Sons of Skull-Rider   作:怪傑忍者猫

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前触

 中村真也が、謎の人物を見かけた、その夜。

 《ホークアイ・ホールディングス》会長宅に、訪ねてくる人間がいた。

 応接間で来訪者を迎えたアラン・ホークアイは、己に深く頭を下げる人物に一瞬だが苦い表情を作った。

 

「警視庁捜査課第三課、課長の角谷と申します」

「同じく第三課、見浦と申します」

「ええ、初めまして。アラン・ホークアイと申します」

 

 企業会長の声に、あからさまに動揺を見せたのは見浦と名乗った老境に差し掛かった刑事で、その上司である近々退官であろう老刑事は淡々と訪問理由を語った。

 

「今回お伺いしたのは、Mr.にお伝えしておくべき情報がありましてな」

「それは解せませんな。警察の方が、一民間人に何を?」

「確かに、本来は情報漏洩に当たりますなあ。

 しかし、これは貴方にお伝えせねばならん事です。現在情報統制下にある為報道されておりませんが、現在五人の行方不明者が出ております。

 表向き、行方不明者に十代の未成年である事以外に共通点はありませんが、実は一つ共通点があります」

「ほう? ならこちらにあれこれ言う前に、捜査を進められては?」

 

 そう言って話を切り上げようとしたアラン・ホークアイに向かって、角谷警視はこう言い放った。

 

「行方不明者全員、『松本機関』出身者を親に持つ、超常能力者だったんですよ。

 貴方の元後輩が育てている、事件孤児の中にいるレベルの透視、遠視能力を持つ子供が、忽然と行方不明になっています」

 

 そう言われた瞬間、ぎしりとソファーの肘置きが軋んだ。

 

 アラン・ホークアイことマミーゼネラルと言う改造人間は、SHOCKER科学者陣の狂気から生まれた怪人だ。

 彼は事故によって大脳新皮質の大半を失った人間と、麻薬の大量投与によって肉体機能の大半を失い、萎縮を起こした人間の脳とを二個一にして産み出された。……実は、大首領の依り代として改造したものの、元ナチスの研究者達が所謂『理想的なアーリア人の肉体』に形成した為、大首領が外方を向いたと言う笑えない事実がある。

 そして、委縮した脳の持ち主の名前は松本蓮、日本警察官僚を父に持ち、だが自身は母方の故郷である香港で主に活動していたICPO捜査官である。

 

「それはつまり、私の……いや、滝君の息子達にも危険があると?」

「公には存在しない事になっている、異能者組織であった『松本機関』の関係者をピンポイントで浚ったと言う事は、それなりの情報流出があったと思われます。

 そして、以前『松本機関』の一部職員が貴方の庇護下にある子供を拉致しようとして、『SPIRITS』隊によって捕まった事も把握しています」

「……その時の情報が、一緒に流出した、と」

 

 聞き返すアラン・ホークアイの声が低くなる。

 それに向かって、角谷は「推論だが、否定は出来ない」と目を伏せた。

 

 先程から会話に出て来ている『松本機関』とは、松本蓮の父が極秘裏に作っていた超常能力者を集め、能力を暴発させないように訓練させた組織だ。ただ、その集め方がほぼ拉致や人身売買だった事と、能力制御させていた特異能力者がほぼ監禁状態だった事が大問題だったが。

 元帝国軍人であり、また政府の命令で特異能力者による部隊の編成を命じられていた松本某氏は、終戦後国家維持の自警組織として異能者組織を作ろうとしたのだ。……ただ、この人物ある種のダメ人間ホイホイの気があり、警官としての部下に所謂駄目屑エリート系の人間が部下に集まる傾向にあった。……当人も、数少ない真っ当な部下三人を自身の失策で死なせ、妻子に八つ当たりした程度に駄目な人間である。

 尤も、「使えない者でも使えないなりの使い道はある」的発想の彼の人物は、そう言う連中を特に統率しようとしなかった。あの連中が、某氏が健在の時には忠犬よろしく大人しく従っていた事も理由の一端だろう。

