もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

27 / 27
第27話 天才VS凡才

本日は快晴。

燦々と照りつける太陽。

プレイボール時は38℃にも登った気温は次第に涼しくなっていくだろう。

そんな気候とは裏腹に熱い闘志をぶつけ合う二つのチーム。

5回裏、あかつき大附属は猪狩のツーベースから九十九のヒットでチャンスを広げるとときせー守備陣の警戒心が緩んだところで六本木がスクイズ、先制点を挙げた。

遂に試合が動いた直後。

三森兄弟が執念の出塁、チャンス拡大、そしてアウトカウントをひとつ増やしたもののディレイドスチールを見事成功させ同点に追い付く事に成功する。

現在6回表、ツーアウトランナー一二塁。

そして迎えるは

 

 

 

『三番 ショート 荒波君』

 

 

 

「いけぇ春!!」

「ここ大事でやんすよ!!」

「なんでもいい!ランナー還せ!!」

 

 

皆からの声援が、まるで隣にいるかのようによく聞こえる。

大丈夫。落ち着けてる。

この回ヒットはバントと決めつけて突っ込み過ぎた五十嵐の判断ミスとも言える1本。そしてバッターを介さず得点を挙げた、しかも相手の虚を突く形となったこの回。

いくら経験豊富な猪狩と言えども多少の苛立ちはあるはず。

ここだ。ここなんだ。

ここで一気に攻めねぇとダメなんだ。

 

 

 

「来い!!!」

 

 

打席に入り、猪狩に向けて怒鳴り叫ぶ。

 

 

 

まさかこんな形でボクが失点するとはな…。

君達は少しやり過ぎたようだ…。

残念だったな、君達のサクセスストーリーはここで終わりだ。

猪狩の目付きが変わった。

ここからは…

 

 

「先へはいかせない!!!」

 

 

 

『ストライーク!!』

 

 

 

初球はストレート。

この日最速の149キロを記録。

春はこの日初めて猪狩の球を見逃した。

 

 

 

猪狩のストレートは速い。

左腕、ましてや高校生である事を考えると140後半のストレートをポンポン放ってくるなんてとんでもねぇことだ。

そしてその凄さは、、速さだけじゃない。

速さでいったらパワフルの松田の方が速い。

でも打席での球が来るまでの時間、余裕のなさは松田のそれを遥かに凌駕する。

それだけ速く感じさせられている。

リリースしてから気づいたらボールが目の前にあるようなイメージだ。

ストレートが来ると予測して、実際に来て、自分はドンピシャのタイミングで振ってるつもりでも差し込まれてしまう。

さらにとにかく飛ばない。

今日俺達ときせーは打球を外野に飛ばしていないのが何よりの証拠だ。

この球を引っ張る事さえも難しい。矢部くんよくショートに打ったな。

ちなみに俺は唯一バットに当たってすらいない…。

しかも俺に対してはそのストレートしか投げていない。

天才投手としての威厳ってとこか?

ケッ、悔しいぜ。

お前は3年前の俺との対決を根に持っているようだが

俺は本来お前の目にかかるような選手じゃねぇ。

だけどお前みたいな天才が俺みたいなのをねじ伏せるのに全身全霊ってのは、、野球選手として光栄だよ。

だから俺も

 

 

 

「全身全霊で足掻かせて貰うぜ!!」

 

 

『キィン』

『ファール!』

 

 

猪狩が投じたストレートがこの日

初めて春のバットに当たった。

 

 

投げてからの到達が兎に角速い。

自然とポイントをキャッチャー側にさせられてる。

じゃあどうするか。

予めバットを引いておくか、ステップをやめるか。

それじゃダメだ。

左京の足なら一本で帰れる。それは確かだ。

だけどこの場面、この相手。

3番がそんなバッティングしてたら何回やったって勝てない。

猪狩を打ち砕かなければ俺達に勝ちはない!

