もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

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私生活がだいぶ忙しく、かなり久々になってしまいましたが更新です。


第23話 意地

ときめき青春高校対パワフル高校の準決勝。

試合はパワフル高校ペース。

東條の観察眼によって青葉の癖が暴かれた。

パワフル高校はストレートとスライダーを識別することによって苦しみながらもランナーを溜める。

そして圧倒的な打撃を誇る東條が還す。

青葉は5回6失点という苦しい状況。

なんとか反撃したいときめき青春高校だが、立ち直った松田の豪速球に抑え込まれる。

もう一点もやれない場面で迎えるは東條。

そしてときせーベンチは動く。

 

 

『ときめき青春高校、選手の交代をお知らせします』

『レフトの三森右京くんに代わり山口くんが入りピッチャー、ピッチャーの青葉くんがレフトに入ります。』

 

 

「ラストッ!」

「ナイスボールYA!!」

ブルペンで稲田に一球投じ、ミヨちゃんから貰ったドリンクを一口。

そして帽子を目深にかぶりマウンドへ駆けていく。

 

「山口、頼む」

青葉からボールを受け取り   

「任せてくれ」

「おい青葉、お前外野用グラブ持ってねぇだろ、俺の使えよ」

「悪いな」

青葉にグラブを渡し、ベンチに下がる右京。

 

「ナイスファイト右京くん~」

「おうよ」

 

ミヨちゃんからタオルを受け取り汗を拭いながら

 

「なあ、このスイッチ大丈夫かよ?」

ぼそりと呟く。

それもそのはず。

いくら青葉が東條に打ち込まれてるからといってさすがに今の山口をぶつけるのは傷口を大きく広げかねないのは事実。

 

「山口のことは認めてんだけどよ」

「大丈夫だよー! 青葉くんは今のうちに切り替えられるし!」

 

内野陣がマウンドに集まる。

「最初の打者があのバケモノとかお前もついてねぇな」

「大丈夫だ、任せてくれ」

正直、通用する自信はない。

頼みの綱の青葉が打ち込まれた。

それはこちらにとっては大打撃。

戦意を喪失しかねない。

だが俺達は今まで青葉に助けられてきた。

何度も、何度も。

そんなときこそ相手の四番バッターを抑えて、流れを引き戻す。

それがリリーフの役割であり、今の俺のときせーでの居場所だ。

ただの層が薄いベンチ要員じゃないんだ。

仕事はするさ。

 

東條は山口が投球練習をしている間ベンチでデータを確認する。

「やはりあの山口か…」

極悪久高校戦で先発した左腕。

怪我をしたとは聞いていたがまさか本当にあの山口だったとは。

仕方のないことではあるが、かつての右腕とは程遠い実力。

 

『五回の裏、パワフル高校の攻撃は四番、サード東條くん』

 

しかし油断は禁物。同情などもっての他。

代わりばなを叩いて引導を渡してやる!

一息吐きすぅっとバットをたてる。

 

 

さすがは東條だ。

この凄まじい覇気を目の前にしてはどうしても打たれた時のことを想像してしまう。

だが、、、俺は臆さない!!

 

審判のコールがかかったとたん、山口の目付きが変わる。

 

ワインドアップモーションから、ゆっくり高く足をあげ、大きなテイクバックから投じた第一球。

それは90km/hにも満たないストレート。

見送って0-1。

 

 

なんだこの球は?不用意過ぎるし、明らかな棒玉ではないか。あまりにも驚いて見送ってしまった。

前回の登板では120程度は出ていた筈だが…。

しかしこれなら立ち直りそうだった青葉のほうが数倍打ちづらい。

何か策があるのか、はたまた苦肉の策か。

東條はそう感じた。

だが次は打つ!!

 

そして山口が投じた2球目。

始動から物凄く速いステップで外角一杯にまたも90km/h程度の速球投じる。

 

東條はこれをうちに行くも打球はレフトファールスタンドに切れる。カウント0-2。

 

 

こいつ…モーションの速度を変えることで俺にタイミングを取らせない気か?

なかなかやるな…。しかし同じ手は喰わん!

