スーパーロボット大戦H/ハーメルン   作:一条 秋

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 本企画参加者からの指摘により、今回から文章の形を一部変更します。
 はじめの内は戸惑われるかもしれませんが、ご了承ください。


4 ルミエイラ

 新西暦78年から約2年に渡って続いたDC戦争は、ゴーストの出現と鬼の勢力圏拡大という人外の要因によって停戦という形で幕を閉じた。

 しかし、DCの一部は停戦協定に従わず、DC残党として世界各地で連邦への抵抗を続けていた。中でも戦時中DCの本部が置かれていた大陸では、多くの残党が籠城を続けていた。これに対し、未知なる敵との対峙の準備を急いでいた連邦は、状況の早期終結の為に大陸に大部隊を派遣し、大陸から彼らを一掃する作戦を展開した。一方DC残党も、DC内で一大派閥を形成してしたイスダルン国や革命者などが抜けたことで生じた戦力低下を補う為に、戦前から大陸内で活躍していた傭兵を多数雇い入れて迎え撃つ態勢を整えた。

 そして新西暦80年3月上旬、大陸に派遣された連邦軍の部隊・大陸遠征部隊と、DC残党との戦いの火蓋は切って落とされた。

 そしてこの戦場には彼女――ライカ・ミヤシロの姿もあった。

 

 

 大陸北部の沿岸線。

 上下左右前後、全ての方向から雨の様に砲弾やミサイルが飛び交う中を、リオンより遥かに人に近い形をしたAM――ガ―リオン、そのカスタムタイプに率いられたリオンの上位機種――レリオンの編隊が駆けていく。

 先頭を行くガ―リオン・カスタムのコクピットに納まるライカ・ミヤシロは、前方にDC残党所属のリオンを見つけるや、右手に持つバースト・レールガンを向ける。

 

(インサイト)

 

照準が重なると同時に放たれた弾はリオンを背中から撃ち抜き、爆発四散させる。

 自身が作り出した目前の火球を意に介さず、ライカは地上へと視線を向ける。友軍の地上部隊と交戦しているPD・アンタレス3機を認めるや、胸部マシンキャノンを向けてそれらを蜂の巣に変える。

 それでこちらに気付いたのか、他のアンタレスや旧式PD・レイザーが手に持った火器を上空に向けて放ち、PDの倍程の全長を誇る機種―AD・ルーク数機が脚部キャタピラを展開した高速形態で駆けつけてそれに加わる。

 

(イスダルン国の置き土産か……子供を守る大人みたい)

 

自身を攻撃するルークにそんな感慨を抱いたのも一瞬、ライカはガ―リオン・カスタムを左右に振って対空攻撃を回避し、バースト・レールガンやマシンキャノンを連射してそれらを鉄屑にする。

 僚機のレリオンたちも、あるいはレールガンを撃ってその作業に加わり、あるいは接近してくるリオンやバレリオンにミサイルを放って僚機を援護する。

 と、

 

『動力に被弾! 駄目だ……もう……! ミヤシロ隊長……!!』

 

パイロットの絶叫が無線に響き渡り、モニターから「バレット2」という識別信号が消失する。メインモニターの隅で火を噴きながら僚機のレリオンが冷たい海の底に墜ちていく瞬間を見たものの、その一連の流れを見てもライカには何の感情も湧かない。

 

(何処から?)

 

 すぐに意識を全方位に向け、レーダーに目を走らせてバレット2を撃った敵機を捜し、そして瞬時に見つける。

 

(まさかここで出会うとは……『騎士』!)

 

モニターに映し出されたデータを見て、心なしか全身を強張らせる。

 レリオンやPD以上に人型に近いに姿、白基調ながら赤く塗った上半身とヒロイックな外見が特徴的なその機体の名は「アリシオン」。「騎士」の異名を誇る大陸でトップクラスの傭兵の愛機である。

 

(叩き落とす……!)

 

一瞬抱いた恐怖を振り払う様に心中に断じると、ライカは僚機のレリオン2機と交戦しているアリシオンにバースト・レールガンを向ける。

 今まで以上に慎重に狙いを定め、縦横無尽に動き回るヒロイックな機体を照準に確実に納める。

 

(そこ!)

 

瞬時にトリガーを2回引き、高速で放たれた弾体がアリシオンに吸い込まれる――ことは無かった。

 

(視界が360度なのか?)

 

素早く動き回りながらレリオンへ右手のビーム砲を向けていたアリシオンは急に停止したかと思ったら、そのまま後ろへ下がったのだ。そのまま直進していたらバースト・レールガンの弾丸は間違いなく、コクピットを食い破っていただろうに。

 

(これが大陸の傭兵の実力……それなら!)

 

 あまりの動きに思わず舌を巻くものの、ただ眺めているほどライカは愚かではない。

 コンソールに映し出されている兵装リストから「ソニック・ブレイカー」をタッチし、モーションへ移行する。両肩のユニットが上下に開き、テスラ・ドライブにエネルギーが十二分に行き渡る。

 すると、メインモニター一杯に青いエネルギーフィールドが映し出されていく。ただのエネルギーフィールドではない、電磁誘導及び加熱され、フィールドには金属粒子が固定されている。

 文字通り“盾”を獲得したガーリオン・カスタムをメインモニター端の画面で確認し終えるや、推力を上げるべくペダルを踏み込む。上がるGで体がパイロットシートの背もたれに押し付けられる。

 

(……相変わらず嫌な感覚だ。やっぱり機種変更なんてするものじゃない……か)

 

こみ上げる不快感に口の中で愚痴を漏らすものの、視線は2機のレリオンを翻弄し続けるアリシオンを見据えている。

 

(もう少し)

 

 充分加速に乗った。横っ腹直撃コース。

 だが、現実はそう上手く行くはずがない。

 先ほどまで別の隊のレリオン3機の集中砲火に晒されていたはずの黒い機体が、ライカの背後に猛追して来ていたのだ。

 表示されたデータに、後部監視用モニターから眼が離せなくなる。よそ見など三流も良いところだが、生憎相手が悪い。

 

(こんな時に目を付けられるなんて……)「『死神』!」

 

