スーパーロボット大戦H/ハーメルン   作:一条 秋

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25 炎の鳥 後編

 パワードスーツ展示会場の片隅で、非特隊と四天学園パワードスーツ研究会の少年少女たちは遠く離れた街を蹂躙する鬼たちを眺めていた。

 

「そんな、こんな時に…………」

「なんだよ、なんで鬼がいるんだよ」

 

 唐突な脅威に誰もが言葉を失いそうになる中、ユウの悔しさを乗せた呟きと飛鳥の唖然とした声が微かに零れる。

 一夏が鬼たちの方へ駆け出したのは、その時だった。

 

「一夏くんっ?」

「俺が時間を稼ぎます。みんなは避難を」

 

 引き留めようとする恭弥に返すと、一夏はブースの設置されていない広場で足を止め、右手首のガントレットに向かって叫ぶ。

 

「コール!ユニコーン・白!」

 

 直後に空に穴が空いて白が吐き出され、すぐにそれに乗り込んだ一夏は鬼たちのもとへ飛んで行き、手近な雑鬼に跳び蹴りを入れた。

 それによって鬼の一部は街の破壊をやめるものの、代わりに白が数体の雑鬼に囲まれてしまう。

 

「ちょっ、袋叩きじゃん!?」

「一夏さんッ!」

 

 四方八方から振るわれる棍棒を辛うじてかわし続ける白に、カノンは愕然とし、ユイは悲鳴のような声を上げる。

 

「…………せめて、もう1機味方がいれば……」

 

 そう漏らしながら手を握りしめる恭弥。その脳裏には、非特隊の一員として初めて戦闘に向かった道中、そしてたった今目撃した白が瞬間移動で現れる光景が何度もよぎっていた。

 

(あれがどういう原理なのかは知らないが……もしも、もしもシルフィードにもあんな機能があれば…………っ)

 

 子供じみたないものねだりであることは百も承知だったが、そんなことを本気で望んでしまいくらい、嬲り殺し一歩手前まで追い詰められる友(一夏)を見ていることしかできない無力感は悔しいものだった。

 離れたブースの陰に見覚えのある白い少女を見つけたのは、その時だった。

 

「君はっ!」

「!恭弥っ?」

 

 ユウが呼び止めるのも構わず、気づけば恭弥は走り出していた。

 走り寄って明確になっていく人影は、やはりシルフィードに初めて乗った直前に会った銀髪の少女だった。

 

「君、あの時の……」

「貴方は“力”を求めるの?」

 

 唐突な、思わぬ時と場所での再会に咄嗟に言葉が出てこない恭弥に対し、少女はあの時と同じ質問を投げかけてくる。

 

「…………あぁ、欲しい。たぶん、あの時以上に求めてると思う」

 

 言いながら、恭弥は鬼と戦う一夏に顔を向ける。

 

「あの時は、理不尽な暴力を討つために“力”が欲しかった。今だってそれは同じだけど、それだけじゃない。友達を――一人で必死に戦っている仲間を助けたいっ。ここで何もしなかったら、毎日必死でやってた訓練は何なんだって…………でも、今の僕には……」

 

 言葉に熱気が籠りかけるものの、目の前の何も持っていない自分の手を見つめて、それもすぐに冷めてしまう。

 そんな手に、少女はそっと自分の手を添えてきた。

 

「“力”なら、もう持っている」

「?」

「あの時言ったはず。精霊は常に貴方を護り続けると。貴方が真に求めるのなら、“光”は必ず輝く」

「…………」

 

 相変わらずの抽象的な言い回しはいまいち理解できなかったものの、不思議と要点だけはなんとなくわかった気がした。

 恭弥は固く目をつむり、瞼の裏にシルフィードの姿を強く思い浮かべる。

 

「来い、シルフィードッ!」

 

 かっと目を見開きながら出た叫びは像を一気に鮮明化させ、直後に広場上空に再び穴が空く。

 そこから舞い降りたのは、今正に脳裏に思い描いた自らの愛機、シルフィードであった。

 

「ほ、本当に出たっ…………」

 

 直感的に「できる」とは思ったものの、いざその光景を目にすると驚愕が抑えられなかった。

 困惑治まらぬままに少女の方に向き直ると、すでにその姿はなかった。

 

「?」

 

 周囲を見回すもののそれらしい人影はどこにもなく、その間にも追い詰められる一夏を再度目にした恭弥は少女のことを一旦横にどけ、シルフィードに乗り込むと空高く浮上する。

 地上を俯瞰して一夏の位置を確認すると、高度を下げながら射撃モードにしたルミナ・グラティウスを取り囲む鬼たちに向ける。

 

「…………」

 

 市街地のただ中ということもあり、一夏の危機に焦る気持ちをどうにか抑えて慎重に狙いを定めると、白の背後から跳びかかろうとする雑鬼にビームを放つ。

 胸部を狙ったビームは少し逸れて棍棒を振り上げた右腕に当たるものの、至近距離に生じた爆発をまともに受けた雑鬼はバランスを崩して転倒し、一夏の援護という最低限の目的は辛うじて果たされる。

 加えて、仲間が予想外の攻撃を受けたことで他の雑鬼たちも動揺したらしい。キョロキョロと辺りを見回す隙を突いて恭弥は一気に降下し、白の背後に背中合わせに降り立つ。

 

『恭弥さん!?何でシルフィードに?』

「説明は後!」

 

 通信から一夏の困惑した声が響くや、恭弥は強く応じる。

 

「まずは……」

『……そうですね』

 

 自分たちが置かれた状況を再度認識して、一夏も一先ず疑問を引っ込めたらしい。互いに得物を持ち直すと、それぞれ正面に捉えた雑鬼たちに意識を集中させる。

 刹那、

 

「『!』」

 

これといった合図もなしに同時に踏み出すと、シルフィードと白はそれぞれ一番近くにいた雑鬼に斬りかかる。

 本格的な攻勢に雑鬼たちも次々と棍棒を叩きつけようとするも、白とシルフィードはそれらをことごとく回避、あるいはカウンターの一太刀を浴びせていく。

 

――後ろは相方が何とかしてくれる。

 

 そんな無言の了解がそれぞれを正面の敵のみに集中させ、互いを背にした2機の白い機体は徐々に雑鬼の一団を無力化していった。

 

 

 

 

「すげぇ!息ぴったりじゃん」

「あぁいうのを、以心伝心と言うのでしょうか?」

 

 自らを囲んだ雑鬼たちを次々と無力化していくシルフィードと白の姿に、それまで唖然としていた少年少女たちの顔に活気が戻ってきて、それを表すようにカノンとユイの声が上がる。

 

「…………」

 

 一方、2機が引きつけられなかった鬼たちによる破壊は続いており、雑鬼の棍棒によってビルが次々と倒されていく光景に、飛鳥は唇を噛みしめていた。

 そんな時、虎次郎の声がかかる。

 

「みんな、避難命令が出たぜ。俺達もすぐに……」

 

 瞬間、飛鳥は顔に決意を浮かべ、調整を終えて実演会場へ運ぶ途中だったブレイズ02へ近づいて叫んだ。

 

「着装!」

 

 それに応えるようにブレイズ02のバイザーが輝き、同時に装甲が展開する。

 開いた所から飛鳥が飛び込むように入ると各部の装甲が順に閉じていき、最後に頭部が閉じるとツインアイが輝く。

 

『オートアジャスタ完了、バランサー正常、内蔵電源80%、各種状況異常無し。ブレイズ02起動!』

 

 電子音声が言い終えるや、眼前に様々な状況が表示される。

 それを見るや飛鳥は一目散に鬼が暴れ回る街へ向かおうとするが、いくらも進まない内に見知った人影が立ちはだかった。

 

「待て、飛鳥!」

 

 言いながら、ユウは両腕を一杯に伸ばして飛鳥の行く手を阻む。

 

『退いてくださいユウさん!』

「何処へ行くつもりだ!?」

『決まってるでしょう!鬼たちが暴れてる所です』

「行かせられるわけないだろうッ!」

 

 声にイラ立ちを乗せ始める飛鳥に、しかしユウも一歩も退かないという意志を込めた視線をバイザー越しに向けてくる。

 

「まーまー。飛鳥も落ち着けって」

 

 間に入った虎次郎が2人をなだめると、飛鳥を見ながら言ってくる。

 

「じきにヴァルキリーズ第三、第四分隊が来るし、連邦軍……少なくとも非特隊の残りのメンバーだって動いてるだろうさ。その人たちが何とかしてくれるって」

 

 そんな一般論を述べる虎次郎、そしてそのやり取りを期待の目で見ているユウに、飛鳥は思うままを返した。

 

『……虎、オレたちが着ているのはなんだ?人を助けるために産み出されたレスキュー用パワードスーツだよな。今あそこには誰かの助けを待っている人達がいる。オレは助けにいく!!』

「………ふう、そういうと思ったぜ」

「!?ちょっと――」

 

 それに笑顔で頷く虎次郎を見て、止めてくれると思っていたユウは抗議の声を上げようとするも、すぐに遮られる。

 

「まーまー。ユウだっけな?お前も落ち着けって。飛鳥の言うことにも一理ある。それに、その勇気を無碍にするようじゃ、男が廃るぜ!」

「…………勇気」

 

 虎次郎の説く理屈はいまいち理解できなかったものの、その一言は妙に耳に残ったユウの脳裏には、ある言葉が浮かんでいた。

 

(行ってこい、ユウ!お前の勇気、買ってやるぜ!!)

 

 それは鳥型ゴーストと戦う直前、出撃間際にエリックに言われた言葉だった。

 その時の自分と、今目の前にいる飛鳥が不思議と重なって見えて、ユウは重く感じる口を開く。

 

「…………わかったよ」

『ユウさん……』

 

 それを見て、さっきからユウに対して気を張っていた飛鳥が安堵の声を漏らす。

 

「その代わり、オレも飛鳥と一緒に行く」

『!それは――』

「こういうのは人手が多い方がいいだろう。それを認めないなら、今からそのパワードスーツをぶっ壊してでもお前を止める」

『…………』

 

 できるかどうかではなく、やってみせるという強い意志を込めたユウの視線に、今度は飛鳥が重い口を開く。

 

『…………わかりました』

 

 言いながら、ヘルメットに覆われた頭を縦に振る。

 

「話はまとまったな。だったらユウの言う通り、人は多い方がいい。俺も手伝うぜ、飛鳥!」

 

 言うや虎次郎も置きっぱなしになっていたブレイズ01に駆け寄り、飛鳥のそれと同型のパワードスーツを纏う。

 

「それなら、私たちは運び込まれたケガ人を手当てできる準備をした方がいいですね」

 

 サクラの指摘に他の面々が頷くと、そろって救護用テントへ駆けていく。

 そしてそれと入れ替わるように、緑色の装甲をしたパワードスーツが飛鳥とユウ、虎次郎のもとへやってくる。

 

『話は聞かせてもらったよ』

『ユウジさんっ?』

 

 見覚えのあるスーツの外観とスピーカーから聞こえてきた声に、飛鳥が驚きの声を上げる。

 

『さっき通信を傍受したんだけど、あと5分でヴァルキリーズが来てくれるようだよ。連邦軍も動いていると思う。虎、飛鳥くん、ユウくん』

『ユ、ユウジさんまで』

『話している暇はないよ。今は一人でも多くの人を助けるんだ。行くよ!』

 

 ユウジの言葉に3人は静かに頷くと、三手に分かれて倒壊したビルが重なる街へ向かう。

 その内の一手――飛鳥の肩に乗ったユウは、先ほどのやり取りに気まずさを感じながらも、どうにか口を動かして思ったことを言う。

 

「飛鳥。その……さっきは悪かったよ」

『……いえ。別にそんな――』

「言っとくけど、言い方っていうか、止め方っていうか、そうことだからな。もっと上手い説得のし方があったんじゃないかって…………正直、今でもお前が危ない場所に行くのは反対だよ」

『…………』

「だってさ……仲よくなったやつが急にいなくなるのは、寂しいから」

 

 そう告げるユウの脳裏には、言いたかったことを言えないままにいなくなってしまったユリの顔が浮かんでいた。

 

『ユウ……さん……?』

 

 そんな事情など知るよしもない飛鳥だったが、バイザー越しに見るユウの奥歯を噛み締めた顔に不思議と通じ合うものを感じ取り、無意識に抱いていた小さな反感が消えていった。

 

「だから、本当に危ないと思ったら、それこそ救助の途中でも逃げてもらう。オレがそうさせる。オレにとっては、飛鳥が無事でいてくれる方が大切だから」

『…………わかりました』

 

 先ほど虎次郎に語った救助への決意が変わったわけではなく、しかし自分のことを強く想ってくれるユウの気持ちも理解してしまった飛鳥は、硬い首を縦に振るしかなかった。

 その間にも崩れた建物が見えてくると、2人は声をかけ合って救助活動を始める。

 鬼の一団が接近してきたのは、そんな時だった。

 

『!こんな時にっ……』

 

 ヘルメットの中で忌々しげな顔を浮かべる飛鳥だったが、当の雑鬼たちはそんなことなど一切関知せず、すでにボロボロになっているビルを面白半分と言わんばかりに棍棒で叩いていく。

 数キロ先から伝わってくるその振動の数々に、ただでさえ不安定な場所での救助活動はさらに難航した。

 

「誰かアイツらを黙らせてくれればいいけど。恭弥たちは……まだ無理だよな……」

 

 未だ自分たちに迫ってくる鬼たちを捌いているシルフィードと白を見て、ユウも口惜しそうに拳を握りしめる。

 直後、2人の頭上に影が差す。

 

