もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

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第7話 ときめきデビュー

「ま、マジっすか!?」

部室で声を揃え驚く俺達。

 

「明日練習試合ね。 ウチの学校で聖タチバナと」

監督…もっと早く言ってよ…。

聖タチバナもついこないだ野球部が出来たばかりらしい。

やっとメンバーが揃ったところでの試合、楽しみでしょうがないぜ!

 

「聖タチバナといえばあの小悪魔橘みずき(たちばな みずき)ちゃんと六道聖(ろくどう ひじり)ちゃんがいるでやんす! ちなみにスリーサイズは…」

 

ミヨちゃんの鉄拳が矢部くんにジャストミート!

「ふぎゃぁぁあ!!」

 

矢部くんの顔がめり込んでるぞ!?

しかも眼鏡は無傷だ!

てかミヨちゃんつええええ。

 

「オーダー。これね。 練習試合だし小山さんには出てもらうよ」

ホワイトボードにはスターティングメンバーが書かれていた。

 

1番 センター 矢部 (右投右打)

 

2番 サード 小山 (右投両打)

 

3番 ショート荒波 (右投左打)

 

4番 ファースト 神宮寺 (右投左打)

 

5番 キャッチャー 鬼力 (右投右打)

 

6番 セカンド 茶来 (右投右打)

 

7番 レフト 右京 (右投右打)

 

8番 ライト 左京 (左投左打)

 

9番 ピッチャー 青葉 (右投右打)

 

「稲田くんは途中から入ってもらうからね」

「私…スタメンでいいの?」

小山が申し訳なさそうに尋ねる。

 

「気にする事ないDE。 ワイの守備力考えたら当然YA」

「いい感じでやんすね!気に入ったでやんす!」

「はっはっはっ! ついに来たぜ…俺様の時代がぁぁ!」

4番の起用で有頂天の神宮寺。

うん。おれレギュラー落ちしなくてよかった。

皆このオーダーに納得しているようだ。

皆試合に飢えてたからな。

 

「よーし! 絶対勝つぞ!!」

「「「おう!!!」」」

 

 

~次の日~

聖タチバナのバスが到着する。

相手は…10人か。

それにあの筋肉の付き方…見るからに素人っぽいのが何人かいるな。すげーゴリゴリのやつも居るけど。

 

「あんたがときせーのキャプテン? よろしくねー!」

「うおお! みずきちゃんでやんす! 握手してくれでやんすー!」

「ちょっとなんなのよこのメガネ!」

橘の強烈なビンタが矢部くんに炸裂!

にしても矢部くんの眼鏡はびくともしないな。

ちょっとメガネ外した矢部くんを見てみたい…

 

「こらみずき。 折角試合を受けてくれた相手だ。 失礼のないようにすべきだぞ」

「いいじゃん別にー。 そんなんだから聖はいつまで経っても彼氏出来ないのよ!」

「な…! 余計なお世話だ!」

 

この二人の性格真逆だな…。気さくな橘みずきとクールな六道聖。 部員10人で女性が二人だから聖タチバナは夏の予選は出場出来ないな…。

 

「ちょっと、みずきちゃーん! 少しは荷物持ってよー!」

「何よアンタ! 昨日の打席勝負で負けたらあたしの言う事何でも聞くんじゃなかったの!」

「男に二言はない。 みっともないぞ翔。」

「…すいません」

 

この橘の尻にしかれている男。どこが他人とは思えんな…

 

「あ、ときせーのキャプテンさん?俺は聖タチバナのキャプテン、桐谷 翔 (きりたに しょう) こっちは初心者も結構いるけど今日は楽しい試合をしようね!」

「ああ、俺は荒波 春。 よろしくな。」

俺と翔は握手を交わし、聖タチバナの面々はアップするため荷物を降ろしストレッチを始めた。

 

「なんだか春君と似てるでやんすねぇ。雰囲気とか」

「間違いない。あいつが聖タチバナの原動力、柱だ」

握手をしただけでもわかる。タダ者じゃないと。

聖タチバナナインがアップを済ませたところで両校のスターティングオーダーが出揃い試合開始となる。

 

聖タチバナのスターティングオーダーは

 

1番 セカンド 原

 

2番 キャッチャー 六道

 

3番 サード 桐谷

 

4番 レフト 大京

 

5番 ファースト 宇津

 

6番 センター 横山

 

7番 ショート 塚越

 

