今回は番外編と言うか、灰崎祥吾が「兄」と呼ぶ少年達の話になります。
この話には、話の展開の為に平成仮面ライダーTRPG《MasqueradeStyle》をベースに作成した私設定が多く含まれています。
また、原作には存在しない組織や怪人なども多く出てきます。
その為、登場する平成ライダーの種類や繋がりなどにも、偏りや変更があります。
Exepisode01-A 敗北
二〇一X年、五月。
前年初冬に発生した、九郎ヶ岳遺跡発掘隊壊滅事件を皮切りに起こった、未確認生命体による連続殺人事件。
事態を重く見た新條強警視総監によって、長年準備を進められていた未確認生命体事件対策班、通称《S.A.U.L》が正式に設立され、国際警察機構(I.C.P.O)及び国連直属組織である《SPIRITS(Saving Project Incorporate w/h maskedRider on ImmorTal Soul)》隊との間に提携が持たれた。
専用装備であるG-ユニットを用いて、《S.A.U.L》は未確認生命体G群、公称『グロンギ』の殺人行動を抑え被害の拡大を抑えようとした。
しかし、かつての『改造人間』にも劣らぬ破壊力で暴れ回る『グロンギ』に、《S.A.U.L》は早々に戦略の見直しをしなければならなくなった。
そんな《S.A.U.L》側に、降って沸いたように救援者が現れた。
金色の二本の角、赤い目紅い身体の二人の戦士。
それは、先に九郎ヶ岳の遺跡で発見された二つのオーパーツ《アークル》を用いて、滝海斗と一文字空が古代超戦士クウガとなった姿だった。
彼らの協力によって、G-ユニットの改良及び『グロンギ』と言う種の研究を進め始めた《S.A.U.L》は、若干ながら戦闘で優位に立てるようになって来た。
だが、まだ撃破出来るのは『クウガ』のみと言う状況であった。
だがこの日、現れた未確認生命体は、『グロンギ』ではなく又これまで情報が集められて来た如何なる種族とも違う、全く新たな存在であり。
『こちら、Gユニット○一二(まるいちに)、救急車の手配をお願いします!』
「こちら《S.A.U.L》中央管制室(センターコール)、どうしました?」
『新型未確認生命体出現、戦闘状態になった未確認生命体3-Aが大破により戦闘不能、救援に入った未確認生命体3-Bが中破後暴走、死傷者は出ませんでしたが、双方とも動けません!』
管制室に響いた、G-ユニットオペレーターの悲鳴じみた声に、その場の対策班全員が凍り付く。
G-ユニット、G-3ではまだ無理のある、『グロンギ』怪人体との格闘戦を軽々とこなし、爆炎の中に飛び込み逃げ遅れた人間を数人抱えて数十メートルから飛び降りる、そんな事を可能とする文字通り超人である未確認生命体3号、それが二人共倒れたというのだから。
その頃、ほぼ同じ報告を受け取る人間がいた。
それは、《ホークアイ・ホールディングス》日本支社東京本部の会議室で、定例会議を行っている幹部達に齎された凶報だった。
「会議中失礼致します、会長、海斗君と空ちゃんが!」
「何事だ、バラランガ」
長い黒髪を纏めたツーピーススーツ姿の女性が、髪が崩れれたまま肩で息をして駆け込んで来たのを、一番端に座っていた如何にも気難しそうな男が咎め立てる。
だが、それに向かって、声を掛けたのは上座近くで議事を進めていた人物だ。
「バラランガ、今日が定例会議である事は判っている筈だ。
その会議を中断せねばならない事態が起こったのか?」
「申し訳ありません、社長、でも、でも海斗君と空ちゃんが、これまでとは全く違う、新たな未確認生命体の攻撃で、負傷して病院に搬送されたと《S.A.U.L》から連絡が」
その言葉に、上座の金髪の青年が顔色を真っ青にして椅子を蹴った。
