Sons of Skull-Rider   作:怪傑忍者猫

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黒子のバスケ×マスカレイドスタイル×仮面ライダーSPIRITSと言う多重クロスオーバー。
今回も番外編と言うか、灰崎祥吾が「兄」と呼ぶ少年達の話になります。
《HOPPER》初陣、そしてアギト誕生。

この話には、話の展開の為に平成仮面ライダーTRPG《MasqueradeStyle》をベースに作成した私設定が多く含まれています。
また、原作には存在しない組織や怪人なども多く出てきます。
その為、登場する平成ライダーの種類や繋がりなどにも、偏りや変更があります。
その点ご了承頂けない方には、このままブラウザバックして頂きたいと思います。

よろしいですか?


この話は、mixi、pixivにも投稿しています。



Exepisode01-C  新生

 明け方に、来客は帰っていった。

 取り敢えず警視総監室の出口まで、来客を見送った新條強は、そのまま疲れたように来客用の三人掛けソファーの方へ身体を投げ出した。

 すると、彼の上着のポケットが振動を伝える。

 震えるスマホを取り出し、新條は疲れた顔のままその画面に目を落とした。

 

『お疲れ様です。業務時間まで仮眠を取られては?』

「ああ、《K》、そうするつもりだよ」

 

 画面を見ながらそう言った新條に、まるでその言葉が聞こえているように画面に再び文章が並ぶ。

 

『昨日の会議も含め、当面の間はG-ユニット出動時には各署のSWATチームへ出動待機を掛ける事となります。

 各G-ユニットメンバーにも通達しましたが、一部混乱しているチームがありました。

 現在は、全チーム落ち着きを取り戻しています』

「そうか。

 なあ、《K》、お前はアラン・ホークアイの事、どう思っている?」

 

 新條の声に答えるのに、今度は数分のラグが出る。

 スマホへメッセージを出している相手は、今この室内の彼の声を拾い、『会話』しているのだ。

 新條が会話している相手は、《S.A.U.L》(未確認生命体事件対策班)の超大型サーバーに組み込まれている《K》と言う名の人格プログラムである。

 尤も、《K》は単純な会話プログラムではなく、独立してタスクを回すことも可能な特殊プログラム――と、言う事になっている。

 

『アラン・ホークアイ、いえ正式にはマミーゼネラルとされた人物は、本来は国際警察機構(I.C.P.O)に所属しFBI捜査官滝和也の短期間とは言え指導教官を勤めた人物です。

 優秀である事には、疑念を挟む余地はありません』

「ああ、ごめんごめん、そう言うんじゃなくて。

 技術提供を増やすから、G-3を改善しろって言ってきただろう?

 その事をどう思うかって事さ」

 

 返ってきた答えは、短いものだった。

 

『親馬鹿でしょう。

 あの方からすれば、滝海斗と一文字空は孫でもおかしくありませんが』

「あー、やっぱりそうなるか」

 

 ぺたりと、ソファーのクッションに頭を預け、新條は溜息を漏らす。

 マミーゼネラルの前身は、I.C.P.O所属捜査官だった、松本蓮と言う人物だ。

 台湾マフィアとの麻薬絡みの捜査中にマフィア側に捕まり――どうやら、何かしら台湾警察側に恨みを買っていた松本捜査官が、マフィアに売られたというのが真相らしい――新たな麻薬の被検体にされて心身ともにぼろぼろにされたところをショッカーに連れ浚われ、ミイラ型怪人に改造されたらしい。

 改造後は、資金獲得と人材と物量獲得の為に辣腕を振るい、それこそ一時期はアメリカ合衆国やヨーロッパにおいて莫大なコネクションを形成し、組織としてのショッカーを裏側から支え切っていた人物だったのだ。

 その彼が、何ゆえ組織を裏切り仮面ライダーに付いたのか。その理由を、彼は笑って答えようとはしない。

 考えられるのは、魂のない人形状態になる予定が再生処置のミスで、入らない筈の魂が戻ってしまった。若しくは、再生処置の際に、以前施されていた組織への忠誠心や洗脳と言ったものが剥がれて自我が生じてしまったか。

