もう一度ここから ~ときめき青春高校野球部アナザーストーリー~ 作:たまくろー
夏の甲子園予選。
パワフル市民球場での4日目第一試合。
ときめき青春高校の記念すべき初の公式戦、バス停前高校戦。白地に黒の縦縞、ところどころにチームカラーの藍色が目立つユニフォームに身を包み悪ガキ達が球場に乗り込む。
「カキィィン!!!」
「打ったぁー! 四番鬼力くん! ダメ押しの走者一掃タイムリーツーベースだぁ!」
「創部1年目、初出場のときめき青春高校! バス停前高校を全く寄せ付けません! 4回終わって8-0!部員全員が1年生ながら圧倒的な力の差を見せつけています!」
まさかの展開にざわつく観客席。
無理はない。 今大会のチーム紹介本には「初出場。 エース青葉を中心になんとか初戦突破を目指したい」なんて書かれていた。
そんな弱小評価のチームだが蓋を開けてみればバス停前高校を圧倒。 皆この評価を受けて「必ず見返してやる!」とギラギラと闘志を燃やしていた。
「…と、ときせーって意外と強くねーか?」
「ば、ばか! 相手は今までただの一回も勝ったことないバス停前だぞ? 俺らなら20点取るぜ」
「つーかあの青葉ってやつさ、やっぱあの青葉だよな?」
「あのスライダーは間違いねぇな…」
観客席には白を基調とし黒の縦縞、黒色のアンダーシャツにストッキング、胸には黒字に赤縁で帝王と書かれたユニフォームを纏う集団が観戦していた。
「…バス停前が弱すぎるのか、それともときめき青春が強いのか…。 友沢、お前、どう思う?」
「例えバス停前が創部以来勝ち星がないとしても試合を見ればわかります。 ときめき青春の方が遥かに上ですね」
金髪のこの男は友沢亮(ともざわ りょう)。
1年生にして投手山口賢(やまぐちけん) とのダブルエース、打者としてはクリーンナップ、ショートの守備位置を獲得した天才選手だ。
(春…。まさかお前が野球を再開していたとはな…)
「んまーでも青葉のワンマンチームって感じじゃねーか?」
「お、おい! あのショートの荒波ってよぉ! うちの中学にいた荒波 春じゃねーか?今選手名鑑で確認したけどキャプテンだってよ!」
「マジで? あのまぐれヒーローがキャプテンかよ! 冗談もいいとこだぜ! 」
「油断は禁物です。 大雑把なプレーが目立ちますが決して弱いチームではありません」
「おカタイねぇ〜友沢くんは。 まぁあの凡才がキャプテンのチームだぜ? 余裕だよ!」
「友沢くんの言う通りですよ。 この帝王実業こそ地区No.1に相応しいのですから」
「いやー、お前もそうだけど今年は友沢も入ったしほんと心強いなぁ。後輩に頼ってばかりで情けないぜ」
「いいんですよ。 目標は僕達も同じですから…」
「うぉらあぁ!」
「ストライーク!バッターアウト! ゲームセット!」
「試合終了!11-0! ときめき青春高校! バス停前高校を5回コールドで圧倒! 二回戦に駒を進めました!次は6日目第二試合となります! 」
「イエーイ! 俺達マジで強いんじゃね!?」
「青葉くんナイスピッチでやんす!次も頼むでやんす!」
「ああ、皆もよく打ってくれたな」
俺達は試合を終え選手控え室へ。
そこへスタンドで応援していた小山が駆け寄る。
「皆! おめでとう! かっこよかったよ!」
「おお! 雅ちゃんからお褒めの言葉でやんす! これならもぉ負ける気がしないでやんす!」
「帝王の奴らもコールドにしてやろーぜ!」
「今週のワイは調子良すぎYO〜! 誰でもかかってこいYA! 」
「ミヨちゃんなんとか最後までスコアブック書けました〜」
「はっはっは!左京! 俺はヒット2本打ったぜ!」
「うるせー! 牽制刺された奴に自慢されたかねーよ!走るのバレバレなんだよ!」
「ああん!」