 そして創始者である父親の死後、雨後の筍のように現れた自称『後継者』が組織内で利権争いを起こした挙句、滝家の養い児達に手を出し組織そのものが摘発される事になったのだ。

 尤も、こんな話を世間に公表すれば警察組織そのものが機能不全に陥りかねない――寄りにもよって、警察官僚が人身売買して一部の人間を監禁していた――として、ICPO側が情報統制を掛けていた。

 

「……なるほど。確かにお知らせいただいて良かった。

 こちら側も、可能な限りの対処を取る事にしましょう。信頼されて預けられた子供達を、むざむざ誘拐などと言う事になれば、私は滝君に顔向け出来ない」

「ええ、そうして頂きたいと思います。

 もう亡くなった方をこのように言いたくはないが、あの人が国家の為にと作った組織ですが、過激派に非合法行為の口実を与えてしまいましたからな。組織に関わった人間の中には、現在の政権で組織の高官に就いている者もいる。

 あの人達が何かをやらかしていたとすると、そのままもみ消されかねません」

 

 そう話を切り上げ、男達は帰って行った。見浦と名乗った老刑事は、物言いたげにしていたものの、角谷に促され黙って帰った。

 彼らを見送り、深く溜め息を吐いたアラン・ホークアイの背後に、影が沸き立つように数人の男達が並ぶ。そこには、《ホークアイ・ホールディングス》社長中村史也、アメリカ支社総括である高橋俊を始め、それぞれ一見して三、四十代の筋骨逞しい男達だ。

 彼らは、現在《ホークアイ・ホールディングス》の要職にある幹部社員であり、同時にマミーゼネラルがショッカーの北米支部長であった頃からの部下達――つまり全員改造人間である。

 

「アラン様」

「話は聞いたとおりだ。

 これで、『未確認生命体』だけをピンポイントで爆撃する戦略兵器のからくりが見えたね」

「技術の出先は『財団X』ですな。

 確か、カズ坊と順坊が、そう言う傾向の兵器を開発していたセクトに捕まっていましたから」

 

 上司の言葉に、そう応えて角刈りの頭を掻き回した高橋の横で、他の男達も些かうんざりした顔で頷く。

 『財団X』とは、ぶっちゃけてしまえば財団の名の下に、兵器の開発販売を行う犯罪結社だ。だが、兵器会社と言う形で幾つも『表の顔』があり、尚且つその会社と様々な国家が取引を行っている為、ICPOもなかなか摘発出来ずにいる組織だ。壊滅したBADANから研究者が流入した事もあり、『SPIRITS』隊が非合法行為を理由に工場や研究所を潰しているものの、正直現状はイタチごっこを抜け出せずにいる。

 

「海斗と空の話じゃ、自衛隊の過激派って連中が限りなく黒い灰色って状態ですし、子供達の警護を増やしたいところですが、和成君も順平君も、下手に人を増やすと却って目立って厄介な事になりそうで」

「後気を配るべきなのは、芽衣子ちゃん、徹子ちゃん、霧子ちゃんと天馬、海外に移った子供で一番気になるのは、現在留学中の剛くんくらいでしょうか」

 

 部下達の言葉に、パンっと手を叩きアラン・ホークアイはこう宣った。

 

「中村君、社員住宅の保全管理を強めてくれたまえ。高橋君、『SPIRITS』隊とのタイアップを。

必要とあらば、援助額の増額も認めよう。マッコイ君、トニオ君、《S.A.U.L》と情報交換を進め、誘拐された子供達の早急な保護を。他の者も、緊急に備え準備は忘れないよう。

 いくら『松本機関』出身者を親に持つと言えど、能力制御迄引き継いでいるとは思えない。最悪、能力を絞り出すような形になり、衰弱している可能性もある」

「そうですな、兵器に子供を利用するような輩に、弱った子供を手当てするような良識があるとも思えませんからな」

 