「『?』」

 

 そろって見上げた空には、3機の航空機が縦に並んで飛んでいた。

 次の瞬間、それらは一つに結合し、巨大な人型を形作る。

 

「!?」

『……特機……?』

 

 さらなる不明機の乱入にユウと飛鳥が驚愕する中、3機の航空機が合体した巨大な機動兵器は、上半身を白、下半身を赤く塗り分けた細い体を破壊を続ける鬼たちのもとへ降下させていった。

 

 

 

 

 2人の少年の視線の先――細身の特機のコクピットに収まるイシカワは、地上の惨状、その元凶たる鬼たちに顔を歪めていた。

 

「アレが鬼か……話には聞いていたが、酷ぇことしやがる」

 

 ようやく見つけた電器屋のテレビで観たニュースや、道で拾った新聞や雑誌から、この新西暦の世界に関する知識はある程度身についていた。当然、謎の敵性機動兵器群たる鬼のことも――その細かな分類こそ知らないものの――把握していた。

 

(騒がしいと思って来てみりゃ。ゲッターを持ってきて正解だったぜ)

 

 思いつつ、イシカワはビルを壊し続ける鬼の一団を注視する。

 瞬間、もともと歪んでいた顔が、いよいよ抑えきれなくなった歓(・)喜(・)に(・)より一層深く歪む。

 

「そんないかにもな悪党共なら、ぶっ殺さないとなぁッ!」

 

 輝くばかりの白い歯を浮かべた満面の“実に素敵な笑顔”で叫ぶや、それまで自由落下に任せていた細身の特機――新ゲッター2の左腕と一体化したドリルが回転を始める。その先端を鬼の1機に向けると、宙を蹴るようにして一気に突撃した。

 

『ガッ!ガガッ――』

 

 中世の騎士が持つ馬上槍にも似た細く長大なドリル、それは鬼の胴部を難なく貫き、回転によって広がった穴から内部部品――だった物の破片が次々と放出される。

 破損が限界を迎えた鬼にはついに倒れて動かなくなり、そのスクラップを踏みつけたイシカワは残りの鬼たちを凝視しながら喜色満載の声で告げた。

 

「さぁ、鬼退治の始まりだぜッ!!」

 

 

 

 

 ヴェーガスに先行して現場上空に着いたライカとウォルターは、開放されたレイディーバードの後部ハッチから乗機越しに眼下を俯瞰していた。

 

『あの白い2機、恭弥と一夏か?何でここにいるんだ?』

『それにあっちの大型機は……また謎の特機ですか』

 

 思った以上に混沌とした地上の様子に、2人は困惑する。

 さらに上の空に穴が空き、クロイツリッターの大軍が現れたのはその時だった。すぐ近くにレイディーバードがいることに気づくや、一団から分かれた3機がマシンガンを撃ってくる。

 

『降下します。速やかにこの空域から離脱を』

 

 早口に言うやライカは機長の返事を待たずにシュルフツェンを飛び立たせ、ウォルターのザクⅠもそれに続く。

 テスラ・ドライブを備えたシュルフツェンと異なり、単独での飛行機能を持たないザクⅠはすぐに自由落下に入った。

 

『援護します。着地に集中してください』

『助かる』

 

 言うやライカはザクⅠと並行して高度を下げ、マシンガンを散発して迫ってきたクロイツリッターたちを牽制する。

 それを合図にするかのようにクロイツリッターたちは三方向に散開し、2機を囲うように飛んで四方八方から銃撃を加えてくる。

 さらには2機に気づいた砲鬼数機が地上から砲撃を始め、何条もの荷電粒子弾が横を過ぎていった。

 地上からの攻撃がそうそう当たるものではなかったが、ろくな回避運動もできない中で鋼鉄さえも焼き払う光弾を撃ち込まれるのは、決して気分のいいものではない。

 

『クソッ。ジャブロー攻めをした連中の気持ちがわかるってもんだ!』

 

 思わず愚痴が漏れるウォルターだったが、その間にもシュルフツェンと共に応戦のマシンガンを撃ち続け、どうにか空中で蜂の巣になることだけは免れた。

 と、マシンガンから剣に持ち替えたクロイツリッターの1機が距離を詰めてくる。

 

『チッ!』

 

 ウォルターは銃撃を集中させて迎撃を試みるも、空中を自在に動き回れるクロイツリッターはそれをことごとくかわし、瞬く間にザクⅠに近づいて剣を振るう。

 が、直前に両機の間に入ったライカがシュルフツェンの右腕で剣を受け止め、そのまま空いた胴部に左腕のプラズマバックラーを突き入れる。

 

『重ね重ね助か――!』

 

 爆散するクロイツリッターを見ながら礼を言おうとするウォルターだったが、背後から迫ってきたもう1機のクロイツリッターに言葉を失った。

 

(間に合わない)

 

 すでに間合いに入ったクロイツリッターに、ライカは直感的に断じる。

 直後、横から飛んできた白い影がクロイツリッターにぶつかり、遠くへと押しやった。

 

『加藤大尉!』

 

 影の正体がニコイチだと気づいたライカが声をかけると同時に、充分に距離が離れたと判断した光秋は右拳をクロイツリッターの胸部に突き入れ、動かなくなった機体を砲撃を続ける砲鬼たち目がけて落とす。

 それで地上からの攻撃も止まり、その間にザクⅠは無事地上に降り立ちし、シュルフツェンも周囲警戒のまま傍らに着地する。

 

『すみません。遅れました』

 

 直後に光秋からの通信が入るや、ライカとウォルターは上空に滞空するニコイチを見上げる。

 

『我々はIADパイロット3名の回収に当たります。大尉は?』

『なら周囲の敵を抑えてそれを援護しましょう。あ、そうだ。ミヤシロ中尉。あの3人を探すのなら、一先ずあっちに行ってみてください。あのでっかいトレーラーみたいな車が停まってるとこに』

 

 言いながらニコイチの指が一方向に向けられ、それを目で追ったライカとウォルターは、確かに会場の一角に赤いトレーラーが停まっているのを見た。

 

『了解しました。大尉もお気をつけて』

 

 言うとライカはシュルフツェンをトレーラーへ向かわせ、ニコイチも上空のクロイツリッターの一団へ迫る。

 ひと呼吸遅れてウォルターもザクⅠを駆けさせると、先を行くシュルフツェンを見ながら問う。

 

『コーシューのさっきのあれだが、何であんなふうに言い切れるんだ?それにお前も、何で素直に従える?』

『詳しくは知りませんが、大尉のあの機体には特殊な感知装置が付いているらしいのです。恐らくその機能によるものかと』

『……便利なものだな』

 

 ウォルターが率直な感想を溢す間にも、2機はトレーラーのすぐ近くまで迫っていた。

 

 

 

 

 Dトレーラーを鬼やルミエイラたちに気づかれにくい所に停めた少年少女一行は、玄と武、龍美がオペレーターとして救助に向かった飛鳥たちをサポートし、残りの面々は展示会に参加していた学生たちと協力して救助した人たちの応急手当に当たっていた。

 そんな最中、一目で重傷とわかるほどの要救助者が運び込まれる。建物の崩落に巻き込まれたのか、着ている服には所々赤い斑が浮かび、息も絶え絶えだ。

 

「これ、輸血が必要なんじゃない?」

「でも流石に輸血パックなんてないわよ。とりあえず止血を……」

 

 フィルシアの診立てに苛立って返しながらも、サクラは包帯を巻こうとする。

 しかし相手の傷は全身におよんでおり、さらに運び込まれ続ける圧倒的な数の怪我人に、ここにある分だけで足りるのかと不安に襲われる。

 端の方で事態を眺めていたリグルが近づいてきたのは、その時だった。

 

「リグル様?何を」

 

 サクラの問いには答えず、怪我人の傍らに膝を着くと、リグルは相手に向けて手をかざす。

 直後に掌が薄っすら輝き、全身を撫でるように手を動かすと、光が当たった箇所の傷が瞬時に塞がっていく。

 

「凄い……」

「カノちんたちから聞いてはいたけど、あれが魔法ってやつ……?」

 

 サクラとフィルシアが唖然としていると、全身の傷を塞ぎ終えたリグルが釘を刺すように言ってくる。

 

「あくまで傷口を塞いでこれ以上の出血を防いだだけです。どの道失われた分の血液を補充しないことには、危うい状況です」

「ですよね……」

 

 その言葉に頷きながら、フィルシアは未だ轟音が鳴り響く周囲を見回す。多数の鬼に加え、ルミエイラも参戦した現在、シルフィードと白がどうにか渡り合い、気づけばニコイチも加わってはいたものの、終息する気配はまるでなかった。

 

「これじゃあ、迂闊に患者を運べないじゃない……」

 

 途方に暮れながら、サクラはDトレーラーの周囲に横たわる怪我人たちを見る。今止血した人ほどではないものの、応急処置だけでは不充分な一刻も早い本格的な治療が必要な人は他にも大勢いるのだ。

 その時、こちらに近づいてくる2つの大きな影を捉える。

 

「ねぇ、アレって!」

「ミヤシロ中尉のシュルフツェンと、ウォルターさんのザク?」

 

 指さすフィルシアにサクラが応じる間にも、2機は少し離れた所で立ち止まり、こちらに頭部を向けたシュルフツェンからライカの声が響く。

 

『大尉の言う通りでしたね。サクラ、フィルシア、こちらに』

 

 言いながらシュルフツェンに膝を着かせ、手を差し伸べてくる。

 

「どうするんです?」

『間もなくヴェーガスが到着します。2人はそれぞれIADに搭乗して戦列に加わってください。ところで、ユウはどこですか?』

 

 サクラの問いに答えながら、ライカはシュルフツェンの頭部を四方に向けてユウを探す。

 

「飛鳥と一緒に救助の方に行っちゃったよ。ちょっと訊いてくる」

 

 答えると同時にフィルシアはDトレーラーへ駆け、龍美たちが詰めている部屋に入る。入室直前にふと空を見上げると、街の上空を旋回するヴェーガスが見えた。

 

「ねぇ、飛鳥と連絡とれない?」

「どうしたんです?」

「厳密に言うと、飛鳥と一緒にいるユウに用があるんだけど」

「待ってください」

 

 言いながら龍美は通信を飛鳥に繋ぐ。

 

「飛鳥、少しいい?」

『どうした?』

 

 スピーカーから飛鳥の声が響くや、フィルシアは龍美の通信機を借りて話しかける。

 

「飛鳥、私。フィルシアだけど。この通信、ユウにも聞こえるようにできる?」

『少し待ってください……調整しました。どうぞ』

「ユウ、聞こえる?」

『あぁ。何かあったのか?』

 

 改めて話しかけると、ユウの声も響いた。

 フィルシアは龍美たちを一見すると、少し表現を考えて応じた。

 

「ちょっとさ、上見てくれない」

『上?……あぁっ』

 

 返ってきた声からして、ユウもヴェーガスを確認したらしい。

 

「私たちにも働いてほしいってさ。今からそっちに迎えよこすから、どの辺にいるか教えて」

『……なるほど。今いるのは…………』

 

 フィルシアの問いかけに、ユウは自分のいるおおよその位置や目印になりそうなものを告げる。

 

「わかった。じゃあ、そこに行くように伝えるから」

 

 言うとフィルシアは通信機を龍美に返し、駆け足で部屋から出て行く。

 

「えっと、今のは?」

「ゴメン!今急いでるからっ」

 

 龍美の問いをかわしながら外に出ると、駆け寄ってきたカノンと鉢合わせる。

 

「ライカさんから聞いた。戦闘に加わるんだって?」

「うん。カノちんは……」

「それが、アトランティアは持ってきてないって……もうっ。1機くらい積んできてくれてもいいのに!」

「緊急発進だったんだから仕方ないでしょう」

 

 不機嫌絶頂な顔で地団駄を踏むカノンに、後ろから現れたサクラが眉間に皺を寄せて言う。

 

「ユウ君を呼んだのなら早く来て。ミヤシロ中尉が急いでくれって」

「りょーかい!」

 

 応じるや、フィルシアはサクラと共に走り出す。

 

「フィルちー!私の分まで頑張ってっ!!」

「OK!病院までの道は私たちが拓いてやるよ!」

 

 せめてもと激励の叫びを送るカノンに、フィルシアは振り返りながら自分なりの決意を告げ、シュルフツェンの手に乗って上空のヴェーガスへと向かった。

 

 

 

 

 フィルシアとサクラを手に乗せたライカは、急ぎトレーラー周辺の避難所から離れつつ、上空に向けて飛び立った。

 

『地に足が着けば少しはマシなはずだ。ヴェーガスに着くことに集中してくれ』

「了解。援護頼みます」

 

 言いながら、近づいてきた雑鬼にマシンガンを撃って牽制するウォルターに応じると、ライカは手の上の少女2人に注意を払いつつ、できるだけ早くヴェーガスへ向かう。

 

「バレット1より各機。ユウの現在地ですが……」

 

 その間にも、フィルシアから聞いたユウのいる場所を僚機たちに伝え、余裕のある者に迎えに行ってもらおうとする。

 その時、こちらの様子に気づいたクロイツリッターがマシンガンを撃ってくる。

 ライカも右手に持ったマシンガンを撃ち返すものの、あらぬ所に飛んでくる弾から左手のサクラとフィルシアを守ることを優先しているために思うような角度やタイミングでの射撃ができず、撃たれるがままを許してしまっている。

 

(ゲシュペンストの剛性ならばまだ耐えられますが、手に人を乗せている以上、無茶はできませんよね)

 

 左手に意識を向けながらも撃ち続けるものの、クロイツリッターにはことごとく避けられ、その間に距離を詰められてしまう。

 互いに触れ合う距離まで近づくや、クロイツリッターはマシンガンから剣に持ち替え、深々と引いた刀身を突き出してくる。

 

「!」

 

 速度の乗った切っ先がシュルフツェンの胸部に届く寸前、クロイツリッターの胸部が背中から別の剣に貫かれ、引き抜かれるや地上へ落ちていく。

 クロイツリッターの陰から現れたのは、シルフィードだった。

 

『よかった。無事みたいですね』

「恭弥――」

 

 安堵の声を漏らす恭弥に応じようとした矢先、別のクロイツリッターがマシンガンを撃ってくる。

 直前に射線に割り込んだシルフィードが楯となってシュルフツェンへの、そしてサクラとフィルシアへの被弾を防ぐ。

 

『フォローします。ヴェーガスに急いで』

『了解』

 

 言葉を交わす間にも2機は並んで上昇を続け、四方から迫るクロイツリッターをシルフィードにビームを撃って牽制してもらいながら、ライカはヴェーガスを目指す。

 直後に今度は地上から砲鬼の荷電粒子砲が襲いくるが、それに気づいたウォルターのザクⅠが対処に当たっていた。

 

 

 

 

 砲撃を行っている鬼に接近するや、ウォルターのザクⅠは腰に提げていた大型ヒートホークに手を伸ばす。

 

「オォォォッ!!」

 

 叫びと同時にザクⅠは背部推進器を全開にして跳び上がり、高々と掲げたヒートホークを振り下ろす。

 勢いのついた一振りは砲鬼の頭頂に叩き込まれ、高熱化した刃は頑強な装甲を火を近づけた蝋(ろう)のように溶かしていく。

 しかし、ヒートホークが頭部を潰し切るよりも、胸部収束レンズがザクⅠに狙いを定める方が早かった。

 

(不味い!)

