新西暦76年某日。
ある山奥の村が炎に包まれていた。
『ガアアアアアアア!』
燃え盛る炎に照らされ、赤、青、紫色の装甲を纏った巨大な機械――鬼数体が家屋を蹂躙し、逃げ惑う人々を炎で焼いていく。
悲鳴が辺りに響いたその時、雷と共に鬼たちの背後にナニかが降り立つ。
『ガア!?』
人、いや、巨人が一歩、また一歩踏み出す度に、辺りの炎がその姿を照らしだす。
頭には桃を模したアンテナが左右に大きく広がり、その体を陣羽織を模した装甲、両腕には猿と犬、胸には雉の顔を型どったエンブレムが輝いている
ソレを見て鬼は本能的に恐れた。コイツだけは相手にしてはいけない、と。
『……お前が、お前がやったのかあああああ!!』
陣羽織が金属音と同時に羽を広げた様に開き、一気に加速する。
間合いを詰めたソレ――彼は拳を大きく振りかぶり、鬼を殴る。ひたすら殴る。
『ウオオオオ!モンキーラッシュ!』
『ガ、ガアア……ア……ア……』
猿を模した拳の連激を受けた紫色の装甲は砕け散り、オイルを血のように流す鬼はふらふら後退りする。
彼が手をかざすと、光が集まり巨大な剣が現れる。半透明な刃には古代文字が刻まれ、構えると同時に輝きを増し、地面を蹴り空高く舞う。
『……
大きく上段に構え、凄まじい加速と同時に紫の鬼の体を真っ向両断するや否や、鬼の残骸は大爆発を起こす。
しかし、彼の体は傷ひとつなかった。
『くそ、何で……何でこんなことに…………ウアアアアアアア!!』
剣を地面へ突き刺し膝を着く彼の叫びが辺りに木霊するのと同時に、ポツポツと雨が降り始める。その赤く輝く瞳から流れ落ちる雨水は、まるで涙の様だった。
この日を境に、世界各地に謎の機動兵器勢力――鬼が出没し、人々の住む場所を襲撃する事件が相次ぐようになる。
同時に、白い巨人が鬼の拠点を潰して回っているという噂が流れるようになった。
新西暦80年4月上旬。
伊豆基地を発したレイディバードは、一路横浜を目指していた。
その格納庫には4機の機動兵器が納まり、その内の1機、シルフィードの操縦席に座るパイロットスーツに身を包んだ恭弥は、制服の上に防弾ベストとプロテクターを着けた光秋の説明をモニター越しに聞く。
『ランドルフ司令からの指示を伝える。現在横浜にて鬼数機が破壊活動を行っている。非特隊は現場に着き次第、非政府防衛組織・ヴァルキリーズと共にこれを鎮圧せよとのことだ。ちなみに、今回横浜基地からの援軍は期待できない。PDでは鬼にはまず敵わないし、航空戦力のリオンは前回の戦闘でほとんど大破してしまったからな』
(鬼か……いきなり有名どころが来たな)
映像越しの光秋の緊迫した表情に、恭弥は知らぬ間に生唾を飲む。鬼の存在そのものはニュースでさんざん取り上げられていたので一般常識として知っているものの、実際に自分が戦う、しかも正規の軍人としての初陣の相手となれば、緊張するなというのが無理な話である。
と、直後に非特隊全機にレイカーから通信が入る。
『諸君、急いでいるところすまないが、君たちの針路上の街で機動兵器によるテロが発生した。現場に一番近いのは君たちだ。隊の一部をそちらに向かわせて欲しい。詳しい判断は加藤大尉に任せる』
『こんな時にテロ……いえ、了解しました』
不満そうな顔をしたのも一瞬、光秋の意思を表す様に、シルフィードの正面のハンガーに納まるニコイチが3機を見回す。
『……よし。僕と桂木曹長が行く。2人は予定通り横浜へ向かえ。そっちの指揮はミヤシロ中尉に一任する』
『了解』
(テロ阻止か。よかった。鬼よりましだな。でも……ライカさんと一緒に戦えないのか)
光秋の指示に応じるライカの声を聞きながら、恭弥は少し残念に思う。
と、右隣のハンガーに納まるユニコーン・白を見やり、一夏にプライベートチャンネルを繋ぐ。
「一夏君」
『恭弥さん?今作戦中ですよ?』
モニターに映る×型のバレッタに白式を纏った一夏が、光秋たちの方を気にしながら小声で応じる。作戦中の私用無線は禁止とされている以上当然の反応といえる。
「わかってる。どうしても言っておきたいことがあってさ…………ライカさんを頼んだよ」
『わかってますよ。仲間を守れなくて、なにが男だ!』
落ち着いた、しかし熱の籠った返答をしつつ、一夏は微笑みを浮かべる。
(男の友情ってやつかな?)
