もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~ 作:たまくろー
「行くぞオラァー!」
「よっしゃ来いYA!!」
抜群のバットコントロールの中距離打者神宮寺くん。
外野の頭を悠々と越えてゆく力強い打球を連発する稲田くん。
「おい矢部!今のは俺の打球だろうが!」
「そんなことないでやんす! オイラの足が右京くんより早いから追いついてしまうでやんす!(にんまり)」
「…ったくこれだからおめーらはよぉ。 外野に飛んだら全部この三森左京に任せろっつってんだよ!」
俊足の外野手、矢部くん 、三森右京くんと三森左京くん。
せっせと皆の分のパワリンを用意するマネージャーのミヨちゃん。
自費で練習機材を買って使わせてくれる名将、大空監督。
「鬼力! 腰を使って体重移動を意識するんだ!」
黙って頷く強肩強打の鬼力くん。
そして走攻守抜け目のない春君。
このメンバーなら甲子園も夢じゃない。
本気でそう思える。
もしも、ときめき青春高校が甲子園のグラウンドに立つ時が来たとしても私はフィールドでプレイ出来ないかもしれない。 こんなにやる気があっていい選手が揃ってるんだもの。
でもね、例え私がベンチで見てるだけだとしても、選手としての出場が許されなかったとしても… 見ていたいんだ、このチームの一員として、皆の努力する姿を。
それに春君は言ってくれたよね。
役に立たなくてもいい、好きな野球をここにいる仲間と一緒に楽しんで欲しいって。
まだ、人数は揃ってないし、ピッチャーもいないけど、このチームはどんどん強くなれる。そんな気がする!
「小山、ちょっといいかな」
「…えっ、な、なに、春君? 私決して練習中ぼーっとしてた訳じゃないよ!」
「いや、そんなことじゃなくて…はなしがあるんだ!」
「ど、どうしたの?」
「…ごめん! 本当にごめん!」
「…え?」
「昨日練習が終わってから小山に内緒で監督と皆を連れて大会本部に行ったんだ。で、女性選手の出場について話したんだけどな…ダメだった」
「やっぱりダメだったんだ…。でもそんな顔しないで! 私は大丈夫だから!」
「でもな…」
「?」
「俺たちが本部で話をしている途中で聖タチバナ学園と恋々高校の野球部の奴らも来たんだ。 あいつらも女性選手の出場の許可を貰いにな。 そんで三校で頼み込んだところ、今年の夏は諦めて欲しい。 だが今年の秋季大会までには結論を出すってさ!」
「じゃあ…私、まだ選手として野球できるの!?」
私は思わず大きな声を上げた。
その声に反応してみんなが集まってくる。
「ああ! 前向きに検討してくれるそうだ!でも、約束守れなくて本当にすまなかった。 夏はベンチ入りも許されないんだ」
「本当にすまないでやんす。オイラ達が何とかするって言ったのに」
「ホント頭硬ぇーよなあの本部のおっさん」
「神宮寺なんて土下座して頼んだんやDE」
「おい! それは言わねぇ約束だろうよ!」
悔しい。すごい悔しい。
でも、シニアではこんなに私の事気遣ってくれる仲間は居なかった。今目の前にいる仲間たちがこんなにも私を大切にしてくれる。
そんな仲間たちに出会えた嬉しさがこみ上げて、
私は笑った。
泣きたいくらい悔しい筈なのに、私が流した涙は嬉しさでいっぱいの涙だった。
「おいおい、泣くなよ。 神宮寺の土下座がそんなに嬉しかったか?」
「おい双子までその話してんじゃねぇーよ!」
「俺たちは三つ子だっつってんだろ!!!」
「まぁーあれやNA。 試合は俺らに任せろYA」
うんうんと頷く鬼力くん。
「それにあれでやんす。オイラ達は仲間でやんす!特にミヨちゃんと雅ちゃんは欠けちゃいけないでやんす!」
「俺たちはいいのかよ!!!」
「もっと女性選手が増えればいいのにでやんす!この面子で雅ちゃんとミヨちゃんがいなかったらむさすぎでやんす!」
「んだとコラァ!!」
「テメェよりはいい顔してんだろうよ!!」
「今日という今日は怒ったぜ!」
「その口利けなくしたるWA!!」
また男子達でいつもの騒ぎ。
女の子だからどこの高校からも誘いは来なかった。 でもここで野球がやれる。
この最高のチームで。
✩
