Sons of Skull-Rider   作:怪傑忍者猫

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黒子のバスケ×マスカレイドスタイル×仮面ライダーSPIRITSと言う多重クロスオーバー。
今回も番外編と言うか、灰崎祥吾が「兄」と呼ぶ少年達の話になります。

この話には、話の展開の為に平成仮面ライダーTRPG《MasqueradeStyle》をベースに作成した私設定が多く含まれています。
また、原作には存在しない組織や怪人なども多く出てきます。
その為、登場する平成ライダーの種類や繋がりなどにも、偏りや変更があります。
その点ご了承頂けない方には、このままブラウザバックして頂きたいと思います。

よろしいですか?


この話は、mixi、pixivにも投稿しています。


Exepisode01-B  決意

 小料理屋『TOKIO』に到着する頃には、空はすっかり茜色に染まっていた。

 中学生四人を伴い、アラン・ホークアイが『本日臨時休業』の張り紙がされた店内に足を踏み込むと、休業にも関わらず店内は人で一杯だった。

 尤も、その大半は中高生と思しい未成年ばかりであった。

 連絡を受けて、都内の学校に通っている子供――滝和也を保護者としている少年達が集まっているのだ。

 無論、全員ではなく、遠方に進学したものや家族が居るものは来ていない状態だったが、それでも狭い店内で座っている不安そうな顔の少年達は一斉にアラン・ホークアイと帰って来た子供達の方を見た。

 

「祥吾、和、剛、天馬!」

「!

 閃兄ちゃん!」

「剛!」

「姉ちゃん!」

 

 奥で、他の少年と話していた少年が立ち上がると、滝天馬が走って行って少年に抱き着いた。

 その横で、同じく立ち上がった姉に詩島剛が駆け寄った。

 泣き出した天馬の、赤い髪を撫でてやる少年に、何も言わず高尾和成も抱き着きに行った。

 この少年の名前は香山閃と言い、滝海斗、一文字空と同い年であり、ドイツ人とのハーフの少年である。

 テロ事件で、テロリストの協力者という汚名を着せられ殺されたジャーナリストの遺児であり、そのテロ集団の少年兵に引き込まれ掛けたところを、滝和也に救い出されたと言う重い過去を持つ。

 だが、大勢の子供とお人好しとも言える周囲の大人のお陰で、閃は年よりも鷹揚な性格に育っている。まあ、本人は「そんな事は無い」と言っているのだが。

 その向こうで、カウンター席のスツールから立ち上がった女性二人がいる。

 彼女達も、滝和也の保護され、その庇護下で育った女性達だ。赤い髪が重音徹子、茶髪を肩より短いショートカットにしているのが榊芽衣子だ。

 女子大生である二人は、今日は講義の後レポート作成の為二人で図書館に篭っていたのだ。

 

「会長さん、海斗と空は?」

「暫くは入院だね、二人とも骨折をしているから、暫くは安静にして貰わなきゃね。

 大丈夫、二人とも格闘技をしているんだ、基礎体力は優れているからね」

「そう、ですか」

「そうね、骨折してるんなら、縛り付けてでも休ませなきゃ!

 あの二人、すぐ動き出そうとするんだから!」

 

 アラン・ホークアイの言葉に、芽衣子は両手を胸のところで握り、徹子が周囲に聞かせるように返答する。

 本当は、二人とも今すぐ病院に向かいたいのだが、海斗と空の立場上、おそらく正面から病院に向かっても、「そんな入院患者はいません」と、門前払いを受ける事が判っていた。

 少なくとも、『未確認生命体3号』の身元は報道規制されており、彼らの身内であり、彼らに守られた立場であるが故にその正体を知った芽衣子達は、しかしそれ故に今ジレンマに陥っているのだ。

 そこに、店の厨房から三人の男性が大皿を抱えて出て来た。長身の青年が、この店の板前である松坂昌樹、彼よりちょっと背が低く筋肉質なのが設備管理の山崎達弥、二人のちょうど中間ぐらいの体格の青年が仕入れ担当の国府田汰介である。この三人に、上嶋繁、永瀬知治を加えた五人が、この小料理屋《TOKIO》の従業員である。

 

「おらおら、チビ共、飯だぞ!」

「腹が空いてちゃ、良い考えなんて浮かばないからな!」

「小料理屋《TOKIO》裏メニュー、爆弾握りと卵焼き、唐揚げだぞ!

