(……痛い……)
あれからどれぐらい歩いたんだろ。目の前には崩れ落ちた家やお店の残骸が一面に広がる。
昨日まで人がたくさんいたのに、今は誰一人いない。
(……父さん……母さん……
痛みを我慢しながら歩き回り、人がいないかを探す。
でも見えるのは炎と瓦礫の山、山、山……。
(…………誰もいない)
そう思った瞬間足がもつれ、地面に倒れる。
(痛い……それになんだか力が抜けてく)「……俺たち何かしたの……か……何も……してない……の……に……クッ……」
手に力を込めて再び起き上がると、フラフラしながら歩きながら思い出していた。
今日は蓮と一緒に、父さん母さんが運転する車で叶おじさんたちが発掘した
『グルルルルル』
闇よりも黒い6枚の翼を広げた鬼が唸り声を上げながら、血を流し傷だらけの蓮を掌に乗せ、大きく開いた口へと放り込む瞬間だった。
「あ、あああ?…………れ、蓮。ウウ……ウアアアアアアアアアアアアア!?」
『………………!』
黒い鬼は一瞬驚いた様にこちらを見たが、背を向けて黒い翼を広げ空へと舞い上がり、やがてかき消す様に消えた。
それからは何も覚えていない。気がついたら村の中心に来ていた。
(痛い……痛いよ……)
痛み、恐怖、他にもいろいろなものが押し寄せ、涙が溢れる。
(……父さん、母さん、蓮、俺もうダメみたいだ……)
本当に心の中で何かが音を立てて折れ、膝をつきそうになった時、暖かい何かに包まれた。
『しっかりしろ!生きろ、頼む生きてくれ!!』
力を振り絞り最後に見たのは、白い鎧みたいな装甲を纏った大きい巨人だった。
「ハッ!……またあの夢か……父さん、母さん、蓮……何で俺だけ生き残ったんだろう……教えてよ……」
いつのまにかに寝てしまった飛鳥は、久しぶりに4年前の夢を見て目覚めの悪さを覚えつつ、目の前に鎮座する巨大な赤い鳥の石像に顔を向ける。
あの日以降、偶にしか見ることがない夢。その度に何で生き残ったんだと思ってしまう。
しかし最近、飛鳥は違う夢をよく見るようになった。
(……『目覚めよ、他者の痛みと悲しみを己のモノとして感じる心優しく強き魂を持つ――――の継承者よ』)
赤い鳥、青い龍、白い虎、緑の亀が、自分をじっと見ながら話しかける夢。
(でも赤き鳥……『
数日前に祖父・源三から赤い鳥の石像を見せらた時、ずっと昔から知ってる様な感覚にとらわれた。
「赤き鳥……不死鳥……そんなわけないよな……俺みたいなやつが桃兄みたいになれるわけないよ……」
そう結論づけた飛鳥は端末を操作し、赤い鳥の石像の調査を始める。
(早くコイツの装者を見つけなきゃ……鬼たちのせいで当たり前な日常をこれ以上壊させない)
そう心の中で呟き解析を始める飛鳥は、しかし赤い鳥の石像の瞳が淡く輝いていたことに気づかなかった。
神奈川県厚木市に出現したゴーストは、謎多き最新鋭
その機体は、連邦軍非常事態特殊対策部隊に所有権があり、戦闘終了後、彼らの母艦"ヴェーガス"に収容されることとなった。
高度を下げて地上に寄ってきたヴェーガスに両腕をテンペストとギガンティックに取り押さえされて運ばれるネメシス08、その様子をシルフィードのモニター越しに見ながら、恭弥はそのパイロットのことを考える。
(アレに乗ってた人、確かユウとか言ったけ……僕みたいに面倒ごとに巻き込まれちゃうのかな?)
未だネメシス08のコクピットに納まるユウに数日前の自分を重ねると、右隣に佇むニコイチ、その機外に出した操縦席に座っている光秋に顔を向ける。先ほどまで通信越しにライカやヴェーガスの艦長と連絡をしていたようだが、それが終わった今は目をつむり、黙々と前――ゴーストが形状崩壊した辺りに向かって手を合わせている。
視線を追って恭弥も前を見ると、破壊された街にはすでに近隣の連邦軍やヴァルキリーズの救助隊、レスキュー隊が入って救助活動や復旧作業が始められている。
(いつまでも転びっぱなしってわけにもいかないか……)
そう思うことで心中にわだかまるものを抑えようとすると、合掌を解いた光秋の通信が入る。
『さて、ここで僕たちにできる仕事は終わった。恭弥君と高槻さんたちはヴェーガスと一緒にヴァルキリーズ極東支部へ向かってくれ。そこで先に行っているミヤシロさんたちと合流するように』
「シュウさんは?」
『僕は一旦伊豆基地に戻る。ニコイチの補修とか諸々済ませてくるから少し時間がかかるが、その間そちらの2人を頼むよ』
光秋に言われて、恭弥は全身傷だらけになったシルフィードとニコイチを改めて確認する。いずれも機体の重要部分に致命傷を負わなかっただけ奇跡といえよう。
この場いる3機の中では、唯一アトランティア・ルージュだけが無傷の騎士然とした姿を佇ませている。
(光ったと思ったら元通りなんだもんなぁ……にしても、実体兵器にはほぼ無敵のニコイチとシルフィードも、エネルギー兵器にはこのザマか……)「了解しました。高槻さん、エルプールさん、聞こえてましたか?」
そんな感慨と抱いたのも一瞬、光秋に応じた恭弥はアトランティアに乗る2人に呼びかける。
『聞こえてたよ』
カノンの返事を聞くと、恭弥はさらに続ける。
「では、上の艦――ヴェーガスの先導についてきてください」
『え?アレに乗るんじゃないの?』
「アレはさっき引き揚げた3機専用の母艦だから、それ以外が乗る場所はないんです」
『そっか……了解』
「ではシュウさん、お先に」
『あぁ。気をつけて』