それにつられてか、恭弥も笑顔で親指を立てて応じ、ばれる前に通信を切る。
直後に光秋の指示が飛ぶ。
『送られてきた情報によると、そろそろテロの現場だ。桂木曹長、出撃準備を』
「了解」
努めて冷静に応じると、恭弥は光秋の後を追って開放された後部ハッチへ向かう。
『それじゃあ、そっちも気をつけて。ホワイト1、出ます!』
残った2人への気遣いを最後に、ニコイチは空へと飛び立つ。
(大丈夫。ライカさんが教えてくれて、一夏君と一緒に学んだ操縦なんだ。落ち着いて行けばやれる!)「ホワイト3、行きます!」
呼吸を整えるや恭弥はペダルを踏み込み、シルフィードを離艦させる。
『こっちだ。行くぞ』
「はい!」
光秋に応じると、恭弥はニコイチの後を追ってテロの現場へ向かうのだった。
数分後。
(もうすぐだな……)
徐々に近づいてくる現場を意識しながら、一夏はモニター越しに先ほどからずっと目を固く閉じているパイロットスーツ姿のライカを見る。
(精神統一ってやつか?……俺もやっとこうかな?)
そう思った直後、レイディバードの操縦士から通信が入る。
『間もなく現場上空に差しかかります。出撃の準備を』
『了解』
「了解」
目を開けて応じたライカに続いて返すと、一夏は白をハンガーから出して再び開放された後部ハッチに向かわせる。
右手にM90アサルトマシンガンを持ち、臀部にPT用のバズーカを、腰回りに各種予備弾倉を懸架した灰色のゲシュペンスト――シュルフツェンが右隣に並ぶと、ライカから注意を受ける。
『研修で習ったと思いますが、鬼は武装が強力で馬力もあります。充分注意してください』
「了解です」(恭弥さんにも頼まれたんだ。俺がライカさんを守らないと)
恭弥との会話を思い出しながら、心中に決意を固める。
と、
『……一夏』
「はい?……てっ!?」
ライカの呼びかけに応じて顔を向けるや、白の額にシュルフツェンの左手でデコピンが飛んでくる。白式と繋がっているケーブルを介して、一夏自身の額にも薄っすら痛みが走る。
『私の方がこの仕事長いですし、鬼とも何度か遭遇したことがあります。貴方が守らなければと気負う心配はありません』
「はぁ……」(いつものことだけど、なんで俺の考えてることはすぐにわかるんだ?)
あくまでもリラックスさせるつもりで言っているライカに応じつつ、一夏はよく抱く疑問を思い浮かべる。
『それよりも、打ち合わせ通りに頼みますよ。期待しています』
「……はい!」(そうだ。一緒に戦うんだ……だったら、その期待に応えてみせる!)
ライカの激励に決意を改めると、一夏は適度な緊張を含んだ目で機体の最終チェックを行う。
『……それでは。バレット1、出ます』
「ホワイト2、行きます!」
同時にレイディバードを飛び立つと、2機は並んで現場へと急行する。
地上が近づくにつれて、煙を上げる建物や瓦礫の山、その中央に陣取る鎧をつけたゴブリンの様なPTほどの大きさを誇る機体――鬼たちがはっきり見えるようになり、照会されたデータが表示される。
『
「了解!」
ライカの注意に一夏が応じると同時に、ヴァルキリーズ所属の鬼から回収した技術を流用したPTのスピンオフ機種――
『そこの戦機人、聞こえますか?こちらは連邦軍非特隊所属のライカ・ミヤシロ中尉です。これより共同で鬼の鎮圧に当たります』
『ヴァルキリーズ極東支部第四分隊隊長のノゾミ・カワシマです。協力に感謝――』
「危ない!」
話しの途中にこちらに気付いた砲鬼が腹部砲口から荷電粒子砲を放ち、咄嗟に指揮官用戦機人の前に躍り出た一夏は雪羅のシールドでそれを防ぐ。
「大丈夫ですか?」
『え?……えぇ。ありがとう。助かったわ』
パイロットの声を聞くと、一夏はシュルフツェンに視線を向ける。
「ミヤシロ中尉!」
『えぇ。早く始めましょう。まずはあの砲鬼を。打ち合わせ通りに行きますよ』
「了解!」
念を押す様に言うライカに応じると、一夏は砲鬼に狙いを定め、雪羅を前に出し、ウィング・スラスター4基を吹かして接近する。
『ガアアアアアアア!』
砲鬼は充填率一杯に溜めた腹部荷電粒子砲を放って応戦するが、灼熱の濁流も白のシールドの前に消滅してしまう。
そうして砲鬼の真ん前まで距離を詰めた瞬間、白が急上昇すると、その影からを左腕を腰に引いたシュルフツェンが現れ、帯電したプラズマバックラーを露出した半透明の球体――収束レンズに叩き込む。
『ガアアアアアアア!!』