 お腹一杯にしてしっかり寝ないと、海斗も空も心配するぞ!」

 

 そう言いながら、三人は手にした大皿を小上がりのテーブルに並べた。

 

「そうだね、皆食べよう」

 

 ホークアイ会長の声に背を押されるように、子供達は三々五々大皿のお握りに手を伸ばした。

 

 

 その頃、《S.A.U.L》(未確認生命体事件対策班)の研究室の一つでは、女性研究員がディスプレイを睨みながらキーボードを叩いていた。

 その、没頭していて周囲に気付かない女性の頬に、ぺたりと冷たいものが押し付けられる。

 

「あひゃ!?」

「休憩ぐらい入れろ、焼き切れるぞ?」

「京一郎」

 

 女性が振り返ると、彼女に良く似た面差しの青年が、缶コーヒーを差し出していた。

 女性の方は弱音羽久、男の方は本音京一郎と言う。二人は従兄妹同士であり、進学先は真逆だったのに就職したら一緒の部署になったと言う、中々の奇縁の持ち主である。

 従妹に甘めのカフェオレを渡し、自身はブラックコーヒーを口に含んだ本音は、ディスプレイに表示されているものに眉を顰めた。

 そこに映し出されているのは、かなり拡大されているが怪人と未確認生命体3号の戦闘の光景であった。

 

「おい、羽久、これは」

「公園内に設置されている、防犯カメラの映像よ。

 ちょっと位置が悪かったけど、何とか一部始終を捉えていたカメラがあったの」

 

 そう言った二歳下の従妹に、知らず本音は溜息を溢す。

 本来、G-ユニットの開発者及びオペレーターとして採用された弱音羽久は、やはり研究者としての性なのか熱心に未確認生命体についても研究している。

 

「G-ユニットの点検でも、しているのかと思ったら」

「それもしてるわよ?

 ただ、判った事があるの、これを見て」

 

 そう言うと、弱音は何か打ち込みリターンキーを押した。

 すると、静止している画像に重なったフィルターのようなものによって、怪人の頭上に光の輪のようなものが見えるようになった。

 それは、まるで天使の輪のようで、それを頂く怪人の姿とのミスマッチぶりに、本音は思いっ切り眉を顰めた。

 

「何だこりゃ?

 怪物の頭に輪っか? ひでえコラを見たな」

「コラージュじゃないわ。この怪人のエネルギー放射状態を極強いものだけ拾って、可視光線で表現させるとこうなったの。

 まあ、似ているからこのエネルギー態を仮称として『エンジェルハイロゥ』としておくけど。

 これを見て、3-Bに落雷が落ちた瞬間」

 

 マウスでクリックされ映し出された動画の中で、光の輪が一瞬輝いたその次の瞬間に、3-B号へ落雷が落ちていた。

 また、触手が3-A号を貫き、滅多打ちにした時も、光輪は瞬くように光を放っていた。

 

「これは……、この天使の輪モドキが、こいつの力の源、か?」

「こいつ一体だけだから、まだ断言は難しいわね。

 でも、これの外見特徴から、ちょっと気になる情報は見つけたの」

「外見特徴?」

「こいつ、天使の輪と一緒に、羽根も付いてるのよ、ほら」

 

 そう言いながら、弱音は画像を二枚切り出し、それぞれを拡大する。

 それは怪人の背中と胸元の映像で、胸元のは羽根を意匠化した飾り物、背中にはまるで某食品会社のマスコットのような小さな一対の羽根が着いていた。

 

「……これが、どうした?」

「これ、一八年前の海難事故のレポートなの。

 ここにあるのよ、SPIRITS隊の砲撃で消滅した、奇妙な存在。こいつが消滅した際、羽根のようなものが散らばったって記述が」

「一八年前?

 ああ、瀬戸内海のフェリーボートが異常発生した嵐で座礁したあれか?

 他の場所は晴れ渡ってたのに、その船の周囲一キロ範囲だけ大嵐だったって言う。

 あれ、レジェンドルガの仕業じゃなかったのか?」

「公式には、未だに原因不明よ?