 

 みるみる輝きを増していく砲鬼の胸部に危機を直感するや、ウォルターは咄嗟に後退しようとする。

 が、10メートルと離れる前に砲鬼の荷電粒子砲が発射される。

 

「ッ!」

 

 自身のヒートホークがぬるま湯に感じられるほどの膨大な熱量が飛来し、ウォルターはザクⅠ諸共の蒸発を覚悟する。

 直後、最後の足掻きとばかりに開き続けていた目が、上空から割り込んできた機体を捉える。

 翼のような大型推進器を背負ったその機体は、一夏の白だった。

 着地と同時に白は左腕に装備した雪羅を前に出し、そこから展開したシールドで機体前面を覆う。あらゆるエネルギーを消滅させる零落白夜のシールドに触れた荷電粒子の奔流は、雪羅の表面に触れる寸前に次々と掻き消えていった。

 

『大丈夫ですか?』

「あぁ。お陰で消し飛ばずに済んだ」

『ならっ!』

 

 ウォルターの無事を確認するや、一夏は白の右手に雪片を持ち直させ、未だ荷電粒子砲を放ち続ける砲鬼に突撃をかける。

 前に突き出したシールドで迫る熱量を防ぎつつ、大型スラスターに押された機体が光の中を疾風の如く駆ける。

 

『おらぁッ!!』

 

 ひと息で砲鬼に接近して荷電粒子の奔流から抜けると、一夏は気合と伴に勢いの乗った雪片の切っ先を集束レンズのすぐそばに突き刺した。

 直後に粒子砲の放出が止まるや、一夏は背後に向けて叫んだ。

 

『ウォルターさん!』

「!」

 

 返事の間も惜しんで駆け出すと、ウォルターは白にぶつかる寸前にザクⅠを跳び立たせ、後退した白と入れ替わるように大型ヒートホークを砲鬼の頭部、そこに先ほど刻んだ溶解の傷目がけて振り下ろす。

 落下の勢いも加わった斧刃は薪を割るように砲鬼の頭部を完全に両断し、胴部の深い部分に達し、傷口から溶けた金属を滴らせた砲鬼が大の字に倒れ込む。

 

「……」

 

 少し時間をかけて砲鬼が完全に動かなくなったのを確認すると、ウォルターは後ろを振り返り、膝を着いた白に駆け寄る。

 

「大丈夫か?」

『はい。少し無茶してジェネレータ(息)が上がっただけで。もう平気です』

「……ならいいが」

 

 言うと一夏は白を立たせ、その挙動に危うい所がないのを確認したウォルターは一先ず安心する。

 直後に上空からクロイツリッターの機銃掃射が降り注ぎ、2人は慌てて退避する。

 

「援護する。行け!」

『お願いします!』

 

 叫ぶと同時にマシンガンに持ち替えたウォルターは応戦の銃撃を放ち、その火線の後ろを雪片を構え直した白が上昇して行った。

 

 

 

 

「凄っげー!初めてなのにいい連携じゃんあの2人」

 

 一連の光景をシュルフツェンの手の上で見ていたフィルシアは、ウォルターと一夏の即興のコンビネーションに興奮の声を上げた。

 

「……次は私たちよ」

 

 その隣で決意の籠った声を出したサクラの視線の先には、間近に迫ったヴェーガスがあった。

 シュルフツェンが中央のハッチから機内に入ると、掌から降りた2人はそれぞれのIADへ向かい、サクラはテンペストに、フィルシアはギガンティックに乗り込む。

 

『サクラ・ルル、出撃します!』

『フィルシア・ナイトウォーカー、道を拓きに行くよ!』

 

 それぞれブリッジに告げるや、2機のIADが地上へ向けて降下する。

 ヴェーガスの近くに待機していたシュルフツェンも、2機を援護するようにそれに続いた。

 

 

 

 

(ルルさんとナイトウォーカーさん、無事搭乗できたようだな)

 

 ライカが通信で伝えてきたユウのいる場所へ向かっていた光秋は、ヴェーガスから降下する2機のIADとそれに続くシュルフツェンを見て一先ず安堵する。

 しかしそれも束の間のことで、連絡にあった位置上空に着くや辺りを精査してユウの姿を探す。

 

(この辺も結構やられているが……少なくとも鬼やクロイツリッターが来る心配はないか)

 

 倒壊したビル群を見て不安を覚えながらも、上空のシルフィードと白がクロイツリッターたちを抑え、そして少し離れた所ではドリル付きの謎の特機が鬼たちを引きつけて――より正確には『蹂躙』している様子に一先ず安心する。

 

(にしても、また所属不明の特機か。ヴレイブさんの件が済み次第接触してみるか)

 

 思う間にも機体が人影を捉え、道のただ中に佇むユウを映した拡大映像が表示される。そのすぐ近くには、ユウから離れていく赤い人影もあった。

 それを見て光秋は、ユウのもとへ降下して行った。

 

 

 

 

「……サクラとフィルシアが先に出たか」

 

 先ほど飛鳥を介して連絡した位置に待機していたユウは、ヴェーガスから降下するIAD2機を見ながら呟いた。

 

『じゃあ、オレ行きますね』

「悪いな。勝手についてきて、途中で抜けることになって……」

 

 ここまでついてきてもらった飛鳥に、不可抗力とはいえ大口をたたいておいてこのような流れになってしまったことに、ユウは肩身が狭くなる。

 

『偉い人の指示じゃ仕方ないですし、どの道鬼と、それに協力するルミエイラは倒さなきゃいけなんです。やり方が少し変わっただけで、俺たちを手伝ってくれてることには変わりないでしょう?』

「……お前、いい奴だな」

 

 口先だけの励ましではない、本心からそう言ってくれる飛鳥に、少しだけ救われた気になる。

 そんなユウの言葉の言葉を聞くと、飛鳥は背を向けてブレイズ02を駆けさせた。

 

「飛鳥!オレがいなくなったからって、無茶な救助は絶対するなよ。したのがわかったら後で怒るからな。オレは本気だからな!」

 

 瞬く間に小さくなっていく背中に向けて釘を刺すつもりで叫ぶと、飛鳥は手を振って応じた。

 その姿が崩れかけのビルへ駆け出したのは、それからすぐのことだった。

 

 

 

 

『虎、ユウジさん、そちらの状況は?』

『要救助者はたった今送り届けてきたぜ』

『僕の方もさっき終わったよ。飛鳥くんは?さっき別の用が入ったって言ってたけど』

『それは今終わった。救助の方もだいたい済んだよ。でもバッテリーがあまり持たない……ん!』

 

 ユウと別れてすぐ、虎次郎やユウジと通信越しに現状を確認していた飛鳥だったが、唐突に鳴ったセンサー音に辺りを見回す。

 と、崩れかかっているビルに人影を見つけ、カメラの倍率を上げると助けを求める2人の子供を捉えた。

 瞬間、飛鳥は最大加速で崩壊寸前のビルへ突入し、子供たちのいる部屋へと駆けていく。2人のもとへ着くと、その小さな体を優しく抱きかかえた。

 

『もう大丈夫だからな』

「う、うん……お兄ちゃんの言った通りだったね」

「あ、当たり前だ。嘘なんかつくかよ」

 

 より小さい子に「お兄ちゃん」と呼ばれた子の体が震えているのを見て、虚勢を張って弟を励ましていたのだと察すると、急いでビルから脱出しようとする。

 が、直後に足下が崩れ落ち、それを合図にするかのようにビル全体の崩壊が始まった。

 

『く、しっかり掴まって!!』

 

 ギュッと抱きつく2人を庇うように抱え、崩落するコンクリートを蹴りながら移動すると、その先に辛うじて倒壊を免れた壁を見つける。

 そこに向かってブレイズ02のみに搭載されている両肩部内蔵のアンカーを打ち込み、飛鳥は子供2人を抱えた体勢で宙吊りになる。

 

『ふ、間一髪』

 

 崩落から脱したのを確認して、思わず安堵の息が漏れる。

 しかし、

 

『ガアアアアアア!』

 

直後に崩れたビルの中から雑鬼が姿を現し、驚く飛鳥にさらに追い討ちがかかる。

 

『警告!バッテリー残量10%を切りました』

 

 ブレイズ02の制御システムからの報告を聞き、ゾッとした。

 消費の激しい動きをしたせいだと理解する間にも、バッテリーの残量は刻一刻と減っていく。電力がなくなればパワードスーツなどただの重石となり、筋力を増強する人工筋肉も作動しなくなって抱いている2人を手放してしまうだろう。

 それ以前に、すぐ近くを徘徊する雑鬼がこちらに気づけば間違いなく襲われる。

 

『バッテリー残量9%……8%……』

(くそ、何とかしないと。アンカーの巻き戻し機能は今ので壊れてる。せめてこの子たちだけでも!)

『3%』

 

 その時、知っている声が耳に届く。

 

『飛鳥!』『飛鳥くん!』

 

 顔を向けると、パワードスーツを着た虎次郎とユウジがこちらへ向かってきていた。

 瞬間、飛鳥の頭にある方法が浮かぶ。

 

『少し怖いけど我慢できるかい?』

「怖いこと?」

『でも安心して、あの2人が君たちを悪い鬼から助けてくれるから信じて』

 

 幼い兄弟は少し考えると、飛鳥の顔を見て力強く頷いた。

 

『…………1%……』

 

 バッテリーの残量もいよいよとなり、いざ浮かんだ方法を実行しようとした直前、遠くにいるユウの姿が目に入る。非特隊の隊長機と記憶している白い機体の手に乗り、真っ直ぐこちらを見据えた顔には、制止を訴える必死さがまじまじと浮かんでいた。

 

(…………ごめんなさいユウさん。約束破っちゃって)

 

 ブレイズ02の聴覚増強機能を使うまでもなく言わんとすることを察し、棘が刺さったような罪悪感を苦笑いで誤魔化すと、飛鳥は通信越しに虎次郎とユウジに向けて叫んだ。

 

『虎!ユウジさん!この2人を受け取って近くにいる鬼から早く逃げて!!リミッター解除、いっけえええ!!』

 

 リミッター解除と同時に、2人を虎次郎とユウジがいる方へ投げ、見事にキャッチされる瞬間を捉える。

 

『グガ!ガアアアアアア!』

 

 それで雑鬼もいよいよこちらに気づくや、宙吊りなままの飛鳥に突進してきた。

 

『……0%。補助パワーはい……り……ま……せ……ん――』

 

 直後に流れた報告が掻き消えると、内部モニターが消えすべてが真っ暗になる。

 ただ落ちる感覚と風を切り迫ってくる鬼の気配を感じながら目を閉じた瞬間、飛鳥は暖かな炎に包まれた。

 

 

 

 

『虎!ユウジさん!この2人を受け取って近くにいる鬼から早く逃げて!!リミッター解除、いっけえええ!!』

 

 一方的な通信と共に投げ渡された子供たちを無事にキャッチした虎次郎とユウジは、直後に宙吊りになった飛鳥に雑鬼が全速力で迫ってくるのを目撃した。

 人形のように微動だにしなくなったブレイズ02へ鬼が数メートルまで迫った、その時、

 

「ピヨヨ~!!」

 

背後からすごい速さで飛び出していった小さな赤い影が、飛鳥目がけて飛んでいった。モニターの解像度を上げて見てみると、それは飛鳥が龍美たちに預けたはずの赤ヒヨコだった。

 次の瞬間、飛んでいた赤ヒヨコは激しく燃える火の玉へと変化し、飛鳥を包み込むや辺りを荒れ狂う炎が覆い、接近していた雑鬼が思わず後退る。

 同時に、飛鳥のすぐ近くに赤い鳥の石像が忽然と現れ、それさえも炎に包まれていく。

 

『な、なんだあれ』

『わからないけどすごいエネルギー反応だよ……』

 

 虎次郎とユウジが唖然としている間にも炎は激しく燃え上がり、やがて消え去って現れたのは、端正な顔立ちに巨大な鳥の顔を胸に付けた赤いロボットだった。

 それを見た瞬間、虎次郎は思った。

 

(ヴァルキリーズにあるタロウと作りが似ている……まさか、あれはティルレガシイなのか!)