 どちらにしろ、I.C.P.O捜査官としての人格を取り戻したマミーゼネラルは、かつての部下や組織を手中に収めるや、SPIRITS隊を最後方から支援し抜いたのである。

 尤も、その素性が割れた後も、彼があまり知られていなかったとは言えショッカーの元大幹部であった事に脅威や疑念を持つ人間は絶えず、そう言った人間達への保険として滝和也はFBIを休職し、肩書き上は秘書として、内実は国連及びI.C.P.Oからの刺客として《ホークアイ・ホールディングス》に入ったのだ。

 勿論、アラン・ホークアイ、マミーゼネラルが洗脳を得意とする参謀型改造人間である事から、滝和也が洗脳され裏切る事を懸念する声もあった。

 それに向かって、二人は同時に言い放ったのだ。

 

「彼の、洗脳の解けやすさを馬鹿にしているね?」

「この人を、前回倒したのは俺だ、ライダーじゃない」

 

 そして、佐久間ケン本部長の強力な後押しもあり、滝和也の名目上の転職は成立したのである。

 勿論、佐久間本部長の方はと言うと、FBI側からの横槍を気にせず、滝に部隊を率いての治安活動をして貰う為の、体裁の良い口実でしかなかったのであるが。

 それから、早二十二年。

 四年後に息子が授かって以来、滝和也はあらゆる場所で行き場を失った子供を引き取り、育てていった。

 彼が連れ帰る子供達を、アラン・ホークアイは自身の力の及ぶ限り後ろ盾となって支援し、彼らの成長を見守り続けた。

 本当に、実の親子のように、二人は協力し子供達に未来を与えようとしていた。

 暖かいご飯を食べ、暖かい家で暮らし、思い描いた未来の為に勉強する。

 そんな、普通の家庭に育った子供なら当然に与えられる、『普通の生活』をそしてそこから繋がる『普通の未来』を。

 だが。

 昨年初冬、きっと誰よりも非凡だが平々凡々に生きる事を二人に願われていた嫡男が、目の前で怪人(グロンギ)に襲われた人々を救おうと古代遺跡から発見された『アークル』(オーパーツ)を手に取り、同じく彼と兄弟同然に育てられた一文字空がもう一つの『アークル』を掴み。

 未確認生命体第三号A体、B体と呼称される彼らを、新條の元に連れて来たのはアラン・ホークアイだった。

 

「勘違いしないでくれたまえ。

 彼らは、人助けをしているだけだ。僅かばかりの功名心とかはあるかもしれないが、それでも彼らは自分達が手にした力で、出来る事をしている。

 だから、S.A.U.Lには彼らに僅かで良い、協力してくれないだろうか?

 嘗て、SPIRITS隊が仮面ライダーを支援したように。

 勿論、こちらも無理難題を捻じ込むんだ、それなりに見返りは用意するとも」

 

 父不在の今、後見人を務める年齢不詳の白人の言葉に、二人は驚き困った顔を隠さなかった。

 だが、新條はその言葉を受け入れた。

 二人――城南大学考古学科九郎ヶ岳遺跡研究室が解析した古代文字によると、《クウガ》と言ったらしい――の戦闘力が、未だに未確認生命体の攻撃を受け流すのが精一杯だったG-ユニットの、機能強化の参考になればと言う欲も確かにあった。

 が、彼ら二人が人類の味方だと言う事実が、単純に嬉しかったのだ。

 嘗て、世界を守りまた現在も未だBADAN大首領と戦闘を継続しているだろう、『仮面ライダー』の再来の様であったから。

 但し、一つ見落としがあった事を、新條警視総監は今回の事で理解せざるを得なかった。

 それは、彼ら二人は嘗ての仮面ライダーのような、多少の負傷にも怯まぬ改造人間ではなく、未だ高校生の生身の人間であると言う事実であった。

 《K》との会話のうちに寝落ちて、うつらうつらと仮眠を取っていた警視総監を叩き起こしたのは、この二時間後。

 始業寸前に掛かってきた、一本の電話であった。

 それは城南大学付属病院の集中治療室(ICU)から、眠っている筈の一文字空が姿を消したと言う、緊急連絡であった。

 