 苦く呟いた部下の言葉に、アラン・ホークアイも渋面を隠さず頷いた。

 

「さあ、私達は私達に出来る事をしよう」

 

 その言葉と共に、元ショッカー大幹部は踵を返し、彼の部下達もその場から消えた。

 

 

 ゴールデンウィークも残り二日と言うところで、秀徳高校バスケ部は久し振りに体育館での部活に勤しんでいた。

 歴史が長い秀徳高校は、同時に施設も古いものが多い。

 そんな訳で長期休暇中に施設の補修や改築が進められる訳だが、古豪強豪と呼ばれている為運動部も多い。

 また、学校の周囲がそこそこ建物が密集している為大型建材や機器が入り難い。

 そんな訳で、機材の保管などの為に校庭や運動場の一部が使えなくなる為、運動部は日替わりで部活を行う事になる。

 本来なら、体育館使用なのでもう少し部活を差し込める筈のバスケ部は、残念ながら今回のゴールデンウィークは普段卓球部とバレー部が使っている講堂が補修工事に入った為、六日間の連休のうち学校での練習は連休頭の二日間と、今日しか確保出来なかった。

 

「あー、体育館ひっさしぶりー」

「ストバス場も使えない場所が多かったからな」

 

 練習着にバスケットシューズを履いて背伸びする高尾和成の横で、緑間真太郎が眼鏡の位置を直す。

 それぞれ、連休中の部活休みには自主トレを行ったものの、きちんとコートに入るのは久し振りである。

 実は、和成は《ホークアイ・ホールディングス》の所有するバスケットコートを部活に借りられないかを打診した。滝家のあるマンションに隣接して、正規のバスケットコート二面を有するストリートバスケット場があるのだ。

 そのコート、本来は微妙に空き地になってしまい、駐車場にするには車を通せるほどの通路が無く、建物を建てるにも資材搬入などに問題がありと言う事で、緑地する予定だった場所だ。

 ところが、丁度滝家の子供達がバスケットボールに興味を持った事を知った会長の鶴の一声で、多目的広場の名目でバスケットコートに整備されたのだ。もちろん、マンション住人の過半数が改造人間である事を考慮し、怪人同士がガチリ合っても大丈夫なように造られている。

 以来ここは、季節の折々に住民達が近在の皆さんを招いての、イベントが行われるようになったのだ。

 結果的に、先に近在のPTA主催のフリーマーケットと小学生フットサル大会の予定を組まれていた為、残念ながら秀徳バスケ部がコートを借りる事は出来なかった。

 だが、下見と称する和成と、今年の主将である宮地裕也と共にコートを見に行った緑間は、そこの施設の管理の良さに「流石は大企業管理の施設」と、唸っていた。

 

「あそこのコートが使えてたら良かったんだけどねえ」

「仕方が無いだろう、こちらが申し込む一月も前から決まっていたのだから」

 

 走り込みの後、パス練、連携からのシュート練習を行い、十分休憩に入った。

 相棒の分のドリンクも抱え、壁際に来た和成は緑間に渡すとその場にべたっと座り込み、自分のドリンクを喉に流し込んだ。受け取った緑間の方も、壁に背中を預けてドリンクに口を付けた。

 そこに、同じくドリンクを手に持った裕也が寄って来た。

 その表情は微妙で、何か悩んでいるように緑間は思った。

 

「裕也先輩、どうかしたんですか?」

 

 同じ事を感じた和成が口火を切って話し掛けた。

 ただ、和成は裕也の兄、清志が怪我した事を知っているので、そっちの事だろうと思っていた。

 果たして、ガリっと頭を掻いた裕也は実に言い辛そうに、「変人」と名高い現在チーム最長の後輩を見た。

 

「いやなあ。

 なあ、緑間。身内にお前に似てて赤い髪の人間って、いるか?」

「は?」

 

 裕也の言葉に緑間は目を丸くし、和成も思わず飲もうと口に運んだドリンクを下ろしていた。

 

