父と別れた母が、程なく病気に倒れ、儚くなってしまった後、父にお金を貸していると言う人達が押し寄せ、その人達は私と剛を離れ離れにすると言った。
今にして思うと、私達を所謂非合法組織を介して売り飛ばすつもりだったらしい。
どんな目的だったかは、まあ今だから判る事であるけど。
そんな、文字通り非合法な人々の集団を蹴散らしたのが滝さんだった。
あの人達と、滝さん、そして『会長さん』とがどんな話し合いをしたのかは判らないけど、私達は今も、極普通の生活をしている。
義兄弟の大半が『仮面ライダー』であると言う一点を除いて。
Monologue by Kiriko Shijima
ショッカーユーゲントから逃げ出した三人+αは、海浜公園のモニュメントが見える辺りで隠れ家で別れた五人と合流していた。
「天馬、剛も!」
「姉ちゃん!」
「あれ、あのでかいのともう一人は?」
少女が年少者二人を抱き締める横で、線目の青年からの言葉に心持ち遠い目になりつつ、黒子テツヤ@レイヴが答える。
「実は、公園に捕まっている閃さんの仲間であるウォルフィさんを助けようとして、火神くんが肝心なものを落としてしまいまして。
二人が戦闘員の気を逸らしている間に、それを僕達が取りに行ったんですが」
「じゃあ、二人は捕まったって事か!?」
少年四人の内、一番整った容姿の――その代わり、それを隠すように頬に煤を塗っている――少年が呆れたようにそう言うと、黒子は表情を変えぬまま肩を落としてみせた。
それに向かって、口を開いたのは剛だった。
「とにかく、急いで助けに行かないと、兄ちゃん達殺されちまう」
「とは言っても、どうやって?」
「……?」
「水戸部も、危険だって」
大柄な少年の言葉を、小柄な少年が代弁する。
そのやり取りに、思わず涙が滲みそうになりつつ、黒子はこう切り出した。
「皆さんで、少し騒ぎを起こしてくださいませんか、そうしたら僕が近付いて、三人の拘束を解きますから」
「「「「「え!?」」」」」
「君、本気で行ってるの?」
驚く面子の中で、相田リコだけが自身より少し背のある相手を見つめ返す。
それに向かって、黒子はこっくりと頷きつつ答えた。
「気配を消す事には慣れてますし、相棒の不始末ですから『多少なら打たれ強いしな』」
そう言って胸を張った黒子に、五人は何ごとか言いたげだったが天馬と剛の二人に押し切られ、そのまま公園内へと向かった。
海浜公園内に作られた処刑場には、近隣にいたらしい人間数百人が集められていた。彼らの周囲には、骨戦闘員と怪人、そして《ショッカー》の傘下に入った未確認生命体達が、威圧するように周囲を囲んでいる。
そればかりではなく、幾つかTVカメラらしいものが設置され、それを戦闘員がいじっている。どうやら、『反逆者の処刑』を中継する為のものらしい。
ショッカーのエンブレムである鷲のシルエットが刻まれた、二〇メートルはありそうな金色の尖塔の足元に、磔台は三角形を作るように並べられていた。
何処と無く暗い顔の人々の目の前に、赤いどう見ても怪人が一人と、一九〇センチはあろう大柄な少年と彼よりは年上らしい一八〇センチほどの青年とが手枷で拘束され引きずられて来た。その後ろから、仮面ライダー一号二号が黙々と付いて来ている。
彼らを見て、「え?」とか、「あれが仮面ライダー?」と、囁く声が溢れる。
そんな中、刃物で脅され動けない三人を、戦闘員達は倒されていた十字架に縛り付けた。そのまま引き起こされた十字架の足元へ、薪が積み上げられ灯油まで撒かれた。
「嘘だろ!?」
「焼き殺す気かよ、こいつら」
灯油の匂いにむせつつ火神大我が唸ると、無駄に固い金属の留め具を睨みつつ香山閃が歯軋りする。
そんな二人に向かって、やはり縛られたウルフイマジンが耳を垂らして謝罪する。
「閃、大我くん、済まない。俺が奴らに捕まらなければ」
「気にするな、俺の見通しが甘かったのが、そもそもの失敗だったんだ」
「いや、あそこで俺がドライバーを落とさなけりゃ」
お互いに言い合う内に、閃は自身のターミナルバックルを持ってニタニタ笑っている、緑色のコウモリのような怪人が目に入って眉を顰めた。
そうこうしていると、軍服に鉄兜の老人が三人と見物人の間に立って声を上げた。
「人間共に告ぐ。
これより、『仮面ライダー』と称する反乱分子の処刑を執行する」
ブラック将軍の声に、見物人のざわめきが小さくなる。
人々が静かになったのを見て、ブラック将軍はすっと右手を挙げた。それに応えるように、松明を抱えた戦闘員が三人、広場に入って来て十字架の前に並んだ。
燃える松明に、閃と大我の表情が引き攣るのを視界の端に見て、ブラック将軍の口の端がニンマリと吊り上がる。
馬鹿にされているのを感じて、閃はぐっと視線を引き締めた。
それに向かって更にニタリと笑い、老人は腕を振り下ろそうとした。その時だった。
パパン、パンパンパン!
