スーパーロボット大戦H/ハーメルン   作:一条 秋

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5 亡霊が泣く

 ベネクティオのパイロットが宣言するや、光秋はニコイチを上昇させ、上空に陣取るルミエイラ勢に少し寄せる。

 

「『ルミエイラ』と言いましたね。目的の障害となるもの、妨害するものの排除とはどういう意味です?」

『その通りの意味だ。我らの邪魔をするものは誰であろうと容赦無く抹殺する。地球連邦はその性質上障害になることは明らかだからな。真っ先に排除させてもらう』

「……つまり、連邦政府への宣戦布告ということですか」

 

ベネクティオのパイロットの回答に、光秋は苦いものを噛む顔をする。

 

「もう1つ訊きたい。貴方がたの目的、安息の地を手に入れるとはどういうことです?」

『この世界を我らのものとする、という意味だ』

「つまり、世界征服と?」

『そうではない。この世界を我らの……否、これ以上話しても時間の無駄だ。すでに賽は投げられた。者ども、かかれ!』

 

 指示を飛ばすと同時にベネクティオは剣を非特隊に向かって振り下ろし、それを合図に剣からマシンガンに持ち替えたクロイツリッターの軍団が迫る。

 

「結局こうなるか。ホワイト1より各機、応戦せよ。ただし、ベネクティオのパイロットは確保しろ」

『『了解!』』

『?……了解』

 

銃撃をかわしながらの指示に、恭弥と一夏はすぐに、ライカは少し疑問を抱きつつ応じる。

 

「それからホワイト3」

『はい』

「君は後方から援護射撃。あまり前に出るな」

『え?僕だって――』

「命令です。いいですね」

『……了解』

 

有無を言わせない光秋の指示に、恭弥は渋々応じると後ろに下がり、射撃モードのルミナ・グラティウスでライカと一夏の援護を始める。

 それを確認すると、光秋はガ―リオン・カスタムたちに呼びかける。

 

「所属不明機の方々。どうです?ここは協力して――」

 

続く言葉を遮る様にガ―リオン・カスタムがバースト・レールガンを発砲し、光秋は左腕を前に出してそれを防ぐ。

 

『こうなったらヤケクソだ!全員まとめて片づけろ!使えそうなモノは後で回収する』

『『『了解!』』』

 

言葉通りヤケクソになったガ―リオン・カスタムの指示に応じると、レリオン3機が非特隊、ルミエイラ双方に攻撃を始める。

 

「こっちも結局、か……なら!」

 

 嘆息混じりに呟いた直後、光秋は手近なレリオンに狙いを定め、一気に懐に入る。

 

「!」

 

振り上げた両手の手刀を叩き込んで両腕を肩から奪い、そのまま一回転して左踵落としで頭部を潰す。

 

「本来ならここで捕まえていろいろ調べるところですが……」

 

推進機を全開にして戦線離脱するレリオンを眺めつつ呟くと、クロイツリッターの銃撃が飛んでくる。

 

「今は手が回らないのでね!」

 

言いきるや攻撃してきたクロイツリッターに接近し、胸部に腰に引いた左拳を放つ。

 

「ホワイト1より各機。所属不明機も敵対行動を取った。応戦せよ。ただし、パイロットは極力確保するように」

『『了解!』』

『……了解』

 

先ほどと同じ様に3人が応じたのを聞くと、光秋は次の目標を探す。

 

 

 右手に雪片弐型を呼び出した一夏は、上下左右に素早く動いて銃撃を回避しつつ間合いを詰め、

 

「オォォォ!」

 

クロイツリッターの胸部に切っ先を突き刺す。

 

「またミコトさんに愚痴られるな。だが」

 

背中まで貫通した雪片を一気に引き抜くと、クロイツリッターは地上へ墜ちていく。

 

(手足を落としても向かってくる無人機を止めるには、動力を潰すのが手っ取り早いからな)

 

横浜基地での会話を思い出しながら、そんなことを考える。

 直後、

 

「!」

 

2列の銃撃が殺到し、咄嗟に上昇してかわす。

 

「ガ―リオンか!」

 

銃撃の来た方向を確認すると、ガ―リオン・カスタムがこちらにバースト・レールガンを向けている。

 

「!」

 

放たれた弾丸を体を捻ってかわすと、ウィング・スラスターを吹かして一気に距離を詰め、

 

「はぁぁぁ!」

 

気合いと共に雪片を振り下ろす。

 ガ―リオン・カスタムは左手に持ったアサルトブレードでそれを受け止めるものの、

 

