Sons of Skull-Rider   作:怪傑忍者猫

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 それは、薄気味悪い赤ん坊だった。
 SPIRITS隊隊長の子供だと言うその赤ん坊を、誘拐して来たまでは良い。
 だが、普通ならぐずって泣きそうなものだろうに、連れて来てそろそろ二時間が経過するだろうに泣きもしない。ただ、じっと窓の方を見ているだけだ。

「いやね、この子。笑いもしないし泣きもしない」
「生後三ヶ月にしては、確かに表情に乏しいな。まあ良いじゃないか、静かなのは良い事だ」
「やっぱり、《ホークアイ・ホールディングス》が造った滝和也のクローンベビーと言う事ですかねぇ?」

 白衣の連中が低い声で笑う。
 職分として、この『科学の進歩は人類の進歩』と言い切る連中を護衛するのが自分の仕事であるが、同時にこの連中が科学の進歩を言い訳に、様々な人体実験を行っている事を知っている。正確を期すなら、実験という名の虐殺をだ。
 殺しを仕事にしてきた人間だ、今更人命がどうとか道徳がこうとか言うつもりもないが、悲鳴を上げる女子供を薄ら笑いを浮かべて解剖していくこの面々を、自分は生理的に嫌悪を感じていた。

「そろそろ、この赤ん坊で新薬の実験をしよう。なあに、呼吸してさえいれば、特に問題はないさ」
「そうね、どうせこの子、生きてる事自体が奴らの実験でしょうし」

 女研究者がそう言った、その時だった。
 それまで全く無反応だった赤ん坊が、急に火が付いたように泣き出した。
 研究者達が鳴き声に気を取られた次の瞬間、エアダクトから溢れんばかりに蟻が湧き出し、黒い滝が赤ん坊を包み込んだ。
 そしてその黒い塊に、研究者達が慌てて手を差し込み中から赤ん坊を取り出そうとしたものの、何百匹ものアリに噛みつかれ誰もが悲鳴を上げた。
 警備員達が唖然としているうちに、研究者のリーダー格である女研究者がヒステリックに叫んだ。

「何やってるの、誰でも良いから灯油と火! この不愉快な虫けらを焼き払って!」

 中にいる赤ん坊をどうする気だと言ってやりたかったが、目の色を変えて逆上している女に何を言っても無駄と悟り、取り敢えず焼くよりはマシだろうと思い、消火器を取り出そうと壁に動いた。それが自分の幸運だった。
 出入り口が突然切り刻まれ、厚さ十センチの特殊合金製の扉が積み木のように転がった。
 あっと思った時には、黒字に骸骨が描かれた繋ぎと覆面姿の集団が雪崩れ込みそこいらにいた警備の者を殴り倒し蹴り倒す。その後から、四年前BADAN戦役の際に日本中を暴れまわった『怪人』がズラッと五体、どう見てもこちらへの殺意全開で入って来た。
 青い蜂型、犬歯虎型の怪人に毒々しい蝶とオレンジの花と、バラの花をモチーフにした怪人が、今にもそこにいる人間全員を引き裂きたいのをかろうじて我慢していると言う風に、この実験室内に目を配っている。
 そして、その後ろから、悪夢から湧き出したかのように怒気と殺気とを霞のように身に纏った、一体のミイラが入って来た。笑い仮面が、怒りの為か小刻みに震えているのが更に恐ろしい。

「やあ、やっと見付けた。随分小賢しい事をしてくれたねえ。何十箇所もこの子がいると見せ掛けて、おかげでSPIRITS隊は今日本中駆けずり回っているよ。
 だけど、残念だったねえ。私の可愛い教え子の息子を、私の大事な部下を傷付けて誘拐なんて真似してくれたんだ。それなりの代価を払う心積もりはしてるよねえ?」

 蟻が作った小山の中から赤ん坊を抱き上げ、ミイラが笑った。
 俺の左腕が吹っ飛んだのは、その直後。床を転げて苦悶するうちに、研究者達は全員怪人達にボロクズにされて転がされていた。

「ちょっと、私達の分も残しておいてよ!」
「まあ、我慢おし、王女。バラランガとスミドローン殿の聞いているところで、彼奴らは色々言い過ぎた」

 そんな声を聞きつつ、自分は失血によって気絶した。

Monologue by Nameless killer


02. 1971年、そして

 『時の列車』デンライナー二号車は、1971年11月11日へとひた走る。

 その車両の中に食堂車の中で、この列車の専属電王である香山閃は目の前で正座する二人、いや三人を額を抑えつつ見た。

 その背後で、車掌らしい制服制帽の人物が不機嫌極まりない声でぼそっと言った。

 

