「合いの子の出来損ない、一族の恥」
大笑いな事に、正真正銘怪物である父方、快楽殺人鬼を出したご立派な母方の双方から、黛千尋に投げ付けられた言葉である。
そして、その言葉にブチ切れた当時の保護者、現義父は――彼は双方から『偽善者』と罵られた――キバット五世の協力を『無理やり』取り付け、魔皇甲冑を着込んで大暴れした。
母方の『退治人』達も、本性を曝したファンガイア達も、悉く魔皇甲冑――『キバの鎧』を着込んだ義父に薙ぎ倒されていた。
あの時、札束で親族をぶん殴る予定――そう言ったのは、秘書のお姉さん方だ――だった《ホークアイ・ホールディングス》(H.E.H)会長アラン・ホークアイ氏はと言えば、眉一つ動かす事無く、義父が暴れるに任せていた。どうやら御大も、千尋を罵倒するついでに滝和也と会社とをディスった双方に、顔には出さないが怒髪天を突いていたらしい。
その結果、D&P社はH.E.Hにかなり足元を見られた協定を結ばざるを得ない状態になったし、母方が肩入れしていた『素晴らしき青空の会』は、『SPIRITS』隊に問題組織としてマークされる事になって、信頼回復にかなり腐心したそうだ。
その後、何年か経って、あの時の事を聞いた千尋に、会長は苦笑いと共にこう答えた。
「君の事だけじゃないよ、どちらもH.E.H(我が社)を『人間もどきの会社』と侮ってくれていたからね。あの事が無くても、近々何かしらの対応を取る予定だったんだよ。
まあ、滝君が怒っちゃったから、予定より遥かに派手になっちゃったけどね」
何はともあれ、人間とファンガイアと言う異種族間に生まれた千尋にとって、社員の四分の三が改造人間と言うH.E.Hの社員寮――と言っても、上級幹部用のマンションだが――での生活は、結構気楽なものだった。
家に出入りするのは、それこそ人間と動植物のハイブリットだったり、常人の五~十倍に強化されていたり、さもなくば改造人間と手合わせをこなすようなびっくり人間であった――彼らは大抵、義父の元部下だが、『元』を付ける事を皆嫌がった――。
何しろ、義父からして、生身で改造人間相手に取っ組み合い、かつてはナイフと銃で人外魔境が荒れ狂う戦場のど真ん中を走っていたような人物だ。
そんな大人達に守られて、黛千尋は『人間としての生活』を身に着けて行った。
そんなこんなで、実の父の遺品でもある魔皇甲冑、所謂『キバの鎧』を身に着ける事になったのは、高校一年、滝の家を出て、京都にある洛山高校に進学して一年経つか経たないかの頃だ。
ファンガイアの『王』が代替わりしたものの、その王が人間との共生を宣言した事に反発した古参が、新生《チェックメイト・フォー》を見下し勝手な行動を取り始めたのだ。
それだけなら、千尋が動く義理は無い。
何しろ彼は先代『王』と『女王』から抹消対象にされ、命と引き換えに一族から追放され義父とホークアイ氏に保護された身の上である。
一族から縁切りされた千尋が、ファンガイアの内輪揉めに関わる義理は何処にもないのだ。
だが、そうやって勝手を始めたファンガイアの貴族が目を付けたのが、洛山高校の生徒の生命力だった。
寄りにもよってと苦り切りつつ、千尋は重い腰を上げた。
掌よりやや大きなキバットの身体から、爆発するような魔力が流し込まれる。
そのエネルギーの圧に、無意識に歯を噛み締める千尋は、全くの人類でありながらこれに複数回耐え、変身してのけた義父を改めて尊敬する。
魔力が鎖となって体を覆い、魔法鋼の鎧が出来上がる。
そして、突然現れた『敵』に戸惑う怪人に向かって、千尋は名乗りを上げる。
「俺は骸骨ライダーの息子、仮面ライダーキバ」
気負う事無くそう告げると、『キバ』は走り出す。
恐ろしいほどの満月を背負い、ファンガイアを粉砕した『仮面ライダー』がネット上で騒がれる事になるのは、ほんの一週間後の事である。
*Chihiro Mayuzumi