スーパーロボット大戦H/ハーメルン   作:一条 秋

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18 裏切りの決闘 前編

 ベネクティオ率いるルミエイラの部隊がヴァルキリーズ極東支部上空に現れる少し前。

 水晶玉越しに格納庫からの報告を聞いたグリムは、少し渋い顔を浮かべていた。

 

(思ったより”調整”に時間がかかったね。非特隊に回復の時間を与えてしまったよ)

 

 思いつつ、極東支部を上から俯瞰した映像を水晶玉に映す。

 

(まぁでも、まだ完全じゃないところを見れば行けるかな?……さてと)

 

 そう思うことで気を取り直すと、水晶玉をアリアに繋ぐ。

 

「アリア」

『はっ!』

「準備が整ったクロイツリッターを率いて、今すぐ出撃してくれ」

『了解致しました。グリム閣下』

 

 準備万端といった様子で応じると、水晶玉に映るアリアは背を向け、格納庫へ向かおうとする。

 が、いくらも進まない内に足を止める。

 

『閣下、一つ確認しておきたいことが』

「何だい?」

『私に与えられた任は非特隊、及びそれに協力する者の殲滅ということでよろしいですね?』

「そうだね」

『そしてそのやり方は、私に一任されていると?』

「そうだね」

『それならば結構。アリア・アンダーソン、参ります』

 

 言うやアリアは歩みを再開し、今度こそ格納庫へ向かう。

 

「確認事項が2つになつてないかい?……まぁいいさ。細かいやり方は君に任せるよ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ね」

 

 アリアが消えた水晶玉に向かって、グリムはイタズラを仕掛けた子供の様な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 グリムとの通信を終えたアリアは、真っ直ぐ格納庫へ向かい、自分の機体たるベネクティオに搭乗する。

 

(ついに来た、”次”が……非特隊――シルフィード、前回の雪辱晴らしてくれる!)

「張り切るのは結構だが、空回るなよ」

「……わかっている」

 

 胸中の宣誓を読んだ様な赤毛に黒の上下の青年――ベネクティオの忠告に、アリアは少し不貞腐れた様子で返す。

 その時、機体に通信が入る。

 

『アリア~?準備いい~?』

「はっ!勝手なお願いを聞いていただき、誠にありがとうございます」

 

 心なしか高揚しているリィムの問いに、アリアは姿勢を正して応じる。

 

『別にいいのよぉ?私は”面白いこと”がだ~い好きだから。じゃあ、現地に着いたら手筈通りね!』

 

 言うやリィムの方から通信は切れ、一部始終を聞いていたベネクティオは怪訝な顔をする。

 

「状況は理解しているが……本当に三柱(さんちゅう)の一人を巻き込むのか?」

「……本来ならシャーラに頼むつもりだったのだ。そこにリィム閣下が入ってきて、あとは向こうが…………」

 

 言い訳がましいことを承知で返すものの、次の瞬間にはアリアは表情を締め直す。

 

「だが、やることは同じ。ここで非特隊を討つ!」

 

 宣言と同時に格納庫の奥の空間が歪んで黒い穴となり、先を行くクロイツリッターたちに続いてアリアもベネクティオを歩ませた。

 

 

 

 

 クロイツリッターの大群に続いて現れたベネクティオ。それで全てだと思っていた非特隊一同は、その後にさらに穴から現れた機体に意表を突かれる。

 細身の体型に巨大な翼とでもいう様な推進ユニットらしきものを背負ったその機体は、ベネクティオとも、ましてやクロイツリッターとも違うものであり、戸惑う一同を俯瞰する様にさらに高度を上げて極東支部中央の上空に滞空する。

 と、抱えていた円盤状の物体を離して足元の高さに固定する。

 直後に円盤の下側から青みを帯びた半透明の膜が広がり、それは瞬く間に支部全体を覆ってしまう。

 一連の動きが終わると、それを待っていた様にベネクティオは地上を見下ろし、黒銀の装甲越しに恭弥は聞き覚えのある声を聞く。

 

『非特隊に告げる。この砦にいるのはわかっている。そして……出てこいシルフィード!』

「!?……僕を指名してきた……?」

 

 突然自分のことを挙げられて困惑している間にも、ベネクティオの声は続く。

 

『貴様に決闘を申し込む。その為の舞台は既に整っている。見るがいい』

 

 言うやベネクティオは傍らのクロイツリッターに目配せし、それに応える様にそのクロイツリッターは支部の周囲を覆う半透明の膜にマシンガンの一連射を放つ。

 放たれた弾丸は膜にぶつかって弾かれ、その表面に束の間水の波紋の様な跡を浮かばせるだけに終始する。

 

「この膜……バリアってことか……」

 

 その光景に、ユウが一同を代表する様に苦々しく理解を告げる。

 

『この通り、逃げることはできず、外から増援が来たところで加勢もできん。それでも出てこないというのなら、この砦を壊滅させる』

「クッ……!」

「あの野郎……!」

 

 突き付けられる事態に恭弥は歯を食い縛り、一夏はベネクティオを怒りの目で睨みつける。

 

『ただし、貴様が決闘に勝利したら、我々は軍を退こう』

「……え?」

『5分だけ待つ。その間に貴様が出てこない、もしくは他の者が手を出した場合は、容赦なくここを壊滅させる。以上だ』

 

 言い切るや、ベネクティオは黙ってその場に滞空し、クロイツリッターたちも銃口を下ろして待機の姿勢を見せる。

 

「……決闘って…………」

「また前時代的な発想ですね……」

 

 一方的な、それも自分が中心となってしまった流れに恭弥は困惑し、サクラは一連のベネクティオの発言に思わず呟く。

 直後、一同の携帯端末が鳴り響き、通信越しにエリックの声が響く。

 