光秋の返事を聞くと、恭弥はシルフィードを飛び立たせ、アトランティアと共にヴェーガスの後を追って極東支部へ向かう。
ヴァルキリーズ極東支部。
鬼対策の為に設立された非政府防衛組織・ヴァルキリーズの極東における活動拠点であり、世界各地に支部を持ちながらも本部を持たない同組織にとっては、事実上の本部を兼ねている。
その地下整備区画の一角では、横浜から帰還した第四分隊の戦機人の収容作業が行われていた。
「おいおい、コイツはひどすぎだろ……卸したての戦機人がスクラップじゃねえかよ」
「ごめんなさい、
「まあ、ノゾミの姉御が怪我ひとつなかったから良かったけどさ……完全に直すには
第四分隊隊長・ノゾミと会話を挟みながら、黄色と黒の縞柄のツナギを着た茶髪の少年が装甲を外され固定されたフレーム状態の戦機人のダメージを整備端末でチェックしながら告げる。彼はヴァルキリーズ極東支部整備班主任・
「おし、みんな集まってくれ。戦機人を各パーツごとに分解して直すぞ~」
「「「はい主任!」」」
整備端末に示されたプランに従い、流れるように戦機人を分解していく「チーム虎」の面々の半数は女性が占めている。DC戦争が停戦して間もない現在、男手の不足がその大きな理由である。当然年齢も若い子達が多いわけで、ヴァルキリーズは男子2:女子8の女だらけの大所帯になる。
「……腰椎パーツは三番テーブルに移動、脚部は四番と五――」
「すみません!」
整備の指示を出す虎次郎の言葉を遮る様に慌てた声が響き渡り、虎次郎やノゾミをはじめ格納庫にいる者全てが声がした方向に顔を向けると、隣の格納庫から見慣れない白いパワードスーツを纏った男が、比喩ではなく本当に飛んでくる。
「!?……な、なんだ?」
突然のことに虎次郎が動揺する間にも、男――一夏は周囲を見回し、現場で一緒だったノゾミを見つけるとその許に滑る様に駆け寄る。
「すみません!ここの医務室って何処ですか?」
「え?医務室って……あ!」
「えっとね……」
そこで虎次郎は、一夏が抱えているぐったりと動かない少女――ユイに気づき、事情を知っているノゾミは基地内病院の場所を教えてあげる。
「ありがとうございます!」
礼を言うや一夏は2人に背を向け、ノゾミが教えた道のりに従って病院へ向かう。
「……なんだ?あいつは」
「連邦軍非特隊の隊員よ。さっき現場で一緒だった」
「あぁ。隣に収容されたゲシュペンストとヒュッケバインのカスタム機の」
「えぇ……といっても、どっちも下手したら『小型の特機』になりそうだけどね……」
連携して砲鬼を倒した瞬間を思い出しながら、ノゾミはその時抱いた感想を漏らす。
と、隣の格納庫からもう1人、今度は連邦軍のパイロットスーツを着た女性――ライカが2人の許に歩み寄ってくる。
「スッゲー美人!」
ヘルメットを取って顔を表したライカに虎次郎は思わず感動の声を漏らすものの、それに構わずライカはノゾミの前で踵をそろえ、様になった敬礼をする。
「先ほどは協力ありがとうございました。改めまして非特隊所属のライカ・ミヤシロ中尉です」
「極東支部第四分隊隊長のノゾミ・カワシマです。こちらこそ。お蔭で避難活動が円滑に進みました」
礼と自己紹介をするライカに、ノゾミも返礼して感謝を述べる。久しぶりの型にはまった敬礼に懐かしさと、僅かながら不快感を覚える。
それを知ってか知らずか、ライカはボロボロの戦機人を一見し、ノゾミに視線を戻す。
「機体がかなり傷んでいますが、お体の方は?」
「私は大丈夫です。戦機人のコクピットは丈夫にできてますし……“謎のスーパーロボット”にも助けられましたしね」
ライカの労いに、ノゾミは半ば確信しているモモタロウの操縦者への皮肉を込めて返す。
「それよりも、時空崩壊っから出てきたあの子は?」
「彼女の身柄は最初に接触した我々非特隊が預かります。医療施設を使わせていただいたことには重ねて感謝します」
「いいえ。伊豆基地よりこちらも方がまだ近いですし、人命第一がヴァルキリーズのモットーですから」
頭を下げるライカに、ノゾミは誇らしげに応じる。
「……では、私は彼女の様子を見に行かなければならないのでこれで」
「あ、その前に……」
自分たちの許から立ち去ろうとするライカを呼び止めると、ノゾミは胸や腕の辺りに装甲を兼ねた耐Gシステムを載せたライダースーツの様なもの――ヴァルキリーズのパイロットスーツに身を包んだ自分と、連邦軍のパイロットスーツを着たライカを見比べる。
「着替えはありますか?さすがにいつまでもその格好は……」
「……あ」
言われてライカは、普段着ている連邦軍の制服が伊豆基地の更衣室のロッカーに置かれてそれっきりなのを思い出す。
「……よかったら、私の服貸しましょうか?」
「……お願いします」
察してくれたノゾミの申し出に、ライカは素直に応じる。
「じゃあ、部下の彼にも」
「彼は大丈夫です。制服を……持ってきてあるので」
「?……そうですか。じゃあ更衣室行きましょう。こっちです」
一瞬言葉に困りながらも断ったライカに首を傾げたのも束の間、ノゾミは自分も着替える為にいつも使っている更衣室に案内する。
「あ、ノゾミの姉御~。司令が後で執務室に来いだとさ」
「了解。着替えたらすぐ行くわ」
端末に入った通信を伝える虎次郎に応じると、ノゾミはライカと共に格納庫を出る。
(たぶん先程の戦闘に現れたモモタロウに関すること……でもあれに乗ってるのが私達姉妹の幼馴染の馬鹿桃矢だと伝えていいのだろうか?)