「裕也さん、それって」

「いや、夕べLineで真也の奴から連絡が来てな、こいつの身内らしい奴を見掛けたが、そう言う外見の人間居るのかって聞かれてな。

 で、実際のところはどうなんだ、緑間」

 

 先輩である裕也の言葉に、緑間は暫く考え、そして答えて曰く。

 

「今は、いません」

「え?」

「父の伯母の子、要するに父の従兄弟ですが、その人物の学生時代と今の俺の背格好が、瓜二つのレベルで似ているとは親族達が集まった際に聞いた事はあります。その人物が、赤毛だった事も聞いています。

 しかし、父の従兄弟は二五年前に亡くなっていますので」

「あ、まさかBADAN戦役か?」

 

 裕也の確認に、緑間は頷き、そして言葉を足した。

 

「父の従兄弟は、その当時自衛隊の戦車隊に所属し、緊張に耐え切れず命令無視して戦端を切った戦友に巻き込まれ、ブラックサタンと言う集団に焼き殺されたそうです。

 それが原因で大伯母は精神を病んで、実家に帰って来たそうです。……俺が小学生の頃に亡くなりましたが」

「……」

 

 思わず黙り込んだ裕也の横で、和成は首を傾げていた。

 相棒の言葉が本当なら、この間自分が、そして昨日真也が見た人物は、一体何だったのだろうか。

 

 

 その頃、海常高校の体育館でも、バスケ部の部活が行われていた。

 新主将になった早川充洋が、ここぞとばかりに声を張り上げる。

 

「よおし、一〇分休憩!

 しっかい(り)水分取って休めよ!」

「「「「「はい!」」」」」

 

 早川の声に、レギュラー新入生、全員が返事を返す。

 新たな後輩、新しい一軍達が各々ドリンクを受け取り思い思いに休憩を取る中、中村真也は練習に参加している新二年生のレギュラー選手、黄瀬涼太の姿を探した。

 一昨日に黄瀬の顔を見た時には、睡眠不足で蒼褪めていた顔色に焦って、思わず城南大附属病院の心療内科受診を勧めてしまった真也がいる。

 二日振りに見た後輩は、一見すると普段通り――所謂高校生モデルでバスケをしているキセリョそのまま――に見える。

 だが、一年間芸能人ではない、一バスケ少年黄瀬涼太を見て来た真也には、後輩がかなり無理やり顔を取り繕い、何時も通りに「見える」ように演技していると知れた。そして、それはもう一人のレギュラー仲間であり、今期の主将である早川も気が付いたらしい。

 

「なかむあ(ら)、ちょっといいか?」

「早川?」

「黄瀬の奴、無理してう(る)っぽいかあ(ら)、向こうに連れ出して休ませてやってくえ(れ)ないか?

 こっちは上手くごまかすし、監督にも話しとくかあ(ら)」

「判った。じゃあ、声掛けて向こうに連れていく」

 

 声を潜めた分、聞き取り難かったが何を言いたいのかは解ったので、真也はドリンクをマネージャーに返すと、笑って新人達に応対している黄瀬の許へと歩み寄った。

 

「黄瀬、ちょっといいか?

 早川に頼まれて、去年の大会のDVDを探さなきゃいけないんだが、俺もうろ覚えだから手伝って欲しいんだ」

「え!?」

「だったら自分が」

 

 そう言って、身を乗り出した『やる気はあります』アピールの強い新人に、

 

「いや、黄瀬じゃないと判らない事があるから呼んでるんだ。

 それより、レギュラーを目指すなら、基礎練習を疎かにするのは頂けないな」

 

 と、軽く釘を刺して、真也は黄瀬を連れて部室棟へ向かった。

 

 

 バスケット部部室に入ると、真也は問答無用でベンチに黄瀬を座らせ、自身のロッカーから予備タオルを出し、金色の明るい頭を隠すように被せた。

 

「な、中村先輩!?」

「休んでろ、これは主将命令でもあるからな?」

 