『桂木曹長……今の話、聞いていたな?』

「……はい」

 

 静かに問うエリックに、恭弥は若干舌を震えさせながらもはっきりと答える。

 

(あいつがここに来たのは、僕に決闘を挑む為。出て行かず、そしてあの口ぶりからして負ければ極東支部を壊滅させ、逆に僕が勝てば撤退してくれる…………そして、逃げ道は無し)

 

 ベネクティオの主張を整理し、膜に覆われた周囲を見回すと、恭弥は一つ深呼吸して、胸の中で何かが固まっていく感覚を覚える。

 

「……僕、行きます。決闘を受けます」

「恭弥さん!?」

『……いいのか?』

 

 その固まったものを吐き出す様に静かに告げる恭弥に、飛鳥は息を呑み、エリックはどこか申し訳なさそうに訊き返す。

 

「正直、怖くないって言えば大嘘になります。今すぐにでも逃げ出したいくらいだ。ベネクティオの強さはそれなりにわかってるつもりですからね……でも、逃げ場なんてないし」

『…………わかった』

 

 歯を食い縛る様に応じたのも一瞬、エリックは指揮官の声を飛ばす。

 

『織斑曹長、桂木曹長をシルフィードのもとへ移送後、自機にて待機せよ。他も自分の機体に搭乗し、いつでも出られるようにしておけ』

「「「了解!」」」

 

 その声にパイロット全員が応じると、一夏が思い出したように告げる。

 

「大佐、ユイたちがヴェーガスのそばにいるんです。艦内へ避難させてください」

『何?』

「細かいことは後で説明します。とにかく入れてやってください!」

『……了解した。フィルシア、近くのハッチまで案内してやれ』

「了解!じゃあユイに飛鳥、あとリグル様も、ついてきて」

 

 強く言い切る一夏にエリックは根負けした様子で応じ、その指示にフィルシアは弾かれた様に走り出す。

 

「ま、待ってください!飛鳥君!」

「は、はい!」

「ほら、リグルも」

「……わかった」

 

 それを見てユイと飛鳥は慌てて後を追い、カノンに促されたリグルも渋々それに続く。

 その間に白式を展開した一夏は、恭弥とカノンを手招きし、2人をそれぞれ両脇に抱える。

 

「じゃあ行きます!しっかり掴まって」

「いかにも”荷物”って感じだけど、ドリフトよりはマシ……だよね?」

 

 カノンの不安を掻き消す様にスラスターの轟音が響き、2人を抱えた一夏は一目散に地下格納庫の入り口へ駆ける。

 

「……思ったよりは快適だね。加速の衝撃もあんま来ないし」

「だね……」

 

 カノンの技術的好奇心に事務的に返しながら、恭弥は薄っすら汗ばんだ手を握り締めて上空の黒い機影を見据える。

 

(ベネクティオ……やってみせるっ!)

 

 

 

 

 恭弥とカノンを抱えた一夏が飛び立ったのと前後して、ユウとサクラもヴェーガスへ駆け出す。

 直後、ユウは隣を走るサクラから鋭い視線を向けられているのに気づく。

 

「他のメンバーはみんな和気藹々としてるみたいだけど……私、一応先輩だから。フィルシアたちとは違って、あくまで軍人としての態度でいて」

 

 突き放すようなその言葉に、ユウは足を止めた。嫌悪とは違う、何か関わりたくないような雰囲気を感じた。

 しかしユウ自身、早くこの非特隊のメンバーと親しくなりたいという想いがあった。

 

「ユウさん!何止まってるんです!」

「あ?……あぁ……!」

 

 振り返ってこちらの様子に気づいた飛鳥の叫び声に、ユウは再び足を動かし、サクラを追った。

 ヴェーガスのもとに着くと、サクラが最寄りのハッチを指さす。

 

「キミは第一デッキ」

 

 そして、ユウにサングラス型のバイザーを手渡した。

 これはIAD操縦における補助装置で、内側にレーダーや自機の情報などが表示される仕組みになっている。

 さらに、パイロットの思考を読み取る"Super Resonance Waving system"通称"SRWシステム"を搭載し、機体の反応速度向上に一役買っている。

 ユウはバイザーをかけて指さされたハッチをくぐり、自身の機体、ネメシス08へ走った。

 

 

 

 

 ベネクティオの操縦者の声が響き渡っていた頃、極東支部司令室では、リトスの指示が響いていた。

 

「出せる戦機人全てを緊急発進させて!今はスピード優先。実弾の装備も許可します。()()()、発砲をはじめとする攻撃行為は追って指示するまで、もしくは相手からの攻撃があるまで厳禁。あくまで警戒のみ行うこと」

 

 一口に、特に攻撃に関する指示を強い口調で言い切り、それがアナウンスされるのを確認すると、リトスは近くのオペレーターを見やる。

 

「通信は使える?」

「はい。あの膜――バリアの外にも届くようです」

「なら、すぐに他の支部に……いいえ。連邦軍に救援要請を」

「連邦軍に、ですか?しかし……」

 

 思わぬ名前に困惑しつつ、オペレーターは外の状況を映し出す大型モニターに顔を向ける。そこには先ほど、クロイツリッターの銃撃がバリアに弾かれる光景が映っていた。

 

「いいから!すぐに連邦軍に――伊豆基地に連絡を入れなさい」

「!りょ、了解!」

 

 オペレーターの言いたいことを察しながらも、リトスは声を強めて強行させる。

 

(加藤大尉たちは別の用で支部を出ていると聞いている。彼らが来てくれれば……あるいは…………)

