Sons of Skull-Rider   作:怪傑忍者猫

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殺到

 ざわざわと言う耳障りな音に、黄瀬涼太は頭を一振りして起き上がった。

 体調不良から家に帰るよう言われ、付き添うと言う中村真也を待って校門のところにいたら、突然停まった黒塗りの外車に引きずり込まれたのだ。

 逃げようともがいたが相手はまるでレスラーか何かのようにがっちりとこちらをホールドし、嫌な臭いのする布で鼻と口を覆ってきた。

 何度か息をするうちに急速に意識が落ちていって、これが麻酔かと頭の片隅で思いつつ、黄瀬は意識を手放していた。

 そして今、身体を起こした黄瀬は自身が海常のジャージを脱がされ、手術着か何かのようなものに着替えさせられた上でひどく狭い場所に閉じ込められている事に気が付いた。

 いや、ガラスかアクリルかは良く判らない。透明な、だが外の音声が殆ど聞こえない材質のものに四方を囲まれている事に気付いたのだ。

 音は、薬物の影響か何か故の耳鳴りだろう見当を付けつつ、黄瀬は目を細めつつ周囲に居る人間達を見た。

 こちらが起きた事に気付いているだろうに、誰一人として黄瀬の方を見ようとしない白衣の集団の中で、二人だけ空気の違う人間がいた。

 一人は、二十代半ばくらいだろうか、同世代だろう女性に食って掛かっている。

 食って掛かっている方は、二十代半ばくらいだろうか。化粧っ気が無く、バッサリと首元で切り揃えた髪が、自身の外見に手を掛けるより参考書にお金を掛けていそうな雰囲気の女性だ。

 食って掛かられている方は、二十代後半、三十までは行ってないだろうそれなりに容姿の整った――ついでにそれなりにお金をつぎ込んでいるらしい――女性だ。だが、周囲の人間須らく見下した空気を纏っており、芸能界でも稀に良く見ると言う、空気読まない系女王様タイプに見えた。

 

(あ、この人自分の思い通りにならなきゃヒスる女性(ヒト)だ)

 

 仕事先で腫物扱いされているのを、ちやほやされてると勘違いして暴れ回った挙句、所属事務所から迄干された先輩モデルを思い出し、黄瀬は思わず肩が落ちた。

 これから自分がどうなってしまうのが、げんなりしつつふっと顔を上げて白衣の集団の奥を見た黄瀬は、そこの光景を見てぎょっとなった。

 壁の一部に、どう見ても言い訳出来ない鉄格子が嵌められており、その奥で力無く折り重なるように倒れている大きい子で十四、五歳、小さな子は小学校低学年ぐらいだろう子供が、六、七人見えた。

 そして、その鉄格子の出入り口らしい場所の横の方に立っている、自衛隊の制服らしいものを着込んだ赤い髪の緑間真太郎そっくりな人間に、である。

 

(緑間っち!? いや、おは朝だとしても何かおかしい?

 第一、緑間っちはおは朝に運命握られた変人だけど、あんな状態の子供を見て放置するようなヒトデナシじゃないっすよ!? 誰だ、あいつ!?)

 

 黄瀬のもの想いを知る由も無い、緑間そっくりな人物は仮面のように表情を変える事無くそこに立ち続けていた。

 

 

 自宅に向かって、日向順平、伊月俊、相田リコの三人は歩いていた。

 一見すると何時も通りだが、俊の手に見慣れない、玩具じみた大振りな指輪が付いている事と、順平が何かをすぐ取り出せるよう、ジャージのポケットに片手を突っ込んだままなのに気付く者はいない。

 あと百メートルほどで自宅と言う、ちょっと人通りの途切れた当りで、ばらばらっと六人ほどの黒いサバイバルゲーム参加者のような恰好の人間が三人を囲んだ。

 誰もが百八十センチ越え、筋骨逞しいレスラー体型の男達で、単純に格闘戦に持ち込まれたら順平も俊も一瞬で抑え込まれてしまうような、嫌な圧力があった。

 

「何だよ、あんた達」

 