呼び出しの理由を察し、ノゾミはしばし迷うことになる。
伊豆基地に戻った光秋は、ニコイチを非特隊に宛がわれている格納庫へ向かわせ、その片隅に置かれているコンテナから白いブロックを出してそれを機体のあちこちに塗りつける。
ブロックが触れた箇所の傷は綺麗さっぱり消え、そうやって全身を修復している様子は、戦でついた穢れを落とす禊の様である。
「こんなとこかな?」
一通り修復を終えると、いくらか減ったブロックをコンテナに戻し、それをニコイチに抱えさせて外に出る。
「白の方がどうなってるかわからんが、これだけあれば足りるかね?……さてとね」
独り言を呟くと足をペダルにかけてニコイチを上昇させ、光秋は極東支部へ向かう。
極東支部上空に差しかかった恭弥は、管制塔からの指示に従って前を飛ぶヴェーガスと別れ、シルフィードを地下へ続くエレベーターに着地させる。
すぐ隣にアトランティアが着地するとエレベーターは降下し、通信越しの指示に従って機体を指定された格納庫に移動させる。
「あ、シュルフツェンと白。ライカさんと一夏君もう来てるんだ」
入った格納庫のハンガーに佇む目立った損傷の無い2機に安堵しながら呟くと、シルフィードを向かいのハンガーに納め、ワイヤーを伸ばして地面に降りる。
と、
「ウソ?本物のゲシュペンストとユニコーン!?見間違えじゃないよね?」
「?」
興奮した声に上を見ると、シルフィードの隣のハンガーに納まるアトランティアのハッチから身を乗り出したカノンが目を輝かせて正面の2機を注視している。
「ちょっとカノン!危ないから!」
「え?……あぁごめん。今降ろすよ」
ただでさえ狭いコクピットの中、カノンが体を前に出して隅に押しやられているリグルの声に我に帰ると、カノンはアトランティアの手でリグルを地面に降ろし、自分もワイヤーで機を降りる。
地面につくやカノンはシュルフツェンと白の許に駆け寄り、
「私の記憶とは……特にユニコーンの方はだいぶ違うけど、やっぱ本物だぁ!まさかこんなとこで実物が見られるなんて……生きてて?よかったぁー!!」
と、再び興奮した声を上げる。
(演習見学に行った時のバニングスみてぇ……シュールだなぁ……)
そんなカノンの様子に友達を連想し、男物の騎士の様な服を着て腰に剣を提げた少女がロボットに興奮する光景にそんなことを思うと、恭弥はふと感じた疑問を訊いてみる。
「ゲシュペンストや白を知ってるんですか?こっちのことはよく知らない口ぶりだったけど」
「そりゃあ……て……あれ?」
途端にカノンは首を傾げる。
「えーっと、どこで知ったっけ?凄く好きなものだったんだけど……胸のとこまで出かかってるんだけどな……」
「また微妙な所で……エルプールさんは?」
「私はこんな機体は初めてです。見覚えなんてありません……私としては、シルフィード、でしたか?アレがアトランティアとどことなく似ていることの方が気になります」
「言われてみれば、確かに」
リグルの指摘に、恭弥は改めて2機を見比べてみる。どちらも西洋の鎧を纏った様な姿をしており、自然と同じ様な印象を抱いてしまう。
「それに、貴方の機体とあの白い機体、あと貴方がたの指揮官が乗っていた小さい機体からは、得体の知れない力を感じます」
「力?」
「そこにいるだけでこちらを威圧する様な……直接肌を押されている様な圧迫感……とでも言えばいいのでしょうか?常ではないですし、時によって強弱はありますが、そんなものを感じるんです……」
「はぁ……?」
シルフィード、白、ニコイチに対するリグルの独特な感想に、恭弥はなんと返していいかわからなくなる。
と、
「こりゃあまた、趣味的な機体だなぁ。傷だらけじゃねぇか……白いヒュッケバインといい、非特隊ってのはこういう凝ったデザインが好きなのか?」
「?……」
突然の声に恭弥は顔を向けると、黄色と黒の縞柄ツナギを着た男が格納庫入口からシルフィードとアトランティアを眺めている。
「…………
男――虎次郎に顔に見覚えを感じた恭弥は、知らぬ間に声を漏らす。
「……恭弥?……お前恭弥か?」
「やっぱり!虎か!」
声が聞こえたのか虎次郎も恭弥に気づき、誰だかわかるやお互いに駆け寄る。
「オイオイ!中等部卒業以来か?なんでこんなとこに……つうかそれ連邦軍のパイロットスーツじゃん!」
「この間横浜で未確認機の……ルミエイラの襲撃事件があったろう。その時、成り行きっていうかさ……虎こそ、なんでここに?四天学園辞めたの?」
「辞めてないさ。学業の傍ら、ヴァルキリーズで整備士やってんだよ。こう見えても主任だぜ!」
「てことは、部下とかいるの?」
「あぁ。各所への指示が一通り終わったんで、息抜きに非特隊って連中の機体を観察にな……ん?この格納庫にいるってことは……まさかお前も?」
「あぁ。そこの所属」
「……てことは、あのスッゲー美人の女パイロットが上官?」
