Sons of Skull-Rider   作:怪傑忍者猫

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克服

 誰も知らないところで、それは起きた。

 ゴールデンウィーク最後の部活、相棒をチャリアカーで送り届け家に帰ろうとした高尾和成は、公園のベンチにぼんやりと座る赤い髪の青年に気が付いた。

 そのまま通り過ぎる事無く、彼の許に近付いたのは、その面差しが先程別れた相棒、緑間真太郎そっくりだったからだ。

 

「あの、大丈夫? 体調悪い?」

「自己チェック中だ、問題ない」

「え?」

「うん!?」

 

 思わず、お互い顔を見合わせ、そして弾かれたように赤い髪の緑間のそっくりさんはズササッと一〇メートル程距離を取った。

 和成はと言うと、相棒そっくりな人間の、ギャグマンガもかくやな動きに思わず笑い出していた。

 

「ぶっは、リアルカートゥーン、目の当たり、ぶははっwwww」

「~~~~っ、誰だ、貴様は!」

「ごめんごめん、体調が悪いのかと思って声掛けてみたんだけど、それだけ動けるなら大丈夫か」

 

 和成の言葉に男の表情が一瞬消えたが、些か憤慨したような声でボヤく。

 

「いきなり知らない奴が横にいて自分を覗き込んでいたら、驚くのが普通だと思うが?」

「あーうん、ごめん。知り合いに似てる人間が、ベンチで項垂れてたから気になっちゃったんだ」

 

 和成の言葉に、男はむっと眉を寄せた。

 眼鏡の無い緑間の顔を見ている気分になって、笑い続ける和成にこれは結構険の立った声が投げ付けられる。

 

「どんな教育を受けたのかは知れないが、目上の人間に対して随分な事だ」

「え?」

「貴様は高校生だろう。俺は二五歳の自衛官だ、敬語を使うのが当然だろう」

 

 青年の言葉に、笑いを収めて和成は向き直る。

 

「ごめんね、確かに初対面に向かって爆笑した事は謝るよ。年上と思わなかったから、馴れ馴れしくし過ぎた。でも。自衛官だから敬語ってのはお断りだよ。

 俺、敬語は尊敬出来る人間にって決めてるんだ、身分職分で敬語強要する奴とか、他人に敬語強要しておいて自分は相手を貴様呼びするような人間には、タメ語で充分だと思ってる」

 

 高校生の言葉に、赤毛の男は一瞬戸惑ったような顔になり小さな声で「そう、なのか」と呟いた。

 それに向かって、何事か言葉を続けようとして、和成の背負うスポーツバッグから振動交じりの着信音が鳴った。

 

「しまった、義母さんから連絡!」

 

 気が付けば空はすっかり朱から紺に染まっていて、和成は慌てて携帯を引っ張り出しつつその公園を後にした。

 チャリアカーに乗って走り去った和成の背中を、青年はじっと見送っていた。

 

 

 翌日正午、海常高校の裏門に、一台のバイクが停まった。

 メタルブラックの前部とメタルグリーンの後部のツートンカラーに塗り分けられたそのバイクは、当然灰崎祥吾の操るコアボイルダーである。

 昨夜、真也から連絡を受け、予定を変えてこちらに来たのだ。

 尤も、この間のWC《ウィンター・カップ》の事もあり、二の足を踏んだ祥吾に向かって、

 

「根回しは済ませるから頼む」

 

と、言った真也に押し切られる形で、海常訪問が決まったのだ。

 取り敢えず愛車を駐輪場に収めてロックを掛けると、祥吾は真也を呼んで貰う為に守衛室へと向かった。

 守衛室には、先に真也が根回ししていた様子で、祥吾が名乗るとすぐに何処かに内戦を掛けてくれた。程なく現れた真也に連れられ、祥吾が向かったのは保健室だった。

 

「保健室?」

「上手く眠れないらしくてな。ただ、症状が医療の範囲じゃどうしようもないらしいから、取り敢えずガイアメモリで検索して欲しいんだ」

「それは良いけど、それにしても、寝ただけで『地球《ほし》の図書館』らしい場所に入り込むって、あいつ何やったんだ? この間会った時、メモリの反応なんて何もなかったのに」