「「やんのかコラァ!!」」
「オイラも混ぜるでやんす!」
「相変わらず双子ちゃんにメガネはYO~」
「兄弟喧嘩は家でやれよ…」
「「俺達のどこをどー見れば双子なんだよ!!」」
皆今日の勝利がよっぽど嬉しかったらしく雰囲気もいい感じだ。 そりゃこないだの聖タチバナ戦ではバテバテの橘から打てただけだったからな。
ここまで打線が繋がると嬉しいよな。
「ささ、帰ってミーティングやろ。 青葉くんはアイシング忘れないでね」
監督の一言でお祭り騒ぎのまま俺達は球場を後にする。
そして部室にて俺がホワイトボードに今日の反省点をまとめる。
「正直今日の相手は勝って当然だ! 試合には勝ったけど反省点は山程ある! 俺達の評価が覆った訳じゃない!」
「確かにでやんす。 不良校ってだけで初回のブーイングは酷かったでやんす」
「ああ、俺達には応援団も居ないしな」
「せめてチアガールだけでも欲しいでやんす…」
「右に同じくって感じー?」
「とにかく次の帝王戦だ! ここで勝てば俺達の評価はガラリと変わる! それに甲子園に行くには倒さなきゃならない相手だ!」
鬼力が事前に調べた帝王の中心選手の特徴をまとめたノートをホワイトボードに書き写す。
説明は…俺が任された。
「えーと、まずは1年生エース山口賢。 マサカリ投法から投げる捕手泣かせとも言われる凄まじい落差のフォークが武器だ。 後はカウントを取りにカーブ、球速はMAX145km/h。鬼力データによると決め球の7割はフォークだ」
「次に3年生四番ファースト大門。 広角に打ち分ける打撃が特徴。今年のドラフトの目玉だ ちなみにキャプテンだそうだ」
「セカンドは1年生蛇島桐人(へびしま きりと) コイツは俺も知ってるがとにかくなんでもできるオールラウンダーだ。 特に超人並のした守備範囲が持ち味だ。あと、不気味でいけ好かないヤローだ」
「次に友沢 亮。 俺達とタメな。 こいつは紛れもなく天才だ。 全てにおいて非の打ち所がない。決め球のスライダーは青葉と同じくらいの威力だろうな」
「青葉と同じかよ…」
「ここが鬼門でやんすね… 他の選手も目立たないけど一流選手ばっかりでやんす」
正直力の差は歴然。
部員の殆どが中学時代、精神倒錯に陥ったり、まともな環境に恵まれず途中で部活を辞めている。
高校に入ってからまともな練習を出来たのは1ヶ月程。
ときせーは野球部以外はまともに活動している部活はない。 そんな中今まで一緒にヤンチャしていた仲間がいきなり夢を見つけ、有り余ったパワーをぶつけるモノを見つけた。それが気に入らない生徒も多く、部室やグラウンド荒らされたり、備品を壊されたりして今でもまともな環境とは言い難い。
「ちょ、ちょちょ、マジっすか!! マジパねぇ! 皆ちょいこれ見てくんね!?」
茶来のスマートフォンに皆が視線を集める。
画面に映し出されていたのは俺達今日の試合についてだ。
「ときめき青春高校バス停前高校を圧倒! 賄賂、恐喝の噂も!?」
この記事には多くのコメントを寄せられていた。
「ときせーなんて練習してねーよ。 試合前に脅したに決まってる」
「神聖なる高校野球。 彼らにそのグラウンドに立つ資格はない」
等々俺達の評価が覆る事などなく、俺達の勝利への疑い、俺達の高校球児としての批判で溢れていた。
「あ、あんまりでやんす!」
「何だこりゃ…」
「ワイのタイムリー見て言ってんのかいNA!!」
「そんな…皆頑張ったのに…。スタンドからでも伝わったのに…。」
小山の目には涙が浮かぶ。
「俺達の事気に入らない奴ばっかじゃん、マジ下げだわぁ~」
「…ふざけるな、コイツら試合を見て言ってるのか」
やっぱり俺達の事良く思ってる人なんて居ないんだ…。
まあここらじゃ有名な不良校だし抽選会場でも凄い避けられてたしな。