 タオルの陰で、目を丸くする後輩に、少しだけ溜息が漏れる。

 

「お前は基本的に、笠松先輩や小堀先輩、森山先輩のところに走って行ってたけど、俺や早川だって、お前を見てたんだからな。

 本当に調子が良くて笑ってるのと、調子が悪いのを隠して笑ってるのの区別くらい付く。

 言っておくが、俺は一昨日の事を早川に話していないからな? 早川は純粋に今日、お前の顔を見て調子が悪いって看破したんだ」

 

 真也の言葉に、丸くなった目が申し訳なさげに伏せられる。

 口実としてDVD探しを言い出したため、昨年インターハイのものを取り出しつつ、真也は話を振ってみた。

 

「なあ、養父(おやじ)の家から帰った後、眠る事出来たか?」

「……いいえ。

 あの、寝てはいると、思うんだけど。寝た気がしないって言うか」

 

 インターハイの対桐皇戦のディスクを手に持ったまま、真也はベンチで項垂れている後輩を見た。

 記憶を辿っているらしい黄瀬は、自身の状態を言い表す為の語彙を、必死に漁っているらしい。

 

「図書館、なんです」

「え?」

「寝ようとして、目を閉じたら、図書館の中にいるんすよ。それも、床も天井も見えなくて、本棚が延々と並んでる、そんな場所で俺、一人で誰も、いなくて、声を上げても、響くばかりで」

 

 言い続けるうちに、黄瀬の肩がカタカタと震え始める。

 黄瀬涼太は、孤独が不得手で寂しがりや、その癖人見知りの気があり本気で懐くまで手間がかかるが、一度懐くとどれだけ邪険に扱われても相手に懐き続ける。『キセキの世代』のいじられキャラと言われて、あれだけそっけなく扱われてもあの面子を慕い続けたのだから。

 そんな彼には、人気の無い本棚しかない場所と言うのは確かに堪えるかもしれない。

 だが、ある事に気付いて、真也は後輩に向き直った。

 

「なあ黄瀬、図書館って言うか、無限に書架が連なっているんだな?

 もしかして、何か知りたいと思ったら、目の前に本が出て来たとか起きなかったか?」

「え、何でそれを」

 

 顔を跳ね上げた黄瀬の反応で、やはりと思う。

 何度か話に聞いた、灰崎祥吾が【BOOK】で『地球(ほし)の図書館』にアクセスした時と、状況がそっくりそのままだった。

 

 

 丁度その頃、退院した黛千尋は福井健介、岡村建一の二人と、城南大学近くのマジバで落ち合っていた。

 

「何があった……うん?」

 

 自分の分のジュースとアップルパイを持って来た千尋は、岡村の前にある小さな宝石箱に首を傾げた。

 

「よ、来たか」

「おお、怪我は大丈夫かの?」

 

 先に来ていた陽泉OBの向かいの席に千尋が座ると、岡村はその大きな手に不釣り合いな宝石箱を開いた。

 その中には、赤、青、黄、緑の大振りな石の付いた指輪と、掌の形の飾りが真ん中についた指輪が一つ。

 

「これは?」

「この間預かった、魔法石で作ったんじゃ」

「判るか、殆ど○○が一晩で作ってくれました、のノリで昨日の夕方には出来てたんだぜ?」

 

 何処となく、何かの仮面を思わせる、子供のおもちゃと思われそうな大振りな指輪の一つを取り上げ、千尋はその石の部分を照明に透かす。

 その、内部にびっしり文様が刻まれているのを見て千尋はビックリした。

 

「何だこれ、んー、霊力は感じるような、感じないような」

「これは、どちらかと言うと霊力を注ぎ込んで起動させんと、何の力もないただの装飾品じゃな。

 正直、何でこうなったのかは儂にも判らんのじゃが」

 

 岡村の応えに、千尋と健介はずっこけそうになる。

 岡村は、出羽三山に関わる修験者を長年輩出した家系の末裔で、とある組織に割と早い頃からスカウトを受けていた経歴の持ち主だ。バスケをしたい(ついでに女の子にもてたい)ので断ったが。