 

 目元を誤魔化すのと、明暗の誤差で目が死ぬ――虹彩の色が薄い祥吾には、燦燦と光が差す校庭から校舎に入るだけで頭痛を覚えるレベルで辛いのだ――為に掛けた、淡い色合いのサングラスで歩く祥吾を見咎める者はいない。

 他の部活は今活動中らしく、グラウンドから掛け声が響き、吹奏楽部の楽器のチューニングらしい音色が聞こえる。

 保健室に入ると、机に向かっていた保険医が顔を上げた。

 そこにいたのは、祥吾も良く知っている女性だった。

 

「え? ギリーラさん?」

「ここじゃ九条みわって名乗ってるから、九条先生って呼んで頂戴」

「今年の四月から、新任保険医としてここに赴任して来たんだよ」

 

 ボブカットの三十代くらいの女性は『毒蝶ギリーラ』と言う名で、かつてはSHOCKERの改造人間であり、BADAN戦役の際にマミーゼネラルに自我を戻され、そのまま彼の勢力に加わった一人である。本職は鱗翅目をメインとした生物学者だが、きちんと医師免状を持つ内科医であり、近年校務医としての資格も取っている。

 書類を読む為に掛けていた眼鏡を外し、立ち上がったギリーラはちらっとベッドの一つに視線を向けた。

 

「黄瀬君には、今本社から取り寄せた導眠剤で寝て貰ってるけど、利きが悪いわね。

 今も肉体的には眠ってるけど、精神は覚醒状態で維持されてる感じよ」

「それは……」

「私が使ったのは、T-0の方の【Doctor】メモリだから、祥ちゃんが使うT-1メモリよりやや簡易ドライバーとの相性が悪いというのもあるのかもしれないけど、彼の覚醒状態は間違いないと思うの。

 後、メモリの反応が微妙な気がするわ」

「え?」

「テト姉は、こないだ使った時、そんな事言ってなかったぜ?」

 

 驚く真也と、眉を顰める祥吾に向かって、ドライバーと厳つい模様で飾られたT-0メモリを見せつつギリーラはこう続ける。

 

「私が改造人間だから、かもね。

 何となくだけど、彼にこちらを窺われているような気がするのよ。いや、彼じゃないわね。何か判らないけど、何かとても大きな存在に、黄瀬君経由で覗かれている気分だわ」

 

 ギリーラの言葉に、思わず二人の言葉が止まった、その時だった。

 奥から、押し殺したような唸り声がする。

 

「黄瀬!?」

「リョータ!」

 

 魘されている黄瀬に真也が駆け寄り、何かしら思い付いた様子で祥吾はロストドライバーを取り出し、腰に当てた。

 

「祥ちゃん!?」

「こいつが『地球《ほし》の図書館』にいるって言うなら!」

 

  【BOOK】!

「変身!」

 

 祥吾の頬に、開いた本と閉じた本を並べて文様化したラインが走ったかと思うと、それを覆いつくすようにスーツが形成される。

 メタルネイビーに白くラインが走るスーツに身を纏い、祥吾は毛布を握り締める黄瀬涼太の手を取った。

 その次の瞬間、祥吾の意識は、一気に引っ張られた。

 

「え!?」

 

 気が付けば、そこは本当に高い天井と、床が見えない世界で、延々と書架が連なっていて果てが見えない空間だった。

 普段、自分が接続していた場所と比べると、広がりも書架の数も段違いである。

 見えない足場に乗っているのは判るが、それ故に却ってこの空間の広がりをはっきり認識する事になる。

 

「うそ、だろ?