右手にバズーカ、左手にガトリング砲を持った黒い重装甲機「タナトス」。圧倒的な火力を以って敵対者を一方的に殲滅する戦い方から「死神」と渾名されるこの機体に背後を取られて、いったいどれだけの機動兵器乗りが平静を保てるのだろうか。

 短い距離ではないというのに、ガーリオン・カスタムの推進力が決して低いわけでもないというのに、黒い鉄塊はどんどん詰めてくる。

 今からソニック・ブレイカーのモーションをキャンセルし、即刻離脱すれば被弾は免れるだろう。もっとも、そんな“選択肢”はあり得ない。

 タナトスのバズーカの砲口がこちらに向けられる。情報では戦艦の主砲に匹敵する威力を誇る一撃は、確実にこのガーリオン・カスタムを木端微塵にする。

 

(その前に、もらっていく)

 

 それに対策がないわけではない。モーションの邪魔になるので、腰の後ろにマウントしていたバースト・レールガンを強制排除(パージ)する。狙いは向けられたバズーカの砲口。目潰し、あわよくば誘爆をしてくれたら御の字だ。

 バースト・レールガンが後方へ飛んでいき、タナトスの間近で爆発する。

 

(どうだ……?)

 

 結果は、失敗となった。死神は爆炎を突っ切って迫り、上に向けたバズーカの代わりにガトリング砲を放ってくる。

 

「くっ!」

 

咄嗟に機体を左に振って直撃は回避するものの、間に合わずに右肩のフィールド・ユニットに何発か当たってしまう。瞬く間にエネルギーフィールドは半減し、右側が無防備になってしまう。

 そして、一瞬とはいえメインモニターから目を離したツケが回ってくる。

 

(やられた……)

 

目の前にはビーム砲をこちらに向けたアリシオンが。

 サブカメラを地面に収めて映像を拡大すると、そこにはレリオン”だった”ものの残骸が2機転がっている。

 

(間に合わなかった)

 

悲しいという感情はあったが、それだけだ。

 人を殺す機械に乗るということは、皆それ相応の覚悟をしている。あのレリオンのパイロットたちも覚悟していただろう。

 仇討ちは趣味ではない。その代わり、倒す。

 半減したとはいえ、未だエネルギーフィールドは健在。速度はメーターを振り切る寸前。

 アリシオンがビームを撃ってくるが、ライカは左のエネルギーフィールドでそれを受け流し、両者の相対距離が徐々に縮まっていく。

 20メートル近くの全長を誇るガ―リオン・カスタム、その半分程の全長のアリシオンの細部がよくわかる間合いまで詰めると、

 

(弾け飛べ!)

 

ライカは半ば特攻するつもりでフィールドを突き付ける。

 しかし、

 

『不用意に寄りすぎたな』

 

冷静な女の声―おそらくはアリシオンのパイロットのそれ―が無線から聞こえたかと思うと、アリシオンは右半身の推進機全てを全開にしてソニック・ブレイカーを回避し、そのまま行き過ぎるガ―リオン・カスタム、その無防備な右脇を取ってビームを放つ。

 だが、

 

(この程度で諦めるほど……!)

 

反射的に操縦桿を振って機体を上昇させ、腰から下を持っていかれる代わりにコクピットへの直撃をかわす。

 直後にエネルギーフィールドを消すと、強烈な加重が掛かるのも構わず急速な右旋回をしてアリシオンを正面に入れ、左操縦桿を軽く引いて前に倒す。

 それに合わせてガ―リオン・カスタムは左腕を引き、アリシオンの顔面に鉄拳を叩き付ける。

 

(ゲシュペンストなら……!)

 

乗っている機体が違っていれば、今ので頭部を吹き飛ばせていた。

 これが意味することは1つ。

 

(届かなかった……)

 

 直後にアラートが響き渡り、殴るモーションをしていて伸びきった左腕部の肘から先が吹き飛ぶ。バランスが取れなくなり、成す術なく重力に身を任せることとなった。

 望遠カメラを地上に向けると、そこには赤い四脚の機体が左腕と一体化したレールガンをこちらに向けている。察するに、それでこちらの左腕を破壊したのだろう。

 アリシオンは既に次の戦場へと向かい、死神は遠く離れた所でその大鎌を振っていた。

 死神は単にライカにかまっている暇が無くなったのだろう。アリシオンについては、無闇に殺す必要はないということだろうか。

 

「……私、死ぬのかな?」

 

 我ながら、落ち着いたものである。

 こんなこともある。それに覚悟はしていた。人を撃っていれば撃たれるのは当たり前。

 脱出機構(イジェクト)はまだ生きているが、作動レバーを引く気にはなれない。こんなあっさりとした最期も悪くないと思うから。

 

(だけど、そうだな……)

 

 1つ、賭けをしてみる。ディーラーなんていない、レイズもコールもない。コインの裏表を当てるような、そんなシンプルな賭け。

 賭け金(リスク)は自分の命、リターンは、

 

「……もし、私がしぶとく生き残れたのなら、今度こそ……今度こそは自分のやりたいことを……。流されるのはもう嫌だ。私の意思で……私の心に正直で……」(そう、ありたい)

 

 1機のガーリオン・カスタムが、暗い海へ墜ちていく。

 戦火は続くも、これでライカの戦いは一応の幕を下ろすこととなった。

 

 

 この戦いにより、連邦は大陸からDC残党を一掃することに成功、その勢力を著しく殺ぐことができた。

 しかし、連邦側の消耗も激しく、未知の者たちとの本格的な対峙にはさらなる時間を必要とするのであった。

 

 

 新西暦80年4月上旬夕暮れ時。

 連邦軍に入るという決断から1日少々が経った頃、恭弥は光秋と共に横浜基地の正門前を訪れ、門の外で待っていた母の持ってきた大型鞄を受け取る。

 

「着替えと諸々の日用品入れておいたから。足りなかったら電話して」

「大丈夫だよ。伊豆基地にも売店くらいあるだろうし。ですよね?加藤さん」

「ん?あー……まぁね」

「そう、ですよね……」

 