 ただ、SPIRITS隊が動いた以上は異常事態に違いないって、話になっただけで。

 その理由が、それこそ『未確認』生命体だったとすれば、公表されなかった理由にならないかしら」

 

 従妹の顔をまじまじと見て、本音は再びディスプレイに目を落とした。

 今の部署に入り、すっかり常識が通用しない世界がある事を痛感して来てはいたのだが。

 

「それ、レポートに纏めるのか?」

「勿論、そこからG-ユニットの改善策とかもひねり出さなきゃね」

「手伝おうか?」

「プリントしてからお願い。

 取り敢えず、京一郎は身体休めて頂戴、当分の間は三号の救援は望むべくもないんだから」

「お前こそ、G-3が出動するのに、オペレーターが潰れてて動けませんでしたは笑えねえぞ?」

「判ってるわ」

 

 そう言い合うと、体育会系と理系の従兄妹は、休憩とリフレッシュの為に研究室を後にした。

 

 

 夜一〇時を過ぎる頃、アラン・ホークアイを乗せた《ホークアイ・ホールディングス》の社用車は、警視庁へ向けて走っていた。

 無論、目的は警視総監新條強に会う為だ。

 アラン・ホークアイと新條強の間には、元々繋がりらしい繋がりは無かった。

 そこを繋いだのは、現在行方不明である滝和也である。

 FBIを休職し、I.C.P.O(国際警察機構)の特命を受けた形で《ホークアイ・ホールディングス》会長秘書――実際は、SPIRITS隊長として、世界中を飛び回っていたのだが――を勤めていた滝に、SPIRITS隊へのコネクションを求めて新條が接触して来て以来の繋がりである。

 そこからアラン・ホークアイとも繋がる事となり、以来《ホークアイ・ホールディングス》と《S.A.U.L》は密かに技術提携するようになったのだ。

 そして、昨年十一月から《クウガ》として少年二人が戦い始めて以降は、SPIRITS隊に隠れるようにしつつもより積極的に提携してきたのだ。しかし。

 

「会長、この先工事の為、迂回路に入ります」

 

 現在次席秘書を務める、通称『クイン・ビー』の声に頷いたアラン・ホークアイは、だが周囲の風景に軽く眉を顰めた。

 横に乗る、今回の護衛を買って出た《ホークアイ・ホールディングス》社長中村史也は、前を向いたまま運転席にいる古参部下に一言言った。

 

「夏川、適当なところで止めろ。態々お出ましのようだからな」

「はい」

 

 時間的にまだまだ交通量が多い筈の、しかし全く人も車も姿の無い六車線道路の真ん中で、防弾仕様のリンカーンが停車する。

 すると、それを待ち構えていたように十数人が車を囲んだ。

 背広姿がいるかと思うと、見るからにチンピラと言う風情の男もいる。彼らは全員、腐った魚よろしく生気の無い目をしている。

 

「アラン・ホークアイ、出て来い」

 

 人垣の後ろに立つ、一見エリートサラリーマン風の男が芝居がかった身振りと共に大声で呼ばわる。

 少なくとも、この集団のリーダーらしい男の無礼な様子に、中村が拳を固めるのを制してアラン・ホークアイは車外に出た。

 彼の背後を固めるように、女性秘書と社長も車から降りて来るのを見て、リーダー格の男が唇を歪めるようにして笑う。

 どうやら、単独移動している事を突き止め、功を焦って襲撃したらしいが本人は既に成功した気になっているようで、随分とテンションが高い。

 

「何事だい?

 交通制限までして、何をしたいのか聞かせて貰えるのだろうね?

 私こう見えても、公私共に多忙なのだけれどね」

「気にする事は無い、今日ここでお前さんの仕事は全て終わる。

 後の事は心配要らないさ、我が《スマートブレイン》が全て引き継いでやるから、死に損ないはとっととあの世に帰ればいい」

 

 男の言葉に、秘書はふっと鼻で嗤い、社長の方は完全にガラクタを見る目で、大きな身振りで喋る男を見た。

 アラン・ホークアイはと言えば、あからさまに肩を竦め、見た目よりもおめでたい思考の持ち主を見た。

 

「ふうん?

 随分大きく出たねえ、私の会社を、高々長くて数十年で灰になる、否下手すれば一〇年後に全滅しているかもしれない『本物の死に損ない』(オルフェノク)が引き継ぐ?

