

飛び上がる程嬉しい筈なのに

おかしいな

悔しさのが込み上げてくる。

 

「私からは以上だ。」

チームを勝利に導いた後にこんな事を言われるのは悔しいだろう。

だが、知る必要があるんだ。

自分と、自分を『ライバル』として認定している者との差を。

猪狩くんが肩を痛めていたという嘘をついた事は申し訳ないと思っている。

だが君の為なんだ。

あの一振りに

長年見てきた選手達の中でも限りない可能性を秘めていたから。

ここから伸びるかどうかは君次第だ。

 

そういい残して去って行く。

 

「クッソ、才能の違い。なんかじゃ片付かねぇか」

そうやって認めていた時点で負けていたんだ。

才能が違いすぎる事は百も承知だ。

だがそれを埋める充分な努力をしてきたか。

してねぇよな。

証明してやる。

クソまぐれなんかじゃなかったって事を!!!

 

 

 

 

「しかしそれ以降の大会で君を見ることはなかった」

探した。

あの試合以降、猪狩の率いるチームは一度も敗北の辛酸を舐めた事はない。

高等部に進級してからもただの1度も負けたことがない。

だが強く求めていた再戦に巡りあうことはできなかった

それもそのはず。

あの大会以降春は野球から距離を置いていたからだ。

事情は問わない。

そんなもの今は知る必要もない。

 

「ボクは君を探し続けた、他地区の高校に進学した事も想定してな」

甲子園にも出場し勝ち続けた

だが見つからない。

自身が認めたライバルがまさかこんな所で、こんなチームで野球をやっているとは想像もつかなかった。

 

「やっと見つけた今、他に言うことはない。勝ち上がれ。あかつきと対戦するまでは」

正直、力の差は歴然。

あかつきとときせーでは天と地ほどの差がある。

 

「じゃあボクはこれで」

だが、君ならできるだろう。

ねぇ影山さん。

たまにいるんでしょう?

こういう奴が。

 

春に背を向け歩き出す。

 

期待しているよ。

どんなに勝利を手にしても忘れられないあの一打。

君との勝負でそれを上書きする事で

ボクは真の栄冠を手にいれる事が出来るのだから。

 

 

 

「、、、ははは」

すっかり忘れてたよ

いや目を背けていたんだ。

なにが接触したくなかっただ。

なんのために野球を再開したんだ

俺の最終目標だろうが

 

「もう! 春くんを何してるの! みんな春くんがサボってるって怒ってるよ!!」

小山が痺れを気かさて俺を迎えに来た。

もう休憩時間なんてとっくに終わっていた。

 

「まだバッティンググローブ取りに行ってないの!? ホントにサボってたの~?」

ジト目で俺を見つめる。

 

「サボってた、、、な。今の今まで。」

「ええ!? あっさり認めた!?」

そうだ。

確かにいろんな事があって、一度は簡単に諦めてしまった。

高校で野球部作ってからは真面目にやってきた自負はある。

中2の頃の誓いは全て拾ってきたつもりだった。

でも一番肝心な忘れ物をしていたようだな。

こんなんで足りる訳ないじゃないか。

こんなぬるま湯に浸かってたら差は広がるばかりだ。

 

 

「よっしゃ!! 行くぞ小山!! 今日から全速力だ!!」

「もうなんなの! 今日の春くんおかしいよ~!」

 

おかしいよな。

俺があいつとまともにやり合おうとしてるなんて。

無謀にも程がある。

身の程をわきまえろって話だよな。

でも目指すくらいならバチあたんねぇだろ

その先に待ってる再戦を制する為には

このままじゃいけないんだ。

おれ自身が変わらなきゃな。

 

 

どんなクソまぐれだろうと

 

 

 

 

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