艦これ 2人の軍人と艦娘たち   作:あるPガス

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第2話 駆逐艦娘の力

『提督が鎮守府に着任しました!これより、艦隊の指揮を執ります!』

 

『漣』という名の少女が、大きな机に備え付けられたスタンドマイクに向かって喋る。彼女の声はスピーカーと通して、この建物中に響き渡る。

 

「じゃあご主人様。今日はどうされます?」

 

漣は笑顔で聞くが、正直私は何をしたらいいのか全く分からない。

 

「ちょ、ちょっと待て、漣。私はここに着任はしてない。見学に来ただけだ!」

 

漣の顔がムスッと不機嫌そうな顔になる。

 

「えー、嘘言わないでくださいよ。新しいご主人様って聞いたんですけどぉ」

 

「私はまず君たちが何者かを知りたいんだ。そもそも君たちのような子供が、何故秘密兵器なのか。それらを知った上で私がお前たちの世話をするかどうかを決める。もちろん餅川大将の許しも得ている」

 

私は彼女と出会ってここに来るまで少し話をしたが、どうやら彼女は『艦娘』というらしい。

 

「俺たちの艦でも深海棲艦は相手にできなかった…それでお前のような子供がどうして戦えるか」

 

逵馬がさらに問う。

「秘密兵器扱いされても困りますけどねぇ…」

 

漣は目をつぶって少し考えた後、突然ハッとする。

 

「ご主人様!漣は口先で説明するのは苦手ですから、訓練場で戦闘するとこを見せるのはどうですか?」

 

「百聞は一見に如かず、というやつだな。いいだろう」

 

逵馬も頷く。

 

漣は嬉しそうにピョンと飛び上がる。

 

「キタコレ!じゃ、早速行きましょう!」

 

漣は私の右手を掴むと勢いよく駆け出す。やはりこんな子供が秘密兵器だとは考えられない。無邪気な娘であると感じた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

大きな海…ではなく、大きな池がある訓練場に来た。池と言えども、競艇場ほどにはあると思われる。

あちこちに棒に支えられた的も見える。

それ以外に何か特別な設備は見えないが訓練場なのは確かであろう。

 

漣は準備のために、私たちをここまで案内すると司令部庁舎に戻っていった。

 

複数枚の紙をホッチキスで留めただけの資料をめくる。「漣のこと少しだけまとめてみました」と漣から渡された物だ。中身はあまり大したこともなく『昔の駆逐艦漣』と『艦娘の漣』についてしか書いてない。

昔の艦のことにはついては漣から後で聞こう。それよりも艦娘について知りたい。

漣の兵装についても書かれている。だが、どうもおかしい。

 

『12.7cm連装砲 1基 2門』

『61cm三連装魚雷発射管 2基 6門』

『戦況により、高角砲、機銃、爆雷投射機等に換装可能』

 

12.7cm連装砲は昔の駆逐艦の標準的な兵装であったと記憶している。12.7cmの口径は重戦車に匹敵する大きさであり、かつ連装である。この連装砲は明らかに大きな物であるはずだが、艦娘にも搭載できる物なのか。さらに三連装魚雷発射管も2基あり重装備である。

艦娘の正体がセーラー服の普通の少女だっただけにどのように大きな兵装を持ってくるか謎である。

 

「綾波型駆逐艦…か…」

 

逵馬が白黒の『漣』の写真を眺めながら呟く。

 

「これがあんな可愛い女の子だぜ?信じられるかよ」

 

「私もまだ納得がいかない」

 

私も逵馬も、手渡させた資料を何度も読み返すばかりだ。

 

「ところでさっき漣が放送した時『提督が鎮守府に着任』って言ってなかったか?ここ鎮守府じゃないぞ?」

 

「彼女たちはずっと秘匿にされてたんだ。ここ以外の施設に立ち入ったことがないかもしれん。だからここが彼女たちの鎮守府、と私は解釈している」

 

「あぁ、なるほど」

 

しかし漣のような明るい少女たちが、こんな軍の1施設に閉じ込められているとは考えたくない。

そういえばここに来るまで漣以外の艦娘に出会っていないのも謎だ。

年頃の少女が学校どころか、この施設以外に行けないと考えると精神的に大丈夫かどうかも疑われる。

 

「ご主人様〜!お待たせしました〜!」

 

漣の大声が聞こえる。

 

ガッチャガッチャ音を立て、走ってきた漣は重たそうな鋼鉄の装備をいくつか身につけていた。

漣の背後から黒髪の少女が小さく顔を見せる。

 

「ん?…その子は」

 

逵馬が首を伸ばすとその子はビクッとして漣の背中に隠れた。

 

「ヒィッ!構わないでください…」

 

「ちょっと、うーしーお!新しいご主人様の前で怯えないの!」

 

漣が『うしお』という艦娘を無理やり引っ張り、私たちの前に立たせる。

女の子らしくない名前だと思ってしまったが、まぁ前世は駆逐艦だからしょうがないところだろうと思う。

 

「ほら、ご主人様に挨拶して」

 

「うぅ…特Ⅱ型駆逐艦…10番艦の潮(うしお)です…もう下がってもよろしいでしょうか…」

 

