もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

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第6話 訣別

9人揃った俺達は矢部くんと校長との間で交わした約束通り野球部としての活動を認めてもらい、学校グラウンドの使用許可が降りた。

練習機材を与えてくれる監督。

同じ目標に向かい努力するチームメイト。

影で支えてくれるマネージャー。

 

でも、俺達にはまだまだ足りないものだらけだ。

 

一つは絶対的な実戦経験不足。

やっと9人揃ったばかり。それにときめき青春高校はここらじゃ有名なヤンキー校。練習試合を申し込んだところで受けてくれる高校は少ないだろう。

 

二つ目は試合をする上での問題。

小山は女性なので今のところ夏の予選は出られない。つまりあと一人男子部員を入れない限り公式戦は出場できない。

 

そしてエースの不在。

今いる部員で投手経験のある者がいない。

これじゃ公式戦に出場できたとしても結果は目に見えている。

 

とにかく投手だ。

皆のモチベーションを落とさないためにも早く戦う準備を整えたい。

 

 

昼休み、俺は屋上に向かう。

 

「青葉!」

もうこいつしかいない。青葉の能力に惚れ込んでいる。

 

「なんだ、メガネに言ったはずだ。野球はやらねー。」

「ああ、茶来のために募金してくれたんだろう? その礼を言いに来た。 本当にありがとう」

「気にすんな。 通りかかっただけだ」

「なぁ、昨日矢部くんに言ってた言葉どういう意味なんだ?」

 

 

青葉はもう投げれないと意味深に言っていた。

 

「お前がそれを聞いたところで何になる」

「俺はお節介だからな、野球を捨て切れていないお前を放っては置けない」

「俺が野球をやりたがってるとでも言いたいのか?」

青葉が鋭い眼差しで俺を見る。その目には悲しみさえも感じ取れる。

 

「その目だ、今の青葉の目は野球をやっていた頃のお前とまるで違う。あの事件さえなければ…。 俺にはそんな風に見える」

 

 

「なんだと?」

 

 

普段は冷静な青葉が俺の胸ぐらを掴む。殴られたって構わない。

一息吐き…

 

「そっくりなんだよ…昔のおれに…」

 

 

「…何が言いたい」

 

 

「俺はある天才投手から代打でまぐれホームランを放った。 嬉しい筈の出来事がチーム内の不信、亀裂を生み、俺はその場から逃げたした。俺はその後何もせずただただ時間だけが過ぎていった。1日の長さに嫌気がさしていた」

 

するの青葉は俺から手を離し屋上からの景色を見ながら静かに語り始めた。

 

「確かに似てるかもな…」

 

「中2の時全国大会決勝。 俺はチームのために必死で投げた。打線の援護もあり勝利は確実だった。迎えた最終回で投げた一球。 おれはその時状況が良くわからなかった。 思いっきり投げたスライダーがキャッチャーが取れないほど変化したんだ。それは改造ボールだった。不正投球とみなされ没収試合、強制的に俺たちのチームは負けとなりチームは出場停止、おれはやっていないと主張したが誰も信じてくれなかった

 

 

 

 

「青葉! てめぇ全国まで来てなんてことしてくれんだよ!」

「俺はやってねぇって!きっと誰かが仕込んだんだ… 信じてくれよ!」

「そんな言い訳聞きたくねーよ!」

「見損なったぜ…青葉。 こんなことしてまで勝ちてぇのかよ!」

 

なんで信じてくれねぇんだよ…。 おれはただ、このチームで勝ちたかっただけなんだ…

この日を境に青葉は野球部を退部、出場停止明けしたチームも連戦連敗、衰退の一途を辿った。

 

 

 

 

「それ以来俺はボールを投げれなくなったんだ。 」

「…イップスか」

「そういう事だ。もう分かったろ? 俺はお前らと野球はできねー」

「そうか… 付きまとってすまなかったな」

この言葉しか見つからなかった。

イップスになった奴は何人か見た事がある。

だが、俺はこの青葉を立ち直らせる言葉をかけれなかった。

俺は屋上を後にする。

話を聞いただけでなにも変わっちゃいない。

自分の無力さを痛感した。

キャプテン。その役目を果たせているのだろうか。

人一人、救えないのか。

なにがキャプテンだ…そんな言葉、今の俺には全く当てはまらない。

 

 

「ガシャン!!!」

 

青葉がフェンスを強く握り締める。

 

 

