スーパーロボット大戦H/ハーメルン   作:一条 秋

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8 初めての恋が終わる時

 ライカと一夏が鬼の鎮圧に向かっていた頃、レイディバードを発した光秋と恭弥は、少し飛ぶと中規模の都市の建物の合間に散発的に銃撃を行う数機の機動兵器を確認する。

 望遠映像が映し出されるやすぐに照会が行われ、恭弥はモニターに表示された情報に目を凝らす。

 

(PD・レイザーが3機にアンタレスが3機、それに……HMMAS・Bホーク3機?)

 

比較的見慣れているPD系はともかくとして、その倍の10メートルほどの大きさに迷彩塗装を施した人間とは関節の向きが違う脚が特徴の機種に、思わず首を傾げてしまう。

 

「シュウさ……加藤大尉、あの逆関節の奴って……?」

『ハイ・モビリング・マルチブル・アーマード・システム。大陸で使われてるAMのスピンオフの一種だろう。だとすると相手は『革命者』の一派かもな。そこが使う機体だから』

「革命者……確か、世界中のテロリストが寄り集まってできた勢力ですよね」

『その通り』

 

研修で習ったことを復習する様に述べる恭弥に、光秋は静かな肯定を返す。

 その間に望遠映像は消え、通常映像で敵機の細かな形状がわかる距離まで近づく。

 

『よし、桂木曹長。投降勧告やってみろ』

「え?……僕がですか?」

 

予想外の指示に、思わず訊き返してしまう。

 

『何事も経験だからな。まずは研修で教えた通りにやればいい。ただし、絶対に気を抜くな』

「……了解」

 

 最後の方の光秋の注意に気を引き締めると、恭弥はシルフィードを上空に滞空させ、腹に力を入れて拡声器越しによく通る声を出す。

 

「テロリスト各機に告げる!こちらは連邦軍非常事態特殊対策部隊である。即時武装解除し、投降せよ!従わない場合は、実力を以て鎮圧する!」

 

相手に有無を言わせない高圧的な態度で。研修で習ったことを意識しながら、一言一言を噛み締める様に言う。

 しかし、

 

『煩い!』

「!」

 

手近のBホークが拡声器越しに怒声を返すや手に持ったアサルトライフルを撃ち、恭弥は反射的に両腕を前に出して本体への着弾を防ぐ。

 数回に渡る調査と模擬戦からシルフィードの破格の丈夫さは実証されている為無傷で済むものの、続く言葉に恭弥自身の心が痛む。

 

『権力の犬が!高い所から偉そうなことを言うな!我々は腐敗した連邦に裁きの鉄槌を下す為に蜂起したのだ!腐った体制の尖兵ごときに下げる頭は無い!』

(……この人たちは……)

 

徹底的な拒絶を含んだ一言一言が胸に突き刺さり、思わず悲しくなる。

 が、

 

『言いたいことがあるなら場所と方法を考えなさいよ』

「……?」

『了解した。貴官らは実力を以て鎮圧する。行くぞ、ホワイト3!』

「……了解!」

 

無線越しの光秋の愚痴の様な呟きに気を取り直し、続く拡声器越しの指示に熱の籠った声で応じるや、恭弥は先ほど発砲したBホークに狙いを定める。

 が、直後、

 

「!」

『退避だ!退避!』

 

上空の一部がうねり出し、時空崩壊の前兆と察した光秋の指示に慌ててシルフィードを後退させる。地上のテロリストたちも異常を感じたのか、蛇に睨まれた蛙の様に固まってうねりを注視する。

 数瞬後に巨大な穴が空くや、PTほどの大きさを誇る頭部に一本角を伸ばし、両肩に赤い宝石の様な物が輝く巨大なマントを纏った鎧――西洋の甲冑の様な姿をしたロボットが現れる。

 

(鎧みたいなロボット!?)「ルミエイラの新手か!」

 

断じるや、恭弥は射撃モードにしたルミナ・グラティスの銃口を甲冑に向ける。

 が、

 

『待て!』

 

球形操縦桿の引き金に指を掛ける寸前にニコイチがシルフィードの右手を押して銃口を下げさせ、そんな光秋の解せない行動に恭弥は苛立ちの声を上げる。

 

「何でです!」

『よく見てみろ』

「え?……」

 

言われて改めて甲冑を見てみると、自分たちを、次に地上のテロリストたちを、そして周囲の様子を、何度も何度も見回している。

 

(……戸惑ってる?)

 

 

 

 

「…………ここは?」

「……リグル、無事?」

 

 まだ朦朧としつつも気を取り直した男物の礼服を着たサイドテールの少女――高槻(たかつき)カノンは、自分の膝の上に窮屈そうに座る少々の装飾が施されたワンピースの少女――リグル・フォン・エルプールの様子を窺う。

 2人がいるのは甲冑型ロボット――アトランティア・ルージュのコクピットであり、計器類やモニターで埋め尽くされた内部は成人男性1人入ればいっぱいになってしまうほどに狭く、比較的小柄な2人でも密着して体を折り曲げた上でギリギリ入っていられるあり様である。

 

「なんとか……!カノン!前!」

「え!?」

 

なんとか首を回してモニターを見たリグルの叫びに、カノンは束の間絶句する。

 正面には妖精の様な姿をした白銀のロボットが滞空し、剣の様な物の先をこちらに向けている。直後に半分ほどの大きさのロボットが剣を下げさせ、それが2人の混乱に拍車をかける。

 

