もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~   作:たまくろー

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第8話 見えざる敵

ときめき青春高校対聖タチバナ学園高校の練習試合。

 

試合は六回表、ときめき青春高校一番矢部のセーフティバントから二番小山、三番荒波の連続安打で先制点を挙げる。

 

聖タチバナエース橘は4番神宮寺にレフト犠牲フライを打たれさらに1点を失い、その後もワンアウト三塁となり5番鬼力にレフトオーバーのタイムリーツーベース、六番茶来にストレートを綺麗に流されワンアウト1.3塁。七番右京のスクイズでツーアウト2塁となるも続く八番左京をセンターフライに抑えなんとか持ち堪えて見せた。

 

 

六回裏、4点を追いかける聖タチバナの攻撃陣はなんとか球数を稼ごうと奮起し先頭九番橘がショートゴロに倒れるも続く原、六道が粘りを見せ甘く入った球を捉え連続安打を放つも三番桐谷が463のダブルプレーに倒れる。

 

ときめき青春高校エース青葉春人はここまで球数は116。 被安打4。 失点0。奪三振8と奮闘するも、ブランク明けまもない試合であり9イニングを投げるのは今日が初。 球数を稼がれ徐々にボールが高めに浮き始める。

七回裏に青葉が制球を乱し連続フォアボールで満塁とするも後続が倒れる無得点

 

一方ときめき青春高校はその後ランナーを貯めるも自ら続投を志願しマウンドに上がった橘の丁寧にコースを突く投球に翻弄されスコアは沈黙。

 

 

試合は八回裏4-0

九番橘からの攻撃。

ハァハァ…クソッ! 情けねぇ、こんなところでバテてたまるかよ…!

 

「ボールツー!」

 

「…くっ!」

 

徐々に球威が落ち、カーブやストレートの制球が悪くなってゆく。

 

「ボールフォア!」

 

 

「へへーん! ラッキー!」

 

荒く息を上げる青葉にチームメイトから励ましの声が飛び交う。

 

クソッ! ここでバテたら意味がねぇ…

 

 

一番原が打席に入る

 

「うぉらぁぁ!!」

 

「ズバーーーン!!!」

 

やや高めだが切れ味抜群のスライダーが決まる。

 

「あんなん今の僕らに打てるかいな。でもほんならやり方変えるだけや」

 

先程の打席ではストレート、カウント稼ぎのカーブを尽くカットし、甘い球をセンター前に運んだ。だがスライダーはカットすら出来ない様だ。

 

 

続く二球目。

投じられた球は緩いカーブ。打ち気を逸らす作戦だ。

青葉は意外と頭脳明晰な鬼力のリードに首一つ振らずただ縦に頷く。ウマが合うようだ。

 

しかし青葉がボールをリリースした瞬間原がバットを寝せる!

 

「送りか!」

 

しかし原はバットを引きボールとなる。

今度は走らせる作戦か…。

 

そういった揺さぶりに青葉は余計に制球を乱し、おまけに走らされ、カウント1-3、かなり限界が来ている。

 

「うぉらぁぁぁ!」

 

 

「…甘いっ!」

 

 

原が一度寝せたバットを再び立てる。

 

「貰ったでェ!!」

 

「カキィィン!!」

 

 

ボールは右中間へ。

「まずいでやんす、これが抜けたらピンチで好打者聖ちゃんでやんす。 ここは無難にワンバウンドで止めるしか……」

 

「!?」

 

 

「どけぇぇ!!」

 

 

物凄いスピードでライト左京が打球を追う。

 

「…くっ! 届けぇぇぇ!!!」

 

 

 

「パシィィ!!」

 

 

 

「ア、アウトォ!」

 

 

 

「「「おぉぉおぉぉ!!!!」」」

 

 

「ナイス左京!!」

 

一塁ランナー橘は慌てて戻る。

 

 

「…ったく! ぼさっとしてんじゃねぇよメガネ!」

 

(あっぶねー… なんとか入ってくれたぜ)

 

「さ、左京くん! ナイスでやんす!ファインプレイでやんすー!」

 

「言っとくがおれはおメーに負けるつもりはねぇからな! グズグズしてたら俺がセンター守んぞ! それに青葉! おめーにだけいいカッコされるのもなんか癪だからよぉ、俺達を信じて打たせろ! 少しは頼りになんぜ!」

 

「…望むところでやんす! 守備はオイラの専売特許でやんす!」

 

「まぁお前がセンターなら俺のがマシだろうけどよぉ」

 

「…で、なんでレフトの右京くんがここにいるでやんすか?」

 