光秋の回答に、母は少し寂しそうな顔をする。

 が、それも束の間。すぐに表情を改め、真剣な目で光秋を見据える。

 

「加藤さん。恭弥をよろしくお願いします」

「はい。力の限り」

 

深々と頭を下げる母に、光秋は静かだが力の籠った声で応じる。

 顔を上げると母は恭弥を一見し、なにも告げずに去っていく。

 姿が見えなくなるまで見送ると、光秋は恭弥に視線を向ける。

 

「なにも言わなかったけど、いいんですか?」

「……いいんです。なんて言っていいかもわかんないし……休みになればまた会えるし」

 

一瞬迷いながらも、抱えた鞄を見ながら恭弥ははっきりと応じる。

 

「……そうですね。じゃあ、行きましょうか」

 

 なにかを噛み締める様に返すと、光秋はシルフィードとユニコーン・白が置かれている格納庫に向かって歩き出し、恭弥もそれに続く。

 

「それと、結局友達に会わせてあげられなくて申し訳ない」

「それも帰ったらまた会えますよ。それより、僕からも改めてよろしくお願いします。加藤さ……加藤大尉!」

「こちらこそ。もっとも、昨日書いてもらった諸々の書類を今朝伊豆に送ったから、正式な辞令が出るのは明日なんですけどね」

「そうなんですか……すみません。まだよくわからなくて」

「最初はそんなもんですよ」

「はぁ……あ、そうだ。『大尉』じゃなくて『隊長』って呼んだ方がいいですか?部隊のリーダーなんだし」

「『隊長』はないかな。まだ未完成な部隊ですし。名刺にもあくまで『主任』って書いてあったでしょう?」

「そういえば……じゃあ、『加藤主任』?」

「とりあえず『大尉』でお願いします。それが一番無難ですから。もっとも、今みたいに私的な時は好きに呼んでもらってかまいませんよ。今まで通り『加藤さん』でも」

「そうですか?それじゃあ…………『シュウさん』、て呼んでもいいですか?」

「『シュウさん』?」

 

唐突な呼び方に、光秋は思わず足を止める。

 

「はい。最初に渡された名刺の名前がどうしても印象に残って……」

「あぁ。『一条(いちじょう)(しゅう)』ね……」

「それにお名前は『光秋(こうしゅう)』さんなんでしょ?だから『シュウさん』」

「なるほど。それもいいですよ。そう呼びたいなら。ただし、仕事中は『加藤大尉』でお願いしますね」

「了解しました!シュウさん」

 

見真似で敬礼してみせる恭弥が笑いながら応じると、2人は再び歩き出す。

 

 

 同じ頃。

 光秋と恭弥が向かっている格納庫では、クロイツリッターの残骸が専門機関へと運ばれ、ハンガーに納まるシルフィードと白も伊豆基地行きの輸送機に運び込まれようとしており、整備士たちは調査機器や工具の片づけに動き回っていた。

 そんな中、1人だけ作業着ではなくスーツを着た一夏は、ミコトと共にその作業を手伝っていた。

 

「ホントいいって。パイロットの仕事じゃないよ?服だって汚れるし」

「汚れたら洗えばいいだけですよ。どうせ伊豆に戻ったらしばらく着ないだろうし。それに、俺がやりたくて勝手にやってることですから気にしないでください」

「私が気になるんだけどな……」

 

そんなやり取りをしながら、2人は大小さまざまな機器を所定の場所にしまっていく。

 

「こっちに来る前も、偶に整備士の仲間の手伝いでこんなことしてましたし、力仕事なら任せてくださいよ」

「そうなんだ……男の子だね」

 

微笑みながら応じると、ミコトは最後に残ったひと抱えはある機器を持ち上げようとする。

 と、一夏も同じ機器を持ち上げようと手を伸ばし、指先がミコトの手に触れてしまう。

 

「ひっ!?」

 

突然のことに、ミコトは思わず手を引いて悲鳴の様な声を上げる。

 

「あ、すみません!爪が当たりました?」

「え?……いや、ううん。大丈夫……」(何でびっくりしたんだろう、私?手が触れただけなのに……)

 

心配そうに問う一夏に慌てて応じながら、ミコトは一夏の手が触れた右手の指先をそっと撫でる。

 

「……」

 

そうすることで指先の温もりが全身に広がり、体中が仄かに熱くなる。

 

「……本当に大丈夫ですか?顔赤いですよ?」

「な!なんでもないから!」

「は、はぁ……」

 

 叫ぶ様に返すミコトに少し驚きつつも、一夏は抱えた機器を元の場所に運ぶ。

 

「よし!これで完了っと」

「あ、あのさ……ありがとう」

「どういたしまして」

「……」

 

笑顔で応じる一夏に、ミコトはますます体が熱くなる感じを覚える。

 と同時に、これからのことを考えて気分が萎えでいく。

 

「……もうすぐ、帰っちゃうんだよね……」

「えぇ。光秋さんたちが来たら。俺はもともと伊豆基地の所属ですし。でも、伊豆と横浜ってどっちかっていうと近いから、また会えるかもしれませんよ」

「また会える……そうか。そうだよね!」

 

一夏のその言葉に、ミコトの沈みがちだった気分が一気に回復する。

 

「あのさ、もう一度、今度は個人的に自己紹介させて!」

「?……いいですけど?個人的?」

「いいから!……ごほん!ミコト・アオイです。生まれながらの技術屋。あとこんな成りだけど17歳だよ。改めてよろしくね!」

「じゃあ、俺からも。織斑一夏です。今は光秋さんの下で、ユニコーン・白の専属パイロットやってます。16歳だから、俺の方が年下か。こちらこそよろしくお願いします。アオイさん」

「ミコトでいいよ。私も『一夏』でいい?」

「どうぞ……それにしても、やっぱり俺より上でしたか。念の為敬語使っといてよかった」

「なんの話?」

「いえね、昨日ミコトさんたちと会う前、見た目は12、3歳くらいなんだけど18歳って人に会って。まさかと思ってこの喋りにしてたんです」

「あー……それたぶん、いや、絶対私の知り合いだ」

「そうなんですか?」

 

 と、

 

「すまない。待たせた」

 