レンズを突き破ったステークは高出力の電撃を体内に流し、各部を蹂躙された砲鬼は断末魔を上げてその巨体を爆発させる。
爆発の光が周囲を照らす中、ライカは前部スラスターを吹かして急速離脱する。
(シュルフツェン。やはりいい機体ですね。これで『CeAFoS』なんてものがなければもっといいのですが……)
増設されたスラスターによって高速戦闘に特化した白にもついていけるシュルフツェンの性能に、改めて感心する。
同時に、
(……妙な映像は浮かんでこない。大丈夫なようですね)
『CeAFoS』の封印が上手くいっていることにひとまずの安堵を覚える。
「バレット1よりホワイト2。エネルギーの方は?」
『まだ許容域です。行けます!」
「ならば、この調子であと2機行きますよ」
『了解!』
自機の許に寄ってきた一夏の応答を聞くと、ライカは次の標的を探す。
一連の光景を見ていた第四分隊の面々は、既に現場にいるにも関わらず、思わず唖然としてしまう。
『凄げぇ!……あっと言う間に砲鬼を潰しちまった……』
『絶対的な防御力を持つ機体を前にして接近、零距離から確実かつ強力な一撃を叩き込んで一気にケリをつける。両機の性能、特に機動性を活かした戦い方もそうだけど、一番の武器はそれぞれの役割を明確化した連携』
日焼けが目立つ女性――アキラ・アマネの漏らした驚嘆に、黒髪の女性――ミオ・カンザキが冷静な分析を述べる。
栗色の長い髪を藍色のリボンで止めた第四分隊隊長――ノゾミ・カワシマも束の間圧倒されるものの、すぐに気を取り直して各機に指示を飛ばす。
「ぼーっとしてないで、私たちも仕事にかかるわよ!アキラとサヨコは民間人の避難誘導と護衛、ミオは私と鬼の牽制、アカネは状況報告を」
『『『『了解!』』』』
事前に決めていた役割分担を伝えると、各戦機人はそれぞれの仕事に取りかかる。
直後、
『た、隊長!空が!?』
「!?」
ウルフカットにした栗色の髪を右側でカラフルな髪止めでまとめている妹――アカネ・カワシマの動揺に空を見上げた瞬間、ノゾミは絶句する。
自分たちの上空が歪んで黒い大きな穴が空いたかと思うと、そこからデータに無い黒い鎧の様なロボットがぞろぞろと現れる。
『クロイツリッター?ルミエイラですか?』
『こんな時に!』
(……ルミエイラ?)
無線越しに聞こえたライカの呟きと一夏の苛立ちに、知らぬ間に心の中で繰り返す。
次の瞬間、
『!?……コイツ!』
『やめろぉ!』
雑鬼に試作レールガンの狙いをつけようとしていたミオ機を上空から黒い鎧――クロイツリッターの銃撃が襲い、急接近した白が脇から雪片を突き刺して沈黙させる。
と、今度は雑鬼の背後から接近していたシュルフツェンにミサイルが殺到し、やむを得ず攻撃を断念したライカはアサルトマシンガンで撃ってきたクロイツリッターに応戦する。
「コイツら……鬼を守ってる?」
一連の状況を見て出した考えに、ノゾミ自身驚いてしまう。
非特隊側の様子を見る限り、穴から現れた勢力――ルミエイラと鬼は別物と判断できる。だからこそ、他の勢力が鬼に――人々の営みを破壊することしかしない鬼に助力する意図がわからないのである。
「……コイツら、狂ってるの?」
思わずそんな言葉が漏れてしまう。
そして、
『ノゾミ隊長!新たな鬼が私達の後方距離20に1出現……照合結果…………しょ、
追い打ちをかける様に響いたアカネの報告に、いよいよ動揺しそうになる。
(あり得ない、将鬼は拠点にのみ存在する機体………なぜここに!)「……今は民間人の避難誘導を優先します!将鬼相手に戦いを挑まないで!!」
『『『『りょ、了解』』』』
「非特隊のみなさんもいいですね!」
『了解しました。私たちはクロイツリッター、あの黒いロボットを迎撃します。そちらは避難誘導と鬼を頼みます。織斑曹長、行きますよ』
『了解!』
ライカんの指示に一夏が応じると、シュルフツェンと白は総勢19機のクロイツリッターの軍団へ向かう。
それを見てきちんと気を取り直し、後方に存在する将鬼に警戒しながら、ノゾミはミオに指示を出す。
「ミオ、雑鬼兵を射線上に誘導できる?」
『……出来ます……では行きます』
応じるや、ミオ機は持っている試作レールガンで注意を向ける射撃を行う。途中でクロイツリッターの銃撃に襲われるものの、駆けつけた白がそれを引きつけてくれたことでなんとか指定された射線上に雑鬼2機を誘導する。
(後少し……)
ターゲットスコープに2機が並んだ瞬間、ノゾミは引き金を引き、試作レールガンの砲口っから黄色い閃光を伴った弾体が放たれる。
