Sons of Skull-Rider   作:怪傑忍者猫

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Fourth chapter TOKYOGUARDIAN
蠢動


 四月が来て、滝家の少年達を含めた日本中の学生が学年を進めた――留まった人間もいるかもしれないが――。

 で、四月半ばの部室内で、学期初めの実力テストの返って来た答案を前に、誠凛高校バスケ部三年生達は戦慄していた。……いや、一名は遠い目になっていたが。

 

「これは……どう言う事かしら?」

「いや、見た通りじゃないかな」

 

 わなわなと震えるバスケ部監督相田リコに、バスケ部主将日向順平はそう答えるしかない。

 彼女の目の前の会議机の上には、二年生部員の答案が並べられている。

 福田、河井、降旗、この三人は何時も通り、100番代前半の成績だ、安定している。

 黒子テツヤも、国語で何とか100番台中間に留まっている。

 そして、『バカ神』事火神大我。彼の平均点は60点だった。何と、黒子を抜いて、三人に近付いていた。

 何度も答案を確かめる三年生達の鬼気迫る姿に、当の大我が縮こまっている。

 

「この点数、本物なんだ?」

「……! ……!?」

「再提出の答案じゃないよって、水戸部も驚いてるよ」

「全部、この間の学年末試験の倍……はっ」

「黙れ伊月。いや、皆まずは成績を上げた事を誉めてやれよ」

 

 そう言った順平に、カントクは鼻先に噛付かん勢いで答案を叩いた。

 

「そんな事言ったって、順平、私達が皆で教えてギリギリ補習回避レベルだったのに、一月後に倍以上点を取ったのよ!?」

「そう言えば、日向も地味に点が上がってないか?」

 

 そう言ったのは、チーム唯一のリア充、土田聡史だった為か、がたっと同期がこちらを見たのに内心順平は引き攣ったが、主将の意地で動揺を押し殺した。が、幼馴染みにはばれた。(オワタ)

 

「どう言う事なのかなあ、順平ぃ」

「待て、落ち着け、もうすぐ新入生が入るんだ、騒ぎにしてくれるな」

「あ、あの、実はこの一月、家庭教師に来てもらったっす」

 

 流石に、先輩達がギスるのは不味いと思って、大我が声を上げた。

 

「?」

「家庭教師? あ、もしかして大学生だって言うあの人達?って、水戸部が言ってるよ」

 

 小金井慎二の言葉に、根が素直な大我はさっぱりとこう答えた。

 

「あ、兄ちゃん達もだけど、閃兄ちゃんの後輩だって言う花宮先輩とゆかいな仲間達が」

「え?」

「「「ええ!?」」」

「「「えー!?」」」

「あのオタマロがですか!?」

 

 先輩同輩の反応にびくつくチームのエースの様子に、順平は今度こそ額を抑え溜息を吐いた。

 

 

 同日同刻。

 都内のとある古刹では、しめやかに葬儀が行われていた。

 警視庁の未確認生命体対策班、《S.A.U.L》に所属する弱音羽久警部補は、喪服に身を包み焼香を行った。

 故人は、彼女の大学時代の恩師だった。

 工学に進む女性が珍しくなくなった昨今、セクハラ、モラハラを行う教授が少なくなかった学生時代に、きちんと論文を読んで指導してくれた人で、この人がいなかったらGシリーズは日の目を見る事が無かった。

 Gシリーズが警察庁に採用されて以降も、その改良の助言を貰っていた弱音は、何とも言えない思いで遺影を見た。

 故人は交通事故で亡くなった。居眠り運転で、高速道路で減速無しで中央分離帯に突っ込んだのだと言う。

 事故の一週間前に、G-3の量産機能限定版であるG-3マイルドの搭載機能について話し合い、あくまでも安全機能主体でと言う話を纏め、来月又話し合おうと約束をしていたのだ。

 他の参列者に場所を譲り、会場から出て来た弱音は、山門のところで煙草を吸う女性の姿に、思わず眉を顰めた。

 同じく喪服に身を包んだ女の方は、弱音の姿に気付くと煙草を携帯灰皿に入れて、にっこり笑って見せた。

 

「久し振りね、弱音さん」

「ええ、大学卒業以来ね、花村さん」

 

