「くぁ」
「ふぁ」
「ふゃぁ」
八幡さん、私、カマクラさんと連鎖して欠伸をする。……欠伸って本当に移るみたいだね。とにかくお昼御飯も食べて、やることが無いと眠くなってしまうよ。小町さんは愛読の雑誌買いに行くと出かけてしまったし本当に暇だね
「八幡さん、パンはパンでも食べられないパンはなーんだ」
「なぜ急にナゾナゾ?まぁルパンとかパンダとかフライパンだろ。」
「と言うナゾナゾがあるけど作った人もこんなに答えが増えるとは思わなかったろうね」
「……そうっすね」
何故かぷいっと顔を逸らしてしまう八幡さん。そういえば出会ってから八幡さんをずっと振り回してるね。労うのもまた愛、かな?一般常識だね。
「八幡さん、肩凝ってないかな?」
「右肩は少しな。……おさわりはナシですよ?」
「まあまあそう言わないでよ、ちょっとした感謝の気持ちみたいなものだから」
「まあまあそう気にしないで、俺がしたくてやってるだけだから」
距離を詰めようとすると離れる。また距離を詰めようとしても逃げられる。それも壁に追い詰められない様に逃げているから中々捕まらない。……君のそういうところは嫌いじゃないけど本当に面倒だね。
「うぉ、カマクラどいてくれ!」
「ありがとね、カマクラさん」
「にゃー」
カマクラさんが丁度八幡さんの逃げる方向に陣取ってくれたおかげで八幡さんが逃げられなくなった。今がベストでこれを逃したらカマクラさんに合わせる顔が無いよ。幸い八幡さんはペースが乱されて壁側に逃げたし、はっ
ドン
「捕まえたよ、八幡さん。」
「立つのはズルくね?後壁ドンとかやめてください」
「勝てば官軍だよ。それにこうしないと逃げると思ってね」
折角壁に追い詰められたから両手で進路を無くして逃げれなくした。まあ体重掛ける様にやったから壁じゃなくて君に当たらなくてよかったよ。もし顔に当たっていたらそのまま後頭部を壁に打ち付けて傷害事件になるところだね
「逃げないから離れてくれ、顔が近いから」
「…………っ」
「八千代?」
「……ふっ…カマクラさん……足………くす…ぐったい……からぁ……」
さっきは八幡さんの退路を断つように立っていたカマクラさんが私の足にまとわりついてきてすごいくすぐったいよ……。しかも少し無理がある体勢をしてる時にくすぐられたら
「お、おい大丈夫か?くにゃんとなったけど」
「く、ふふ、あまり…大丈夫じゃない……よ……」
「楽な体勢になれ、逃げないから」
「わかったぁ」
そのまま壁についた手を首に回して八幡さんに倒れこみ抱き付く形になる。少し恥ずかしいけどカマクラさんにじゃれ付かれるよりずっといいし、何ならくっつけるから結果オーライかも知れないね。でも感謝はしないよ、カマクラさん
「……もういいか?離れてくれ」
「まだダメ。もうちょっとね」
「にゃあ」
折角だしこのまましばらく抱き付かせてもらうよ。顔が熱いから冷めるまでずっとね。あと八幡さんじゃなくて君が返事するんだね、カマクラさん。
~~~
「八千代さん大胆ですね!」
「もうやめてやれ小町」
「…………」
顔の熱が引くまで抱き付いていたら小町さんにばっちり見られた。また顔が熱くなったけど、もう一回抱き付くのは恥ずかしいから塞ぎ込み状態(体育座)なのに、小町さんはニヨニヨしながら話しかけてきてるから顔が上げられないよ
「あー、すみません八千代さん。小町テンション上がっちゃいまして」
「こういってるから一旦怒り収めてくれ」
「別に怒ってる訳じゃないからね」
うん、怒ってないよ。羞恥心に駆り立てられただけでね。カマクラさんに文句ぐらい言おうと思ってたけど見つからないのは少し腹が立ったけどね。
「小町さん、せっかくだしその女性誌私にも見せてくれないかな?」
「わっかりましたー!小町と一緒に見ましょう!」
一旦八幡さんを放置して小町さんと遊ぼうかな。猫は触り過ぎると鬱陶しいと思うらしいからここは退いてみるのも手だと思ってね。後私は女性誌などは見ないから物珍しさだね。
「わぁ、何というか……きゃぴきゃぴしてるね。」
「これは可愛い系の雑誌ですから、八千代さんはクールとかサッパリとかですね」
可愛い系の雑誌。複数の項目から自分に一番似合うのを選んで雑誌を買うものなんだね。私にはさっぱりだよ。……このさっぱりは小町さんが言うサッパリじゃなくてさっぱり分からない、という意味だからね
「これとか可愛いと思いません?」
「どれどれ」