人垣の後ろ側で、突然炸裂音が立て続けに響き、わっと人垣が崩れる。
「何!?」
「何の音だ!?」
「ええい、ゲリラのガキどもだな! 捕まえろ! あいつらも一緒に焼き殺してやるわ!」
ターミナルバックルを抱えた緑色の怪人――ガニゴウモルが吠え立てるように喚くと、その声に弾かれるように戦闘員達が走り出す。
断続的に続く炸裂音に、戦闘員が右往左往している最中だった。
突然何処とも知れない場所から現れた金色の異形、ショッカーグリードが飛び出し大我の後ろ側を大きく腕で薙いだ。
「『うわぁ!?』」
「黒子、レイヴ!?」
磔台で、必死に身体を捻った大我は、倒れ込み痛々しく頬を腫らしたレイヴ@黒子の姿に目を見開いた。
カララっと、黒子の手からメダルドライバーが吹っ飛んでいる。
そのドライバーを、戦闘員の一人が拾い上げる。
他の戦闘員や怪人達に刃物を突き付けられ、レイヴ@黒子は顔を顰めた。そうこうする内に、天馬と剛、ゲリラの五人が同じように刃物を突きつけられた状態で連行されて来た。
レイヴ@黒子と同じ場所で突き転がされた七人を、怪人達が嘲笑いつつ見ている。
「くく、騒ぎに紛れて仲間を助けようと言う計画は、平凡だが良いものだったし、多くの怪人の目を掻い潜ったとは大したものだ。
だが、ショッカーグリードには通じなかったな」
『けっ』
ニタニタと笑いながら、座り込んだレイヴ@黒子に向かって言ったブラック将軍は、メダルドライバーを拾った戦闘員に向かってそれを寄越せと手招きした。
招かれた戦闘員が、手の中の物を手渡そうとして、不意に「あ!」と言う声と共にすっと指差した。
その手の中に、リモコンスイッチが握られている事に誰も気付かず。
キュボーーーン!! ボンボンボン、ズドーーン!
指差された先、海上をゆったりと進んでいた巨大モニター付きの飛行船が大きく爆発炎上した。しかも、それに吊られるように周囲の電波中継機であろう塔やビルの一部からも火柱が立った。
「な、何だと!?」
「飛行船が、ゲフッ!?」
戦闘員の蹴りを喰らい、ガニコウモルはターミナルバックルを放り出して顔を押さえる。その隙に、宙を飛ぶターミナルバックルを掴んだ戦闘員は、もののついでとばかりに八人を包囲していた戦闘員を蹴散らし、その背に庇った。
その、たった一人だが異様な強さを見せる戦闘員に、閃の、そして大我の目が見開かれる。
「貴様、何者だ!
ええい、一号二号、奴を殺せ!!」
ブラック将軍の怒声に、しかし仮面ライダー達は動かない。
そして、ドライバー二つを天馬と剛に渡した戦闘員は、覆面と繋ぎを一気に脱ぎ去った。
そこに立っていたのは、爆発炎上するデンライナーの車両と共に時間の果てに消えたと思われた滝和也だった。
「滝和也!?」
「「「「「「何!?」」」」」」
「滝さん!?」
「……オヤジ」
どよめく怪人戦闘員に負けじと、思わず叫んだ大我と小さく呟いた閃の目の前で、黒い革のスーツの上に簡素なプロテクターを付けた姿で立つその人物は、ニッカリと片頬を吊り上げてこう言い放った。
「よお、俺に取っちゃ半年だが、お前さんは四〇年何も変わらないようでしなくて良い心配しちまうぜ、ブラック将軍さんよ?」
「貴様、生きていたのか!」
「おうよ、この通りピンピンしてるぜ?