 止めてくれないかね、大体世界各国で事故を起こしている、しかも使途不明金が莫大な《スマートブレイン》社なんかと関わるなんて、世界中の取引先からドン引きされてしまうじゃないかね」

「は、何とでも言えばいい。

 ここで貴様と、社長である中村史也を殺せば、後はM&Aに持ち込むだけの事さ。

 改造人間だか何だか知らないが、BADAN残党が何時までも人間の上に胡坐掻くんじゃないよ」

「ああら、随分な人。

 つまり、あなたなのね、ここ最近うちのおちびさん達に変なちょっかい出して、海斗君と空君に叩きのめされていた変質者の親玉って」

 

 秘書の言葉に、男の顔がぎしりと歪む。

 ああ、そう言う事かと言う空気になった標的に、男は唾を散らして喚いた。

 

「五月蝿い五月蝿い!

 改造人間と言っても、特に力も無い、後方支援型だから生き残った屑の癖に、偉そうに!

 さあ、奴を殺せ!

 アラン・ホークアイの首を取った奴にはボーナスを出すぞ!」

 

 男の言葉に、ざわっと周囲の男達が色めき立つのが判った。

 その男達の前に、中村史也が前に出た。

 

「中村君、済まないがあのリーダーと何人かは残しておいて貰えるかな?

 色々言ってやりたい事があるんだ」

「了解しました、会長」

「会長、新條警視総監には、予定よりやや遅れるとお伝えすればよろしいですか?」

「ああ、そうしてくれると助かるよ、何しろこちらから捻じ込んだ面会だからね」

「ちい、余裕のつもりか、ならば」

 

 男が指示を飛ばそうとした、その時だった。

 無言で構えを取った社長と呼ばれた男が、右側に伸ばした両腕をゆっくりと左へと回し、力を込めるように握り込む。

 そう、仮面ライダー二号を知る者なら、彼の変身ポーズをほぼ同じと判っただろう。

 事実、彼の腰には、仮面ライダーと同じベルトが現れていたのだから。

 戸惑う集団の前で、中村史也の姿が変わってゆく。だが、仮面ライダーそっくりになったところで終わり、では無かった。

 仮面ライダーそっくりに変わったと思った次の瞬間、身を翻したと同時にその広い背中がマントに包まれる。

 あっと思った時には、彼の姿は紅い甲冑に包まれていた。

 その姿に、見覚えが合ったらしい取り巻きの中の誰かが、呻くようにその名を呼んだ。

 

「よ、ヨロイ元帥だ、デストロンの」

「はずれ。

 中村君は、ヨロイ大佐と言ってね、元々私の右腕だった人でね。

 色々あって、彼のデッドコピーがヨロイ元帥になったんだよ。馬鹿な事してくれるだろう?

 彼の理性や判断力を削って、闘争心と嫉妬心を強めたおかげで、ヨロイ元帥は組織にとって唯のお荷物に成り下がったのだから」

 

 アラン・ホークアイの、ほとほと困ったと言いたげな声に、苦虫を噛み潰した顔でリーダーが突撃を命じる。

 その声に従い、《ヨロイ大佐》の周囲にいた七人が灰色の甲冑を纏った怪人――オルフェノクの本性を露にして飛び掛る。

 だが、彼らを腕の一振りで弾き飛ばすと、《ヨロイ大佐》は裂帛の気合と共にアスファルトを叩いた。

 そして一瞬を置いて、更に組み付こうとした七人は甲冑ごと砕け、灰となって散らばった。

 

「なん、だと!?」

「お見事お見事、さすが正調《甲羅崩し》は派手でカッコいいねえ」

 

 ぺちぺちと、気の抜けた拍手がする。

 

「何だ、何が起こった」

「だから、これが正調《甲羅崩し》。

 硬い装甲や、外骨格を持つ存在に、超振動を叩き付ける事で装甲毎粉砕する技だよ。

 ヨロイ元帥君は、色々劣化させられてたから出来なくなってしまったのだよねえ、この技」

 

 飄々と語る標的の声に、顔を向けなおしたエリートもどきの男は、そこに異様なものを見出した。

 それは、男の頭上高く――街灯の灯を透かし、ふわふわと浮かんでいた。

 白い笑い仮面に、包帯に包まれたミイラのような姿のその存在に、その場の全員が面食らった表情になる。

 