 もしかして、これが『地球《ほし》の図書館』本来の広さだってのか!?」

 

 周囲を見回しても、黄瀬らしい人物を見出す事が出来ない。

 

「あーくそ、検索! 『黄瀬涼太』!」

 

 延々と続く書架に苛立ち、ままよと叫んだその瞬間、ざざざざっと音を立てて書架が動き、主観で二〇メートルほど先に、本に埋もれて座り込んでいる金色の髪を見出した。

 足場を確かめつつ近付いて、祥吾は黄瀬涼太の異常に気付いた。

 積み上がった本に、座り込んだ周囲をぐるりと囲まれ、彼の上にパラパラと書類らしきものが降っている。

 その降って来た書類が、ある程度溜まると本に変じて黄瀬の横に積み上がる。

 

「何だこれ、何でこんな事が」

 

 一瞬躊躇して、それでもと祥吾は手を伸ばした。

 

「おい、リョータ、しっかりしろ!」

「ショーゴ、くん?」

 

 ぎこちなく首を動かし、自分を見る元同級生に手を伸ばせば、ぎくしゃくした動きで手を伸ばしてくる。

 何となく、じれったいと感じて半ば無理やり伸ばそうとした右腕を掴んだ、その次の瞬間。

 

「え!?」

「あ」

  バキン!

 

 ロストドライバーに差していた【BOOK】のメモリが、刺さったままはじけ飛ぶ。

 あっと思った時には、物凄い力で祥吾は後へと吹き飛ばされた。

 『地球《ほし》の図書館』から弾き出される瞬間、祥吾は懐かしさを感じる手の幻を見た。

 

「祥吾!」

「祥ちゃん!」

「…・・・う」

 

 祥吾が目を開くと、焦った顔の真也とギリーラが視界に入って来た。

 起き上がってドライバーを見ると、差し込んでいた【BOOK】のメモリが、真ん中からばっくり裂けていた。

 

「うわ、やっぱりブレイクしちまってる」

「大丈夫だったか、お前が黄瀬の手を掴んだ途端、メモリが吹っ飛んで」

「え? あれ?」

 

 二人の話によると、祥吾が黄瀬の手を掴んだ瞬間、メモリブレイクを起こして変身解除されてしまったらしい。その後そのまま意識のない祥吾を引き離したところだったと言う。

 体感時間と、現実時間がずれている事に関しては、『地球《ほし》の図書館』にアクセスした弊害だろうが、それにしても今まで『地球《ほし》の図書館』の内部で動けなかったのに動けた事、黄瀬の周囲に何故本が積み上がっていたのか。

 判らない事が増えてしまった。

 

「んっ……」

「黄瀬?!」

 

 どうやら、黄瀬が覚醒したらしい。

 慌ててギリーラがヘルスチェックを行うのを眺め、祥吾は破裂したメモリをそっと握り込んだ。

 

 

 事件は、その日の午後、誠凛高校の体育館で起こった。

 誠凛高校バスケ部は、その日練習を行っていた。

 その体育館の扉を突き破り、奇怪な外観の怪人が飛び込んで来た。

 

「げひゃひゃひゃ、ゲートの臭いがするぞお」

 

 そう言いつつ金属とガラスの扉を突き破り、へし曲げた獅子の顔を持つ怪人に思わず練習中の高校生達が凍り付く。

 その状態で、咄嗟に動けたのは仮面ライダーオーズこと火神大我と、その相棒であるレイヴ@黒子テツヤだ。

 

「火神君!『使え!』」

 

 それまで体育館の床でぐったり伸びていた黒子の髪に、すっと赤い差し色が入ったと思った瞬間ばね仕掛けのように跳ね上がり、そのままタオルを置いている舞台上に飛び上がるとメダルドライバーとメダル三枚を投げた。

 ドライバーとメダルを受け取り、大我は周囲に声を掛ける。

 

「みんな逃げてくれ! フリ、フク、カワ、一年を頼む! 変身!」

  タカ! トラ! バッタ!!

  Ta,To,Ba, tatoba TA、TO,BA!!