 

 直感を抱いた直後、どこからか雄々しい声が轟く。

 

――エン・オーウ!!

 

「お、お兄ちゃん……あれってモモタロウかな?」

「い、いや違うけど……でもがんばれ!エンオウ!!」

 

 子供たちの声に、「エンオウ」と呼ばれた赤いロボットは顔を向けると、腕を突き出してサムズアップし、一瞬別の方向にも視線を向けると、雑鬼に向かい合って駆け出していった。

 

『虎、今はこの子たちを安全な場所につれていこう。飛鳥くんなら大丈夫さ』

『そうだなユウジ。2人ともしっかり掴まってろよ』

 

 宥めるようなユウジに応じると、虎次郎は子供を抱え直し、2人はDトレーラーのもとへ急いだ。

 

(……飛鳥、無事でいろよ)

 

 

 

 

 一連の光景を、ユウは迎えにきたニコイチの手の上で見ていた。

 

「飛鳥?……何してんだ飛鳥!?」

 

 崩れかけたビルの合間に宙吊りになった飛鳥の只ならぬ気配に、離れ過ぎて聞こえないことなど忘れて叫びかける。

 それが通じたわけではないだろうが、飛鳥の顔が束の間こちらへ向けられる。ブレイズ02のヘルメットで覆われているために表情を窺うことはできなかったものの、ユウには伝えようとしていることがなんとなくわかった。

 

「……おい、飛鳥?やめろ…………やめろぉぉぉッ!!」

 

 無我夢中で叫ぶも、飛鳥は両腕に抱えていた子供たちを近づいていた虎次郎とユウジに投げ渡し、直後に雑鬼が迫っているにも関わらず全く動かなくなる。

 

「飛鳥ッ!!」

『おいっ、危ないぞ!』

 

 自分が地上から10メートル近い高さにいることも忘れて身を乗り出そうとすると、慌てて添えられたニコイチのもう片方の手が柵になって転落を防ぐ。

 その時、小さな赤い影が虎次郎たちを飛び越えて飛鳥のもとへ直進していくのが見えた。

 

「?」

 

 小ささと遠さから影の正体はわからなかったものの、次の瞬間、それは激しく燃える火の玉へと変化し、飛鳥を包み込んだ。

 同時に、飛鳥のすぐ近くに赤い鳥の石像が忽然と現れ、それさえも炎に包まれた数秒後、胸に鳥の顔を模った赤いロボットが炎の消えた跡に佇んでいた。

 

「…………」

 

――エン・オーウ!!

 

 あまりの光景に唖然としている中、どこからか響いた雄々しい声に我に返ると、赤いロボットは足元の虎次郎たちにサムズアップし、直後にこちらに視線を向けた。

 

「…………飛鳥……?」

 

 明らかに自分を見据えている視線に、無意識の内にそう漏らした直後、赤いロボットは雑鬼に向かって駆け出していった。

 

「…………」

『ヴレイブさん……ヴレイブさんっ』

「!は、はいっ?」

 

 その背中を呆然と見送っている最中にかけられた声に、ユウはようやくニコイチのパイロット――光秋を意識する。

 

『ぱっと見、怪我はなさそうだな。予定通りヴェーガスに運ぼうと思うんだが……戦えるか?』

 

 問いと同時に向けられた、パイロットのそれを引き写したようにこちらを見据えるニコイチの目に、ユウは飛鳥の件で昂っていた気持ちを一度鎮め、胸の中に告げる。

 

(オレが飛鳥と別れた理由、オレが今しなくちゃいけないことは……)

 

 依然飛鳥の安否に対する不安はあるものの、赤いロボットをもう一度見つめてそれを抑えると、こちらもニコイチの目を見据え返しながら応える。

 

「行けます。お願いします」

『了解した。姿勢を低くして』

 

 ユウの明瞭な返事に返すと、光秋はニコイチの手でユウをそっと包むようにして、ヴェーガスへと上昇していった。

 

 

 

 

(――ん、ここは)

(気がついたか飛鳥)

 

 束の間の浮遊感の後に飛鳥が目を開けると、炎を纏った巨大な鳥がこちらを見下ろしていた。

 その姿に、なぜかすごく懐かしい感覚を抱いた。

 

(お前、まさか赤ヒヨコか?)

 

 直感したことを言ってみると、鳥はゆっくりと頷く。

 

(あぁ、あれはオレの体の一部から産み出したものだ。今はそれより飛鳥、ムモムモツアローの意識が昏睡状態になっているな)

(ムモムモツアロー?もしかしてモモタロウのことか)

(モモタロウ、確かに呼びやすい名だ。今からムモムモツアロー――モモタロウの意識を覚醒させる。俺の力の波動を受ければすぐに目を醒ますだろう)

(桃兄が目を醒ますんだ。ありがとう赤ヒヨ――)

(Dだ)

(え?)

(俺の名前はD、または炎凰(エンオウ)だ)

(わかったD)

(飛鳥、ひとつ聞きたい。なぜお前はあの2人を守ったんだ?)

 

 救助した子供たちのことだと察して、思っていることを答える。

 

(もうオレは、目の前で人が死ぬのを見るのは嫌だ。それ以上に、鬼たちのせいで当たり前の幸せな日々を壊されるのを見過ごせなかった。だから守りたいんだ!オレみたいな思いをさせないために)

 

 そこまで言ってから、ふとユウの顔が浮かぶ。自分の行動を止めようと叫んでいた、あの必死な顔を。

 

(例え、オレがそうすることで、オレのために悲しんでくれる人がいるとしても)

 

 胸に刺すような痛みを感じながらも、それさえも呑み込むつもりで言い切る。

 その姿に、Dと名乗った炎の鳥は既視感を覚えた。

 

(…………ここまでアイツと似てるとはな。やっぱり飛鳥の生まれ変わりだ)

 

 思うや、強い目で自分を見つめる少年を見返しながら告げる。

 

(なら俺の力、四神の王、炎凰の力を理不尽な行いから守るために使え!!)

(あぁ!行くぞD)

 

 飛鳥が応じると同時に、赤い炎が激しく燃え上がる。

 瞬間、頭に言葉が浮かび、迷わず叫んだ。

 

(ブレイズ・オン!!)

 

 叫びに合わせて炎が体を包み、同時に祖父・源三が調査していた赤い鳥の石像が現れる。

 その瞳が輝くと、飛鳥は石像の中へ吸い込まれる。不思議な空間に出るや纏っていたブレイズ02が形を変え、赤い鳥を模した操神装甲へと変化した。

 それと並行して、石像の方にも変化が起こる。表面を覆っていた石のような外装が崩れ、その下から赤い装甲を纏った機械仕掛けの聖獣――機神獣が現れる。

 直後にその両脚が伸び、腕が現れ、翼が腰に移動する。胴体が割れると鳥の頭が胸に収まり、中央から光が走って羽を模した兜と端正な顔立ちを備えた頭部が現れる。

 鳥から人型への変形を終えるや、それは拳を突き出しながら雄々しく叫んだ。

 

『エン・オーウ!!』

 

 新たなティルレガシイ――その名も四神の王『炎凰』が永き眠りから覚醒し、操者・新田飛鳥と共にこの地に降り立った。

 それと同時に発生した未知のエネルギー波動がヴァルキリーズ極東支部の整備ハンガーまで届き、タロウを包み込んだ瞬間、その瞳に光が宿る。

 

「な、なんじゃこのエネルギーは?ま、まさか!」

『う、ウオオオオ!』

 

 全身に繋がれたケーブルを引き千切って雄叫びを上げながら立ち上がると、タロウは一瞬で姿を消した。

 

「…………」

 

 一連の光景を見ていた源三は、その場に佇んで驚くしかなかった。

 

 

 

 

 ウォルター、一夏と合流した恭弥は、地上からザクⅠの援護射撃を受けながら、自分たちを囲むように展開したクロイツリッターたちと剣を交えていた。

 正面の機体と2度、3度と剣を交えて後退すると、同じく後退してきた一夏の白と背中を合わせる。

 

「なぁコイツら、最初に戦った頃より手強くなってないか?」

『やっぱり、恭弥さんもそう思いますか?』

 

 先ほどから気になっていたことを告げると、一夏も同じようなことを感じていたらしい。返ってきた声には若干の戸惑いがあった。

 

『俺たちが毎日訓練で腕を磨いているように、コイツらも何か学んでるんですかね?』

「あぁ。全てのクロイツリッターの間で情報を共有して、僕らの戦い方を覚えて対策を練ってきてるとか?確かにそうかも――なっ!」

 

 一夏はなんとなしに言ったようだが、実際に戦ってみた恭弥には妙に腑に落ちる考えだった。が、直後に四方からミサイルが放たれ、2人は別々の方向に飛んで会話は強制的に終わる。

 数瞬前まで2人のいた辺りに殺到したミサイルは、いくつかは激突し合ってそこで爆発するものの、ほとんどはその前に方向転換してシルフィードと白をそれぞれ追尾する。

 自身を執拗に追うミサイル群に、恭弥は肩部のレーザーキャノン、一夏は左腕の荷電粒子砲で迎撃を試みるも、多くはそれを掻い潜って標的へと突進する。

 それを遮るように、地上から濃密な機銃掃射とホーミングビームがミサイル群に殺到する。

 寸前のところでミサイルは全て火球に転じ、攻撃の来た方を見下ろした恭弥は、両手のガトリングガンを掲げたギガンティックを確認する。その傍らには、周囲の鬼に牽制射撃を行うテンペストとシュルフツェンもいた。

 

『フィルシア!ライカさんとサクラも。助かりました、3人とも』

 

 一夏も地上の3機に気づいたらしい。心底ほっとしたお礼が通信機から響く。

 直後、1機の雑鬼がテンペストとシュルフツェンの射撃を掻い潜り、対空攻撃を続けるギガンティックに接近する。

 

「!」

 

 それを見るや恭弥はシルフィードを急降下させ、雑鬼の胸部目がけてルミナ・グラティウスを突き出す。

 降下と突きの勢いを引き受けた切っ先は、しかし頑丈な装甲に覆われた雑鬼の太い腕に防がれ、左腕こそ貫通できたものの、肝心の胸部には少し刺さった程度で終わってしまう。

 自ら懐に入ってきたシルフィードに、雑鬼はお前からと言わんばかりに右手に持った棍棒を振り上げる。

 

「だったらッ!」

 

 叫ぶや、恭弥はルミナの刀身を開き、内蔵されたビーム砲が露わになる。その過程で雑鬼の腕と胸部の傷口は広がり、特に胸部は内部構造が露出した。

 

「これでぇッ!!」

 

 瞬間、胸部の傷口にビーム弾を撃ち込み、急速に後退して雑鬼の爆発から逃れる。

 

『恭弥さん!大丈夫ですか?』

「……あぁ。なんとかな」

 

 隣に降りてきた一夏の問いに、恭弥は知らぬ間に止めていた息を吐き出しながら答える。

 

「前々から、剣とビーム砲が一体化したルミナの構造ならこんな戦い方もできるかなと思ってやってみたけど……いやぁ、おっかなかった……」

 

 そう告げる声の震えは、恭弥の恐怖心を何よりも物語っていた。巻き込まれることなく離脱できたからいいようなものの、20メートル級の巨体が目の前で爆発し、その炎が間近に迫ってくる光景は、非情に心臓に悪いものだった。

 直後、周囲が急に暗くなり、反射的に顔を上げた2人は大型の輸送機が過ぎていくのを見る。その型に、恭弥と一夏は見覚えがあった。

 

「『ヴァルキリーズ!』」

 

 同時に告げた刹那、それまで非特隊を中心に展開していたクロイツリッターたちが、川に迷い込んだ獲物に群がるピラニアのように輸送機に殺到する。

 

(不味い!)