「アレって……機甲兵(きこうへい)?」

「でもあんな型知らないよ?地上の方だって……」

「確かに……ていうか、ここは…………」

 

リグルの返答に応じつつ、カノンはモニター越しに周囲を見回してみる。

 四角いビルと瓦敷きの民家が立ち並び、コンクリートで舗装された道路が走るここは――

 

「私の、元いた世界?……とも違うか?」

 

周囲の様子はかつて自分がいた世界に非常によく似ている。が、その景色に大した違和感もなく溶け込んでいるロボットたちに、カノンは判断に困ってしまう。

 そして、その迷いが隙になる。

 

『テメェも敵か!?』

 

怯えと興奮を含んだ怒声が響くや、近くの逆関節がアサルトライフルを発砲する。

 

「え?ちょ!」

 

咄嗟のことにカノンは対処できず、瞬く間に弾はアトランティアの胸部に迫る。

 が、

 

「「!」」

 

小さいロボットがアトランティアの前に立ちはだかり、前に出した左腕で弾を弾く。その様子と無傷な左腕に、カノンとリグルは揃って目を丸くする。

 

『ご無事で?』

「え?……あ、はい!」

 

通信越しにかけられた男――おそらくは目の前のロボットのパイロット――の声に、カノンは未だ狼狽しながらも応じる。

 その間にも他の逆関節や4頭身のロボットが銃撃を加えてくるが、アトランティアの前に滞空した小さいロボットは両腕を前に出してそれらを受け流し、あまつさえ先ほど剣を向けた妖精の様なロボットも右隣に並んで壁になってくれる。

 

『申し遅れましたが、連邦軍非特隊所属の加藤大尉と言います。そしてコイツは相棒のニコイチ……またの名を、「白い犬」と申します。そして彼は』

『部下の桂木曹長です。コイツはシルフィード』

「……ちょっとカノン。『レンポウグン』とか『ヒトクタイ』とか、この人たち何言ってるの?」

「私が知りたいよ……」

 

通信から流れてくる意味不明な単語の数々に大量の疑問符を浮かべるリグルに、カノンもお手上げといった様子で応じる。

 と、

 

『今度はこちらから訊きたいのですが、貴方はルミエイラ、もしくはその関係者ですか?』

「ルミ……エイラ?……いや、知らないよ」

 

加藤大尉の質問に、カノンは正直に答える。

 

『そうですか。では、安全な場所まで下がっていてください。話は彼らを鎮めてから。ホワイト3、相手を無力化後、全員の身柄を確保するぞ!』

『了解!』

「え?えぇ!?」

 

 戸惑うカノンを差し置いて、小さいロボット――ニコイチと妖精の様なロボット――シルフィードは銃弾の雨も構わず急降下し、ニコイチは4頭身のロボット――手元の造りが荒い方――を蹴って近くの半壊したビルに叩きつけて動けなくし、シルフィードは剣を振って斬り飛ばした逆関節の頭部を左手で掴む。

 と、

 

「!危ない!」

 

銃を乱射しながらシルフィードに迫る逆関節、その進路上に小さな女の子が倒れているのが目に入るや、カノンはアトランティアを急接近させる。

 

「足元くらいよく見なさいよぉ!」

 

叫びながら逆関節に右肩から体当たりをかけ、吹き飛ばされて倒れたのを見るや腰に提げた大きく反りのある剣を抜き、シルフィードに倣って頭部を切断する。

 直後に女の子を庇う様にニコイチが降下し、逆関節の沈黙を確認したカノンもアトランティアを歩み寄らせる。

 

『下がっててくれと言ったでしょう』

「子供が死にそうになってるのを見過ごせるわけないでしょ!」

『それについては感謝します。ありがとう』

 

礼を言うやニコイチの胸上部が開き、道具類にヘルメットで身を固めた加藤大尉がワイヤーで降りて女の子の許に駆け寄る。

 

『君!大丈夫かい?』

『…………』

『あぁ。怖くて腰が抜けちゃったか……』

 

顔面蒼白で身動きができない女の子に努めて明るい雰囲気で接すると、加藤大尉は女の子を抱きかかえてニコイチに戻ろうとする。

 直後、

 

『シュウさん!』

 

桂木曹長の焦った声が響くや、手の造りがしっかりしている4頭身が同サイズのショットガンらしき物をこちらに向けるのを見る。

 

「ヤバ!」

「カノン!ハッチ開けて!」

「!」

 

リグルの叫びに反射的に胸部ハッチを開くや、リグルは前にかさした右手に光の幾何学模様――魔法陣を発生させる。

 途端に加藤大尉と4頭身の間に高さ20メートルほどの分厚い氷の壁が出現し、撃ち出された散弾は全てそれにめり込んで止まる。

 その間に加藤大尉は女の子をニコイチの手に乗せてコクピットに戻り、再起動させるや手をハッチに寄せて女の子を膝の上に乗せて機内へ消える。

 

『助かりました』

「これくらい軽いです」

『あぁ。2人いたんですね』

 

胸を張るリグルに応じるつつ、開けっぱなしのハッチを見て2人乗りに気づいたのも束の間、加藤大尉は指示を飛ばす。

 

『とりあえず、僕はこの子を避難場所に連れていく。ホワイト3、援護頼む』

『了解!』

 

応じるや、ニコイチの後ろに移動したシルフィードは肩部レーザーキャノンを散発的に撃って周囲の機を牽制する。

 