 

 午前八時、小料理屋《TOKIO》に掛かった悲鳴のようなその電話を受け取ったのは、早めに昼の仕込をするべく店に出勤した松坂昌樹だった。

 

「チョッ、バラランガさん、落ち着いて、キー落として、電話が壊れる!」

『空ちゃんがいないの!

 私がお手洗いに行って、看護師さんが巡回したほんの少しの間に、ベッドからいなくなっちゃったの!』

 

 受話器越しでも響き渡る女性の金切り声に、丁度店の勝手口を開いた上嶋繁が驚きを隠さず声を上げる。

 松坂の方は、これ幸いと受話器を上嶋に差し出した。

 

「何や何や、何事かいな?」

「あー、ちょうど良かった、代わってリーダー、バラランガさんから空ちゃんがいなくなったって。

 俺、社長に連絡するから、バラランガさん落ち着かせて!」

「何やて、ホンマか!?」

 

 店の電話を上嶋に渡すと、松坂は私物のスマホを取り出した。

 数回のコールで、目的の相手は出てくれた。が、既に空の失踪は会社に届いていたようで、電話の向こう側でざわざわとざわめいているのが聞こえる。

 指示出しをしていたらしい中村史也は、連絡してきた人事厚生課の部下にこう命じた。

 

『取り敢えず、警備班の人間が捜索を始めている。

 申し訳ないが、上嶋と山咲に滝家の方の様子を見に行って貰えないだろうか』

「分かりました、兄ぃが来て、リーダーの方の電話が終わったら行って貰います」

『忙しいと思うが、頼む』

 

 溜息と共にスマホの通話を終わらせた松坂は、ちょうどそこに入って来た三人に向き直った。

 その三〇分後に、中学生二人が朝早くから飛び出している事が判り、小料理屋《TOKIO》は上を下へのてんやわんやに陥ってしまうのだが。

 

 

 朝九時過ぎ、灰崎祥吾と高尾和成の二人は、昨日の公園近くに来ていた。

 本当は公園に入りたかったのだが、昨日の今日で公園の出入り口は場所によっては封鎖されており、空いているところには警官が立っている為、子供二人が入ったとなれば保護者を呼ばれかねない。

 二人は、取り敢えず現場近くの人の少なそうな場所を探して、ゆっくり歩いていた。

 本音から言えば、祥吾は和成を同行させるつもりは無かったのだが、

 

「連れて行かないなら、中村さん達に電話してやる!

 それに、あの時あのクラゲ怪人が狙ったのは俺と海斗兄ちゃんだった、俺が一緒の方があいつが出て来る確率は上がる!」

 

と言って、一歩も引かない兄弟分に折れる事になったのだ。

 今、祥吾は後ろに視線を向けている和成の手を引き、ゆっくりと細い路地を歩いていた。

 高尾和成は、小学二年生の頃に海外赴任中の家族と共に、《財団X》の仕組んだ集団拉致に巻き込まれ、実験で遠視能力を持たされた過去がある。

 元々空間認識能力が高く、脳内で見た光景を俯瞰図にする事が出来る『鷹の目(ホークアイ)』を持っていた彼に目を付け、更に遠くを見る能力を持たせ、その後彼自身の脳を取り出し戦略兵器に組み込む計画を進めていたのだ。

 絶望させ、組織に忠誠を誓わせる為に和成の目の前で家族を惨殺し、無気力になった彼を手術台に載せたその時、SPIRITS隊による一斉摘発が始まり、保護された和成は滝和也の元で三年間治療を受けた後、連絡を受けた叔母夫婦の元に引き取られたのだ。