「き、貴様、まさか、アラン・ホーク、アイ?」

「この姿の時には、また別の名前があるんだ。覚えられるかどうかは判らないけど、一応名乗っておこうか?」

 

 ひらひらと舞い降りたそれに、ヨロイ大佐と女性秘書が跪き、臣下の礼を取る。

 

「私は、かつてショッカー北米支部長を務めた大幹部、マミーゼネラル。

 ご覧のとおり、完全後方支援型の参謀タイプの改造人間だ。死神博士や地獄大使とは、まあまあの関係を作ってたのだけどね、ゾル君とは一切馬が合わなかったねえ」

 

 ケラケラと、笑っているそれはエリート風の男を揶揄するように言葉を続ける。

 

「まあ、地獄大使も死神博士にもあった事だけど、それでもゾル大佐の虚栄心から来る軍資金の無駄遣いは、三人の中でもひどくてねえ。

 だから、彼が仮面ライダー二号に倒された時は、正直清々したねえ」

「き、きさ、ま、その姿、は」

「君が言ったじゃないか、BADANの残党、改造人間と。

 中村君が見せたんだ、私も見せてあげようと思っただけの話さ。

 勿論、それだけが理由じゃないけど?」

 

 ふらふら、ケタケタと笑い続ける笑い仮面に、エリートを自負する男は内心の薄気味悪さを押し殺して命じた。それが、自殺行為だと気付かず。

 

「~~~~~黙れ!

 もういい、あの男を殺せ!」

 

 男が叫んだその次の瞬間、オルフェノク化した周囲の人間は、全員命令した男に飛び掛った。

 あっと言う間に、部下だった筈の面々に切り付けられ、殴られた男は、事態が判らないと言う顔のまま虫の息でアスファルトに転がった。

 その男の目の前で、白いミイラがゆらゆら笑う。

 伸びた包帯が、まるで吹流しのように靡いている。

 

「言っただろう?

 私は完全後方支援型で、参謀タイプの改造人間だって。

 はっきり言えば私の戦闘力なんてごみだ、再改造されても、人間の銃弾一発で倒された程度でね。

 だから、何事かある時には、必ず戦闘力のある部下に付き添って貰って、戦闘時には相手の戦力を活用するようにしているのだよ。

 特に、階級特権を信じてる人間で、部下にこれっぽっちも敬意を持たれてない人間と会う時は、わざと本性を出して最悪に備えるようにしているんだよ。

 そちらの戦力を何時でも取り込めるよう、下準備をして、ね?」

 

 ひらひらと、糸の捻れた西洋凧のように舞う姿は、声無き嘲笑を男の耳元に降らせる。

 

  あはあははっアハハハハ、あはははアハハハ

 

 逆上を安っぽいと見下す、嘲笑(サウンドオブサイレンス)が男のなけなしの自尊心を、根こそぎ踏みにじりに掛かる。

 

「~~っ!

 この、正真正銘化け物が!!」

 

 虫の息であっても身体を起こし、アナグマ怪人(バジャーオルフェノク)の本性を顕(あらわ)にして目の前で揺れる白い怪人に飛び掛ったのは、《スマートブレイン》社エリート社員の最後の矜持だったか。

 だが、伸ばした指が包帯の一本に触れる前に、彼の心臓を鋭いレイピアが貫いた。

 あっと思ったアナグマの怪人が見たものは、青い蜂の女怪人が彼の身体からレイピアを引き抜き、付いてもいない血糊を何かで拭っているところであった。

 

「愚か者。

 私の目の前で、マミーゼネラル様に手を上げる?