 福井健介と知己になって以来、彼の父の遺品である古文書の中に含まれていた魔法道具に関する文書を見付け、うっかり読み込んだ結果幾つか魔法道具を再現してしてしまった。――断っておくが、健介の亡き父はとんでも学説を喚き散らすマッドな学者では無く、あくまでも風俗文化資料として収集していた真面目な考古学者である。ただ、そうして集めていた中に本物のマジックアイテムが混じっていただけである。――

 健介の持っている、ジャヴァウォックに纏わる特殊攻撃を可能にするクロークリングも、岡村が資料の中から拾い上げ再現した代物である。

 その再現率に、『SPIRITS』隊と《ホークアイ・ホールディングス》の研究者達が戦慄したのは、今でも語り草である。……血筋由来の潤沢な霊力もあって、《ホークアイ・ホールディングス》が秘かに青田刈りを画策していると言う噂もあったりする。

 

「判らないは無いだろう、モアラ! お前が作ったんじゃないか!」

「と、言われてものお、今回は寧ろ石に請われるまま細工しただけだからのお。古文書を捲っとったら、石達が騒ぐページがあったもんじゃから」

 

 頭を掻きつつの岡村の言葉に、健介は物問いたげに千尋を見た。

 この指輪の材料になった魔法石は、千尋が差し出したものだからだ。

 千尋の方はと言うと、どう答えたものかとこめかみを押さえた。あの魔法石は、彼の……一応親戚が置いて行ってしまったものだからだ。

 

 それは、入院二日目。

 検査が終わり持ち込んでいたラノベを読んでいた千尋の横に、ふわりと異形が現れた。

 突然の事で、千尋は己の膝から飛び上がったキバット五世を咄嗟に掴み、だが相手を見て肩を落とした。

 そこにいるのがファンガイアの本体でもファントムでもなく、魔皇甲冑だと気付いたからだ。

 

「キング、出来れば普通に受付から入って来てくれませんか?」

『いや、関係者じゃないからと門前払いされそうだったから』

 

 そう答えたのは、目の前の魔皇甲冑――サガの鎧を着込んだ人物だ。

 彼は数年前に代替わりしたファンガイアのKINGだ。先代KINGとQUEENの間に生まれた生粋のファンガイアだが、世話役が穏健派だった事と親世代を薙ぎ倒した人類最強の存在の為、親達の言うファンガイア絶対の思想が根付かなかったと言うある意味苦労の多い存在だ。

 KING継承後のすったもんたを千尋に助けられる形になり、以来非公式な形ではあるが彼と仮面ライダーは緩やかな同盟関係にある。

 

「そりゃまあ、ここは基本関係者以外立ち入り禁止だが」

『それに、病院の薬品臭が、アレルギーに引っ掛かっちゃって。

 用事だけなら、人間にたくさん会うより真っ直ぐ壁抜けた方が早いかと思って』

「あー……気持ちは判るが、ほどほどにな。曲がりなりにも、一企業の社長なんだし」

『うん、善処するよ』

「する気ねえな、この野郎」

 

 かたや一種族の長、こなたその種族から追い出された半端者だが、微妙に距離が近いのは二人が年が近い従兄弟同士だったと言う事に尽きる。

 KINGの母である先代QUEENと、千尋の亡き父は血を分けた姉弟だった。

 ファンガイアとして過剰なほど気位の高い姉にとって、人間を娶った弟は何が何でも処分しなくてはならなかった。それ故に、弟の遺児である千尋への当りも強かった。

 隠棲させられた彼女は、《ホークアイ・ホールディングス》の術者系能力者、主にスミドロンや魔女参謀達によって、千尋に殺意を抱いて近付けば、その殺意と同じだけ全身に痛みを感じると言う術を掛けられている。