 当初は無気力で、大人達に怯え逃げ惑っていた和成だったが、同じような過去を持つ子供達に揉みくしゃにされて暮らす内に、元の快活で笑い上戸な性格を取り戻した。

 勿論、滝家嫡男の海斗と、空、閃の三人に構われ、可愛がられて祥吾の兄弟のように扱われて、三年間を過ごして来たのだ。

 だからこそ、今和成は己の持つ能力をフル活用して周囲を見ていた。

 『鷹の目』と、遠視能力(リモートビューイング)の同時発動によって、自分達の周囲100mに異変がないかを見ているのだ。

 そんな和成の視界に、入って来る筈のない姿があった。

 

「え!?」

「居たのか和!?」

「違う、空兄ぃがいる!

 嘘、病院で寝てるんじゃなかったの!?」

「何だって!?」

 

 思わず顔を見合わせ、「こっち!」と指差した方へと二人は走り出した。

 直線距離でほぼ70m、二人が駆け付けた時には、コンクリートタイルの歩道の上で座り込む一文字空の傍には、真っ青な警察の武装バイクが止まり、白バイ隊員の服装の青年が警察無線で何やら連絡しているところであった。

 恐らく、回復しきってはいないのだろう真っ青な顔色の義兄に、二人は必死に駆け寄った。

 空の方は、目を開いているものの今一つ意識がはっきりしていない様子で、警官の声掛けに反応していなかった。

 

「兄ちゃん!」

「空兄ぃ!」

 

 駆け寄って来た中高生と思しい二人組に、《S.A.U.L》(未確認生命体事件対策班)所属のG-ユニット装着員本音京一郎は怪訝そうに片眉を上げた。

 一応今日は土曜日で、学生が歩いていてもおかしくはないが、この近辺の公共施設は昨日の未確認生命体事件の為に軒並み臨時休業中。

 かてて加えて、未確認生命体3-Bを『兄』と呼ぶ事で、京一郎は取り敢えず本部に問い合わせようと無線のスイッチに手を掛けた。その次の瞬間。

 

「祥ちゃん、上!!」

「こな糞!」

 

 和成の声に、祥吾は待機状態のスタッグフォンを頭上へ投げた。

 釣られて見上げた京一郎の目に、クワガタムシ型の小型機械(ドローン)を串刺しにした槍のような触手を持った、クラゲを被った髑髏のような怪人がゆっくり降りて来ようとしていた。

 

「こちら、本音!

 《S.A.U.L》中央管制室(センターコール)、G-ユニット出動要請!

 未確認生命体出現、要救護者、要保護者あり、うわ!?」

 

 無線機に、甲高いノイズが走ったと思った次の瞬間ぶつんと音を立てて電源が落ちた。

 慌てる青年と兄弟達を背に、祥吾はロストドライバーを腰に当て吠えた。

 

「クラゲ野郎、覚悟しろ!」

 

   HOPPER!

 

「変身!」

 

 メモリスロットに《HOPPER》のガイアメモリを刺し、起動させた祥吾の身体をメタリックなライトグリーンのスーツが覆い、赤い複眼に大きな顎(クラッシャー)を持つ存在に変わった。

 そのまま、びっくりするような脚力で飛び上がった祥吾――《HOPPER》は、踵落としの要領で未確認生命体の頭部を狙う。

 それをぬるりと言う感じに避けた怪人は、《HOPPER》を無視して空の傍にいる和成へと触手を伸ばす。

 

「舐めんなあ!」

 

 その触手の根元目掛け、《HOPPER》は空中で身を捻って、回し蹴りを放つ。

 ぶんっと、風を切った音と共に触手が爆ぜ、怪人が始めて《HOPPER》を睨み付けた。

 手近な建物の庇(ひさし)の上を足場に、《HOPPER》は再び飛び上がる体勢を作る。

 未確認生命体3号に勝るとも劣らない、トンでも戦闘を目の当たりにして呆然とする警官の横で、蹲っていた青年が身じろぐ。

 

「これは一体……」

「ぐっ、……祥、逃げろ、駄目だ、そいつ」

「空兄ぃ!?