「いやー、今日は青春って感じだったでやんすねぇ」
「テメェーが煽りまくっただけじゃねぇか」
「クッソ騒ぎすぎたぜ…腹へった~」
練習が終わり俺たちは行きつけのラーメン屋で食事をして帰ることにした。
小山はミヨちゃんの家にお泊りするらしく二人で甘い物を食べに行ったらしい。乙女だな。
「おい春。そーいやピッチャーどーすんだよ」
メニューを見ながら神宮寺が話し出した。
「そういえばよぉ、あの青葉春人ってときせーじゃね?」
「そーいや今日学校で見たな。つーか左京、10時までには帰ろーぜ。」
「誰でやんすか?その人?」
「ここらで有名なシニアのエースピッチャーだ」
「エースだって!? しかしなんでときせーに?」
俺が問いかけると鬼力が黙っておれに二年前の月刊パワフルベースボール(野球雑誌)をバッグから取り出しあるページを開き見せてくれた。何で持ってたんだ…。
「なになに…。 青葉春人(あおば はると)右投右打。 闘志溢れるピッチングに唸る快速球。そして伝家の宝刀、切れ味抜群のスライダーを武器に強打者を次々となぎ倒す…」
辛口雑誌で有名な月パワでこの評価か、、
確かにタダ者じゃなさそーだ。
てか雑誌で紹介されるとか羨ましい…。
俺は有名になったあと数試合で辞めたからなあ、ちょっと惜しいことしたかも…。
「にしてもなんでこんな凄い奴がときせーなんかにいるんYA?」
三森兄弟が黙り込む。何か知ってるようだ。
「そいつ中2の時、改造ボールを公式戦で使ってよ、青葉のチームは出場停止になったんだ。それ以来野球辞めちまったらしい」
改造ボールか、、、。
この青葉って奴確かに目つき悪いし、めっちゃワルそうだけど月パワに載ってる写真からはそんな卑怯な奴には見えない。
「まぁ、明日誘ってみるか!」
「そうでやんすね! もしかしたら野球やりたがってるかもしれないでやんす!」
「おーい、注文いいか?」
「はいはーい。 って光っちじゃん!」
「おお!茶来か! お前バイト変えたのか?」
この店員神宮寺の友達らしい。
ピンク色で外ハネを意識した髪型に小麦色の肌…チャラい。
「いやいや、違うってー! それマジありえねーから! 掛け持ちってやつ?」
「そうか? ところでよ、お前俺達と野球やらねーか?」
茶来が一瞬動揺したのが俺にはわかった。
「経験者なのか?」
俺が話に乗り出す。
「まぁーねぇー。嬉しいけど俺あれじゃん? バイトあっからさ! 悪いね光っち!」
「まだおばあさんの体調良くねぇのか?」
「まぁそんな感じ!せっかく高校入れてくれたし卒業しなきゃだめぽじゃん? まぁ今日はじゃんじゃん食っちゃって!ここのラーメン超うめーしサービスすっからさ!」
俺たちは食事を終え家路につく。
チャラ男が食わせて!とかいって半分くらい食われたが。
何だったんだあの店員。
それよりも気になった事が。
「なぁ神宮寺、あの店員なんとか呼び込めないかな?」
「俺達の会話聞いてたろ? あいつはおばあちゃんっ子でおばあさんの体調あんまり良くねぇんだ。 だからあいつが稼いでんだよ」
「意外と苦労人なんだな」
「ああ、残念だがあいつは無理だな。他を当たろーぜ」
あの店員野球やりたそうだったな。
あいつの手マメだらけだった。
おそらく空いた時間にバットでも振っているんだろう。
「なぁ、神宮寺、ちょっといいか」
「あ?」
~次の日~
「てなわけでみんな今日は俺のわがままをきいてくれ!」
「気持ちはわかるでやんすがあの人が野球やるとは限らないでやんす…」
「わかってる。だけど俺はあいつを放っておけない!」
「まぁキャプテンの言う事には従わないとな!」
「ほえ? 俺キャプテン?」
「なんYA。お前キャプテンじゃなかったんかいNA」
驚いた表情の鬼力。
「まぁ言いだしっぺのお前がやるのが普通だよな! なんだかんだあってるんじゃねーか?」
「野球部を作るって言い出したのはオイラでやんす! つまりオイラがきゃぷてn
「私も春君がいいと思うよ」
「ミヨちゃんもそう思うなぁ」
「俺達も文句ねーぜ!」
「ふ、不条理でやんす…」
「お、おう! じゃあおれが引き受けるぜ!(ごめん矢部くん)じゃあさっき話した通りに頼むぜ!」
「「「おう!!!」」」