一夏に呼びかけながら、恭弥を伴った光秋が歩み寄ってくる。

 

「光秋さん。恭弥さんも」

「ちっ!いいところだったのに……」

 

一夏が応じる横で、ミコトは3人には聞こえない声で怒りを呟く。

 

「そろそろ出立ですか」

「ヒラサカさん。調査協力に部下の機体の世話と、いろいろとありがとうございました」

「「ありがとうございました」」

 

4人の許に歩み寄ってきたアキヒロに、光秋は深々とお辞儀し、一夏と恭弥もそれに続く。

 

「あぁいえ……機体の方は大したことしてませんし、調査も昨日からろくに進展しませんでしたし……」(ホント腰が低いなこいつら)

「まぁ確かに。メーカーどころか製造番号もありませんでしたし、何処の誰がどうやって作ったとか、何で動いてたとかわからないままですもんね」

 

調子の悪さを誤魔化す様にアキヒロは話題を変え、光秋は調査報告を読んだ時のことを思い出しながら返す。

 

「ま、だから専門機関に引き継いでもらったんですけどね」

「そうですね……」

「ていうか、動力がわかんないのはご丁寧にそこを壊したからでしょ」

「な!バカ!」

「……それを言われると」

「返す言葉が無いですね……」

 

ミコトの指摘にアキヒロは焦るものの、光秋と一夏はそろって気まずい顔をする。

 と、

 

「あの、シュウさん」

 

恭弥が申し訳なさそうに入り込んでくる。

 

「そろそろ積み込み始めた方がいいですか?」

「あぁ、そうですね。お願いします」

「『シュウさん』?」

 

思い出した様に光秋が応じると、一夏が首を傾げて訊いてくる。

 

「僕流の加藤大尉の呼び方です。ペンネームが印象的だったから」

「あぁ。なるほど!『シュウさん』か……シュウさんか……」

 

恭弥に回答に、一夏は少し考える顔をする。

 と、

 

「……もしかして同じこと考えてないか?」

「あ、光秋さんもですか?」

「シュウさんも?」

 

光秋の問いに、一夏と恭弥は互いを見やる。

 

「試しに言ってみるか?……せーの!」

「「「週3回休みのシュウさんかい!」」」

 

見事に合致した駄洒落に、3人はそれぞれ笑みを漏らす。

 その横では、ミコトが少し震え、アキヒロが無理やり笑顔を作っている。

 

「なんかさ、今夜は一段と冷えるね」

「バカ!上司のギャグにはとりあえず笑っとけ。それが縦社会でやっていく処世術だ」

「あ、そうなの?……」

 

アキヒロの注意に、ミコトは脱力した声を返す。

 直後、

 

「!……失礼」

 

左耳の通信機に連絡が入り、光秋は真剣な顔をする。

 

「はい?……了解しました。すぐに向かいます」

 

通信の相手に冷静に応じると、恭弥と一夏を見る。

 

「非特隊に参加する人の乗った輸送機に所属不明機が接近していると連絡があった。万一に備えてその輸送機の救援に向かう」

「足はどうするんです?」

「伊豆に向かう予定だった機を使うよう指示された」

 

少し焦りを浮かべた一夏の問いに、光秋は落ち着いて答える。

 

「大至急シルフィードを積み込んでください」

「りょ、了解!」

 

光秋の指示に、突然のことに緊張している恭弥は慌てながらも応じ、昇降機に駆け寄ってシルフィードのコクピットに入る。

 その間にも、光秋は指示を飛ばす。

 

「白の積み込みは中止。機を少しでも軽くする為に置いていきます。一夏君は輸送機に」

「了解!」

「ちょ、ちょっと!置いていかれても困りますよ!どうしろっていうんです?」

「大丈夫。すぐに取りに行きます。その間、危ないから白には絶対に近づかないでください。それと、何が起きても驚かないでください」

 

戸惑うアキヒロにそう返すと、光秋は連邦軍の主力輸送機・レイディバードに駆けて行く。

 一夏もそれを追おうと駆け出すと、

 

「ちょっと待って!」

「!?」

 

後ろからミコトに呼び止められ、なにかを走り書きしたメモを渡される。

 

「私のメアド。落ち着いたら連絡して。いつでも待ってるから!」

「ありがとうございます。伊豆に戻ったらすぐに連絡します。お世話になりました!」

 

駆け出しながらもそれだけは言うと、一夏は今度こそ光秋の後を追って走り出す。

 2人に続いて腰にルミナ・グラティスを提げたシルフィードが貨物室のスロープを上がり、足場になっていた後部ハッチが閉まると、コンテナに翼が着いた様な形のレイディバードは夜空に飛び立っていく。

 

「……もっと、たくさん話したかったな……」

 

あっという間に光の点になっていくレイディバードを見送りながら、ミコトは切なそうに呟く。

 

 

 40メートルはあろう高さの天井を重厚な円柱型の柱が無数に並んで支え、白一色に塗られた大広間は、さながら神殿を想起させる。

 その中央には円卓が置かれ、1人の男が席に着いて手元の水晶玉を眺めている。

 

「おや?シルフィードを確保した連中が動いたようだね」

 

水晶玉に映るレイディバードが飛び立つのを見ながら、男は面白いものを見る様に言う。

 歳は10代半ばくらいか。金髪碧眼に白い肌と西洋人の特徴を備え、微笑みを浮かべた顔には揺るがない自信が満ちている。純白の貫頭衣を着た姿は、若い聖職者といったところか。

 

「さてと……」

 

 男は水晶玉に手をかざすと、中の映像が一変する。

 

「アリア、聞こえているかい?」

『はっ!』

 

男が水晶玉に向かって話しかけると、中に映る金髪のポニーテールの少女――アリア・アンダーソンは跪いて応じる。その服装は恭弥と中華街で会った時の平服ではなく、重厚な甲冑の上に白地に金の刺繍が施されたマントを羽織っており、少女の騎士といった感じである。

 

「まずは、長期に渡る偵察御苦労だったね。君とその部下たちのお蔭で、そちらの事情は大方把握できたよ」

『勿体無きお言葉』

 