 ……ア!? 祥ちゃん、上にいる、逃げて!!」

「へ!?

 ぐわ!?」

 

 義兄を支えようとした和成が、『視界』に入った影に悲鳴を上げた。

 それに反応する前に、背後から肩から腰へと入った衝撃に弾かれ、《HOPPER》は路地のアスファルトに叩き付けられた。

 息が詰まっているらしい《HOPPER》がそれでも顔を上げると、クラゲ型怪人を庇うように猫型猛獣の顔を持つ怪人が、両手持ちの大剣を構えて浮かんでいた。

 

「ふ、ふえ、た!?」

「マジか……」

 

 蒼褪める和成の横で、本音京一郎は携帯火器を握り締めて歯を食い縛る。

 その二人を背に庇うように、一文字空は立ち上がった。

 ふら付きながらも、両足を踏ん張って立位を取った空は、両手を差し伸べて構えを取った。

 

「許さない。

 弟を襲ったお前らを、海斗を傷付けた貴様を!」

 

   変身!

 

 黒い旋風に包まれたその姿は、昨日と同じ黒い装甲に金の装飾の付いたものであった。

 ただ、不安定な空気が漂うその姿は、時折バチッと放電のようなものが身体のあちこちから漏れていた。

 

「空兄ぃ」

「おい、あいつなんかおかしいぞ、変に力が漏れてるって言うか」

 

 本音の声が漏れるや否や、黒い存在は一気に飛び上がりクラゲ怪人へと殴り掛かる。

 だが、まるでクラゲの怪人を守るように前に出た豹頭の怪人が、唐竹割りの要領で大剣を振り下ろすのを紙一重で躱し、その刀身の側面へ拳を打ち込んだ。

 

「邪魔ぁ!!」

   ガキン!

 

 繰り出した、静電気を帯びたような拳が、かなりの厚みと幅を持った大剣を折り砕く。

 一瞬怪人は怯んだが、残った柄の部分で《クウガ》を殴り飛ばし、距離を取ると折れた大剣を頭上に差し上げた。

 一瞬怪人の頭頂部が光ったように見えると、折れた剣が元の姿を取り戻す。

 その姿に、本音京一郎は昨夜従妹と話した事を思い出し、まさかと息を飲んだ。

 クラゲを被った骸骨の方には、何とか立ち上がった《HOPPER》が再び飛び上がって、短い空中戦を挑んでいた。

 が、触手を伸ばしたクラゲ怪人が、《HOPPER》を捉え己の手元へと引き寄せる。

 だが、《HOPPER》はクラッシャーを開き、そのギミックで触手を食い破って拘束を解いた。

 悲鳴を上げるクラゲを突き放し、一旦街灯の上に降りた《HOPPER》は、メモリスロットからガイアメモリを引き抜くと、ベルトの脇にあるもう一つのスロットに差し込み叩いた。

 

   HOPPER! MAXIMUMDRIVE!

「喰らえ、ライダーキック!」

 

 飛蝗(バッタ)の跳躍力で高く飛び上がり、《HOPPER》はエネルギーを纏った必殺の一撃を骸骨クラゲの土手っ腹に喰い込ませた。

 

   ぎぃぃいえええええああぁ!

 

 耳障りな悲鳴と共に、ビルの壁面に叩き付けられたクラゲ怪人が崩れ落ちる。

 だが、その怪人を《クウガ》を振り払った豹頭の怪人が攫って、見せ付けるように空中に逃げる。

 あっと思った時には、再び豹頭の怪人の頭頂部が輝いて、骸骨クラゲ怪人は何事も無かったように起き上がった。

 その姿に、《HOPPER》も警官も和成も息を呑む。

 

「嘘、だろ、絶対効いてた筈なのに!」

「あの猫耳野郎が回復させたんだ、さっきから頭の天辺が光ってやがるのは、超常能力を使ってるに違いない!