「…ちくしょう…!」

 

 

~放課後~

「青葉くん!」

…コイツ確か野球部のマネージャーだよな。

同じクラスだったのか。

 

「今日、春君が誘いに行ったと思うけど、、どう? 今日は休みだけど明日見学だけでもしてかない?」

 

チッ、と舌打ちをし

 

「そんな暇じゃねーんだ」

残念そうな顔をする美代子。

俺だってボールが投げれたら誘われなくてもやっているだろう。

俺はバッグを片手に持ち教室から出ていく。

 

「ゲーセンもつまらないな」

暗くなるまでゲームセンターで時間を潰した。

まだ8時かよ。

 

「1日って長いな…帰るか」

 

 

「ねぇーそこの君〜、可愛いじゃん〜」

「俺たちと遊ぼうぜ~」

 

公園でナンパか…あーゆー奴らはよくわからんな。

にしてもなんで金属バット持ってんだ?カチコミにでも行くのか?

ん…?あれは…!

 

「ちょっと離して! ミヨちゃんそんな気分じゃないの!」

野球部のマネージャーじゃねぇか!

ったく、何やってんだか。

 

 

「おい」

「あ、青葉くん!?」

「おぉーなんだぁ彼氏持ちかよ?」

「そんなんじゃない。嫌がってんだろ。離してやれ」

「あー? 誰に向かって口聞いてるわけ?」

威勢のいいナンパ2人組。

 

「あれ? お前ときせーの青葉じゃん! 丁度良かったわ、あんときの借りは返させてもらうぜ!」

 

「…お前誰だっけ?」

盛大にズッコケるナンパ男

 

「この前ここでお前とケンカしただろーよ!!(ボロ負けしたけど)」

「あれはお前がいきなり襲いかかってきたんだろ」

「う、うるせぇ! このイカサマやろうが!」

「え、なになに?その話?」

「ああ、こいつよ野球ボールに細工して試合出てな、野球部崩壊させたんだぜ」

「なにそれ?ウケる!」

ケラケラと笑い出すナンパ2人組。

 

「てめぇ…」

俺が拳を振りかざそうとしたその時。

 

「青葉くんがそんなことするわけないじゃん! 青葉くんはうちのエースだよ! これ以上バカにしたらミヨちゃんが許さない!」

「おい! 俺はやらねーって言っただろ!」

「こいつがエース?笑わせんな! にしても野球やらねーならその右肩どうなってもいいよな?」

ナンパ男①がバットを構え、ナンパ男②が俺を取り押さえる。

俺は目を瞑った。

これでいいのかもな。こうすりゃ野球を諦められる

ナンパ男①が思いっきり振りかぶる。

これで終わりだ。おれの野球人生は完全に終わるんだな

 

「…いい加減にして」

「あ? やっぱり俺達と遊びてーのか?じゃあとりあえずこいつの肩に一発いれてから…

 

 

「いい加減にしろっつってんだよ!!!」

美代子から凄まじい威圧感が!

美代子の家には先祖代々伝わるある拳法があるらしい。 発動するとキャラが崩壊するのは気のせいだろう。きっと。

 

「ひぇー!」

「お許しをー!」

ナンパ男2人組は一目散に逃げてゆく。

 

「…はっ!」

正気に戻る美代子。

 

「あちゃー。 ばれちゃったかぁ。ここまで隠してこれたのになぁ」

拳法を使える自分にコンプレックスを抱いているようだ。

 

 

「…そんなん出来るんだったらおれが助けようとしなくてもよかったな」

「そんなことないよー! たまには守ってもらうって結構いいかも〜 」

「そーかよ。じゃおれは帰るぞ」

バッグを持ち上げ、歩き出す

 

「待って! その〜、さっきのこと気にならないの?」

「…別に。誰にでも知られたくない事はあるだろ」

「それと同じだよ」

「!」

 

「誰もが何かを抱えてる。誰もが何かで悩んでる。 過去にすごい失敗しちゃったとしても、そればっかり気にして引きずって今の自分も、これからの自分も犠牲にするなんて絶対だめ! 少なくとも私達は青葉くんが自分の気持ちで改造ボールをなげたなんて思ってないよ! それに皆青葉くんを必要としてる。喧嘩っぱやい人ばっかりだけど皆青葉くんを信じてる。青葉くんはいつでも野球をやって良いんだよー!」

いつものおっとり口調ではない。

とにかく伝えたいのだ。青葉に足りないものを。

 