 話し掛けて来た女性は、同窓生であり、ある意味学科でのライバルだった花村咲夜である。

 同じような装甲強化服の研究をしていたものの、弱音が『危険状況における身体防護服」として研究していたのに対し、花村はそのものずばり『戦闘用強化服』だった。

 だからと言う訳でも無いが、お互い最低限の会話しかした事が無かった。

 卒業後、弱音が警察庁に進んだように、花村の方は自衛隊に進んだとは聞いていたが。

 

「先生、残念だったわねえ」

「ええ。まだまだご意見を頂きたかったのだけど」

 

 残念と言う言葉に含みを感じたものの、弱音が取り敢えず言葉を返すと、花村は肩を竦めた。

 

「それにしても、貴方安全服を作るとか言いつつ、結局戦闘服作ってんじゃないの」

「……G-3Xは確かに戦闘力を強化したけど、それは未確認生命体との戦闘時着用が多いからよ」

「それよ、未確認生命体との戦闘こそ、自衛隊に任されてしかるべきじゃないの? しかも、その未確認生命体迄抱き込んでいるそうじゃない、貴方のところって」

 

 言われた言葉に一瞬眉を顰め、そして海斗達仮面ライダー達の事を言っているのだと気付いてムカッとなった。

 言い返そうとしたその時、ぼふっと上着を頭から被せられた。

 

「きゃっ」

「何油売ってんだ、迎えに来たぞ」

 

 そう言ったのは、弱音の従兄妹であり《S.A.U.L》所属の本音京一郎警部補だった。

 従兄妹にそう声を掛けると、本音の方は花村に顔を向けてこう言った。

 

「こいつ、これでもうちの整備チームのトップなんでな、これから仕事だから連れて行かせて貰うがいいな?」

「え、ええ、もちろん。知らなかったとはいえ悪かったわ」

 

 制服姿の青年に疑問形だが威圧され、花村は引き下がった。

 従兄妹を半ば抱えるようにしながら、歩き出した本音は数歩離れたところで振り返った。

 

「自衛隊を未確認生命体鎮圧に引っ張り出す事になったら、それは『BADAN戦役』の再来だ。そんな事態にしない為に、俺達《S.A.U.L》が動いてる。

 あんた達がどう思ってるか知らないが、あんなの相手に仮想軍隊がドンパチしたら他所の国がどう思うか、考えてくれねえか」

 

 そう言って歩き出すと、背後から盛大に舌打ちが聞こえて本音は大きく嘆息した。

 苦虫を噛んだように顔を顰めている従兄弟に、弱音は声を掛けた。

 

「京一郎、あの」

「彼女、自衛隊の過激派だな。

 最近、自衛隊の中で未確認生命体排斥の過激派がいるんだと」

「排斥?」

 

 本音の愛車であるホンダ・NSXまで来たところで、本音はがりがりと頭を掻いてこう言った。

 

「お偉いの一人が、昨今の未確認生命体事件に対して、自衛隊の火力をつぎ込んで掃討すべきって発言してな、それに若手が乗っかってるんだと。ただなあ」

「ただ、何?」

 

 話を聞くうちに、弱音も眉を顰めていた。

 乗り込んで走らせつつ、本音は言葉を続ける。

 

「そのお偉い、BADANの時に士官だった息子が、富士演習場の事件で亡くなったんだと」

「え? あ、ブラックサタンの。でも、富士演習場の自衛隊は、何の指示も出てない待機状態で勝手に攻撃して、殲滅されたって聞いたけど」

「そう言うのも吹っ飛ぶくらい改造人間を恨み、その延長で未確認も恨んでるんじゃねえかって話。それと、お前に教えとけって総監に言われたんだがな」

「え?」

「今朝早く、お前の恩師の研究室が黒ずくめの集団に荒らされたそうだ」

「何ですって!?」

「監視カメラを含めた警備システムをハッキングして入り込んでいたそうだ。

 因みにそれが判ったのは、たまたま別の学科で泊まり込んでた学生が、研究室から出て行った不審者を見掛けて、警備員に知らせたからだそうだ」

「そんな事が。……先生の研究を狙って? でも先生の研究は殆ど学会で発表されて、産業スパイが狙う旨味なんて何もない筈よ?」

 