滅多に取り乱さない会長の様子に、会議室の三分の一が驚く中、古参の上級幹部達が立ち上がる。
「バラランガ、搬送先は!」
「城南大学付属病院です」
「会長、人事厚生課の上嶋に状況の確認に行かせます。
トニオ、夏川に連絡して、医薬品部に緊急要請に対応出来るよう在庫確認を急がせろ。マッコイは、警備部に招集を掛けろ」
指示を出し、自分に向き直る部下達を見て、アラン・ホークアイは何かを振り切るように蹴った椅子に座り直した。
「上嶋君には、詳しい話を聞いて、こちらに報告するよう伝えたまえ。
医薬品部と警備部は高橋くんの指示通りにしてくれ、中村くん、悪いが最優先項目を上げてくれるかね、そこから片付けてゆこう」
「はい、会長」
会長の言葉を受け、幹部の二人が急いで会議室から出て行き、バラランガと呼ばれた女性も、そのまま会議室を後にした。恐らく、大学病院に向かう上嶋繁に同行するのだろう。
事態を良く知らない幹部達が不安に思うほど、会社の最高権力者と古参幹部達の空気は刺々しく、殺気立ったものとなっていた。
会議が終わったのは、報告から二時間後だった。
会議室を出るなり、アラン・ホークアイは待機していた車に乗り、城南大学付属病院へと向かった。
「上嶋君から連絡が来てるわ、読み上げましょうか?」
共に乗り込んだ、会長秘書の中でも一番フランクな通称『王女』が、報告書を入れたノートPCを抱えて聞くのに向かって、「頼めるかい?」と返す。
その答えに、先に用意していたテキストを呼び出し、要点だけ『王女』は読み上げた。
「空の方は、高圧電流による全身の軽度火傷と頚椎捻挫、右腕前腕及び右手人差し指、中指第一骨、及び左下腿頚骨に単純骨折。病院収容後に興奮状態でそのまま職員を振り切り飛び出して行こうとした為、現在鎮静剤を投与されているわ。
海斗の方は、左胸部に直径三センチの貫通傷、左鎖骨の骨折と上半身を中心に、二十箇所以上の打撲痕とそれが原因の腹部筋挫傷も確認されてるわ。後、アークルの損壊、及び機能停止も確認されたとの事。
それから、海斗は収容されてから今まで、一度も意識が戻ってないって」
「そうか。
それで、どう言う状況で、どんな未確認生命体に襲われたのかの報告は?」
「ええ、これまで報告されていた《G群(グロンギ)》、《F群(ファンガイア)》、《L群(レジェンドルガ)》、《O群(オルフェノク)》、《I群(イマジン)》のどれにも該当しない、全く知らない存在だったって……あら、永瀬の報告だわ、これ」
「永瀬君?
彼は確か、今日は子供達と」
不意に上がった、人事厚生課飲食部門の社員の名前から芋づる式に思い出した今日の予定に、アラン・ホークアイの白色人種の美男だが出身が良く判らないと言われた顔が、新たな怒りに引き攣れる。
永瀬知治は、試験休みに入った中学生達と学校の創立記念日で休みだった小学生達を連れて、今日は上野の博物館見学へ行っている筈だったのだ。
そして、一文字空は《S.A.U.L》の武装開発の協力に行っており、滝海斗は永瀬を手伝い弟分達の引率に行っていたのだ。
ならば、子供達の、そして博物館を訪れていただろう多くの人々の前に、その新たな未確認生命体が現れたと言う事になる。
そんな事態となれば、海斗と言う少年が飛び出して行かない筈が無かった。
彼は、「目の前で見知った人が、無為に殺されるのを黙って見ていられなかった」から、《アークル》を手にしたのだから。
辿り着いた病院の、関係者以外立ち入り禁止とされた病棟の最も奥の集中治療室(ICU)に、滝海斗と一文字空とは収容されていた。が、アラン・ホークアイが訪れたちょうどその時、室内でちょっとした騒ぎが起こっていた。
鎮静剤を大量投与されている筈の空が、点滴を引き抜きICUを飛び出そうとしていたのだ。