~ファミレスにて~
「ちょっと茶来君困るよぉ〜 もう何枚皿割れば気が済むのぉ 」
「す、すいません! ここ十日間もやししか食ってなくて…」
「とりあえず今日は帰りなさい。 それじゃ仕事にならないよ」
「そ、そんな! あと1時間だけでも…!」
「ダメダメ! 今日は休んで明日また来なさい」
「はぁ、、マジやべぇ。これじゃもやしも食えねェし」
今日は帰らされてしまった茶来。
商店街をトボトボと歩く。
「ばぁちゃん…ごめん」
茶来の目には涙が浮かぶ。
「左京君!違うでやんす!そのパワリンセットはお隣さんに届けるでやんす! 右京くん! 今度は2丁目でやんす!」
「ん? あいつら、、こないだラーメン食いに来てたやつじゃん…俺には関係ないか…」
「早くしないと減給でやんすよ! 茶来くんのために頑張るでやんす!」
「えっ?」
春のわがまま。
それは…茶来を助けること。
おばあさんの治療費を稼ぐ手助け、そして生活に困窮している茶来を助けること。
矢部くん、右京、左京は俊足を活かしパワリン配達。
俺、神宮寺、稲田、鬼力は引越し手伝い
「おい春!ペース落ちてんぞ!」
「お、重い…」
鬼力と稲田、神宮寺は荷物をヒョイヒョイ運ぶ。
小山とミヨちゃんは駅前で募金活動。
「おねがいしまーす」
そこに青髪で逆立ったツンツン頭、鋭い眼光の男がやって来た。
相当な修羅場をくぐってきたような、とにかく触れるもの皆傷つけそうなオーラを放っている。
「あれぇ~ 青葉くん! もしかして募金してくれるの? 」
「勘違いするな…気まぐれだ」
「なんかクールな人だね…。 ミヨちゃんお友達なの?」
「同じクラスなの~ あんまり学校来てないけどっ」
「おーい!」
そこへアルバイトを終えた皆が戻ってくる。
「給料もらったでやんすよー! ムムッ! もしかして青葉くんでやんすか! 良かったら一緒に野球やろうでやんす!」
矢部くんが勧誘する。
こいつが青葉か。写真とはまるで違うな。 牙の抜けた虎のような、なにか覇気がない。
正直青葉が野球から離れ、どれだけ衰えていようとも、この青葉春人にだけは野球をやって欲しい。味方でなくてもいい。俺はあの写真の、マウンドで放つ闘志を取り戻して欲しい。
「断らせてもらう。俺はもう投げれない。 お前らの望むような投手じゃない」
と言い残し青葉は去ってゆく。
「今の言葉、どーゆう意味だ?」
「さっぱりでやんす…」
「にしても1日働いただけじゃ足りねーだろ」
神宮寺の一言に沈黙する一同。
「おまえよぉ~」
「さすがにそれはなぁ」
「空気よめYA」
「え…これ俺様が悪いの!?」
確かに足りるわけが無い。
「ねぇねぇ」
「監督! 今日練習しないって言ったじゃないですか!」
「家宝の壺売ったらね、結構高かったの。 使って。」
すっげー!てかいいんすか!?
はしゃぐ一同。
「よし、茶来に届けよう!」
と俺が発したその時茶来がはぁはぁ息を切らして俺達の前に立っていた。
「ちょこれマジなの? そんな大金受け取れないっしょ!」
「じゃあこうしよう。俺達はこのお金でお前を助ける。 お前は野球で俺達を助けてくれ! 」
春がにっと笑う。
それに応じて茶来も
「マジっすか! 何この展開!ちょー感激なんですけど! よーしその話乗っちゃう!」
ふざけた口調に派手な外見。
そんなチャラ男の意思は固かった。
甲子園に行くため。女子にモテるため。高校生が野球をやるのにはいろいろな理由があるだろう。
けどそんな理由なんて関係ないんだ。
理由が有ろうが無かろうが努力する意思がある者を俺達は拒んだりしない。
それに意志が固ければ固いほど、強ければ強いほど…
(借りは返す…必ず!)
限界が来たとしても、もうダメだって時に、もう一度、立ち上がれるんだ。
「あれ? 茶来入れて9人揃ったんじゃね?」
「ほ、本当でやんす!ついにでやんす…これで野球部でやんすー!」
皆夜の駅前で人目など気にせず大騒ぎだ。
やっとここまでこれた。
俺を立ち直らしてくれた矢部くん。
あの時が俺のスタートだと思った。
けど、、違うんだ。
今ここが、ここからが”俺達のスタート”だ。
イロモノ揃いのこのチーム。
後に語られる事となる悪ガキ達のキセキがここから始まる…