 

 恭弥が思った直後、ライカの指示が通信から響く。

 

『ホワイト2、ホワイト3、ヴァルキリーズの輸送機を援護します。私に続きなさい。他は援護を』

「「「「「了解!」」」」」

 

 その場にいる全員の返事が響くや、シュルフツェン、シルフィード、白は輸送機目掛けて急上昇する。

 それを阻むようにクロイツリッター3機が迫ってくるが、ギガンティックの援護射撃を受けたシュルフツェンは胸部にプラズマバックラーを叩き込み、シルフィードと白はすれ違いざまに両断して上昇を続け、マシンガンを向けるクロイツリッターたちと輸送機の間に割って入る。

 

『援護します。今の内に降下を』

『ミヤシロ中尉!ありがとうございます』

 

 アサルトライフルで弾幕を張りながら告げるライカにノゾミの声が応じると、輸送機のハッチが開いて次々と戦機人が地上へ降りていく。

 

「行くぞ、一夏くん!」

『はい!恭弥さん』

 

 気合の掛け声を交わすと、戦闘域から離脱していく輸送機に代わって降下部隊に迫ろうとするクロイツリッターたちを、恭弥と一夏は斬り伏せていった。

 

 

 

 

 非特隊の援護を受けて無事地上に降りたノゾミは、間髪入れずに指示を飛ばす。

 

『アキラ!雑鬼に牽制を仕掛けつつ民間人の避難を優先!!』

『わあってるよノゾミ隊長。アカネ、位置情報頼んだよ』

『3時方向に雑鬼2体、将鬼には動きなし』

『あいよ!新型捕縛弾頭ガトリングガン受けてみな!!』

 

 叫ぶや、アキラの乗る戦機人4番機が身の丈ほどもある巨大な6砲身ガトリングガンを構える。砲身を束ねる基部が回転を始めると、射線上の雑鬼2体に向けて無数の弾丸が轟音を上げて殺到する。

 いずれも雑鬼の装甲に目立った損傷を与えることはなかったが、着弾した弾頭からは大量の液体がにじみ出る。表面を伝ったそれが関節部に入り込むと、雑鬼は錆びついた機械のように急速に動きを鈍らせる。

 

『へー?面白い武器だね』

 

 すぐ近くで上空の恭弥たちに援護射撃をしているフィルシアが、ギガンティックの顔を向けて言ってくる。

 その興味深そうな声に、アキラは自慢げに告げた。

 

『新型捕縛弾頭ガトリングガンってんだ。今度来た新田博士とヴァルキリーズ(うち)のリトス司令が共同開発した新装備でよ。確か、弾頭に特殊な硬化剤が封入されてて、当たると関節部に流れ込んでそこの熱と反応して硬化、それで相手の動きを止める……だったかな?撃破はできないけど、動きを封じる分には絶大だぜ!見てみろよ』

 

 説明している間にも、弾の当たった雑鬼は完全に動きを止め、彫刻のように佇んでしまう。

 

『よし、鬼の石像の出来上がり!』

『アキラ!油断しないの。私たちの役目わかってるわね?』

『鬼たちの足止めだろ?わかってるって』

 

 同じくガトリングガンを構えて周囲を警戒しながら釘を刺してくるサヨコに応じると、アキラはサヨコの駆る戦機人3番機の横に並んで索敵に加わる。

 その後方では、修理の終わった試作高出力ビームカノン搭載戦車グレンと、ノゾミの乗る戦機人改が避難誘導をする第三分隊を援護している。

 索敵を続ける中、ふと上空で非特隊と交戦を続けるクロイツリッターたちを見たアキラは、戦機人改に自機の頭部を向ける。

 

『なぁ隊長、あたしらも非特隊の連中援護しなくていいのかよ?今の装備じゃ撃墜こそできないけど、足を引っ張りまくってやるくらいはできるぜ?』

『心情としてはそうしたいけど、私たちが優先すべきはあくまでも民間人を避難させることよ。相手がこちらを攻撃してくるなら応戦はするけど、積極的な交戦は避難完了まで極力避けます』

『ちぇっ。わかったよ』

 

 不服ではあったものの、ヴァルキリーズに所属している以上ノゾミの言うことが正論だと理解できるアキラはそれ以上言わず、渋々索敵に戻る。

 刹那、グレンに搭乗して周囲の探索を行っていたミオとアカネの緊迫した声が無線を走る。

 

『!アカネ、将鬼が動き出した』

『第三、第四分隊に連絡!将鬼が動き出したよ』

『なんだって!アカネ、避難状況は?』

『あと5分はかかるよ。アキラちゃん、サッちゃん、あと少しだけ持ちこたえさせて!』

『しゃあねえな~。終わったらコーヒーとケーキ奢れよ』

『むだ口叩かないの!任せてミオ、アカネ。なんとか持ちこたえて見せるわ』

 

 アカネにそれぞれ応じると、アキラの3番機とサヨコの4番機は将鬼のもとへ向かう。

 ノゾミも一緒に行きたかったものの、避難誘導の援護もしなければならないために動くことができなかった。

 

(一刻も早く避難を終わらせないと。そして将鬼のもとに駆けつける)

 

 そう固く誓い、作業を進めていると、突然目の前を白い光が凄まじい速さで通り抜けた。

 

『お姉ちゃん!あれってまさか!!』

『やっと起きたみたいねバカ桃矢……』

 

 白い光の正体――タロウ、その中に収まる桃矢の復活に、アカネとノゾミは喜びを浮かべる。

 

『……マッハを超えている。モモタロウのお供もあの中に確認。驚かされっぱなしだよ」

 

 その傍らで、ミオはタロウとそのお供たちの常識はずれな行動に驚きを隠せなかった。

 が、喜びも驚きも束の間、グレンのセンサーが異常を捉える。

 

『!上空に時空崩壊発生!反応がどんどん大きくなります』

 

 送られてくるデータを読み取ったミオが叫ぶ間にも、脈打っていた空の一部が瞬く間にその激しさを増し、ついに空いた大穴からクロイツリッター、そしてその強化型たるクロイツリッター・グランツハーケンの大群が押し寄せる。

 

『ルミエイラの増援?まだ一難も去ってないっていうのに――ッ!!』

 

 将鬼の件を踏まえてつい苛立ちを漏らすノゾミだったが、直後に上空から殺到した弾雨が言葉を掻き消す。

 それまで空中の非特隊機を重点的に攻撃していたクロイツリッターたちだったが、数が増えた所為か、降下して以降半ば放置していたヴァルキリーズにもマシンガンを撃ってきたのだ。

 

『このっ!』

 

 ノゾミがガトリングガンを振るように撃って応戦を試みるが、圧倒的な手数を誇っても空中を自在に移動する相手にそうそう当たることはなく、数発掠ったところで申し訳程度の硬化剤が装甲表面にこびりつくだけに終始する。

 

(地上を行く鬼相手や、アキラが言ったような援護ならまだしも、飛び回る敵と本格的に対峙するのにこの装備は相性が悪すぎた)

 

 歯噛みする間にも降り注ぐマシンガンの掃射は激しさを増し、それを追い風にしたグランツハーケンの1機が急降下してくる。

 

(この軌道――狙いはっ!)

 

 その視線がグレンに向けられていることに気づくや、ノゾミはガトリングガンの照準をグランツハーケン1機に定める。

 しかし撃つ前にクロイツリッターたちのマシンガンの集中攻撃を受け、それから逃れるためにグレンと距離が空いてしまう。

 そして、孤立したグレンにグランツハーケンが迫る。

 

『アカネ!ミオ!』

 

 ノゾミの叫びも虚しく、グランツハーケンは幅広のビーム剣を抜いてその先をグレンへ向ける。

 刹那、一筋の銃撃がグランツハーケンの胸部を撃ち抜いた。

 

『!?』

 

 銃撃の来た方向に戦機人改の頭部を向けると、マシンガンを構えたネメシス08が滞空していた。

 その隣にはニコイチが並んでおり、こちらに気づくやネメシス08を連れて降下してくる。

 

『ご無事で?』

『……!はいっ。助かりました』

 

 こちらを見下ろすくらいの高さに留まって声をかけてくる光秋に、数秒かけてグレン――それに乗っているアカネとミオの無事を実感したノゾミは慌てて応じる。

 直後、より上空から別のグランツハーケンがニコイチにビーム砲を向けるのを見る。

 

『危な――っ!』

 

 叫ぼうとした矢先、グランツハーケンは濃密な弾幕に晒され、ビーム砲の狙いをつけるどころではなくなる。

 周囲に展開しているクロイツリッターたちもその弾幕に巻き込まれて回避に手一杯になり、そこに鋭いビームが数条撃ち込まれて数機が撃墜、それを免れても手足の1本が持てっていかれる機体が相次ぐ。

 射撃の来る方向を見るとギガンティックとテンペストが並んでおり、ギガンティックが両手のガトリングガンを掃射する横でテンペストがホーミングビームを撃っていた。

 

『ごめん。恭弥たちの援護で手が回らなかった』

『いや、助かった。その調子でもうしばらく頑張ってくれ』

 

 詫びるフィルシアに激励で返すと、光秋はノゾミの方に向き直る。

 

『我々は将鬼の方に向かいます。申し訳ありませんが、避難誘導と並行して部下たちの援護頼みます』

 

 言うやアキラとサヨコが向かった方へ飛んで行き、ネメシス08もマシンガンを構えながらそれに続く。

 

『頼むと言われても……』

 

 遠くなっていく2機を見送ると、ノゾミはクロイツリッターとはどうも相性が悪いガトリングガンを見ながら呟く。

 と、雑鬼の1機がこちらに接近してくる。

 

『!それでも、鬼相手ならば!』

 

 気を取り直すやガトリングガンの狙いを定め、迫ってくる雑鬼に硬化剤入りの弾丸を斉射する。

 しかし直後、グランツハーケンの1機がギガンティックの弾幕を抜け、戦機人改目掛けてビームを撃ってくる。

 

『!』

 

 狙いが甘かったのかビームは戦機人改から離れた場所に着弾し、発砲したグランツハーケンも気づいたシルフィードのビームで撃墜される。

 しかし、その数瞬の間にノゾミの射撃は完全に止まってしまい、硬化剤を充分に撃ち込めなかった雑鬼の接近を許してしまう。

 

『ガァァァ!!』

『!』

 

 咆哮と共に雑鬼は棍棒を高々と持ち上げ、ノゾミは思わず固まってしまう。

 刹那、横から飛んできた巨大な拳が雑鬼の体をくの字に曲げ、一瞬後には胴部が粉々に粉砕された。

 

『アレって!』

 

 見覚えのある拳を目で追ったノゾミは、その先に髑髏をあしらった特機――マジンカイザーSKLを目にする。

 

『…………』

 

 もともと厳つい風貌の機体であるが、今日は一段と威圧感が増しているように感じた。数キロの距離を空けているにも関わらず、体が委縮しそうになる。

 

『あー、やっぱ戻ってくるまでがまだるっこしいぜ』

 

 戻ってきた拳を腕に接続しながら、パイロットたるナガイは拡声器に呟きを乗せる。気怠そうな声にも関わらず、不思議と溜まりに溜まった鬱憤が籠っているのがわかった。

 と、カイザーの目が戦闘域全体を見渡したかと思うと、その手を胸部の装飾に持ってくる。

 

『まぁ、別にいいけどな…………ここからたっぷりと、地獄を見せてやるぜッ』

 

 底冷えするような低い声で呟くや、カイザーは胸部の装飾を分割し、拳銃型の装備に変形したそれらを両手に持っておもむろに走り出す。

 巨体故に目立つのか、すぐに目を付けた砲鬼たちの集中砲火を浴びるも、迫る荷電粒子弾を左右に軽やかに跳びはねてかわしつつ拳銃を撃って応戦する。

 と、砲撃に紛れて接近してきた雑鬼たちが四方を取り囲み、各々棍棒を振り上げて飛びかかってくる。

 

『ガァァァ――アッ?』

 

 それに対してカイザーは腕を大きく振り、近づいてきた雑鬼たちを持ち手下に付いている斧刃で切り裂き、あるいは射撃を続けながらその胴部に風穴を空け、瞬く間に数体の雑鬼を屑鉄に変えてしまう。

 手の届く範囲を捌き終えるや、そのまま遠巻きの砲鬼、さらには上空から迫ろうとしていたクロイツリッターやグランツハーケンにも弾丸を飛ばし、秒を重ねるごとにバラバラになった鉄の屍が積み上がっていく。

 

(…………あのナガイって人が非特隊についてくれて、本当によかったのかもしれない)

 

 今も跳躍による回避と四方八方への銃撃を続けるカイザーを眺めながら、ノゾミはパイロットスーツの下に鳥肌を浮かせてそう強く思った。

 

 

 

 

 同じ頃。将鬼のもとへ向かったアカネとサヨコは。

 

『ガァァァァァァ!』

『避けるな!当たれぇぇぇ!!』

『アキラ、無駄弾撃たないの!』

 

 移動先にいた将鬼2体にガトリングガンを連射するものの、その素早い動きに満足に当たらず、ただひたすらに弾を消費させられていた。

 それに加えて、

 

『!この鎧どもがッ!』

 

上空からはクロイツリッターやグランツハーケンがマシンガンやビーム砲を撃ってきて、その回避と迎撃もこなさなければならなかった。

 

『たく、将鬼2体だけでも大変だってのに、鬱陶しいったらねぇぜ』

『それは同感。ちょっとは空気を読んでほしいわ』

 

 忌々しげに呟くアキラにサヨコも頷き、その間にも2人は地上の将鬼たちと空のクロイツリッターたちにガトリングガンを撃ち続ける。

 結果として弾の消費はさらに加速し、気づけば戦機人2機の足元には大量の薬莢が散らばっていた。

 そしてついに、

 

『く、弾が切れた』

『私もよ。あんなにすばしっこいんじゃ当たらないわ』

『ガアアアアアアア!』

 

 戦機人2機からの連射が止むや、まるで弾切れを起こすのを待っていたかのように2体の将鬼は雄叫びを上げ、アカネとサヨコに迫る。

 

『この、来んじゃない!』

『来るな!!』

 

 凄まじい速さで迫る将鬼たちに2人は弾切れになったガトリングガンを投げつけるものの、将鬼には傷をつけるどころか速度を落とすことすらできず、ガトリングガンの方がぶつかった衝撃で歪んで地面に落ちるだけに終わる。

 そのわずかな間にも、将鬼たちはそれぞれ狙いをつけた戦機人の懐に入った。

 

――ダメだ!