 そう言った従兄妹に向かって、本音はガリっと頭を掻いてこう告げた。

 

「まだ捜査中だからはっきりした事は判らんが、少なくとも侵入者は潜入作業のプロか、特殊工作に長けたプロだって言うのは間違いない。

 それにな、羽久」

「え?」

「お前の恩師、事故の前度々電話が掛かって来てて、その電話に向かって激高してたって証言が講師や学生の間から出てるそうだ」

「!?」

「睡眠薬とかは検出されなかったが、事故じゃなくて事件の恐れが出て来たそうだ」

 

 二人の乗ったNSXの前に、警視庁の庁舎が見えて来た。

 その庁舎を横に見ながら、NSXは別棟にある《S.A.U.L》の地下駐車場へと滑り込んだ。

 

 

 それから一週間後、ゴールデンウィークの人出の増えたショッピングモールに、トカゲ型の未確認生命体が現れた。

 

「あはは、このリザードマン様が絶望を振り撒いてやるぜぇ!」

 

 そう叫ぶなり、鱗の装飾が付いた長剣を振り回す怪人から人々が逃げ惑う中、人々の流れに逆らって走る青年が二人いた。

 一人は、薄い色合いのぼさぼさの金髪に三白眼の福井健介。

 もう一人は、白金髪に瞳孔が良く判らない薄い色合いの瞳の黛千尋。

 二人は、今回たまたま理由は別だが一緒にここの本屋に来ていて――千尋はラノベ購入に、健介は予約していたカリブ海の写真集を受け取りに――事件に遭遇していたのだ。

 

「ああくそ、たまの休日位、好きにさせやがれってんだ!」

 

 指輪を嵌めつつそう唸る健介に、溜息交じりに千尋はこう返す。

 

「だったら待機してれば良かったんじゃないか? まだ《S.A.U.L》からの出撃要請は来てないぜ?」

「相手が《ファントム》なんだよ! てか、ちーちゃんこそ本屋に居たらいいだろ?」

 

 健介の言葉に、不機嫌そうに一言。

 

「ばあか、あのままじゃ店閉まって、買うに買えねえよ。俺は、この店限定付録の為に来たんだからな。

 取り敢えず、どんな能力を使うか判らんから、さっさと調査(サーチ)するなり撃退するなりするぞ」

「はいよっと」

 

 そう返事しつつ、健介は呼び出したドライバーにビーストリングを当てて捻り、千尋は合流したキバットバット五世を掴んだ。

 

「「変身!」」

 

 そして、転んで逃げ遅れた子供にスケイル・ソードを振り上げたリザードマンファントムに、仮面ライダービーストがダイスサーベルで挑み、仮面ライダーキバが子供を抱えて距離を取った。

 己の前に現れた『古の魔法使い』と『古い存在との混血』(ファンガイアハーフ)を前に、リザードマンは仮面のような顔でも判り易く怒りを見せた。

 

「貴様らあ、俺様の邪魔をするか!」

「うっせえよ、俺の『昼食』(ランチ)になって貰うぜ!」

 

 切り結ぶビーストとファントムに、子供を家族の許に届けて戻ったキバが、割り込む事が出来ず軽く舌打ちする。

 

「くそ、遠距離攻撃手段がないってのは面倒だな」

「うーん、アームズモンスターを起こすべきかなあ(-ω-;)」

 

 キバットがぼやいているうちに、警官隊とG-3Xの一団が到着した。

 特殊シールドで壁を作る警官達を背に、G-3Xがキバに話し掛ける。彼は最近新規装着者になった新人だ。

 

「状況の報告を願います!」

「お疲れ様です、現在確認されている未確認はビーストと交戦中の『P種』一体のみ、半径一キロ以内に他の反応は見られない」

「一キロ、ですか?」

 

 面喰ったような反応に、キバは仮面の下で苦笑いを浮かべた。

 恐らく、半径五キロから未確認の存在を探知するクウガ、アギトに比べて範囲が狭いと思ったのだろう。

 

「ああ、探査力ぴか一の一号二号(アギトとクウガ)と並べてくれるな、その代わりこっちは、確実に個体数を探知するから」

「あ、いや、そんなつもりは」

 

 焦っている新人さんに、これは微笑ましく思いつつ笑って、キバは戦闘の動向に目を向けた。

 鍔迫り合いを押し勝ったビーストが、ダイスサーベルのドラムを弾く。

 カララっと音を立てて、止まった出目は最大値の6だった。

 

「よっしゃあ、くらえメインディッシュ!」

SaberStrike!