 機嫌の悪さを隠す事無く順平が問えば、男達のリーダー格が銃を向けて来た。

 黒光りするそれは一見するとエアガンのように見えたが、プラスチック製の実弾銃がある事を講義で聞いている順平は、眼鏡の奥の目を細めて男を睨んだ。

 

「ふざけんな、街中で何出してんだよ。

 警察呼ぶぞ、女の子がいるのに何考えてやがる」

「静かにしろ。大人しくお前とそこの優男が付いて来るなら、そこの小娘は放置してやる。

 従わないなら……おい、何だ」

「た、隊長!?」

 

 リーダーの男は、脅そうとした相手があからさまに顔を引き攣らせたのを見て、疑問に思ったその次の瞬間。部下の警告より先に、男の意識は刈り取られていた。

 サバゲーマーに身を窶しているとは言え、現職自衛官を延髄切り一撃で仕留めた存在。それは。

 

「おう、てめえら何処のもんだ。

 俺のリコちゃんにぬぁあにするつもりだ、ゴラ」

「え、あ?」

 

 シュゴハーっと、瘴気とも吐息ともつかないものを吐きつつ、ガシャンっとショットガン(塩弾入り)をリロードし逆光を背負って立つのはリコの父、相田景虎だった。

 乱入者に戸惑う不審者達より先に、娘の鶴の一声。

 

「パパ、こいつらよ! 電話で話したつけ回してる連中!

 日向君たちと一緒ならって思ったけど、凶器で脅して来たの、助けて殺される!!」

「ぬあんだとおおおおおおぉぉぉ!!」

 

 ……後は、ただただ殺戮の嵐だった。

 蹴り、殴り、踏み躙る、親バカの逆鱗、虎の尻尾を盛大に踏んだ――彼らはそれを意図したつもりはさらさらなく、単純に標的に対する人質のつもりだったが――不審者に身を窶した自衛官達は、あっという間に叩きのめされてしまった。

 満足げにその様子を眺めるリコに向かって、一応『正義の味方』の看板を背負う幼馴染み二人が声を掛けると。

 

「えーっと、リコさん?」

「学校を出る前に、パパに電話しておいたの。幾ら自衛官相手でも、『仮面ライダー』が戦うのは不味いんじゃないかと思って」

「景虎さんに逮捕歴が付きそうだよ!?」

 

 俊のか細い声に、からりと笑って娘はこう言い放つ。

 

「大丈夫大丈夫、相手銃刀法違反してるみたいだし」

「……うんまあ、もう片付いちゃったみたいだし、まあいいか」

 

 積み上がった、ガタイの良い兄ちゃん六人の上でファイティングポーズを決める元全日本バスケ選手から眼を逸らしつつ、順平は改めて自身の携帯を使い警察へ通報した。

 勿論、数分後に駆け付けた警官達は、逆海老の状態で縛り上げられ泣いている男達とまだ収まらない様子の保護者と、彼を宥める娘さんに武装解除で取り上げた銃火器を前にげんなりしている高校生二人を見出し、どう報告したものかと頭を抱える事になるのだが。

 

 

「おう、日向達の方はもう蹴り付いたらしいぞ、何でもカントクさんの親父さんが蹂躙して終わったってさ」

「あー」

「『怖いな親バカってなあ』レイヴ、思っても言っちゃダメな事があります」

 

 移動するワゴンの中で、タブレットに流れる情報を見ていた福井健介が苦笑交じりにそう告げると、誠凛高校二年生コンビ+αは遠い目になる。

 娘を溺愛するあまり、幼馴染み二人にすら時にモデルガンを突き付ける父親を知る二人には、大体予想通りと言ったところだった。

 

「それより、これから火神君と福井さんはどうするんですか?」

「おう、俺達は基本待機だ、捕まっている子供がどこに居るのか、それを突き止めなきゃ話にならねえからな。清志の奴がまだ退院出来ないし、順平達は説明やら何やらで合流は難しいらしいから、俺達が戦力だな」

 

 そう言う健介の顔は厳しい。

 かつて、家族を亡くした頃の自分と変わらない年頃の子供が、親元から攫われ挙句に命の危険に晒されていると聞かされ、心中穏やかではなかった。

 また、彼の義兄弟と言うべき滝家の子供には、同じような状況で保護され、メンタルケアに時間の掛かった者も大勢いたのだ。

 