『そちらのお二方もついてきてください。今度こそ安全な場所に』

「……いや、私もここに残るよ」

 

ハッチを閉めながら呼びかけに一瞬考えて返すと、カノンはさらに続ける。

 

「状況を考えるとさ、周りにいる逆関節とチビっこいのは街を荒らす悪党……ていうか、もろテロリストで、お二人さんはそれを成敗する正義の味方、もとい軍人なんでしょ?」

『そうですね』

「だったら私は戦うよ。ここが何処だろうと、そういう奴を止めるのが私の役目だから。ただ、リグルは――」

「私もこのままで。一人で知らない場所に放り込まれるのはごめんです」

「だってさ。とにかく、加藤さん、だっけ?あんたが止めても私は……()()()は戦うから!」

 

有無を言わせない固い意志を含んだ声で言い切るや、カノンはリグルと共にモニター越しにニコイチを見据える。

 

『……ダメだ、と言って聞くタマでもなさそうですね。了解しました』

「話がわかる人で助かるよ。私は高槻カノン。で、こっちは……」

「リグル・フォン・エルプールです」

「で、コイツはアトランティア・ルージュ。よろしくね」

『わかりました。とりあえず協力は頼みますが、その代わり、僕がいない間は桂木曹長の指示に従ってもらいます』

「了解!」

『え?丸投げ!?』

『3分以内に戻る。それまでさっきの命令の継続頼むよ!』

 

動揺する桂木曹長に構わず飛び立つや、ニコイチは急速に戦線離脱していく。

 

「それじゃあ、いっちょやりますか!リグル、しっかり掴まってて」

「うん。カノン」

 

 リグルが自分の体にしがみついたのを確認すると、カノンは牽制射撃を続けるシルフィードの許にアトランティアを駆け寄らせる。

 

 

 

 

(シュウさんめぇ……といっても、立場上仕方ないか)

 

 遠退いていくニコイチを横目で睨んだのも一瞬、自分の許に駆け寄ってきたアトランティアを見て気を取り直すと、恭弥は瓦礫の山や崩れかけたビルに身を隠している敵機たちを見ながら状況を整理する。

 

(僕がBホークを1、シュウさんがレイザーを1、高槻さんがBホークを1行動不能にしたから、残るはアンタレス3、レイザー2、Bホーク1の6機。さっきの氷の壁といい、アトランティアの性能こそ未知数だけど、向こうのパイロットたちの腕はそんなに高くない。落ち着いてかかればシルフィード1機でも充分対処可能だ。流れはこっちに来てる!)

 

断じると、通信越しに指示を飛ばす。

 

「じゃあ、1機ずつ確実に黙らせていきます。僕が右を担当するので、高槻さんは左を」

『OK!』

「それと言っておきますが、あくまでも全員生かして確保です」

『わかってる。私も人殺しは嫌だからね』

「それとPD……あの小さいのは絶対爆発させないでください」

『そりゃあ、捕まえるんだからね』

「それもありますが、アレは原子力バッテリーで動いてるんです」

『……は?今なんて?』

「アレは原子力バッテリーで動いてます。爆発させようものなら汚染の危険があるので」

『よくそんなもんに乗れるねあの人たち』

「同感です。じゃあ、行きますよ!」

『了解!』

 

恭弥の号令にカノンが応じるや、2機はそれぞれ手近の1機に接近する。

 瓦礫と飛び越えてショットガン装備のアンタレスの上と取ると、恭弥はシルフィードの右足に意識を集中して蹴りを繰り出す。至近距離からの散弾を意に介さず足は進み、恭弥の意思を正確に再現した絶妙な力加減でアンタレスを突き飛ばす。

 飛んで行った先にいたもう1機のアンタレスにぶつかって2機とも沈黙したのを確認すると、アトランティアが頭部を鷲掴みしたレイザーを半壊したビルに投げつけ、後ろを見せた隙を突こうとアサルトライフルを向けたBホークの脚部の付け根に左の踵を入れて蹴り上げる様を見る。

 

(おぉ!痛そう!)

 

自身の同じ箇所に痛みを感じたのも一瞬、その2機の沈黙も確認すると、恭弥はレーザーキャノンを構えて、残ったレイザーとアンタレスの許に慎重に歩み寄る。

 と、2機はそれぞれ持っていた銃器を捨てて両腕を高く上げ、開いたコクピットからも両手を上げたパイロットが出てくる。

 

「降伏か?よかった……」

 

思わず恭弥は安堵の息を漏らし、直後に状況をうかがっていたらしい防具に身を固めた警官たちが降りてきたパイロットたちを拘束する。

 沈黙した各機体からもテロリストたちが引きずり出され、あるいは気絶して運び出されるのを見ていると、ニコイチがシルフィードのそばに降りてくる。

 

「シュウさん、遅いですよ……」

『加藤大尉だ。とりあえず、この場は片づけてくれたみたいだな……さて』

 

気が抜けた恭弥に注意を入れて状況を確認すると、ニコイチの頭部がアトランティアに向く。

 

『えー、高槻さんとエルプールさん、でしたね?いろいろと事情を訊きたいので、御同道願えますか』

『……ま、そうなるよね。どうする?リグル』

『あの時とは立場が逆か……私はついて行った方がいいと思うな。わけのわかんない場所で立ち往生するよりはいいだろうし』

『……だね。そっちについてくよ』

『話がわかる方たちで大変助かります』

 

カノンとリグルの返答に、光秋はほっとした様子で応じる。

 

『ただ、僕たちはもう1つ寄らなければならない所があります。それにもお付き合いください』

『なんでもいいよ。ゆっくり座って話せる場所に連れて行ってくれるなら』

『ありがたい。ではついてきてください。ホワイト3もいいな』

「あ、はい!」

 

 カノンとの会話を終えた光秋の呼びかけに恭弥は一瞬ハッとするものの、すぐに気を取り直し、先に飛び立ったニコイチとアトランティアに続いてシルフィードを上昇させる。

 

(……さて、次は鬼だ。ライカさんと一夏君、大丈夫かな?)