「ライカさん?やっぱ美人だよなぁ」
「カァー!羨ましいなぁ!コノォ!!」
「ちょ!虎!やめ……!」
「…………あのー」
突然の再会に困惑したのも束の間、すぐに昔の調子を取り戻してじゃれ合う2人に、すっかり蚊帳の外に置かれたカノンが控えめに呼びかける。
「お取り込み中悪いけど、お二人は知り合いなの?」
「あぁ、すみません。つい……」
我に返った恭弥は虎次郎から離れ、カノンとリグルに紹介する。
「僕の幼馴染の城田虎次郎。愛称は『虎』。小中高一貫の学校に一緒に通ってたんだけど、高校進学の時に僕の事情で別れて、その後はお互い都合が合わなくてそれっきり」
「虎次郎だ。みんな『虎』って呼ぶからそれでいいよ。お二人さんは?」
「私は高槻カノン。今のところ迷子の子猫ちゃんてとこかな。こっちは私の主のリグル・フォン・エルプール」
「どうも」
カノンの紹介に、リグルは手短に頭を下げる。
「よろしく……ところでお前ら、
「あぁ、そうだ。先にもう2人来てるはずなんだけど、何処行ったわかるか?」
「美人の上官と見慣れないパワードスーツ着た奴?」
「そう」
「それなら医療施設の方だな。気絶した女の子抱えていったよ」
「何処だ?」
「その前に、俺の着替え貸してやるよ。さすがにその格好のままじゃよ」
「あぁ、そうだな……」
虎次郎の指摘に応じると、恭弥はカノンとリグルの方に顔を向ける。
「ちょっと着替えてくるんで、ここで待っててください」
「言っとくが、ここも機密保持とか危険箇所とかあっから、あんま動かないでくれよ」
「りょーかい。ゲシュペンストとユニコーンを堪能して待ってるよ」
恭弥の断りと虎次郎の注意に応じたカノンは、直後に2機に熱い眼差しを向ける。
周囲を物珍しそうに、あるいは不安そうに見回すリグルを見ると、恭弥は虎次郎の後を追って更衣室へ向かう。
(はぁー……気まずかった……)
ヴァルキリーズ部隊長用の白地に赤紫のラインが入ったブレザー型制服に着替えたノゾミは、執務室へ向かう途中、ライカとの着替え中の沈黙を思い出して溜息を吐く。
(ダメね。連邦軍を前にするとどうしても身構えちゃって……それに……)
着替えを始めて早々に気づいた自分の初歩的なミス、それによってますます気まずい雰囲気を作ってしまったことに、ノゾミは穴があったら入りたい心境になる。
そんなことを考えている間に執務室の前につき、声をかけると空気が抜ける音と同時にドアが開く。
室内中央には大きな執務机が置かれており、デザインは自分と同じながら濃紺に赤のラインが入った司令用の制服を着たウェーブがかかった紫色の長髪の女性が座っている。彼女こそリトス・ミッターナハト。軍のあまりにも非道な作戦を目の辺りにして退役したノゾミをヴァルキリーズ極東支部所属にするや否や第四分隊の隊長に任命し、27歳で極東支部司令を務める才媛である。昔は軍とは関係ない分野で活躍していたらしいが、詳細を知る者は少ない。
さまざまなデータが送られくる端末を一旦閉じると、リトスは顔を上げてノゾミを見据える。
「帰投早々すまないわねノゾミ・カワシマ第四分隊長……先ほどの戦闘で彼、認識コード『モモタロウ』と会話したそうね」
「は、はい……逃げられてしまいました……でも彼は将鬼から私を守ってくれました……」
「そう……ノゾミ分隊長、特別任務を与えます……今後モモタロウが現れたなら彼と共同戦線、もしくは話し合いの場を設けたいと伝えてくれるかしら」
「共同戦線……それに話し合いですか」
リトスはいつも最善の策をとる人である。それはノゾミも充分知っている。
しかし、
(……でも、桃矢のあの様子だと共同戦線は難しいし、話し合いに応じるかどうか……)
去り際の様子から、どうしてもそんな不安がよぎる。
「あぁそれと、時空崩壊から出てきたという少女、彼女はしばらくここの病院に検査入院することになったから。それに合わせて、非特隊も彼女の監視兼護衛ということでここに留まると、先ほどヴェーガス艦長のエリック・ノヴァ大佐から連絡があったから、後で他の隊員たちにも伝えておいてちょうだい」
「ヴェーガスって、先ほど滑走路に着陸した青い飛行艦艇……了解しました」
そんな連絡があったことを思い出しながら応じると、ノゾミはドアへ向かう。
(……桃矢との共同戦線か……上手くいくかしら?それに非特隊がしばらく留まるってことは、ミヤシロ中尉ともまた会う機会が……その時は、改めて丁重にお詫びしておこう)
仕事上と個人的な不安を抱えながら、ノゾミは執務室を後にする。
極東支部に到着した光秋は、通信機越しの指示に従って非特隊に宛がわれた地下格納庫へ向かい、部屋の隅にコンテナを置くと、ニコイチを空いているハンガーに納める。
防具一式を機内に置いて降りると、規格の合っていないPT用ハンガーに佇むニコイチを一見する。