看護師や医者、付き添っていた上嶋、永瀬の二人も加わりベッドに押し戻そうとするものの、何処にそんな力がと思うほどの勢いで振り切り、外へ出ようとする。
その騒ぎに、治療室に駆け込んだアラン・ホークアイは興奮状態で周囲が目に入っていない様子の空の顎を掴み、無理やり自身と目を合わせさせた。
金髪の青年に目の奥を覗き込まれたその途端、あれほど荒れ狂っていた空の身体からふっと力が抜け、そのままズルズルと崩れるように座り込むのを、慌てて看護師や男達がベッドに戻す。
やっと興奮状態から解放された為か、真っ白な顔で眠りに落ちた空の頬を撫でてやってから、ホークアイ会長はその横であれだけ大騒ぎが起きたにも関わらずずっと眠っている、人工呼吸器に顔半分を覆われた少年の方に向き直った。
繋がった検査機器は、ごくごく低い数値で彼の命が維持されている事を表している。
見た目苦しんでいる様子は無いが、直接ではないとは言え医療関係者として検査機器が表示している数値の意味が判る人間には、今の海斗の状態が決して楽観視出来るものではないと判った。
「ありがとうございます、Mr.ホークアイ、ですが今のは一体」
「若い頃に覚えた隠し芸ですよ。
普段、掛かるような子じゃないのにあっさり落ちたと言う事は、この子自体かなり精神的には弱っていたと言う事ですね」
担当医にそう告げると、アラン・ホークアイはガラス越しに廊下からこちらを見ている、数人の子供達を見出した。
灰崎祥吾に高尾和成、詩島剛と滝天馬の四人が、今にも泣き出しそうな顔で張り付いているのだ。
「永瀬君、あの四人は」
「あ、すいません、二人が搬送される時に、一緒に救急車に乗って来ちまったんです。
帰ろうって言ったんですけど、四人とも動いてくれなくて」
「いや、責めている訳じゃない、この子達だけだったのかい?」
続いての問い掛けに答えたのは、ホークアイの前に来た上嶋繁の方である。
「いや、博物館には、この子らの友達の子等もおったそうですが、そん子等は親御さんに迎えに来て貰いました。
バラランガさんには、その子ら全員が無事家に着いたかの確認作業をして貰っとります、あん人に今の海斗君も空ちゃんも見せられませんから。
こん子らは、灰崎女史が今やっぱり薬品部で捕まってこちらに来れなくて」
上嶋の言葉に、ああと思ってしまう。
バラランガは、彼らの養父を恋い慕ったものの「恋愛対象に見る事が出来ない」と振られた過去がある。
それでも彼を慕い、彼の養い子達の面倒をまめに見ていた女性だ。
その彼女にとって、二人の痛ましい状況を見続けるのは、充分過ぎる拷問であろう。
ここにいる中学生四人は、今ICUで眠る滝海斗と一文字空の弟――祥吾は物心付く前から、和成は小学生の低学年から、天馬は物心がつくかどうかと言う頃で、剛も幼稚園児の頃に両親を失い姉共々引き取られて以来だ――として育って来た。
昨年の二月に、養父である滝和也が爆発事故現場から謎の失踪を遂げており、以来二人と彼らの同級生であるもう一人の三人を生活の軸として生きて来たのだ。
滝家の養子である天馬はともかく、祥吾には《ホークアイ・ホールディングス》で研究員をしている母がおり、和成には両親の死後引き取ってくれた叔母夫婦がいる。剛にも四歳違いの姉が居る。
だが、養父不在の今、やっぱり彼らの心の支えは兄達であったのだ。
その内の二人が『未確認生命体』に、それもこれまでとは違う、初めて現れた存在の攻撃に倒れたのだ。
四人がどれだけ恐怖を、心細さを覚えた事か、想像する事も出来なかった。
ICUから出て来たアラン・ホークアイに、真っ先に抱き付いたのは四人の中で一番年下になる天馬だった。
赤い髪に緑の瞳の、あからさまに日本人ではない風貌の少年はぽろぽろ涙を溢しながら、『会長さん』に縋り付いた。
「会長さん、海斗兄ちゃんも、空兄ちゃんも大丈夫だよね」