 

有名な恐怖に少し体を振わせると、先に向かった2人の安否を気にかけ、前を行く2機を追ってペダルを深めに踏む。

 現場から少し離れて落ち着いたところで、光秋が全機に通信を繋ぐ。

 

『遅くなりましたが、先ほどは助っ人ありがとうございました』

『いやいや。私たちが勝手にやったことだから』

 

光秋の礼に、カノンが謙遜の声で返す。

 

『それでも、実際助かりました……そうだ、改めて紹介しておきます。加藤光秋と言います。そしてこっちが……』

「桂木恭弥です。さっきは動揺していたとはいえ、いきなり銃を向けてすみませんでした」

『別にいいよ。誤解もすぐ解けたし……そもそも私が言うのもなんだけど、会ったばっかで、こんなロボット乗ってる奴をよく信じたよね。嘘ついてるかもしれないし、そうでなくても敵かもしれなかったじゃん。いきなり撃ち墜とされても文句言えなかったよ』

『それについては、さっきまでの挙動――まるで初めてこの辺りを見た様な動きをしていれば、少なくとも何度か現れているルミエイラではないという目星はつきます。あとは本人の証言が得られれば充分。それに敵なら、あんなに長く背中を見せているのに何もしないのはおかしいですからね。だから、少なくとも敵対者ではないと判断しました』

『……よく観ていらっしゃいますね』

 

カノンに応じる光秋に、リグルが感心した様子で返す。

 

『それよりさ、そのルミエイラって何?そもそもここは何処?お二人さんやさっきの人たちが使ってたロボットはなんなの?』

『いろいろ訊きたいことはあるでしょうが、まずは――!』

 

 カノンの質問に応じる言葉を遮って、光秋に緊張が走る。

 

(うぅわぁー……)

 

映像越しの光秋の表情、なによりもビルの合間から覗く黒い影から、恭弥もその理由を察してしまう。察したくなどなかったが。

 

『何?あの黒い……蛇?』

『まさか、こっちにもドラゴンが?』

『いいえ、アレは……』

 

カノンとリグルに応じる光秋のを言葉を引き継いで、恭弥は黒い影から生々しくも冷たい感覚に生唾を飲みながら言う。

 

「……ゴースト」

 

自ら発したその言葉は、どっちつかずの、それ故に異様な感覚を伴って、鬼以上の恐怖心を覚えさせた。

 

 

 

 

 この数分前。神奈川県中央のとある公園。

 

「それでさ、でっかい蛇みたいなのがいてさ――」

 

八分咲きの桜の下を、あるカップルが歩いていた。互いに好意を寄せているが、互いの想いに気づいていないという様子だった。

 茶髪の少年――ユウ・ブレイブは、白髪の少女――ユリ・ナノハの左側から楽しそうに話している。

 

「変な夢。で、その後どうなったの?」

「んー、なんか全身の力が抜けて、気を失った……かな」

「へぇ~」

 

話しながら2人はベンチに腰掛けて、束の間の休憩をとった。2人の間には鞄2つ分ほどの隙間が空いていて、2人とも少し頬を桜色に染めている。

 2人は明日に高校の入学式を備えている。

 

「い、いい空だね」

「何よ急に……?」

 

ユウが自分の想いを告白しようとしたが勇気が足りず、おどおどしながら隠している。

 

「えっと、なんか全部が穏やかで、全部が明るく見える。まるで…………」

 

――オレたちの未来みたいに。

 

そう続けようと思っていた。

 しかし、その時だった。

 

――All is calm All is bright――

 

何処からか女の歌声が聞こえた。

 その声は周りの雑音を貫くようにはっきりとユウのもとへ届いた。

 ユウはその声の主を探す。

 

「どうしたのユウ君?」

「え、今の声、聞こえなかった?」

「声?」

 

 その直後だった。黒い大蛇が現れたのは。

 

「な、何アレ!?」

「同じだ……」

「同じ?」

 

ユウは初めて見るはずのその巨大なものに見覚えがあった。

 記憶の中を必死に探し、そして気づいた。

 

「夢に出てきたでっかい蛇……!!」

 

ユウはそう言うと、ユリの手を掴んで走り出した。

 八分咲きの桜木も、大蛇が響かせる地ならしによってその花びらを落とす。

 大地を揺るがしながら大蛇は人々の方へ迫り、あっという間にユウとユリのもとに来てしまう。

 

(ここまでなのか?)

 

迫りくる大蛇に死を予感し、反射的にユリを抱き締める。

 が、その直後、

 

「!?」

 

大蛇の頭部を光弾が叩き、それで動きを止めた大蛇の鎌首を追ってユウも光弾が飛んできた左の空を見る。

 

「……機動兵器?……連邦軍だ!」

 

 大蛇に銃口を向けた妖精の様な機体、西洋の甲冑の様な機体、2機の半分ほどの大きさの小柄な機体がこちらに向かってくるのを見て、ユウはひとまずの安心を覚える。

 

 

 

 

『威嚇でいい!ルミナを撃て!』

「了解!」

 

 僅かだが焦りを含んだ光秋の指示に応じるや、恭弥はルミナの照準を全長30メートルはあろうゴーストの頭部に合わせる。

 

(ギリギリ?いけるか!?)

