だが、その実態は、
「職員が死亡、その、肉体内部から心臓が爆破されたようで、」
「保育器を壊せ、早く!」
「あいつら、酸素吸入パイプに青酸ガス流しやがった!」
「何ですって!」
「幹部を逃がすな! だが虫の息でも良い、絶対殺すな!」
違法なクローニングによる人間の生産工場だった。
そこの連中が作り出そうとしていたのは、戦闘用ユニットの生体脳コア。それに使われようとしてのは、世界中の格闘家や名の知れた軍人、そしてつい先日の戦乱で世界を救った一〇人の改造人間達の、セミクローンとして生み出された赤ん坊達で。
ここは、『財団X』が新たな戦争の為に建造しようとした、都市蹂躙用の特殊戦闘車両の開発工場だったのだ。
滝和也は、隊長として《SPIRITS》全部隊員に施設職員の全捕獲と、施設の粉砕、そして赤ん坊達全員の保護を命じた。
しかし、証拠隠滅を図った『財団X』幹部の手により、職員は全員死亡、赤ん坊達もたった一人を除いて保育器に流された毒ガスで殺害されてしまう。
その、たった一人残った赤ん坊を、滝和也は身寄りの無い孤児として引き取った。
親友一文字隼人の、縁の子供として。
……21 years ago.
06. 始まりの時代
メダルと天馬の手を握って、剛は見知らぬ倉庫街を走る。
一応、日々のかっぱらい稼業で足には自信があったが、 それでも後ろから殺気混じりに追って来る気配には首の後が総毛立つ思いがする。
寧ろ、今までの連中の方が微温(ぬる)いぐらいの剣幕と、知らない場所であると言う事実が剛に判断ミスをさせた。
「あ!?」
「行き止まり!?」
戦闘員を避けて飛び込んだ、倉庫の突き当たりの扉は外から施錠されているのか開かなかった。
必死に扉を開けようとする二人の後ろに、戦闘員の一団が迫る。
その時だった。
鋭いバイクの排気音が響き渡ったかと思うと、緑色のバイクに乗った人物が戦闘員を跳ね飛ばす勢いで突っ込んで来た。
バイクを半回転させる要領で止まった人物は、一瞥して状況を把握したのだろう、中学生ぐらいだろう二人を細い背に庇った。
その人物に向かって、戦闘員から声が上がる。
「滝和也だ! 構わん、やれ!」
「子供二人に何の用事だ、ショッカーの戦闘員共。
また何か、碌でも無い事を企んでやがるな!」
そう吠えるや、滝と呼ばれた青年はナイフを振り上げ斬り掛かる戦闘員を受け流し、死角から近付こうとした別の戦闘員へ後ろ回し蹴りを当てて下がらせる。
二人を引き倒そうとした戦闘員を引き戻し、殴り倒した青年を戦闘員は二人掛かりで抑えこもうとした。
それを長く細い足で撓(しな)るように蹴散らすのを、剛と天馬は呆けたように見詰めた。
だが、更に大勢の戦闘員と共に怪人が二体現れた。
怪人を目にした滝和也の表情が、少し硬くなるのが判った。
「戦闘員ばかりか、怪人まで、しかも二体も持ち出すたあ、どんな悪巧みしてやがる。ショッカー!」
「黙れ、FBIの犬。おとなしくそこの餓鬼共が持つマテリアルを寄越せ。そうすれば楽に死なせてやる」
「ふざけんじゃねえよ!」
そう唸るように叫んだ青年は、だがふっと表情を和らげ笑った。
「ま、お前らこそ大人しく尻尾巻いて逃げれば、見逃してやったんだけどな」
「何……は!?」
毒々しい色合いのトカゲ怪人が、相手の表情に気付いてハッとなるが、その次の瞬間。
少年二人を庇う、滝和也の両脇を守るように壁を突き破り、バイクに乗った何者かが二人現れた。
一瞬で空気が変わる中、破片から少年達を庇う滝に向かって声が掛かる。
「滝、無事か!」
「どうやら間に合ったようだな」
最初の声は、赤いブーツとグローブの持ち主で、落ち着いた声は銀色のブーツとグローブの主だった。