(しまえばいいんだろうが、防具付けっぱなしで歩くわけにもいかないからな……白とシュルフツェンの方はとりあえず目立った傷はないか……)「さて、まずはここの司令に挨拶に行かんと」
傍らの2機の様子を確認して断じると、光秋は作業を行っている隣の格納庫に行ってみる。
「すみません」
「はい?」
作業指揮を執っている黄縞模様のツナギを着た男性――虎次郎に、周囲の騒音に負けない声で呼びかける。
「隣の格納庫を貸してもらってます、非特隊主任の加藤といいます。司令室はどちらでしょうか?」
「あぁ、恭弥の上官さん?ちょっと待ってて」
言うや虎次郎は駆け出し、何かを手に持ってすぐに戻ってくる。
「その前に、部外者はこれ付けて」
言いながら差し出されたのは「GUEST」と書かれた札であり、光秋は言われた通り付いている紐を首に提げ、騒音の中執務室への道を教えてもらう。
「……わかりました。ありがとうございます」
所々作業の轟音に潰されて完全には把握できなかったものの、忙しそうな様子に長く引き止めてはいけないと思い、わかる部分だけを頼りに歩き出す。
(わからない所は、途中ですれ違った人に訊けばいいだろう)
そう思っていた。
しかし、格納庫から歩き始めて数分後。
「…………まいったな」
予想に反して誰にも会うことなく、曖昧な説明を頼りに適当に進んだ結果、地下通路の真っただ中で道に迷ってしまう。
(飛んでる時に見えた中央の大きなビル、要はあそこに執務室があるんだよな?だったら地上を行けば……)「て、地上への行き方もわかんないんだよなぁ。階段らしいものはないし…………」
同じような景色が続く周囲を見回しながら、光秋は途方に暮れる。
と、
「そこで何をしているんですか」
「!」
突然の呼びかけに声がした方向に顔を向けると、茶色地に白のラインが入ったブレザー――ヴァルキリーズ一般職員の制服を着た黒髪の女性が速足で近づいてくる。
「その先は立ち入り禁止区域です。部外者は入らないでください」
「立ち入り禁止?……すみません。道に迷ってしまって。司令のお部屋はどちらでしょうか?」
「司令?……連邦軍……失礼ですが、そちらは?」
「あぁ、申し遅れました。こういう者です」
険しい表情で訊いてくる女性に、光秋は懐から名刺を差し出す。
「……作家がヴァルキリーズになんの用でしょう?」
「あ!またやっちゃった……すみません。こっちです」
毎度のことながら間違えて渡した名刺を取り上げ、正しい名刺を渡し直す。
「……非常事態特殊対策部隊って……」
「ご存じですか?」
「さっき横浜の鬼の鎮圧に出た時一緒でした」
「あぁ、ミヤシロさんたちと戦ってくれた部隊の方ですか。その際はどうも」
「!……い、いえ。こちらこそ、そちらに助けられました」
部下が世話になったことに対する礼に光秋は頭を下げ、突然の礼に女性は戸惑いながらも会釈を返す。
「……えっと、執務室に行こうとしてるんですよね?それなら案内します」
「いいんですか?」
「また変な場所に行かれても困るので……」
「ありがとうございます。そういえば、そちらは?」
「……ミオ・カンザキ。極東支部第四分隊の隊員です」
自己紹介を終えると女性――ミオは歩き出し、光秋もその後に続く。
(まるっきり逆方向だったか。道理で行けないわけだ……)
進む道にそんなことを思いながら、光秋はミオに続いてエレベーターに乗り込み、奥の壁に背中を預ける。
「……ところで、カンザキさんいやに可愛く見えますね?失礼ですがおいくつですか?」
「か、かわ――!?…………じゅ、19です……」
光秋の唐突な発言に、ミオは思わず絶句しつつ応じる。
光秋は「若く見える」くらいのつもりで言ったのだが、それをミオが知る由もなく、
(何言ってるの?この人)
と、不思議なものを見る目をどうしても向けてしまう。
「まだ未成年か。なるほどねぇ……その歳でこんな仕事に就いてるなんて立派ですね」
「い、いえ…………」
「因みに僕は今24です。あ、でも、僕も今のカンザキさんくらいの歳にはもうそこそこ面倒な仕事に就いてたかな。流石に鬼とやり合うようなことはしませんでしたが」
「……そう、なんですか…………」(悪い人ではないみたいだ)
続けて言われた褒め言葉に若干視線の険しさを抑えると、振られた話に短く応じる。
もっとも、光秋もそう長く話すことはせず、未知のものへの視線を向ける少女とぼんやりと扉を見つめるメガネを乗せたエレベーターは静かに上昇を続ける。
極東支部滑走路脇の格納庫に収容されたヴェーガス、そのブリッジでは、2人のクルーが確保したネメシス08の適合者の処遇について悩んでいた。
「あの少年……ちゃんと艦内に勾留したな?」
「えぇ。指示通り、一番深い区画の部屋に入れておいたわ」
「今のところそれしかないか…………あそこなら仮に部屋を抜け出せても、艦の外には簡単には出られんだろうし、被弾した時のダメージも届きにくいしな」