 

 

 

『ファール!!』

 

 

 

「おい春の奴だんだん合わせてきてねえか?」

「前にこそ飛ばねぇが少しずつタイミングも合ってきてんな」

 

 

 

『ファール!!』

バットに何とか当てたボールは後ろへ。

ファールは全てこの方向だ

 

 

 

「いや違う…」

「あ?なんだって山口?」

「自分の間合いに持ち込もうとしている」

 

 

まだポイントはキャッチャー寄りのところで打たされていると思っていた。しかしそれははじめから意図してのことだ。

 

 

「恐らく春は…打てる球を待っている」

「どーゆーことよ?」

「猪狩のストレートは威力とスピードに加えてコントロールが武器だ」

 

 

内外角のここってところにあれだけのストレートを投げ込む投手は見たことがない。

当然打者からすればヒットに出来るようなボールじゃない。

だから春は…

その球を意図してファールしている。

 

 

「つまり…甘いコースの球に狙いを絞って、それが来るまでは絶対に倒れない、そういうバッティングをしているんだ」

 

 

相手はあの猪狩だ。

当然そんな球が来る確率は限りなく低い。

でも全ての球をヒットにしようとスイングするよりは

自分の打てる球を待ってヒットにする方が

遥かに可能性は高い。

春はその一縷の望みに賭けている。

 

 

「だから際どいコースはギリギリのところで当てて、ファールで逃げている」

「確かに…。全部かっ飛ばすつもりで振りにいくよりはいいんじゃねえか?」

「あ、でもー。春君がわざとファールにするタイミングとってていきなり甘いところに来て打てるものなのー?」

「それは…春次第だ」

それに…ここで変化球でもこようものなら間違いなく春は対応できない。

だが猪狩のプライドがそれを許さないはず。

猪狩にとって春はもう二度と負けられない相手なのは確かだ。

変化球を使って打ち取る事が邪道、って訳ではないけど…だからといって春相手に変化球でかわすピッチングというのは猪狩の頭にはない筈。

自分の一番の刃。その一本で宿敵を圧倒する、恐らく猪狩はそういったビジョンを描いている。

可能性は低いが…春にとってはこの策が猪狩から打てる可能性が一番高い筈…

 

 

長い勝負になる。

猪狩は一度プレートを外し、汗を拭う。

この打席、急に当たるようになってきたな…。

完全な降り遅れだが…油断はできない。

これはどうだ!!

 

 

 

「くっ、」

『ファール!!』

 

 

 

『荒波粘ります!!追い込まれてはいますがクサイところを悉くカット!!』

『今のはよく当てましたねー。あんなにポイントを後ろにしていきなりインコースに速球が来たら普通は当たりませんよ』

 

 

 

こいつ…!!

多少外れていようとコースギリギリの所は食らい付いてくる!

 

 

 

『キィン!!』

『ファール!!』

 

 

 

ボールはバックネットに突きささる。

 

 

「アウトコース、今のは少し高かったな…」

「仕留めるとしたら今のだったんじゃねぇのか!?」

「でもタイミングは合ってたよー!」

 

 

今のは猪狩にしては甘かった!!

チクショー。もう手が痺れて来やがった。

なんて球放りやがんだ!

 

 

フン、なるほどな。

君らしい。いや、君に限った話ではないかな。

いかにも凡人が思いつきそうな策だ。

君がその気なら…ボクも乗ってあげるよ!!

 

 

 

『キィン!!』

『ファール!!』

 

 

 

『ファールです!荒波の打球はバックネットへ!』

『今のはかなり甘かったですよ。荒波君としては今の球を仕留めたかったですねぇ』

 

 

「おい今のど真ん中じゃねぇか!!」

「猪狩君疲れてきたのかなぁー?」

「2球続けて打ち頃のコースか…」

「そういやそうだな」

 

違う…。疲れなんかじゃない。

そんなので崩れる投手じゃない。

だからこそ彼は世代ナンバーワン投手なんだ。

…まさか?

 

「敢えて春の誘いに乗っているとでもいうのか…!?」

そこまでして、敢えて春の土俵で闘っても

勝てるという確信があるから…?

だとしたらこの男…底が知れない!!

 

「まじかよ!?」

「そんな事してやがんのか!?」

「それだけ余裕があるって事でやんすか!!!」

「クッソォ~ナメられてんぞ春!!んなヤローやっちまえ!!」

ヒートアップするときせーナイン。

元々短気でナメられたら返さずにはいられない連中だが、自分達の好きな、得意な、誇りを持った野球でそんな真似をされる。

その悔しさといったら他の何事にも勝るだろう。

 

 

「フン、何とでも言うがいい」

セットポジションに入る。

素早いモーションから解き放たれる剛球。

 

 

『ファール!!』

 

 

「ハァハァ…」

もう何球目だ?