 

 

 

 

 朝食の後、非特隊やヴァルキリーズの面々と別れたナガイは、支部内をふらふら彷徨った末、気づけば地下格納庫に佇むマジンカイザーSKLの前に来ていた。

 

「…………デビルマシンのくせに、こういう時は妙に落ち着くぜ」

 

 刺々しい外見のカイザーを眺め、そうした見た目から抱くには我ながら不自然な”安らぎ”とでもいうべき精神的平穏に、ナガイは自嘲気味に呟く。

 知らないものに囲まれ、面倒臭いことこの上ない事態に直面して悶々としているナガイにとって、この世界で唯一知ったものであるカイザーは、物理的にも心理的にも安心材料なのかもしれない。

 

「!……何だぁ!?」

 

 そんな中で唐突に響いたサイレンに、ナガイは続くアナウンスを片手間に聞きながら周囲を見回す。

 と、隣の格納庫からそれぞれ武器を手にした戦機人が数機出て行くのを見る。

 

「また何か出やがったのか?」

 

 思わず呟いていると、戦機人と入れ替わる様に、一夏に抱えられた恭弥とカノンが格納庫に飛び込んでくる。

 白式を着た一夏が恭弥をシルフィードの、カノンをアトランティア・ルージュの足元に下ろし、自身も突っ込む様にユニコーン・白のコクピットに入ると、真っ先に起動したシルフィードがエレベーターへ向かう。

 それに続いて白が歩き出す傍ら、それらの様子を見ていたナガイに気づいたのか、顔を向けたアトランティアからカノンの声が響く。

 

『あ、ナガイさんここにいたんだ。なんか上今危ないからさ、近くのシェルター入ってた方がいいよ』

「いったい何が起こってんだ?」

『ルミエイラの襲撃。て言っても、向こうのリーダーは恭弥との決闘を御所望みたいだけどね』

「ルミエイラ?……あの鎧ロボットのことか?」

『そう。じゃ、私も行かないと』

 

 言うやカノンはアトランティアを歩かせ、格納庫に残っているのはナガイとカイザーだけになる。

 

「…………シェルターよりこっちの方がまだ安全じゃねぇか」

 

 カイザーの足元を見ながら独り呟くと、ナガイは視線の先にある髑髏型航空機――スカルパイルダーに駆け寄る。

 カイザーのコクピットたるそれに乗り込むと、すぐに垂直上昇を行い、ぽっかり穴が空いたカイザーの頭頂に位置する。

 

「パイルダー、オン!」

 

 やや控えめな叫びに応える様にパイルダーは両翼を折り畳んで髑髏の下顎を形成し、そのままカイザーの頭頂に差し込まれて一体となる。

 瞼が開く様に一瞬強い光が目に宿ったのを合図に、神憑りな、あるいは悪魔的な性能を誇る黒鉄(くろがね)の巨人――マジンカイザーSKLが起動する。

 

(コイツの頑強さは半端じゃねぇからな。籠城するならこっちの方がいいだろうし、動けりゃ逃げることもできるしな。武器がありゃ戦うことも……)

 

 そこまで考えると、先ほど出て行った恭弥たちの様子が脳裏を過る。

 

「って、何であいつらのことが浮かぶんだよ!?別に俺には関係()ぇだろうっ!……あー、とりあえず上行こう。地下にいちゃ逃げたくても逃げられねぇ」

 

 言うやナガイはカイザーを歩かせ、50メートル級には窮屈な通路をエレベーターに向かって進む。

 

 

 

 

 出動のアナウンスが響くや否や、パイロットスーツへの着替えも省いて戦機人のコクピットに飛び込んだノゾミは、最低限の点検を済ませるや、自機も含めた第四分隊5機を地上へと向かわせる。

 エレベーターを上がって地上に出ると、穴から現れた時と同様に上空に滞空し続けるルミエイラの軍団をモニター越しに見据える。

 

(相手はベネクティオと、クロイツリッターの通常型が16、ビーム持ちが8、あとバリア装置に付いてる翼付き……合わせて26機か。ヴァルキリーズがあと出せるのは第三分隊の3機、非特隊は全部で6機とヴェーガス1隻――もっとも、空を制限されては飛行艦艇の本領は発揮できないか――計14機。高性能機が複数あるとはいえ、やはりルミエイラの方がやや優勢か……?)

 

 周囲の様子と事前に知り得ている情報を総合しながら、あまり嬉しくない現状を否応なしに把握していく。

 その時、

 

『オウオウ。ルミエイラだか何だか知らねぇがな、いきなり人ンチにカチコミに来て、連邦の奴とタイマン張らせろって、あたしらは眼中に無ぇってか!?舐めてんのかこの鎧野郎っ!!』

 

隣の戦機人――アキラ機から怒声が響くや、その手にしたガトリングガンの銃身が持ち上がりそうになる。

 刹那、

 

『!!……』

 

サヨコ機のチョップがアキラ機の頭頂に落ち、ノゾミは通信映像越しに激震に悶えるアキラを観る。

 

『サヨコテメェ!何しやがるっ!!』

『こっちの台詞よっ!何向こうを挑発してるの!!司令の命令忘れたの!?』

『うっ……!』

 

 怒られて上っていた血が多少は下りたのか、アキラはいくらか冷静になる。

 が、ルミエイラを睨みつける眼光に衰えは無い。

 

『忘れちゃいないがよ……攻め込まれて何もしないってのは、流石に悔しいだろう……?』

『そうだよっ』

 

 アキラに続くようにカノンの声が拡声器越しに響くと、ノゾミはアトランティア、白、シルフィードがエレベーターで上昇してくるのを見る。

 