『コ、コイツ!……』

 

自身の刃が徐々に押されていく光景に驚愕の声を漏らす。

 

『えぇい!』

「!?」

 

 直後にガ―リオン・カスタムは胸部のマシンキャノンを放ち、一夏は左腕を覆う雪羅を前に出して本体への被弾を防ぐ。純白の雪羅の装甲に火花が爆ぜるものの、明らかな傷を作ることはできない。

 その間に距離を取ったガ―リオン・カスタムは両肩のユニットを上下に開き、機体前面をエネルギーフィールドで覆って突っ込んでくる。ソニック・ブレイカーである。

 

「!」

 

一夏は雪羅の荷電粒子砲を撃って応戦するものの、灼熱の粒子の塊はエネルギーフィールドの前に弾かれてしまう。

 

「バリアーか!」

『無駄だ!吹き飛べヒュッケバインのでき損ない!』

「なら!」

 

 ガ―リオン・カスタムの声に応じる様に呟くと、一夏は雪片に意識を向ける。

 

零落白夜(れいらくびゃくや)、発動!」

 

叫びに連動して雪片の刀身が嘴の様に割れ、割れ目からエネルギーの刃が放出される。エネルギー刃が刀身を形成すると、雪片を両手で持ってガ―リオン・カスタムへ接近する。

 

「オォォォ!」

 

阻むもの全てを打ち砕くソニック・ブレイカ―に自ら飛び込むなど、傍から見れば自殺行為だろう。

 しかし、一夏の顔に迷いは見られず、間合いを詰めるや腕一杯に振り上げた雪片、そのエネルギー刃をガ―リオン・カスタムに振り下ろす。

 輝く刃はエネルギーフィールドに阻まれる、

 

『馬鹿な!?』

 

ことは無く、触れた瞬間にエネルギーフィールドを消し去り、そのままガ―リオン・カスタムの右ユニット、右腕、右足を付け根からごっそり斬り落す。

 

「これでぇ!」

 

体勢を立て直すや、一夏はガ―リオン・カスタムの腰にもう一撃放とうとす。

 が、

 

「うっ!」

 

再びマシンキャノンの銃撃を浴び、雪羅で防いでいる間に戦線離脱されてしまう。

 

「もう追えないか……エネルギーは?」

 

雪片を実体刀に戻すと、白式を通して白のジェネレーターの出力を確認する。

 

「……大丈夫か。なら次!」

 

 許容域に落ち着いているのを見るや、一夏は四方からの銃撃を避けつつクロイツリッターの軍団の中を駆けていく。

 

 

 クロイツリッターの1機に狙いを定めると、ライカは操縦桿を一気に倒してゲシュペンストを加速させる。

 

(まずは確実に1機を)

 

増設されたスラスターによって通常機よりも速く相手に接近すると、両脛のスラスターで急停止をかけ、すぐに左肩のスラスターを最大推力まで引き上げてクロイツリッターの左側面を取る。

 アサルトマシンガンを右手で持ち、左手はアンダーバレル辺りに添え、しっかりと狙い、

 

(さ、1人目の亡霊(なかま)ですね)

 

右人指し指のトリガーを引き絞る。

 銃口から吐き出された弾丸はクロイツリッターの装甲を食い破り、いたる所から黒煙を立ち上らせる。

 徐々に高度が下がっていくクロイツリッターを視界の端に見つつ、ライカは次の標的へ意識を向ける。

 が、直後にアラートが鳴り響く。

 

(しまった!)

 

後ろを取ったクロイツリッターが右腕を向け、手首に納まっているミサイル2発を放つ。

 

「!」

 

右ペダルを踏み、左操縦桿を倒して左に動くことで避けようとするが、

 

「ホーミング?」

 

ミサイルはゲシュペンストの動きに合わせて軌道を左に変え、あっという間に迫る。

 が、

 

「!?」

 

背中に着弾する直前に横から別のクロイツリッターが割り込み、それが楯となったことで難を逃れる。

 

「なんですか?」

『バレット1、無事ですか?』

「加藤大尉!」

 

 直後に入った通信に応じると、ライカはクロイツリッターが飛んできた右を見る。視線の先には、右手にクロイツリッターの剣を持ったニコイチが滞空している。

 

(まさか、投げたんですか?自分の倍近くある機体を?)