いやあ驚いたぜぇ? 仮面ライダーとっ捕まえて、逆らう奴なんざいねえって呑気に構えてたみてぇで、警備ってかセキュリティがばがば、俺が基地や重要施設出入りしてるの気付いてやがらなかっただろう?
お蔭さまでこの半年間、ガッツリ下準備させて貰ったぜ?」
「何!? まさか!」
ブラック将軍が何事かに気付いたその次の瞬間、今の今まで銅像のように動かなかった仮面ライダー一号二号が、滝と子供達を包囲しようとした戦闘員達を蹴散らし、滝の左右に並んだ。
その光景に、見物していた人々の間からざわめきが消える。
「滝」
仮面ライダー一号が、万感を込めて滝の右肩に左手を載せる。
「待ち草臥れたぜ」
仮面ライダー二号が、声の震えを隠しつつ右の拳を滝の左肩に当てた。
そんな二人の盟友に、滝は少し表情を和らげ二人の背に手を当てた。
「俺にとっちゃ半年だが、お前らには四〇年だものな。
……待たせて悪かったよ」
そう言って、滝和也は二人の背に手を添えた。
そんな彼らに向かって、苛立ちを隠さずブラック将軍が唸る。
「おのれ、FBIの犬め。だがショッカーグリードに敗れた旧式の改造人間二体に、足手纏の貴様にガキどもで、何が出来る!」
「け、偉そうに言ってくれるな」
滝が鼻を鳴らすと、横に並んでいたライダー二人が一歩前に出た。
「やっと、雪辱を果たす時が来た」
「今一度、ショッカーの敵、そして人類の味方として俺達は戦う!」
身構えつつそう啖呵を切ったダブルライダーに、ブラック将軍の青白い顔にピキピキと青筋が走った。
そしてある意味、奴隷以下とライダーを見下していた怪人達が、二人を打ち据えようと命を待たず飛び出そうとした、その時だった。
「それでこそ先輩方。我々もお手伝いさせて下さい!」
突然の声と共に、海浜公園内に建てられていたショッカー大首領を称えるオベリスク状のモニュメントの上に、赤と緑の人影が現れた。
赤い頭部に緑の複眼、海風に靡く二対のマフラー。
その存在を知っているのは、今この場には香山閃唯一人だった。
「仮面ライダー、V3。どうして、だって仮面ライダーは」
時間の果てに消えてしまったと、言い掛けてハッとなる。
尖塔の突端からV3が飛び降りると、まるでそれを待っていたかのように次々と仮面ライダー達が現れたのだ。
パワーアームを振るいつつライダーマンが。
ライドルスティックを自在に振り回しつつ仮面ライダーXが。
ガランダーの獣人に飛び掛かる仮面ライダーアマゾンが。
着地と同時に電気技を放つ仮面ライダーストロンガーが。
滑空しつつ現れたスカイライダーが。
飛び降りて来たと同時に拳を振るう仮面ライダースーパー1が。
電磁ナイフを構えた仮面ライダーZXが。
一気に怪人や戦闘員を相手に戦い始め、その姿に人々の表情が明るくなった。
「か、仮面ライダーがなんでこんなに!?」
「馬鹿な、貴様達は何処から現れた!?」
完全に彼らの想定外なのだろう、ガニコウモルとザンジオーが慌てふためきつつ、松明を持った戦闘員に火を点けるよう急き立てた。
だが、戦闘員は勢いづいて突進してきた人々と、三人を助けようと飛び込んで来た滝和也と中高生八人に突き飛ばされ殴られた。
磔台の足元に積まれた薪を蹴散らし、水戸部に抱き上げられた天馬と剛とがイマジンの固定金具を外すのを見た他の人達が、同じように磔台に取り付いて大我と閃の金具を外し、三人は自由を取り戻した。
「閃兄ちゃん!」
「大我さん!」
「おう!」
「ありがとうな、剛。ウォルフィ!」
『ああ、閃、行こう!』
二人が差し出したドライバーを受け取り、大我が腰に当てる横で閃にウルフイマジンが同化する。
焦げ茶の髪に一房朱くメッシュが入り、深緑の瞳が朱く変わる。そしてターミナルバックルを身に着け、閃はライダーパスを手にした。
「変身!」
タカ、トラ、バッタ! Ta,To,Ba. tatoba, TaToBa!