 取り敢えず逃げろ、俺達じゃ埒が開かねえ……おい、3号B体!?」

 

 傍にいる学生を抱え、周囲に声を掛けて退避させようとした本音は、複眼(コンパウンドアイズ)を赤から黒へと点滅させている――しかもだんだん黒くなっている時間が長くなっている――《クウガ》に声が跳ねる。

 何も聞こえず、唯怪人達にしか目が行っていないらしい《クウガ》は、そのまま真っ直ぐ怪人二体へと飛び掛ろうとする。

 その時だった。

 未だに能力発動中の和成が、気付いて警告を発するより早くそれは天から豹頭怪人を捕らえ、そのままアスファルトに叩き付けた。

 一瞬何かの紋様が広がり、その衝撃波が丸く路面を抉った。

 怪人の頭上にある光輪が、裸眼でも形状がはっきり判るほど強く輝くと、そのまま全身から網膜を焼くほどの輝きを放ち消え失せた。

 その後に立っているのは、《クウガ》に似た、しかし黒いボディと金色の角の存在だった。

 

「なん、だ?」

 

 呆然とする警官と少年の目の前で、新たな存在はゆっくりと構えを取る。

 その存在に向かって、宙に浮かぶ骸骨クラゲが、まるで怯えるように、威嚇するように叫んだ。

 

「ア、ああ、ああ嗚呼アアあぁぁあ嗚呼ああ!!

 アギト、あぎと、AGITOオオォぉお!!」

 

 その絶叫と共に、クラゲは雷雲を呼んで落雷を連発で発生させる。

 間近に落ちる落雷に、《HOPPER》は転がって直撃しないように逃れ、本音は銃を放り出して傍にいる人間を庇った。

 その銃を拾った《クウガ》が、怪人に銃口を向けた。その瞬間、黒地に金の装飾を帯びていたその姿が、目も覚めるような緑に変わった。

 持っていた銃も、まるで《クウガ》の持ち物だったように、大振りなボウガンに姿が変わった。

 ボシュッと、炸裂音が響いたと思った途端、見えない矢に射抜かれクラゲ怪人が路上に落ちる。

 よろける様に立ち上がった骸骨クラゲに、赤い装甲に戻った《クウガ》と乱入者が同時に飛び出した。

 最後の足掻きと、怪人が繰り出した触手を乱入者と《クウガ》は、まるで鏡合わせの様な動きで弾く。

 その動きに、《HOPPER》は茫然と呟いた。

 

「あれ……海斗、兄ちゃん?」

「あ!?」

 

 兄弟分の声に、はっとなった和成も顔を上げる。

 繰り出される触手を弾き、距離を詰めた二人は怪人の両腕を取ると、頭上へ捻りを掛けながらぶん投げた。

 錐揉む様に舞い上がった怪人のがら空きの胴に、それぞれ違う紋様とエネルギーを纏った蹴りが、二方向から叩き込まれた。

 声にならない絶叫を上げ、光輪を輝かせて骸骨クラゲの怪人は消滅した。

 同時に路上へ着地した二人から、解けるように装甲が剥がれそのまま折り重なるように座り込んだ。

 

「空兄ぃ!」

「兄ちゃん!」

「だあ、落ち着けお前ら!

 安心しろ、二人とも寝てるだけだから」

 

 今まで、ほぼ腰が抜けていた状態の和成と、メモリを抜いて変身を解いた祥吾とが這うようにして二人に寄って行くのを、先に二人に駆け寄り脈と呼吸を確かめた本音がそう言って、取り縋ろうとするのを押し留める。

 座り込んで、そのまま横倒しになって気を失った滝海斗の胸を枕に、一文字空はくーかー鼾を掻いて眠り込んでいた。

 そんな二人の姿に、気が抜けた様子でへたり込む少年二人と、どう対応したものかと途方に暮れる警察官の耳に、やっとパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 