男の労いに、アリアは頭を下げる。

 

「合流して早々悪いが、仕事を頼まれてくれ。シルフィードを確保した連中が動いた。その威力偵察と、こちらへの宣戦布告をね」

『私が!?……ですか?』

 

男の言葉が余程意外だったのか、アリアは目を見開く。

 

「誇り高い騎士の家系の君なら適任だろう?それに、今動かせる戦力でシルフィード……否、アレを確保した連中と渡り合えるのは君しかいない。クロイツリッターを率いてすぐに出てくれ」

『しかし、私1人ではシルフィードの奪還は……』

「奪還には拘らなくていい。アレがいかに強力な“力”でも、敵の手に落ちたなら破壊するつもりでかかってくれ。我らが神もそう仰せだ」

『神が!?……では、仰せのままに』

 

アリアが応じると、その姿は水晶玉から消える。

 

「さて、お手並み拝見といこうか。連邦の騎士の方々」

 

歌う様に呟くと、男は映像をレイディバードに戻す。

 

 

 恭弥たちが横浜基地を飛び立った頃。

 ヨーロッパ上空を1機のレイディバードが東へ向かって飛んでいた。

 乗員は2人――操縦士と、大陸の戦いから奇跡の生還を遂げたライカ・ミヤシロ中尉である。

 あの戦いの後、ライカは北欧司令部に所属していたが、非特隊への招集を受けて伊豆基地に転属となった。

 もっとも、現在輸送機に乗っている理由はそれだけではなく、北欧に回されていた“ある試験機”の移送任務も兼ねている。

 相変わらずの微妙な乗り心地を覚えつつ、席に座っているライカはタブレットをいじりながらこれからのことを考える。

 

(……また私は……伊豆で……。いや、そんなことは良い。与えられた仕事はこなす。納得いかないことはやらない。……それで、良いじゃないか)

 

そう思いながら窓から外を見ると、雲1つない綺麗な空が広がっている。

 伊豆まであと7時間といったところか。

 

(このまま何も起きないといいですが……)

 

そう居もしない神に祈る。

 

「……ん?」

 

 僅かに機体が揺れた気がした。普通なら気にしないところなのだが、何せ載せてるものが載せてるものだ。

 

(……荒事になりませんように)

 

 そう思いながら、運転席に繋がる扉を開く。

 沢山の計器類が忙しく動いている中、ちらちらとそれらを確認している操縦士の背後に立ち、ライカは声をかける。

 

「……何かありましたか?」

「中尉……今、連絡をしようと思っていました。……たった今、所属不明機の反応が確認されました。進行方向から予測するに、あと5分で目視できるエリアに入ります」

「所属不明機……?」

 

 この辺りで連邦の作戦行動が行われているという情報はない。

 DC残党の可能性を考えたが、恐らく可能性はほぼ皆無。本部が壊滅して以降明確な指導者さえ決まっていない今、こんな所でうろうろしているなど考えにくい。

 

「目視可能領域に所属不明機が入りました」

 

 途端、レーダーに複数の光点が映し出される。

 

(1……2……4。一個小隊……仮に連邦の極秘の作戦行動だとしても、こんなおおっぴらに行動しているなんて、普通ならあり得ない。それに識別信号が未登録……味方じゃない、なら……)

『そこの輸送機、停止しろ』

 

直後にオープンチャンネルに呼びかけが入る。

 ライカは機のカメラの倍率を上げ、呼びかけている機体とその後ろに控えている僚機を確認する。

 

(ガーリオン・カスタムが1機、レリオン3機……か)

 

 正直に言って、かなり厳しい状況である。ガーリオン・カスタムだけならまだしも、リオンの上位機が3機もあるとは。ここまで来ると、サイリオンやバレリオンがいないのが不幸中の幸いとしか思えない。

 そんなことに気を取られすぎた。

 

「っ……!!」

「中尉、第1に被弾! 開閉作動ボルトに損傷、航行に支障はありませんが……!」

(分かっている)

 

今回の移送任務に当たってライカに宛がわれたガーリオンがあるのは、そのたった今使えなくなった第1ハッチだ。

 

『繰り返す。ただちに停止しろ』

(警告も無しに撃ってくるとは)

 

 ライカは操縦士にその場に留まるよう指示を出す。

 

「目的は何ですか?」

 

そう無線に投げ掛けると、すぐに答えは返ってきた。

 

『我々の姿を見られてしまったからな。……選択肢をやろう』

「選択肢?」

『1つ目は、こちらに輸送機の中身を全て明け渡した後、我々と来てもらう。……2つ目は』

 

 途端にアラートが鳴り響く。リーダー格であるガーリオン・カスタムの携行武装――バースト・レールガンの銃口がこちらに向けられた。

 

『この場で死ぬか、だ』

「……時間をください」

『5分だ。その後返答を聞こう』

 

 無線を切ったライカに、操縦士が不安げな視線を向ける。

 

「中尉……」

「……当然、答えはどちらもノー。……だけど、それを実現するためには……」(せめてPTがあれば)

 

 これがライカの悩み所だった。

 物資を退かしてガーリオン出撃なんてことをやっていれば、あっという間に蜂の巣である。

 打つ手がないように見えた、が、ライカは自分の発言にハッとする。

 

「あった……!」

「ちゅ、中尉! どちらへ!?」

 

 操縦士の言葉を無視し、ライカは目的の場所へ駆ける。

 目的地は後部格納庫。

 案の定、ハッチの片方は瓦礫を退かさなければ使えない。

 

「……まあ、しょうがないですよね」

 

心なしか嬉しそうな声を漏らすと、移送対象のコンテナの開閉レバーを引く。

 圧縮空気が一気に解放され、ただの箱となったその中に灰色の機体が佇んでいるのを見る。

 

――RPT‐007 量産型ゲシュペンストMk‐Ⅱ。

 

 そこにいたのは、ライカのよく知る機体である。

 

(……これは)

 