 

有効射程を気にしつつ引き金を引き、放たれたビームがゴーストの頭に当たるものの、目立った損傷は見られない。

 

「やっぱりこの距離じゃ……」

『それもあるが、ゴーストの装甲、否、外殻かな?あれの丈夫さは破格過ぎて射撃武器はほぼ通じないらしい』

『じゃあ何で撃たせたのさ?』

『こっちに気を向ける為ですよ』

 

カノンの問いに光秋が応じるや、それに合わせる様にゴーストがこちらに頭を向け、本物の蛇よろしく大口を開けて怒りを表す。

 直後、

 

「!」

『上昇して!』

 

言うや光秋は傍らのアトランティアを押す様に共に急上昇をかけ、その一瞬前に正面からのただならぬ悪寒を感じた恭弥は反射的に右に機体を大きく動かす。

 一瞬後、3機のいた空域をゴーストの口から放たれた無数のエネルギー弾が横殴りの雨の様に過ぎていく。

 

『とりあえずこっちに気づいてくれたな。高槻さんたちは下がって』

『だから!私も戦うよ。ただリグルを降ろす時間だけ――』

『こんな所で降りたら巻き込まれるわよ!それならこのままがいい!』

『……だってさ』

『……わかりました。ただし、僕の指示に従ってもらいますよ』

『OK!OK!』

 

カノンのやや軽い返事を聞くと、光秋は恭弥に指示を出す。

 

『というわけでホワイト3、援護射撃を』

「了解!」

『この前みたいに勝手に前に出るなよ』

「出ませんよ。もう」

 

 釘を刺す光秋に素直に応じると、恭弥は鎌首を上げて迫ってくるゴーストに照準を合わせる。

 

「!」

 

数発連射してこちらの注意を向けると、その隙に下に回り込んだニコイチが腰溜めにした右拳を喉元に叩き込む。

 が、

 

「ニコイチの拳が効かない!?」

 

ゴーストの上体が後ろに倒れ込むものの目立った損傷は無く、恭弥は思わず驚愕の声を上げる。

 その間にもゴーストは体をねじって頭を向けるや光の散弾を放ち、ニコイチはすぐに左に避けるものの、まともに当たったコンクリートの地面に無数の大穴が空く。

 ゴーストは尚もニコイチを追って首を廻らせ、口を開けようとする。

 が、

 

「おい、ニシキヘビ!こっちだ!」

 

挑発する様に叫ぶや恭弥はビームを連射する。アトランティアも突き出した右手に円形の魔法陣を出現させ、それが回転しながら縮小して一筋の閃光となって飛んでいく。アークブレイズである。

 2機の攻撃はゴーストの頭に当たるが尚も損傷は見られず、寧ろ自分たちに向けて放ってきたエネルギー弾を左右に分かれて慌てて避ける羽目になる。

 

(!……少しかすったか)

 

左脹脛の辺りに切り傷の様な痛みを覚えると、恭弥はシルフィードの同じ箇所の被弾を直感的に理解する。

 

『大丈夫か?』

「僕の方は左足をちょっと。加藤大尉は……」

 

 高度を上げて距離をとり、自分の許に寄ってきた光秋に応じつつ、恭弥は刃物で切った様な傷があるニコイチの右脚を見る。露出した赤い骨格が筋繊維を想起させ、一瞬吐き気を覚える。

 

『僕もそんなところだ。骨組みに届かなかっただけ運がいい。高槻さんは?』

『こっちは肩やっちゃった』

 

そうカノンが応じながら近寄ってくるアトランティアの外側に向かって伸びる右肩は、確かに赤い宝石の近くまで欠けてしまっている。

 しかし、

 

『と言っても……』

 

そうカノンが続ける間にも、破損箇所に光が集まり、一瞬後には欠けていた肩が元の形に戻る。

 

(再生!?あんなのアリか?)

 

 その光景に、恭弥は内心目を丸くする。

 

『あのビームの散弾が厄介だね。お蔭で迂闊に近づけないよ』

『ですね……』

 

 その間にも状況分析するカノンに応じつつ、光秋は眼下のゴーストにニコイチの視線を向ける。上昇してこちらを見失ったのか、ゴーストは何かを探している様に辺りに首を廻らせている。

 

『せめて一夏君がいてくれれば……』

「零落白夜ですか?」

『あぁ。もっとも、いない人のことを言っても仕方ないが……これはいよいよか……ゴースト相手に後のことを考える余裕は無しか』

 

恭弥に応じつつ呟くと、光秋は意を決っした顔をする。

 

『桂木曹長、初めてシルフィードに乗った時に出した大技、あれ今出せるか?』

「え?いや……難しいです。そもそもあの時は無我夢中で、どうやって作動させたのか未だにわからなくて……」(訓練の時も何度か試したけど、結局わからなかった!)