「それはもちろんお前らより遥かに俺の方が速いからだ! 」

 

「んだとコラァ!」

 

「上等だコラ!」

 

「双子には負けないでやんすー!」

 

「「誰が双子だコラァ!!!」」

 

 

すかさず鬼力が間を取り内野陣がマウンドに集まる。

 

「青葉くん…大丈夫?」

 

 

「あ、ああ」

 

 

「青葉っち! 無理しなくていいかんねー! いざとなったら光っちがリリーフやっちゃうから! マジ楽しみなんですけどぉ〜!」

 

 

「え!? お、おう! こ、これでも俺様は中学時代はドクターKと呼ばれた男だ! 青葉のスライダーの比じゃねぇぜ!」

(よ、よし! バレてねぇな)

 

(…嘘だな)

(嘘だよね私聞いたことないもん)

(コクコクッ)

(マジであのフリ乗っちゃった系?)

 

「とにかく! 青葉は気が済むまで投げてくれ!後ろには俺達がついてるからな!」

 

 

「…ああ。」

 

笑顔は見せずともこの返事に皆安堵し、それぞれの守備位置に戻る。

 

 

そうだよな。 コイツらは俺を信頼してこの背番号1を与えてくれたんだ…

 

二番六道がバッターボックスに入る。

 

 

俺は一人で野球をしてるんじゃない。 こいつらが俺を信頼してくれるのと同じように… 俺もこの仲間達を信じねぇとな

 

セットポジションに入る。

 

 

こんなところでバテてたまるかよ。 俺一人で試合を壊す訳には…

 

 

 

 

 

 

「行かねぇンだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夕方~

「春くん! 今日はいい試合だったね! 」

 

「ああ、お前ら本当にこの間部を立ち上げたばかりかよ」

 

「それはこっちのセリフだよ! でも…」

 

「?」

 

 

「次は絶対負けないよ!!」

 

 

「おう! 受けて立つぜ!!」

 

「ガシィ!」

俺達は再び熱い握手を交わした。

後に激闘を繰り広げるこの聖タチバナ学園高校の主将と。

 

 

「ちょっと翔くん! 早く帰ってミーティング!」

 

 

「ご、ごめーん!! すぐ行きまーす!」

 

 

「たくもぉー! 最後に青葉くんからタイムリー打ってなかったら精神注入棒でお仕置きだったんだから!」

 

「やべ、おれ今日ノーヒットだ…」

ガタガタ震え出す聖タチバナの数人。

 

「おいみずき、何故あの球のサインを受け入れなかった?」

 

 

「何言ってんのよ! アレはひみつへーき! 温存よオンゾン!」

 

「そうか…。実戦で試して見たかったんだが。いざという時の為にやはり投げておいた方が…」

 

「秘密兵器はここぞって時しか使わないの! そんなだから聖の想いは翔くんに伝わらないのよ!」

 

「なー! 何を言い出すんだ! しょ、翔はただのチームメイトだ! チームメイトを大切に思って何が悪い!」

 

 

「もぉー動揺しすぎ! まさかあの聖が翔くんにねぇ…」

 

 

「なー!」

 

 

「二人とももう試合の反省してるのかぁ、さすがみずきちゃんに聖ちゃんだなぁ」

 

 

「どこまで鈍感なんや…」

 

「ここまで来ると才能ですね…」

 

「ボクは焦れったくて見てられないよ…」

両手を横にヤレヤレと呆れた表情をする原、大京、宇津。

 

 

試合は5-2。 俺達ときめき青春高校が勝利を収めた。

八回に翔に執念で持ってかれたがこっちも代打稲田のタイムリーで追加点を挙げた。

俺達は学校に帰り部室で今日の反省点を確認し解散した。

解散した後もオイラがMVPでやんす〜!って声が何回も聞こえたりしたな…。

 

 

 

今日は楽しかったなぁ

あんなにはしゃいだのは久しぶり。

誰かが打ったり、誰かが取ったり、そんな平凡なプレーでも私達にとっては一つ一つが名場面。

今まで野球をやる女の子って事でチームには溶け込めなくて、試合には出れたけど誰も声をかけてくれなくて、寄り添ってくれなくて… 野球が嫌いになりかけてた。

でも、このチームは違うんだ。

今までそんなことで悩んで、たくさん泣いた自分が馬鹿みたい。

今は胸を張って言える。

私はときめき青春高校野球部の一員だって。

 

汗ばんだユニフォームから制服に着替え女子更衣室を後にする。

 

「ミヨちゃんはどこに行ったんだろう? 夜道は暗いし一人じゃ怖いなぁ…」

 