一般的な機動兵器も含めた通常兵器では歯が立たない鬼の装甲を抜く為に威力を上げた試作レールガンの一撃は、2機の胴を易々と同時に貫き、巨大な火球に変える。
「ミオ、お疲れ様……」
『いえ…………隊長!将鬼が動き出しました!!』
ミオが叫ぶや否や、背後から地面を凄まじい速さで駆けてくる将鬼を確認する。雑鬼や砲鬼よりも一回り大きく、より凶暴な外見をした鋼鉄の怪物が自分たちの許へ近づく様は、モニター越しでも心臓に悪い。
ノゾミは操縦幹をグッと握りしめて対抗策を考えるが、明らかにこちらが分が悪い。
「各機、散開し距離を一定に……キャッ!」
指示の途中で激しい振動と空を舞う感覚を覚え、モニターにノイズが走った後に激しい衝撃が襲う。
体が前後に揺れ、固定具が嫌な音を上げる中、ノゾミは機体各部の被害状況をチェックする
(腰椎アクチュエーターに損傷、右腕、両脚駆動系完全途絶……通信系は大丈夫か……非特隊は……手が離せないようね)
各部にアラートが赤く表示されるのを確認し、未だクロイツリッターたちと混戦を続けている2機をモニター越しに見ると、ノゾミは冷静に通信を開く。
「第四分隊は民間人の避難誘導と同時に現状より撤退……」
『お、お姉ちゃん……今そっちに――』
「来ちゃダメ!」
自機に駆け寄ろうとするアカネを止める様に声を張り上げる。
「今来たら全員将鬼に殺されるわ……それに犠牲は少ない方がいいわ」
『で、でも……嫌だ、嫌だよう……』
「アキラ、ミオ、サヨコ、アカネを連れて直ちに撤退、いいわね」
『…………は、はい……いくぞアカネ』
『待って!みんな?離してよ……離して!!』
アカネの機体にミオ機、アキラ機が張り付きブーストジャンプしてこの場から離れていくのを見届けると、ノゾミは不思議な気持ちになった。死が間近に迫っているのに心が穏やかになっている。
モニターに目を向けると、将鬼が目を緑色に光らせながらゆっくりと近づき、胸部装甲を開いて収束レンズがせり出し、光が集まってくる。
(……ああ、最後に
凶暴な輝きを増していく光を見ながら、4年前に音信不通になった幼馴染の顔が脳裏に浮かぶ。
ライカと共にクロイツリッターの軍団に向かった一夏は、後方に地上の戦機人に攻撃を加える2機を感知する。
「お前らぁ!」
叫びと共に反転して加速すると、それに気づいた2機は銃口を白に向ける。
が、
「!」
その時には間合いを詰めた白が振り下ろした雪片で1機を頭から両断し、もう1機の銃弾を多少受けながらもその胸部に切っ先を突き刺す。
(最初に墜としたのと合わせて3機。あと17機!)
そう思うことで圧倒的な数に憂鬱になりそうな心を奮い立たせ、マシンガンを撃ちながら迫ってくる1機をすれ違いざまに斬り墜とす。
「あと16機!」
声に出すと共にライカの方へ顔を向けると、アサルトマシンガンで牽制した1機に急接近して左手のジェットマグナムを叩き込み、後ろから剣を抜いて迫ってきた1機に振り返りざまに銃撃を浴びせて蜂の巣にしている。
(ライカさんて、やっぱすげぇ!……)
初めて一緒に戦った時と訓練の時にも少なからず感じたことであるが、場数を踏んできたことがわかる大胆かつ的確な動きにどうしても感心してしまう。
そうしている間にこちらの視線に気づいたのか、接近してきたシュルフツェンが背中合わせに機体を寄せる。
『こちらは3機堕としました。そちらは?』
「最初のも入れて4機。あと13機ですね!」
雪羅の荷電粒子砲の砲口を向けて牽制しつつ、順調に数が減っていくことにひとまず安堵する。
『そんなに喜んでもいられませんよ。先ほどマシンガンの弾倉を交換しました。予備はあと1つ。それも無くなればこちらの射撃武器はバスーカのみになります』
「その時は、俺の雪片で片っ端からぶった斬ってやりますよ!」
ライカのシビアな報告に自身を奮い立たせる様に返すと、一夏は付け入る隙がありそうなクロイツリッターを探す。
その時、宙を舞い地面に倒れ込む戦機人と、それに迫り寄る将鬼が目に入る。
「不味い!」
逃げる気配の無い戦機人に不調を察するや、一夏は両者の間に割って入ろうとする。
が、正面にクロイツリッターたちが立ちはだかる。
「退けぇ!お前らの相手してる場合じゃないんだ!」
叫びながら手近の1機に斬りかかるものの、相手も剣に持ち替えて鍔迫り合いになる。
さらには両側からマシンガンを構えた2機が迫り、咄嗟に斬り合っている1機を蹴って距離をとる。
(間に合え!)