「馬鹿どもに捕まってるのは、黄瀬と緑間、高尾以外にも小中学生が最低でも五、六人下手打つともっと拉致られて監禁されていると見られてる。

 まずは、その子達の安全確保しようって話になったって事だ。あの連中、超常能力を持ってるから人間じゃないって、無茶な事言いだしかねないからな」

「oh……、本気かよ」

「そんな」

 

 絶句している大我と黒子に、これは嘆息交じりにレイヴが答える。

 

「『この間、ショーゴの奴と一緒だった時に変身解いてたあいつは無視されて、俺達とタイガばかりが追い回されただろう?

 向こうさんにとって、「普通とは違う」ってのは「何やっても良い」って言う免罪符になっちまってんじゃねえか?』っ!?」

「ま、黒子には納得いかないだろうが、ねじ一本外れた人間の発想は正気の人間には理解出来ない事ばかりってな」

 

 健介の言葉に黒子は何か言いたげに口を開いたが、運転手の

 

「合流地点が見えたよ」

 

という声に口を閉じた。

 その言葉通り、フロントガラスの向こうに何台かのパトカーに紛れるようにして、市販品とは思えない派手なデザインのバイクが見えた。

 

 

 拉致に使われた四トントラックから引きずり降ろされ、高尾和成と緑間真太郎は長銃を突き付けられ歩かされた。

 歩数で考えるに、距離的には五十メートルと言ったところか、殺風景なコンクリ打ちっぱなしの空間が急に開けたと思うと、そこは白衣の集団が右往左往し、狭めの体育館くらいの広間の中心に巨大なシリンダーが鎮座している。

 そして、そのシリンダーの中に顔見知りの青年が捕らわれているのを見て取り、和成の喉がヒュゥッと音を立てた。相棒の反応に、その視線の先を見た緑間も、憔悴した様子の元同中の顔を見出しカチャッと眼鏡を押し上げた。

 

「ちょっと、余計な者連れて来て! 実戦隊は何しているのよ! 水原のゴリラはまだ帰って来ないの!」

「ゴリラだから、野生に帰って走り回ってんじゃないの」

 

 ヒステリックな声に、吐き捨てるような女性の声が答え、間髪入れずにパアンッと、張り倒す音がした。

 

「生意気な事言うんじゃないわ! あんたはR‐01のシステム調整やってなさいよ!」

 

 キンキンと声を張り上げる、自衛隊の制服の上に白衣を羽織った女性は、苛立っているのを隠す事無く周囲の男性職員に命令する。

 

「さあ、未確認生命体を排除する為に、準備するの! そうね、日向順平はまだ来てないのね、じゃあ、高尾和成をシステムに入れて頂戴。R-01が出撃するわ!」

「はあ!?」

「高尾に何をする気なのだよ!」

 

 驚く和成と殺気立つ緑間とを、白衣の集団が引き離そうとする。

 男達の向こう側で、黄瀬が捕らえられているものよりは小さいが人一人が何とか収まりそうなシリンダーが、ゆっくりと口を開こうとしている。

 先程リーダー格らしい女に殴られた女性が、手に持った書類ケースで男達に殴り掛かる。

 その女性の顔を見て、高尾が驚いたように顔を上げる。

 

唱子(しょうこ)さん、いや三井さん!?」

「ふざけんじゃないわ、守るべき子供をあんなに酷使した挙句に、今度は滝さんところの子まで!

 あんた達の戦争ごっこの道具に、子供を使うんじゃないわよ!」

 

 三井唱子の叫びに、男達の背後で花村咲夜一尉が馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

 

「子供って年じゃないでしょ? 大体あそこの餓鬼どもと黄瀬涼太は人間もどきだし、そこの高尾和成は元々『財団X』の研究物だったんだし、それらしく扱う事の何がいけないの?