 

使い古したスパイクからまだ買ってまもないローファーに履き替え、濃青のセーラー服に身を包みトボトボと正門へ向かう。

意地悪な風がほんのりとスカートをひらつかせる。

 

「あれ? 小山じゃん」

校門前で春くんがスマートフォンを弄っていた。

 

「は、春くん!? 矢部くん達とラーメン屋に行ったんじゃなかったの?」

 

 

「ああ、鬼力と今日の試合について話したかったんだ、だからパスした。 小山は?」

 

 

「これから帰るとこだよ! そ、そのぉ~ 。春君。 途中まで一緒に帰らない…?」

 

 

小山は頬を赤らめ後ろで手を組み学生カバンをぶら下げモジモジしながら俺を見つめる。

 

か、かわいい… あ、風がいい感じ…。 ありがとうございます!

 

「…だめ…?」

 

 

「いやいや、夜道に女の子一人じゃ危険だもんな!」

 

 

俺達は学校を出てかつて練習していた河川敷グラウンドのある河原を歩いていた。

静かな夜。 試合後でクタクタな事など忘れて何か面白い話をしようと頭の中をフル回転させるが中々思いつかず二人は無言で歩き続ける。

 

 

「あ、ここ」

小山が立ち止まり少し前に出て俺の方へと振り向く。サラサラした髪を縛りあげたポニーテールが優しく揺れほのかにシャンプーの香りがささやかに吹く風に乗る。

 

 

「ん? ああ、俺達が練習してた所だな」

俺達は夜の河原の土手に座り込みまだ同好会だったころの俺達を、このグラウンドを見て回顧にふけっていた。

 

 

「つい最近の事なのに、懐かしいね」

 

 

「あの頃は大変だったよなー。 ノックもバッティングもろくにできなかったしな」

 

「ボールも5つしかなかったしね」

 

 

「ああ、そのうちの一つはミヨちゃんが矢部くんの全力投球を川の向こう岸までかっ飛ばしたりしたからなぁ」

 

 

「あははっ そんなこともあったね」

俺たちは少し前のことを回顧し、感慨にふけっていた。

 

段々風が冷たくなってゆく。

少しの間を経て小山が静かに口を開いた。

 

 

「…春君。 私不安だったんだ。 うちの学校すごい怖い人ばっかりで男の子の目つきが怖くて…私、3年間やっていけるかなぁって」

 

「でもね、矢部くんと春君に野球やろう!って誘われてから毎日学校に行くのが楽しくなったの! やっぱりあの時女の子だからって意地はらないで勇気を振り絞って一歩踏み出して良かったと思うよ!」

 

そうか…。いつでも明るく振舞っていたけど小山だって辛かったんだな…。

 

「おれも、不安だったんだ。 自分がまたやきゅうをやることも、みんなが真面目に練習してくれるかとか、甲子園目指してくれるかとかさ」

同じように俺も胸のうちを明かす。

 

 

「…春君って野球が大好きなんだね」

 

 

「え?」

 

 

「春君から春君過去を聞いたとき凄い辛い思いしたんだなぁって。でもそれを乗り越えてまたやきゅうやって、しかもチームをまとめるキャプテンだもん! 尊敬しちゃうよ!私だったらとてもじゃないけど乗り越えられない…」

 

 

「俺はただ矢部くんに目を覚まして貰っただけだよ。あの時の矢部くんの言葉がなかったら今の俺なんてどこにも見当たらないよ」

 

「生まれて初めての一桁の背番号も、キャプテンっていう役職も、俺達で作りあげた野球部も。 全部おれの誇りなんだ。 何がなんでもこのチームで甲子園に行きたい。 今の俺の夢だから 」

 

「…」

(…春君…)

 

そ、そんな無言で見つめんなよっ。

くそっ、目のやり場に困るぜ…

自分でもわかる。かつてないほど胸の高鳴りが聞こえる。何故だろう。小山といる時だけこうなるんだよなぁ。

 

「も、もう遅いし帰ろっか!」

 

 

「え、あ、うん!」

 

俺は小山の手を掴みそのまま優しく手を引っ張り小山もそれに応じて立ち上がりスカートに付いた芝生を払い虫の鳴き声一つ聞こえない夜の静かな道をゆっくりと歩いていった。

 

 

 

 

 

月日は流れ

そんなに経ってないけど六月~

 

 

今日は夏の地方大会、甲子園予選の抽選会だ。

 

「いやー、まさかいきなり大会に出られるとは思わなかったでやんす」

 