連邦軍の一般クルー用の赤い制服を着たカトリーヌの返答に、艦長用の白い制服を着たエリックは嘆息混じりに応じる。
と、ブリッジのドアが開いて2人の少女が入ってくる。1人はタイトなシャツにスパッツ、その上にパーカーを羽織った桜色の髪の少女――サクラ、もう1人はへそ出しTシャツにショートパンツと露出が多い緑髪の少女――フィルシア。
「あれ?他のみんなは?」
「艦内各所の点検に行ってるわ」
自分たち以外誰もいないブリッジを見回しながら問うフィルシアに、カトリーヌが応じる。
と、サクラがエリックの許に歩み寄る。
「エリック、ネメシス08に乗ったあの子、このまま私たちに同行させるんですか?」
「俺だって正直不服だが、貴重な適合者だからな。少なくともこのまますんなり帰すわけにもいかん」
「そうですけど…………」
エリックの返答に、サクラは納得しきれない顔をする。
と、フィルシアが会話に加わる。
「同行っていえばさ、非特隊の別働隊も、1人保護したんだよね?確か時空崩壊から出てきたって」
「そうだ。今はここの病院にいる。報告によると、お前たちと同じ年頃らしい」
「へー……せっかくだし、お見舞いに行こうかな?隊の他のメンバーにも挨拶したいし。サクラも行こう!」
「え?でもテンペストのチェックが……」
「そんなのはシンジにでも任せればいいじゃん。それに同僚同士の親睦を深めるのも大事だし。さ、行こう!」
戸惑うサクラの手を握ると、フィルシアはそのままブリッジを出ていこうとする。
「あ、もし……いや、十中八九会うと思うが、主任の加藤大尉に会ったらよろしく言っておいてくれ。本来なら俺が直接言わなきゃいけないんだろうが、ネメシス08の件でしばらく艦を離れられないからな」
「りょーかい!」
エリックの頼みに応じると、フィルシアはサクラを引っ張って今度こそブリッジを出ていく。
ドアの陰に消える2人を見ながら、エリックはふと呟く。
「……非特隊には、俺たちが合流する以前からあれくらいの歳の隊員がいるそうだな」
「……後悔してるの?大人の事情に子供を巻き込んだことを」
「……」
カトリーヌの問いにエリックは答えることなく、窓の外に広がる無機質な格納庫内の景色を静かに見つめる。
ミオに案内されてしばらく、光秋はようやく執務室の前にたどりつく。
「ここです。執務室」
「よかったぁ、なんとかついた。いや、ありがとうございました」
ミオの説明に、光秋はほっとしながら深々と頭を下げて応じる。
「いえ、道を教えただけですから…………その……加藤大尉はこの後予定ありますか?……司令への挨拶が終わってからということですが……」
光秋の礼に応じたのも束の間、ミオはやや言い辛そうにしながらも気になったことを訊いてみる。
「この後は……まずここの病院に収容された女の子の様子を見に行かないと。そこで非特隊の他のメンバーとも合流するでしょうね。一通り確認事項を済ませたら、一旦伊豆に戻って大陸に立ちます」
「大陸、ですか……?」
「今日はもともと、そこの委員会の基地の視察に行く予定だったので」
「そう、ですか…………」(そうなると、しばらく会えない…………)
弱々しく応じると、ミオは少し考える。
「……あの、よろしければこの後、病院に一緒に行ってもよろしいでしょうか?」
「え?」
唐突な申し出に、光秋は一瞬返事に困る。
「そりゃまた、なんで?」
「え?……いや、その…………!また迷子になって変な所に迷い込むといけませんから。私が道案内してあげます!」
「……確かに、それがいいかもしれませんね。じゃあお願いします。どこで待ち合わせれば?」
「ここで待ってます」
「ここで?……椅子もなにもありませんよ?」
「お構いなく。私はいくらでも待てます」
「……じゃあ、お言葉に甘えようかな。後でお願いします」
「はい!」
ミオのよく通る返事を聞くと、光秋は執務室のドアをノックして中へ入る。
(……加藤光秋大尉。いきなり変な名刺を渡したり、突然私のことを可愛……褒めたり、よくわからない人だ……でも、悪い気はしない。不思議と興味が湧いてくる…………)
光秋の入ったドアを見つめながら、ミオは先ほどまでのことをそう振り返る。
(思ってたより若いな)
光秋が執務室に入って最初に思ったこと、そして机を挟んで座るリトスに対する第一印象がそれだった。
基地司令という立場からレイカーの様な高齢者を想像していたのだが、目の前に座る女性はその予想をあっさり裏切るほどに若々しい容姿である。
(僕と同じ、いや、少し上か?少なくとも30前だろう……)
独り遊び感覚でリトスの歳を予想しつつ机に歩み寄ると、光秋は懐から名刺を差し出す。
「はじめまして、ミッターナハト極東支部司令。私こういう者です」
「……貴方が新設された非特隊という部隊の隊長、いえ、主任ですか。こちらこそよろしく」
(よし!今回は間違えなかったぜ!)