小町さんが指しているのはクラスで見たことがあるような「ゆるふわファッション」というスタイルで自分をか弱い存在に見せることで相手の保護欲を刺激するらしい。あれだね、これを全部狙ってやってるなら「ゆるふわ」でも何ともないね。まあ
「うん服のセンスは可愛いと思うよ」
「ですよね!小町にも似合うと思うんですよー」
「ふむ、この「少し大き目の服を着る」はいいと思うよ」
「お兄ちゃんのYシャツ着たらこんな感じになりそうですね」
ほう、私も八幡さんのYシャツを着てみようかな。袖は少し折る必要があるだろうね。それにその恰好は彼シャツという言葉があるらしい、この雑誌の角に書いてあった。なら私が上手くいったときに頼んでみようかな。
「うぅん、どうもファッションは苦手だね」
「八千代さんいつもラフな恰好ですよね。」
「スカートは余り好きじゃないしピシッと決めるのもやりづらいから、ついね」
実際オシャレはよくわからない。色んな服を着るのも女の子の楽しみだろうけど私にはわからないね。自分を着飾るよりお人形さんを綺麗に飾り付けた方が労力が少なくていいと思うけど、でも趣味に労力とかは野暮だし、結局わからないね
「んー八千代さんは……、口調と容姿のギャップを使ってお嬢様系とかどうでしょう?」
「ごめんね。私には全くわからないよ」
「じゃあ今度小町とお買い物いきましょう!小町ファッションで染め上げます!」
「……機会があったらね」
できれば機会が無いといいけどね。……でも自分を可愛らしく見せるのも大事かな。それでも興味のないものに熱は入れづらい。まあ小町さんと出かけるのもそれはそれで楽しそうだからやっぱり楽しみにしてるよ。
~~~
「ん?お母さんとお父さんからメールが入ってる」
『今日は帰れそうに無いので御飯の用意は要りません。ごめんね』
そういえば最近忙しいと言ってたね。家から会社の出社の時間を当てれば何とかなるのかな?とにかく今日の晩御飯は適当な残り物で良さそうだね。明日帰ってきたら二人が好みそうなもの作ってあげるかな
「『わかりました、頑張ってね』っと、送信」
「どうしましたか八千代さん?」
「今日帰れないという報告があってね」
「ピコーン、じゃあ八千代さん!」
何か企んだ笑顔になる小町さん。あまりその笑顔にいい思い出は無いよ。出来ればそのまま口を閉めてくれれば精神的平穏が保たれるけど……
「今日は一緒に晩御飯食べましょう!何なら泊まっていきましょう!」
「晩御飯はいいよ、晩御飯はね」
「わかりましたぁ。明日は月曜日ですもんね」
「ありがとね」
感謝の気持ちとして頭を撫でてみる。ほぉ手触りはただの髪なのにサッと一本にまとまるよ。指に絡ませてクルクルっと、ピンッと髪は立つ。これは楽しい、まるで生きてる様に動いてくれて猫じゃらしを追い掛けたくなる猫の気持ちが分かるよ
「ちょ、八千代さんくすぐったいです!」
「おっと、ごめんね。面白かったもので」
「今度からは兄のを触ってくださいね」
「わかったよ、次は八幡さんのね」
八幡さんを差し出して逃げたのか私を気遣って八幡さんを押したか。多分前者だろうね。あれは触られるとくすぐったいみたいだね。神経は無いはずだけどね、とにかく八幡さんの髪を触らせてもらえるよう頼もうかな
「八幡さん」
「なんだ?」
ソファで本を読んでる八幡さんに声を掛けると本から眼を逸らさず言葉を返してくる。さて何と言えばいいかな?髪を触らしてくださいかな?素敵な髪形ですねかな?なんでもいいね。
「君の頭を触らして欲しいな」
「今度は何があったんだお前」
「小町さんの髪を触ったら次は八幡さんのを触れって言われてね、いいかな?」
「ダメだ」
即答だった。そんなに髪を触らすのが嫌なのかな?私にはあまりわからない感性だよ。しかし眼の時より拒絶してるしもっと近寄れてからだね。残念
「じゃあまたお膝貸してよ。」
「俺は本読んでんの、ほらあっちで小町と遊んできなさい」
そう言って読書に戻る八幡さんはまるで私の事は忘れたかのごとく眼で文章を追っている。 むぅ、少し甘えたい女の子の気持ちが分かんないのかな、この鈍感さん、めっ
「てっ!」
「お隣失礼するよ」
八幡さんの頭に一発デコピンをしてからソファに朝と違って適度に離れた距離で陣取る。それにしても八幡さんに猫を相手にするような対応はダメだったね。距離を少し取ったらその隙に逃げようとするとは迂闊だったよ。次はどんな手で攻めようかな?ふふ、楽しみだよ