 

 コクピットのモニターに大写しになる将鬼に2人そろって直感した、その時、

 

『タロウ!ドリルキィイイイック!!』

 

 白い螺旋状の何かが飛翔し、激突した将鬼2体が堪らず吹き飛ばされる。

 

『『…………』』

 

 2体が飛んで行った先のビルに叩きつけられるのを見てアキラとサヨコが唖然としていると、白い螺旋状の何かが地面に降り立ち、その姿が露わになる。

 和と洋それぞれの趣を持つ鎧を纏った白いロボット。それがその端正な顔をゆっくりと戦機人たちの方へ向けた。

 

『大丈夫か!えっと、ノゾミの部下その1、その2』

『な、何言ってんのよあんた!私はサヨコよ、サ・ヨ・コ!!』

『あ、すまないね~。サヨコは昔から怒りやすくて。あたしはアキラってんだ。よろしくなモモタロウ』

『お、おう……それよりもだ。アキラとサヨコは早くここから逃げろ』

 

 言いながら白いロボット――タロウの中に収まる桃矢は先ほど突き飛ばした将鬼たちを見ながら拳を構える。

 近くのビルを崩しながら再び立ち上がった2体にはこれといった損傷はなく、すでに臨戦態勢をとっている。

 それに対して戦機人は2機とも武器を失っており、これ以上の戦闘継続は明らかに無理があった。

 それがわかってか、アキラが素直に応じる。

 

『わかった。鬼はあんたに任せるよ。ただし約束しな。必ずノゾミ隊長とアカネのところに顔出すってさ』

『……あぁ、約束するぜ!さぁ速く逃げるんだ!!』

『か、必ずノゾミ隊長とアカネに会いなさいよモモタロウ!』

 

 サヨコも念を押すように告げると、戦機人2機はノゾミたちのもとへ向かおうとする。

 が、10メートルと進まない内にクロイツリッターたちの襲撃を受ける。

 

『そうだった。こいつらもいたんだ!』

『もうッ!本当に空気読んでほしいわ!』

 

 言う間にも、アキラとサヨコは上空から迫るマシンガンやビームをデタラメに動き回ることでかわしていく。

 振り返ればタロウの方にもクロイツリッターたちは殺到しており、むしろ数はそちらの方が多かった。

 

『アイツら、モモタロウの方が危険だってわかってる?』

『クソッ!丸腰じゃ援護どころか反撃もできやしねぇ。卑怯だぞ!降りてきてサシで勝負しやがれ!!』

 

 その様子にサヨコが推測を呟く横で、アキラは相手が聞いているかいないかに関わらず飛び回るクロイツリッターたちに叫んでいた。

 そして事実上の立ち往生をしている3機をいい獲物ととらえたのか、気づけば遠巻きに雑鬼や砲鬼の群れに囲まれていた。

 

『やべぇ!これじゃ隊長たちと合流するどころか、袋叩きじゃねぇか』

『ちょっ!本当どうすんのよこれっ!?』

 

 アキラとサヨコがかつてないほど焦る間にも、四方から棍棒を構えた雑鬼が迫ってくる。

 上空からの牽制射撃で戦機人2機はろくな移動もできず、あっという間に距離を詰められてしまった。

 

 

 

 

『こいつら、この前もいた鎧どもか。クソッ!』

 

 思わず悪態をつく間にも、桃矢は上空からの射撃を前後左右に跳ねてかわし、その間を縫うように迫る将鬼たちを紙一重でいなして損傷を防いでいく。

 その間にも周囲は雑鬼や砲鬼に囲まれ、その一部が背後のアキラたちに迫っていた。

 

(不味い!)

 

 思いながらも、自身に降りかかる攻撃を回避するので精一杯な桃矢はその場からほとんど動くことができなかった。

 刹那、戦機人たちに迫っていた雑鬼たちに機銃掃射が浴びせられる。

 並みの機動兵器が用いる火器ではまともに傷つけることも難しい雑鬼であるが、注意を戦機人からそらすことにはできたらしい。皆同時に足を止め、銃撃が来た方へ顔を向ける。

 内1体の胴部に小柄な白い影が突き刺さったのはその時だった。

 

『ガッ!?』

 

 胸から背中へと雑鬼を突き破ると影は地面に降り立ち、額に一本角を備えた10メートル級の人型を露わにする。

 

(あんな小さな機体が雑鬼の装甲を?)

 

 一連の光景に桃矢が驚く間にも、狙いを戦機人2機から角の機体に移した3体の雑鬼はその周囲を囲み、3方向から棍棒を振り下ろす。

 その直前、角の機体は正面の雑鬼の懐に入るや振り下ろされた腕を掴み、そこを支点に振り回して2体の雑鬼へ叩きつけた。

 重なって倒れた3体の雑鬼を見るや、角の機体は2機の戦機人に目を向ける。

 

『二人とも大丈夫ですか?』

『加藤大尉か!』

『なんとか無事です』

『よかった。今の内に撤退を』

『と言われてもな……』

 

 角の機体のパイロットに応じながら、アキラの機体は未だ鬼たちに包囲されたままの周囲を見回す。

 それを見るや角の機体は視線を別の方へ向け、将鬼たちを蹴り飛ばして距離をとった桃矢は、視線を追った先に滞空してマシンガンによる援護射撃を行っている赤基調の機体を捉える。

 

(あの大きさ、AD?それが飛んで……爺さんが調べてたIADってやつか?)

 

 思った刹那、角の機体は赤いIADに向けて叫んでいた。

 

『ヴレイブさん、後方に向けて集中砲火!退路を開け』

『了解!』

 

 応じるや、振り返った赤いIADは各部からビームを放ち、さらに両肩の砲身を撃って射線上にいた鬼の一団を撃退、ないしはその場から移動させて包囲網に穴を空ける。

 しかし、非武装の機体が通り抜けるにはまだ狭いものだった。

 さらに雑鬼の一部が駆け出し、徐々に包囲を詰めてくる。

 

『今のもう1回行けるか?』

『できなくはないけど、ビームとか撃ちすぎると後が怖いです。エネルギーが』

『だよな……』

 

 赤いIADの返答に角の機体は逡巡を浮かべ、その間にも雑鬼たちは迫ってくる。

 その時、包囲していた鬼の後ろを白い巨大な影が横切り、直後に通った後の鬼たちが粉微塵に崩れる。

 

(何だ?)

 

 思うや、桃矢はバラバラになった鬼の残骸を踏みつける白い上半身と赤い下半身の細身の大型機を捉える。

 

『オウオウ!まだこんなにいるじゃねぇかッ!』

 

 どこか嬉しそうな声で言うや、細身の機体は左腕と一体化したドリルを唸らせ、手近な鬼から次々と突き刺していった。

 

『何だ、アイツは…………』

 

 

 

 

「あいつ、さっきの」

 

 先ほど目撃したドリル付きの特機の乱入、そして鬼の大群を蹴散らす圧倒的な力に、ユウはただ驚愕していた。

 

『今です!走ってっ!』

 

 その間にも光秋の叫びが通信から響き、それに応えるように2機の戦機人がドリルの特機に殺到して手薄になった鬼たちの横を全速力で駆けていく。

 そこにクロイツリッターたちの銃撃が加わるや、光秋は突撃すると同時に叫ぶ。

 

『戦機人たちを援護っ。クロイツリッターたちにマシンガンを』

「了解!」

 

 応じるやユウはクロイツリッターたち目掛けてマシンガンをばら撒くように撃ち、戦機人たちへの攻撃を中断して散開した内の1機をニコイチの鉄拳が貫く。

 ユウも散り散りになったクロイツリッターたちにマシンガンを浴びせて牽制、あわよくば一部を破損させていく。

 それでどうにか時間を稼げたらしい。見れば戦機人2機は遠く離れた場所まで退避し、今なお鬼やクロイツリッターたちから距離を離しつつあった。

 

「よかった――ッ!!」

 

 ほっとした矢先、ネメシス08の脇を砲鬼の荷電粒子砲が行き過ぎ、ユウは冷や汗を流す。

 直後に撃ってきた砲鬼はドリルの特機に貫かれ、傍らにニコイチが寄って来るや光秋の声がかかる。

 

『大丈夫か?』

「は、はいっ」

『アキラさんたちは無事に離脱したようだし、残るはこの辺り一帯の鬼とルミエイラの掃討、それが終わり次第他のメンバーと合流する』

「了解」

 

 整然とした指示に粟立っていた肌が治まると、ユウはネメシス08を通じてドリルの特機を指さす。

 

「あっちはどうします?」

『……一応鬼を倒してくれてるからな。気にはなるが、今はそこまで優先しなくていいだろう。というか、今迂闊に近づくと巻き添えをくらう』

「確かに」

 

 話している間にも群がる鬼をドリルで粉々にしていく特機を見て、ユウは光秋の震えた声に深く頷いた。

 

『寧ろ今は……』

 

 言いながらニコイチが向いた方を目で追ったユウは、こちらを見上げているもう1機の白い機体を捉えた。

 

 

 

 

(……どうにか行ったか。あいつらは一先ず安心だな)

 

 包囲網を抜けて距離を離していく2機の戦機人にほっとひと息ついた桃矢は、少し視線を険しくして地上で鬼の群れと戦い続けるドリルの大型機、そして上空の白い角の機体と赤いIADを見やる。

 

(さて、問題はこいつらだが……)

 

 思うや、赤いIADが周囲の鎧たちを牽制するようにマシンガンを散発し、同時に白い角の機体がこちらに向かって高度を下げてくる。

 

『あなたが噂の桃太郎……で、よろしいでしょうか?』

 

 互いの細部を確認できる距離まで近づいて滞空すると、角の機体は確認の声をかけてくる。

 

『そうだ。そう言うそっちは?』

『連邦軍非特隊主任、加藤光秋といいま――』

 

 返答の最中、角の機体は突然加速して距離を詰めてくる。

 

(!?やる気か――?)

 

 咄嗟に断じるやタロウを身構えさせる桃矢だったが、角の機体はその脇を通り過ぎ、背後に迫っていた将鬼の1体に蹴りを入れる。

 

『!』

 

 すかさずもう1体の将鬼が角の機体に襲い掛かろうとするも、そちらは桃矢が飛び蹴りを見舞って距離を離した。

 

『ご覧の通り、今は鬼と、それを援護しているルミエイラの迎撃を行っています。そちらも鬼退治をしているのでしょう。協力していただけませんか?』

『!?』

 

 すかさず顔を向けて言ってくる角の機体に、桃矢はハッとする。

 

『非特隊って、あの灰色のゲシュペンストと白いヒュッケバインの仲間かっ?』

『その2人は部下ですね』

『そんな奴が、素性のわからない俺に協力を求めるのか?』

『あなたが意識を失っている間にいろいろありまして。そうでなくとも、今この場における目的は一致していると思いますが?』

『…………』

 

 心なしか試すように言ってくる角の機体に、桃矢はしばし考える。

 

『確かにな……わかった、協力する。ただしこの場限りだ。その先については』

『えぇ。終わったらゆっくり話すとしましょう。それまでご無事で』

 

 言うや角の機体は飛び立ち、赤いIADの援護射撃を受けながら鎧のような機体や鬼たちの胸部に拳を突き入れ、あるいは蹴り抜いていく。

 

『……さてと』

 

 一言呟いて気を取り直すと、桃矢は拳を鳴らしながら2体の将鬼に目を向ける。

 

『雑魚はあの2機に任せるとして、こっちも鬼退治やらせてもらうぜ!!』

 

 言うと同時に、将鬼たちに殴りかかろうと駆け出す。

 が、

 

『!?』

 

直後に炎に包まれた巨大な物体が目の前に落ちてきて、咄嗟に足を止める。

 目を凝らすと、それはドロドロに溶けた雑鬼の残骸だった。

 

(ノゾミたち?あるいは非特隊の連中か?……いや)

 

 一瞬そう思ったものの、記憶が確かならここまで鬼を溶かしきることができる装備はヴァルキリーズにはなかったはずだ。非特隊については詳しくないので断言できないが、少なくとも上空の2機にもそこまでの火力はなく、せいぜい一部分を破壊するくらいのようだ。

 

(ここまで徹底した壊れ方、それこそモモタロウのキジットブラスターぐらい……まさか!)

 

 自機の力を思い浮かべて嫌な予感を抱いた矢先、上空から知った声が響く。

 

『桃兄!目が覚めたんだ!!』

 

 言いながら、赤い装甲を纏ったロボットが周囲に漂う炎を羽のように舞い散らしながらふわりと着地する。

 瞬間、桃矢の脳裏に覚えのない光景が浮かんだ。

 

(いくぞ!ファナティカー!!)

(スーシイジュウ!オーディアス!あれをやるぞ)

(おう!必殺――!!)

 

 見覚えのないはずの巨大な機影たちとの会話と、七色の光がそれ以上に巨大な黒い何かを包み込んだ刹那、桃矢は我に返る。

 

(――ハッ!今のは……いやそれよりも、なぜ飛鳥がティルレガシイに乗ってるんだ!)