「大丈夫だよ、天馬君、二人とも、今眠ってるから、ね」
「でも、空兄ちゃん、三回も注射されてたのに、それでもお医者さん跳ね飛ばして飛び出そうとしてたし」
小さなデジタルカメラを握り締めるようにして胸に押し付け、震える声でそう呟いたのは剛だ。
昨夜、兄達から贈られた小型デジカメで出先の風景を撮るのだと、剛が嬉しそうに報告していたのを思い出す。
その横で、今にも座り込みそうなのを祥吾に支えられていた和成が、泣きながらこう言った。
「どうしよう、会長さん、兄ちゃん達、死なせ掛けたの、俺だ」
「和成君?」
「あいつ、俺に向かって、槍みたいなの振り下ろそうとしたんだ!」
「落ち着け、カズ!」
そのまま泣き崩れるのを、祥吾が何とか支えるが無理があると感じたアラン・ホークアイの判断で、彼らはその病棟のエレベーターホールへと移動した。
関係者以外立ち入り禁止と言う事で、人気の無いエレベーターホールのソファーに子供達を座らせると、上嶋と長瀬の二人が持ち込んでいたらしい魔法瓶からココアを出し、四人に配る。
「祥吾君、さっきの和成君の言葉は本当かい?」
「カズの所為じゃない、カズに襲い掛かった、あのクラゲのお化けが悪いんだ」
手の中の紙コップの中身を飲み干すと、祥吾は博物館が立ち並ぶ公園の中を、皆で歩いていた時の事を思い出した。
あの時、恐竜の特別展示を見て、きゃいきゃい騒ぎながら公園に出て、何処かお弁当を広げられる場所で、少し遅くなったお昼ご飯を食べようと言う話になった。
参加出来なかった何人かの兄姉達の土産を何処で買うか、次は何処の展示を見るかで、皆盛り上がっていたそこへ、最初に現れたのはグロンギだった。
烏賊の怪人らしいそれは、何かにぶつかると爆発する墨の塊を吐き散らしながら、周囲にいる家族連れを襲おうとした。親子連れを襲う事を、『ゲゲル』にしていた個体だったらしい。
男女二人連れをスルーし、殊更小さな子供を連れた大人を狙って、烏賊怪人は突進して来た。
物陰で変身した海斗が、烏賊型グロンギを押さえ込んでいる間に、永瀬は子供達と周囲の家族連れに声を掛け、避難誘導を始めた。
和成と祥吾も、背丈が大きい事とバスケと格闘技で鍛えた腹式呼吸の賜物である声で、周囲の人間に避難するよう声を掛け続けていた。
暫くして、見慣れないオートバイに跨ったもう一人のクウガ、警察に行っていた空が駆けつけ、二人の連携によって元々近接戦が不得手だったらしい怪人は、鏡合わせの様な絶妙のダブルキックを食らって爆発した。
ここで、一瞬の気の緩みが生じたのかもしれない。
音も無く舞い降りた、クラゲを思わせる怪人はそのままの勢いで貫かんと、槍のように伸ばした触手をクウガの活躍に手を叩いていた高尾和成の頭上に向けていたのだ。
それは、本当にとっさの事で、間一髪で怪人に気付いた永瀬が、和成を抱えて横に飛び退いたのだ。
触手が掠めた瞬間に走った電撃に、思わず呻いた永瀬に気が付いたか付かないか、そこは判らないが怪人の触手が再び和成を狙う。
それを阻止しようと、飛び出そうとした空の方に、突然の雷撃が襲ったのだ。
耳をつんざく落雷音と共に、小さく放電しながら崩れ落ちた『クウガ』の姿に、周囲の多くの人々が凍り付いたその中、もう一人の『クウガ』である海斗の方が伸ばされた触手を掴み、引きちぎった。
だが次の瞬間、飾りのように揺れていた触手の一本が、海斗の胸を貫いたのだ。
膝を付いた海斗を、クラゲ型の未確認生命体は踵で蹴り付ける。
ゴキリと言う音が、不思議なほど響いた。
そのまま、首の周りに下がる触手でメッタ刺しにしようとした怪人に、何とか起き上がった空の方が飛びつき、引き離しにかかったから海斗は針鼠にはならずに済んだがかなりの数の打撃を受け、そしてそのうちの一本が《アークル》の中心を貫いた。