 愚か過ぎて、遊んでやる気にもなれないわ。

 そうじゃなくてもこっちは忙しいの、とっとと消えて頂戴」

 

 吐き捨てるような声は、先ほどまできっちりとしたツーピース姿でアラン・ホークアイの傍に控えていた、毅然とした女性秘書の声に違いなかった。

 身の丈に合わない野望を抱いた男が、二度目の最後に見たものは、元の人型に戻ったマミーゼネラルが、彼を一瞥することなく車に戻る、その背中だった。

 

 

 同じ頃、《ホークアイ・ホールディングス》所有のマンションの一室で、高尾和成はごろりと何度目か判らない寝返りを打っていた。

 大人達と、義兄である香山閃に促され、元々泊まる予定であった滝家の子供部屋に広げられた布団で横になったものの、日中の事と入院中の兄達の事が心配で、寝付く事が出来ないでいるのだ。

 だが、ふっと視線を上げた拍子に、和成はこの部屋の主である灰崎祥吾の姿が無い事に気が付いた。

 祥吾は、それこそ乳飲み子の頃からこの家に何度も預けられた事もあって、自宅よりこちらの家で暮らす事の方が長い人間である。

 小学生の頃は、それこそ完全に滝家の家長を実の父と信じており、自分と父と兄は何で苗字が違うのかと、延々悩んでいた過去すらある。

 今では、そんな事は些細な事と割り切ってしまい、滝家に自室がある事にも何の疑問も疑念も無い奴に育ってしまっている。

 その、この部屋の主がいなくなり、廊下に繋がる扉が薄く開いているのに気付いて、和成は起き上がった。

 滝家は広い。

 かつては子供だけに二〇人近く居た事もあり、アラン・ホークアイの好意でマンション最上階のワンフロア三軒分を、一軒分に纏めたのだ。尤も、今はそのうちの一軒分を区切り、女性陣用の区画に別け直しているが、結局元々のリビングやダイニングの方に女性陣も皆集まって来る。

 その滝家には、養父である滝和也の部屋は二箇所ある。

 一つは、玄関横にある、父の寝室。もう一つは、フロアのほぼ真ん中にある、父の書斎である。

 寝室が玄関のすぐ横なのは、夜間侵入者に備える為、書斎がフロアの真ん中にあるのは、貴重な資料やこれまでの事件についての父独自の記録を収めている為。但し、書斎には同時に、父の愛用する武器や防具類も安全装置こそ掛けられているがそのまま収められている。

 その書斎の前に、祥吾が立っていた。

 

「おい、何やってんだよ、そこ父さんの書斎じゃんか!」

「ば! 声がでかいって!」

 

 傍に来た兄弟分の口を押さえ、祥吾はしーっと指を自分の口に押し当てた。

 

「何してんのさ、いきなりいなくなるからびっくりしたじゃん!」

「まさか、起きると思わなかったんだよ。

 それより部屋帰ってろよ、俺も用事終わらせたら戻るし?」

「用事って?」

 

 和成の問いに、祥吾は説明するのも面倒とばかりに部屋に入る。

 慌てて追い掛けた和成は、壁の四面を書架で囲まれた書斎に入った。

 その書架の一面に向き、祥吾は書架の一部に手を伸ばす。本棚の一部に隠されているボタンを弄り、祥吾は書架の後ろに隠されている棚を開いた。

 そこには、滝和也が犯罪結社から押収したり、研究者に託された幾つかの特殊機器やオーパーツに等しいものがざっと10種類ほど収められている。

 その中の、二つ並べて置かれている小振りなトランク二つに、祥吾は迷うことなく手を伸ばした。

 一つは、赤い色が目を引く奇妙なホルダー付きのプレートを収めたもので、もう一つは幾つもの一〇センチほどの大振りなUSBメモリに似たものが、ざっと二〇数本収まっている。

 その、カラフルなボディに飾り文字でアルファベットが入っているメモリの上で、暫く迷ったように手を翳していた祥吾は、薄緑色でHと入っているメモリを取り出した。

 

「祥ちゃん、それって」

「なあ、カズ、父ちゃんの話、覚えてるか?」

 

 言われて和成が思い出したのは、食後にビールでほんのりと紅くなった養父が、集まった子供達に何度も話していた事だ。

 

『敵は、鉄で身体を置き換えた、様々な動植物の力を持たされた怪物達。

 普通に銃弾を打ち込んでも、けろりとしてやがる。

 そんな怪物達と戦ったのが仮面ライダー、飛蝗(バッタ)の力を与えられた、風の戦士達だ』

『軽く跳んで数十メートルの崖を飛び越え、ライダーパンチは鉄板を穿ち、ライダーキックで怪物達は砕け散った。

 彼らは、そうやってたくさんの人達を守ったんだ』

 