「普通の電車だって、無賃乗車は犯罪だぞ、判っているのか、餓鬼共」

「あー、すみません、オーナー代理」

 

 閃の詫びに、オーナー代理と呼ばれた人物はふんっと鼻を鳴らすだけだ。

 仮面ライダーオーズこと、火神大我は恐縮して大きな身体を縮めるようにしていたが、横で同じく正座していた相棒がことっと自分に凭れ掛かった事に気付いて、首を巡らせてそちらを見た。

 クタリと、黒子テツヤは大我に頭を預けている。右腕に、片腕だけの存在であるグリードのレイヴがくっついていた筈なのにそれが消えて、頭の赤いメッシュも消えている。

 あっと思ったその次の瞬間、ウルフイマジンが窓の外に気付いて声を上げた。

 

『閃、窓の外に篭手(こて)が!?』

「え? 鏝こて?」

 

 思わず、お好み焼きを引っ繰り返す方を思い浮かべた大我だったが、か細い相棒の声でそれが吹っ飛んだ。

 

「火神君、レイヴの奴、過去に行く列車なら、他のグリードが寝てる状態だから、メダルを稼げるって」

「はぁ!?」

「おいこら、『時の運行を守る列車』で何やろうってんだ!」

 

 そう怒りつつ、だがそろそろ指定時間に到着することに気付いた閃は、バリバリと頭を掻くと大我にレイヴを捕らえるよう言い付けウルフイマジンのウォルフィと共に運転席へと向かった。

 どうしようと、オロオロする大我に向かってオーナー代理の叱責が飛ぶ。

 

「そこの坊主はこっちで見ておく、お前は時間犯罪者になろうとしている片腕野郎を〆て来い!」

「はいっ!」

 

 バタバタと出て行く大我を見送り、オーナー代理は苛ついたように制帽を被り直した。

 

 

 デンライナーの制御装置も兼ねる特殊バイク、デンバードで飛び出した閃こと仮面ライダー電王は、さほど掛からず可燃物が詰め込まれている倉庫でわさわさしている、三体のモールイマジンを見付け出していた。

 

『閃、いたぞ!』

「よし、速攻で決める、行くぞ!」

 

 デンバードから飛び降りると、その勢いのままハルバードモードのデンガッシャーを振り被る。

 電王に気付いたイマジン達は、慌てて火を放とうとしたがその前に最初の一振りで二体が吹っ飛び、逃げようとした三体目をデンガッシャーを軸にしたスピンキックで蹴り飛ばす。

 もがきつつ起き上がったモールイマジンを、電王の着地と同時のデンガッシャーでの唐竹割りが捉えた。

 三体全て爆散したところで、閃は変身を解いた。だが、先程と違い、焦げ茶の髪には朱色のメッシュが一房入り、黒みがかった緑の瞳が朱く染まっている。

 黒子にグリード・レイヴが取憑いているように、閃にイマジンであるウォルフィが憑依している状態なのだ。

 

「さてと、片腕怪人を回収に行くか」

『ああ、大我と言ったか、彼に任せきりにしては遅くなりそうだ』

 

 そう言い合い、二人はデンバードに跨った。

 その頃、大我はフラフラ揶揄からかうように飛ぶレイヴを、必死に追い掛けていた。

 

「こら、レイヴ、戻れって!」

「ふん、せっかく心おきなくメダルを稼げそうなんだ、邪魔するな」

「そうは行くか、このヤロ!」

 

 ガンっと、足場を利用して飛び上がった大我の右手が、レイヴの飾り紐を掴んだ。それをレイヴが振り払おうとした為、結果的に空中でバランスを崩した大我は、アスファルトの上に受け身を取れないまま転がる事になった。ちょうど、レイヴをプレスする形で。

 その衝撃で、一枚セルメダルが転がった。

 

「ぐへっ!」

「この、やっと捕まえたぞ、この野郎!」

 

 ぎゃいぎゃいと騒ぎながら、二人?は元来た道を戻って行き、間もなく独特な電子音を立てて『時の列車』はこの時間を立ち去った。

 その、空中に消える列車を見送った黒い人影に、列車の人間は誰一人気付かなかった。

 その人影が、手に鈍く光るメダルを持っていた事も、そして彼が華美な軍服に身を包んだ老人に異様な掛け声と共にナチス式の敬礼をした事も。

 