 

 銀色に光る八本足と翼を持つ竜の形をしたエネルギーの塊が六体、振られたサーベルの切っ先からリザードマンへと飛び込んで行く。

 だが、六連弾を喰らいぼろぼろになりつつも、まだ立っている未確認生命体の姿に、G-3Xが慌てて装備のロックを解こうとし、キバが援護の為前に出た、その時だった。

 G-3Xのセンサーが、近付く熱源反応を捕らえ、盛大な警告音(アラート)を鳴らした。

 

「熱源接近? って、小型爆発物? ミサイルって、総員伏せろ!!」

 

 G-3Xからの怒声に、警官達はシールドの陰で身を固くした。

 纏まって飛んで来たミサイルは、大半がリザードマンの背中を捕らえ、そして数発がビーストとキバへと命中した。

 そしてそれは、屋内で使用されるには火力の高い代物だった為に、リザードマンは周辺の店舗のショーウィンドウどころか陳列物まで吹き飛ばす勢いで爆発、炎上した。その爆炎に、包囲網を作っていた警官の一部が巻き込まれた。

 ビーストの方は、ミサイルを見出したその瞬間に『ウィング』のマントを呼び出しそれで衝撃を中和させたが、キバの方はたまたまミサイルとの間にファントムがいた為、気にせず走った結果吸い込まれるように自身に突っ込んでくるミサイルに気付くのが遅れた。

 数発とは言え、未確認生命体を爆散させたミサイルの直撃を受け、堪らずキバは変身解除でその衝撃を減らした。

 

「キバ!?」

「うわわ、しっかりしろ千尋ヽ(д`ヽ≡アタフタ≡ノ´д)ノ」

 

 床に倒れ込んだまま、呻いている青年に、ビーストが駆け寄りその頭上でキバットが泡喰った様子で飛び回る。

 その間に、警官隊の方は思わぬ爆発に巻き込まれた負傷者の応急手当の為、大急ぎで動き出した。

 そんな騒ぎの中、慌てて通信機を誤操作したG-3Xは、回線を繋ごうとして変な通信を拾っていた。

 

『R-01より本部。目標1沈黙、目標K、目標B命中するがそれぞれ中破と損傷軽微、指示を求める』

『本部よりR-01、拡散推進弾砲の実験は成功した。今回はこれで撤収せよ』

『了解、1320(ひとさんにーまる)撤収』

(え!?)

 

 慌てて録音しようとしたが、その前に通信が終わってしまった。

 通信の内容に呆然としつつ、だが警官隊指揮官に尻を叩かれながらG-3Xは現場の収集の為動き出した。

 程なく、負傷者の搬送の為に呼ばれた救急車のサイレンが聞こえてきた。

 

 

 黛千尋の負傷入院の知らせを受けて、滝海斗と一文字空、香山閃の三人は、それぞれの予定を切り上げ城南大学付属病院へと向かった。

 赤みを帯び始めた空の下、三人がバイクで病院に乗り付けると、駐輪場に見覚えのあるバイクが二台止まっていた。

 

「あ、真也のオートバジンと祥吾のコアボイルダーだ」

「そう言えば、梓小母さんと一緒にこっちに戻るって言ってたな、祥吾」

 

 目敏く見付けた空の声に、身内の予定を閃が思い出す。

 それに対し、不自然な位置に直立する黒い自販機を指差し海斗が微苦笑する。

 

「ライドベンダーがあるよ。ここには置いてなかった筈だから、大我も来てるみたいだね。多分、公共機関で来てる面子もいると思うから急ごうか」

「おう!」

「行くか」

 