戦機人の間近まで迫った将鬼に、「間に合わないかもしれない」という不安に襲われるものの、それを振り払う様にウィング・スラスターに意識を向ける。
直後、
「!?」
白を介してライカやヴァルキリーズ、鬼やクロイツリッターとは違う気配を覚え、一瞬後に戦機人と将鬼の間に割って入る白い影を見る。
(白い……武者?)
将鬼の胸部レンズから荷電粒子砲が放たれ、身動きがとれないノゾミの戦機人を襲う。
が、
(…………熱くない?)
戸惑う間にも策敵センサーに別の反応を知らせる電子音が響き、モニターにPTほどの全長を誇る白い武者が映し出されているのを見る。
武者は腕に不可視の障壁を展開し、まるでノゾミを灼熱の暴風雨から守るように立ちはだかっていた。
『おい、動けるか?』
男の声で――おそらく白い武者から――通信が入る。
「え!?ダメ……各部のシステムと駆動系がダウンして動けない……て?言うかあんたこそ早く逃げな――」
『…………動けねえか……クッ!』
武者が唸った直後、不可視の障壁に亀裂が入り広がっていく。
もうダメだと思った時、将鬼の頭に白い何かがぶつかる。
「――――――――!?」
『アオオオン!』
雄叫びを上げるメカニカルな白い犬が地面に降り立つと同時に、新たな反応が空と陸に現れ、辛うじて生きているカメラで見て驚く。
『キキ!』
『クェクェ~!』
空には金に黒地のカラーリングのメカニカルな雉が、崩れたビルの上には赤を基調としたメカニカルな猿が、将鬼を囲む様にいる。
(いつの間に現れたの!?)
ノゾミが驚愕する間にも、武者は通信越しに呼びかける。
『遅いぜみんな。あんたに言っておく……こいつらを叩き潰すのが俺の専門だ。ちょっかい出すようなら上の鎧どももな……障壁を張るからここから動くなよ…………いくぞ!』
『ワウ!』
不可視の障壁がノゾミの戦機人の周りに展開したのと同時に、武者は地面を蹴り将鬼の顔面目がけ殴りかかる。
堪らずふらつく将鬼の姿に唖然となるが、追撃と言わんばかりに赤い装甲が目立つメカニカルな猿の背中から長身のレールガンが展開して駆けながら連射し、黒地に金の装甲をもつ雉が翼からレーザーを雨のように降らす。
雉が放ったレーザーは迫っていたクロイツリッター数機をも巻き込み、射線上に火球を咲かせながら地上に降り注ぐ。
『ガアアアアアア!?』
地上からはレールガン、空からはレーザーの雨に堪らず膝をつく将鬼の眼前に、ゴキゴキと指をならしながら白い武者が歩み寄ってくる。
その姿に、鬼の本能が恐怖を訴えてくる。
――コイツは俺たち……鬼の敵だ……まさか、まさかアイツは……。
その名を思い浮かべるだけで体は震え、思考が恐怖に支配される。
が、自身を奮い立たせると、将鬼は最後の切り札を使う。
『ウ、ウウ……ウガアアアアア!!』
体を大きく震わせながら内側から量子分解された駆動系が増設され、装甲が膨れ上がり獣に似た姿へと変わるや否や、白い武者をその何倍にも強化された拳で殴りビルに吹き飛ばす。
ガラガラと崩れ落ちるビルの瓦礫を吹き飛ばし、白い武者が空へと舞い上がる。
『く、くそ……獣化しゃがったな……そっちがその気なら……………皆!合体だ!!』
『キキ!』
『クェ~!!』
『ワン!!』
白い武者を中心に光輝く古代文字が螺旋を描いて激しく動き回り、猿、犬、雉に吸い込まれる。そしてその中で変化が起こる。
武者の両腕が肩に収納、脚部がスライドして隙間に駆動系が増設、力強さを増した装甲が纏われ、猿と犬の各部が腕へ変わり接続と同時に拳が飛び出し力強く握られ火花が散る。最後に雉が背中から肩、胸に黒地に金の装甲を着け、頭部に変化が起こる。
桃を模した装飾が施された兜が装着されると同時に真ん中が開き、下から金色に輝くアンテナが左右に開く。両目が赤く輝くと同時に古代文字が消え去り、遂にその姿を表す。
その姿は巨人。その存在は鬼たちにとって忌むべき姿。鬼たちが蹂躙し、絶望に満ちた世界に現れた“希望”。
その名も――
『……手前等、鬼どもの野望を叩き潰す……天下無敵のモモタロウ!此所に見ッ参ッ!!』
腕を大きく交差し構えた瞬間、辺りに暖かな太陽に似た光が満ちる。