 

 思うや、赤いロボットを見据える。

 同時に、それまで周囲にマシンガンを撃っていた赤いIADが急降下してくる。

 

『飛鳥!それに乗ってるの、やっぱり飛鳥なんだな!何で……』

『ユウさん……』

 

 安堵と怒りと困惑がない交ぜになったような赤いIADのパイロットの声に、飛鳥はバツが悪そうに応じる。

 そして間髪入れず、桃矢も怒りの声を上げる。

 

『飛鳥、何でそれに乗ってるんだ!俺はお前には戦って欲しくないんだ』

『…………』

 

 兄貴分の悲痛な叫びに重い沈黙を返したのも束の間、飛鳥は赤いロボット越しに桃矢を、そして赤いIADを見返して告げる。

 

『聞いて桃兄、ユウさんも。オレ、オレが生き残った意味がやっとわかったんだ。もうオレは目の前で人が死ぬのを見るのは嫌だ。それ以上に鬼達のせいで当たり前の幸せな日々を壊され悲しむ姿を。だから守りたいんだ。桃兄やユウさん、非特隊のみんながそうしているように。もう誰にもオレみたいな思いをさせないために戦う!』

 

 その一切の迷いのない強い言葉に、今度は桃矢が沈黙した。

 

(飛鳥、お前って奴は何でこうも優しすぎるんだ……)

 

 赤いロボットを通して向けられる強い意思の宿った目に、何も言うことはできなかった。

 

(お前がその道を選んだんなら、俺は共に戦おう。いつか平和な日々が訪れるまで――)

 

 その意思を汲み、決断するや、桃矢も強い声で告げる。

 

『わかった飛鳥!じゃあ早速2人で鬼退治といくか!』

『あぁ桃兄!』

 

 応じるや、タロウと赤いロボット――炎凰はファイティングスタイルをとる。

 

『飛鳥……』

『ユウさん……』

『……終わったら、いろいろ聞かせてもらうからな』

 

 名残惜しみを断つように告げると、赤いIADも再び上昇していった。

 それと同時に、先ほど角の機体とタロウに蹴り飛ばされた将鬼2体が2機のもとに接近し、少し距離を置いて出方を窺ってくる。

 

『『――!』』

 

 刹那、がらりと崩れた瓦礫の音が響き、それが合図を云わんばかりに双方は駆け出した。

 

『ウォォォ、タロウ・マッハパンチ!!』

 

 叫びと同時に、タロウの構えた拳が消える。瞬間、耳をつんざく音が響くと、将鬼の硬い装甲が凹み、体勢が崩れる。それを見逃さずに回し蹴りを入れると、勢いに負けて吹き飛ばされた。

 

『ハァァァ、レイソニック・ウェーブ!!』

 

 一方の炎凰も、素早くもう1体の将鬼の懐に潜るや腕に鳥の爪を模した突起を展開する。それに炎を纏わせて無数の拳を胴部に叩き込むと顎を蹴り上げ、着地と同時に足刀を首元に叩き込むと、将鬼はよろよろと後退った。

 

『『ガ、ガァァァァァァ!?』』

 

 飛んで行った先のビルを貫いて、2体の将鬼は瓦礫の下に埋もれる。

 しかし直後、

 

『『ガァァァ!!』』

 

雄叫びが上がるや、空いた穴から禍々しい姿に変わった将鬼たちが弾丸の如き勢いで飛び出し、タロウと炎凰に襲いかかる。

 

『グア!』

『グウ!』

 

 獣化した将鬼に馬乗りにされた2機は強固になった腕で殴られ、徐々に地面にめり込んでいく。

 その時、無数の光線が将鬼たち目掛けて降り注いだ。

 

『『!?』』

 

 たまらずその場を離れた2体が目にしたのは、巨大な雉――タロウの相棒たるキジットが大きく広げた翼から高出力レーザーを雨のように降らせる光景だった。

 

『キキ!』

『ワォォォン!』

 

 将鬼たちが充分に遠ざかるや、巨大な猿と犬――こちらもタロウの相棒たるゴクウとシロが駆け寄り、地面にめり込んだタロウをゴクウが、炎凰をシロが引きずり出す。

 それぞれが助けた相手の顔を軽く小突くと、2人はガバッと起き上がった。

 

『ふ~死ぬかと思ったぜ。サンキュウ、シロ、ゴクウ』

『キキ!』

『ワン!』

 

 タロウの感謝に、2体は嬉しそうに鳴いた。

 そこにキジットが旋回しながら空を舞うのを見て、タロウは力を込め叫んだ。

 

『オッシャアアアアアア!いくぞ皆!!』

 

 タロウ(桃矢)の呼びかけに頷くや、シロ、キジット、ゴクウはそのまま空へと高く飛び上がる。

 

『いくぞ、レガシィフォーメーション!!』

 

 力強い叫びと共にタロウの体から光が溢れ出すと、同時に無数の古代文字が辺りを舞う。それが3機のレガシィマシンへ吸い込まれると、各々が変形を始める。

 シロは右腕、ゴクウは左腕に変わると、それぞれタロウの肩に火花を散らしながら接続される。同時に拳が現れて強く握りしめられ、脚部も力強く頑丈さを増した外観に変わると、背後に回ったキジットが陣羽織状の装甲に変形して装着される。頭部には桃を模(かたど)ったヘッドギアとマスクが追加され、アンテナが中央から左右へ大きく開くと目が赤く輝いた。

 

『手前ェ等鬼共の野望を打ち砕く、天下無敵のモモタロウ!ここに見・参!!』

 

 腕を大きく交差すると同時に名乗り上げると、周囲に暖かな光が降り注いだ。

 それを見て、炎凰の中の飛鳥も叫んだ。

 

『んじゃ俺も。レガシィフォーメーション!!…………って何も起こんない』

(飛鳥、イメージしろ。お前の心にある最も強い姿を思い浮かべろ)

 

 拍子抜けしたのも一瞬、炎凰の言葉に従って「最も強い姿」、その象徴たり得るものを思い浮かべる。

 そして、カッと目を輝かせて叫んだ。

 

『来い!D・トレーラアアアアアア』

 

 

 

 

 同時刻、救助された人々の治療をひと通り終えた玄、武、龍美、カノン、リグル、ユイは、Dトレーラーのそばで軽い休息をとっていた。

 

「ふう、エルプールさんのお陰もあって、みんなの治療は無事終わったね」

「「あぁ、あとは虎の旦那とユウジ、飛鳥が戻ってくるだけだ」」

(……なんでこの2人は常に一緒に喋るんだろう?)

 

 龍美と玄、武の会話を眺めながら、ユイは素朴な疑問を感じた。

 その傍らでは、カノンが戦闘音の鳴り響く方向を悔しそうに眺めていた。

 

「あーあ。私もアトランティアがあれば…………いろんなロボットの活躍を間近で観れるのに……」

「カノンは本当にブレないわね……」

 

 あくまで真剣に呟くカノンを、横に立つリグルは若干の頼もしさを含んだ呆れた目で見つめていた。

 そんな2人のもとに、龍美がお茶の入った紙コップを持ってくる。

 

「お二人もどうです?喉渇いたでしょ――」

 

 刹那、突如としてDトレーラーが光に包まれ、続く言葉を掻き消した。

 

「「「!?」」」

 

 唖然とする一同が見つめる中、Dトレーラーは刻々とその形を変え、ひと際強く輝く。

 反射的に手を前に出して目を庇うと、しばらくして光は収まり、同時にDトレーラーの巨体も忽然と消えていた。

 

「「「…………」」」

 

 一連の出来事に、一同はただ静かに驚愕するしかなかった。

 

 

 

 

(来たぞ飛鳥!そして力ある言葉を叫ぶんだ)

 

 炎凰の言葉に合わせて、空から生まれ変わったDトレーラーが輝きを纏って現れる。

 宙に掛かる光の道を走るそれを見た飛鳥は高く跳躍し、Dトレーラーの進行方向に真っ直ぐに並ぶ。

 

『今度こそいくぞ!勇凰((ゆうおう)合体!!』

 

 掛け声と共にDトレーラーのライトが輝くと、その巨体が起き上がって脚が伸びる。剥き出しの駆動部が瞬時に装甲で覆われ、胴部が形成されると、力強い両腕が火花を散らしながら飛び出す。

 

『ウォォォ!』

 

 炎凰が炎に包まれて瞬間的に鳥(機械神獣)形態へ変わると、空いているDトレーラーの胴部へ垂直に突っ込んで展開した固定ジャッキにロックされる。

 胸に巨大な鳥の頭が現れ、赤と金の装甲が付く。

 頭部が炎と共に現れると、その頬の辺りに翼を模したアーマーが付き、頭頂に左右に大きく開いた金地の赤をあしらったアンテナが展開し、緑色の瞳が激しく輝く。

 背中から伸びた巨大な翼から炎が噴き出すと、両腕を大きく交差して叫んだ。

 

『ブレイズ!フェニックス!!』

 

 それは永き眠りから目覚めた四神の王。

 太古の昔、ムモムモツアロー――モモタロウと共に巨悪と戦った機械神。

その名も、勇凰神(ゆうおうしん)・ブレイズフェニックス!!

 

『あ、飛鳥……その姿は』

『桃兄、今は』

『……そうだな。行くぞ!』

 

 炎凰の変化に唖然としたのも束の間、闘志の籠った飛鳥の声に桃矢も気を取り直すと、2体の機械神は再び将鬼たちと向かい合う。

 

『ガアアアアアア!』

 

 ブレイズフェニックス(飛鳥)と対峙した将鬼が胸部装甲を開くと、露出した荷電粒子砲を撃ってくる。

 直後にブレイズフェニックスの前方に炎が集中し、盾状に形成されたそれが光弾を防いだ。

 

(飛鳥、今のはフレイムウォールだ。今の鬼の攻撃程度なら楽に防げる)

『あ、ありがとう。でも大体わかってきたぜ』

 

 Dの説明に応じると、ブレイズフェニックス(飛鳥)は背中の翼を大きく広げて空へ舞い上がる。

 翼から散った炎が羽のように周囲に舞う中、ブレイズフェニックスは脚を突き出して急降下し、紅蓮の炎を纏った蹴りが再び荷電粒子砲を撃とうとしていた将鬼に直撃した。

 

『ガアアアアア!』

『必殺、ブレイズキック!……でもあんまし効いてないみたいだな。ならこいつで決める。来い、炎凰剣!!』

 

 飛鳥の叫びに応じて、翼から無数の羽状のパーツが放たれる。宙を舞うそれらは一か所に集まると炎に包まれ、両刃に広げた翼の意匠をあしらった剣を形作る。

 ブレイズフェニックスはそれを掴むや、正眼に構えて将鬼を見据える。

 

『ガアアアアアアア!』

 

 先ほどの蹴りで荷電粒子砲を破損し、さらに体中に損傷を負って歩くのも覚束ない将鬼だが、死なば諸共とばかりに全速力で突進してくる。

 

『…………!』

 

 相打ち覚悟の将鬼が数メートルまで迫った瞬間、ブレイズフェニックスの姿が突然消えた。

 勢い余った将鬼は軌道上に激突し、直後に直上から紅蓮の光が降り注ぐ。顔を上げた将鬼が見たのは、炎の鳥――否、炎を纏ったブレイズフェニックスが急降下しながら剣を振り下ろす姿だった。

――一閃、まさにそう表現するに相応しい斬撃は将鬼を真っ二つに斬り裂き、数秒後に左右に別れた体は爆散した。

 爆発の眩い光に照らさる中、ブレイズフェニックスの瞳はそれ以上に強く緑色に輝いた。

 

 

 

 

 同じ頃。モモタロウ(桃矢)はもう1機の将鬼と激闘を繰り広げていた。

 

『ウオオオオ!ブロオオクウンファアアアングウ!!』

 

 犬を模った装甲を纏った右拳が走り、将鬼を殴り抜くと白銀色の衝撃波がその身を包み、その硬い装甲を切り裂いていく。

 

『ガァァァァァァ?』

『ウオオリャア!!』

 

 陣羽織状のアーマーを展開するとスラスター全開にして一気に間合いを詰め、正拳、裏拳、膝蹴りと叩き込んでいく。

 その猛攻に怯んだ隙を見逃さず、跳躍と同時に体を捻って加速し、回し蹴りを将鬼の頭部へ喰らわせた。

 

『グ、ギガアア……アア……』

『モンキーラアアアッシュ!!』

 

 間を置かず、左拳部に猿の顔を模した装甲を付けて無数の拳打を叩き込む。

 打つたびに装甲が砕け、辺りに破片やオイルが撒き散らされる中、将鬼はその巨大な腕をドリルに変形させて殴りかかってくる。

 が、それは装甲に触れる寸前にモモタロウに受け止められ、そのまま引き寄せられると勢いで腕が引き千切られた。

 

『ガァァァァァァ!!』

『ムン!コイツでトドメだ!ウオリャアアア!!』

 

 叫びと共にモモタロウは自身の2倍の重量を誇る将鬼を持ち上げ、空へと投げ飛ばす。

 同時に陣羽織状のアーマーの正面部がガシャンと音を立てて開き、現れた6つのレンズ状の球体に光が集まっていく。それが集束するに比例して周囲に放電が起こり、限界まで蓄積されたエネルギーが解き放たれた。

 

『キィジットオオオ・ブラスタアアアアアアアア!!』

 

 桃矢の叫びを伴って地上から空の将鬼目がけて数千万度のプラズマ砲が放たれ、その凄まじい超高熱の前に将鬼の堅牢な装甲は蒸発し、蹂躙された内部機構が爆発を起こす。が、それすらもエネルギーの奔流に呑み込まれ、長大な光の帯は大気圏を突破してやがてゆっくりと消えていった。

 

『鬼退治完了』

『桃兄~』

 

 将鬼の撃破を確認した直後、ブレイズフェニックスがこちらに飛んで来る。

 

『飛鳥、そっちも終わったみたいだな……向こうもそうか』

 

 言いながらモモタロウが顔を向けた先では、角の機体と赤いIAD、そして数えるまでに数が減った鎧型ロボットたちの戦闘が終わろうとしていた。

 

 

 

 

 ニコイチが突撃していくのを前に見ながら、マシンガンを周囲に掃射してクロイツリッターたちの動きを牽制する。

 それでも弾幕を抜けた何機かがニコイチに迫るや、ユウはネメシス08にホーミングビームを発射させる。

 堪らずクロイツリッターたちは回避機動を行うものの、放たれた光弾はそれらを執拗に追尾し、数瞬後に全機を貫いて火球に変えた。

 その間にニコイチも手近なクロイツリッターたちを殴る蹴るして撃墜すると、2機は互いに接近して背中を合わせる。

 