 尤も、彼女ら曰く「あれはあの女の殺意を女に跳ね返す鏡じゃ。殺意なぞ抱かず気に入らぬ者程度の思いでおれば、そもそも起動せぬわ」との事だったが。

  そんな事もあり、公では親しい事は伏せているものの、こうやって第三者がいないところでは主にKINGの方が千尋を構いたがっている。

 

『そうだ、余りゆっくり出来なかったんだ』

「おいこら」

 

 そう言うなり、サガことKINGは何処からともなくゴロゴロっと六色の水晶の塊――いや、魔法石の塊を取り出し、千尋の膝の上に置いた。

 軽くオレンジぐらいはある石の大きさに、千尋が呆れているうちにKINGは帰ってしまった。

 

『母さんが死蔵していた魔法石なんだ。うちじゃ珍しくもない石だし、確かちひろの周囲にはこう言う物を扱う人間居ただろう? そう言う人に渡しておいてね?』

「あ、ちょっと! ……まったく」

 

 あっと言う間に姿を消した年上らしい従兄弟に嘆息しつつ、千尋は膝に置かれた石を見下ろした。

 

 

   うん?

 

 

 ある事に気付いて、黛千尋は小柄な悪友に小突かれている大男に向き直った。

 

「なあ、岡村。確か石は六つ渡したと思うんだが」

 

 友人の疑問に、岡村建一はあっけらかんと一言。

 

「おお、透き通っていた奴と黒く光っとった分はこれじゃ。石二つ必要と言う、結構ごつい細工があっての」

 

 そう言って岡村が指さしたのは、掌の形の飾りが真ん中についた指輪だった。

 五つの指環は、何やら人待ち顔で光を弾いていた。

 

 

 何処かの建物の中で、何人かの人間が角を突き合わせていた。

 

「検体四号が衰弱状態に陥りました。

 これ以上の実験の継続は、検体の死亡に至ると思われます」

 

 初老の男の声に、若い――三十代ぐらいと思しい男の声が不貞腐れたように吐き捨てる。

 

「花村、お前の機械欠陥あるんじゃねえの?

 こんなに頻繁に検体に倒られちゃ、実用化なんて夢のまた夢だろ!?」

 

 それに向かって噛付いたのは、二十代後半だろう険の立った女の声だ。

 

「あんた達実働隊が、こっちの制止振り切って連続で出動するからでしょ!

 私は、クールダウン時間がいるって言ったじゃない! 検体だけじゃないわ、R-01は未だ起動して一月の赤ん坊と一緒なんですからね!」

「赤ん坊って、馬鹿言ってんじゃねえよ、戦闘機器に赤ん坊のメンタルじゃ機能不全に陥るからってメンタルモデル積んでるだろうがよ!」

「馬鹿言わないで! そのメンタルモデルとボディのバランスのすり合わせが必要だって言ってるでしょ!

 あんた達みたいな、無教養ですべからく暴力で事済まそうとする脳筋と一緒にしないで!」

 

 男女の空気が、この上なく悪くなり取っ組み合いになるかと言うところで、双方を諫める声がした。

 

「……水原三佐、花村一尉、そこまでだ。

 花村一尉、R-01と脳波誘導射撃管制装置ののメンテナンスを。

 水原三佐は、次の検体の招集を」

「しかし閣下、松本機関の資料によると、システムに耐えられそうな特異能力者はもうおりませんが」

 

 最初に報告していた男の声に、『閣下』と呼ばれた老年と思しい男は静かにこう応えた。

 

「それについては、技術提供先から資料が来ている。

 これまでの検体より、能力、体力ともに飛び抜けている。やや年嵩だが、その分花村一尉のシステムにも耐えられる筈だ」

 

 そう言った男の手元に置かれた書類には四つの名前が書かれていた。

 

『遠視、透視系能力及び感応系能力者

 

誠凛高校三年 日向順平

 

秀徳高校二年 高尾和成

 

誠凛高校三年 伊月俊(要増幅)

 

海常高校二年 黄瀬涼太(要制御システム)』

 

 

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