 

 スキャナを滑らせると、大柄な大我を三色のメダルが現れ囲む。

 『仮面ライダー』に変身した上級生の姿に、唖然呆然となっている後輩二人を降旗光樹、河原浩一、福田寛の三人が半ば押し出すようにしながら、体育館の外へと避難させる。

 その向こう側で、後輩達と逆側の扉から上級生達が避難を始める。

 

「おおっと、お前は逃がさないぜえ? しっかり絶望してくれよ、『ゲート』ちゃん?」

 

 そう嘯きつつ、マンコティアがモデルだろうファントムが狙いを付けたのは、副主将として集団の最後にいた伊月俊だった。

 ファントムの剣が、伊月に届く瞬間、その手に向かってバスケットボールを投げ付けた者がいる。

 

「逃げろ伊月!」

 

 それは、扉を開いてメンバーに避難するよう声掛けした後、同じく舞台に置いたスポーツバッグから戦極ドライバーを取り出した日向順平である。

 相手がファントムであると断じた時点で、自身の携帯で専門家《福井健介》に連絡を取ったものの、その切っ先が幼馴染みの一人に向けられているのを目にした途端、順平は手近なボールを投げ付け、ドライバーを掴んでいた。

 

「変身!『イチゴ!』うん!?」

 

 何時ものオレンジロックだと思って、見ないままロックを開いた順平は、何時もと違うコール音に思わず動きを止める。空間の裂け目から現れたのは、メタリックに光を弾く巨大なイチゴで、順平の途惑いもへったくれもお構いなくそれは彼の上に落ちて来た。そして。

 

  イチゴアームズ! シュシュッとスパーク!

 

「おうわ? 何時ものじゃなかった!?」

「何やってんのさ、ヒューガ!?」

 

 ヘッドパーツはともかく、苺を意匠にした左右非対称なプロテクターと両手に納まったナイフと言うには大振りな二振りのイチゴ型刃物に狼狽えつつも、マンコティアファントムがばら撒いたグールを同輩達に近付けまいと切り裂いた。

 その向こう側で、トラクロウを振るいながらオーズが相棒に声を掛ける。

 

「黒子! 俺の携帯に海斗兄ちゃんのナンバー入れてるから、向こうに連絡入れてくれ!」

「判りました!」

 

 その間に、件のファントムは最後の確認の為に立ち止まった伊月の前に瞬間移動した。

 

「よう、足手纏い。

 俺は知ってるぜえ、お前は中学時代からずっと日向のお荷物だったよなあ?」

 

 獅子面の怪人の言葉に、伊月俊の顔から表情が消えた。

 

「げひゃひゃ、この間優勝したが、それもお前の力って言うよりあそこの『幻の六人目』と『キセキならざるキセキ』と『無冠』の『鉄心』のお陰だよなあ?

 お前が力になってりゃ、中学時代に公式戦全敗なんて無様曝さないよなあ?」

 

 がくんっと、膝を付いた伊月に、更に勢い付いて物を言おうとしたマンコティアに、轟音と共にイチゴクナイが投げ付けられれ、突き刺さった。

 思わずクナイの軌跡を目でなぞったオーズは、クラッチ全開の鎧武に思わず背筋を伸ばした。

 

「いってぇな! って」

「その糞下らねえ物言い、早瀬だな。

 屑だ屑だと思ったら、ファントムなんぞになりやがったか」

 

 クラッチタイムのみならず、激怒の余り身体からゆらゆら何か陽炎じみたものが立ち上っているのが見える。

 一瞬気圧されつつ、だが早瀬と呼ばれた怪人は伊月を一瞥するや、勝ち誇って踏ん反り返って見せた。

 

「へっ、事実は事実だし?

 その証拠に、伊月クンは絶望してくれたし?」

「何だと!」

 

 見れば、蹲った伊月の身体に、顔に不気味な紫色の光の零れる亀裂が現れ、それは少しずつ増え徐々に広がっていく。

 

「伊月先輩!?」

 

 駆け寄った黒子の中で、片腕だけのグリードが眉を顰める。

 仮面ライダービースト事福井健介と共闘になった際に、何度か見掛けた状況だ。

 

『不味いぞ宿主《テツヤ》、こいつの精神世界を食い尽くしてファントムが出て来ようとしてやがる!』

「え!?」

『しかも、普段対処してる魔法使いも、何たらってところの術者もいない、このままだと確実にこいつは死んで、ファントムが増える!』

「そんな、僕達に出来る事は無いんですか、レイヴ!」

 