 

 半信半疑でそんなことを考えていると、

 

「!しまった!」

 

後ろのクロイツリッターは左腕をニコイチに向け、手首のミサイルを放とうとする。

 

「させません!」

 

各部のスラスターを吹かして瞬時に振り返り、アサルトマシンガンを向ける。

 が、

 

「!?」

 

ライカが銃口を向け切る一瞬前、ニコイチは右腕を後ろに引き、持っている剣――10メートルのニコイチが持つと途端に大剣に見えるそれを槍投げの要領で投げつけ、クロイツリッターの左脇腹から胴部を深く貫かせる。

 

(やはり投げたのか……見かけより馬力がある)

 

左腕を伸ばしたまま固まって墜ちていくクロイツリッターを見ながら、ライカは心底納得する。

 

「助かりました」

『お礼は後。来ますよ』

 

 光秋の言葉に応じる様に、3本の銃撃が2人に襲いかかる。

 撃ってくる内の1機に狙いを付けると、ライカは距離を保ちながら牽制をかける。

 

(先ほどから掠りもしていない。気を引く為なのか、下手なだけなのか……分かりませんね)

 

 狙いをつけたクロイツリッターを中心に、大きな円を描くように回り込む。アサルトマシンガンを単発モードに切り替え、1発1発を丁寧に撃つ。

 予備の弾倉は2つ。それが尽きるか、マシンガンを破壊されたら、あとは格闘戦になってしまう。

 そんなことを考えた直後、

 

(……え……!?)

 

ライカは一瞬、頭の中が白く瞬いたような感覚を覚える。

 

(今度は“当たる”)

 

敵機の銃口を見た瞬間、何故か確信に近い直感が脳裏を()ぎった。

 その直感に従い、ライカは倒していたスロットルレバーを引き戻し、メインスラスターの推力を落とす。すぐに両方の操縦桿を引き、ペダルは踵の方に踏み込む力を入れる。

 直後にやってきた車の急停止のような慣性に歯を食い縛り、ライカの視界からクロイツリッターが遠ざかっていく。

 遠ざかっていく視界と共に、クロイツリッターから放たれた銃撃がライカの真横を通過していく。もしあのまま牽制を続けていたら、今の攻撃はこの機体の排熱ダクトを貫き、近い内にオーバーヒートを引き起こしていた。

 

(何? さっきのは……?)

 

まるで今のシチュエーションを知っていたかのような動き。

 とりあえずライカはこの感覚の考察を後にして、戦闘に集中することにする。

 レーダーを見ると、現在の状況は1対3。クロイツリッターの1機がライカを真正面から相手取り、もう1機が左側面を押さえる。最後の1機が粘りのある支援射撃をするという布陣だ。危惧されるのは十字砲火に晒されること。

 何とか離れるべく、ライカは射撃用のパターンを選択しようとコンソールのタッチ画面を開こうとする。

 その時、また不可解なことが起こる。

 

突撃(アサルト)!? 何ですか、これ……!?」

 

 これが示すことはつまり、突撃が最適ということだ。確かにそれも選択肢として考えていた。だが、機体の損傷は確実だったために敢えて除外していたのだ。

 

「…………上等」

 

 ライカは謎のパターンをタッチし、ペダルを限界まで踏み込む。

 

「っ……!?」

 

 瞬間、襲いかかってくる強烈なGに一瞬気を失いそうになる。

 相対距離にして600はあったというのに、もう手を伸ばせば届きそうな距離まで詰めていた。

 当然、クロイツリッターが発砲してくる。

 しかし、ゲシュペンストは更に加速し、左腕のプラズマバックラーを起動させる。更に全身各所のスラスターが点火し、それによって上下左右に細かく動き、被弾を最小限に抑えていく。

 

(無茶苦茶な機動……!)

 

 そんな状況でも、ライカは冷静に左操縦桿を一瞬だけ引き、すぐ前に倒しす。思い描いたタイミングで、ゲシュペンストは左腕をクロイツリッターの胴体に叩き込む。

 1発、2発、3発。

 すぐにプラズマが引き起こした小爆発がクロイツリッターの胴体を蹂躙していく。

 ライカはすぐにスクラップの後方にいるクロイツリッターへアサルトマシンガンを連射し、接近しづらくする。今の戦闘機動を見れば迂闊に来ないだろうが、念には念を込めた。

 顔を動かし、左のクロイツリッターをロックオンする。

 と、メインモニターに赤い枠が8つ映し出される。両手首と両脚部から放たれたミサイルということに気づくや、一旦後方に下がる。

 下がりながらライカは向かってくるミサイルを照準内に収め、

 

「……今度はおかしなことは起きないようですね」

 