 

光秋の問いに正直に応じながら、恭弥は初めての戦闘で最後のクロイツリッターを吹き飛ばしたあの技の感覚を未だに掴めない自分に歯軋りする。

 

『そうか……なら数で攻めよう。僕が盾になる。2人は後に続いてゴーストに接近。頭部にそれぞれに剣を突き立たせろ』

「盾って!ニコイチだってあの光弾耐えられないでしょ!?どうするんです?」

『こうするんだよ』

 

 突然の指示に戸惑う恭弥に応じると、ニコイチは2機に背を向け、直後に節々から赤い燐光が漏れ出す。

 

(これって……ライカさんを助けに行った時の!)

 

恭弥が理解する間にニコイチの節々を覆うカバーが末梢へ向かって開き、露わになった骨格から燐光が溢れ出す。

 

『これって……アークブレイズ?』

『……ちょっと違うみたい。そもそも、私もこんなの見たことない』

 

カノンとリグルが戸惑う間に額の角が伸びて刃物の様な一本角になると、ニコイチは左手をかざし、掌の合間から漏れる燐光を正面に集中させて巨大な円形の盾を形成する。

 

『行くぞ!』

「……!了解!」

『……了解!』

 

 動揺が残る恭弥とカノンの返事を聞くと、ニコイチは光の盾を前にしてゴーストに突っ込む。

 それで気づいたゴーストは口からエネルギー弾を撃ってくるが、いずれも光の盾に遮られ、ニコイチにも、その後ろに続く2機にも当たらない。

 そうしてゴーストの口元まで近づくと、シルフィードとアトランティアは盾から出て、落ちる様にゴーストの頭にそれぞれの剣の先を突き刺す。

 が、

 

『な!?』

「浅い!……」

 

加速を乗せた刃は先端が少し刺さっただけで思ったよりも食い込まず、首を強く振ったゴーストの力に負けて2機とも吹き飛ばされ、体勢を立て直す間も無く地面に叩きつけられる。

 

「うぅ……」

 

上下が激しく入れ替わった視界に、恭弥は目を回す。

 が、モニターに映る光景――盾を消したニコイチがゴーストの顎に咥えられている――に、それも一瞬で回復する。

 

「!?シュウさん!」

 

 叫ぶ間にもニコイチは手足を伸ばして抵抗するが、丈夫な空き缶でも潰すかの様にゴーストの口は徐々に閉まっていく。

 

「嘘だろう?……」(あれって、『CeAFoS』が発動して推力が上がったシュルフツェンを正面から押さえ込んだ形態だろう?それがパワー負けしてる…………)

 

目の前の事実に、恭弥は改めてゴーストに恐怖を覚える。

 同時に、別も想いも抱く。

 

(シュウさんが作ってくれたチャンスだったのに、僕は何をやってるんだ!シルフィードがどんなにいい機体だからって、唯一の操縦者たる僕が使いこなせないんじゃ意味無いじゃないか……なにより、もう守られてばかりじゃなにはずなのに……)

 

自分の無力さに、無意識に拳を握り締める。

 

(『守る』、か…………)

 

 その言葉に、離艦前に一夏と交わした会話を思い出す。

 

(……そうだ。一夏君にはライカさんを頼んだじゃないか。僕だってシュウさんを助けないと……)

 

徐々に明らかになっていく決意に呼応する様に、ルミナの刀身が薄っすらと赤く光り出す。以前と比べれば弱々しい、太陽と6等星ほどの差がある儚い光だが、それでも刀身を覆ってくれる。

 

(それに、一夏君言ってたじゃないか…………)「仲間を守れなくて、何が男だ!」

 

 腹の底から叫ぶや、恭弥はペダルを一杯に踏んで一気にゴーストの首の付け根に接近し、勢いのままに光を纏ったルミナを突き刺す。

 光の所為か、先ほどよりも気合いが入ったからか、刃は1/5ほど食い込み、ゴーストが大口を開けるやニコイチはすぐに後退する。

 

「よし!」

 

それを見届けると、恭弥も光が消えたルミナを抜いて距離をとる。

 直後に痛みに身をよじるゴーストが、尻尾を地面に叩きつける。

 

 

 

 

 連邦軍がゴーストの注意を惹きつけても、地上の人々の混乱はすぐには治まらない。

 ろくな避難誘導も行われない中を大勢の人々がバラバラの方向に走り出し、転んだ人は走る人に踏みつぶされる。

 そしてユウと一緒に逃げるユリも、その一人になってしまった。

 

「きゃっ!」

「ユリ!!うッ……ユリ!!」

 

荒ぶるゴーストに怯える人々の流れに逆らいながら、ユウは土台にされてしまっているユリに手を伸ばす。

 しかしその手は虚しくも、流れに負けて引き離される。

 そして次の瞬間、ゴーストの尻尾が目の前の地面を抉えぐり、強化型コンクリートで舗装された道が跡形もなく消し飛ぶ。

 そう、さっきまで歩いていた道が。初恋の相手が、手を伸ばして助けを求めていた道が。

 そこに人の姿は無い。血も、肉片も骨片も無い。跡形もなく、だ。

 

「うわあぁぁああぁぁあああ!!!」

 

その光景にユウは絶叫する。

 そして、その絶叫に応えるかのように、空からあるものが降ってきた。

 

 

 

 

 ゴーストから距離をとった直後、

 

「!?……何だ?」

 

ゴーストとは別の、しかしよく似た――生々しくも冷たい、それ故に異様な――感覚が体を突き抜け、恭弥は慌てて辺りを見回す。

 と、空から赤を基調とした巨大なものが降ってくるのを見る。

 

「『ネメシス08(エイト)』?……ネメシスって……」

 