黒髪のロングにアホ毛がついた潮は目線を私たちから逸らし体が震えている。そして漣よりも遥かに大きい胸もぷるぷる震えている。

背中に重たそうな装備を背負ってるということは、漣と一緒に戦闘の仕方を見せてくれる艦娘なのだろう。しかし自己紹介の仕方から不安しかない。

よく見ると装備品のあちこちに可愛いシールも貼られてる。うーん…

いつもの私ならここで「貴様!だらしない!」と怒鳴るだろうが、さすがに相手は気弱い少女なので「あぁ…よろしく…」としか返せなかった。

 

「ご主人様!ひょっとして潮のことナメてないですか⁉︎潮はこれでも第七駆逐隊の司令駆逐艦なんですよ!」

 

「は⁉︎司令駆逐艦だと⁉︎」

 

「やっぱりナメてた!」

 

司令駆逐艦ということは駆逐隊のリーダーにあたる艦のことである。実際の艦なら艦長とは別に駆逐隊司令官も乗り駆逐隊をまとめる。

しかしこんな気弱い子が…

とか思ってたが潮本人は顔を真っ赤にして俯いてしまった。さっきよりもブルブル震えている。

まずい。ここで信頼関係に傷を付けてしまっては…

 

「あぁ!すまん!気にするな!私はお前を決してナメてたとかそういうわけじゃない!」

 

泣きそうな少女を前にして落ち着いていられるわけがなかった。

 

「ごめんなさい…その…私、ちゃんとしてなくて…」

 

潮の声はみるみる小さくなる。体育座りになってうずくまり、頭を抱える。まだふるふると震え、泣いてるようにも見える。なんて心が弱い娘だ。

しかしうずくまってしまった潮を見て漣は何か思いついたかのようにニヤッとした。

 

「ご主人様…こういうときはスキンシップが有効ですぞ…」

 

確実に悪巧みを考えている顔をした漣がそーっと近寄る。手をコネコネさせるのでまるで悪徳商人のようだ。

 

「駆逐艦娘の力、お見せする時が来ましたなぁ」

 

『お見せする時』がどんな時なのかは私には分からない。

逵馬はどうも楽しみらしく、ニヤニヤと笑う。なんで笑う。止めろよ。

「ご主人様。ほれほれ手を出してみなされ…」

 

「待て。漣、何をする気だ?」

 

漣は私の手首をしっかり両手で握る。漣は私の顔をニヤニヤした顔で見ると、次はまだうずくまる潮に視線を向けた。

 

「おいコラ!漣!お前の考えていることが分かったぞ!」

 

すごく嫌な予感がする。私は慌てて漣の手を振り払おうとする。

 

「はわっ!ご主人様!漣の本気はこんなもんじゃありませんよ!よーっし、機関始動!」

 

漣が突然叫ぶと漣の背中の装備が大きな音を立て、黒煙を吹く。なるほど。これが機関部なのか。

 

いや、感心してる場合ではない。

 

漣の腕の力が明らかに強くなっているのだ。腕の見た目は変わっていない。筋肉が膨張したようにも見えないし、血管も浮き出てさえいない。普通の綺麗な少女の腕だ。しかし背中の煙突が大きな音を立て、黒煙を吹くごとに漣の力は強くなっていった。

 

「どうです!ご主人様!これが駆逐艦娘の力なのです!ちょっと本気はすごいでしょ!」

 

漣のドヤ顔に腹が立つ。しかし何も言い返すことができない。軍人の私がこんな少女に力負けしてるなんて…

 

これが艦娘か。背中の煙突が黒煙を吹くだけで駆逐艦の力を手に入れられる。いや、本当の力はこんなもんじゃないはずだ。何万馬力の力が私の腕を引きちぎるに違いない。人間である私にそもそも勝ち目なんてなかったのだ。

 

いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない!

 

私は全力で引っ張っているつもりだが、漣は涼しそうな顔で引っ張り返す。どう見ても勝てるわけがない。

 

「潮!潮!そこどけ!危ない!」

 

「うぇ?」

 

うずくまっていた潮は顔を上げる。まだ怯えているようで半泣きの目が私を見つめる。

ついでに上げた顔の下から潮の大きな胸もはっきりと現れる。

 

「潮!早くそこど」

 

「させるかあああぁぁぁ‼︎」

 

漣の機関が大きな破裂音と黒煙の塊を出すと一気に腕が引っ張られる。あまりにも急で腕が取れそうなくらいだ。

腕の痛みが雷のように脳に伝わると同時に手が触れる物が柔らかいことに気づく。

 

私の手は潮の大きな胸の上だった。

 

しばしの沈黙。

 

潮の半泣きだった目から大粒の涙が溢れ出し、震えは最大震度に達する。

 

「ひゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

 

潮の悲鳴はとても大きく、訓練場に響き渡った。ここ、第一艦隊司令部庁舎敷地内だけでなく、横須賀鎮守府中にこだまする。

同時に潮はずっとカバンのように肩に掛けていた正方形の物体を私に差し出す。ピンク色の正方形の物体には2本の筒がついてた。

 

「もうっ構わないでくださいいいいぃぃぃぃ‼︎」

 

これが…これが12.7cm連装砲…

 

私の頭がそう考えた瞬間、鼓膜をぶち破る爆音と吹き上がる炎と全身の痛みと共に、私は宙に飛んだ。

 

一瞬の静寂。青い空を眺めたまま私の意識も飛ぶ。

 

柔らかい感触を手の先に記憶したまま…

 

 

 

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