『機動兵器で決闘するって言うなら、肩に赤い布でも巻いて出直してこい!』

『……貴女が前にいた世界では、そんな風習があったの?』

『ううん。そういうわけじゃないけど』

『じゃどういうわけよ…………』

 

 ミオの好奇心からの質問とカノンの拍子抜けな回答、それに呆れるサヨコの声がそれぞれ響いたのと前後して、ベネクティオは地上に現れたシルフィードを見据える。

 

(今はともかく、ルミエイラ御指名の桂木曹長に期待するしかないわね)

 

 天と地に佇む対照的な色合いの両機を見比べながら、ノゾミは操縦桿を直に握る手に力を込める。

 

 

 

 

(こんな時でもマイペースだな。カノンちゃん……)

 

 地上に出るやベネクティオに物申したカノン、そのどこかズレているのだろう発言と、敵の大群の前でそんな態度がとれる彼女の度胸とでもいうべきものに、恭弥は呆れと感心を五分五分に抱く。

 もっとも、それが無意識に張っていた気をいい具合にほぐしてくれたのか、強敵を前にしながらもその心境は先ほどよりも落ち着いている。

 

「結果オーライ、かな?……ありがとう」

『何です?』

「いや、こっちの話」

 

 通信越しに独り言が聞こえたのか、白の頭部越しに心配の視線を寄こしてくる一夏に応じると、恭弥は一つ深呼吸する。

 

「さて、僕が行かないと収拾つかないようだし…………行ってくる」

『グッドラック!』

『…………勝ってきてください』

 

 アトランティアにサムズアップをさせるカノンと、静かだが力強く告げる一夏、言わずもがななことを言って強がる自分に応じてくれた2人を見据えると、恭弥はペダルに足を掛ける。

 

『……あ、そうだ』

 

 しかし踏み込もうとする直前、一夏が何かを思い出した様に声をかける。

 

『じゃあ、負けたら恭弥さんは、そうだなぁ……リグル様のワンピース着て1週間過ごしてもらいましょうか』

「なっ!?」

 

 藪から棒な、それでいて場違いもいいところな提案に、恭弥は思わず目を丸くする。

 

『えっ!一夏、アンタそんな趣味が!?……いや、私も人のこと言えない……かもしれないけど。いろんな意味で……』

 

 カノンも動揺の声を上げ、ヴァルキリーズの戦機人たちも白を横目で見ながらひそひそ話を始める。

 

『……いや、悪い。冗談のつもりだったんだよ。俺も昔そんなこと言われて、いい感じに気持ちがほぐれたから、良かれと思って…………』

 

 一夏の方もこの反響は予想外だったらしく、周りの目に小さくなりながら弱々しく告げる。

 

「……一夏君もありがとう。ただ、準備はしなくていいよ。()()()()()()

『……了解』

 

 その意思を汲み、笑顔で強く応えた恭弥は、一夏の短い返事を聞くと、今度こそペダルを踏んで上昇する。

 

 

 

 

 背部推進器を吹かして飛び立つシルフィード。その小さくなっていく後ろ姿を見上げている一夏に、カノンの声がかかる。

 

『心配?恭弥独りで行かせるの』

「本当言うとな……」

 

 単刀直入な問いに、即本心を答える。

 

「でも、俺たちまで行ったらルミエイラは攻撃を始めるそうだから……今の俺に――非特隊(俺達)にできるのは、だた信じて待つことくらいだよ。俺もさっきの冗談言われた時、そうして見送ってもらったからな」

『へー?「(おとこ)の友情」ってやつ?熱いじゃん!』

「そういうカノンこそ、本当いつもブレないよなぁ」

 

 嬉々として告げるカノンに、一夏は今までのやり取りから感じた彼女に対する率直な感想で応じる。

 

 

 

 

 カノンと一夏、それぞれに硬くなっていた気分を適度にほぐしてもらった恭弥は、しかしベネクティオの姿が大きくなるにつれ、再び体中が硬直していくのを自覚する。

 

(落ち着け恭弥。初めて手合わせした時、ほとんど何もできなかったことは確かだ。複合盾こそ持っていても、機体性能に大した差は無いと考えていい以上、相手の方が上手なのも認めよう…………それでも、僕だってこの数日遊んでたわけじゃない。実戦だって何度か経験して、こうしてここにいられるんだ。少なくとも、()()()()()()マシになったんだ!今はそんな自分を信じよう。見送ってくれた一夏君とカノンちゃんの為にも……)

 

 心の中でそう自分に言い聞かせ、気持ちを鎮めていく間に、ついにベネクティオと同じ高度に達する。

 

『来たか。決闘を受諾してくれたこと、まずは感謝しよう。それと、生憎こちらの決闘の作法は把握していなかったのでな、赤い布は用意してこなかった。許せ』

(あ、カノンちゃんの言ってたこと聞いてたのか……というか、この人結構律儀だなぁ……)

 

 ベネクティオの乗り手の態度、特にカノンの発言を受けた軽い謝罪に、恭弥は場違いと自覚しつつも感心する。

 

「それはどうも……確認するが、僕が勝ったら大人しく引き下がる、決闘中は双方手を出さない、それで間違いないな?」

 

 渇きつつある口周りに意識を集中して、毅然とした声を出すように努める。

 強がりでしかないことは百も承知だが、ベネクティオから聞こえる自信に溢れた声に萎縮しそうな恭弥には、大事な抵抗行為の一つだ。

 

『そうだ』

「……なら」

 

 ベネクティオの短い返答を聞くや、恭弥は薄っすら汗が浮かんだ手で球形操縦桿を握り直す。

 

 

 

 