トリガーを引き絞り、着実に1発ずつ落としていく。

 全弾撃ち落とすと、ライカはアサルトマシンガンのアンダーバレルをミサイルを撃ったクロイツリッターへ向ける。敵はジグザグに動いたり、上下させたり、なかなか照準に入らない。

 

(速い……だけど)

 

 徐々に照準に収まっていく。

 横から別のクロイツリッターの銃撃が飛んでくるが、敵は自機より低い位置から撃っているので無視。

 

(もう少し……インサイト)

 

 照準が合った瞬間、迷うことなく人指し指のトリガーの1つ下にあるボタンを押す。アサルトマシンガンのアンダーバレルから、対PT用榴弾が放たれる。

 反動で一瞬立ちくらみに似たような感覚を覚えるものの、すぐに意識を敵機へ向ける。

 鋭く空を裂き、弾はクロイツリッターから(メインモニター)を奪う。

 

(もう一撃)

 

 そんな考えを持っていた時点で、ライカは自分の精神状態を冷静に振り返るべきだった。

 

「……しまった」

 

 アラートに気づかなかった。

 そんな初歩的なミスをしてしまったことに気づいた時には、既にクロイツリッターの接近を許していた。

 マシンガンを腰のハードポイントに納めて剣を引き抜くモーションをメインモニターで確認しつつ、ライカは操縦桿を握る力を強める。

 クロイツリッターのツインアイが妖しく光ったように見えた。

 

「私に接近戦(インファイト)を挑みますか……」

 

 ペダルを踏み込み、メインスラスターを最大出力まで持っていく。再び意識を刈り取らんと強烈なGがライカの体を襲うが、今度は耐えきった。

 

「ゲシュペンストの機体剛性を以てすれば……!」

 

 大質量同士がぶつかった結果、双方が大きく機体を仰け反らせることとなった。

 クロイツリッターとゲシュペンストの前部装甲がひしゃげる。

 ダメージコントロールもそこそこに、ライカはすぐさま十字架が描かれたクロイツリッターの胸部へプラズマステークを叩き込む。

 

(最後の1機)

 

 敵機の沈黙を確認するや、先ほど頭を潰したクロイツリッターを探す。

 直後、

 

「!」

 

アラートが鳴り響いて後ろを確認するや、頭部の左半分を失ったクロイツリッターが剣を持ってこちらに突っ込んでくるのを見る。

 

(間に合え!)

 

すぐに機体を振り返らせ、アサルトマシンガンを向ける。

 が、

 

「!?」

 

指を掛ける直前にクロイツリッターは荷電粒子砲に撃ち抜かれ、ゲシュペンストの間近で爆発四散する。

 

『ご無事で?』

 

直後に開いた通信に、ライカは上空のユニコーン・白を見る。

 その直後、

 

「!ホワイト2、後ろ!」

 

白の背後を取ったレリオンに、ライカは声を上げる。

 

 

 非特隊、ルミエイラ、所属不明機が混戦する空域から少し離れた所では、恭弥が光秋の命令に従ってルミナで援護射撃を加えていた。

 

「えぇい!当たらない!」

 

敵・味方が入り乱れる中に散発的にビームを撃つものの、未だ1発も当たらず、敵機の牽制に終始していることに苛立ちを覚える。

 と、

 

『!ホワイト2、後ろ!』

「!?」

 

ライカの声が通信越しに響くや、恭弥は上空に白の後ろを取ったレリオンを見る。

 それからの行動は速かった。

 

「一夏君!」

 

叫ぶやスラスターを全開にしてレリオンの左下に迫り、左肩をぶつけて弾き飛ばす。

 直後に放たれたレールガンは明後日の方向に飛んでいき、それで気付いた一夏は振り返るや雪羅でレリオンに殴りかかる。

 巨大なグローブとも言うべき雪羅の拳で頭部を吹き飛ばされ、加えてシルフィードがぶつかったことで所々不調が生じたらしいレリオンは戦線離脱していく。

 

『恭弥さん!?光秋さんからの命令は?』

「そんな言ってる場合じゃなかった!それに、君も言っただろう。僕ももう、守られてばっかりじゃないんだ!」

 

困惑する一夏に、恭弥はやや興奮気味に応じる。

 直後、

 

『ようやくやる気を出したか!シルフィードの操者(そうしゃ)よ!』

 

女の声が響くと同時にアラームが鳴り、上空からベネクティオが剣を振り下ろしてくる。

 

「!?」

 

咄嗟にルミナを出して受け止めるものの、ベネクティオの勢いに機体が押し出されてしまう。

 