 

 救急車を呼ばれて、弟二人と共に――高尾和成は腰が抜けていた為、灰崎祥吾はガイアメモリを使っていたとは言え、怪人とガチで殴り合った為――滝海斗と一文字空は再び城南大学付属病院へと担ぎ込まれた。

 尤も、三時間近く繰り広げられた精密検査の結果は、和成に眼精疲労、祥吾に二、三箇所の打撲が出来ていたのと疲労が出ていた事を除けば、医者がカルテをぶん投げる程度には健康であった。

 全身に何箇所も骨折を作っていた筈の空は、皹(ひび)どころか折れた痕跡一つ残っていない状態だったし、海斗に至っては、昨日の数値は一体どんな冗談だったのかと言うほど、全くの健康体であった。

 但し、海斗の腰には壊れて失われたアークルの代わりに、全く新しいベルト状の物体――オルタリングだと、海斗は答えた――が現れていた。

 検査の間、海斗と空の二人は二人が姿を消した事で完全にパニック状態だったバラランガと、入院した二人の着替えを持って来て事態を知って同じくパニック状態だった灰崎梓――祥吾の母である――の二人に、涙ながらに説教されていた。

 勿論、養父の書斎から機材を持ち出した祥吾と、その事を大人に伝えなかった和成も横並びで叱られた。

 そんな、女声二部合唱状態のお説教が廊下まで漏れる中、やっと病院へやって来たアラン・ホークアイに同じく病院に確認に足を運んでいた山咲達弥が一礼と共に報告を入れる。

 

「空が脱走した二時間後に、瞬間移動するように海斗の姿が消えたそうです。

 その場を目撃した看護師によると、海斗が消える寸前に目が開いたとの事なんですが」

「何か、あったのかね?」

「はあ、看護師によると、目を開いて『アンノウンが弟を襲ってる』って呟いた途端、消えたそうなんですが」

「アンノウン? Unknownと言う事かね?」

 

 Unknownと言えば、不明、不詳、未見、そして未詳を表す言葉である。

 まるで全て含めたような言葉である、海斗の腰に現れた新たなベルトの事も含めて、判らない事が多過ぎる状態であるのだから。

 

「Unknownねえ。

 言い得て妙と言うか、しかしまだまだ情報が少ないね。

 そう言えば、例の怪人は、黒い姿の海斗君に向かって、《アギト》と叫んだそうだよ」

「アギト? 顎って事じゃないですよね」

 

 首を捻る、元工作班所属の戦闘員に頷いて見せると、元ショッカー北米支部長は言葉を続ける。

 

「ああ、きっと何かの意味があるんだろう。

 その意味を知る為にも、私達は情報を集めなくてはならない。

 あの新たな未確認生命体の事も、海斗君の身体に起こっている事も、空君の持つアークルの事も、《クウガ》と呼ばれた古代超戦士の事も、私達にはまだまだ知らない事ばかりなのだから」

「はい、マミー様。

 いえ、アラン会長」

 

 アラン・ホークアイの言葉に、山咲は頭を下げる。

 その彼を従えたまま、ホークアイは処置室へと足を向けた。

 回復した二人と、無茶をした中学生二人を叱って、抱き締めてやる為に。

 




小料理屋《TOKIO》

 「気が向いた時に日本料理が食べたい」と言う《ホークアイ・ホールディングス》会長の鶴の一声――平たく言えば、仕事に忙殺されてストレス過多で死に掛けた会長の、慰安の為に開店した店である。
季節の料理に板前のお勧めをメインに、毎日十五、六種類の料理がメニューに組まれている。メニューの総数は百を超えるが、日々研究に勤しむ板さんと従業員達によって増やされ続けている。

 実は、五人全員ショッカーの元戦闘員であり、五人とも仮面ライダー二号と滝和也の二人と戦闘し生き延びたと言う強運の持ち主と言う事で、マミーゼネラルに引き抜かれた過去がある。
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