「…ちょっとみなさんー。 落ち込み過ぎー! そんなの次の帝王倒せばいいじゃないの! ミヨちゃん皆の頑張ってる姿大好きだからこんな事言われるの悔しい…。 けどここで怒ったって何にもならないよ~! 帝王の人達を倒して見返そーよ!」
「うぉぉ! ミヨちゃん! もし勝ったらオイラと付き合ってでやんす!」
「それはお断りしますー」
「そうYO~。帝王倒せばワイらはヒーローYO~!」
「気にすることないぜ! 俺様なんて進学校の受験に落ちて親から見捨てられてんだぜ!」
「光っちそれぶっちゃてイイんスか!?」
「そういえばお前テストオール100点だったな…。そんな事があったのか」
「まぁ今の俺様には野球しかないわけよ! その野球でバカにするやつは許さねぇ!!」
「よーし! 皆バッティングセンター行こうでやんす!」
ミヨちゃんの一言でなんとか皆戦意を失わず、良いムードを保った。この地区ではここ数年あかつきと帝王の二強の時代だ。
それより昔には最強と言われたあかつきと弱小校から公立校の雄へ成り上がったパワフル高校が毎年決勝で死闘を繰り広げたりしたらしいが…。
そんな近年の二強の一角、完全なる勝利至上主義、帝王実業に俺達経験不足のルーキーチームが挑もうとしている。
当然観客は出る杭は打たれるの如く俺達が叩きのめされる姿を見たいのだろうが、俺達にそんなつもりは毛頭ない。
皆はバッティングセンターに向かったが俺は監督に呼び出され部室に残る。
「荒波くん…」
「どうしました? 入れ歯なら監督の口の中にありますよ?」
おふざけが過ぎたがこの人は昔は【知将】とか言われていたらしい。
最近知ったけど…。
「少し辛い話をするけどね…。 正直帝王とは実力が違い過ぎるの。ワシもこんな事は言いたくないけどね勝てる可能性は0に等しい 」
「…えっ?」
いつもは朗らかな監督だがどこか様子が違う。
「皆の全てが崩れかねない。 ウチは1度どん底を味わって這い上がった選手が多い。 それを圧倒的な力を前に自信をなくし野球を諦めてしまうかもしれない」
「…」
確にそうかもしれない。
矢部くんは人数ギリギリの弱小中出身。今回出場出来ないが小山はチームメイトから疎外され、青葉や俺は野球を諦める程のダメージを負ったこともある。
茶来はおばあさんを助けるために、三森兄弟は優秀な兄弟との比較に苦しみ野球を捨てた。
それに神宮寺は秀才だったが超進学校の受験に失敗し、教育ママに見捨てられときせーに通っている。
「そんな強大な相手に勝つほんの少しの、一筋のヒカリがあるの…。 それはキミ。荒波くん。」
「…ほえ?」
一瞬耳を疑った。てっきり青葉のピッチング次第だと思っていた。
「そう。僅かな勝利への可能性。鍵を握るのは荒波くん。 」
「まず仮にウチの絶対的エースの青葉くんが打ち込まれた場合、精神的支柱が崩れる事になるからね。これは確実にチーム全体に影響が出る、これをキャプテンとしてなんとか阻止して欲しいね。 後はキミの経歴。帝王出身で相手のチームカラーを誰よりも知ってる。そしてドロップアウトしてもまたこうして立ち向かう精神力。プレーではまだまだ皆を引っ張るには程遠いけど、チームの土台の一人であるキミが崩れる事は絶対に許されない、そこで生きるのが中学時代帝王で感じたレギュラーとの壁。 キミは一番力の差を理解出来ている。 そのレギュラーを取れなかった苦い経験を武器にするの」
「俺が、鍵を握る…? 俺の経験が武器…?」
考えられない。何の取り柄もなくてお荷物選手だった俺が…僅かな可能性…?
おれのコンプレックスが武器に……?
監督からの思いもよらない言葉に動揺を隠せない荒波 春。
果たしてどんな試合を見せるのか。
どんな結果が待っているのか。