 

 それは、突然現れ、物凄い勢いで街を壊そうとした。

 金色の羽毛の鷹のような頭部と翼を持つそれは、ガスマスクを被っているように見えた。良く見れば、鷹の目の部分に蛇のようなものが突き出しているのが気持ち悪い。

 迎撃の為現れたダブルライダーに向かって、そいつは一声雄叫び、飛び掛かって来た。

 

「ショッカーー!」

 

 新たな怪人の異常なほどの破壊力に、仮面ライダー一号二号は手こずっていた。

 一号の技も、二号の剛力にも全く怯む様子もなく、逆にその臂力で振り払う。

 

「この怪人は一体」

「隼人、気を付けろ、こいつは今までの改造人間とは違うぞ!」

 

 ライダーダブルキックを弾き返され、焦りを浮かべる二号に、一号ライダーは声を掛けつつ必死に相手の隙を探す。

 だが、これまでの改造人間とは何かが決定的に違うのは解るのだが、その違いの要因を掴めないでいた。

 

「ライダー、一端撤退だ!」

「滝!?」

 

 背後からそう声を掛けたのは、ジーンズにTシャツのすらりとした青年だった。

 仮面ライダーの協力者である彼、滝和也はショッカー壊滅を任務とするFBI捜査官である。

 

「こいつ、改造人間じゃないかもしれない、一遍下がって捜査し直そう」

 

 一号の側まで駆け寄った彼が、そう言ったその時だった。

 音も立てずに、滝の背後に回った怪人、ショッカーグリードの鉤爪が、背中から胸まで刺し貫いた。

 

「かはっ」

「たき?」

「滝ーーーー!!」

 

 口と胸の傷から、大量の血を溢しそのまま崩れ落ちる青年に、一号も二号も手を伸ばす。

 だが、そんな二人に、ショッカーグリードの容赦ない攻撃は続けられ、そして。

 

 

 

 

 

 そして、仮面ライダーはショッカーの軍門に下った。

 




 現実世界へと噴出したミラーモンスターを駆逐して、城戸真司がいる筈の場所に辿り着いた滝和也が見たものは、泣いている少女と変身が解けて崩れ落ちた彼と、同じく駆け付け傍に膝を付く秋山蓮の姿だった。

「秋山、キドシン!」
「滝さん」

 駆け寄って、膝を付いて判った。判ってしまった。
 あの少女をミラーモンスターレイドラグーンから庇い、負った傷は致命傷だったのだ。
 それでも変身して戦って、崩れ落ちたのだ。

「たき、さん、れん」
「キドシン、喋るな!」

 滝の声に、でも最後と悟ったのか、真司は必死に言葉を続けた。
 それを聞いているうちに、力尽きるように真司は眼を閉じた。そして気付けば、横で同じく真司の言葉を聞いていた筈の秋山の姿が消えていた。
 恐らくと見当を付けて向かった、一軒の廃屋。
 その窓ガラスの反射の中で、オーディンと戦うナイト――秋山の姿に気付いた滝は、状況に歯噛みした。
 何度か試したものの、ディエンドライバーで装着出来る強化服には、ミラーワールドへの単独侵入は不可能である事を確認してある。恐らく、既に彼等の言うところの仮面ライダーは、秋山以外もういないのだ。
 このライダーバトルが、神崎士郎と言う男の妄執に起因しライダーを皆殺しに、モンスターに命を刈らせて《力》を生み出すものである以上、オーディンにはこのままではどう足掻いても、勝てない。

「畜生、何か出来ねえのか、何か!」

 滝が呻いた、その時だった。
 ガシュンと、ディエンドライバーが開く音がした。慌てて見てみると、二枚のカードが排出されている。
 取り出してみると、白紙だった筈のカードに真司――仮面ライダー龍騎の姿が浮かび、もう一枚は赤い背景に金色の翼が浮かんでいた。
 この翼のカードが、アドベントカードと呼ばれる強化カードである事は判っていた。真司が使っていたのを何度か見たからだ。同じものを、今秋山が使っている。
 それを眺めているうちに、滝はもしかしたらと思った。この銃型ガジェットの、本来の使い方を。
 カード二枚、ドライバーのスリットに挟み閉じる。

「キドシン、秋山を助けてやれ!」

 銃口から噴き出した光は、そのままガラスの向こう、ミラーワールドへと飛び込み、そして赤い竜の騎士へと姿を変えた。
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