 そんな一連の光景を、グリムは例の水晶玉越しに観賞していた。

 

「さて、そろそろだね」

 

 シルフィードとベネクティオが対峙したその時、頃合いとばかりに呟くと、右手をゆっくりを上げる。

 

「悪いねアリア。君を傷つけることになって。でも、これは戦争だからね」

 

 言いながら、その実微塵も罪悪感の無い笑顔を浮かべると、グリムはパチンッと指を鳴らす。

 

「勝つ為に利用できるものは、何でも利用しなくちゃ」

 

 

 

 

 目の前に滞空するベネクティオが、腰に提げたルミナ・グラティウスと同型の剣を人のように抜き放つ。

 

「!」

 

 それを見た恭弥もシルフィードにルミナを持たせ、いつでも斬り掛かれる態勢を整える。

 そして、正にその時だった。

 それまで周囲に警戒の目を向けていたクロイツリッターたちが突然項垂れたかと思った次の瞬間、顔を上げると同時にある機体は剣を抜いて地上に突撃し、ある機体はマシンガンやビーム銃を撃ってそれを援護した。

 

「!?」

『何だぁ!?』

 

 唐突な事態に恭弥は狼狽し、ベネクティオからも戸惑った声が漏れる。

 その間にもクロイツリッターの1機が迫り、振り下ろされた剣を恭弥は脊髄反射でルミナで受け止め、胴部を蹴って距離を開けてビームを撃ち込んだ。

 

「これって…………」

 

 周囲を見回すと、地上の各地で非特隊とヴァルキリーズもクロイツリッターの軍団と砲火を交えているのを確認し、その光景に恭弥は怒りの目でベネクティオを凝視する。

 

「騙し討ちかぁ!!」

 

 腹の底からの叫びと共にひと息に間合いを詰め、ルミナを振り下ろすものの、その一撃はベネクティオのルミナに防がれてしまう。

 もっとも、その動きに以前見た時のキレは無く、非常に機械的で虚ろなものだ。

 

「決闘と言いながら土壇場で攻撃命令って、これがそっちのやり方かっ!!」

『…………!……違う』

 

 そのままルミナを押し込みながらさらに叫ぶ恭弥に、ベネクティオの操縦者は震えた声で応える。

 その声に先ほどまでの威風堂々としたものはなく、恭弥の攻撃にもたった今気づいたような動揺を含んでいる。

 

『違う…………違う。違う!違うっ!違う違う違うっ!!』

「!!」

 

 次の瞬間にはうわ言のように叫びながらルミナを払い、自分の剣をデタラメに振り回すベネクティオに恭弥は慌てて距離をとり、直後にベネクティオは近くに滞空している地上へマシンガンを撃ち続けるクロイツリッターを引き寄せる。

 

『何をしている!命令だ、すぐに攻撃をやめろっ!!』

 

 若干湿気を含んだ怒声を飛ばすものの、クロイツリッターは聞く耳持たずと言わんばかりに銃撃を続ける。

 

『聞こえないのか!?攻撃を今すぐやめろっ!!』

 

 さらに怒鳴り、マシンガンの銃身を下げようと手を伸ばそうとするや、クロイツリッターはベネクティオを払い除ける。

 

『!貴様ぁっ!!』

 

 それで堪忍袋の緒が切れたのか、一気に懐に入ったベネクティオはルミナでクロイツリッターを頭から一刀両断し、落ちていく残骸を魂が抜けたように眺める。

 

(この攻撃……少なくとも、ベネクティオの人の指示じゃないのか……?)

 

 一連の光景を見て、何よりも泣いているようなベネクティオの操縦者の怒声を聞いた恭弥は、さっきまでの怒りを鎮めてそのように考える。

 直後、背後に悪寒が走る。

 

「!」

 

 咄嗟に左に動いて脇をビームが行き過ぎていくのを見ると、恭弥は振り返りざまにルミナのビームを散発的に放ち、攻撃してきたグランツハーケンを牽制しつつ距離を詰める。

 あと一息で懐に飛び込める間合いに差し掛かると、相手もそれを察したのか、右手のビーム銃を腰に提げ、代わりに左脇の小ぶりな棒状の装備を手に取る。

 直後に棒の先が2つに割れ、そこから幅広のビーム刃が発生する。

 

「ビームの剣!?」

 

 予想外の装備に恭弥は一瞬戸惑い、それがシルフィードの動きを鈍くしてしまう。

 そしてその隙を突こうと、グランツハーケンはビーム剣の先を突き付けて突進してくる。

 

「しまっ……!」

 

 悔いた直後、縮まりつつあった両者の間に太い光弾が割って入り、咄嗟に両腕を前に出してシルフィード本体を庇った恭弥は、腕の間から左腕の砲口を掲げながら上昇してくる白と、それに続くアトランティアを見る。

 

「すまない!」

『お礼は後で!』

 

 短いやり取りを交わすと、白はシルフィードの前に滞空して雪片を展開し、恭弥と、その隣に着いたアトランティアは背後から迫ってくるクロイツリッター2機に対峙する。

 

『決闘とか言っておいて、結局騙し討ち!?』

「いや、どうも向こうも想定外みたいだ」

 

 アトランティアを介して怒りの眼差しでクロイツリッターを睨むカノンに、恭弥は放心状態のベネクティオを見やりながら返す。

 

「とにかく今は!」

『えぇ。コイツ等をどうにかしましょう!』

『だねっ!』

 

 恭弥、一夏、カノンはそれぞれに告げると、各自一斉に正面の敵に距離を詰める。

 ルミナの切っ先を突き付けて迫るシルフィードに、目の前のクロイツリッターは両脚からミサイルを発射し、追尾を始めた4発が軌道を微修正しながら突っ込んでくる。

 