もう手がいてぇよ。

参ったな。ど真ん中のボールすら前に飛ばねぇ。

それに敢えて俺がヤマ張ってるコースに投げ込んでくるときた。

ナメられたもんだぜ。

 

 

 

荒波…。

なかなかしぶといじゃないか。

君との勝負は他の連中とは違う。

ボクの中の何かが、体の中から沸々と舞い上がってくる。

一本でも出ればあのランナーなら還れる。勝ち越される。

フフ…思い通りだよ、この点差、この場面。

ボクはずっと、あの試合以降。君とこういう舞台で勝負がしたかった!!

 

 

『キィン!!!』

 

 

鋭いゴロは三塁線へ。

五十嵐が懸命に飛び付く。

ときせーナインがベンチを飛び出すも

塁審は大きく両手を広げた。

 

 

「ああ~ファールかよぉ」

「いいぜ春!どんどんいけぇ!!」

 

 

よし…!ファールだけど初めて前に飛んだ!

いける…!いけるんだ!!

 

 

 

ほう…タイミングが合ってきたな。

負けるわけにはいかない。絶対に!

だからそろそろお遊びは終わりだ。

 

 

 

「うお!?」

 

 

『ガキィ』と鈍い音がする。

そしてボールはファールゾーンへ転がる。

 

 

 

ヤロウ…。

ここに来ていきなりインコースかよ…。

マジで当たってくれて助かったぜ。

 

 

 

これを当てたか…いや当たったと言うべきか。

ここまでボクを楽しませてくれるとは、嬉しいね。期待以上だ。

 

 

 

 

クッソあのヤロウ…。変化球のサインなんかうけつけやしねぇ。

だんだん合わせてきてんぞ!わかってんのか!!

ん…なんだ…?

二宮はストレートのサインを出す。

しかし猪狩は首を横に振る。

 

どうした?コースか?ならアウトコースのストレートだ!

サインを変えるも猪狩は頷かない。

 

じゃあインだ!

それでも猪狩は頷かない。

 

なんだってんだ?じゃあ高めの釣り球か?

そのサインにも応じない。

 

まさか…!?

二宮少し考えてからあるサインを出す。

それをみて猪狩はすぐさまコクリと首を縦に振った。

 

 

 

ボクを楽しませてくれたお礼、いや洗礼かな?

まあ君に投じるのは未完成なアレを含めて二回目なんだけどね。

鳥肌が立つようなこの勝負が終わってしまうのは口惜しい。

だがボクは一打勝ち越しのこの場面で君を打ち取った時、どんな感情が込み上げてくるのかを知りたい。

だから見せてあげるよ…

いくらカットで逃げようと

この球は…

 

 

「君が打つには難しいんじゃないかな!!!」

 

 

 

サインに何度も首を振って投じた一球は

ど真ん中へと向かっていく速球。

 

 

 

 

よし…!甘い!

そう何度もヤマ張ってるコースでファールしてたまっかよ!!

当然春は力一杯スイング。

タイミング、バットの角度、肩の引き具合。

どれもどんぴしゃだった。

そう。全てが完璧だった。

打てる。捉えた!逆転だ!

 

 

 

 

『ストライーク!!バッターアウト!!チェンジ!!』

 

 

 

俺達の誰もがそう思った。

しかしその18.44mの攻防の後

俺達が目にしたのは

二宮がミットに白球を収めた光景と

手前に落ちた帽子を拾い上げる猪狩の姿だった。

 

 

 

 

今何が起こった…。

ど真ん中に投じられたストレートが

バットから逃げるように…浮かび上がった!?

どういう事だ…

春はバックスクリーンの球速表示を確認する。

144…。

変化球ではないのは確かだ。

あの速さは間違いなくストレートだ。

じゃあなんで当たらなかった?

打つための要素は全て揃っていたはず。

 

 

 

「ライジングショットだ」

「猪狩!」

 

 

バッターボックスで立ち尽くす春の目の前に

猪狩の姿が

 

 

「これがボクの真骨頂、ついに完成したボール」

「今日確信したよ君はボクのいるステージには上がってこれないとね」

完璧だ。ボクの投球は完璧だ。

もはや一点失ったことなど忘れさせる。

この場面で君を抑えたことが

こんなにもボクに喜びを与えるものだったとは…!!