 黒子の悲鳴に、レイヴは舌打ち交じりにこう答えた。

 

『こいつが助かる方法は二つ、こいつの精神世界に入って、中を食い荒らしているファントムを倒すか封印、もう一つはこいつ自身が自分の中のファントムをねじ伏せる事だが、……無理がありそうだな』

「無理って?」

『後、精々持って五、六分、こいつが自力でねじ伏せるならよし、もし魔法使い達がそれまでにここに付なきゃ、俺はお前を引きずって逃げるぞ』

「そんな」

『俺はグリード、ファントムとは同じ魔物でも系統が違うんだ、俺に出来る事なんてねえよ』

 

 そう言う声は存外に悔しそうで、黒子はそう言えばここ三ヶ月ばかりのうちにレイヴがなんだかんだ言いつつチームの人間に馴染んでいた事を思い出した。

 意識を持たせようと、黒子が伊月に声を掛け始めたその向こうで、鎧武とマンコティアの戦いは苛烈さを増していた。

 

「早瀬! 手前は自分が何もしなかった、いいや何もかも放り出してたのを棚に上げて、随分な事言いやがって! お前が監督のお気に入りで、ずっとスタメンにいたから勝てなかったってのもあるんだぞこの野郎!」

「げひゃひゃ、そんな監督に逆らえなかったお前の勝手じゃねーか、俺の知った事か」

 

 下品に笑いつつ、だがマンコティアは内心激しく焦っていた。

 近接武器であり、同時に投擲武器であるイチゴクナイを自在に操り罵詈雑言と共に凶悪な蹴りを放ってくるかつての負け犬――日向順平の勢いに、度々押し負けそうになるのだ。

 

(この、偶々優勝したからって、偉そうにっ)

「舐めるなよ、人間がっ!」

 

 そう喚いた次の瞬間、マンコティアファントムは急に尾を立て、そこから針をばら撒いた。

 グールを倒し終わり、一瞬気を抜いたオーズを毒針が襲う。

 

「ぐ、いてえ!」

「火神君!『馬鹿、近付くな、俺らじゃ何も出来ねぇって!』」

 

 相棒の悲鳴に腰を浮かした黒子を、レイヴが引き戻す。

 そして、本来の獲物である鎧武の方は。

 

「この、こいつで!『ORANGE!』」

 

 イチゴアーマーと入れ代わりに現れたオレンジアーマーが鎧武に被さり、それと同時に高速回転を起こし毒針を弾いた。

 その、想定外の光景に絶句するマンコティアの目の前で、橙武者が姿を現す。

 

  ORANGE! 花道、ONSTAGE!

「好い加減にしろや、この野郎!」

「こ、このっ」

 

 使い慣れた形態になり、大橙丸が唸りを上げてマンコティアに迫る。

 絶好調にクラッチタイム延長中の順平を前に、マンコティアになった元同級生は見込み違いの事態に内心泡を食っていた。

 こいつは中学時代の、報われないまま努力を続ける根暗で、今回はたまたま『無冠』と『キセキの世代』と偶然に恵まれて『WC優勝校の主将』なんて身の程知らずな立場にいるだけの筈で。――マンコティアの中では、順平達の努力が報われたと言う事実は無い。

 こいつは、見下していた相手が自身が望んでも手に入らなかった物を全て手に入れた事に絶望して、ファントムに堕ちたのだから。

 剣戟の鋭さに内心怯えつつ、だが視界に入った伊月の状態にへらっと笑う。

 

「げひゃひゃ、えっらそうに!