 『大事の前の小事』って知ってる? 日本国民一億人の為に、高々二〇人足らずの人間もどきを酷使したからってどうだって言うの?」

「子供を酷使している時点で、あんた達が真っ当じゃないのは丸解りだわ!」

 

 声高にそう叫ぶと、三井唱子は和成と緑間を背に庇う。

 そんな彼女を、花村一尉は心底どうでもいいものを見る目で睨む。

 

「ああ、そう言えばあんた、『バダン協力者』の娘だっけ? あいつらに同調してる当たり、やっぱり蛙の子は蛙って事?」

「私の父は『BADAN』に誘拐されて、協力を強要された挙句に殺されたのよ! あんた達こそ、自分達に逆らえない子供に暴力振るっておいて、やってる事まるっきり『BADAN』じゃない!

 それに、それにあんた達が馬鹿にしてる滝和也って人はね! 誰よりも優しい、『正義の味方』なのよ! あんた達みたいに、平地に乱起こして世の平穏を乱そうって人間が、あの人を貶めるんじゃないわよ!」

 

 三井の言葉に、花村の念入りに手入れされた細い眉が吊り上がる。また、『BADAN』と一緒と言われた自衛官達が戸惑う者といきり立つ者とに分かれる。

 その時だった。

 

「我々のしている事は、日本と言う国にとって有益ではないのか?」

 

 さらに後方からの声に、思わず和成と緑間は振り返る。

 三井女史は、目の前の連中から目を離す事無く、こう言い切った。

 

「この国の次世代である子供を虐待しているような組織が、この国に益を齎す訳ないでしょ?

 こいつらは、自分達がこの国で権力を握る為に、未確認生命体とか改造人間とかを排斥しようとしてるのよ。R-01の性能なら確かに未確認生命体を倒せるかもしれない。

 でも、その兵装の制御に使われる子供を、何人半死半生にするつもりなの! 自分より弱いものを踏み躙る連中が、真っ当な世界造る筈ないわ!」

「そうか」

「R-01、そんな連中の世迷言を真に受けては駄目! 貴方は私達の切り札なのよ!」

 

 ヒステリックに叫ぶ花村に、だが新たな声は静かに否を告げた。

 

「自衛隊は専守防衛の為の組織であり、国民の権益と安全を保障する組織である。

 少なくとも、私の行動理念ではそう規定されており、少なくとも日本国民である存在を蔑ろにして良いとはされていない。

 よって、花村一尉の発言及び命令は統合幕僚本部に報告し、判断を仰ぐべき暴言であるとみなす」

「な!?」

 

 後ろ側から、和成達を取り押さえようとしていた男達を、真っ赤な拳が打ち払う。

 

「うわ」

「あかい、マスクマン、だと?!」

 

 深紅のマスクと、同じく真っ赤な全身スーツを着込んだ存在が、周囲へと威嚇を込めて視線を巡らせる。

 思いもしない、我が子と等しいR-01の反乱に花村一尉は暫くはくはくと口を開け閉めしたかと思うと、般若もかくやの表情で何か言葉を発しようとした。

 だが、その前にどんっと、下から上に突き上げるような衝撃が走った。

 

「うわあ!?」

「高尾!」

「なに!?」

「未確認生命体反応!?」

 

 R-01が警戒する中、誰何の声に答えたのは引き攣った自衛官の声だった。

 

「し、施設内に、未確認生命体の集団が雪崩れ込んでいますっ」

「何ですって!?」

 

 それと同時に、けたたましいほどの音量で警報が鳴り響いた。

 

 

 施設内で事態が起きる、一〇分ほど前。

 外で事態を見守っていたライダー達に、特殊科学研究室から連絡が入った。

 正直、良い情報では無かった。

 

「それは本当ですか、志度博士!?」

 

 思わず跳ね上がった滝海斗の声に、三々五々待機していたライダー達が顔を上げる。

 スマートフォンの向こうから、憔悴した様子の老人の声が事態を肯定する。

 

『ああ、申し訳ない。

 南原君を捕まえた事で、こちらが気を抜いてしまったとしか言いようがない。隙を突かれて、アストロドライバーを持ち出されてしまった』

「判りました、こちらで回収可能なら、回収します。だからあまりご自分を責めないで下さい」

 

 そう言って通話を切った海斗に、頭を掻きつつ一文字空が声を掛ける。

 