東條は気合いを入れ直し、打席に立つ。

 

 

(春…君がいった通りのことはやる。

しかし、これからはどうなるかわからないぞ…。)

 

(ああわかってる。だけどこれくらいしか抑える方法が思い付かないんだ!)

二人はアイコンタクトを交わす。

 

 

山口はじっと鬼力のサインを見つめる。

そして…一度、二度と首を横に振った。

そしてプレートから足を外し、不満げな表情を見せる。

 

 

何度もサイン交換をし、やっと頷く山口。

そして一球目と同じように大きなテイクバックから豪快に腕を振り下ろす。

 

 

(なにっ!?)

 

 

山口が投じたボールは、、、打者より大分手前でワンバウンドし、バックネットにあたる程の暴投であった。

 

あまりにも暴投過ぎたので、山口はついついマウンド上で苦笑いする。

 

 

「へいへーい!ピッチャー落ち着いて行きましょ!!」

「力むな山口!」

 

 

チームメイトの掛け声に山口は笑顔で応える。

そして東條はタイムを要求する。

 

 

(今の握り、間違いなくフォークだった…!!)

コイツ…フォークがあるのか?

確かに山口の代名詞と言えばフォークだ。

しかしそれは右腕時代の話。

前回登板では120km/hのストレートと緩いカーブのみで組み立てていた筈。

さらに、さっきのサインの手惑いだ。

明らかに捕手と意見が別れていた。

そしてやっと納得して選んだ球がフォーク。

捕手の鬼力ではなく、サインに首を振り続け、プレートを外してまでその意思を示した山口が投げたがった球だ。

よほどの自信があったのか…?

今のはすっぽぬけの大暴投であったが、、警戒しなくちゃな。

 

 

冷静に考えをまとめて、再び打席に立つ東條。

 

 

そして山口はまた何度かサインに首を振り、やっと頷く。

そして再びダイナミックなフォームから投じた四球目。

 

 

 

(挟んでいる、フォークだ!!それに高い、抜けた絶好球だ!)

東條は体の軸を崩さないまま始動する。

 

 

 

『ストライーク!バッターアウト!!』

 

しかしバットは空を切る。

 

よしっ!と小さく声を上げる山口。

ときせーナインもそれに呼応して湧く。

 

 

東條はあっさりと三振に倒れ、ベンチに戻る。

どういうことだ…。

山口のフォームはテイクバックが大きく、リリースをするまでに握りをみることができる時間が長く、握りがかなり見えやすい。

俺の目に狂いはなかった、しかし来た球は

 

内角高めのストレート。

 

 

まさかあいつ…直前で握りを変えたのか?

指を挟むフォークから咄嗟にストレートの握りに変えるなんて並みの芸当じゃない。

 

 

「侮ったか…」

 

 

山口は東條を打ち取ったことで勢いに乗り、続く握里、西森も凡打に打ち取る。

そして淡々とベンチへ。

 

 

「すげぇぞ山口ー!!あのバケモン打ち取るなんてよお!!」

「いよいよ完全復活かぁ!!?」

 

 

そんな山口とはうってかわって大盛り上がりのときせーベンチ。

 

 

「助かったぜ」

 

山口の肩にぽんっと手をやり青葉が一言。

 

「春のおかげさ。うちのキャプテンはたいしたものだよ」

 

 

 

 

 

 

「球種が読まれてる?」

「ああ。パワフルの上位陣を見てるとな」

「俺はショートだからよく見えるんだ。あいつら、青葉のスライダーに思い切り踏み込んでくる。内外関係なくな。特に左打者の時には狙い済ましたかのように降ってくるだろ?逆に右打者は外スラにはほぼ手をださないし、ストレートを振りきってる」

 

確かにそんな印象はある。

青葉の調子の問題もあるが、今日はストレートも走っていてスライダーもいつも通りにキレていた。

 

「あのスライダーとストレートを初対戦で識別するのはムズい。それをはじめからどの球種がわかっているかのようにスイングして、見送ってくる」

「青葉の方になにかあるってことか?」

「だろうな。そしてそれは東條の仕業じゃないかと踏んでいる」

 

東條はそれが顕著だ。

元々の技術の高さもあるが、青葉のインサイドへ曲がるスライダーをスタンドまで持っていったあの躊躇ないスイング。初回のアウトコースのスライダーを持っていったのもそうだ。

奴は青葉のなんらかの動作にその識別方を見いだしている。と信じたい!

