第3話は第2話の事件の翌日の話になってますが、第4話は第2話と同じ日の出来事になります。
第4話 漣と潮と正座の刑
「はぁ…本当俺までなんでこんな罰を受けなきゃいけないんだ…そろそろ辛い…痛い…」
「痛い痛いごめんなさい!ごめんなさい!痛い!」
「いや、俺はもういいからまず大波大佐に謝ってきなさい。重傷を負わせたのは君だから」
「もう!ご主人様!いっ痛い!謝る前にこのロープで縛られたこの両手をどうにかしないといけませんね!痛え!」
「貴様がそもそもの元凶だ。おめぇはそのまま海にでも落っこちやがれ。このクソ野郎」
「あーっ!ひどーい!なんですか!痛え!ご主人様だって痛え!漣の行動を止めもせずニヤニヤしてただけだったじゃないですか!痛い!あそこで止めたら今こんなことにはなってませんよ!痛い痛い!」
「お前は自分の脳で自分の行動を抑制させることができないのか?だいたい俺のこともアイツのこともご主人様ご主人様ってお前にとってご主人様の定義って何だ?」
「ご主人様はご主人様の数だけ存在するのです」
「答えになってねぇ!それはともかく誰か助けやがれ‼︎あー痛えんだよぉ‼︎」
暗闇の中で俺の悲痛な叫び声が響く。
あの事件発生直後、どこからか監視してたのか朧と曙という艦娘が駆けつけた。
まず大怪我を負って気絶した剛仁郎が2人によって担架で運ばれてっいった。
潮はまたうずくまって泣き出し、漣はわざとらしく「ご主人様!ご主人様ぁ!」と剛仁郎に呼びかけながら朧と曙について行った。
やがて漣が曙に引きずられて戻ってきた。曙は俺たち3人を正座させ長い長い説教をした。
今までの出来事を簡単にまとめるとこんなもんだった。
剛仁郎が倒れた時、俺はてっきり剛仁郎が死んだとばかり思ってしまった。そのため朧と曙が駆けつけた後も2人の対応がとても迅速だったこともあり、俺は何もできずただ突っ立っていただけだった。思い出すと非常にバカバカしく感じる。
結局アイツも痣を作っただけで命になんら別状はなかった。
今は真っ暗の倉庫で『正座の刑』を受けている。手を後ろに縛り足の上に砂袋を乗せて正座する。これが長時間続くとキツイ。
倉庫は普通土足で入るものだ。なのでそこらじゅうには小石や砂が散らばり正座する足にチクチク刺さって痛い。1時間くらいこのままだがそろそろ限界である。
「痛ぇ…ご主人様ぁ。どうします?」
「どうすると言われてもなぁ…真っ暗でお前の顔さえ見えない」
漣はすぐ右隣、潮はさらに向こう側にいる。
「あの…そろそろ足がダメです…痛いです…はぁ…痛い…」
「潮、俺も漣もそうだ。いくら『正座の刑』とはいえども、どうにかして足ぐらいは動かせるようにしたいなぁ」
しかし手も使えないし足の上には重い砂袋がある。ちょっとやそっとじゃ無理だ。動かせない。
不幸なことに俺の砂袋だけ漣や潮の砂袋よりも段違いにでかくされた。しかしこんな砂袋にさえ勝てないとは情けねぇ…
ところで先ほどの事件で艦娘のことでいくらかの疑問が生まれた。
今この状況だからこそゆっくり話せるのではないか?