8番 ライト 新井

 

9番 ピッチャー 橘

 

ファーストの宇津はたしか中学でそこそこ有名なピッチャーだったはずだが…他に経験者がいない苦肉の策か、その宇津より橘の方が優れたピッチャーなのか。

 

俺達は一塁側ベンチの前で円陣になる。

 

「相手は俺たちと同じ初試合。そして俺たちと同じ全員1年だ。 まぁ相手がどこであろうと勝利だけは譲れねーよな」

 

「整列!」

主審から声がかかる。

 

「…行くぞォ!!! 」

 

「ときせーファイ!」

 

「「「オォォー!!!!」」」

 

「只今よりときめき青春高校対聖タチバナ学園高校の試合を始めます。 互いに礼!」

 

「「「しゃーす!!!」」」

 

ついに俺たちのデビュー戦が始まった。

学校グラウンドでの試合のため電光掲示板もウグイス嬢もないけど、これが記念すべき俺達の第一歩だ。

 

先攻はウチ、矢部くん頼むぞ!

「さぁこいでやんす!」

 

「言われなくてもそうするわよ! この変態メガネ!」

 

橘が高々と足をあげ投じた第一球。

 

「ストライーク!」

矢部の胸元に抉りこんでくるストレート。

 

「むぅ…」

 

左のサイドスローか。球速は120km/h台後半ってとこか…あのコースは手が出ないか…

 

続く橘の第二球。

同じコースのストレート。

 

「コキッ」

矢部くんはなんとかバットに当てるもどん詰まりのサードゴロ。

翔が軽快に捌きワンアウト。

 

「矢部くん、どうだった?」

「早打ちしてすまなかったでやんす。 みずきちゃんの球、凄く出どころが見えづらいでやんす。球持ちもよくてタイミングが取りづらい上にあのサイドスローならではの球道…かなり厄介でやんす」

 

続く2番小山が右バッターボックスへ。

(橘みずきちゃんかぁ…、仲良くなりたいけどちょっと怖いなぁ…。 っと試合に集中しないと!)

 

一球目は内角低めのストレート。しかしボール一個分外れる。

小山が見逃し0-1。

 

二球目も同じコース。

小山は見逃すがこれがギリギリに決まる。

(この子すごいコントロールだなぁ。 ここは手が出ないってとこにスパンと決めてくる)

 

1-1で迎えた3球目。

今度は90km/h程の緩いスクリュー。

小山はタイミングを崩されながらもなんとか喰らいつきファールにする。

 

これで2-1。

橘がテンポ良く放った四球目は内角高めのストレート。

 

これをバットに当てるもキャッチャーフライ。

六道がしっかり捕球しツーアウト。

少し高めに外れていたが意図して投げたのだろうか、マウンド上でガッツポーズの橘

あのスクリューを見た後でのストレートはなかなか手強いな。。

 

3番の俺が打席に向かう。

すれ違いざまに小山が

「ストレートのコントロールがいいよ。 追いこんでからボール球に手を出させてくるかも」

 

「ああ」

 

いくらタイミングが取りづらくても球威はない。球質も軽いはずだ。振り抜けば飛んでいくだろう

 

俺に対しての第一球。

膝元へのストレート。見逃し1-0

おいおいまじかよ。左打者の俺からすりゃ背中の方からボールが来るように感じるぜ。避けないと当たるともったらストライク。 おまけに出どころの見づらい変則フォーム。

 

二球目は1つ外してボール。これで1-1となる。

 

続く3球目は俺の膝元へ向かって落ちるスクリュー。

俺は強引に引っ張るが切れてファール。

くそっ、コースがえげつねーし、上手く打ち気を逸らされているな。

一度打席を外し、2、3回素振りをする。

「どうだ? みずきはいい投手だろう?」

六道が俺に話しかける。

 

「ああ、こりゃ左打者にはたまんねーな」

 

「女性だからと言って甘く見るなよ」

 

「こんなにいいピッチャーを舐めてかかれるかよ、それに性別カンケーねーだろ」

 

「お前は翔と同じような事を言うんだな…」

 

「ん? なんか言った?」

俺は聞き返したが六道はフッと笑いキャッチャーズサークルに座る。

 

仕切り直して四球目。

外角低めに投じられたストレート。

(よしっ! 少し外に…!)