こんな劣勢だ。

とにかく青葉が復調するために糸口はどんな小さいものだろうと探りたい。

 

 

「てなわけで山口。ゆさぶり頼んだぞ」

「ああ。…って、えっ!?」

 

俺に投げろというのか?

正直な話、無理だ。

俺なんて左腕に転校して数ヶ月程度。

球速だけならそこそこ出るようになってきたが…

東條を抑えるなんて夢のまた夢。

怖じ気づいている。

こんな奴が試合を壊していいはずがない。

こんな覚悟の奴がマウンドに立っていいはずがない。

そう伝えようとすると…

 

 

「おいおい、ビビってんのか?らしくねぇな!」

 

春は普段談笑してるときのように笑顔でこう言った。

 

「去年の夏、俺たちを圧倒したときのこと思い出せよ!まぁ俺は忘れたくても忘れらんねぇけどな!」

 

「だけど!それはこの右腕の時の話だ…」

 

だめだ、せっかく自信を持たせようとしてるのに、情けないが心底恐れている。打たれることを。

 

 

「俺は出来ねぇこと頼んでねーよ。なにも前と同じように打者を圧倒しろって事じゃない。今のお前に出来ることをやってほしいだけだ」

 

消えるフォーク?いらない。140キロ後半の真っ直ぐ?必要ない。

今の山口の武器は別にある。

それに気づけばいいんだ!

 

 

「これが出来る奴はときせーにお前しかいないからなお前でダメならみんな納得できる」

 

 

 

「頼んだぜ、リリーフエース!!!」

 

 

今のまんまでもいい。

お前は立派な部員で、欠かせない戦力だ。

勝つための最善手が山口の投入なんだ。

自信持てなんて言わねぇ。

のびのびやってくれ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、僕は大バカだな。戦う前から戦意喪失してたんだからな」

「そのわりには堂々と投げてたじゃねえか」

「彼にそそのかされてね。不安なんてすっ飛んだよ」

 

 

春の言葉の真意を考えた。

これがあってるのかはわからない。

だけど自分で考えてみたけどその最善策が撹乱することだ。

そんな子供だましが何度も通用しないだろうけど、彼のお陰で見つけられた気がする、俺が本当に目指すべきところ。

 

 

「あいつ、たまにキャプテンらしいこと言うからな」

青葉もふっと笑う。

 

「俺にはいいキャプテンに見えるがな」

「最初はあんな頼れる奴じゃなかったぜ」

 

 

 

「青葉!山口!円陣組むぞ!!」

「「おう!!」」

 

 

 

野球には真摯に取り組む。

チームメイトには自分より気遣いやがる。

 

 

 

「一点ずつでいい。コツコツ返してくぞ!!」

「「「しゃーー!!!!」」」

 

 

 

 

今では立派なキャプテンだよ、お前は。

 

 

 

『三番、ショート 荒波くん』

 

 

山口呼び寄せたこの流れ、切るわけにはいかない。

松田の速球は強力だ。

とにかくおっつけて、コンパクトに!

 

 

『キィン!』

 

 

初球のストレートを引き付けて叩いた。

鋭い打球が左中間を真っ二つに破る。

 

 

山口があれだけの投球を見せたんだ。

かつての豪腕投手のプライドを捨てて、小手先のテクニックに走った。

辛いことだろうが、今のお前には自信の根拠が必要だったと俺は思う。

そして結果を出した。

だから…

 

 

フェンスまで到達したボールをセンターが捕球。

中継にボールを送球するところで、春は二塁を蹴った。

 

 

「やべぇ、あいつ暴走気味だぞ!」

「ワイは回しとらんDE~!」

 

 

セカンドから三塁へボールが送られる。

春は懸命に走り飛び付くようにスライディング。

 

 

 

「この試合…負けらんねぇんだ!!」

 

 

 

 

『セーフッ!!!』

 

 

 

「うおおおおお!!」

 

 