『後ろでこそこそしているのが気に入らなかったが、やはりその機体の操者は自ら前に出てくれねばな!』

「!?……貴女はシルフィードの何を知ってるっていうんだ!」

 

少々の喜びを含んだベネクティオのパイロットに怒鳴って返すや、恭弥は渾身の力を込めて相手の剣を押し返し、両肩の近くに装備されているレーザーキャノンを発砲する。1発ごとの威力は低く致命傷は与えられないものの、牽制程度には使える。

 案の定ベネクティオは左手の盾で光弾を防ぎつつ、高度を上げながら後退する。

 しかし、

 

『この程度!』

 

距離を取るやベネクティオは剣を射撃モードに変形させ、シルフィードにビームを放つ。

 

「!」

 

迫りくる光弾に、恭弥は思わず固まってしまう。

 と、

 

『恭弥さん!』

 

叫び声と共に白がシルフィードの前に立ちはだかり、前に出した雪羅、その前面に張ったシールドでビームを打ち消す。

 

『何?』

 

その光景にベネクティオのパイロットは驚きつつも、すぐに次弾を連続で撃ち、さらにシルフィードと同じ位置に装備されているレーザーキャノンも連射する。

 それら全ては雪羅に達する寸前にかき消え、なんの損傷も与えないものの、一夏の表情には徐々に焦りが浮かんでくる。

 

『恭弥さん。今の内に離脱して』

「え?ビームは防げるんじゃ……」

『このシールドそう長く張れないんですよ。使い過ぎると白自体が動かなくなるし』

「そんな!」

 

一夏の説明に、恭弥はどうしていいかわからなくなる。

 離脱しようにもベネクティオは未だビームとレーザーを撃ち続けており、白の後ろから出れば途端に焼かれてしまう。その恐怖が、恭弥の次の行動を鈍らせるのである。

 と、

 

(アダム、何故私たちに刃を向けるの?)

「え?」

 

唐突に聞こえた女の声に、恭弥は思わず辺りを見回す。

 

(また空耳か?こんな時に!)

 

自身の場違いな感じ方に、奥歯を噛み締める。

 直後、

 

『えぇい!埒があかない!』

 

ベネクティオのパイロットが苛立ちの声を上げると、左手の盾の先を白とシルフィードに向ける。

 左右の側面に2つずつ備えられたハッチの1つが開くと、

 

『「!」』

 

小振りなミサイル、否、グレネード弾が発射され、2機の許へ飛んでいく。

 

(ビームが止んだ?今なら!)

 

思うや恭弥は白の影から上体を出し、レーザーキャノンでグレネード弾を火球に変える。

 しかし、

 

「!」

 

火球を突っ切ってベネクティオが迫り、近距離から剣の銃身がシルフィードに、盾のグレネード弾発射口が白に向けられる。

 

(やられる!?)

 

 そう思った直後、

 

「!?」

『今です!離脱を』

 

背後から飛んできたクロイツリッターがベネクティオに当たり、体勢が崩れた隙に恭弥は一夏に連れられて距離を取る。

 

『な、なんだ?』

 

 戸惑いながらもベネクティオは体勢を立て直し、再び恭弥たちに銃身を向ける。

 が、

 

『!?』

 

いつの間にか接近していたニコイチが右拳を放ち、寸前に盾で防ぐものの後ろに吹き飛ばされてしまう。

 

『そんな……馬鹿な!?……』

 

大きな凹みができた盾と周囲の状況――クロイツリッターの全滅を確認し、ベネクティオのパイロットは驚愕の声を漏らす。

 

『たった4機、否、実質3機にクロイツリッター12機が全滅だと?お前たち、何者だ!?』

『非常事態特殊対策部隊、通称・非特隊。その主任……とりあえず、「白い犬」、とでも名乗っておきましょうか。すでに勝敗は決しました。これ以上は無駄死にですよ。大人しく投降しなさい』

 

光秋の呼びかけに合わせて一夏と、近くに移動してきたライカが各々の射撃武器をベネクティオに向け、それに倣って恭弥もルミナの銃身を向ける。

 しかし、

 

『誇り高き騎士の末裔である私が、敵に降るなどできるか!』

 

叫ぶやベネクティオは残り3発のグレネード弾を乱射し、それを避ける為に非特隊が体勢を崩した間に戦線離脱する。

 ある程度距離を取ると、ベネクティオの前に現れた時と同じ穴が開き、入るやすぐに消えてしまう。

 

「逃げた、か…………」

 

ベネクティオの離脱を以てこの空域での戦闘は終了し、そのことを理解した恭弥はルミナの刃を閉じながら安堵の声を漏らす。

 