目を閉じていた剛と天馬は、揃いのバイクに跨り、こちらを見る仮面ライダー一号二号の姿を目の当たりにして一瞬体が強張った。
だが、その『最悪の改造人間』と剛達が呼んでいた二体に向かって、彼らを庇ってくれていた青年はこう返した。
「こいつら、この子達を襲うつもりらしい、俺はこの子達を避難させる、頼むぞライダー!」
「任せろ、滝!」
「急げ!」
頷き合うと、ライダー二人は怪人と戦闘員に相対し、青年は剛達に動くよう促した。
戸惑いつつも、青年に促されるまま走りだし、だが剛は肩越しに振り返って、そして『仮面ライダー』が戦闘員を蹂躙するさまを見た。
戦闘員達を一蹴し、怪人を拳一撃で吹っ飛ばす、その姿に目が見開かれる。
あっと言う間に戦闘員は数を減らし、怪人達はライダーの攻撃にたまらず距離を取ろうとしている。
それを見詰める剛の様子に、滝はその頭をぽんと撫でてこう言った。
「もう大丈夫だ、正義の味方が来てくれたからな、もう怖い事はないぞ」
「正義の味方?」
「そうだ」
そう笑い掛けた青年の顔を、剛は今まで香山閃や火神大我には見せなかった、心の底から安堵したような顔で見詰めた。
『仮面ライダー』への疑念が消えた訳ではない。だが、この人が言うのなら、信じても良い気がしたのだ。
火神大我と黒子テツヤ@レイヴは、先に走って行った二人を追い掛けている途中で、別の戦闘員の一団に捕まり掛かっていた。
「糞、レイヴ、メダルを寄越してくれ!」
『判ってる、落とすなよ、大我!』
「変身!」
タカ、トラ、バッタ!
Ta,To,Ba, tatoba, TATOBA!
独特な起動Voiceと共に、大我は黒地に信号トリコロールの超人に姿を変える。
初めて見る存在に、戦闘員達も動きが止まる。それを幸いと、大我――仮面ライダーオーズはトラクロウで、犇(ひしめ)く戦闘員を薙ぎ払う。
身体の方をレイヴに任せ、周囲を見回していた黒子がこちらへと走って来る剛と天馬、そして二人を庇う青年に気付いた。
「! 剛君、天馬くん!」
『ああん? 誰だ、あの男』
こちらが驚いたように、青年側も見知らぬ存在に驚いたらしい。思わず足が止まった青年に向かって、天馬が何やら説明している。
だがそこに、新たな戦闘員の一団を従え、鉄兜に何処かの高級軍人らしい装いの老人が現れた。
その姿に、オーズの動きが止まる。
あの存在を、火神大我は半日前に知ったところだ。――過去、『仮面ライダー』に倒され、BADAN戦役で復活し再び倒された、ゲルショッカーの大幹部。その名は。
「あれ、誰だっけ?」
「『おい』」
素で忘れたらしいオーズに、人間と異形、二人の相棒が同時に突っ込む。
老人の方は、大我の反応にはさしたる反応を見せず、部下達に指揮棒でかかれと指示を飛ばす。
ナイフを構え、オーズと一見普通の高校生であるレイヴ@黒子を包囲しようと近付く戦闘員を、第三者がバイクで蹴散らした。
驚く滝和也の目の前で、追い付いた仮面ライダー電王がデンバードから降りると、戦闘員をレイヴ@黒子から引き離し殴り飛ばした。
新たに現れた道の存在に、軍装の老人、ブラック将軍は目を眇めた。
電王こと香山閃の方は、事態が更に大きくなっている事に軽い眩暈を覚えている。
「ああもう、もうデンライナーで離脱してる予定だったのに! 大幹部までお出ましだし!」
『閃、しかもこの時代の人間と接触してしまっているようなんだが』
「え? ……うえぇ!? 親父!?」
「え?」
剛と天馬を庇う青年を見て、電王が思いっ切り驚いているのに気付き、オーズこと大我もそちらを見る。
尤も、そこにいる青年は背は高いが手足が細い為に電柱のようで、大我が覚えている筋骨逞しい『祥ちゃんのお父さん』とは別人のように思えた。
大我からすると、あの青年の背格好は寧ろ滝家の長男にそっくりだったのだが。