塁上で柄にもなく吠える。

そしてベンチへ向かって拳を突き上げる。

 

 

「うっしゃー!いいぞー春!!」

「ぜってぇ還せよ神宮寺!!」

「任せろ!!!」

 

 

ビハインドにも関わらず活気づくときせーナイン。

 

 

「すごいなー春くん。あのストレートを流してあそこまで飛ばすなんて」

「伊達にクリーンナップじゃねぇってかんじ?」

「つーか何気に足速くね?」

「矢部くんとか三森くん達がいるから目立たないけどタイム的にはその次に速いんだよね!」

「なんか嬉しそうじゃね雅ちゃん?」

「えっ!?そ、そんなことないよ!?」

(アピれてるぜ春っち!!)

 

 

春の三塁打を皮切りに続く神宮寺は粘ってフォアボールを勝ち取る。

続く鬼力は外の変化球を引っ掻けて併殺打となるもその間に一点を返す。

その後茶来が繋ぐも代わってはいった七番の山口は三振に倒れスリーアウト。

徐々に打たれ始めているものの圧倒的な直球を武器にここぞというときは抑える松田。

六回表にようやく反撃の一点を挙げ3-6。

点差以上にはりつめた試合展開となる。

 

 

七回は三者凡退に倒れるも八回に100球を越えた松田にたいし打線が奮起。

小山と春の連打から神宮寺が今日二本目のタイムリーを放つ。これで4-6。

疲れが目立ち始めた松田を捉え始めた。

しかしここはさすがの松田、続く鬼力、茶来、山口を連続三振に切って取り流れを渡さない。

 

 

対する山口も毎回ヒットやフォアボールで得点圏にランナーを背負うも緩いボールとモーションの変化をうまく使い本塁は踏ませない。

七回に先頭の東條を敬遠したときはスタンドから怒号も飛んだが動じず後続打者を打たれながらもなんとか得点は与えなかった。

八回には奥居に痛烈な二塁打を浴びるなど一死満塁のピンチを迎える。

しかし三番尾崎の意表を突いたスクイズを素早いフィールディングで阻止。

ダブルプレーに撃ち取り絶体絶命のピンチを乗りきった。

 

 

 

「…よしっ!」

「よくやった山口!!」

「しゃー、意地でも追い付くぞ!!」

 

試合は9回の表。スコアは4-6。

追い付かなきゃここで終わり。

 

 

 

「みんな、このままでいいか?」

 

 

円陣を組み春が問いかける。

 

「あ?」

「何言ってやがんだテメェ」

「いいわけねーだろ!!」

「いつもは青葉に助けられっぱなしだけどよ、今日こそは俺らだってやってやんぞ!」

「山口だって打たれても踏ん張ってきたんだからよ!」

「よっしゃーいくぞテメェら!!ときせー

魂みせてやろうぜー!!」

「ちょ、それ俺のセリフ…」

 

途中から何故か神宮寺が音頭を取り始めたが…

大丈夫。まだ闘志は死んじゃいない。

みんな必死で食らいつこうとしている。

120球を越えた松田は続投。

やっぱり後続のピッチャーには不安があるんだ。

今が絶好のチャンスだ!

 

 

『9回の表、ときめき青春高校の攻撃は、八番、ライト、三森左京くん』

 

 

それでも松田は140前後のストレートを放り込む。

 

「ちっ、なんつースタミナしてやがんだよこいつ」

 

 

外野も大分前に来てる。へっ、俺のバッティングじゃこんなもんだよな…。

でも…

 

 

『キィン!』

 

 

「んなもんカンケーねぇんだよ!!」

 

 

左京は外角のストレートを流し打ち。

痛烈なゴロが三塁線を襲う。

 

 

「くっ、」

「うお、あのバウンドとりやがった!!」

 

東條がダイビングで打球を抑えすぐさま起き上がって送球!

しかし…

 

 

『セーフ!!』

 

 

間一髪、左京の足が先にベースに触れた。

 

 

「言ったろ、カンケーねぇって」

 

 

「よっしゃー!!!ノーアウトのランナーだぜ!!」

「やべぇよあいつ、あの速い打球で内野安打だぜ!?」

 

 

相変わらず速い!