楽しいよ。君より実力のある打者とは何度も戦ってきた。

でも奴らを抑えて得られる喜びは君のそれの足元にも及ばない。

出来れば…君とはずっと戦っていたいよ。

 

 

 

猪狩はベンチへと戻っていく。

俺は呼び止めようとした。

いやダメだ、試合中に、敵に、猪狩に!

自分が打ち取られた球の事について聞くなんて言語道断。

そんな事したらハナから負けみてぇなもんだ。

それに猪狩だって俺がそんな事聞いてきた幻滅するに決まってる。

ライジングショットっつったか?

でもそんなあいつはあの球がれっきとした球種であり、意図して投げたことを俺に匂わせた。

それだけの余裕があるってことか

絶対に打たれねぇっていう…

 

 

 

「天才が…!!!」

 

 

 

身体中から溢れ出る敗北感、バットを叩きつけてへし折りたくなるほどの悔しさを押し殺し、春はベンチへと帰っていく。

 

 

 

「春君!今のって…」

「ああ、どーゆう仕組みかわかんねぇけど、浮かび上がるようなボールだった」

「オイラ捉えた!って思ったでやんす、でもボール2個分くらいバットから離れてたでやんす」

 

春はバッティンググローブを外し、守備につく準備をする。

その表情は…普段のそれとはまるで違う。

 

 

「しかもあいつ…それを意図して投げてるぜ」

「たまたまじゃねーってことか」

「ああ、ライジングショットなんつー名前まで付けてやがるぜ」

自分が三振した悔しさを押し殺しながらも、淡々と話す。

そして山口が驚きの表情を見せる

 

 

「まさか…敢えてストレートの回転を変化させているのか!!」

「どういうことだ?」

「少し理論がましい話になるが…」

 

 

猪狩のフォームはオーバースローだ。

本来上から腕を投げ下ろすフォームでは、アンダースローと違ってボールを投げ上げる形にはならない。

だからオーバースローの投手のストレートは重力の関係もあり打者に到達するまでに軌道が落ちるのは当たり前だ。

しかしこの落ちを防ぐ方法がある。

それは…ボールの回転軸の傾きを小さくすることと、回転数を増やすことだ。

回転軸の傾きが小さい、つまり軸が地面と平行になることを意識し、真っ直ぐな縦回転をかける。

そしてボールに強い回転、スピンをかけることで揚力が高まりボールの軌道が落ちづらくなるのだ。

つまり普通のストレートとは軌道が違う。打者に到達する頃には浮かび上がるように見えるのだ。

春がボールの二三個分下をスイングしたのが何よりの証拠であろう。

 

「なんだか難しいねー」

「あ!そういえば!」

山口が分析を述べている最中、小山が立ち上がる

 

「一年前帝王と試合したとき!春君が山口君と対戦したとき!私もストレートが浮き上がってるように見えたよ!」

「確か俺がスクイズを打ち上げちまった時だな」

「それは本当にたまたまだ。指にかかったって表現がよく合うな。俺のストレートは横の回旋が入る。どちらかといえば球速を重視したストレートだ」

 

 

そう。

猪狩のように完璧な縦回転を意識して投げるのであればどうしても球速との両立は難しい。

それを140半ばの球速で放ってくる。

それはとんでもなく難しいことだ。

それに…普通のストレートですら前に飛ばす事さえもままならなかったんだ。

そこに浮かび上がるように見える軌道のストレートなんて代物を解禁されては…

 

 

「じゃあそのライジングショットを打たないとこの試合には勝てないでやんすか…」

「おい冗談じゃねえぞ!なんでそんな漫画みたいな魔球相手にしなきゃなんねぇんだ!!」

「ただでさえ普通のストレートにヒット一本しか出てないのに!!」

 

 

改めて感じる、猪狩の圧倒的な実力。

春を完全に見下しての甘いコースに直球一本勝負。

そして最後は浮かび上がるような軌道のストレート。

自分達ではその実力差は、埋めることはできない。

皆うすうす気付いてはいたけど

その直視し難い現実を目の当たりにして

『絶望』の二文字を意識付けられた。

そして遂に、悲観するような言葉を口に出してしまうようになった。

諦めたらダメ。そうわかってはいるのに。

これは…戦意に関わる。

 

 

 

「なあ…もういいだろ…」

「あ?」

 

 

 

ただし

 

 

 