その青年はと言えば、少年を捕まえようとする戦闘員達を、その細長い手足を鞭のようにしならせて蹴散らしている。
微かな振動とともに、爆発音が二つほぼ同時に起きたのは混戦の真っ只中だった。
「『え?!』」
『爆発音?』
「何だ、今の?」
「察するところ、他にいた怪人を、仮面ライダーが倒してくれたんだろっと!」
驚く仲間に向かってそう言うと、電王はデンガッシャーをハルバードモードに組み上げ、一閃した。
トラクロウで戦闘員を切り飛ばしつつ、どう言う事かと問う弟分にデンガッシャーを取り回しつつ電王は一言だけ返した。曰く、
「だから、この時代が仮面ライダー一号二号の時代、って事だって!」
「あ、そうか、此処が『伝説の始まり』の時代か」
思い至ったと言う風に大我が頷いたその時だった。
数人掛かりで伸し掛かる戦闘員によって、滝和也と中学生二人の間が開いた。
ここぞとばかりに、二人を引き倒し連れ去ろうとした戦闘員と揉み合う拍子に、剛の手からセルメダルが溢れ、戦闘のど真ん中へと転がった。
「あ!?」
「しまった、メダル!」
一気に戦闘員を振り払った滝が、一も二もなく二人の方へ走るのを見て、オーズはスキャナーを滑らせた。
ScanningChage!
「セリャア!」
メダルを潰す勢いで、オーズは低い姿勢からキックを放った。が、それを打ち消すようにブラック将軍が放った鞭の一撃の為に、目的は果たせず周囲の戦闘員を吹っ飛ばすだけに留まった。
当然、オーズの行動にレイヴ@黒子が声を張り上げる。
『お前、何やってる!』
「向こうに渡すより良いだろう!」
「あああ、二人共それどころじゃないでしょう!?」
喧嘩を始めそうな二人?に、黒子@レイヴの悲鳴が上がる。
その間に、メダルを拾い上げたブラック将軍はニタリと笑い、部下達に撤退を命じた。
それこそ波が引くように引き上げる戦闘員に、大我と閃は舌打ちとともに変身を解除した。
「畜生、メダルが」
「追い掛けるにしても、あっと言う間だったし。天馬と剛を放って置く訳には」
そう言いつつ互いに途方に暮れた顔を見合わせている二人の肩を、ぽんと叩く手がある。
振り返った二人が見たものは、めちゃくちゃ良い笑顔でこちらを見ている、痩身の青年の笑顔だった。
ZECTと言う組織がある。
ワーム掃討調査をメインとしているようだが、人命軽視と言う刑事として噴飯物の行動を取る不可解な組織である。何処の世界に、人質取って恫喝する治安維持組織が居るかと、滝和也は頭を抱える。
滝の認識からして、ZECTは絶対的に真っ当な組織ではない。
この感じの、今までで一番近いものを探せば、思い浮かんだものは二つ。
暗闇大使達BADANと旧組織との確執と、ショッカーの組織員を一掃して組織を建てたゲルショッカー。つまり、敵の内ゲバ。
思い至った時点で、滝はZECTに直接関わる事を止めた。
そんな矢先に、滝はキックホッパー、パンチホッパーと言う二人組と知己になった。
二人ともZECTからのドロップアウト組で、軽く鬱が入っている状態だった。
(あー何と言うか、エリートコースからの転落って奴か。万年窓際の俺からすると太平楽な話だよ。
お前ら、自分の職分何だと思ってやがった?)
裏路地に座り込み、イジイジウダウダ、それこそカビや茸でも生やしそうな風情で、陰々滅々他人を羨む言葉と己を卑下する言葉を吐く二人に、滝はピシャリと言ってのけた。
「パーフェクトハーモニーだか何だか知らないが、手前ぇの事ばかりでやるべき事を蔑ろにするからゼクターとやらから見限られたんだろうが。
頭上げて周囲を見ろ、今ここで何が起きてると思っている!」
蹲る奴等にそれだけ言って、背を向けた。
後ろからついて来る気配は無かったが、数日後あちこちの戦闘地点で暴れる二人組がいた。