今此所におとぎ話だけの“英雄”――桃太郎が降り立った。
同じ頃。
ヴァルキリーズ極東支部司令管制室では、突如現れた白い機械神――モモタロウの姿に職員たちが騒然となる中、一人冷静に中央モニターを見つめる女性がいた。
「……やはり、
ふと目を向けた先には1枚の写真が。写っているのは発掘途中の何か、いや、中央モニターに映されたモモタロウと酷似している。その隣には1人の少年が、笑顔で顔らしきものに手を触れている姿が。
「……叶教授の一人息子、
背中まで届くウェーブがかかった紫色の長髪に金色の瞳が目立つ女性――リトス・ミッターナハト極東支部司令は誰に言うわけでもなく小さく呟き、さまざまな指示を手元の端末を操作しながら出すと、戦いを見守ることを決めてモニターへと目を向けた。
『行くぞ鬼野郎!!』
30メートルはあろう巨体が推進機から逆噴をかけボロボロの大地に地響きをたて降り立つや否や、陣羽織を模した装甲を展開、スラスターを全開にして地面を蹴り、将鬼に殴りかかる白いロボット――『モモタロウ』の動きと声に、ノゾミは昔の事を思い出した。
(うおおりゃあ!かったああ~むちゃくちゃ固いぜ!?)
(……何やってんのよバカ桃矢)
石灯籠に向けて木刀を振り下ろし、弾かれてしびれた手を押さえる
(な、何って必殺技に決まってんだろが!名付けてオーガスラッシュ!どうだカッコいいだろ!!)
(……バッカみたい……鬼なんているわけないでしょ)
(いいや鬼はいる!
(おねえちゃ~ん、モモちゃ~ん、お昼できたよ~)
2人の会話に割って入る様に、アカネの声が届く。
(ア、アカネ、モモちゃんはやめろよ!?俺は叶桃矢だから)
(モモちゃんって呼んだらダメなの?)
(い、いや、だからその……)
(ダメ?)
(う。モモちゃんでいいです)
涙目と上目遣い、さらに着物姿のアカネに観念し、了承する桃矢の姿。
それらは今となっては思い出でしかない。しかし、
(でもあの白いロボットの動きと声は桃矢と被りすぎる……確かめなきゃ)
思うやノゾミはハッチに手をかけるが開かず、仕方なく爆砕ボルトのスイッチを押して強制解放した。
『ウオオオ!ブロウクンファアアアアアングゥ!!』
地面を駆け、体を左右に動かして攻撃をかわしつつ迫ると、モモタロウは犬の顔を模した右腕を繰り出す。装甲が展開し殴り抜くと、白銀に輝く衝撃波が将鬼の体を包む。
将鬼は咄嗟に防御するが、無数のエネルギーを纏った衝撃波の前に強固な装甲が切り裂かれていく。
『ガ、ガアアアアア』
衝撃波が止むとずたずたになった装甲の下から火花を散らしつつ、再び荷電粒子砲の再チャージを行う。
しかし、
『んな暇与えるかよ!モンキーラアアアッシュッ!!』
いつの間にか背後に回りこんだモモタロウの拳が深くボディに刺さり、続けて無数の拳が繰り出される。
顔面、胸部、腹部の装甲の破片とオイルを辺りに撒き散らされ、攻撃が止むとふらふらしながら将鬼は背後から翼を広げ逃げようとする。
が、
『待て!逃がすかよ……キジット・ブゥラアスタアアアアアー』
陣羽織が左右に開き内側に半透明なレンズ状のパーツがせり出す。光が集まり限界まで輝くと、凄まじい光が逃げ出そうとする将鬼目がけて放たれる。
『ガ、ガアアアアアアアアアアアアアアアア……………………………』
凄まじい熱と光は射線上やその付近のクロイツリッターをも巻き込み、まともに包まれた将鬼は体が溶け落ちて跡形もなく消滅したかに見えた。
が、何かが光の外へ向け飛び出すのを周囲の者たちは気づかなかった。
『……鬼退治完了……』(さて、じいさんと
役目を終えてほっとしたのも束の間、正面にバズーカの砲口を向けたシュルフツェンが、後ろに雪片を両手で構えた白が、モモタロウを挟む様に降り立つ。
クロイツリッターの全滅を確認するや、一夏は白い武者の後ろに降下し、直後に前に降下したシュルフツェンの拡声器が響く。
『所属不明の
冷静であるよう努めているが心なしか緊張を含んだ声に、一夏も白式越しに雪片を握る手に力を込める。
(そりゃそうだ。こっちもかなり消耗してるからな……どう出る?)