超人としての装甲が剥がれ落ちつつ倒れた海斗を目の当たりにして、空の姿に異変が起きた。
装甲の端に放電が張り付いたようになったと思った次の瞬間、それは金色の装飾に変わり、真っ赤だった装甲そのものが黒く染まったのだ。
「ぅああああぁぁあーーーー!!」
絶叫と共に、クウガは怪人を殴り付け、蹴り付ける。
普段の、海斗と練武している時のような流麗さの欠片もない、荒々しい攻撃に和成も、祥吾も、カメラを向けていた剛も、天馬も、そして腕を押さえながら立ち上がった永瀬も声が出ない。
そうしているうちに、五人は気付いた。
赤から黒へと、クウガの複眼(コンパウンドアイズ)が点滅し始めている事に。そして黒くなる度、クウガの、空の様子が狂気じみて来ている事にも。
触手を毟(むし)られ、片腕を引きちぎられ、クラゲ型の新怪人は再び雷撃を落とそうとして、その顔面を拳でへしゃげるほどに殴られた。
そして、そのまま怪人の顔面を掴んだクウガが、歩道のコンクリートへ叩きつけようとした次の瞬間だった。
「ソ……ラ?」
か細い声だったが、それこそ雷に打たれたように動きを止め、複眼を赤に戻したたクウガが、ぎこちなく首を動かした。
その先で、倒れていた海斗が顔を上げていた。
その時になって、やっと身体の自由を取り戻したかのように、祥吾が兄の元に走り出した。
クウガの動きが止まったのを好機と、怪人はクウガを振り払い何処ともなく逃げ出した。
そして、意識がそのまま落ちたらしいクウガも、その場に崩れ落ちた。
その直後、現場の異様さに手が出せず、避難誘導を優先していた《S.A.U.L》の連絡で到着した救急車によって、二人は城南大学付属病院へと搬送されたのである。
語られた内容を、ここに着くまでに上げられていた報告書と頭の中で照らし合わせつつ、アラン・ホークアイは溜息を吐いた。
では、空の骨折は跳ね上がった能力に身体が付いてこれずに、自らで負ってしまったものだったのだろう。
《アークル》と超古代文明人リント、そしてグロンギに関する研究はまだまだ初歩の部分で行き詰まっている状態だ。理由は勿論、昨年の九郎ヶ岳遺跡発掘隊壊滅事件で研究者の殆どが命を落とした所為だ。
何が彼ら二人にに起こっているのか、そして今日の事件当日どんな不具合が起こったのか、全く判らない状態である。
変身状態の二人を、《S.A.U.L》と《ホークアイ・ホールディングス》、《SPIRITS》隊の合同医療班による検査を行った事があったが、その時も二人の運動能力と、そのエネルギー源が《アークル》である事しか解らなかったのだ。
「あいつ、確かにカズの事狙ってたけど、海斗兄ちゃんが傍に来たら、兄ちゃんの事を集中的に襲いやがってっ」
「そうだったのかい」
祥吾の言葉に、重々しく頷いた現状身元保証人を務める大人に向かって、剛が口を開いた。
無意識に弄っていたカメラに、何かを見付けたらしい。
「あの時、気が動転して、俺殆ど写真撮れなかったんだけど、一枚だけ怪人の写真撮れてた。
こいつ、今気付いたけど、何か羽根着いてない?」
そう言って、彼が差し出した小型デジカメの画面に、小さいが確かに鎧を着た骸骨がクラゲを被ったような姿が写っており、その胸元に羽飾りのようなものが見えた。
その羽飾りに、アラン・ホークアイの眉がひくりと動いた。
だが、それを子供達に悟らせぬように表情を緩め、彼は全員に立つように言った。
「これからは、お医者さんに任せよう。
大丈夫、うちの会社からも薬も人材も送るから、絶対二人とも元気になるからね」
「せやな、お店に帰ろう、そろそろ松坂がご飯作って待っとる筈やから、な」
ホークアイ会長に続き、上嶋からもそう言われ、子供達は立ち上がると何度もICUの方を振り返りつつ、エレベーターに乗り込んだ。
そして、迎えの車に乗って以降も子供達は誰も口を開かず、重苦しい空気のまま彼らは城南大学付属病院を後にした。