「マジか、アストロドライバーが盗まれたって」

「うん、どうも南原さん以外にもスパイがいたみたいで。あの人が騒ぎを起こしたのを見越して動いたのか、元々あの人がデコイだったのかは判らないけど」

「猫達が反応しなかったってのが奇妙だな。猫達を警戒してたか、……あ、一人猫アレルギーだって言ってたのいたな」

 

 空の言葉に、安全の為対刃対弾仕様のライダースーツを着込んだ大我が首を捻る。

 

「猫がどうかしたのか…です?」

「ああ、義親父(おやじ)の友達の袋猫が、盗人を見逃したのが変だって話。そう言えば柑橘系のコロン使って無かったか、そいつ」

 

 同じく準備していた健介の言葉に、それだと手を叩き、合流した黛千尋が顔を顰める。

 

「ネコ科は柑橘の香りが弱点だからな。狙ってたのか偶々だったのかは不明だが、猫達が近付けなかったんだろう」

「あー、まあ、やる事に一つ増えただけだ、このままでいいんじゃね?」

 

 健介の言葉に、年長者達は「あー」と言う感じで遠い目になる。

 その中で、事態が見えない黒子@レイヴが手を上げた。

 

「あの、アストロドライバーって言うのは一体」

「宮地兄が使ってる簡易ドライバーの完成版で、和成が愛用してるフードロイド達の動力源であるアストロスイッチの本来の使用方法だな。

 小規模なラボで研究されていたんだが、そこが『ホロスコープス』に襲われてな、研究者は殆ど亡くなり、研究物を持って逃走していた関係者が、SPRITS隊に保護されたんだ。

 その後、『ホークアイ・ホールディングス』が資金を出してるSPIRITS隊との共同研究室で、完成させる為に研究していたんだ」

 

 千尋がそう言うと、海斗が言葉を足す。

 

「つい最近完成したんだが、しかし何の為に盗んだんだろう。

 こんな事は言いたくないが、未確認生命体を掃討する為に独自兵装を作り出したそうなのに」

「あー、考えられるのは二つ、更なる支援を『財団X』から引き出す為の交渉材料か、さもなきゃ、『ホロスコープス』を引っ張り出す為の餌、だろうな。

 ……それが交渉目的か殲滅目的かは、判らねえけどな」

 

 海斗に更に言葉を足した空は、本気で頭が痛いと言いたげにこめかみを押さえた。

 いや、暫く目を閉じていたと思うと、焦った顔で空は仲間達を見回した。

 

「やばい、何か一杯未確認が集まって来てる!」

「そら?」

「確か、閃がイマジン嗾けるとか言って無かったか?」

 

 千尋の言葉に、健介と大我はぎょっとなるが、それ以上の爆弾が、暫く黙って施設がある方を見ていた海斗の口から零れる。

 

「イマジンだけじゃない。魔族と、グリードと、……アンノウンの気配がする」

「兄ちゃん、それって!?」

「たまらんな、感知力№1、№2が言うって事は」

「狙いは、あそこに捕まっているだろう超常能力持ちの子供と、カズと黄瀬か!」

 

 ライダー達が戦慄する中、ビッと短い音を立てて彼らが耳に付けているイヤフォンに連絡が入る。

 発信者は、〈S.A.U.L〉の中央管制室からだった。

 

『〈S.A.U.L〉中央管制室(センターコール)TOP-Kより民間協力者各員、未確認生命体多数を感知、出撃を要請します』

「Call№1、了解」

「Call№2、了解した!」

「№6判った!」

「Call№7、出撃する」

 

 『兄』達が次々に返答するのに習い、大我も慌てて名乗りを上げる。

 

「こ、Call№9、出撃する、ます!?」

「落ち着いて下さい、火神君『慌てんな、ほら、ライドベンダー起動するぞ』」

 

 相棒達に引っ張られる中、イヤフォンに灰崎祥吾、中村真也の声も届く。

 

『Call№3、突っ込むぞ!』

『Call№4、俺達は黄瀬と和成達の保護を優先する!』

『Call№5、すまん、こっちはイマジン優先で撃退する』

 

 最後に、香山閃の声が入る。

 

「判った、俺達は子供達の保護を最優先としつつ、未確認生命体の撃退を目指す。

 センターコール、ナビゲートお願いします」

『〈S.A.U.L〉中央管制室(センターコール)TOP-K、了解です。

 G3-Xも随時突入し、子供の保護を優先します』

 