「もうわかったろ」

「テメー何が言いてえんだ!!」

「春…まさか諦めたんじゃねぇだろうな!!」

 

 

 

その今までに見たことがないような強大な敵を前にして

本当にどうしようもないくらいの実力差を感じ取って

戦意喪失するくらいの絶望感を味わって

 

 

 

 

「あいつがすげぇってのは試合前にわかってた。今までの奴らとは次元が違うって。対戦してみてもっとわかった。どうしようもねえって」

 

 

 

一人の凡才は

 

 

 

「んで今わかった。あいつを打ち崩さなきゃ勝てねえって」

 

 

  

相対する天才との差を再認識してなお

 

 

 

「打つ。勝ちてぇから」

 

 

 

内に秘めた闘志を、ごうごうと燃え滾らせた。

 

 

 

「残り789!ぜっっっってぇにあいつから点をもぎ取る!!じゃなきゃ勝てねえ!!!」

 

 

 

ベンチの前で、仲間の方に体を向け、空へ向かって叫ぶ。

 

 

 

「俺らなら出来んだろ」

 

 

そして闘争心の溢れでた獣のような表情からにっといつもの笑顔を見せる。

それを見た仲間も顔を向かい合わせてから     

 

 

 

「へっ!落ち込んでねぇか心配した俺様が馬鹿だったぜ」

「当たり前でやんす!セレクションでオイラを落としたこと後悔させてやるでやんす!」

「の割にはノーヒットじゃねぇか」

「おれたちゃ二人で一点とったぜ?」

「ムキー!細かい事は気にするなでやんす!さあ守るでやんすよ!!」

「青葉君、上位からだよー!」

「んなことわかってんぜ」

「これ以上ナメた真似はさせねぇぞコラァ!!」

 

もしかしたら

猪狩がした見下す投球が

悪ガキ達にある影響を及ぼしたのかもしれない。

ナメられたまま終われない。

やられたら百倍にしてやり返す。

そのまま引き下がったら不良失格。

ナインはそれぞれの守備位置に散っていく。

それぞれの胸の中に

 

 

 

「茶来!!」

「ほいよー!光っち!!」

「うおら!!!」

 

 

 

『ダブルプレー!!二番からの攻撃、四条を打ち取った後七井、三本松に連打を許すも二宮をダブルプレーに打ち取りました!!青葉はガッツポーズ!!』

『三遊間の痛烈なゴロ、今の荒波君は素晴らしい反応でしたね~』

 

「ナイス春!助かったぜ!!」

「おっしゃー!!反撃だぜ!!」

「神宮寺!一発かませよ!!!」

「任せろ!!」

 

 

誰にも、何にも上書きすることはできない

『勝利』の二文字を焼き付けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぁ中盤に来てまだ同点って、あかつきにしちゃ珍しくないか?』

『ああ、ときせーはよくやってるな』

『ヤンキー校なのもあってあんまよく思われてないみたいだけど野球には熱い奴らじゃんな、他はしんねえけど』

『私ときせーのピッチャーの子タイプかも~』

『えぇ~なんか怖そうじゃなーい?やっぱ猪狩君でしょ!!』

 

徐々に球場の雰囲気が変わっていく。

 

 

 

「フム…」

もはや球場を包みこむアウェー感は彼らには感じられないだろう。

ときめき青春。いいチームだ。

エースの青葉君は要チェックだ。

まだ課題は多いが今後の成長次第では候補にリストアップしなければな。

やはり見に来てよかった。

急に他の地区に担当変更だなんて。上に頼み込んで担当を替えてもらわなかったらこんな素晴らしいゲームを見逃していたと思うと恐ろしい。

 

 

『ねぇあの人さぁーなんでこんな熱いのにあんな格好してるのー?』

『さぁ?寒がりなんじゃないのー?』

 

 

それに荒波君…。

遂にこの舞台まで上がってきたか。

君が野球を辞めたと聞いたとき、私は責任を感じていた。

まだ幼い中学生に大人の利己的な実情からプレッシャーをかけてしまった事を。

しかし君は強い。

まがりなりにもまたこうやってグラウンドに立って、因縁の相手に立ち向かっていく。

 

 

 

『六番茶来、強引に振りにいくもピッチャーゴロに倒れました。これでチェンジです!!』

 

 