「でも大丈夫かよ? 小山は出れないから9人ピッタリだし、練習試合だって聖タチバナとやったっきりだぜ?」

 

神宮寺…、抽選会場で長ランは不味いって。

「大丈夫! あれから苦手な守備の連携や、バント練習なんか死ぬ程やったんだ! 他の高校の奴らに遅れをとっている訳がない!」

 

「青葉くんも相当走り込んだでやんすからねぇ、電車通学なのに走って登校してるでやんす」

 

「ああ、お陰でだいぶ足腰が強くなった」

 

「そこの彼女! チョー可愛いねぇ~。 イヤマジで! おれときせーのセカンド茶来元気っす!マンモス頑張っちゃうから応援シクヨロ〜!」

 

 

「あれはどうしたものか…」

 

 

「おい、あれときせーだってよ」

「マジ? 野球部なんてあったっけ?」

「うわー当たりたくねーなぁ、デッドボールとかしちゃったら何されっか分かんねーよ」

「どーせ真面目に練習してねーだろあんな不良だぜ?」

「うお? 女がいるぜ! あれ選手かよ!」

 

「小山、気にすることないぜ、言わせておけばいいさ」

 

「わかってるよ! あの人たちが腰抜かすくらい皆の努力の成果、期待してるよ!」

 

 

「オイラ達かなりイメージ悪いでやんすね…創部1年目ってこともあってかなり舐められてるでやんす」

 

「仕方ないだろ、コイツらに教えてやんねぇとな、俺達の野球を!」

 

「もちろんだ!」

 

 

俺たちの地区は参加校はそこそこ多い方だ。

俺たちにシード権は無いから五回勝てば甲子園だ。

 

近年の実績をポイント化し、ポイントの高い上位4校がシード権獲得となりまず最初にその4校で抽選となる。

 

 

「第一シード、あかつき大付属高校」

 

「あかつきか…」

 

「今年のあかつきには黄金世代を代表する選手が沢山いるでやんす。 あかつきと対戦する高校との試合は力の差が有り過ぎて見てられないでやんす。 ここ16年間春、夏の甲子園はあかつきが出場してるでやんす!」

 

「ほんまかいNA。 そんなに強かったんやNA。 にしてもお前詳し過ぎYA」

 

「伊達にメガネじゃないでやんす!ちなみにトーナメント表では第一シードは左上、第二シードは右下、第三シードは左下、第四シードは右上でやんす! つまり順当に行けば第一シードと第三シード、第二シードと第四シードが戦うことになるでやんす! まぁ番狂わせも有り得るでやんすが」

 

「そ、そうかいNA」

 

 

「第二シード、帝王実業高校」

 

「!」

 

「帝王か…ここはあかつきのようにずば抜けた実力を持つ選手ばかりではないが総合力では実質No.2だ」

 

「青葉くん…オイラのセリフ…」

 

 

「第三シード、パワフル高校」

 

「ここは投手層が厚くて4番がタメのスゲェー奴だったな。 20年前甲子園を制した古豪だ。」

 

「神宮寺くん… 情報通キャラはオイラ…」

 

 

「第四シード、灰凶高校」

 

「最近頭角を現した高校だな。なんでも野球部が二つに分離して活動してるらしい。 不気味だぜ。」

 

「ああ、少し前の席に居るのがそうだろう。 なんだあのヘルメット?」

 

「ちょ、マネージャーマジ可愛いんですけどぉ!!」

 

 

「…もう諦めたでやんす」

 

こうしてシード校が出揃った。

甲子園に行けるのはトーナメントを制した一校のみ。生き残りを賭けたサバイバル戦だ。

 

 

 

 

「ーときめき青春高校 71番です!」

 

 

「んーと、げっ! 帝王のシード下でやんす!

春君くじ運悪すぎでやんす!」

 

「一回戦はバス停前高校か」

 

「いきなりNo.2とかよ…燃えてきたぜ!」

 

「皆、その前に一回戦はバス停前高校が相手だよ…」

 

「ミヨちゃん明日帝王の偵察に行ってきますー」

 

「…」

 

「何辛気臭い顔してんだよ、キャプテン」

 

「チャンスじゃねぇかよ! お前が帝王の奴らを見返す!」

 

 

「おう! 俺達のキャプテンの借りは返してやんぜ!」

 

 

「皆…よーしやってやろうぜ! 目指せ甲子園だ!」

 

 

「「「「おう!!!」」」」

 

 

 

 

「ククク、、、ときめき青春高校か。 これは楽しめそうですねぇ」

 

 

トーナメントも出揃い、気合を入れ直すときせーナインに忍び寄る影が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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