俺は出しかけたバットを止める。

 

「ストライーク! バッターアウト! チェンジ!」

 

「えっ…?」

 

「何かね?」

 

「スイングですか?」

 

「いや、ベースの一角を過っている。」

 

「そうですか…」

 

あそこがストライクかよ…。バット届かねぇだろ。

 

「まだ初回だ。気にするな」

青葉が俺のグラブを持ってきてくれた。

 

 

「サンキュー! …頼むぜ、エース!」

 

ウチの投手は青葉だけだ。部に入って一週間ほど。ブランク明けまもない。あっちには宇津が控えている。早めに援護しなきゃな…

 

一回裏 聖タチバナの攻撃。

1番 セカンド原が左バッターボックスへ。

 

青葉が静かにロージンバッグを手に取り、サインに頷く。

振りかぶっての第一球。

「…うらぁ!」

 

「バシィィ!!」

凄まじいミットの音と共に130km/h台後半のストレートがど真ん中に決まる。

 

思わずおぉと声を上げる聖タチバナベンチ。

 

二球目のカーブを打たされ原の打球はサード小山が捌きワンナウト。

 

「ナイス小山!」

 

「…うん!」

 

2番六道をストレート一本で三球三振に打ち取った。

 

すげぇな。キャッチャー鬼力が捕球したときのミットの音が半端ない。

 

続く3番 桐谷 翔が右バッターボックスへ向う。

 

翔への第一球。

高めに浮いたストレートをフルスイング。

 

「カキィィン!!」

 

高々と上がった打球は僅かにライト右に切れファール。

 

流し方向であの飛距離かよ…。それにあのスイングスピード。振り出してからが異常な程速い!

なによりこの打席での威圧感だ。

試合前に話した時は気の弱い奴だと思ったが、打席に入るとまるで別人だ。 たった一回のスイングでウチの守備陣を2、3歩下がらせた…。

 

その後カウントを2-2とし、青葉が投じた五球目。

 

「…ストレート!」

翔が思いっきり踏み込みバットを出す。

そのコースは打たれるぞ…!

と思った次の瞬間…

 

ギュンと唸りを上げるボールはストライクからボールゾーンへ変化し、翔のバットは空を切る。

 

「ストライーク! バッターアウト! チェンジ!」

 

「ナイスピ青葉!」

 

「いいね青葉っち! このままパーフェクトって感じ?」

 

「な、なんだ今の球…。ストレートとほぼ同じ速さ。ほぼ同じキレだった…」

頭の整理がつかずバッターボックスに佇む翔。

 

「これがウチのエースだ」

 

「は、春くん!」

 

「そう簡単には点はやれねーぞ」

 

「…面白くなりそうだね…」

 

互いに言葉を交わしベンチへ戻る。

「ちょっと翔くん! なに三振してんのよ!」

 

「ごごごめーん!」

 

ホント別人だな…。

 

 

試合は二回表。4番神宮寺からの攻撃。

粘りに粘って9球目を打ち上げファーストフライ。

 

5番鬼力をショートゴロ。

 

6番茶来をライトフライに打ち取ったと思いきやライト新井が落球。

 

ツーアウト一塁となるも続く7番右京が見逃し三振。

 

二回裏、聖タチバナの攻撃

4番大京をショートゴロ。 5番 宇津、6番横山をストレートとスライダーのコンビネーションで連続三振に仕留める。

 

さすが青葉だ。 中学時代の評判は伊達じゃない。

 

「青葉、ペース配分気をつけろよ! 7割くらいの力で投げても下位打線には打たれないだろうし」

 

「ああ、なるべく球数は抑えたい」

 

青葉は三振を取るタイプの投手だ。自然と球数は多くなるし制球力は調子の波が激しくたまに高めに浮くけど球威で押してる感じだ。

これが公式戦で相手に待球作戦やバントなどで揺さぶられるとマズイ。

とにかくこの試合は早めに先制点を挙げたいな…

 

試合は投手戦を迎える事となる。

 

両校エースが踏ん張り0-0で迎えた六回表。

ついに試合が動く。

「皆! ちょっと聞いてくれ!」

 

「私に代打とか…?」

 

「いや。稲田は終盤のチャンスに使う。 とにかく橘のクロスファイヤーと緩急は強敵だ。そしてタイミングが取りづらい。 だが相手の守備陣はお世辞にも上手とはいえない。とにかくバットに当てて振り抜こう!」

 

「あまり具体的な策はないのでやんすね…」

 