 

『結局逃げられたか。ルミエイラってのにも、所属不明機にも……もっとも、追える余力も無いですが』

「ですね……」

 

 愚痴る様に呟く光秋に応じつつ、ライカは最後のレリオンが戦線離脱する様子を眺めている。

 混戦の中で被弾したのか頭部は無く、足取りもどこかぎこちない。

 

「……どこの部隊なんでしょうかね」

 

そう呟きながら、ライカは徐々に小さくなっていくレリオンをターゲットに入れてみる。

 その瞬間、

 

「な……!? また!?」

 

再び異常が発生し、すぐに機体のコンディションチェックをするが、ウィンドウを開いたライカはその内容に言葉を失う。

 

「『CeAFoS』起動……。シーフォス……なんの事?」

 

 答えはすぐに返ってきた。

 

「何ですかこれ……!? 機体の制御が!」

 

 両肩部スラスター下と脇下のハッチが開かれ、スラスターが現れる。

 ペダルを踏んでもいないのに推力が上昇し、ゲシュペンストは手負いのレリオンへ真っ直ぐ向かい始める。

 

『バレット1?何を!?』

「機体が勝手に!……バックラーが起動した……まずい……!」

 

 顔に汗を浮かべながらライカは動力供給をカットしようとするが、反応は無し。ならば、と強制停止のコードを打ち込むも、まるで聞く耳を持たないようだ。

 

「う、わぁぁ……!!!」

 

 いくつものイメージが脳裏に浮かんでくる。ちらちらと、まるでスライドショーのように場面が変わっていく。そのどれもが、今この状況と酷似していた。

 

「これは……さっきと同じ……!!」

 

 堪らずヘルメットを脱ぎ捨てる。脱いだ瞬間、氾濫しそうなイメージの海を抜け出せた。

 が、機体はレリオンを猛追するのを止めない。

 いろいろ試したが、それでも帯電したステークがレリオンの背部に迫るのを止められない。

 

「駄目――!!」

 

思わず絶叫し、駄目もとで操縦桿を一杯に引く。

 その直後、

 

『ミヤシロ中尉ぃぃぃ!』

 

赤い尾を引いたニコイチが2機の間に割って入り、節々から赤い燐光が漏れる右腕でゲシュペンストの左腕の軌道を逸らす。同時に左腕を胸部に当て、増設されたスラスター出力にも負けない力で機体を押し止める。

 ステークが3回爆ぜる間にレリオンは完全に離脱し、機体の強制冷却(クールダウン)が始まる。

 水蒸気に機体が包まれる中、燐光が消え、節々がカバーに覆われたニコイチが頭突きの様に頭部を押し当ててくる。

 

『何してるんですか貴女は!戦闘能力を失った者を攻撃するなんて、虐殺ですよ!』

「暴走……? いえ、それにしては余りにも無駄が無さ過ぎる……!」

 

光秋の怒声にも気付かず、ライカは未だ混乱する頭でなんとか状況を理解しようとする。

 そんな様子と、映像越しの顔色で察してくれたのか、光秋は機体を揺すってさっきよりも冷静な声で呼びかける。

 

『ミヤシロ中尉』

「え?……はい」

『とりあえず、輸送機に向かいましょう。ちょうど迎えが来てくれた様だ。そのまま伊豆に向かいます。詳しいことは機体を降りてから話しましょう』

「……了解」

『ホワイト2、バレット1の牽引を。冷却はまだ終わらない様なので』

『わかりました』

 

光秋の指示に応じた一夏がゲシュペンストの右腕を肩に回し、そのまま怪我人を介抱する様に光秋が手配を頼んだ輸送機へ運んでいく。

 輸送機に接近するまでの間、ライカは操縦桿から手を離そうとしない。

 

「あ……」

 

 ふと耳を澄ましてみると、未だに続いている排熱の音が、まるで泣いている様だった。

 もちろん聞き間違いかもしれない。

 だが、今のライカには不思議とそうとしか聞こえなかった。

 

 

 輸送機・レイディバードに接近した恭弥は、光秋からの通信を受け取る。

 

『ホワイト3、君が先に着艦しなさい。人型機動兵器ならそうでもないですが、離艦より着艦の方が難しいので、充分注意するように』

「了解」

 

 応じると、恭弥はシルフィードをレイディバードの後部に寄せ、速度に注意しつつ慎重にハッチをくぐる。

 

「ふぅー……」

 