「!」

 

 咄嗟に止まった恭弥は射撃モードにしたルミナで迎撃を試みるものの、それを待っていたといわんばかりに今度はクロイツリッターが剣を抜いて迫る。

 刹那、下から飛来した4本のビームがミサイルを火球に変え、1本がクロイツリッターの胸部表面を掠る。

 

「!」

 

 それで動きが止まったクロイツリッターに、恭弥はペダルを一杯に踏んでシルフィードを突っ込ませ、一瞬で距離を詰めた加速の乗ったルミナを掠り傷がついた胸部に突き入れる。

 引き抜くと同時に地上へ落ちていくクロイツリッターを見やった恭弥は、その視野の中にこちらを見上げるテンペストを捉える。

 

「サクラさん、助けてくれたか……」

 

 後で礼を言わなければと思いつつ、次の敵を探しに移動した。

 

 

 

 

 恭弥、カノンと言葉を交わした一夏は、すぐにスラスターを炊いて正面のグランツハーケンへ突貫する。

 直後にグランツハーケンは左腕を伸ばし、手首のミサイルを2発放ってくる。

 

(!回避――いや、確かホーミングだ!)

 

 相手の攻撃の性質を思い出して一瞬行動が遅れ、その間にもミサイルは間近に迫ってくる。

 その時、

 

『そのまま行けぇっ!一夏っ!』

「!?」

 

聞き覚えのある声の叫びと共に下から放たれた弾雨にミサイル2発は粉砕され、直感的に声に従った一夏はそのままグランツハーケンに迫る。

 相手はビーム剣を横にして胸部の前に出し、その幅広のビーム刃で白の攻撃を受け止めようとする。

 しかし、

 

「ビームならっ!」

 

言うや一夏は左腕の雪羅の指を真っ直ぐに揃え、5本の爪の先端からそれぞれエネルギー刃を伸ばす。

 巨大な手刀となったそれはグランツハーケンのビーム刃を掻き消す様に貫き、そのまま本体胸部を貫く。

 行動不能になって落ちていくグランツハーケンを確認すると、一夏は下界にギガンティックの姿を見つける。

 

「フィルシアか。助かった」

 

 言いながらエネルギー刃を消した左の親指を立てると、一夏はその場を後にした。

 

 

 

 

 正面から降り注ぐマシンガンの弾幕を、カノンはアトランティアを縦横に振って寸でのところでかわしていく。

 

「コイツッ……!」

 

 進めないっことに歯軋りする間にも脚部ミサイル4発が殺到し、咄嗟に両腕で本体を庇ったカノンは爆発の激震に揉まれることとなる。

 少しして揺れは収まり、再生途中の腕の合間から正面を窺うと、

 

「……ヤバッ!!」

 

剣を突き立てたクロイツリッターが、推進力を全開にして突っ込んでくるのを見る。

 

(間に合わない!)

 

 心中に断じるや、カノンは正面に構えた剣でクロイツリッターの突進を受け止める。

 しかし、

 

「今度は後ろ!?」

 

鍔迫り合いで身動きがとれないアトランティアの背後にグランツハーケンがつき、ビーム銃の銃口をその背中に合わせる。

 刹那、

 

「!?」

 

グランツハーケンの胸部を後ろから三又のビームランスが貫き、危機を脱したと直感するや、カノンは正面のクロイツリッターの腹部に蹴りを入れて間合いをとり、一気に上昇する。

 

「喰らえぇ!引力雷落としぃっ!!」

 

 腹の底からの叫びと共に急降下をかけ、頭上に掲げた剣を勢いを乗せて振り下ろす。

 

「あれぇ?なんか違うなぁ……」

 

 直前の叫びに疑問符を浮かべながら、頭頂からまともに斬り込まれて真っ二つになったクロイツリッターが落ちていく様子を眺めていると、傍らにビームランスを持ったネメシス08が寄ってくる。

 

「ネメシス08?今のグランツ潰してくれたのってユウ?」

『グランツ?……あぁ、ビーム付きの鎧か。ヤバそうだったから……』

「サンキュー!ナイスアシスト!!」

 

 返答を聞くや、カノンはアトランティアに左拳を突き出させる。

 

『!……オレだって、これくらいはしないとな』

 

 それに対するユウの気持ちを引き写した様に一瞬戸惑ったネメシス08は、しかし一瞬後にはぎこちないながらも左拳を突き合わせてくる。

 直後、

 

『各機、一度集結して!(しらみ)潰しじゃ埒が明かないわ』

 

通信越しにノゾミの声が響き、下を見るとヴァルキリーズ第三、第四分隊と、非特隊の機体たちが一カ所に集まっている。

 

『オレたちも行こう』

「だね。あちらさんも態勢立て直すみたいだし」

 

 ユウに応じつつ、上空、それもバリア発生器の近くに集結しつつあるクロイツリッターたちを確認したカノンは、ネメシス08と並んで地上へ降下する。

 

 

 

 

 大陸の紛争抑止委員会の基地を飛び立って数時間。

 光秋、ライカ、メイシール、ウォルターを乗せたレイディバードは小さなトラブルも無く、伊豆基地を目指した静かな飛行を続けていた。

 一行が集まるキャビンには、メイシールの端末操作の音と、壁にもたれて仮眠をとる光秋の寝息だけが控えめに響き、ウォルターとライカは目を合わせるわけでもなく、それぞれ窓の外を流れる景色を呆然と眺めている。

 その様子は、さながら長距離旅行から帰ってくる際の疲れを溜め込んだ人々のようだ。

 そんな静寂に終わりを告げたのは、出し抜けに響いたアナウンスだった。

 