すぐに異常が無いか大ざっぱな確認を始める。

 異常は無かったが、自分が知るゲシュペンストとは微妙に細部が違うことに気づく。曲線主体で全体的に太い印象の原型機より僅かに細身で、両肩のスラスターが小型になっており、スラスターノズルのすぐ下には何故かハッチが。バックパックのウィングは折り畳まれ、メインスラスターとサブスラスターが大きくなっている。脇下にまたハッチがあり、両肘裏には小型のスラスターが横に2つ配置されている。細身になった上半身とは裏腹に両足は僅かだが肥大化しており、それぞれ脛と脹脛、外側にスラスターノズルが増設されている。

 

(両腕には取り外しの出来るプラズマバックラー……タイプGの武装が取り入れられているのか……)

 

 昇降機でコクピットまで昇り、ハッチを開けて潜り込む。ボタンを押してシステムを立ち上げ、調整を始める。

 その間にも、無線で操縦士に呼び掛ける。

 

「こちらバレット1、ライカ・ミヤシロ。私が合図を出したら、ミサイルを撃って高度を上げてください。あとは私が叩き落とします」

『こちらシエラ3。バレット1、あと1分40秒だ……間に合うのか!?そんな調整もされてない機体を動かすなんて無茶だ! ガーリオンは使えないのか!?』

「あんな機体よりこちらの方が、私は信用できます。そして、この状況を切り開ける確率も跳ね上がる」

 

喋りながらも、ライカはコンソールを操作する手を休めない。

 

『やれるのか?こっちは1機しかいないんだぞ?それにあと……』

「50秒切りましたね。……上等」

 

左右の操縦桿を少し引いて傾けると、それに合わせる様に機体の両腕が動く。そして次の調整に入る。 

 

(……量産型の2倍近い推進力だ。それに、反応も申し分ない)

 

 続いて機体の顔を動かし、コンテナの中身を確認する。

 

(M90アサルトマシンガンが1丁、しかもご丁寧に実弾が装填済みか。アンダーバレルは……APTGM(対PT誘導ミサイル)じゃなくて、小型のキャノン砲?カスタムタイプですね。贅沢な……両腕のプラズマバックラーとアサルトマシンガン)

 

 武装を確認するや、ライカはOSの調整に取りかかる。

 

『30秒切ったぞ!』

「話しかけないで。死にたくないなら黙っていてください」

 

 本来ならば時間をかけなければならないのだが、ライカの操作に焦りは見られない。

 

(少し、高揚しているのかもしれない……またこの亡霊に乗れるなんて夢にも思わなかった)

 

高鳴る鼓動を抑えながらも、調整は終盤に入ろうとしていた。

 

 

 ライカたちが所属不明機と接触する少し前。

 恭弥たちを乗せたレイディバードは、中国上空に差し掛かろうとしていた。

 20メートル級のPTやAMを最大5機収容できる格納庫も、今はシルフィード1機だけと閑散としており、その片隅にはパイロットスーツを着た恭弥と、スーツ姿の光秋と一夏が集まっている。

 

「着替えは終わりましたか。調子はどうです?」

「まだちょっと慣れないけど……なんとか」

 

光秋の問いに応えながら、恭弥は体を動かして緑基調のスーツの着心地を確認する。昼間もシルフィードの起動実験で着たものの、体に密着する感覚にはまだ慣れない。

 そんな様子を見ながら、光秋は説明を始める。

 

「今回の目的は、所属不明機の接近を受けている友軍の輸送機の救援。万が一相手が敵対行動を取った場合はこれを迎撃する。それと、コールサインを確認しておきます。僕がホワイト1、織斑曹長がホワイト2、桂木曹長がホワイト3。作戦行動中はコールサインを用いるように。いいですね」

「「了解!」」

 

恭弥と一夏は踵をそろえて応じる。

 直後、光秋の通信機に連絡が入る。

 

「はい?……了解しました。ここまででかまいません。迎えの機の手配をお願いします。ありがとうございました。燃料の都合上、ここまでしか行けないらしい。ま、もともと行ける所までという話だったからね。各自機体に搭乗。ここからは僕たちで行く」

「搭乗って……シュウさんと一夏君の機体はありませんけど?」

「もう『加藤大尉』ですよ。それについては心配いりません。桂木曹長はすぐにシルフィードに」

「?……了解」

 

 光秋の説明に首を傾げながらも、恭弥は脇に抱えていたヘルメットを被り、垂れ下がっているワイヤーを掴んでシルフィードのコクピットに上がる。

 操縦席に座るやモニターが一斉に映り、肘掛のボタンを操作してハッチを閉じると、球形操縦桿を振ってシルフィードを開ききった後部ハッチに前進させる。

 と、

 

『それじゃあ、まず俺から。ホワイト2、行きます!』

「?」

 

外部音声越しに聞こえた一夏の声に足元を見やると、なんの装備もしていない一夏が後部ハッチへ向かって疾走しているのを見る。

 

「え!?ちょ……」

 

止める声をかける間も無く、一夏はスロープから夜空へ飛び込んでいく。

 

 

 レイディバードから空中に躍り出た一夏は、すぐに右手首のガントレットを口元に寄せ、心の中で強く念じる。

 

(研ぎ澄まされた、強い“力”……俺の想いを果たす為の……)

 

念は一本角と翼を備えた像を結び、それを表す様にガントレットに向かって叫ぶ。

 

「コール!ユニコーン・白!」

 

 

 一夏たちが去った横浜基地では、空のオイルの缶を椅子にしたミコトが、置いていかれた白を愛用のスケッチブックに写生していた。

 

「はぁ……」

 

手を休めると、小さく溜息を漏らす。

 

「またなんか考えてるのか?……て、コレあの小僧の機体じゃねぇか?」

「!?……いつの間に?」

 

気付かない間にスケッチブックを覗き込んでいたアキヒロに、ミコトは思わず腰を浮かす。

 その様子に、アキヒロは少し考える。

 

「……なぁミコト。お前まさかあの小僧に――」

「な!なに言ってんのさ!私はアイツのこと、別に好きってわけじゃ……」

「俺は好きとは一言も言ってないぞ?」

「……」

 

上げ足を取る様な言い方をするアキヒロに、ミコトはぶっ飛ばしてやりたいという衝動を覚える。

 