両足を床に着いて完全に着艦すると安堵の息を漏らし、奥のハンガーにシルフィードを納める。

 ハッチを開いてコクピットから出ると、冷却を終えたゲシュペンストが滑らかな動きで着艦するのを見る。

 

「上手いもんだなぁ。さっきはどうなるかと思ったけど」

 

そんな感想を呟くと、恭弥はワイヤーを伝って格納庫に降りる。

 シルフィードの向かいのハンガーにゲシュペンストが納まると、白がシルフィード同様やや慎重な動きで着艦する。

 それと同時にゲシュペンストのハッチが開き、恭弥と同じパイロットスーツを着たライカがワイヤーで降りてくる。

 

(……美人だなぁ)

 

それが、ヘルメットを脱いで顔つきがよくわかるようになったライカに対する恭弥の第一印象である。

 黄色系の特徴を備えた顔は若々しく、昨日までの自分がそうであったように学生と言っても通用するだろう。程よい長さに伸ばした黒に近い赤毛はザックリとまとめられており、犬の尻尾の様な愛らしさがある。

 そうして見惚れている間に白がシルフィードの隣のハンガーに納まり、狭いハッチを器用にくぐって白式を着けた一夏が降りてくる。恭弥のそばに来ると一瞬輝き、次の瞬間にはスーツ姿で佇んでいる。

 

「すごいね、ソレ」

「白式。白と同じ俺の相棒です」

「今の装備が一瞬で消えたの、新しいEOTですか?」

 

ワイヤーから降りて2人の許に歩み寄ってきたライカも話に加わる。

 

「え?……えぇまぁ、そんなところで……」

「?……」

 

言葉に困った様に応じる一夏に、恭弥は首を傾げる。

 それをあまり気にせず、ライカは話を続ける。

 

「ライカ・ミヤシロ中尉です。危ないところを助けていただきありがとうございます」

「いえ、仲間を助けるのは当たり前ですから。あ、織斑一夏曹長であります」

「桂木恭弥……一応曹長であります」

 

頭を下げて礼を言うライカに、2人は少し照れながら応じる。

 

「『仲間』、ですか……」

「……」

 

どこか悩ましい顔で一夏の言葉を反復するライカに、恭弥はまた見惚れてしまう。

 その間にもニコイチが着艦し、3人のすぐそばに膝を折ると、ワイヤーを伝って光秋が降りてくる。

 降りるや光秋は3人に背を向け、懐から出したなにかをニコイチに向けて光線を放つ。光線が当たるとニコイチは光秋の手元に吸い込まれ、手に持ったなにかを懐にしまう。

 

(ま、どっかから出したんだから、当然どっかに消せるよな……)

 

すでにこの手のことに慣れつつある恭弥がそんなことを考えると、光秋は3人の方へ振り返る。

 

「改めまして、非特隊主任の加藤です」

「ライカ・ミヤシロ中尉であります。先ほどは危ないところを助けていただき、ありがとうございました」

 

光秋の挨拶に、ライカは敬礼で応じる。

 

「いいえ。当然のことですよ…………それで、さっきのあれはなんです?」

 

少し間を置いて、光秋は鋭い視線を向ける。

 

「私にもよくわかりません。レリオンに照準を合わせた途端、機体が勝手に動き出して……止めようといろいろやってみましたが、こちらからの操作を一切受け付けませんでした」

「暴走、ですか?……」

 

ライカの説明を聞いて視線の鋭さを収めた光秋は、腕を組んでゲシュペンストを見上げる。

 

「ま、それについては伊豆に帰ってからゆっくり調べますか。少なくとも、あれがミヤシロ中尉の意思でないことがわかっただけでひと安心です」

「……ありがとうございます。虐殺を意欲的に取り組む程、私は心に余裕を持って戦闘はしていませんので」

「余裕、ですか……いや、それはいいか……さて、次は桂木曹長」

「は、はい!」

 

 極僅かだが怒気を含んだ呼びかけに、恭弥は体を硬直させる。

 

「僕は確かに言いましたね?後方からの援護射撃をしろ、あまり前に出るなと。()()だと」

「はい…………でも、あぁしなければ一夏く……織斑曹長が危なかったから――」

「しかし結果的に、中途半端なところで怖気づいて彼と自分をさらに危険な目に遭わせた」

「それは…………」

 

遮る様に言われた指摘に、恭弥は言い返せなくなる。

 

「いいですか。僕たちはチームで動いてるんです。1人が勝手な行動を取れば全員に危険が及ぶ。君も組織の一員になった以上、それだけはよく覚えておいてください」

「…………はい」

 