 三人がエントランスを潜ると、人待ち顔で立っていた青年がほっとした顔で手を振った。

 彼は、三人を始めとした滝家の養い子達が幼い頃から世話になった小料理屋《TOKIO》の店員である、永瀬知治と言う人物だ。

 彼は、ショッカーを始めとするBADAN戦役の後で行き場を失った改造人間達の受け皿となった、《ホークアイ・ホールディングス》と言う会社の人事福利厚生部門が開設した飲食店の一つである《TOKIO》の接客兼施設管理助手と言う名目を持つ。だが同時に、滝家の子供達の送迎役も良く行っていた為、三人とも顔見知りを通り越して身内カウントしている人間の一人である。

 

「三人とも、こっちこっち!」

「知治さん!」

「知兄!」

「知さん、千尋は!」

 

 駆け寄った三人に、ほっとしたのかへにょっと顔を崩して永瀬は笑った。

 

「良かった、三人が来るの待ってたんだ。

 病室は何時もの階の10号室、皆集まってるから」

「ありがとう、知治さんはこれからどうするんですか?」

 

 海斗がそう問うと、永瀬は表情を改めてこう言った。

 

「天馬と和ちゃんとか、足の無い子達を送って行くから、この後は通用門側の待合室で待ってるよ」

「あ、そうか。もうすぐ正門閉じちゃうか」

「判った、じゃあ、また後で」

 

 時間を思い出し、永瀬の言葉に頷いた三人は、エントランス最奥のエレベータに乗った。

 そこから一旦三階まで上がり、そこから別棟に移動して更にエレベータで地階まで降りると、そこは《S.A.U.L》と《SPIRITS隊》と《ホークアイ・ホールディングス》とが用意した仮面ライダー及び未確認生命体事件関連の負傷者専用の特別病棟になる。

 最奥の10号室に入ると、そこは八人用の大部屋で、ガタイの良い体育系の学生達が詰めかけても暑苦しくない程度には広さのある部屋だった。

 そこには、ベッドの上でぶすったれている包帯姿の千尋が居り、それを仲間達が囲んでいる状態だった。普段なら飛び回っているキバットはと言うと、千尋の状態が気になっているのか、彼の肩でじっとしている。

 

「千尋!」

「おい、大丈夫か、お前」

 

 海斗と空がベッドに近付けば、傍にいた宮地清志、裕也兄弟と中村真也とが場所を譲った。

 反対側の傍にあった折り畳み椅子に座っていた健介に、些か困ったように事態を聞くのは閃である。

 

「戦闘中の負傷だって聞いたけど、ショッピングモールに出て来た奴、そんなに厄介だったのか?」

「うんにゃ、敵はファントムだったけど、奴自身は俺一人でも何とかなるレベルだった。……まあ、セイバーストライク最大値を耐える程度にはタフな奴だったけど、それでもG-3Xもキバもいたから、あの時点ではどうとでもなったんだ」

 

 半ば不貞腐れたように答えた健介に、言葉を足したのは千尋の方である。

 

「俺も健介も、魔力やオルタフォースなら探知出来るが、ごく普通の戦略兵器には反応出来ないからな。肉眼視出来ない位置から発射されちゃ、判らんな」

「戦略兵器だって!?」

 

 素っ頓狂な声を上げたのは裕也だったが、その場にいる全員の心情を代弁していた。

 それに向かって落ち着くよう声を掛け、少し険しい顔になって海斗が千尋に質問を投げた。

 

「裕也君、待って。

 千尋、戦略兵器だったのか?」

「あの、屋内で使用する事を全く考慮していない火力と、馬鹿みたいな射程距離は戦略兵器だと思う。

 あの時、俺は手持無沙汰だったから、【トゥルーアイ】も併用して半径一キロ圏内の探査をしていた。まあ、尤もG-3系統やギアガジェットと同じ強化服系の相手じゃあ、俺は視認出来なきゃ判らないがな」

「G-3Xが『伏せろ!』って言った時には、大型ガシャポンのカプセルみたいなのが目の前に来てたからな。俺は【マント】が間に合ったから良かったものの、ちーちゃんは完全近接戦闘型だから」

 

 健介がそう続けて、知識のある者達が「ああ」と言う顔になる。

 真也と『民間人その1』の高尾和成と祥吾が顔を見合わせ肩を竦め、宮地兄弟も仕方が無いと天を仰ぐ。この場で判らないのは、ライダーとなって間も無く、共闘経験が無いに等しい日向順平と火神大我だ。

