「?」
「どうした、一文字」
立ち止まり、何かを確かめるように振り返った盟友に、仮面ライダー一号は声を掛けた。
その声に頭を一回振って、仮面ライダー二号は向き直った。
「いや、何か滝の声が聞こえたような気がしたんだ。
空耳なのは判ってるんだけどな」
「そりゃあ、滝さんだからでしょ?」
「一文字さんと本郷さんが遅れて合流した時、もの凄い剣幕でお説教してましたもんねえ」
二号の言葉に、七番目と八番目の後輩が茶々を入れる。
三番目が二人を睨む横で、一〇番目が懐かしそうにぼやいた。
彼は、ある意味滝和也の弟子のような立場だったからだ。
「滝さん、無茶してなきゃいいんですが」
「無理じゃないかなあ」
「がう、タキ頑張り過ぎる、心配」
「アマゾンに言われては、おしまいですよねえ」
ZXの呟きに、九番目に六番目、五番目も続く。
V3は、後輩達の会話には混ざらず、黙って背負った相棒を揺すり上げた。
BADAN大首領JUDOとの決戦後、時空の狭間に取り残された一〇人ライダー達は、ツクヨミの最後の力で何とか事象の地平、もしくはディラックの海と言われる虚数空間に落ち込む事こそ免れたものの、元の時空に戻るべく彷徨っている状態であった。
そんな中、ライダーマン事結城丈二は、一〇人中唯一ほぼ生身である事を危惧され、仮死状態で相棒に運ばれていた。――風見志郎の過保護に、誰よりも結城自身が怒っていたのだが。
今、彼らはツクヨミが残した『導』を頼りに歩き続けている。
元居た世界に繋がる、時空の切れ目を探して。
Monologue by Masked Riders.
怪人と遭遇した先から軽く一キロほど走り抜け、火神大我こと仮面ライダーオーズはラトラーターコンボを解除し基本フォームに戻った。
はあと、溜息を吐いたオーズの腕から降ろされた少年のうち、白っぽいパーカーを着込んだ方が足を蹴り付ける。
特に何と言う事も無いが、野良猫同然の反応を返す相手に困っている大我に、見かねたように黒子テツヤが口を開いた。
「取り敢えず、状況を整理しましょう。
君達は名前を言えますか? 僕は黒子テツヤ、横の人は仮面ライダーの一人でオーズこと火神大我君。
大喰らいで勉強が苦手で、お化けと犬が怖いと言う欠点はありますが、駆け出しヒーローとしてはそこそこだと思いますよ」
「お前、状況が呑み込めないからって俺に当たるんじゃねえよ。
と言うか、あれ、お前ら」
毒舌激しい相棒に額を抑えつつ、改めて二人の方を見たオーズは既視感に首を傾げた。
パーカーの少年も緋色の髪の少年も、どちらにも見覚えがあるのだが記憶と噛み合わないと言うか。
「僕は、天馬。こっちは剛、です」
「天馬!」
「剛君と、天馬君か。
さっきの奴らの事を教えてくれないかな、僕達には何が起きているか全く解らないんだ」
「さっきのはショッカー警察です。
ショッカーに従わない人間を捕まえて、適性があれば改造人間にして、無い人間は労働所送りにしようとしているんです」
答えたのは、赤毛の少年の方だった。剛と呼ばれた方は、不機嫌そうに見知らぬ年嵩の少年二人を睨み付けている。
天馬の言葉に、黒子は変身したままの相棒を見上げた。
「どう思いますか、火神君」
「どうも何も、おかしいとしか言いようがねえよ。
大体何でショッカーがでかい顔してんだ? 仮面ライダーがあいつらと一緒って、そこからまずおかしいし、それに仮面ライダーがここにいて、じゃあおじさんは何処に」
そうぼやいて、大我ことオーズの背筋にぞくっと何かが走った。今、何か不味い事に掠った気がしたのだ。
黒子の中で何かしら考え込んでいた赤い鴉が、オーズの様子に気付いて何事かを問い掛けようとしたその時だった。
「いたぞ!」
「不審者と不穏分子、奴隷どもだ、包囲しろ!」
突然の声と共に、バラバラっと十数人の十六、七歳の少年少女達が四人を取り囲んだ。
問題は、黒子とオーズこと大我にとって、少年達を率いているらしいリーダーとその取り巻きらしい面子が、ひっじょうに見覚えのある面々で思わず二度見してしまった。
赤、青、黄、緑、紫にピンクと、派手な頭髪のリーダー格らしい面々は、右手を斜め上に突き上げる敬礼と共に「イー!」と奇声を上げた。後ろに並ぶ部下らしい少年達も続いて声を上げるのに、レイヴ@黒子が苦笑と共に揶揄る。