決してわからないことを言われたわけではない。わかることだからこそ、恭弥は俯いて力無く応じるしかない。

 と、

 

「とまぁ、大人として、上官としての説教はここまでにして……ここからは私人としての言葉です」

 

言いながら光秋は表情を和らげ、恭弥の両肩に手を置く。

 

「やり方に問題はあったが、仲間を守る為に進んで行動する奴は好きだ。ますます気に入った。今後は『恭弥君』と呼ばせてくれ」

「え?……あ、はい!」

 

突然の態度の変化に戸惑いながらも、恭弥はよく通る声で応じる。

 

「そういう気持ちは大事にしなさい。もっとも、技量が追いつかなければ元も子もないからねぇ……伊豆に戻ったら楽しみだ!」

「!……」

 

最後の方は悪寒を感じさせる笑みで言うと、光秋は手を離して一同を見回す。

 その間に恭弥は、隣の一夏に耳打ちする。

 

「ねぇ、シュウさんてさ……まさかのS?」

「いや、俺もそこまでは……」

「さて」

 

 そこで光秋が話し始め、2人は会話を中断する。

 

「諸々の確認はこれくらいにして、みんな疲れてる様だし休みますか。ミヤシロ中尉と恭弥君はキャビンに行きなさい。一夏君、悪いが白のコクピットに上げてくれ。僕たちはそこで寝よう」

「了解です」

「では、各自解散」

「「「!」」」

 

光秋の言葉に一同が敬礼を返すと、ライカと恭弥はキャビンへ、光秋と一夏は白の許へ向かう。

 

 

 白式を展開した一夏は光秋を抱えると、2人で白のコクピットに入る。

 一夏が白式を解除している間に、光秋は携帯電話のアラームを設定する。

 

「……」

「大丈夫ですか?」

「なんとかねぇ……やっぱりあれは、短い時間に多用するもんじゃないな」

 

疲れを浮かべる光秋に一夏は労いの言葉をかけ、光秋がそれに返すと、2人はそれぞれ脱いだ上着を掛け布団代わりにして横になる。

 

「僕は報告書書かなきゃいけないから途中で起きるけど、一夏君は伊豆に着くまで寝てていいから」

「そうさせてもらいます。おやすみなさい」

「おやすみ」

 

 お互い欠伸混じりに言って少し経つと、2人は完全に寝入ってしまう。

 それだけ疲れていたということだろう。女性と2人きりになった年頃の男子の心情に頭が回らないくらいに。

 

 

 キャビンに移動したライカと恭弥は、疲労感から着替えもせずにそれぞれ簡易椅子に体を横たえる。

 イメージの海が余程負担だったのか、ライカはすぐに熟睡してしまう。

 が、

 

「……」

 

向かいに寝転ぶ恭弥は、疲れているにも関わらず、目の前の光景の所為で寝付くことができない。視線の先には、自分と同じ体のラインが浮き出るパイロットスーツを着たライカがいるからである。

 自己主張の少ない引き締まった体は、猫の様な妖しい魅力を与えてくる。若々しい顔つきは、束ねた髪と合わさって美しさの中にも可愛さを感じさせる。規則正しく繰り返される寝息は、軽く目を閉じた寝顔と相まっておとぎ話の姫君の呼び声に聞こえてくる。そして……要するに、恭弥はライカに一目惚れしてしまったのである。

 

(…………!いけない!)

 

流石にこのままではいけないと思い、とりあえずライカに背を向ける。

 が、そうすると寝息だけが聞こえる所為で余計にいろいろ考えてしまう。

 

(ど、どうする?どうする恭弥?…………そ、そうだ!こういう時は円周率を数えればいいだ。なんかでそう言ってた。よし!……3.14!3.14!3.14!3.14!3.14!…………)

3桁だけの円周率が、恭弥の頭の中を延々と回り続ける。

 

 

 こうして眠りについた3人と妙に興奮している1人を乗せたレイディバードは、ライカがもともと乗っていた機の後を追って一路伊豆基地を目指すのだった。




オマケ(一条 秋)

一夏「……」
恭弥「どうした一夏君?難しい顔して」
一夏「いや、ユニコーンとかバレッタとか、この作品の俺って完全にネタ要員だなと思って……」
恭弥「仕方ないだろう。君は唯一の版権作品主人公なんだから。ある程度いじられるのは宿命だよ」
一夏「それはそうですけど……ま、参戦作品の時点でネタ要員だったからな。というわけで、『白き一角獣VS白い犬』もよろしくお願いします!」
恭弥「…………いいなぁ。僕もそういうのやりたいなぁ……」
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