恭弥に会って以降初めてきちんと名刺を渡せたことに、心の中で親指を立てる。
「それと、私のことはリトスでかまいませんよ。みんなそう呼びます」
「そうですか?では、リトス司令……」
名前に肩書きを付けることに違和感を覚えながらも、光秋は話を続ける。
「この度は、こちらが保護した少女を受け入れていただきありがとうございます。すでにご存じかと思いますが、彼女が回復するまで我々はこちらに滞在させていただきます。いろいろとご迷惑をかけるかと思いますが、よろしくお願いします」
言いながら、頭を深く下げる。
「お気になさらず。人命第一がヴァルキリーズのモットーですし、そちらの部下も私も部下を救ってくれました。お互い様です」
「そうでしょうが……」
「それに滞在される理由も理解しています。それに、今後も鬼が出れば、また共に対処することにもなるのでしょう?」
「はい。あらゆる脅威に対処するのが我々非特隊の務めですので」
「……それならば」
何かを考える顔をしたのも一瞬、リトスはあることを話すことを決める。
「加藤主任、今後鬼対策で共闘することを考えて、お話しておきたいことがあるのです」
「なんでしょう?」
「はずはこれをご覧ください」
言うとリトスは机の端末を操作し、画面を光秋に向ける。
「ここ最近の鬼の活動記録です」
言われて光秋はメガネの位置を調整し、画面に顔を近づける。
「……拠点がこの4年で20箇所ほど完全破壊されている?」
「そうです。知っての通り、鬼達の拠点は鉄壁の守りで固められています。例え量産型の雑鬼兵や砲撃戦型の砲鬼の攻撃を掻い潜ったとしても、指揮官機であり群を抜いた性能を誇る将鬼が待ち構えています……都市を守るぐらいの戦力しか持たない私達ヴァルキリーズではとても無理、DC戦争の疲弊から立ち直り切れていない連邦軍でも似た様な状況でしょう。こんなこと、本来ならあり得ないことなんです。そして最近、この極東支部の近辺でも鬼達が現れて、直ぐに反応がロストしたんです。その際、未確認の鬼らしきものが居たと民間人が証言しています」
言うとリトスは端末を操作して映像を切り替え、特機ほどはあろうかという巨大な人型を写し出す。周辺に立ち上る炎や煙の所為で細部まではわからないものの、白を基調としたソレが鬼数体を叩き伏せ、殴り、貫き、切り裂き、頭を鷲掴みにして握り潰し、オイルと金属片を辺りに撒き散らせながら地面へ叩きつけ、鬼神の様に殲滅している。
『ム、ムモムモツツアルロー…………ガベァ』
『ウオオオオ!』
最後の鬼を殴り潰して爆発させると、ソレは鬼達の残骸の上に立ち、雄叫びを上げる。
その姿を最後にノイズが走って映像が消え、光秋はメガネの位置を戻しながら顔を離す。
「白い大型機……コレが先ほど現場に現れた自称『モモタロウ』、と?」
「おそらく」
応じつつ、リトスは消えた画面を閉じる。
「……私の推測では、モモタロウは味方だと判断しています」
「味方、ですか……しかし、現場で僕の部下が対峙した際は、一触即発の事態になったそうですが」
「……これはあくまで私見ですが、あの機体は映像を撮影した日にしろ、先ほどの戦闘にしろ、民間人を守るように戦っていました……これが理由です。部下の方たちとの件は、彼なりの訳があったのかもしれません。それに、本格的に一戦交える気もなかったのではないでしょうか。現にアクシデントで戦闘が中断した際は、何もせずすぐに撤収したそうですし」
「はぁ……」
あくまでもモモタロウを擁護する構えのリトスに、光秋は曖昧な返事をする。
(僕が直接見たわけでなし、判断材料も少ないからな……)
心中にそんな感想を呟く間にも、リトスは話を続ける。
「それで、ここからが本題なのですが……今後モモタロウが現れた場合、彼と共同戦線、もしくは話し合いの場を設けたいのです」
「共同戦線……話し合い、ですか……」
思わぬ提案に、光秋は束の間返事に困る。
「すでに部下の1人に同様の命令を出しています。非特隊に対してはこれの協力、せめて妨害しないことを約束していただきたいのですが」
「……まぁ、協力というのがどういうものかはわかりませんが、少なくとも妨害はしません。こちらも避けられる争いは避けたいですし、話し合いで解決できればそれに越したことはないので。ただ、相手が攻撃の意思を見せた場合はこの限りではありません。部下の命も大事ですので」
「それについては了解しました。もっとも、その心配はないと思いますが」
「……随分とモモタロウを信頼していらっしゃるんですね」
迷いなく応じるリトスの態度に、光秋は感じたままを呟く。
「ただ、鬼対策についてはそちらがプロですからね。この手の判断はそちらに従わせていただきます」
「ありがとうございます」
「その上でこちらからも確認なのですが、ルミエイラ、例の鬼を守った勢力について、現場で遭遇した場合、どの程度こちらに協力できますか?」
「ヴァルキリーズといえど自衛権はあります。鬼以外の勢力についても、相手から攻撃してきた場合には自己防衛の範囲で反撃が認められているので、先ほどの様な事態に再び陥っても積極的に協力して対処していけると判断しています。その点はご安心を」
「それなら結構です。とりあえず、モモタロウの件は了解しました。部下にも連絡しておきます。今回はこれで失礼させていただきます。ありがとうございました」