『伊豆基地より緊急入電!ヴァルキリーズ極東支部にルミエイラの大部隊出現。至急救援に向かわれたし、です!』

「「!」」

 

 操縦士の慌てた声に光秋は飛び起き、ライカも反射的に席を立ってコクピットのドアを開ける。

 

「極東支部が?」

「はい。至急向かえと」

 

 確認する光秋に、操縦士は頷いて応じる。

 

「どれくらいかかります?」

「現在位置からですと……どんなに飛ばしても30分はかかるかと」

(何でそんな位置関係にいる我々に、こんな指示を出すんですか……)

 

 光秋の問いに答える操縦士。その回答に、ライカは口の中に呆れを漏らす。

 一方、光秋はアゴを撫でて思案顔を浮かべる。

 

「……ランドルフ司令、”アレ”を当てにしたか?……恭弥君たち放っておくわけにもいかんし、やむを得んか」

「?」

 

 小声の決断にライカが首を傾げた一瞬後、すぐに光秋のよく通る声が響く。

 

「マザー1はこのはは極東支部に向かってください。以後の指示は伊豆の方に仰いで。ミヤシロさんは僕と格納庫へ。出撃する!」

「……了解」

 

 操縦士の回答と光秋の指示内容の矛盾が引っ掛かったのも束の間、理解するよりも先に動き出した足が、ライカを格納庫、そこに収まるシュルフツェンへと運んでいた。

 

「今から出撃?」

「手はあります。あまり気は進まないけど……」

 

 ライカと同じ疑問を抱いたらしいメイシールの問いに応じつつ、光秋はウォルターを見やる。

 

「コバックさんはここで待機してください。追って連絡します」

「待機って……?」

 

 不安を浮かべるウォルターに、しかし対応する時間が無い光秋は皆まで聞かず走り出し、格納庫に出る。

 すでにライカが乗ったシュルフツェンは起動を完了しており、光秋も懐から出現させたニコイチに乗り込むと、後部ハッチが解放される。

 

『ホワイト1、出ます!』

「バレッド1、出ます」

 

 言うや各々乗機を空に踊り出させ、直後に光秋の声が通信機から響く。

 

『ミヤシロさん、ニコイチの肩に掴まって』

「肩に?」

『いいから!』

「……了解」

 

 急かす声に応じると、ライカはレイディバードより上の高度に位置したニコイチの後ろの回り込み、シュルフツェンの両手でその両肩を掴む。

 

『昨日2回、休息も不充分な気がするが……うしっ!』

 

 不安を漏らしながらも最後には気合いを入れて気持ちを切り替える光秋。それに応じるように、ニコイチの節々が展開して赤い骨組みが露わになると、そこから発した燐光が2機を球状に包む。

 

(この光……まさか、救援に来てくれた時の……?)

 

 モニター越しに燐光に覆われた周囲を見回しながら、ライカは伊豆への移動中、所属不明機たちと対峙する中で目撃した赤い光のことを思い出す。

 直後、

 

『しっかり掴まって!』

「?……!!」

 

 光秋の叫びが響くや、レイディバードが遥か後方に遠ざかり、辛うじて見えていた日本列島沿岸が見る見る大きくなっていく光景に、ライカは言葉を失った。

 

 

 

 

 その十数キロ後方では、赤い航空機――イーグル号のコクピットに収まったイシカワが、一連の光景を眺めていた。

 

「何だありゃ?火の玉……?おっと!」

 

 流石にこの距離では赤い光の正体――転移早々に遭遇したニコイチとシュルフツェン――は判別できず、目を凝らしている間に速度を上げた輸送機に慌てて足を合わせると、ゲットマシン3機はつかず離れずの距離を維持しながら後追いを続ける。

 

 

 

 

 非特隊とヴァルキリーズの戦力を集結させたノゾミは、改めて周囲の状況に目を凝らす。

 

(極東支部全体がバリアに覆われ、出ることも入ることも不可能。ルミエイラ側――クロイツリッター12、ビーム付き5――は上空に集結し、態勢を立て直してる。こっちにも空戦機はあるとはいえ、この数的不利に対処するのは厳しいでしょうね……やはり目下の問題は…………)「せめてバリアの発生装置させ壊せれば、増援の受け入れが可能なんだけど……その発生装置はバリアの外だし……」

 

 言いながら、翼付きの機体と共にバリアの外に滞空する円盤を憎々しげに見据える。

 

『なら、ヴェーガスの艦砲でも使ったらどうだ?あれくらいの主砲なら流石に通るんじゃ――』

『バカを言え!』

 

 アキラの提案を、ヴェーガスの砲術士、アインの怒声が遮る。

 

『空を封じられた状態で飛行艦艇が出せるわけないだろう!こんなデカブツが地を這って、的にしてくれと言ってるようなものだ』

『それに、万が一防がれた場合、跳弾で被害が拡大する可能性も……』

 

 さらに怒鳴るアインに続いて、第三分隊隊長アリスが慎重な声で告げる。

 

「……確かに、2人の言うことはもっともね。でも、そうなるとどうやって…………」

 

 アインとアリスの意見を肯定する一方、代案が浮かばないノゾミは言葉に詰まってしまう。

 それは焦りとなって知らぬ間に視線を下げ、地下の格納庫、そこに力無く横たわるタロウを――未だその中にいる桃矢を幻視させる。

 

(このままルミエイラの攻撃を許せば、桃矢だって…………)

 

 その時、

 

『いや、もっとシンプルで確実な方法ありますよ』

「!それは本当?桂木君」

『はい。こんなのはどうです?』

 