 

「…俺はやらねーよ」

青葉は行ってしまった。

 

何者かの手により改造ボールを投げてしまった過去は消せない。

でもそんな過去に固執し、何の希望もなくただ毎日を過ごす。そんなのは愚の骨頂だ。

過度のショックが原因で起こるイップス。

確かに強敵だ。下手したら一生投げられないかもしれない。

だが青葉はそんな過去に立ち向かい、克服しようとしただろうか。

1人じゃダメだった。なら仲間とならどうだろうか。

青葉には一緒に戦ってくれる仲間がいるじゃないか。

一歩踏み出すだけで変わるかもしれない。

はたまた莫大な時間がかかるかもしれない。

でも、仲間と乗り越えた苦難の先には、大好きな野球がプロになるという夢が待っている。

 

 

 

~次の日~

「そうでやんすか。青葉くん勧誘は失敗でやんすか」

「ああ。」

本当に俺は不甲斐ないキャプテンだ。

 

「まぁ元気出すでやんす!にしても昨日はすごかったでやんす!」

「ああ、鬼力ん家に遊びに行ったんだっけな」

「そうでやんす! 鬼力くん家を出たらいかにもナンパしそうな2人組がすごい形相で走ってたでやんす。 何かから逃げてるようだったでやんす」

「ははは… なんだそりゃ」

2人で話をしながらグラウンドへ向かう。

矢部くんの言う通り元気出さないとな、練習はしっかりやらないと。

 

 

「ん? グラウンドに誰かいるでやんすねぇ。」

俺が気合を入れ直し、顔を上げるとボールが飛んできた。

俺は慌ててグラブをはめなんとかキャッチする。

危なねぇな。だれだこんなイタズラしやがるのは。

 

「ははは、春君! あれをみるでやんす!」

俺がグラウンドの方に目をやると、そこには…

 

 

「おせぇ。早く始めんぞ」

 

ユニフォームに見を包んだ青葉の姿が。

 

「あ、青葉! お前…投げられるようになったのか!?」

「青葉くんでやんす! 青葉くんが入ってくれたでやんすー!」

 

俺達は急いで青葉の元に駆け寄る。

「早くしな。そんなんじゃ甲子園なんて夢のまた夢だ」

自分は力になれなかった。それでも青葉は過去の自分と訣別し、乗り越えたんだ。

それが嬉しくて、とても嬉しくて俺は泣いた。

 

「うわっ! なんでいきなり泣き出すでやんすか!」

 

そこに他の部員たちが続々と現れる。

 

「あれー? 青葉っちじゃん! 野球再デビューってやつ?」

「なに!? 今日からピッチング練習しようと思ったのによぉ」

「神宮寺…もう諦めろ。お前はファーストだ」

「つーかお前ストライクはいんのかよ」

「せやNA」

「んだとぉ! 双子にヒップホップ野郎が!」

「俺達のどこが双子だコラ!」

「ラップホップYA!!! 」

「えっ? 春君なんで泣いてるの!?」

小山と鬼力が駆け寄る。

 

「にしても青葉くんはどうやってイップスを克服したでやんすか?」

「さあな。それより早く練習しないか?」

「そうでやんすね! 春君! 早く指示を出してくれでやんす!」

「お、おうそれじゃあまずは校庭3周だ!」

 

青葉がランニングに加わろうとしたその時美代子がニコニコしながら青葉の元に駆け寄る。

 

「強そうでしょー? このチーム」

「ああ」

「ちょっとはミヨちゃんに感謝してよねー?」

「ああ。ちょっとだけな」

「なにそれ〜。 誰かさんに頼まれてユニフォームまで用意してあげたのになぁ」

 

青葉は黙ってランニングに加わる。

感謝してるさ。しきれない程にな

 

魂のエース青葉春人はここに復活した。

青葉は大空美代子の言葉により変われた。

単純で簡単そうに思えるけれども

それだけじゃダメなんだ。

自分自身が戦わないといけない。その為には意地もプライドも必要ない。

それに気付くのには時間がかかるかもしれない。

頭ではわかっていても見えない何かを恐れてしまう。

そんな時には頼ればいい。

頼れる仲間が居るだけで幸せ者だ。

 

クールだが熱い男は以前の煮え滾る闘志を、以前の輝きを、取り戻しつつあった。

いやあの時よりもずっと輝いているかもしれない。

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