一礼すると、光秋は振り返ってドアへ向かう。
「加藤光秋…………迂闊な即断はしないか……それにしても彼、何者なのかしら?」
部屋を出ていく光秋の背中を見つめながら、リトスは一連の会話の中で抱いた違和感をひっそりと呟く。
執務室を出てすぐ、光秋は壁に背中を預けて待っていたミオに出迎えられる。
「お待たせしました。すみません。思ったより長引いてしまって」
「いいえ。私は問題ありません……では早速、基地内病院に案内します」
「お願いします」
光秋が応じるやミオは歩き出し、その後を光秋はついていく。
「…………」
「…………」
元来口数が少なく2人の間には自然と沈黙が広がり、光秋は特になんとも思わず、ミオはやや気まずさを抱いて執務室がある極東支部中央のビルを出る。
そこから病院へ向かって歩いていると、
「おーい!ミオ」
「……アキラ。サヨコも」
突然の呼びかけに2人は足を止め、辺りを見回したミオは自分たちの許に歩み寄ってくる茶色い制服を着た2人を認める。
1人は日焼けが目立つ活発そうな女性、もう1人はオレンジのサイドテールが目立つ大人しそうな女性である。
「さっきから何処行ってたんだよ?ていうかこのメガネは?」
「ちょっとアキラ!そういう言い方は失礼でしょう」
日焼けの遠慮のない言い方をサイドテールが慌てて注意するが、光秋は特に気にすることなく応じる。
「いいんですよ。みんな言いますから。ちなみに僕は、人間かけてるメガネじゃなくて、メガネかけてる人間ですよ」
「「「?……」」」
光秋の冗談に、女性3人は反応に困った顔で黙り込む。
「あぁ、わかんないか。ならしょうがないや……うふん!改めまして、こういう者です」
咳払いで気を取り直すと、光秋は日焼けに名刺を差し出す。
「……作家さん?ヴァルキリーズを題材にノンフィクションでも書かれるんですか?」
「え?またやっちゃった?すみません、さっきは大丈夫だったんだけど……こっちです」
横から覗く様に名刺を見たサイドテールの問いに、光秋は慌てて名刺を渡し直す。
「!?……非常事態特殊対策部隊って……」
「そう。私たちと一緒に戦ってくれた連邦軍の部隊。この人はそこの主任」
正しい名刺を見て目を丸くする日焼けに、ミオが補足する。
「あんたがあのトンデモPT共の上官?……てか、何でお前そんな奴と一緒にいるんだよ?」
「その前に、加藤大尉は名乗った。アキラたちもそろそろ名乗った方がいい」
「……そうですね。サヨコ・シノヅカといいます。よろしくお願いします」
「……悪ぃ、ちょっと動転しててよ。アキラ・アマネだ。さっきは部下の人たちに世話になったぜ」
ミオの促しに、サイドテールと日焼け――サヨコとアキラは礼を交えながら自己紹介する。
「カンザキさんのチームメイトでしたか。こちらこそ、部下がお世話になりました。カンザキさんには、病院までの道案内をしてもらってまして」
「道案内ですか?」
光秋の状況説明にサヨコがさらに問うと、ミオが補足する。
「道に迷っていたところを呼び止めて、執務室まで案内した。その後基地内病院に用があったから、また迷わないように案内している」
「病院?……そういや、現場で保護した女の子が運ばれたんだっけ」
「そこで他のメンバーとも合流するらしい」
思いだした様に言うアキラに、ミオはさらに付け加える。
「ふーん?……しかし珍しいな。ミオが赤の他人にそこまで付き合うなんて」
「そうなんですか?」
普段のミオを知る身には想像し難いアキラの感想に、光秋は意外そうに応じる。
「そうなんだよ。こいつ無愛想でさ、その所為でよくトラブル起こしていろんな隊を転々と――」
「加藤大尉。そろそろ行きましょう。時間がもったえないです」
「……あぁ、そうですね。お願いします」
さらに続けようとするアキラの言葉を遮ってミオは歩き出し、光秋もこの後の予定を思い出してそれに続く。
「……せっかくだし、あたしらも行くか?」
「いいかもね。非特隊の他の人たちもいるみたいだし、それならその人たちにお礼が言いたい」
「それもあっけど、あたしはあの無愛想なミオが珍しく興味を持った加藤って奴が気になるしな」
「だから、そういう言い方は失礼でしょ!」
アキラの動機にサヨコは注意を入れつつ、2人も光秋たちの後を追って病院へ向かう。
こうして、非特隊のパイロットとそれに関わりを持った者たちは、それぞれに病院を目指すのであった。
オマケ(一条 秋・青山ブルーマグノリア)
カノン「高槻カノンが『スパロボH』にぃ…………キタァーーー!!!いやぁ!出ちゃったよスパロボ!!ロボットものの多重クロス作品、正に私の為の企画だね!美少女騎士カノンの活躍にこう御期待!
にしてもスパロボの世界かぁ……とりあえずゲシュペンストには乗りたいな。あとヒュッケバイン。騎士繋がりでアリシオンもいいかも。あとはセラフィムに……どうにかしてモモタロウにも乗れないかな?……」
リグル「ちょっとカノン!貴女にはアトランティアがあるでしょうが。それに、まだ言うことがあるでしょう?」
カノン「あ、そうだった。ゴホン!……『The Knight of Atrantia -贖いの騎士と氷の王女- 』もヨロシク!!……て、このネタ加藤さんがもうやってなかったっけ?」
リグル「細かいことは気にしないの」