しかし東條もファインプレーだった

抜けていれば二塁打は確実だったのに。

だけどこのチャンス絶対にものにしてやる!

 

 

『九番、ピッチャー、青葉くん』

 

俺が1人で取られた点だ。

全責任は俺にある。

ここで打たなきゃあいつらに顔見せ出来ねぇ!

 

 

『キィン』

 

 

高めの半速球を捉えた。

青葉の打球は一二塁間を破る。

ライトが浅めに守っていたため左京は三塁ストップ。

ノーアウト一三塁の大チャンスをつくる。

 

「おーし!行けるぞ!!!」

「ぜってえ行ける!!」

「矢部!頼むぞ!」

「任せるでやんす!」

 

 

矢部くん、頼む。

君が決めてくれ!

 

 

ベンチの稲垣監督は腕を組み仁王立ち。

ここに来て松田の球威だけでなく制球も甘くなってきたか。

だかここから上位打線、いずれも今日ヒットを打たれている。

ウチの控え投手じゃ荷が重い。

ブルペン陣を含めても今ウチで一番いい投手は松田だ。

お前に頼るしかない。

わかってるなお前ら、ここが踏ん張りどころだぞ!!

 

 

 

「松田!一点はいい!バッターに集中しろ!」

すかさず東條が声をかける。

 

それに呼応するようにパワフルナインも松田を鼓舞する。

 

 

松田はおうと手をあげ気合いを入れ直す。

そしてセットポジションに入り、投じた渾身の一球。

真ん中への曲がらないスライダー。

 

 

『キィン』

 

 

打球は

高々と外野へ上がる。

左京は三塁ベースについたまま。

 

 

奥居が前に出る。

そして落下点へ。

 

 

「くっ、浅いか…」

 

定位置よりやや浅め

どうする、突っ込むか…?

 

 

高いフライがようやく落ちてくる。

そして奥居がキャッチ。

と同時に左京がスタートを切る!

 

 

「いっくぜぇ!!!」

 

 

奥居はすぐさまバックホーム。

ボールは唸りをあげて原田のミットへ

砂ぼこりがあがる。

ここにいる全員が球審の方をじっと見る。

 

 

 

 

 

『アウトォ!!!!』

 

 

 

「なっ、まじか…」

 

 

ベンチから乗り出したときせーナインも膝を落とす。

そしてそれと同時に、スタンドから大歓声が巻き起こる。

 

 

「ナイスだ奥居!!!!」

「松田くん!!!あと一人だよー!!!!」

「オラオラ行けぇーー!!!!」

 

 

球場全体がパワフル一色となる。

 

「みたかー!オイラのレーザービーム!!」

「いい感じに逸れただけじゃねえか!」

 

 

東條はふっと笑い防止のつばに手をやる。

助かった。

一点でも入ろうものなら完全にときせーの押せ押せムードになっていただろう。

大ファインプレーだ奥居!

 

 

 

 

「ノーアウト一三塁がツーアウト二塁…」

「すまねぇ、俺の判断ミスだ…」

 

 

こちらはときせーベンチ。

いつもはミスをするとバカにして笑い話にする神宮寺や矢部も、強気な三森兄弟も、軽いノリで茶化す茶来も、

まるで試合が終わってしまったかのようにただ無言でスコアボードを眺めていた。

 

 

「まだだ」

「まだ終わってねぇ!!」

 

 

春が大声をあげる。

 

「そうだよ!まだランナーは残ってる!チャンスなんだよ!」

 

小山も続いて。

 

 

すると大人しかった彼らは一度顔を向き合わせふっと笑って

 

「けっ、オメェらに言われなくたってわかってんだよこっちはよ!」

「勝利の打ち上げどこでやるか考えてただけだし?」

「マジで落ち込んでんのはオメーだけだぜ左京」

「ああ!?落ち込んでねーよ!!矢部がクソみてぇなバッティングして元気ねぇから合わせてやってたんだよ!」

「う、うるさいでやんす!次はスタンドに放り込んでやるでやんす!」

「だからもう一回オイラに回すでやんす!!!」

 

 

俺と小山も顔を向き合わせる。

 

「大丈夫みたいだね」

「ああ」

 

少しの会話を交えながら、俺は切り出す。

 

「なあ」

 

俺の表情を見て何かを察したのか、小山はすぐに

 

 

「わかってるよ、そのくらい」

 

 

そう答えた。

小山は明るい笑顔を見せる。

その笑顔を見て、俺の一つの心配はふっ飛んだ。

 

 

「監督!」

「えっ?うん。」

(寝てたのかよ!?)

