もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~ 作:たまくろー
俺は髪を切った。(坊主ではないが)
長い前髪も金髪混じりの襟足も
そして過去も。全てリセットしてのリスタートだ。
その表情は矢部が観戦していたあの試合の時と似ている。
矢部くんは嬉しそうだ、、、 ガンダーロボのフィギュアでも買ったのか?
「にしてもよー貼り紙だけじゃまずいだろ。
あと10日で7人集めなきゃならねーんだよな?」
今のところメンバーは俺と矢部くん。
創部どころの話じゃない。
折角始めたんだ、半端で終わるのだけは嫌だ。
「そうでやんすね、 でもマネージャーが入ってくれたでやんす! すっごくかわいいでやんすよー!監督のお孫さんでやんす!」
「えっまじ?」
やっぱ野球部には女子マネだよな~。オイラマネージャーの作ったお握りが食べたいでやんす!なーんて高校生らしい話題に華を咲かせる。色々あったものの、二人はすっかり意気投合。
俺が同好会メンバーに入ってからは朝、夕と河川敷グラウンドで軽くキャッチボールをしながら今後について話している。
そーいやおれ監督のこと見たことないわ…
「とりあえず今日は部員集めしよう!
同好会状態じゃ何かとアレだしな!」
「ガッテン了解でやんす!ところで春君の本ポジションはどこでやんすか?」
「あー、ショートだけど一応内野ならどこでもいけるぜ!」
荒波 春はどこでもソツなくこなす器用さがある。
メンバーが足りない状況において潰しが利くのはありがたいことかもしれない。
「オイラは外野手でやんす! 電光石火の矢部と呼ばれる(予定)でやんす!」
「…。よし。学校行くか!」
「ちょ、ちょっとまってくれでやんすー!」
~昼休み~
「なあ、矢部くん」
「なんでやんすか?」
「あの子…シニアで有名だった小山 雅(おやま みやび)だよな?」
「どうやらそうみたいでやんすね!金髪ポニーテールの彼女は女性ながら巧みなバットコントロールと地味だけど堅実な守備が持ち味でやんす!」
やたら詳しいな矢部くん…。そーいや朝は女性投手早川さんの話ばっかしてたな。スタイルがアレだとか、ファンクラブがどーとか。
そして荒波が立ち上がる。
そして小山の席へと一直線
「あのさ、、俺達と野球部作らない? まだ俺と矢部くん、マネージャーの三人だけど…」
「入って欲しいでやんすー! 経験者はたのもしいでやんすー!」
小山は驚いた表情をしているがなにか躊躇っているようだ。
てか近くで見るとくっっっそかわいいな。
肌真っ白だ。
よく野球やってて焼けないもんだぜ。
「で、でも」
「でも?」
「んす?」
「女の子は公式戦には出られないから。
野球が大好きだけど…! 規則だから…」
小山は野球への未練を消すために野球部のないときめき青春高校に入学したそうだ。
かつてシニアで有名な選手だった彼女だが
高校野球の公式戦に、男子に混じって女子は参加できない。
だから…断腸の思いでここに来た。
それに、女子選手とは何かと大変だ。
当然浮くし、肉体的なハンデもある。
周りが男だらけだし、そーゆう目で見られる事だってある。
こんな環境が目に見えて浮かぶ中、自分から飛び込んでいく勇気なんてなかなか持てるもんじゃないだろう。
でもそんな彼女みてると、なんかよくわかんねえけど、力になりたい。
俺は小山の腕をガシッと掴む
「好きなら問題ねーよ。好きな事が出来ない苦しみは俺にもわかる。 おれは逃げ出したんだけどな」
「そうでやんす! 公式戦の事はオイラ達がなんとかするでやんす! だから一緒に野球やろうでやんす!」
「…うんっ!」
小山の目には涙が浮かぶ。
野球をする女性であることに偏見を持たない彼らとなら大好きな野球をのびのびやれる。そう思った。
私でも…私が女の子でも甲子園を目指せるんだ…!
小山雅が入部した。
~放課後~
あらゆる生徒に声をかけたがダメだった。
おっかけ回されたりもした。ひどい目にあったぜ。
とりあえず時間も時間だし、放課後は皆帰っちゃうし、練習することにした。
「あ、監督とマネージャーが来てるでやんす!」
「あ、君が矢部くん? そっちは…荒波 春くんに小山雅ちゃんね! はじめまして!大空美代子です~ ミヨちゃんって呼んでねっ」
茶髪でおっとりした可愛らしい子だ。
メガホンを首に提げている。
やべぇ。なんか一気に部活感出てきた。
「ガッテン了解でやんす!」
いつになく矢部くんの表情が凛々しい…
監督は…ベンチで寝てるのかよっ!