 海斗の声を受け、〈S.A.U.L〉からも返答が入る。

 それを受け、ライダー達はそれぞれ変身する。

 黒いボディに金の角(アギト)が、赤いボディに金の角(クウガ)が、黒い龍のバックルを持つ鎧騎士(ビースト)が、蝙蝠を思わせる紅い騎士(キバ)が、そして三原色も目に眩しい黒い仮面ライダー(オーズ)が現れる。

 アギト、クウガ、キバはそれぞれのバイクに、ビーストは新たなマントリングで呼び出したジャバウォックの翼で、そしてオーズはセルメダルで起動させたライドベンダーに跨ると、数百メートル先の目的地へと発進した。

 

 

 まるで湧き出したように、研究エリアに現れた未確認生命体の集団に、研究者として籠っていた男達は阿鼻叫喚のパニック状態に陥った。

 無論、これまで実働隊やR-01の動きをモニター越しでしか見ておらず、それこそ戦略シミュレーションの延長ぐらいにしか状況を把握していなかった彼らは、目の前で同僚を切り刻み、その血で真っ赤に染まった刃物や爪を向けて来る異形を前に、簡単に正気を吹き飛ばしてしまっていた。

 絶叫しながらその場から逃げ出す者、その場にへたり込み失禁する者、デスクの下に潜り込み、身を固くする者、判っているのは、そこにいるものの中で自衛官として事態の収集を図る者はほぼいなかった。

 

「何やってるの、護衛の連中は!?」

 

 いや、一人ヒステリックだが事態を(彼女なりに)収集しようとしている花村一尉がいたが、だが。

 

「いいねえ、いっそ無能なのに偉そうな上、欲塗れなのが気に入った。

 お前なら、良いヤミーの親になる」

「な!? あああっ!!」

 

 ぬるりと、女の前に緑色のカミキリムシともバッタともつかない姿の怪人が現れ、彼女に向かってセルメダルを投げた。

 彼女の胸に、いきなりコインの投入口が現れたかと思うと、滑るようにメダルが吸い込まれた。

 そして一気に彼女の身体がメダルに覆われたかと思うと、彼女の肌は薄い焦げ茶色に染まり、硬いキチン質で固められていく。だが、ブクブクと膨らんでいく下半身は、白く染まり動けない部下達を圧し潰しかける。

 その光景に、緑間真太郎は目を極限まで開き、三井唱子は絶句し、R-01は自身の開発者(ハハオヤ)の変貌に凍り付き、そして唯一動けた高尾和成が三井と緑間の腕を引いた。

 

「二人とも、動いて、じっとしてたら危ない!

 そこのあんたも、早く!」

 

 『鷹の目』で周囲を見回し、黄瀬の方へ行く道筋を探すが、色々な種の未確認がごった返しているのを見出し舌打ちする。

 だが、その時だった。

 和成には耳慣れた、二種類の独特な排気音(エキゾーストノート)が迫っているのに気付いて、慌てて壁際へと皆を促した。程なく、濃紺(ミッドナイトブルー)萌黄(ライトグリーン)のツートンカラーのバイクと、何処となくSFチックなデザインのバイク、そしてそれに跨った仮面ライダーHOPPERと仮面ライダー555とが飛び込んで来た。

 

「カズ、無事か!」

「祥ちゃん!」

「灰崎!」

「祥君!?」

 

 知る者が見れば、かつての仮面ライダー一号、または二号を思わせるマスクを付けたHOPPERの姿はドキッとするかもしれない。実際問題として、赤いマスクマンの方は驚いた様子でメタリックなライトグリーンのスーツに赤い複眼、大きな(クラッシャー)を持つ姿を凝視している。

 周囲を見回していた555が、檻に入った子供と、その反対側でシリンダー状の密閉器に閉じ込められた黄瀬の姿を確認し、通信機に向かって叫んだ。

 

「555だ、拉致られた人間を発見したが、未確認が集中している!