『……今のでこの辺のクロイツリッターは全滅……みたいだな』

 

 周囲を見回しながら光秋は呟くと、ニコイチの頭部を地上へ向ける。

 

『鬼の方も片がついたようだし』

 

 言いながら、モモタロウと飛鳥が乗る赤い機体の方、そしてもう一方を見回す。

 

『……一先ず地上に降りる。ついて来て』

『了解』

 

 少し考えての光秋の指示にユウが応じると、2機はモモタロウたちのもとへ降下する。

 

『そっちも終ったみたいだな』

『はい。手強いのを相手していただいたお陰でなんとか』

 

 2機が着地するや言ってくるモモタロウに光秋が応じる傍ら、ユウはネメシス08を赤い機体に歩み寄らせる。

 

『やっぱり飛鳥……なんだな?』

『ユウさん……』

 

 戦闘が落ち着いて一度冷静になったせいか、改めて確認するユウに、飛鳥は思いの丈を叫んでいた時と打って変わって気まずそうに返す。

 

『……すみませんでした。心配かけて』

 

 言いながら赤い機体が頭を下げると、ネメシス08はその頭部を軽く小突いた。

 

『本当だよ。本当に心配したんだぞっ?…………本当に、無事でよかったッ』

『…………ありがとうございますッ』

 

 ほんの微かだがネメシス08から鼻をすする音が聞こえて、飛鳥はもう一度、今度は感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げた。

 

『……さて、問題はあっちですね』

 

 2人のやり取りを見届けると、光秋は乗機の挙動にさえも渋々という気分を乗せながら、上空にいた時に見ていたもう一方の方向に顔を向ける。

 モモタロウたちもその視線を追うと、一同の先にはドリル付きの特機が雑鬼や砲鬼の残骸の山の中に仁王立ちしていた。

 

『えっと……とりあえずモモタロウさんでいいのかな?あの特機、そちらの知り合いってことはないですか?』

『いや、俺も鬼退治やって長いけど、あんな奴知らないぞ』

『そっかぁ……そうだったらまだ話が早そうだったんだけどなぁ……』

 

 唖然としながら答えるモモタロウに、光秋のなけなしの希望はあっさりと吹き去った。

 

『敵でしょうか?』

『一応鬼を倒してたわけだから、少なくとも鬼、あとルミエイラの仲間ってことはないと思うが……どっちにしろ、所属不明機を放置するわけにもいかないよなぁ』

 

 ユウに応じると、光秋は一同を見やる。

 

『とりあえず接触してみる。ヴレイブさん、念のため援護射撃の準備を』

『了解』

 

 言うとユウはネメシス08にマシンガンを持たせ、ドリル付きの特機に向かってゆっくりと移動を開始したニコイチについて行く。

 

『……俺も行こう。いざって時、止める奴が多いに越したことはないだろう』

『オレも』

『いいんですか?』

 

 モモタロウと飛鳥の申し出に、光秋は振り返って訊ねる。

 

『あのドリル付きが何者かわからないからな。万が一暴れられてこれ以上街を壊されでもしたら、俺の苦労が水の泡だ』

『オレは、危険の可能性があるなら、事前に対処したいです』

『……承知しました。では、4人で行きますか』

 

 モモタロウと飛鳥の理由を聞いて光秋が頷くと、4機は慎重にドリル付きの特機へと近づいて行った。

 

 

 

 

「ふぅー!倒した倒したっ」

 

 自身が屠った鬼たちの残骸を眺めながら、イシカワは体中から感じる嬉しい疲れに充実感の籠った声で呟く。

 

「久しぶりに暴れられてスッキリしたぜ。こっちに来てから踏んだり蹴ったりだったからな。さてと、帰るか」

 

 言いながら額の汗を拭うと、新ゲッター2を移動させようとする。

 その時、

 

『あー、そこのドリルの付いた特機の人、聞こえますか?』

 

聞こえてきた声に顔を向けると、ゲッターよりもずっと小さな白いロボットが両手を挙げて歩み寄ってきた。こちらを警戒しているのか、その歩みは遅く、乗り手の慎重さが表れていた。

 一方で少し離れた後方には、それぞれ得物を構えた3機のロボットが佇み、白いロボットとは別の形で警戒を露わにしていた。

 しかしイシカワの目を引いたのは、歩み寄ってくる白いロボットだった。

 

「ゲッ!?アイツは……」

 

 その機体色もさることながら、額から一本角を生やした頭部は忘れようがなかった。この世界に迷い込んですぐになし崩し的に交戦し、自ら『白い犬』と名乗った厄介な相手である。

 

「何でここにいんだよ?めんどくせー」

 

 思ったままを呟くや、新ゲッター2を白い犬と反対方向へ駆けさせる。

 

『!ちょっと――』

 

 すぐに白い犬が追ってくるが、呼びかけの声はイシカワ自身の叫びに掻き消えた。

 

「オープン、ゲット!」

 

 叫びと共にレバーが引かれると、新ゲッター2は3機の航空機に分離し、それぞれが急上昇していく。

 同時に赤いイーグル号を先頭に縦一列に並ぶと、イシカワは再び叫んだ。

 

「チェエエンジッ!ゲッタアアア……ワンッ!!」

 

 それに合わせて3機の航空機は1機の赤いロボット――新ゲッター1に合体し、さらに飛行速度を上げる。

 

「下手に関わると面倒くさそうだし、だからって鬼みてぇにぶちのめすわけにもいかねぇからな。ここは逃げるが勝ちだぜっ」

 

 言う間にも新ゲッター1は速度を上げ、あっという間に空の彼方へ消えていった。

 

 

 

 

『…………行っちゃったかぁ』

 

 ドリル付きの特機改め、赤い特機の飛んで行った方にニコイチの頭部を向けた光秋は、すでに点ですらなくなった特機の影を青空の中に幻視しながら呆然と呟いた。

 

『追いかけますか?』

『……いや。すでに鬼とルミエイラたちとの戦闘で大分消耗した。下手に追撃すれば、返り討ちに遭う可能性が高いだろうな』

 

 近づいてきたネメシス08(ユウ)に向き合うと、光秋は互いの状態を顧みて応じる。

 

『とりあえず、ミヤシロさんたちと合流しよう。モモタロウさんたちはどうします?』

 

 言いながら、頭部をモモタロウと赤い機体(飛鳥)に向けて訊ねる。

 

『オレも行きます。他の非特隊の人たちにもお礼が言いたいし』

『なら、俺もそうしようかな』

 

 飛鳥の返事に、モモタロウも続く。

 

『とりあえず、その足でじいさんの所に行けばいいだろう』

『うん!』

 

 そう付け加えたモモタロウに飛鳥も頷くと、光秋を先頭にした4機はすっかり赤くなった空へ飛び立ち、夕日に照らされながら恭弥たちのいる方向へと向かった。

 

 

 

 

 同じ頃。月の裏側に位置する宙域では、遠くに星明りが煌めくだけの漆黒の空間にひと際眩い光が走っていた。

 光が走った後の空間には幕を裂くように切れ目ができ、それが瞬く間に広がって巨大な穴――ワームホールを形成すると、そこからシーラカンスにも似た形状の全長100キロメートルにおよぶ巨大な宇宙船が姿を現す。

 その内部にあるブリッジでは、2本の角を生やした3人の少女と副官たちが、正面モニターに映し出された地球を見ていた。

 

「ようやくテラン本星衛星軌道に到着したか」

「……はい」

「テランか~。4年ぶりに来たねアンジュ~♪」

 

 強張った顔でモニターの中の地球を見つめるアンジュとセイジュに対し、ライカは旅行にでも来たような気楽そうな表情を浮かべている。

 

「騒ぐでないライカ!さてムモムモツアロー討伐部隊を編成しないとな――!?」

 

 アンジュがそう言った刹那、ブリッジに警報音が鳴り響く。

 

「何事かっ?」

「レーダーが接近する機影を感知。真っ直ぐ本艦に近づいてきます」

 

 返ってきた報告に、少女3人は顔を見合わせる。

 

「まさか、テランの軍か?」

「鉢合わせ?それとも待ち伏せされてた?」

「いえ、テランの文明レベルでは、ここまでの行軍はできないはずです。精々本星の近くに初歩的な人工島を数基浮かべている程度で。だからこそ、衛星の陰に隠れる位置に出現したのですから」

「なら、いったいどこの誰が近づいて来てるんやっ?」

 

 全くの予想外な事態に3人が焦りを浮かべていると、副官の1人が言ってくる。

 

「通信が入っています。恐らく接近中の機影からかと」

「繋げ」

 

 アンジュの指示からしばし、地球を映しているのとは別のモニターに若い――という以上に幼い顔立ちの男が映し出される。

 

『はじめまして。オルガス皇国のみなさん。僕はグリム。ルミエイラのまとめ役をやっています』

 

 柔らかな笑みを浮かべて告げる男に対して、少女3人、特にアンジュは警戒の色を強くする。

 

「ルミエイラ?何者やっ?テランの軍の者か?何故我らのことを知っている!?」

『おっと、失礼。こう言った方がわかりやすかったですかね。貴方方が地球――テランに配備している軍に微力ながら協力させていただいている者です』

「何っ……!?」

 

 男がそう告げるや、僅かだがアンジュの警戒が弱まる。

 

「貴様――否、貴公があの義勇の軍勢の指揮官なのか?」

『これはまた、嬉しいことを言ってくれますね』

「ちょっと待った」

 

 戸惑いながらも訊ねるアンジュに、もともと笑顔だった男は言葉通り嬉しそうにさらに微笑むも、そこにライカが割って入る。

 

「突然現れてなんかいろいろ言ってるけどさ、そもそもボクたちがここに来るって何でわかったのさ?というか、君何処から通信してるの?」

「発信源は本艦の正面、ちょうどレーダーの機影と重なります。しかし……」

 

 ライカの問いに、副官の1人が戸惑った顔でモニターを見ながら答える。

 そこには艦の前方の景色が映し出されているのだが、映像の中に宇宙船やそれに代わりそうな物は一切なく、漆黒の宇宙空間と、そこに浮かぶ月の裏側が殺風景に映っているだけである。

 

『おっと失礼。ここまで来れば、もうテランの目を気にする必要もないですしね』

 

 うっかりといった様子で、男は指を鳴らす。

 その軽快な音がモニターを通じてブリッジにも響いた直後、

 

「「「!?」」」

 

アンジュ、ライカ、セイジュをはじめ、その場いた全員が艦前方の映像の変化に驚愕する。

 それまで何もなかったはずの空間に、ちょうど月の裏側の景色を覆う形で城が現れたのである。

 地球の建造物に関する情報が少ないアンジュたちには知る由もないが、それはヨーロッパの古城に似ていた。外側は見るからに頑丈で高い城壁に囲まれ、唯一の出入口たる正門も重々しい扉に閉ざされている。城壁の中には多数の尖塔が針山の如く建ち並び、中央にはひと際高く太い塔が聳えている。

 細かな様式こそ地球のどれにも当てはまらないものの、見れば見るほどそれはヨーロッパのどこかで文化遺産として保存されていそうな城であった。それが土台部分から宇宙空間のただ中に浮かび、たった今宇宙の彼方から空間を超越して現れた巨大宇宙船と対峙している光景は、シュールという以上に異様だった。

 

「光学迷彩……?」

「まさか、これほどの技術力があるなんて……」

 

 ブリッジ内の全員が突如現れた古城に目を丸くする中、アンジュとセイジュはどうにかそれだけ呟く。

 と、閉ざされていた正門がおもむろに開き、そこから隊列を組んだ機動兵器が次々と出てくる。

 

「!あの機体、あの胸の十字の証っ……やはり、義勇の軍勢!」

 

 城から出てきた機動兵器が映像で観た物と同型と理解するや、驚愕一色だったアンジュの顔に喜色が差し込む。

 その間にも機動兵器たちは城の前の宙域に規則正しく整列し、それが終わると同時に男――グリムは告げる。

 

『改めて自己紹介させていただきます。我々はルミエイラ。貴方方オルガスと同盟を結びたい者です』

「…………」

 

 微笑みと共に告げられた言葉にブリッジ内一同が呆然とする中、アンジュだけは希望を見出した目でグリムを見ていた。

 

 

 

 

 同じ頃。宇宙船内食堂の片隅では。

 

「ようやくテランについたんだ。みんなも目を覚ます頃だしご飯用意しないと」

「アレン君、こっちの調理手伝って~」

「は~い、今行きま~す」

 

 食堂のおばさんらしい人にアレンと呼ばれた少年が、慌ててエプロンと帽子を被って調理場へ向かっていた。

 新たな脅威が地球へと迫りつつあった。




『スーパーロボット大戦H/ハーメルン』を読んでいただいた読者のみなさん

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
しかし誠に勝手ながら、今回を最後に連載を打ち切らせていただきます。

ここ数年、筆者の実生活が忙しく、書くための時間を思うように作れていません。実際、今回の最新話を書き上げるまでに前回からこれほどの時間が空いてしまいました。今後も同じような状況が続くと思われます。
また、本企画に参加されているメンバーとの連絡も難しくなってきています。
これでは今後の進行にも支障が出ることが予想されるため、今回を最後に「連載(未完)」とさせていただきます。
このような終わり方になってしまい申し訳ありませんが、自らが置かれた状況を熟考した上で決断さえていただきました。
ご理解のほどをよろしくお願いします。

最後に改めて。
未完で終わることになってしまい申し訳ありません。
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