 

 

勝つための決断だ。

もう1つのアウトで試合が終わってしまう。

そんな場面を託せるのはあいつしかいない。

 

 

「稲田くん!出番だよ!」

「よっしゃー!任せろYA!!!」

 

 

コーチャーボックスから駆けてくる稲田。

小山も入れ替わりのためコーチャーボックスへと走る。

 

 

「ぜっっったい打ってよね!」

「ワイが流れ引き戻すYO~!!」

 

 

ハイタッチをかわす。

笑顔で。

 

 

 

『ときめき青春高校、選手の交代をお知らせします。バッター小山さんに代わりまして、ピンチヒッター、稲田くん』

 

 

 

「いけぇ稲田!!」

「秘密兵器のすごさみせるでやんす!!」

 

 

 

ああ。ダメだなぁ私。

これが一番ってわかってるのに。

私より稲田くんの方が打つ可能性が高いってわかりきってるのに。

春くんは申し訳なさそうに告げてくれて、私もわかってるなんて言ったけど、

やっぱり…悔しいなぁ。

これが野球なのに。

みんなと一緒に決勝に行きたいのに。

私にはそのための力がないってわかってるのに。

やっぱり、ダメ。

涙が抑えられない。

でも…

 

 

 

『ストライーク!』

 

 

 

 

「稲田くん!今の高いよ!ボールをよく見て!!」

「稲田くんなら打てる!繋ぐ気持ちで!!」

 

 

人一倍大きな声を出して。

少しでもみんなの力になるんだ。

涙が止まらなくても、私に出来ることをするんだ!

 

 

 

(小山…?)

 

 

ネクストで準備する春も、打席の稲田も、ときせーの全員が、あんなに声を出して応援する小山を見て

 

 

 

 

『カキィン!!』

 

 

 

「くっ、」

「三遊間真っ二つー!!!」

「青葉回れー!!!」

 

 

三球目を叩いた稲田の打球は痛烈なゴロ性の打球。

サードショートは一歩も動けずボールはレフト前へ。

打球が速すぎたため青葉は三塁ストップ。

ツーアウト一三塁と再びチャンスをつくる。

 

 

「やったー!!ナイスバッティング!すごいよ稲田くん!!」

「ああ、なんて打球飛ばしやがんだ!」

 

 

三塁を陥れた青葉はそう言いながら小山の方を見ると

 

 

「おい、お前…」

「大丈夫、私は大丈夫だから」

 

悔しいけど、嬉しい。

自分があの場面で試合にいないのは悔しいけど、それよりも嬉しいから。

まだ終わってない、終わらせないってみんなの想いが伝わるから!

 

 

「ふっ、見てみろよ」

 

 

青葉はネクストの方を指差す。

 

 

「この采配したあいつが一番火ついたみてぇだぜ」

 

 

パワフル高校は伝令を送る。

内野陣がマウンドに集まる。

 

「荒波って奴、松田に合ってるぜ」

「今日三本打たれてるからな」

「どうする、歩かせるか?」

「いや」

東條が口を開く。

 

「次の神宮寺も二安打している。同点のランナーを二塁へ進ませるのは危険だ。松田にはこの回だけでもなんとかしてもらいたい」

ここで切りたい。

それに相手はメンバーを使い果たした。

まだまだうちの有利に代わりはない!