 早く来てくれ、なんか巨大化してるのもいる!」

 

 555に向かって、和成が声を張り上げる。

 

「あの女王アリっぽいの、女性自衛官に緑色のグリードがメダル入れた所為で現れたんです!」

「て事は、あれはヤミーってか、どう見てもシロアリの女王だろ、あれ!?」

 

 どことなく引き攣ったHOPPERの言葉に、緑間とR-01が揃って身を引く。(シロアリはゴキブリの仲間)

 そんな事を言いつつ、HOPPERと555は未確認生命体を殴り飛ばし、蹴り飛ばすものの、何処かにスポーンブロックでもあるのかと言わんばかりに未確認は押し寄せる。……尤も、未確認同士で潰し合う個体も幾つもいる為二人でも何とかなっているが、殆ど前に進めていない。

 自衛官らしかった男達はと言うと、半数は逃亡し、もう半数はボロボロになって転がされ、傍目には生死も判別出来ない。

 そんな状況が好転したのは、外で待っていた面子が合流した事で、一気に未確認が動いた為だ。

 

「遅くなった、すまない!」

「オラオラ、俺のディナーになる奴はいるか!」

 

 バイクで雑魚敵を跳ね飛ばすアギトの横で、漆黒の皮翼を広げたままダイスサーベルを構え、ビーストがグールが固まっているところへと突っ込んでいく。

 

「子供はこっちで引き受ける! HOPPER、555、黄瀬を任せる、キバ、カズと三井さんと緑のを頼む!

 オーズ! あのデカいのはヤミーだ、任せる!」

「それは良いが、あの赤いのはどうすればいい?」

「うわ、でっけぇ!?」

「し、白アリ?『こりゃあいい、大量だぞ』」

 

 クウガの指示に、キバは保護対象と共にいるマスクマンに困惑し、オーズは何かに怯えて動かない巨体に素直に驚き、同じく驚く黒子の中で、赤いグリードは舌なめずりした。

 その最中、これまで動かなかった女王シロアリヤミーが、何かに弾かれたように暴れ始めた。

 

「いい井伊イイやああアアアああぁぁァ亜!!」

「グげっ!?」

「ぎゃあ!!」

 

 ドッタン、バッタンとキチン質で固まった手足を振り回して暴れ出し、それなりに広かった筈の研究室の四分の一を占拠する女王アリの腹部が、大きく左右に振られて残っていた機材諸共未確認生命体を薙ぎ倒す。

 叩き付けられ、踏み潰された機材が火を噴き、同時に今まで硬く黄瀬涼太を閉じ込めていたシリンダーがゆっくりと口を開いた。

 

「555!」

「判ってる、黄瀬、動けるか!」

 

 HOPPERが零れて来る未確認を払い除けるうちに、555が黄瀬をシリンダー状の機器から助け降ろす。

 その向こうで、キバとR-01に誘導され和成と緑間、三井女史が手近な通路から外を目指す。

 そしてアギトとビーストが未確認達が近付くのを防ぐ間に、二人のG-3Xと、完全防備状態の機動隊二部隊が走り込んで来た。

 

「クウガ、アギト! 子供達はこっちが引き受ける!」

「G-3X.PH009よりセンターコール!

 拉致被害者発見、民間協力者と共に回収します!」

 

 G3-X.PH005こと本音恭一郎の指揮で機動隊の一隊がシールドを構える中、G-3X.PH009こと新條勇真が通信機に向かってがなる。それを受けて、中央管制室から返信が入る。

 

『〈S.A.U.L〉中央管制室(センターコール)TOP-KよりG-3X.PH005、009へ。

 被害者の保護を最優先してください。あと、負傷者も随時搬出してください』

「G-3X.PH005了解!」

「G-3X.PH009、負傷者多数、緊急搬送の手配を頼みます!」

 

 中央管制室からの指示を受け、担架を抱えていたもう一隊の方が子供と、手近なところに倒れている自衛官達を運び出しに掛かる。

 その警官達に襲い掛かろうとする未確認を、G-3Xと共にアギトとクウガが殴り飛ばす。

 

 

 この時点で、事件は終息に向かっていると、その場にいる人間――警官達も、仮面ライダー達も――皆が思っていた。

 朱堂と言う男が、『仮面ライダー』と言う存在にどれほどの憎悪を抱いているかを、誰も知らなかったのである。

 

 


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