 すぐに顔を上げたノゾミの問いに、言い出しの恭弥は白を一見すると、通信越しに非特隊とヴァルキリーズの全機に自分の考えを述べた。

 

 

 

 

 自身が提案した作戦を早口で述べる恭弥。

 それをヴェーガスのブリッジで聞いたエリックは、アゴを撫でながら再度思案する。

 

「俺はネメシスタイプ以外の戦力を完全に把握しているわけではないが……本当にできるのか?」

『このメンバーでなら自信があります』

 

 探る様な問いかけに、恭弥はやや緊張を含んだ、しかし明瞭な声で答える。

 

「……わかった。非特隊の指揮官代行としては実行してもいいだろう。()()()、全機必ず帰還すること。カワシマ分隊長とティグリス分隊長はどうか?」

『私は…………私も、それが今できる最善だと思います』

 

 後半は若干語気を強めながら告げ、ヴァルキリーズ側に確認をとるエリックに、ノゾミも迷いを断つ様に言う。

 

『私も同意見です。それに、向こうももう待ってくれそうにないし』

 

 アリスがそう告げる様に、上空に集まっていたルミエイラはビーム付き1、クロイツリッター2の分隊に分かれて再攻撃に入りつつある。

 

「なら、こちらもうかうかしてられん。作戦準備開始だっ!」

『『『了解!』』』

 

 エリックの号令が飛ぶや、各機は自身の配置につく。

 

「ヴェーガスも格納庫から出せ。支援射撃くらいはできるだろう」

「正気か!?」

 

 続くエリックの指示に、アインが目を丸くする。

 

「さっきも言っただろう?飛べない状況でヴェーガスを出しても的になるだけだぞ」

「そうだが、何でもかんでも子供らとヴァルキリーズに任せとくわけにもいかんだろう?こちらにも面子というものがある」

「…………わかった」

 

 体面を気にしながら、しかし深いところで違う意図を感じさせるエリックの言葉に折れたアインは、渋々ながら艦の武装のチェックを始める。

 

「ヴァ―ガス、格納庫から出ます」

 

 その横では、予め心得ていたようなカトリーヌが、満足そうな顔を浮かべて舵を握っている。

 と、ブリッジのドアが開き、シンジに率いられたユイ、リグル、飛鳥が入ってくる。

 

「リーダー、連れてきたぞ」

「あぁ、そういえば迎えを頼んでいたな」

 

 シンジの呼びかけに緊急出撃が始まった頃に出した指示を思い出しつつ、エリックは少年少女らを見やる。

 

「シェルター代わりに来てもらって悪いが、本艦も機動兵器部隊支援の為に前に出ることになった。すまないが艦の奥に――」

「いえ、ここにいさせてください」

 

 エリックの説明が終わらぬ内に、ユイが強い意志を含んだ声を出す。決して大きな声ではないものの、その目は梃子でも動かないと物語っている。

 

「やられる時は何処にいてもやられるものです。状況がわからない所にいて怖がるくらいなら、見通しのいい所にいて怖がる方がいい。それに一夏さ――非特隊のみなさんの戦いを観たい気持ちもあります。お願いします!いさせてください!」

 

 言いながら頭を下げるユイに、飛鳥も続く。

 

「俺も、ユイさんと同じ気持ちです。お願いします!」

「…………わかった。その代わり、隅の方で大人しくしててもらうぞ」

「「はい!ありがとうございます!」」

 

 説得された、という以上に、2人の言葉に引っ掛かるものを感じたエリックの許可に、ユイと飛鳥は再度深々と頭を下げる。

 それを確認すると、エリックはリグルに顔を向ける。

 

「……それで、リグル様はどうします?貴女だけでも奥に避難しますか?」

「ご冗談を。さっきシロサキさんがおっしゃっていたでしょう?こうなってしまえば、何処にいてもやられる時はやられます。それなら、ここで私の騎士の活躍を観戦する方がずっと有意義です」

「……了解した。しかし戦闘中はそこの2人同様、隅の方で大人しくしていてもらいますよ」

「承知しました」

 

 単純計算でも倍はあろう歳の差、そして艦長独特の威厳を醸し出すエリックに対し、物怖じしない態度を終始崩さずにやり取りしたリグルが首肯を返すと、ヴェーガスは完全に格納庫から出る。

 

「周囲への被害を考慮し、射撃は原則副砲のみとする。主砲と各ミサイルは封印、ホーミングビームはギリギリまで撃つな」

「また無茶な注文を……」

 

 嘆息を漏らしながらも、アインは手元のモニターに指を走らせ、エリックの指示通りに各種火器の設定を入力していく。

 その傍らでは、ユイたち3人がエリックとの約束に従ってブリッジの隅に移動し、近くの窓から外を眺めている。

 

「あの鎧みたいなのが敵のロボット……?」

「サイズと……外から見た限りの特徴でいったらPTに近いかな?でもあんな形の機体見たことないし、何処のメーカーが作ったのか…………」

 

 ユイと飛鳥がそれぞれ抱いた疑問を呟いていると、リグルが神妙な面持ちでクロイツリッターの1機を注視する。

 

「あの機体……何かを吸ってる……?」

「『吸ってる』?」

 

 訊き返す飛鳥に、リグルは外を指さしながら応じる。

 

「わかりませんか?私もはっきりとは感じられないんでが、あの胸、丁度十字マークが描かれている辺りに向かって、周囲を漂う何か…………力?……のようなものが一定間隔で吸われていっているような…………」

「「?」」

 

 リグル自身自分の感じたことを整理し切れず、それに基づいた要領を得ない説明に、飛鳥とユイはどう反応していいか困った顔を見合わせる。

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