「『変身!』」
SLASHFORM!
黒い身体に、三原色が映える仮面ライダーオーズ。青いボディに、赤い電仮面が差し色のように映える仮面ライダー電王が現れ、人々から歓声が上がる。
その二人の肩を、滝が叩いて笑った。
「おーっし、まずはこの連中ぶっ飛ばして、此処にいる人達を避難させるぞ!」
「それは、俺達もお手伝いします!」
打てば響くように返った声に、オーズと電王は顔を見合わせ、そして慌てて声の主を探した。
ファーンと、独特な電子音警笛を鳴り響かせ、公園の上空すれすれをデンライナーが走り抜ける。大我や閃が知るものと違い、白いボディに真っ青なラインが入っている。
「新型デンライナー!?」
そして、驚く人々の頭上に八人の声が響いた。
「「「「「「「「変身!」」」」」」」」
黒と金、真紅と金、黒と朱、赤と黒、新緑、青、黒と銀、そして橙色の仮面ライダーが着地した。
「アギト、クウガ! みんな、どうして此処に」
「いきなり、砂漠みたいな場所に投げ出されたと思ったら、あの列車に救われたんだ」
「事情は、オーナー代理って人に聞いた。頑張ったな、お前ら」
電王の疑問に、アギトとクウガが応える。
えっと、オーズは横で線目の青年と大柄な青年と一緒に戦闘員を殴っていた相棒と顔を見合わせた。
「俺達も、『伝説』の人達も、デンライナーに保護されてたんだ」
「人類の自由と、平和の為に戦う仮面ライダーが復活したから」
「俺らも此処に立つ事が出来るんだ」
仮面ライダー
次から次に、見知らぬ『ライダー』が現れる事に、改造人間達は戸惑いを隠せずに吹き飛ばされる。寧ろ、未確認生命体側の方が積極的に新たに現れたライダー達と戦っている。
新顔のライダー達によって、幾重にも広がった戦闘員の壁に切れ目が出来た事を察して、滝和也は見物人として集められていた人々に向かって声を掛けた。
「皆、ここから逃げて、隠れてくれ!」
滝の声に、老若男女全員が動き出す。カラフルなライダー達に促され、見物人として公園内に集められていた人々は避難を始めた。
避難誘導の為走り出そうとしたリコの腕を、オレンジ色の果物と鎧武者モチーフのライダーが掴んだ。
「え?」
「リコ、お前も避難誘導が終わったらとばっちりを受けない場所に隠れてろ、良いな!」
「っ、順平!」
声を掛け、そのまま襲い掛かる
きっと、ゆっくり話せる筈だから。
そう胸の内で叫びつつ、リコは弟分二人を促し、人々と共に公園の外を目指した。
人々が動くのを見ながら、滝和也が一号二号を振り返る。
一号はガラオックスと、二号はエイドクガーと戦い、それぞれを倒したところだった。
「ライダー! 俺は人々を避難させてくる!」
「おお、滝!」
「頼んだ!」
「おおよ、すぐ戻るからな!」
そのやり取りだけで、三人はすぐそれぞれ向き合うべき方へと走り出す。
その姿に、欠片の躊躇は無く、三人の互いへの信頼を如実に現していた。
気が付くと、何処か山の近くの町のようだった。
流れている曲や人々の服装、何より新聞の日付からBADAN戦役寸前くらいの時間帯であると知った。
ついでに言うと、この世界は自身の記憶よりも空気が荒れているように思えた。
立ち枯れた木や草花、町の片隅で死んでいる小鳥や小動物の姿に、この世界の異常を感じた。
そんな風にあちらこちらを見て歩いていたところで、一人のネイチャーフォトグラファーと出会った。
こいつ、瀬川耕司との出会いが、フォッグと言う怪異な存在とぶつかる事になるとは、その時の俺には思いも拠らなかったのである。