「にしても、機体だけ置かれていってもなー。悪い奴じゃないんだろうが、あの若造大尉、いったいなに考えてるんだ?」

「ま、それはそうだよねー」

 

そんなことにかまわず白を見るアキヒロの言葉に、ミコトも渋々同意する。

 当の白は、光秋の忠告に従って足元にコーンの合間にテープを張った封印がされ、立ち入り禁止となっている。

 直後、

 

「「!?」」

 

白の上空に大きな穴が空いたかと思うと、瞬時にそれに吸い込まれてしまう。

 

「…………なんだったんだ?今の」

「なにが起きても驚くなって……こりゃ、無理でしょ……」

 

白の消えたハンガーを呆然と眺めながら、アキヒロとミコトは口をあんぐりと開ける。

 

 

 叫んだ一瞬後、一夏の正面に巨大な穴が空き、中からユニコーン・白が吐き出される。

 

「よし!来い、白式!」

 

愛機の出現を確認するや意識を集中し、体中が光の粒子に包まれる。

 光が収まるや、愛機同様4枚の翼を備えた白い機械の鎧、白の操作ユニットたるIS・白式を纏い、開きっ放しのコクピットに吸い込まれる様に入り込む。コクピット中央の天井から伸びるケーブルと白式の背中のソケットを繋ぐと、内壁全てを覆うモニターが点り、バイザーの奥に隠れている白の2つの目が輝く。

 

 

「……凄い」

 

 一連の光景をシルフィード越しに見ていた恭弥は、あまりのことに思わず驚きの声を漏らす。

 直後、

 

『ホワイト3!次は君ですよ!』

「あ!はい!」

 

光秋の急かしに我に返ると、恭弥は気を取り直し、

 

「ホワイト3、出ます!」

 

声高に叫ぶとペダルを踏み込み、レイディバードから飛び立つ。

 白の許まで来て滞空すると無線を開き、

 

「ところで、シュウさ……加藤大尉の機体は?」

 

画面の中の一夏に今一番の疑問を口にする。

 

『ありますよ。ほら』

「?」

 

 一夏の答えとレイディバードを指す白の右手を追うと、格納庫に残された光秋の拡大映像が表示される。

 と、映像の中の光秋は上着の内ポケットに手を入れ、懐からなにかを取り出す。

 

 

 光秋は懐から出した物の先端を前に向け、ボタンを押す。白い光の線が1メートル程進むと膨れ上がり、左膝を着いたニコイチが出現する。

 ワイヤーリフトを掴んでコクピットに上がり、認証を済ませて立ち上がると、後部ハッチへと歩み寄る。

 

「それでは。ホワイト1、出ます!」

 

叫ぶやペダルを踏み込み、背部の円を発光させて浮き上がると、シルフィードと白の許に向かう。

 

 

 

(……僕、つくづくとんでもない人たちと組んじゃったかも)

 

 白の瞬間移動、そしてどこからか出てきたニコイチを立て続けに見せられ、恭弥はしばし呆然とする。

 

『全員いますね。といっても、3人だけですが』

「!あ、はい!」

 

新たに表示された画面に映る光秋の確認の声に、恭弥は我に返る。

 

『それじゃあ、現場まで急ぎます。ホワイト2は僕の背中に掴まって。ホワイト3はその後ろに』

「?……了解」

 

 よくわからない指示に応じると、恭弥はニコイチの肩を掴んだ白の後ろに回り、上側の翼に手を掛ける。

 

「……そういえば一夏君、それ」

『え?あぁ、お守りですからね。こういう時にこそ着けないと』

 

今更ながら恭弥は、画面の中の一夏が昨日中華街に行く時に見た×型のバレッタを付けていることに気付く。

 

『2人共。もう作戦行動中。私語は慎むように』

『あ!はい!』

「すみません!」

 

 一夏と恭弥が注意に応じると、光秋はニコイチを西に向ける。

 

『けっこう飛ばすぞ。しっかり掴まっておくように』

『了解!』

「?……了解」

 

2人が応じると、画面の中の光秋は目をつむり、呼吸を整える。

 直後、

 

『!』

 

カッと目を見開くと同時に、ニコイチの節々を覆うカバーが開き、露出した骨格から闇夜を押し退ける様に赤い光が広がる。

 

「!?」

 

恭弥が目を丸くする間にも光は広がり、ニコイチを中心に3機を包んだ球を形作る。

 そして、

 

『行くぞ!』

 

光秋の叫びと共に、3機を包んだ赤い光の球は高速で移動を始める。

 

「…………」

 

風の如く過ぎていく眼下の景色に、恭弥は思わず目を回しそうになる。

 と、

 

(明るくなってきてる?……違う!昼の面に移動してるんだ!)

 

早朝くらいの明るさになり始めた周囲に驚く恭弥を乗せて、光の球はひたすら西を目指す。

 

 

 ライカがゲシュペンストの調整を終えた直後、所属不明機から通信が入る。

 

『時間だ。返答は?』

 

 それには応じず、ライカは深呼吸をし、操縦桿を握りしめ、ペダルに足を掛ける。

 

「今です。ミサイル射出後――」

『ぜ、前方から接近する物体あり!』

「!?……すぐに出ます。発進したら離脱してください」

 

言葉を遮る様な操縦士の困惑の声に一瞬驚くものの、すぐに新たな指示を出し、アサルトマシンガンを右手に持って開いたハッチから空へ出る。

 

(『テスラ・ドライブ』は標準装備ってところがニクイですね)

 

予想外の事態に若干焦りながらもそんなことに感心すると、前方に並ぶ所属不明機4機、そのさらに後方からこちらに向かってくる赤い光の球を確認する。

 所属不明機たちもそれに気付いたのか、慌てて背後を振り返って各々の火器を赤い球に向ける。

 

(新手の鬼でしょうか?ガ―リオンたちだけでも厄介なのに……)

 

心中に愚痴りつつ、ライカもアサルトマシンガンを構える。

 直後に球は所属不明機たちから少し離れた辺りで消え、中から額に角を生やした3機の白い人型機動兵器が現れる。

 

『前方の所属不明機、及び後ろのゲシュペンスト、聞こえるか。こちらは連邦軍伊豆基地、非常事態特殊対策部隊所属、加藤光秋大尉である』

(非特隊!?)