すぐに表示された情報に目を通し、出撃前に光秋が話していた新型IADだと判断するものの、そんなものが空から降ってきた状況についていけず、しばらく呆然としてしまう。

 その間にも、ネメシス08は抉られた地面を更に凹ませて、足元の少年に手を伸ばす。

 

 

 

 

 巨人――巨大なロボットが、ユウに手を差し伸べる。

 

――All is calm All is bright――

 

 ユイと話していた時に聞いた歌声が聞こえてくる。

 ロボットの顔には人間のような"目"が2つ付いていて、その目は優しげだった。

 そう思った途端、ユウはその手に飛び乗った。

 15メートルの巨体が立ち上がり、ユウを胸部に設置されたコクピットに導く。

 

「やってやる。やってるぞ!!」

 

ハッチをくぐったユウの顔は、涙で濡れていた。

 

 

 

 

 同じ頃。上空1000メートルに、連邦軍の最新鋭巡洋艦が旋回していた。

 青い艦体は大きな翼を広げ、雲を切り裂くように飛ぶ。

 

「どういう事だシンジ!!何故ネメシス08が勝手に動いた!!」

「そんなのわかるわけないだろリーダー!もともと、詳細も知らされずにパイロットも無しに渡された代物だ!!」

 

キャプテンチェアの傍にある通信モニターに怒鳴りつけるその艦の艦長は、まだ20歳にもなっていないであろう若いメカニックにそんなことを言う。その会話に上下関係は感じられないが、彼らの年齢差は10歳以上ある。

 

「おいエリック、シンジを責めるな。それより見ろ、ネメシス08に少年が乗り込んだ」

「本当かレックス!?」

 

 青い巡洋艦――ヴェーガスのブリッジで、艦長であるエリック・ノヴァがレーダー士のレックニック・ジョンソンの報告を受けてモニターを覗き込む。

 

「あの少年が……ネメシスの選んだ適合者だというのか……それにアレは、合流予定の非特隊じゃないか?」

 

消耗気味のニコイチとシルフィード、情報の無い鎧の様な機体を画面越し認めつつ、エリックはその少年のあまりにも戦い慣れしていない、いわば素人っぷりを見る。

 

「どうするのエリック?あなたの指示を待ってるのよ」

 

操舵士のカトリーヌ・レインがエリックの指示を待つ。

 エリックは艦長席に戻り、冷静にいくつもの指示を飛ばす。

 

「テンペストとギガンティックを投下する!サクラとフィルシアは直ちに発進準備だ!ネメシス08がいくら世界最強と謳われるネメシスタイプのIADでも、乗っているのが素人だ、現場の指揮官に通信を繋げ。2機は出撃後向こうの指揮官の指示に従え。ヴェーガスは高度を維持」

 

 数分後、ヴェーガスの艦体左右に位置するカタパルトから、2機のIADが発進した。

 

 

 

 

 コクピットに座り込むと、ユウは内部を観察する。

 操縦桿が左右にあり、それを握ってみる。足下にはペダルが4つ、内装は全天周モニターになっていて、機械の中にいるという感覚ではない。

 

「これ、AD(アーマードール)だよな……でもこんな機体は見たことないぞ」

 

言いながら、ユウは操縦桿を押し込む。

 するとネメシス08と呼ばれるIADが光のマントをなびかせて加速した。

 ゴーストが口を開け、無数のエネルギー弾を放つ。

 

「うわっ!」

 

それをユウは咄嗟に回避した。どうやって動かしたのかは、当の本人の分かっていない。だが、ネメシス08と意思の疎通をしている様な感覚はあった。

 そんな感慨を抱いたのも一瞬、ゴーストは首を動かしてエネルギー弾がネメシス08を追い、ユウは再度回避するが、すぐにまたエネルギー弾が追いかけての繰り返しになる。

 

「どうする?避けるだけで精一杯だぞ!?」

 

思わず現状への憤りを声に出す。

 直後、

 

『下がって!』

「!?」

 

通信越しの叫びと共にゴーストの頭部にビームが当たり、エネルギー弾が止んだ隙にユウはネメシス08を後退させる。

 それと入れ替わる様に妖精の様な機体がビームを連射しながら高度を上げつつゴーストに迫り、それに続く甲冑の様な機体もかざした掌から閃光を撃って相手を撹乱する。

 

(動きが鈍い。疲れてるのか?)「武器は、何か武器はないのか?」

 

高速で動きつつも若干キレを欠いた2機の動きに疲労を見ると、ユウは呼びかける様に呟く。

 と、その問いかけにネメシス08が答える様にヴァーチャルコンソールを表情し、「ビームランス」という文字が目に入る。

 

「!」

 

ユウは迷うことなくヴァーチャルコンソールの「ビームランス」の文字をタッチし、それに合わせてネメシス08は腰に固定してある棒を引き抜き、先端から槍状のビームを発生させる。

 武器はあった。しかしどうやって攻撃するかはまだ考えていない。

 未だ2機は激しく動きながら交互に攻撃をかけてゴーストを撹乱するものの、それだけの攻撃を食らっても未だ目立った損傷が現れないゴーストに足踏みしてしまう。

 そんな時、ネメシス08の傍らに少し小さい白い機体が降り立ち、モニターに連邦軍の制服を着たメガネの青年が映し出される。

 

『そこの機体――ネメシス08に告げます。こちらは連邦軍非特隊所属の加藤光秋大尉です。そちらの名前を――!』

 