思いつつ、白い武者――モモタロウに向ける視線を険しくする。
『俺はモモタロウ。ここでの目的はさっき言った通り鬼退治だ。所属は……強いて言えばフリーだな』
『では自称『モモタロウ』さん。私たちと御同道願えますか』
『何故だ?』
口調こそ丁寧だが有無を言わせないライカの指示に、モモタロウはあからさまに拒絶の意志を含んだ返答をする。
『先ほど上空で見させていただきましたが、貴方の機体は非常に強力です。現に鬼の中でも高い性能を誇る将鬼を圧倒しました。そのような物を個人が所有する事態を見過ごすわけにはいきませんので』
『だから軍で管理するってか?嫌だ、と言ったら?』
『非特隊として脅威の芽を放置する選択肢はありません。力づくでも基地に連行します』
『そうか……なら断る!』
言うやモモタロウの手に光が集まって巨大な剣を形成し、両手持ちにしたその切っ先をシュルフツェンに向ける。
(結局こうなるか!)
一番外れて欲しかった事態に奥歯を噛み締めたのも一瞬、一夏はモモタロウに迫ろうと一歩を踏み出そうとする。
が、
『なっ!?』
『時空崩壊?』
上空の脈打ちにモモタロウとライカが驚愕の声を上げ、直後に空にドアくらいの穴が空き、“白っぽい何か”が吐き出される。
「……!」
白を介して温かな気配を感じ、望遠機能でその“白い何か”を確認するや、一夏の中からは任務もモモタロウも掻き消えてしまう。
すぐに雪片を量子変換し、意思を拾った背中のケーブルが自動で外れる。直前に開いていたハッチから外へ出るや、白式の全スラスターを吹かして“白い何か”――寒冷地用迷彩服らしき物を纏った少女の許へ駆ける。
「諦めるなぁぁぁぁぁぁ!」
白を出る前に少女から感じた“嫌な感じ”を吹き飛ばす様に、一夏は無意識に叫んだ。
絶対的な闇の中を身一つで進んで、どれくらい経っただろうか?
落ちているのか上がっているのかもわからず、全身が万力で押さえつけられるかの様に痛い。
(私、こんな所で死ぬのかな?なんにもできないまま…………!)
そう思った直後、目の前に光が広がり、輝きが引くと青空と海、都市らしきものを載せた地上を認める。
(煙?……戦場なの?……!)
眼下の様子にそんな推測を抱いた直後、その景色が徐々に大きくなっていくことに――落下していることに気づく。
(あぁ。結局死ぬんだ……もう少し、みんなの為に頑張りたかったな。でも、もう…………)
頼もしい仲間たち、大切な人たちの顔が脳裏を過ぎったのも束の間、数瞬後には地面に叩きつけられて絶命する自身の運命を受け入れると、なにもかもがどうでもよくなる。
が、
「諦めるなぁぁぁぁぁぁ!」
「!?」
明るい世界に出てから風の音以外で始めて聞いた音――強い意志を含んだ男の絶叫に、先ほどまでの諦観は吹き飛び、声のした方に顔を向けると、4枚の大きな翼を広げた白い何かがこちらに近づいてくる。
それは落ちていく少女の前に立ちはだかるや両腕を広げ、抱える様に受け止めるとその場に滞空する。
「おい、無事か?」
(……男の、人?……)「天使?…………」
切羽詰まった顔で自分を見据える若い男に、背中の翼と合わさってそんな感想を漏らすと、少女――
「お、おい!大丈夫か?おい!」
(……素敵な、目だな……真っ直ぐで、力強くて………………)
体を揺すって呼びかける天使の声を遠くに聞きながら、いつまでも自分だけを見据えている目に感動を覚えたのを最後に、ユイは深いところへと沈んでいった。
(作戦中に独断行動とは……帰ったらグラウンド10周ですよ。一夏)
思いつつ、ライカはモニター越しの少女を抱きかかえた一夏を注視する。
その目には軍人、それも上官としての厳しさの他に、僅かだが一人の人間としての羨ましさが含まれていた。
しかしそんな目をしているのも束の間、すぐに視線を正面のモモタロウに戻し、瞬時に状況を分析する。
(敵は詳細不明の特機、僚機は無し、こちらの火器は予備を含めて弾倉2つのバズーカのみ、おまけにシュルフツェンのコンディションも万全とは言えない。となると……)
結論が出るや、ライカは急速に後退してモモタロウとの距離を離す。
(急速離脱……要するに撤退……)「これしかありませんね」
潔く呟くと、モモタロウに向けていた敵意を解く。
自機から急速に離れていくシュルフツェンに、モモタロウは心中に安堵の息を吐く。
(ふー……退いてくれたか。こっちも正直ギリギリだったからな……もっとも、バズーカの砲口だけは絶対逸らさないのは油断ならねぇな)
間合いが開いてもぶれることのないバズーカに若干悪寒を覚えつつ、手に持つ大剣――オニキリを光に変え、上空の一夏に視線を向ける。
(あの連邦兵、なかなか粋なことをしやがる。今は敵にならなきゃいけないのが残念だぜ……さて、今度こそ帰るか)
そう思い、飛び立とうとする。
が、
「待って!」
『?』
突然声が響き渡り、後ろを向くとさっき助けた戦機人のパイロットがこちらを見上げている。
「あなたは何者なの!」
『…………モモタロウだ』
「嘘ね!あなたは、あなた桃矢でしょ!?」
(なぜ俺の名前を知ってるんだ?……待て、コイツの声どこかで聞いたことが……体型から判断して女だな……)
そう思った直後、メットを脱いだパイロットの顔を見て心臓を跳ね上げる。
栗色の長い髪に幼さが残りつつ強い意思を感じさせる眼差し、それにあのリボンは、
(まさかノゾミなのか?)