『何だこいつら、あの黒覆面の真似か?』
「この人達はショッカーユーゲント、幹部候補生です」
「ショッカーに忠誠誓って、行く行くは改造人間になるんだってさ、糞が」
天馬の言葉に続いた剛の呟きは、嫌悪と憎悪に揺らめいていた。
中学生ぐらいだろう二人と、小柄でグリードの体力で何とか持っている状態の相棒を背中に庇い、オーズは学生服と言うより軍服っぽいシルエットの衣服をきっちり着込んでいる六人を、うそ寒い思いで見詰めた。
少なくとも、青峰大輝や紫原敦は制服を着崩している印象しかなかったが居並ぶ誰も彼もがきちんと着込んでおり、能面のような無表情と共に背筋をピシッと伸ばしているのが、黒子と大我の違和感を掻き立てる。
そのうち、桃井さつきであろう少女が、赤司征十郎である筈のリーダー格に何事かを耳打ちする。
それを受けて、天馬とは系統の違う赤い髪の少年は、仲間達に顔を向ける事無くこう言い放った。
「奴隷の傍にいるアンノウンの幼体は、絶対に逃すな。
不審者と奴隷は強制労働班に引き渡し、不穏分子は改造人間に任せよう。
何、ショッカーに逆らうものは親であろうと排除するのが、僕達ショッカーユーゲントの規範だからな」
「ぐぷっ!」
「火神君、判りますが笑っちゃいけません」
『そういうお前も笑ってんじゃねえか』
マスクのまま噴出した相棒に向かって、無表情に黒子が突っ込むがそれを更にレイヴが突っ込む。そんな二人?を、剛と天馬は訝しみつつ見る。
微妙に黒歴史に掠っている迷言を吐きながら、赤司であろう少年が手を振ると後ろに控えていた少年達が前に出る。見れば、それぞれ特殊警棒らしいものを持っている。
問答無用らしいのを目にして、大我は笑いを噛み潰し迎え撃とうとトラクロウを構えた。
だが次の瞬間、鋭い風切り音と共に死角から大我ことオーズを襲ったのは、畳一畳分よりもさらに巨大なトランプカードだった。
鋼鉄の板で、電動ノコギリよろしく高速で削られるような攻撃に、咄嗟のガードも意味を成さない。堪らず体勢を崩したオーズを、空中で何度も旋回しつつ執拗にカードは襲う。
ついには、その攻撃に耐え切れず、変身が解けて転がった大我の姿にショッカーユーゲントなる少年の一団が歓声を上げる。
その歓声に応えるように、巨大トランプカードはくるりと回転しつつ白尽くめに透明なマスクを被った怪人に変化した。
「これはこれはデルザー軍団のシャドウ様。お力添え、ありがとうございます」
「ふん」
赤毛の少年が丁寧に頭を下げるのに向かって、シャドウと呼ばれた白い怪人はうっとおし気に鼻を鳴らした。
「俺は、仮面ライダーを名乗る愚か者の顔を見に来ただけの事。
高々人間のお前達に、感謝される謂れなどない」
そう言って、シャドウは手にしたサーベルを一振りし、身体を起こした大我の鼻先にその切っ先を突き付けた。
「!」
「仮面ライダーを名乗るには、まだまだ力不足だったな。
成長を楽しみにしたかったが、残念ながらこちらにも都合がある。せめてもの手向け、苦しまずに死なせてやろう」
そう言って、白い改造魔人がサーベルを振り上げたその時だった。
突然伸展した線路の上を、近未来的デザインの列車が電子音による汽笛を響かせ駆け抜けた。高速で走り抜ける列車に恐怖を覚え、ショッカーユーゲント達は悲鳴と共に左右に散った。
そして列車が通り過ぎた後、何かの衝撃で跳ね飛ばされたシャドウの他に、その場には誰もいなくなっていた。
「何だ、今の非常識な列車は!?」
「リーダー、アンノウンの幼体も奴隷もいません!」
「あの隙に逃げられただと!?」
ざわめく少年達を背に、シャドウは無言で立ち上がった。
その背に、これは明らかな侮蔑を込めて青い髪と紫の髪、黄色い髪の少年が嘲笑する。
「ふん、逃げられたのかよ。デルザー軍団も大した事ねえんじゃねえの?」
「改造魔人って言っても、改造人間と代り映え無いんじゃん。なーんだ」
「ガキの俺達と同程度でも、改造人間務まるんっすね! なんかほっとしたっす!」
「馬鹿者、何を言って」
緑の髪の少年が、慌てて止めようとしたその時だった。