同刻、同じく重苦しい空気に包まれていたのは警視庁のとある会議室の内部だった。
《S.A.U.L》の職員と警察幹部、そして警視総監を交えた緊急会議が行われていたのだ。
彼らの前に置かれているのは、一見すると子供のおもちゃのように見えるが、実際は今回の事件において回収された、破損した滝海斗所持の《アークル》である。
本来、所持者の神経組織に接続され絶対外れない筈のこれが外れたと言う事に、《S.A.U.L》の研究者達は動揺を隠せなかった。
「つまり、未確認生命体に即対応出来る人材が、一人減ったと言う事ですな」
「それは!」
「未だに戦果らしい戦果を出せないG-ユニットと、新たな未確認生命体に敗北した未確認生命体3号か。
この先どうしたものか」
幹部の一人のやれやれと言いたげな言葉に、思わず《S.A.U.L》側の人間が声を上げる。
だが、他の人間が続けて零した身も蓋もない言葉に《S.A.U.L》所属の人間は押し黙り、それに勢い付いた他の捜査課の人間がこれみよがしにG—3と『クウガ』をこき下ろそうとした、その時だった。
「そうだ、『未確認生命体事件対策班』の戦力は現在がた落ちだ。
では、一般捜査課、及び警邏課で未確認生命体に対する対策を如何に取るかと言う話になるのだが、諸君らに何らかの腹案は、当然あるのだろうな。
それもなく、只此処に負傷者を笑い対応しきれない部署への誹謗中傷の為にだけ来た、などとは言うまいな」
静かに、だが拒否を許さぬ声音が、その場の全員に投げ掛けられる。
「そもそも、G-ユニットの本来の運用目的は、過去の『BADAN戦役』に類似した事件が発生した際に増援が到着するまでの間、単独での避難誘導及び警邏に付かねばならない警官の身体保護である。
武装はあくまでも、一般市民保護の為のものであり、戦闘特化されたVシステムと同じではない、未確認生命体第三号のデータを参考に強化を進めてはいるが、耐久力と運動能力が中心だ。
戦闘目的の装備に、オペレーターシステムを必要とすると思うかね。
現場での被害者の取りこぼしを無くす為、そして出現した未確認生命体の情報を集めるためのものだ」
打って変わって静まり返った会議室に、警視総監の淡々とした言葉が続く。
「《S.A.U.L》は、軍隊ではない。警察機構の一部門である。
だからこそG-ユニットは各警察署の要請を受け、出動する事となる。その運用も、本来は各署のSWATチームとの連携を取る事を基本戦略としていたのだ。
未確認生命体三号が人類の味方になる、言わば嘗てBADANと戦った十人の改造人間と同じ立場の存在が現れる事は、一切想定されていなかったのだ。
ならば、やるべき事は見えて来ないかね?」
静まり返り、或いは下を向き、汗を拭う警察官僚達に、嘗ては特殊部署に所属し現場を駆けずり回った経験を持つ現警視総監ははっきりと言い切った。
「何度でも言おう、《S.A.U.L》は軍隊ではない。
未確認生命体を撃破すればそれで終わりではない、一般市民を守り、次の犯行を極小に抑える為に情報を集め、解析し備える為の部署である。
諸君らには、それを念頭に置いた議論を願いたい」
先程とまではまた質の違う重苦しさが、会議室を包み込む。
すっかり黙りこくってしまった参加者達を眺めつつ、新條強警視総監はネクタイを締め直した。
《S.A.U.L》
警視庁に設置された、未確認生命体事件専門部署。
警視総監直属部署でもある。
ここは、本来ファンガイアやレジェンドルガ、オルフェノクと言った存在への対応機関として設立を進められていたが、グロンギの出現により前倒されて設立した為色々設備的に不十分なところがある。
設立者は新條強警視総監だが、その背後にはSPIRITS隊も深く関与している。