 

「いけるな、松田」

「おうよ!こんなとこでへばってちゃ、あいつに合わせる顔がないからな!」

 

 

各々のポジションへ散っていく。

お前達の勝利への執念はたいしたものだ。

だが、それは俺達だって同じこと。

負けるわけにはいかないんだ。

 

 

『三番 ショート 荒波くん』

 

 

肩で息をしながらもここまで投げ抜いた松田。

最後のワンナウトを取るために、力を振り絞ってボールを投げる。

 

 

『ストライーク!』

 

 

小山が泣いていた。

 

 

『ボール!』

 

 

泣かないと悔しい感情を押し殺し切れなくて涙を流した。

 

 

『ボール!』

 

 

それでも、心配かけまいと一生懸命に応援していた。

 

 

『ファウルボール!』

 

 

そんなあいつを、俺たちはここで終わらせねぇよ。

また笑顔で試合に出て貰いたいから…。

 

 

カウント2-2。

スタンドのあと一球コールが球場を包む。

松田はキャッチャーのサインにコクリと頷き、5球目を投じた。

 

 

 

 

 

「俺は…、俺達は勝つんだ!!!!!」

 

 

 

 

 

インローのストレートを弾き返した。

 

 

白球は高々と宙を舞い、その距離はぐんぐんと伸びていく。

 

 

俺は懸命に走った。

一塁ベースを蹴ったときに見えたのは、フェンスに向かって走るライトと

スタンドへ落ちた白球だった。

 

 

二塁ベースを踏む頃には大歓声が、うなだれる松田の姿が

 

 

そして三塁ベースへと向かう途中。

 

 

喜びの笑顔のまま、さっきとは違う、涙を流す小山が見えた。

 

 

そんな小山の前を通り過ぎようとしたとき

俺は彼女に

小さく、小さく拳を握ってみせた。

 

 

それを見た小山はまた、泣き顔で笑った。

すごい。すごいよ春君。

私の自分勝手な悔しさなんて吹き飛ぶくらい、眩しくて、輝いてる。

打ったのが私じゃないのに、嬉しいし、誇りたくなる。

すごく努力してたもんね。

私も、みんなも、その努力が結果にあらわれてすごく嬉しいんだよ。

 

 

 

 

 

「うおおおおお!!!」

「春!おめぇってやつはよぉ!!!」

「ほんともーいいとこどりでやんすね!」

 

 

ホームベースをしっかりと踏み、ベンチへ戻ると歓喜と祝福の嵐。

ハイタッチをしたり、頭を叩かれたり。

そしてスコアボードを見ると、確かに、9回表のところに3の数字が刻まれていた。

 

 

 

 

『パワフル高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャー松田くんに代わりまして、戸塚くん』

 

 

「すまねぇ、みんな…」

 

膝をガックリと落としたまま立ち上がれない松田。

そんな松田に手を差し出し

 

「よくやった」

 

たった一言だけ声をかけた東條。

その目は、鷹のような鋭い眼差しでこちらを見つめていた。

 

 

 

 

 

代わった戸塚はなんとかその回の追撃を許さなかった。

そして試合は9回の裏に入る。

 

 

 

「山口くん頼んだでやんすよ!」

「いや、もう俺はマウンドへはいかない」

 

 

今までパワフル打線を抑えたのだってラッキーな当たりが多かったからだし、これ以上はだましが効かない。

ラスト一回を締めるのはもう彼しかいないだろう。

 

 

「青葉、後は任せた」

「おう、やってやんぜ」

 

 

 

『ときめき青春高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャーの山口くんがレフト。レフトの青葉くんがピッチャーに入ります』

 

 

 

「青葉、さっき伝えた通りだ、奴はわずかな動きの違いを見抜いてくる」

「わかってる、そう何度も試合をぶち壊す訳にはいかねぇからよ」

 

 

『9回の裏、パワフル高校の攻撃は』

 

『四番 サード 東條くん』

 

 

ウグイス嬢のコールとともに大歓声が巻き起こる。

 

 

熱くなるな。

頭を冷やせ。

試合が振り出しに戻っただけだ。

俺がここで決めれば、またあいつにいい報告が出来る。

 

 

 

負けるわけにはいかないんだ。

 

 

 

 

「稲田!三塁線はいい、三遊間詰めてこう!」

春が指示を送る。

 

 

俺達に敬遠という選択肢はなかった。

ノーアウトで同点のランナーを背負うリスクからじゃない。

青葉が、ウチのエースが復調した姿を見せないと、相手の怪物スラッガーを抑えないと、本当に勝利したとは言えないからだ。

 