ピピピッと、三人の心臓の上にカードが止まった。えっと驚いた三人に向かって軽く鼻を鳴らし、シャドウは姿を消した。
ぽかんとする三人に、リーダーは本当にダメなものを見る目でこう告げた。
「愚か者、シャドウ様の寛容に感謝しておけ。
そのカードを受け止められなかった時点で話にならないが、あの列車が走り抜けた瞬間、列車から飛び降りてシャドウ様を蹴り飛ばし、不穏分子をかっさらった第三者がいたんだ」
「「「え!?」」」
「あの一瞬で、改造魔人の虚を突いたとは言え蹴りを入れた者がいると言う事に、シャドウ様も思うところがあったのだろう。
さもなくば、お前達の暴言の代価として、此処にいる我が班全員の首が飛ばされていただろう。
相手の力量を見極められないのなら、次の選抜試験で落とされる事になるぞ」
そう言い放つと、リーダーは班員全員に撤収を命じた。
目的の存在に逃げられたのは残念だったが、それに固執するつもりはなかった。
その頃、火神大我は黒子テツヤ@レイヴ、天馬、剛の三人と共に『時の列車』、デンライナー二号車の食堂車にいた。
あの瞬間、電王に変身した香山閃@ウォルフィがシャドウを蹴り飛ばしつつ大我を回収し、レイヴ@黒子が二人を抱えてデンライナーに飛び込んだのだ。
天馬と剛を見て、物を言わずに二人を抱き竦めた閃に、抱き付かれた二人は勿論、黒子@レイヴもぽかんとなった。
その様子を横目に、乗務員だと言う少女からコーヒーを渡されている最中であった大我は、此処に来てやっとある事を思い出し、さっき回収した財布を取り出し確認しようとして、「え!?」っと声を上げた。
「どうかしたんですか、火神君」
「写真が、一緒に写ってる祥やキャプテン、高尾が消えそうになってる!」
「え? ええ!?」
覗き込んだ黒子は、一八人写っている人間の中でまともに姿を残しているのが大我と宮地兄弟、閃と二人の少年――なんと、天馬と剛だった――のみで、彼ら以外の全員の姿が、まるでピントがボケたかのように薄くなっているのだ。
言葉を失っている黒子と大我に、軽く鼻を鳴らしてレイヴが言った。
『特に薄くなっているのは、大我の左右に写った奴二人だな。
確かこいつら、仮面ライダークウガとアギトだったよな。人間名は確か、』
「滝海斗に一文字空。海斗は滝和也の息子、空は仮面ライダー2号、一文字隼人縁の人間だ。
そして、今その写真で姿が薄くなった面子は、滝和也という人間に命を救われた人間だ」
閃の言葉に対して、首を傾げた黒子に補足してやったのは大我である。
「そっか、あの嘘合宿の時、黒子は気絶してたから殆ど話し聞いてなかっただろうけど、日向主将(キャプテン)と祥、高尾に千尋兄、真也兄ィに陽泉の福井さん、皆殺され掛かったり死に掛けた時に滝の小父さんに助けられたんだ」
「え?」
「祥は、赤ん坊の頃DQNにコンクリートに向かって投げられたの助けられたし、主将や高尾は犯罪組織に殺され掛けたの助けられたし、千尋兄や真也兄ぃ、福井さんは滝の小父さんに助けられなかったら死んでたらしいし」
「何なんですか、そのDEAD OR ALIVE」
黒子の言葉に、レイヴの方が溜息を吐く。
だが、そうやって話すうちに、大我はある事に思い当たって青褪めた。大我の顔を見て、悟った事を気付いた閃が頭を掻きつつこう告げた。
「判ったか、恐らくあの時俺達があそこに行った事が切っ掛けで何か起こり、仮面ライダーがショッカーの軍門に降る事になった。
それと一緒に、恐らく滝和也が死んでいる。
俺はたまたま特異点で尚且つ電王だから影響から外れたし、お前も俺と居たのと元々の関わりが他の面子と違ったから無事だったが、他の皆は歴史から消えた可能性が高い」
その言葉に、大我はぐっと息を呑んだ。
そんな二人を、本来は義理の兄弟だった少年達が見詰めていた。
その頃、何処かの世界で。
「お祖母ちゃんは言っていた」
「婆ちゃんの言葉を大事にするのは立派だと思うが、てめえが俺様コミュ障を直さない言い訳に使うのは、婆ちゃんに失礼だと思うがな、おっさんとしては」
作務衣の若い衆に向かって、Bistro la Salleの臨時バイトとしてテーブルセッティングをしていた滝和也はそう突っ込んでいた。