大空飛翔。 昔は名監督だったそうだが…大丈夫かな?
「とりあえずそこら辺走ってから3人でキャッチボールでもしようか」
アップとストレッチを済まし俺たちはキャッチボールをする。
3人じゃろくに練習出来ないからなー。
それにこの河川敷グラウンドは当然部室の代わりになるような母屋はないし、バックネットもない。
というかそもそもボールが各自で持ち寄った5球しかない。
すぐ近くには深そうな、流れの強い川もある。
練習メニューは限られてくるな。
ボールは部に昇格すればなんとかなる。と信じたい。
だからとにかく人を集めねぇとな。
そうこう考えながらも、3人でキャッチボールを始める
俺の投げたボールはすっぽ抜け、矢部くんの頭を越えてゆく。
ボールの行った方向には長ランにサラシ、ドカンの凄いのがいた。
そういえばあの人、朝もチラッと見かけたな
「すいませーん! ボールとってくださいでやんすー!」
その男はギロリとこちらを睨みつけた
「ああん? この神宮寺 光(じんぐうじ ひかる)に対して何だおめーら」
といいつつも矢部くんの構えたところにダイレクト送球する。
明らかに経験者だ。
「…はっ! 俺様はなにやってんだ… こんな事してる場合じゃ…」
この人材…欲しい!
荒波の目がキュピーンと光る。
「なあ、良かったら俺達と野球やらないか?」
「はぁ? 誰だお前? それにこの俺様が野球なんて…」
「お前のそのがっちりした体、さっきの送球、俺たちには必要な逸材だ」
「その筋肉なら長打バンバン打って甲子園のヒーローでやんす!」
「ま、まあな! 俺様はこれでも中学じゃ四番だったからな!」
イケる! 荒波と矢部は確信した。
「甲子園目指してる人ってかっこいいよね〜 ミヨちゃんウットリっ」
「私も野球が上手い男の子はかっこいいと思うなぁ」
女性陣のトドメの一撃!
「…たくしゃーねーな! そこまで言うのなら一肌脱いでやるよ!やるからにはビシビシ行くからな! 覚悟しとけ!」
野球… これも運命なのか…?
まぁもう突っ張るのもぼちぼち飽きてきたしな…。
乗せられる?形でまさかの入部。
神宮寺 光が入部した。
~次の日~ 教室にて
「いやー、まさか経験者が二人も入るとはおもいもしなかったでやんすねぇ」
「そうだな。 小山の守備も神宮寺の打撃も勝つためには必要だな」
「春君もさすが強豪出身でやんす! 抜け目のないプレーでやんす!」
教室で俺と矢部くんがそんな話をして楽しんでいるところに
「おい」
水色の一本垂らしに目つきの悪く、真赤なマスクをしたそっくりな二人がやってきた。
「なんでやんすか?」
「俺達に野球やらせろ。 ポジションは外野だ。足には自信がある。 それなりに役に立つと思うぜ」
「まじで!? いっきに二人も! 大歓迎だ!」
「ぐぬぬ。 俊足の外野手でやんすか。 ライバル出現でやんす…」
矢部くんが横でメラメラ燃えてる。
「俺は三森右京(みつもり うきょう) こっちは左京だ(さきょう)だ おめーら本気でやってんだろうな?」
「ああ、もちろんだ。 にしてもなんで急に?」
「俺達は絶対に甲子園にでなきゃならねーんだよ!!!」
二人が声を揃えて言い放った。
俺は二人の気迫に驚いて何も言えなかった。
これだけの強い意思だ、なにか特別な理由があるのだろうか…
「俺達は三つ子だ、あと一人は名門野球部にいる。」
「あいつはなにをやっても俺達より出来る奴だった。 三つ子ってこともあってかいつも比較されてよ、悔しかった。大好きな野球もあいつにはかなわなかった。」
「見た目はそっくりだか能力は違う。それは認めてた。だが俺達二人は その能力の差を埋めようとしなかった。」
「見返してやりてーんだよ。だから同じ高校野球の舞台で俺達はあいつを越える!」
「それによ、俺達だってあいつに負けないくらい努力して、他の何にも変えらんねー、誇れるモノを掴みてーんだ」
こいつら本気だ。
二人の熱い眼差しを見るだけでも伝わってくる。
俺には足りないものが。
矢部くんは横で感動して泣いている。
この闘志はチームに伝染する。
この二人はチームに必要だ!
三森右京、三森左京が入部した。
こうして少しずつ、ほんの少しずつだがときめき青春高校野球同好会は歩み始めている。