問いかけの途中でメガネの男――光秋は降下してくる青と黄色の機体に気づき、映像の中の顔をそちらに向ける。

 直後にもう2つ通信映像が開き、自分と同い歳くらいの少女たちの顔が映し出される。

 

『こちら地球連邦軍非常事態特殊対策部隊所属、サクラ・ルル。これより加藤大尉の指揮の下、貴方を援護します』

「え、え?えと……」

『ほらサクラ、いつも言ってるけど固すぎだって。はーいこんにちは、フィルシア・ナイトウォーカーでーす。君、名前は?』

「ゆ、ユウです。ユウ・ヴレイブ」

『おーけー、ま、死なない程度にね〜。で、加藤大尉だっけ?どう仕掛けます?』

 

生真面目そうな桜色の髪の少女――サクラに動揺し、活発そうなエメラルドグリーンの髪の少女――フィルシアに呆然とする間に、光秋は3人の顔とそれぞれの乗機を見回す。

 

『ノヴァ大佐から連絡があった人たちですね。そうですね……中距離汎用型1に遠距離射撃型1、近接格闘型1か。こちらはそろそろバテてきたし……よし!桂木曹長、高槻さん、聞こえるか?』

 

 何か思いついた顔をするや、光秋は攻撃を続けている2機にも通信を繋ぐ。

 

『はい!何です?』

『今取り込み中なんだけど?』

 

焦りを含んだ2人の返答を聞くや、光秋はその場の全機に指示を飛ばす。

 

『IAD2機は砲撃戦用意。僕が合図したらシルフィードとアトランティアは急速離脱、同時にありったけの火力を叩き込め。その間にネメシス08はゴーストに急速接近。その槍を奴に突き刺せ』

『『『『了解!』』』』

「え?えぇ!?……」

 

自分を置いて急激に進んでいく状況に、ユウは今更ながらパニックに陥りそうになる。

 と、落ち着いた様子の光秋が語りかける。

 

『えー、ブレイブさん、でしたね?』

「は、はい……」

『僕としては実に不本意ですが、あの蛇を倒すのに協力してください』

「……蛇を倒すにはいいんですけど、オレは何をすれば……」

『さっきも言ったように、僕が合図したらその槍を蛇に……首の付け根の傷に突き刺してください』

「傷?……!」

 

言われて改めてゴーストを見ると、首の付け根に深めの刺し傷があることに気づく。

 

『本音を言えば、民間人、それも子供にこんな大役を押す付けたくなんてない。でも、今あの蛇に有効な一撃を出せるのは君の機体だけなんです。お願いします!』

「……わかりました」

 

 映像の中で頭を下げる光秋に冷静に応じると、ユウはゴーストと向かい合って槍を構える。

 

「いつでもどうぞ!」

『では……』

 

ユウが心身共に準備ができたと見ると、光秋は2機のIADが配置についたのを確認する。

 直後、

 

『砲撃開始!』

『『了解!』』

 

号令がされるや青いIAD――テンペストと、黄色いIAD――ギガンティックから大量の火線がゴーストに放たれ、同時にシルフィードとアトランティアが射撃を続けながら距離をとる。特にこの場で一番、否、一般的な機動兵器の基準から見ても過剰といえるほどの火器を積んだギガンティックの一斉射撃の威力は凄まじく、4方向から加えられる攻撃はゴーストを大いに撹乱させてくれる。

 その間にユウはネメシス08に槍を構え直させて、光秋の合図を待つ。

 そして、

 

『今です!』

「はい!」

 

光秋の合図に応じるや、ユウはネメシス08を突撃させる。

 と、

 

「お前、飛べるのか!?junpじゃなくてfly!?」

 

自身の問いにネメシス08が頷いたように思えた。

 だが少し躊躇してしまう。現存するAD、というよりも20メートル級以下の機動兵器で、飛行能力のあるものは存在しないからだ。テスラ・ドライブの小型化の目途が立たない為に理論上不可能とも言われていた。先ほどから指示を出している白い機体は自由に飛んでいたものの、あれとてテスト機かなにか、少なくとも正式な技術ではないだろう。

 それでもユウはネメシス08を信じ、ペダルを踏む。

 すると、ネメシス08の光のマントがその光を増し、更に腰からはスカートの様に同じ様な発光現象が起きる。

 飛翔と共に、とてつもないGが襲いかかる。

 上昇を止めると、一瞬だけ無重力状態になり、そしてすぐに重力に引かれた。

 

「うおぉぉおおぉお!!」

 

 青い光の軌跡が一直線にゴーストへ向かう。

 4機の攻撃に視界と耳を奪われたゴーストは察知することもできずに、間合いに入ったネメシス08が槍を突き刺すのを許してしまう。

 ビームの刃がシルフィードのつけた傷に沿って深々と入り、そのまま槍を勢いよく横に薙ぎ払ってゴーストの頭がもげる。

 ゴーストはその苦しみからか、体を何度も地面に叩きつけ、そして赤い光を放ち、形質崩壊した。

 それと同時に、ネメシス08は仕事を終えたかのように停止する。

 

 

 

 

 ユウ・ヴレイブの初恋は悲惨な結果を迎え、彼の人生は思いもよらぬ方向へと向かっていく。

 少年は薄暗いコックピットの中で虚空に手を伸ばした。

 

「明日、入学式だ…………」




 戦闘回2つで登場人物が一気に増えましたね。
 次回は次の出来事への準備の様な回となります。再び間が空くかもしれませんが気長にお待ちください。
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