「ごめん…おれ、中学時代ほぼ二軍だったから…実は試合経験は浅いんだ…」

 

「ここまでのヒットは俺様の火の出る様なレフト前ヒットと小山のセンター前の2本出しな。 完璧に抑えられてるな」

 

「雅ちゃんは完璧だったけど、神宮寺くんのはラッキーヒットでやんす!」

 

「うるせぇな! 次お前からだろ! 出ろよ!」

 

「わかってるでやんす! ときせーの韋駄天、矢部明雄を舐めるなでやんす!」

 

自信満々に矢部くんが打席に入る。

初球、インコースへのストレート。矢部くんが見送り1-0。

その後二球目が外れてボール。三球目のスクリューを矢部くんはフルスイングするが空振り。

 

四球目。その時矢部くんが仕掛ける!

 

「コツンッ」

 

 

「!!」

橘のストレートの力を殺した絶妙な打球が三塁線へ転がる!

 

先程のフルスイングを見て定位置についていた翔の意表を突くセーフティバントだ!

 

「…くっ!」

翔は捕球するが投げられない。

完全に裏をかいた矢部くんの好プレーだ。

 

「うぉぉぉ! でやんす!」

一塁ベース上でガッツポーズの矢部くん!

全く、やってくれるぜ。

 

「翔!気にするな。みずき! ボールは走っているぞ、腕を振って思いっきり投げろ!」

 

六道がすかさず声を掛ける。

 

よし、ノーアウトランナー一塁。仕掛けるか!

矢部くん、仕事してもらうよ!

(※ちなみに監督は俺に采配を任せている)

 

 

小山が打席に入る。

矢部くんはやや大きめなリードを取る。

すかさず橘が牽制!

判定はセーフ。

 

いいぞ矢部くん。君の足なら走ったって刺されない。だがそれだけじゃ勿体無いんだ。矢部くんや右京、左京が塁に出ることは他の奴が出るのとは訳が違うんだ。

 

橘は矢部の盗塁を警戒し一球目外す。

六道も一塁に牽制するが矢部のリードの大きさは変わらない。

 

二球目も外してボール。

矢部くんに走る気配はない。

 

三球目。橘らしくないワンバウンドのボール。

やはりな…。 橘はカッカして制球を乱すタイプだな。

矢部くんにうろちょろされるくらいなら盗塁された方が楽だらうに。

 

四球目は真ん中に決まってストライク。

これでカウントを1-3。

橘の性格上絶対に厳しいコースで勝負してくるだろう。特に同じ女性の小山相手には負けたくないだろうな。

それだけコントロールに自信があるんだろう。

けどな…

 

 

橘が右足をあげた瞬間、矢部くんが絶妙なスタートを切る。

 

「なんなのよ! 最初から走りなさいよ!」

 

橘の投じたボールはアウトローのスクリュー。

小山は振り遅れ気味にバットを出す。

(くっ、厳しいコース…! でも、芯に当たれば…!)

 

「キンッ!」

と芯でとらえた快音を残しボールは一二塁間へ…

 

 

セカンドベースカバーに入ろうとしたセカンド原の裏をかく技ありヒット!!

 

 

ーーウチの小山だって普段はオドオドしてるけど

きっとお前と同じくらい負けず嫌いなんだぜ!

 

「…打てた…。苦手なアウトローのボール…」

 

「ナイスバッティング!」

 

「なぁ左京、今の矢部結構速くなかったか?」

 

「ああ、少なくとも右京、お前よりはな」

 

「んだとコラァ!」

 

「ああん? 思ったこと言っただけだろうよ!」

 

「雅ちゃんいいねー!THA・二番打者って感じー?」

 

「ありゃワイには出来んNA」

 

兄弟喧嘩含めときせーベンチは大騒ぎだ!

 

「みんな…」

小山は一塁ベース上で恥ずかしそうに顔を赤らめガッツポーズする。

(私…このチームが大好き!)