「漣、さっきの事件でお前、アイツとの力比べで勝ってたわけだが、あの煙突はなんだ?」
「機関部ですヨ。我ら艦娘のパワーの源でござる」
「その…機関部とやらが動けばお前ら艦娘の体の力まで強くなるのか?」
「そうです。でも今は艤装背負ってないんでただの女の子です」
「艤装?」
「あっ…機関部なり連装砲なり、それら装備品を総称して…くぁ、いてー…『艤装』って言うんです」
「艤装か…艤装さえあればな…」
「あ…今『俺たちがその艤装を使えば無敵になれる』とか思ったでしょ」
ここで潮も会話に参加入る。
「艤装は私たちが艦娘として生まれてきた時から装備してますので。うぅ、いて。言わば艦娘の体の一部みたいなものですよ。くぅ」
「そうなのか?」
「だいたい艤装あってこそ艦娘と呼べるのであって、艤装を奪われたらホントただの女の子ですよ。痛いなぁ…カァー。今艤装背負っていればこんな砂袋吹っ飛ばせるのになー」
そうだ。今はとりあえずこの砂袋をどけないと。しかしどうするか…
「えっと、ご主人様。頭動かせます?」
「ん?あぁ。まぁそれなりに上半身は動かせるぞ」
「じゃあ漣のお腹を頭で押してください!」
突然の提案にそれが実用的かを考える前に頭に血がのぼる。
「女子の腹をいい歳したオッサンが頭でつつけるか!」
「ご主人!漣の重りはご主人様のよりも軽いですし、漣とご主人様の力を合わせればこんくらいひっくり返すことができるはずです!いてー」
「しかしお前だけが足の痛みから解放されてどうする」
「漣だけでも助かればご主人様の重りも潮のも足で蹴っ飛ばせますから!いてー!縛られた手はどうしようもありませんけど。いてー。とりあえず今は迷っている暇はありません!痛いので早く!」
うーむ、結果的に俺も助かるならいいが…
どうも『漣の腹を頭で押す』というところにためらいがある。
俺だって自衛隊で長いこと働いているのでしばらく女には会ったことがない。なのに今日出会ったばかりの女子の体に触れることなど、許されることでは…
俺にも嫁がいるのに…
「ご主人様!早く!痛い!早くしてよ!」
「提督…私も…痛いです…」
ええぃ、ヤケクソだ。こんな幼い少女を助けないでどうする。
(かーさんよ…許せ…)
漣の気配を頼りに、なるべく漣の体に触れないように頭を近づける。砂袋が足を固定するおかげで倒れる心配はない。
「ご主人様…別に漣は体のどこかにご主人様の頭がぶつかろうがそんな気にしませんよ?」
「お前がよくても俺がダメなんだ」
漣の太もものギリギリまで接近した。外から見ればほぼ膝枕といったところだ。
そういえば漣はスカートを履いているから太ももは完全に生足むき出しか。触れてしまうのが怖い。
「で?このまま腹を頭で押せばいいんだな?」
「そうですー」
服の上から腹を押すんだ。直接触れるのでないんだ。これくらい我慢しなければ。
ゆっくり頭を漣の腹に当てる。服の上からとはいえ、若干柔らかな腹を感じることはできる。
「ふーーーーーんっ‼︎」
力を込める漣の声がする。
それと同時に俺もできるだけ力を腹と首に込め、漣の腹を押す。
さっきは少し柔らかかった漣の腹が一気に固くなる。艤装が無くても、普通の女子にはない腹筋はあるみたいだ。やはり艦娘だから鍛えられているのだろう。
「2人とも頑張ってください!」
潮の応援が聞こえるが漣の体はこれ以上倒れない。漣の腹筋は見掛け倒しか。
「ご主人様!お腹痛い!えっと!テコの原理的意味でもっと上の方押してください!痛い!」
「それは無理だ!胸じゃねぇか!」
「ご主人様ならいいです!たとえ告白されても!」
「そこまでは言ってねぇ!」
「じゃあ潮!漣の胸に体当たりしてきて!壁ドン!」
潮に対する突然のとばっちり。
「ふえっ⁉︎えーっと…」
迷う潮。
「早く!潮もこの痛みどうにかしたいでしょー?」
「は、はい!」
「いてー。ほらっ!早くっ!」
「じゃぁ…潮…やります!……えーーいっ‼︎」
焦った潮は気合を入れて上半身を腰から勢いよく動かす。暗闇で見えないがおそらく。
潮は漣の声だけを頼りに頭をぶつける目標は決めただろう。ただそれが漣の胸の位置よりも低かったことに気づかなかったようだ。
潮の後頭部が勢いよく俺の鼻にぶつかる。
「はがぁ⁉︎ふが……バ、バカヤロー‼︎俺の鼻潰すな!」
「あぁ‼︎ご、ごめんなさい‼︎」
鼻血が出そうなほどだ。すごく痛い。
それでもなんとか腰の力の抜かさず、漣の足の上に落下することは回避できたようだ。
漣はゲラゲラ笑ってる。
「潮!ナイスシュート!」
「おめーは黙ってろ!フガー、いてぇ!…へっ……へぶしっ!」
鼻が潰れたので今度はクシャミが出る。
手で覆うこともできず、クシャミで出た唾や鼻水が潮の後頭部にかかる。
「ひゃあ⁉︎え、えぇ⁉︎ち、ちょっと、汚い!」
「フガー!潮!す、すまねえ!鼻が潰れてクシャミが…」
「うわーご主人様。ひどーい」
「だからおめーは黙ってろ‼︎」
こんなカオスな状況でも、俺らにとってはまだ笑って済ませれるレベルだろう。なぜなら真っ暗なおかげでお互いの声と触れてる感覚以外で状況を把握することができないからだ。
そう、この時までは。
ガラガラガラガラガラ
大きな倉庫の扉が開いた。
「え⁉︎」
「ふぇっ⁉︎」
「ありゃまー」
俺と潮がエア膝枕してるのも、潮の後頭部が俺の顔に最接近しているのも、ポカンとしている今の3人の顔も、全て開かれた扉から入る夕日の光で照らされた。
そして扉の前には夕日を背にした2人の大きな影が。
本日2度目の潮の悲鳴が倉庫に響く。
まだまだ日常回続くっぽい?