 

「あの、それって」

「黛さんは、防御力低いのか、ですか?」

「いや、そうでもないよ」

「一番弱いのは、俺の【Computer】メモリか、【Book】メモリを使った時だと思う。耐久値紙だし」

 

 真也が手を振り、腕組みしつつ祥吾がそう言う。それに続けて、閃の方が顎に手を当てつつ言葉を繋げる。

 

「基本フォーム単体では、キバの鎧は攻守のバランスが取れた逸品なんだ。

 ただ、現状耐久値ベスト3はクウガのライジングタイタンとタイタン、555といったところで、実際のところ555から下は、ほぼ横並びだ。大我のメダルチェンジの組み合わせによっては、また変わるかもしれないが」

「じゃあ、今回千尋兄ちゃんが怪我したのは?」

「タイミングの悪さが一番だろうな。それに、現場の状況的に、ちー兄さんがミサイルを躱したら、警官隊が作った壁に突っ込んでたかもしれない。ファントムの爆発に巻き込まれたって人達が、結構他の病室にいるし」

 

 この中で『民間人その2』である天馬の問いに、眼鏡を直しつつ真也が答える。

 が、それに否を告げたのは健介と空だ。

 

「それはどうかな、なんか、俺と千尋が恣意的に狙われた気がする」

「流れ弾にしては、ちょっと数が多い気がするな。それに不自然な気がするんだよな、未確認とケンとヒロにだけ当たって、警官隊に流れなかったって言うのが」

「あ、そう言われると」

「確かに変な感じだな」

 

 空の言葉に、和成と今まで眉を顰めて話を聞いていた清志とが頷いた。

 そのままミーティングに発展しそうだったが、看護師に「面会時間終了」の一言と共に千尋以外の全員が押し出された。

 

「小型とは言え推進弾の直撃を食らって、変身解除で衝撃相殺図らなきゃいけなかったし、その時のポカで火傷とか打ち身とか色々作ったから、三日間入院して安静にしろだとさ。一日で治るんだがな、こんなの」

「そう言うなって。あ、ラノベ代わりに買って来るから、予約票預かるぜ」

「頼む」

 

 ぼやく千尋に健介が話しかけるのを聞きつつ、学生達は三々五々病室を後にした。

 バイクの無い宮地兄弟と和成、まだ免許を取っていない天馬、救急車でこちらに来た健介とは、待っていた永瀬のワゴン車で帰って行ったが、遅れて来た三人と祥吾、真也、大我と一緒に順平も通用口を潜った。

 

「あれ? 順平お前、ワゴンに乗らなくていいのか?」

「あ、もしかして大我とニケツか? 海斗と一緒の方が良くないか?」

 

 空と閃がそう言うと、順平の方は申し訳なさげにこう言った。

 

「あ、いや俺はこいつがあるんで」

 

 そう言うと、順平はポケットの中から桜の花を象っているらしい錠前を取り出し、そのロックを外すと少し離れた場所に投げた。

 すると、ばしゅっと音を立てて桜の花の形をしたカウルを持つ桜色の車体のバイクが現れた。

 

「おい、これ」

「何時の間にか増えてたんですよ、これ。《ホークアイ・ホールディングス》で調べて貰って、車検通して貰ったから普通に公道で走れますから」

「マジか」

「……この間会長さんが言ってたのはこれかあ」

 

 思わず真顔で聞き返す空に向かって、大真面目に順平は返答する。

 そんな弟分――一緒に暮らした時間は短かったが、世話を焼いた相手だ――の言葉に、閃は額を抑え、海斗は遠い目になった。

 兄貴分と先輩のやり取りを横目に見ながら、祥吾と真也、ライドベンダーをマシンバイクモードにした大我とは明日の予定を話し合った。

 

「祥吾と大我は、明日どうするんだ?」

「俺は、お袋と姐さん達と一緒に買い物。大我は?」

「うーん、多分自主トレかな? 明日部活休みなんだ」

「休み?」

 

 それに補足を入れたのは、ジェットヘルメットを被った順平だった。

 