 言っておくが、俺を殺しても伊月ちゃんは元には戻らねえぶぜっ!?」

 

 だが、正面からヒールキックを受け、マンコティアは後ろによろけた。

 

「んな事は知ってらあ、こいつを預かるに当たって先輩方から習ったからな、お前らファントムを含め、未確認生命体のあれやこれやな。

 俺は伊月を信じてる。あいつはファントムなんぞにはならない。

 だから、専門家が来るまでお前が馬鹿やって被害者が増えないように、抑えて置くのが俺の仕事だよ!」

 

 大橙丸を突き付け、そう言い切った鎧武の、順平に強さに、マンコティアは発狂よろしく激昂する。

 

「黙れ黙れ! ふざけるな、負け犬の癖に!! お前なんかが俺に勝てると思うなよ!!」

 

 そう叫んだ瞬間、マンコティアの前身から沸き上がった光がカードを形作り、9枚のカード型の光弾が鎧武に襲い掛かった。

 

「な!? うわぁ!?」

 

 数発ならともかく、流石に九連続爆撃を受けて戦極ドライバーのダメージ許容量を超えた。

 衝撃で弾き飛ばされ、同時に順平の変身が解けた。

 

「「キャプテン!?」」

 

 後輩達の悲鳴の中、だが順平は跳ね起き、衝撃で外れた戦極ドライバーをもう一度掴んでいた。

 切れた口元を拭い、割れた眼鏡を投げ捨て叫ぶ。

 

「俺は、バスケが好きなんだよ、どんだけ力量不足と言われようが、分不相応と言われようが、自分だけは騙せなかった、誤魔化せなかった!

 そんな俺に付いて来てくれた奴らがいる以上、お前なんぞに負けるか! どっち付かずで逆恨みしか出来なかったお前に!」

「日向あああア!!」

 

 この一通りを、身体から響く不気味な亀裂音を聞きつつ伊月俊は見ていた。

 

「ひゅう、が……おれ、は」

 

 ぎりっと両手を握り締めた、その時だった。

 

【このままで、良いの】

 

 気が付くと、伊月の前に、一人の少女が立っていた。

 金色の髪と、赤い右目の白いワンピース姿の少女はひたと伊月を見てこう言った。

 

【彼は、貴方がファントムにならないと信じている。そして、貴方を、仲間を、後輩達を守ろうとあそこで戦っている。

 貴方は、そのままで良いの?

 彼の友として、彼の仲間として、貴方に出来る事がある筈】

 

 中学時代からの友である少女に似た、でも彼女より年上だろう女性の声に、伊月は目を見張り、そして。

 

[どけよ、俺に喰われろよ、俺に自由を寄越せ!]

 

 自身の奥から響く声に、伊月は意識を合わせた。

 そこには、銀色に輝く西洋竜《ドラゴン》がいた。荒れ狂い、のたうち回るそれを、伊月は不思議と怖くないと思った。

 ついさっきまで、自身を引き裂いて出て来ようとする得体の知れないものだったのに、目を合わせた途端、伊月俊はこのドラゴンを知っていると気付いたのだ。

 そのドラゴンの眼は、勝てない事で内心荒んでいた中学生の頃、鏡を見るたび見ていた眼だったから。

 

(こいつは、俺なんだ)

 

 そう思った瞬間、俊はドラゴンを押さえ込んでいた。

 突進しようとしたドラゴンは、見えない壁に押さえ込まれそれ以上前に進めなくなったのだ。

 

(ごめんね、俺の中のドラゴン。でも、お前を開放する訳にはいかないんだ。

 だって、お前は昔の俺なんだもの。

 ……恥ずかしいね、克服したつもりだった昔の自分に負けるところだったなんて!)

[お前!?]

 

 驚くドラゴンを、己の奥へと押し戻す。

 驚いた表情を浮かべているらしいドラゴンは、少しだけ嬉しそうに、でも悔しがりつつ精神の奥底へ消えた。

 

 福井健介と、岡村建一とが誠凛高校体育館に辿り着いたのは、俊の身体に広がっていた亀裂が一気に消えたその瞬間だった。

 

「うお!?」

「亀裂が消えたって、まさか、ファントムを押さえ込んだのか!?」

 

 ファントム専任として、色んな事態を見て来た健介にも初めてのケースで、思わずまじまじと身体を起こす俊を見る。

 同じく、全く想定外の事態に顎を外しそうになっているのはマンコティアファントムだ。

 順平への当て付けもあったが、俊の方が精神的に脆いと見込んで――事実彼はゲート状態に陥ったのだから――襲ったと言うのに。

 

「ま、まさか、そんな、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!」

「やかましい! お前が俺と俺のダチを勝手に決め付けて、勝手に見下してただけだろうが!!」

 

 喚き散らすマンコティアに怒鳴り付けつつ、立ち上がった順平は同じく立ち上がった俊に向かって親指を立てて見せた。

 

「よう、信じてたぜ、伊月!」

「あはは、彼女に言われてやっと出来たんだけどね。……はっ」

「黙れ伊月」

 

 ダジャレを察知して切り捨てつつ、だが順平は首を傾げていた。

 はて、彼女とは?