 

 

矢部くんは一気に三塁まで陥れノーアウト一三塁のチャンスとなる。

 

「春! 俺様の前にランナーを貯めておきたい気持ちは痛てぇ程わかるけどよぉ! お前がいいとこ持ってってもいいんだぜ!」

 

「おう! 任せろ!」

 

聖タチバナ内野陣はマウンドに集まる。

「みずき、次の打者なら安全だ。確実に打ち取るぞ」

 

「荒波ってやつ、ここんとこタイミング合ってないですし、大丈夫です、みずきさん」

 

「みずきちゃん、俺たちが絶対守るから! 打たせていいいよ!」

 

肩で息をあげる橘。

「もっちろん! ここは譲れないわよ!」

橘はニコッと笑い、それを見た内野陣も安堵しそれぞれの守備位置に戻る。

 

「ところで翔くん、もしこのピンチ切り抜けたらたら私とデートしてくれる?」

 

 

「ほえ? ちょ、何言ってるの!? 試合中だよ!?」

 

 

「あははっ、冗談よ、動揺しすぎっ!」

 

ーー(この感じ…いつものみずきちゃんだ。…そうだよね、みずきちゃんはウチのエースだもんね! 少しくらいのピンチだって立ち向かって行ける強い女の子だもんね!

 

「ふぅ~」

翔くん…あんなに心配そうに駆け寄ってきて一生懸命励ましてくれちゃって…私そんなに情けない顔してたかしら…

 

「みんなー! 打たせて行くからよろしくねー!」

 

「「「おう!!」」」

 

優しすぎるのよ…鈍感なくせに…

 

 

橘の表情が変わった。

1点もやれない緊迫した展開。連打を浴びピンチを迎えどこか不安げな様子が吹き飛んだように見える。

 

 

にしても今日2打数ノーヒット。

なんて頼りない3番だ…。

橘が足をあげ第一球。

内角ギリギリにスクリューが決まる。

ちっ、そんなに簡単には荒れてくれないか。

 

続く二球目は外角いっぱいのストレートを空振りし2-0

 

この内と外の投げ分けも厄介だな。

正直打力なら神宮寺や稲田、鬼力の方が上だ。

それでも監督は俺をクリーンナップに選んでくれた。

 

 

橘が高々と足を上げる。

 

 

こうなったらあの球に絞るしかねぇな。

まだウチの左打者には1度も打たれてないあの球を…!

 

三球目は外角低めのストレート ー

 

 

俺はバッターボックス目一杯に踏み込む。

俺にはパンチ力もねぇし、当てるのがそれ程上手いわけじゃない。

だからって何もできない男じゃねぇ。そうなりたくはねぇ。

俺は帝王のお荷物だったけど、本気でコイツらと甲子園目指してんだ!

俺だってコイツらに負けないくらい頑張んねぇと、プレーで引っ張んねぇと、キャプテンなんて務まりゃしない!

 

 

当たれぇぇ!!

 

 

「カキンッ!」

 

 

「!」

あのコースを流した!? 前の打席では片手で合わせるのが精一杯だったのに!?

橘が打球に目をやる。

 

ボールは鋭いライナー。ショート塚越が懸命に飛びつく。

 

抜けろぉぉ!

 

「…くっ!」

 

 

塚越のグラブは僅かに及ばずボールは左中間を転々と転がっていく。

 

矢部くんは悠々ホームイン。 一塁ランナー小山は三塁に到達。

 

俺はツーベースヒットを放った。

「よっしゃぁぁ!!!」

 

 

「うぉー! ホントに美味しいとこ持ってきやがった!」

 

「ナイスバッチでやんすー!」

 

「さっすがキャプテンだぜ!」

 

 

ときめき青春高校待望の先制点!

 

「あいつめ。 あんまり打撃はいい方だとは思わなかったが、中々勝負強いじゃないか」

 

「青葉くんも声掛けてあげればいいのにー。先制点貰ってうれしいんでしょー?」

 

「…性に合わないんでな」

 

「ちょっとー。なんかミヨちゃんにだけ愛想悪くないー?」

 

「…女は苦手だ」

 

「へー! 青葉くんも可愛いところあるんだねぇ~」

 

(春、正直お前を見縊っていた。特に優れた物は持っていない。 だけど俺達はお前を信頼してる。 お前が打つだけでこのチームは活気づくんだ。誰も気づいてはいないようだかな)

 

 

遂に動き出した試合。

このまま好投手橘みずきを打ち崩すか、それとも聖タチバナが踏ん張るか…

 

 

 

次回 決着

 




荒波春の能力についてですが
青葉の言う通り特に卓越した能力はありません。
ただ、青葉のような中学時代のスター選手や強豪野球部レベルから見ればの話で、決して能力が低いわけではなく、平均的にバランスの取れた選手です。
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