 

3機の内の一番小さい機体から拡声器とオープンチャンネルで告げられた部隊名に、冷静沈着を絵に描いた様なライカも流石に目を丸くする。自分がこれから所属するはずの部隊が、その前に援軍に来てくれたのだから。

 

『ただちに武装解除し、投降せよ。従わない場合は実力を以て当たる』

 

続く小さい機体からの勧告に合わせる様に、左右にPTくらいの背丈の2機が展開し、左の白銀の妖精は剣の刀身が割れて現れた銃口を、右の白い翼の騎士は左手と一体化した砲口を向ける。

 

(……いけるかもれない)

 

 一連の光景と、小さい機体から響く声――静かだが強い意志を感じさせる光秋の声に、ライカの中に少しずつ余裕が生まれてくる。

 さらにいえば、戦力はすでに4対4と互角、しかも所属不明機たちは実質前と後ろから挟まれてしまっている。

 

「「「…………」」」

 

しばしの間、全員の間に沈黙が流れる。

 そして、

 

『!』

 

ガ―リオン・カスタムがバースト・レールガンを撃とうとする直前、小さい機体が瞬時に接近し、首元に右手刀を突き付ける。

 

(やろうと思えばコクピットを潰せたということですか……随分と腕が良い)

 

その行動に、ライカは胸の中で称賛の声を上げる。

 

『最後通告です。投降するか?しないか?』

『…………くっ!』

 

 先ほどと異なりドスの効いた勧告に、ガ―リオン・カスタムが銃口を下ろし、レリオンたちもそれに従う。

 

『お前、何者だ?』

『先ほど言ったでしょう?非常事態特殊――』

『そういうことじゃない!何者なんだ?お前は……』

『……とりあえず、「白い犬」、とでも名乗っておきましょうか』

「白い……犬……」

 

堂々とした返答に、ライカは知らぬ間に生唾を飲む。

 その直後、

 

「!?何です?」

 

一同の真上の空が歪んで黒い大きな穴が空き、ライカは驚愕しつつもどこか緩んでいた気持ちを締め直す。

 

 

『あれは……時空崩壊?』

「否、前に見たやつと少し違う……」

 

 一夏の言葉を否定しつつ、恭弥は上空に空いた大きな穴に恐怖と警戒を覚え、球形操縦桿を握る手に心なしか力を込める。

 と、穴の中からクロイツリッターの集団が溢れ出てくる。

 

「!この間の奴ら!」

 

そうとわかるや恭弥はガ―リオン・カスタムたちに向けていたルミナの銃口を上に向け、クロイツリッターの1機に狙いを定める。

 しかし、

 

『待て!迂闊な行動は取るな!』

「……」

 

すぐに光秋の叱責が飛び、渋々発砲をやめる。

 

『とりあえず、距離を取りつつゲシュペンストと合流する。その間は様子見だ。相手が動くか指示があるまで迂闊なことはするな』

『了解』

「……了解」

 

 続けて出された指示に一夏と共に応じると、穴とクロイツリッターたちから離れ、光秋が手招きした灰色のゲシュペンストと合流する。

 ガ―リオン・カスタムたちも双方から距離を取り、顔を見合わせてどうするか決めかねている。

 

『えっと、ミヤシロ中尉ですね。非特隊主任の加藤です。とんだ出迎えになってしまいましたね……』

『いいえ。お蔭で助かりました。といっても、さらに面倒なのが現れたようですが』

(女の人なんだ……)

 

通信から聞こえた声に、恭弥は少し意表を突かれる。画面に映る顔はバイザー越しではっきりとはわからないものの、自分より少し年上くらいの印象を受ける。

 

『えぇ。状況によっては彼らにも対処します。彼らの機体と僚機のデータです』

 

言いながら光秋は、事前にシルフィードからコピーしたクロイツリッターと、ニコイチ、白、シルフィードのデータをゲシュペンストへ送る。

 

『了解しました。こちらのコールサインはバレット1です』

『わかりました』

 

 2人が状況確認をする間にもクロイツリッターは増え続け、最終的に12機まで出現する。

 そして、

 

『『『「!?」』』』

 

穴が消える直前に出現した13機目の機体に、非特隊全員が息を飲む。

 

『黒い……シルフィード?』

 

全員の思いを代弁する様に、一夏が目を見開いて呟く。

 最後に現れたのは、左手にクロイツリッターたちよりも重厚そうな盾を持ったシルフィードにしか見えない機体だからである。しかし恭弥のシルフィードが白銀なのに対し、こちらは日光を不気味に反射する黒銀である。

 

(何でシルフィードがもう1機!?……?)

 

動揺する恭弥に応える様に、モニターにデータが表示される。

 

「『ベネクティオ』?……」

『何だって?』

「黒いシルフィードの名前です。データにそう書いてあって……」

『……シルフィードはあの機体を……否、あの集団の機体を知っているのか』

 

戸惑いながら応じる恭弥に、光秋は少し考える顔をする。

 と、黒いシルフィード――ベネクティオは腰に提げたルミナと同型の剣を抜き、それを高く掲げる。

 

『地球連邦をはじめとする全ての勢力に告げる!』

「女の……声?」(どこかで聞いたような……)

 

オープンチャンネルと拡声器から響き渡る声に、恭弥は意外さと聞き覚えを感じる。

 

『我々はルミエイラ。救国の騎士である!我々の目的はただ一つ、安息の地を手に入れることである。その障害となるのも、そしてそれを妨害するものは、如何なるものであろうと排除することを、今ここに宣言する!』

 

ベネクティオのパイロットは迷いを全く感じさせない声で宣言し、それに応じる様にクロイツリッターたちが一斉に剣を掲げる。

 

「ルミエイラ?……救国の騎士って…………」

 

全くの未知の単語を呟きながら、恭弥は目の前の集団――ルミエイラの放つ重圧に圧倒されるのだった。




 ようやくコラボらしいシナリオを掲載することができました。
 本編とはどう変わっているのか比べてみるのも面白いかもしれません。
 次回もお楽しみに。
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