思わず口に出しそうになるがグッと堪え、翼を広げる。
『…………人違いだ……叶桃矢じゃない……俺はモモタロウだ!!』
断じるや、推進機に光が集まって大空へと飛翔する。
ふと目を向けると、ノゾミが髪を押さえながらこちらを見ている。
(あれから数年であんなに変わるんだな……アカネも元気でいるといいんだけどな……)
そんなことを考えながら、モモタロウは光輝く幾何学的紋様――転移ゲートを正面に展開し、活動拠点へと向かう為通り抜けた。
「待って桃矢!きゃっ!?」
大きく翼を広げ、光が灯ると凄まじい風が巻き起こる。
揺れる髪を手で押さえつつモモタロウがゆっくり空へ上っていくのを見ながら、ノゾミは先ほどの会話を思い出す。
(『…………人違いだ……叶桃矢じゃない……俺はモモタロウだ!!』……間違いない。アレは桃矢だ。あいつは嘘やほんの少し動揺すると手を握りしめ開いたりする。実際モモタロウの右手が握りしめ開いたりしていたから間違いない……)「何でなの……生きてたんならなんで私達に連絡寄越さないのよ……馬鹿桃矢あああああああああああああ!!」
巻き起こる風になびく髪を押さえながら、幾何学的紋様に飛び込み消える
転移ゲートを抜けたモモタロウは、現在の彼の拠点――第二新田研究所、その格納整備ルームに出る。
「お帰り
「おう今戻ったぜ飛鳥!」
中学生くらいの赤毛の少年――
「ところでじいさんは?」
「新しく見っかったティルレガシイの解析にかかりっきりなんだ……でもそろそろ」
「戻ったか桃矢くん!体はなんともないかの?うん?」
身長が180センチもある白衣を着た老人が駆け寄るなりいろいろと訪ねてくる。彼は新田
「ああ、大丈夫だぜじいさん……んなことよりも新しく見つかったティルレガシイってなんだ?」
「……中国にある不死鳥と龍の伝説にまつわるものじゃよ……」
目を向けた先には赤い鳥と青い竜を模った石像が鎮座し、さまざまな検査機器で解析されている。
「……そっか、でも
「叶君と息子夫婦が残したデータにはこう書かれておった。ティルレガシイは乗る者……正しい心、魂を持つ者を選ぶ性質がある……とな」
「桃兄!~じいちゃん!モモタロウの合体解除終わったよ~」
飛鳥が端末片手にモモタロウの合体解除を終えたことを告げ、桃矢はモモタロウの格納場所へ向かう。
4つの巨大な整備台の上には、猿型メカ『ロートアッフェ』、犬型メカ『ヴァイスヴォルフ』、雉型メカ『アウルムフォーゲル』、それらの中心に白い鎧武者がさまざまなケーブルに繋がれて置かれている。椅子の様なものに鎮座している白い鎧武者に近づくと、桃矢は人知れず呟く。
「なあモモタロウ……お前は何で……鬼たちへの怒りしかない俺を選んだんだ」
白い鎧武者は桃矢の問いに答えない。
(……鬼達が村を襲ったあの日、村の人たちを、親父やお袋、飛鳥たちの両親を救えなかったのに、何故俺を装者に選んだんだ……)「答えてくれよ……モモタロウ……なんで俺なんだ」
誰もいないモモタロウの格納庫に、桃矢の声だけが響き渡った。
お知らせ
本企画参加者の一人、XENON-199X-Rさんの作品『機械神伝説ー桃太郎ースピンオフ!オルガスラディオゥ!! 』において、本作と連動した特別回が掲載されます。
是非そちらもご覧ください。
そして、更新に間が空いてしまい失礼いたしました。