 だが、それを深く考える前に新たな声が割って入る。

 

「あーあ、大口叩いてこれかよマンコティア。

 やっぱり三流は、ファントムになっても三流かあ」

「レギオン!!」

 

 真っ先に反応した健介に、二階のキャットウォークからこちらを見下ろす骸骨のファントムは、些かうんざりした風に肩を竦める。

 

「来たんだ、古の魔法使い。面倒だなあ。

 マンコティア、この失敗の挽回方法は判ってるよね? そこにいる奴らを殺せ。取り敢えず、そこでお前の毒で動けないデカブツとか?」

「ざけんな手前! その前に俺のディナーになりやがれ!」

 

 そう叫び、健介が指輪を付ける。

 そのまま飛び出そうとするのを、慌てて岡村が羽交い絞めで止める。

 

「待て待て福井、まず火神の解毒してやらにゃ」

「っと」

 

 だが、その拍子に岡村の上着のポケットから、入れっぱなしだった宝石箱が落ち、そこから二つの指環が俊の手の中へと飛び込んだ。

 それは、掌型の飾りのついた指輪と、仮面を思わせる紅い指輪だった。

 それまで光を弾くだけだった指輪達は、俊の手の中で自身が光り始めた。

 暫く指輪を見詰めていた俊は、岡村に申し訳なそうに頭を下げた。

 

「岡村さん、すいません、これお借りします」

「うん?」

 

 そして右手に掌型を、左手に仮面型を嵌めた。

 

「おい、伊月!?」

「俺にも、出来る事があるよ、日向」

 

 右手を臍の辺りに翳すと、そこに湧き上がるようにベルトが現れる。右手に嵌めた指輪と同じ、黒い掌型の飾り、否ハンドオーサーが目立つ。

 

  シャバドゥビタッチヘンシーン!!シャバドゥビタッチヘンシーン!!

 

 賑やかに歌い出す、ベルトの中央の掌の位置を動かすと、俊は左手の指輪をそこに押し当てた。

  PLEASE!

  ヒー、ヒー、ヒー・ヒー・ヒー!!

 

 横に伸ばした左手の先に、深紅の魔法陣が出現した。

 それが俊の身体を通り抜けると、その身体を特殊スーツが覆っていく。指輪そっくりなマスクに包まれ、黒いスーツはマジシャンの礼装のよう。

 魔法陣が消えると、ばっと裾を払い伊月俊は名乗りを上げた。

 

「そうだね、俺は宝石の魔法使い。いや、仮面ライダーって名乗らせて貰おうかな。

 俺は仮面ライダー『ウィザード』。

 タイムアップ迄、付き合って貰おうかな?」

「お、ま、え、はあああ!

 大人しく食い尽くされれば良いものを!」

 

 怒り狂い、手に持った剣を盲滅法に振り回しながら突っ込んで来たマンコティアを、ウィザードは闘牛士よろしく、ひらりと避ける。

 その横で、順平も再び鎧武となった。

 

  ORANGE! 花道ONSTAGE!

「伊月!」

「行くよ日向!」

 

 宙に現れた魔法陣から、ウィザードが大きな銃にも剣にも見えるものを掴み出すと、それに付いた握り拳のようなギミックを開いた。

 

  キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!

 

 ウィザードは少し考える素振りを見せて、広げた手形に左手を当てた。

 その横で、鎧武もドライバーに付いたカッティングブレードを弾く。

 

  フレイム! スラッシュストライク! ヒー・ヒー・ヒー!!

  ORANGESPARKING!!