 何度も何度も、酔うたび繰り返されるその話に、辟易して自室に篭る者もいたが、祥吾は海斗と共に何十回と無く繰り返されるその話を、飽きる事無く聞いてきた。

 そして、和成は、祥吾が手にしたものの正体を思い出す。

 それは、養父が和成を救い出した際に壊滅させた、財団Xの研究室にあった『地球』の記憶を封じ込めたガジェット、ガイアメモリ『T-1』シリーズとその力を引き出す為の装置であるロストドライバーだった。

 

「祥ちゃん、まさか!?」

「……空兄と、海斗兄ちゃんの敵は、俺が取る。

 この、《HOPPER》のメモリで!」

 

 祥吾が掴んだ《HOPPER》のメモリ。

 それは、『バッタの記憶』が収められたガイアメモリであった。

 

 

 すっかり深夜と言った時間、巡回の看護師が立ち去った集中治療室(ICU)に、すっと入り込む影がある。

 入って来た影は、二つ並んだベッドの上で眠る少年を暫く見詰めた後、静かに頭を垂れた。

 

「すまない、二人とも。

 こんな事になる前に、俺は覚悟を決めるべきだった」

 

 そう言って、彼はすっと取り出したパスケースのようなものを翳した。

 しかし、ケースに変化は無く、その事実に更に彼は歯を食い縛る。

 

「やっぱり、動かしようの無い事件、かよ。

 お前らが《アンノウン》に襲われるのは、『電王』でも覆せないのか。

 ……でも、この先、お前達の助けには、なれる!」

 

 そう噛み締めるように呟くと、影は身を翻しICUの扉に手を掛けた。

 

「もう、悩まない。

 俺に出来る事をやる、考えながら動くのが、元々俺のスタイルだ!」

 

 そう言って、彼が開いた扉の先は有り得ない光景だった。

 ここは、地上数十メートルの建物の中のドアの筈なのに、開いた先には地平線まで広がる砂漠と、そこに延びた線路の上に停車する白い列車とがあったからだ。

 その、赤い砂漠に踏み込んだ存在を、迎える影がある。

 一人は、朱い姿の狼を思わせる未確認生命体。

 もう一人は、車掌らしい制服制帽の人物だ。

 

「心は決まったか、香山閃」

「ああ。

 契約しよう、ウォルフィ。内容は俺とお前、どちらかが死ぬまで、一緒に戦う、だ」

「セン、それはっ」

 

 『ウォルフィ』と呼ばれたウルフイマジンが、述べられた契約内容にあからさまに動揺する。

 だが、車掌らしい姿の男は、まっすぐ少年――香山閃に、ベルト状のものを差し出した。

 

「今日この時、このデンオウベルトを受け取った時点で、お前さんはこのデンライナー二号車の専属電王だ。

 覚悟は、いいか?」

「ああ、考えなきゃいけない事があるなら、走りながら決めるさ。

 なってやるよ、時の守護者、《電王》に!」

 

 閃の言葉に、狼型イマジンは困ったような、何かに悩んでいるような空気を纏ったまま傍に寄って来た。

 そんな、困惑を隠せないイマジンの手を掴み、閃はにっと笑って見せた。

 

「悪いな、付き合って貰うぜ?

 でも、その代わりに何でお前さんの世界が消えたのか、その調査手伝ってやるからさ」

 

 そう笑った閃の顔は、小料理屋で弟分達に見せたものとは違う、険しさと己に向けた怒りの滲んだものであった。




《ホークアイ・ホールディングス》
 ここ二〇年程の間にメジャーとなった、サイバネティクスとバイオケミカルの世界企業。
 その根底に有るのは、マミーゼネラル率いるショッカー北米支部である。
 但し、後方支援と財政を一手に担っていたマミーゼネラルのカラーに染まった結果、ほかの支部とは一線を画した結束力を持つ。
 大首領の横暴で、大幹部から外され戦闘型に再改造が決まった時点で、部下達に命じ資産と組織の存続の為潜伏させた後、BADAN戦役の際に蘇ったドサクサで組織に反旗を翻し、SPIRITS隊に協力していた。
 現在は、BADANからの離反者や脱走者、その他行き場のない歴代組織の改造人間達の数少ない受け皿を担っている。
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