 

フッと一息吐き、投じた一球目。

 

 

『ストライーク!』

 

 

アウトローへストレートが決まる。

 

 

東條も一息吐く。

そしてすぐさまバットを構える。

 

大丈夫、球はよく見えてる。

いける、いつも通り。冷静になってる。

 

 

2球目を投じた。

 

 

『キィン』

 

やや真ん中に入ったストレートを打ちにいってファウル。

ボールはバックネットへ。

 

 

 

ストレート2球か。

再登板してすぐこれだけのボールを投げるとはさすがだな。

だからこそ、打ちがいがある!

 

 

「青葉くん…」

ミヨちゃんは両手をぎゅっと握りしめる。

祈りを込めて。

 

 

ロジンバッグに触れ、気持ちを整えて、鬼力のサインに頷く。

そしてモーションに入る。

この場面、このカウント、青葉の性格。

すべてを考慮して、投じてくる球を考える。

それと腕の降りの高さ、緩みを見て、

その考えへの迷いは消えた。

 

 

 

「おらぁ!!!」

 

 

 

投じられた三球目は

真ん中へと放られた。

そして打者の手前で曲がりはじめる。

それがわかっていたかのように、バットを出す。

 

 

そしてボールは

バットにかすることなく

鬼力のミットに収まった。

 

 

 

『ストライーク!バッターアウト!』

 

 

 

「しゃー!!」

「ナイス青葉っち!!」

「ワンナウトワンナウトー!」

 

 

 

 

東條は顔を上げなかった。

気遣う仲間の掛け声にも、スタンドの声援にも応じず

ベンチに座り、帽子で顔を隠した。

それを見て、パワフルナインも次第に声を出すのをやめ、ただ、試合が幕を閉じるその様を眺めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コンコンッ」

 

 

病院の一室に集まるユニフォーム姿の三人の男達。

 

 

 

「ラジオで聴いてたよ」

 

 

彼は笑顔で話を切り出す。

 

 

「お前の怪我が治ったとき、甲子園行きのバスで迎えにいく。そう約束したのは誰だっけ?」

 

 

「すまない…俺達はもう…」

拳を握りしめる東條。

また…途中で負けてしまった。

もう…合わせる顔がない。

 

 

「俺達は何年生だっけ?」

 

 

すっと顔をあげる。

 

 

「これが最後の大会なのかい?」

 

 

黙って首を横に降る男達。

 

 

「確かに尾崎さん達の夏は終わってしまったけど、俺達にはまだあと一年ある!」

「東條!あの青葉から2ホーマーなんてすごいじゃないか!プロのスカウトなんてもうお前をマークしてるらしいぞ!」

「松田!いつの間に150キロなんて投げるようになったんだよ!僕もうかうかしてられないな!」

「奥居!9回のバックホーム、凄かったな!解説の人が褒めてたぞ!」

 

 

「おいオメェ…」

 

奥居が問いかけようとすると

 

 

「甲子園に僕を連れていくっていう話、あれはもうなし」

「今度は…僕も一緒に君たちと戦って、甲子園行きの切符を手にいれたい!」

 

 

彼は笑顔でそう言い放った。

もう僕のために必要以上のプレッシャーを背負うことはない。

もう僕は大丈夫だから。

君たちの試合を聴いてたら、むしろ行ける気がしてきたくらいだ。

 

 

 

「だから顔をあげて、今度は僕も一緒に甲子園を目指そう!!!」

 

 

彼らは熱い握手を交わし、誓いを立てた。

鈴本の心の強さが、彼らを支え、彼らの戦いが鈴本を支えてきた。

そして負けたことによる悔しさが、彼らをもっと強くする。

 

 

「よーし!オイラこれからは趣味を捨てて野球だけに専念するぜ!」

「その宣言何回目だよ…」

「そう言った次の日には釣りにさそってくるからな~」

 

 

 

 

 

「あの~婦長、もう時間過ぎてるんですけど。あの子達まだいますよー」

「いいの、あの子達が来てくれると鈴本君も楽しそうだもの」

 

 

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