 

「せい!」

「うおりゃ!!」

 

 二人が同時に放った斬撃は、もう一度光弾を放とうとしていたマンコティアの胴体をX状に斬り払った。

 

「あ? 何で? 俺が、あいつ等より、劣って、ちが、あああああああぁぁぁっ!?」

 

 二種類のエネルギーに焼かれつつ、マンコティアは爆散した。

 大きな花火のように爆発し、そのまま消えたかつてのチームメイトのなれの果てが消えた跡を、ウィザードも鎧武も暫く見詰めていた。

 

「あーあ、負けちゃった。

 寄りにも寄って魔法使いを増やしてくれてさ、本当に無能だったな、あいつ」

  セイバーストライク!

「言いたい事はそれだけかあ!」

  スキャニングチャージ!

「おうりゃあ!!」

 

 肩を竦めていたレギオンを、左右からオーズとビーストが迫る。

 光弾とキックの二段攻撃を食らい、レギオンも爆発する。が、爆炎が収まるより先に、些か気分を害したようなレギオンの声がした。

 

『あーもう、つまんない。ドレイク様の命令があるから今は引くけど、今度は俺が直々に相手してやるよ、古の魔法使い。そこの新米魔法使い共々ね』

 

 インパクトの瞬間、逃げられた事を悟ったビーストが己が左手に右拳を打ち付け、悔しさを示す。

 オーズの方は、解毒早々の大技でその場にへたり込んでいた。

 

「つっかれたあぁ」

「大丈夫ですか、火神君『しっかりしろ、毒は消して貰っただろう?』」

「毒は消えても、消耗した体力は戻ってねえよ。しかし、こりゃ暫く部活中止かな?」

 

 変身を解いた大我が、頭を掻きつつそうぼやく。

 順平こと鎧武とマンコティアの戦闘は、マンコティアが元々順平や俊への嫌がらせも兼ねて、わざと体育館内を荒らすように暴れた為、体育館の床がボロボロになっていた。

 だが、それに対して答えたのは、首を鳴らしつつの岡村であった。

 

「心配せんでええ、〈ホークアイ・ホールディングス〉の方が今夜中に修復してくれるじゃろ。

 ここは火神も日向もおるから、会長さんがすぐ手を打ってくれるじゃろ」

「そうなんですか?」

「あー、その前に、伊月を〈S.A.U.L〉に連れて行かなきゃかな」

 

 健介の声に、順平と大我が「あー……」と言う顔になる。

 そんな中、指輪を外した俊が、岡村に返そうとした。だが、岡村は首を横に振り、残りの指環を宝石箱ごと差し出した。

 

「岡村さん?」

「どうやら儂は、お前さんに渡す為にこいつらを創ったようじゃ。赤い指輪と二色の指環には、もうお前さんの魔力が籠っとるからの、他の人間には使えんわい」

 

 受け取りつつ、それでも困ったように目を泳がせる中学生からの戦友の背を、順平が宥めるように叩いた。

 

「お前が先に『仮面ライダー』名乗ったんだ、まあ取り敢えずは、〈S.A.U.L〉に行く前にカントクに報告するぞ。

 今日練習出来なくなったから、明日の練習は……十倍かな?」

「……あ゛」

 

 順平の言葉に出入り口を見れば、怒気でさながら某超野菜人か何かのようになっている、チームの女王様の姿があり、怯えたチームメイト達が離れた場所で揃って両手を合わせているのが見えた。

 勿論、彼女の気迫の前に思わず抱き合った二年エースコンビと、気圧され元同級生の陰に隠れた古の魔法使いがいたのは言うまでもない。

 

 

 日向順平、福井健介、火神大我の三人に、〈S.A.U.L〉からの緊急連絡が飛んだのはその直後。

 

 海常高校から黄瀬涼太が、秀徳高校から高尾和成が連れ浚われた事。

 黄瀬を連れ去った車両を灰崎祥吾と中村真也がそれぞれの愛車で追い掛けている事、秀徳から連れ浚われそうになった和成を救い出そうとして、緑間真太郎も共に誘拐された事。

 メインオペレーターから伝えられた情報に、ライダー達は困惑も大きく顔を見合わせるしかなかった。

 

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