「ああ、それ、明日俺が《S.A.U.L》に戦極ドライバーの事で呼び出し受けてるんで、どうせなら部活休みにって話になったんだ」

「あ、あれか。やっとそんな話になったんすねぇ」

「あー、実渕と氷室が関西と東北だからか?」

「春休みは、結局《S.A.U.L》の方が《大ショッカー》の調査に忙殺されて、ロックシードの調査に掛かれなかったらしいから」

「おら、お前ら、帰るぞ! 何時までも寒いとこで立ち話も無いだろ」

 

 祥吾と真也の会話に、空が制止を入れてこの場はお開きとなった。

 そして、七台のバイクが――二台ほどちょっとふらついていたが――病院の裏門からすっかり暗くなった街へと滑り出して行った。

 

 

 ほぼ同刻、警視庁の警視総監の執務室に、一人の警官が呼び出されていた。

 

「新條勇真警部補、入ります」

「勤務終了時間にすまない。一つ確認を取りたくてな」

 

 ぴっと敬礼する二十代前半だろう、癖のある黒髪に所謂甘めの風貌の青年に、新條強警視総監は書類を下しつつ言葉を掛ける。

 今回呼び出されたこの警官は、昼間のショッピングモールでの事件に出撃したG-3Xの装着者である。

 本来なら、キャリアとして警察組織の次期管理者としてデスクワークに着く筈だったが、自ら志願してG-3Xの装着試験を受け、《S.A.U.L》に入った変わり種である。

 ……まあ、名字を見て理解したお偉方は、全員口を閉じたが。

 ご覧の通り、彼は警視総監の甥――新條強の兄、新條敬太郎の息子である――で、縁故を云々されないよう一般志願者の中に混ざって試験を受けていた。

 

「報告書は読ませて貰った。爆撃直後の混線についてだが」

「は。申し訳ありません、目の前の事態に狼狽えて、オペレーターを呼び出そうとしてスイッチを押し間違えまして……回線繋いだままだったのですが」

「ああ、オペレーター側からも報告を受けている。

 新條警部補、他に何か気付いた事があったのでは?」

 

 ずっと上位の上官からの問いに、新人警察官は少し口ごもった後、こう付け足した。

 

「通話を録音出来なかったので、断言する根拠が無いと思い省きましたが、通話中に嗚咽のような声が聞こえました」

「嗚咽?」

「本部側の応答の際に、微かに。ただ、小さすぎて性別も年齢もはっきりしませんし、もしかするとスタッフが鼻を鳴らしただけかもしれませんが」

 

 はっきりしないと言いつつ、嗚咽であった事を確信していると取った警視総監は眉を顰めた。

 

「他に、気が付いた事は?」

「報告書以外に気が付いた事は以上です」

「……判った。ご苦労だった」

 

 ぱっと敬礼すると、にっと表情を崩すや、新条警部補はこう言って退出した。

 

「では、お先に失礼します。

 Kによろしくね、叔父さん!」

「こら、勇真!」

 

 閉じられた扉に新條警視総監が溜息を吐くと、卓上に設置されたノートパソコンから笑い声が漏れる。

 

『やれやれ、勇真君は相変わらずのようですね』

「俺だってびっくりしたよ。

 大学行ったから、てっきり弁護士になって兄貴の跡を継ぐんだと思ったら、警察庁に入って来てしかも《S.A.U.L》に志願するなんて思うかよ」

 

 ネクタイを緩めつつ、そうぼやいた新條に、パソコンからの声――《S.A.U.L》の超大型サーバーに組み込まれている人格搭載検索補助プログラム《K》は笑い声を立てる。

 《K》は、実際にはプログラムではなく、かつてBADAN戦役前に起きていたロボット犯罪に対応するべく、警視庁の特別科学捜査室に配属された犯罪捜査用ロボットであった。

 しかし、ボディが劣化により機能停止に至った為、サーバーに繋がって自我と記憶を保持している。

 新條勇真とは、まだ警官として活動していた時分に子守をした事があり、それ以来ボディを失うまで何度か遊んでやった事があったのだ。

 かつての相棒の笑い声に肩を竦めつつ、BADAN戦役のとばっちりで繰り上がり出世したかつての熱血刑事は、手元の書類に決裁印を押した。

 

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