猪狩君も自分のプライドから、君との対戦は巻き起こる何かがあるだろう。

そんな猪狩君を攻略することは容易ではない。

まだ君は選手として未完成だ。粗削りな所が多い。

だが…猪狩君を打ち砕く、そのポテンシャルは充分にあるはず。私の観察眼がそれを保障する。

後悔しないよう思う存分やるがいい。

君の勇姿を、スカウトであるこの影山はずっと見守っているからな。

 

 

 

「よしよし!バットに当たってる!次は捉えられる筈だ!」

「んなのあたりめーだし?」

「つーかそのライジングなんたらは投げてこねぇんだな」

「春限定か?それともピンチになったらか?」

「へっ!上等だよ」

「俺達を甘くみたら痛い目見るぜ!!」

「おっしゃ行くぞてめぇら!!」

「「「おう!!!」」」

 

 

また神宮寺が途中で仕切りだしたのは置いといて、ときせーは絶対に諦めない。立ち向かっていく。

つーかあいつ結構キャプテンに向いてるような気がする。

一年前は数人の舎弟引き連れてたしな。

 

 

 

「おい猪狩、どーすんだ?」

こちらはあかつきベンチ。

タオルで汗を拭う猪狩の隣にどっかりと座る。

 

「こっからライジング解禁すんなら悔しいが俺は下がるしかねぇ。さっきだってようやく捕れたんだぜ」

先程の回は敢えてライジングショットを一球も投げなかった。

投げるような場面でもないし、相手を動揺させる意味もある。

結局春に一球御披露目しただけだった。

しかし、戦略的に投げなかっただけではない。

 

「まぁお前が投げねぇってんなら構わねえし、お前の考えだけでも聞いとかねぇと組み立てできねえからな」

「投げないなら構わない?」

 

二宮の一言に猪狩が眉をピクリとさせた。

そしてタオルをベンチに置き、ヘルメットを被り

 

「甘いよ」

「あ?」

 

バットを握りしめベンチから乗り出し

 

 

「ときせーは出し惜しみして勝てる相手じゃない!」

普通のストレートだが、徐々に合わせてきている。

ヒットこそ打たれてはいないが、荒波の打席から奴らは何かを感じ取ったのだろう。

それぞれの打者が、ただ来た球を打たんとスイングするのではなく、明確な目的を持って打席に立つようになった。

これがキャプテンの影響力なのか…?

いずれにしても要注意だ。団結したときせー打線は間違いなく強い。

 

「進、アップしておけ」

「はい!」

 

この会話を聞いていたのか、あかつきの千石監督は控え捕手、背番号12を付けた猪狩進にウォーミングアップを命じた。

 

「ケッ、ここでお役御免かよ」

「二宮、お前もよくやったぞ。だが反省点もある。次回に活かすように」

千石監督が労いの言葉をかける。

 

次回…。

その言葉にあかつきの面々は、一斉に千石監督の方を見る。

 

「なんだお前ら、ここで夏を終えるつもりだったのか?」

 

そうだ…。

 

「どうなんだ?猪狩」

 

猪狩は目を閉じて、何を考えていたのか、そこから少しして

「ボク達は再び甲子園の土を踏む」

 

 

その言葉に千石監督は大きく頷く。

「じゃあ残りの回、点を取れるだけとってこい!!自分達の野球をすれば容易なことだ!」

「「「はい!!」」」

 

 

絶対王者が、、気を引き締める。

相手がときせーだからか、いつも通りでない試合展開だから、すっかり忘れていたのかもしれない。

この試合を制した方が、高校球児の夢舞台、甲子園行きの切符を掴める事に。

 

 

こちらもいつも通りではいられなくなっていたのかも知れない。

皆が普段の冷静さを失うほど、勝てば甲子園だということを忘れさせる程熱くさせる、今日はそういう相手だった。恐ろしいチームだよ。ときせー。

だがここから先は…僕達が阻む。

それに今日は相手が青葉ということもあり、打撃重視で二宮がスタメンだった

二宮に不満がある訳じゃない。だが進は捕手としてのレベルが段違いだ。

フフ…ここからが本当の勝負だ。

調子づいてもらっては困るんだよ。

 

 

 

攻略の糸口さえも掴ませない。

ボクが目指しているのは荒波…君をねじ伏せて、他の連中も抑え込んで、試合にも勝って、完全なる勝利を手にすること…!!

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。