「あ、遅れてすみません。比企谷先輩。」
「……いや、気にすんな。」
昼休みが始まって賑やかな本校と比べて全く人気がない特別練の屋上で言葉を交わす私と比企谷先輩。それにしても少し以外だったよ、君のほうが早く居るとはね。私も少し急いだけどどうやって来たのかな?短縮できるルートは多分ないと思うけど……まあどうでもいいね。さてお昼ご飯の時間だよ。
「さてレジャーシート持ってきたのでひくの手伝ってください。」
「……何でレジャーシートもってんの?」
「念のためです。備えあれば患いなし、ですよ?」
「……そうかい。」
「ありがとうございます。はい、こっちが比企谷先輩のお弁当です。」
「ん、悪いな。」
レジャーシート持ってるのは、希望がなければ外で食べようと思っていたからだよ、持ってきといて正解だったね。さておまちかねのお弁当の中身は簡単なもの。でも冷凍食品は一つも入れてない手作りお弁当だよ。言うなればあざといお弁当かな。
比企谷先輩のお弁当は、二段になっていて一段目はご飯に梅干しとごま塩を振りかけたシンプルな中身。二段目は、卵焼き・たこさんウインナー・アスパラのベーコン巻き・ミニトマト・ブロッコリー。定番メニューを入れたやっぱりあざといお弁当だね。私のお弁当は比企谷先輩のお弁当を一段に纏めた感じだよ。おっと食べる前にこれだけは言っておかないとね。
「比企谷先輩。聞きたい事言いたい事、たくさんあると思いますが、それは食後にしてください。」
「…………」
「さていただきます。」
「……いただきます。」
了承、という顔はしてなかったけどひとまず置いといてくれるみたいだね、たすかるよ。せっかくのご飯がまずくなった嫌だからね。いや、まずくなる様な話をする気はないよ。ただ君次第だよ比企谷先輩。さて私も早く食べようかな。
「………」
「………」
「………」
「………」
沈黙。本当はこの時間で色々聞こうと思ってたけど、この状態で聞くのはあまり良くないだろうね。……しかたないこの時間は沈黙を保とう。どうせ彼も話しかけてこないよね。しかし、君と初めて会った時も小さくない沈黙があったね。それにしても一昨日あったばかりの君にここまで入れ込むとは思ってなかったよ。まあ少し気分が良くなったかな。この沈黙もいいかもしれないね。
~~~~~
「ご馳走様でした。」
「ごちそうさん。」
本当に沈黙を保っちゃったよ。まさかお互いに無言で弁当を咀嚼するだけの時間になるとはね。まあとりあえずお弁当の感想聞いておくかな。そしたら腹の探り合いはもうお終いにしてぶっちゃけトークといこうかな。
「お弁当どうでしたか?」
「あーそうだな。店に出すとかじゃなきゃ十分だろ。それ以上、上手くなりたかったら雪ノ下に依頼するか料理教室にでもいけばいいだろ。
「そうですか……美味しかったですか?」
「ん、うまかった。」
「良かったです。」
さてと。これからが本番だよ比企谷先輩。
「それで、言いたい事……どうぞ。」
「……そうか。じゃあまず、その隠す気もない演技やめてもらっていいか?
この際もうタメ口でも構わん。」
まあ、気付かれてるよね。むしろ気付いてなきゃ残念がってるところだよ。しかしタメ口でもいいとは懐広いね比企谷先輩。
「そこまで言うなら楽に喋らせてもらうよ。」
「……マジでタメ口かよ。」
「君がいいといったからね。それで?それだけじゃないよね?」
「当たり前だろ。おまえの目的だ。目的。」
ふむ、まず目的か。いきなり眼が気に入りましたって言っても信じてくれるかな?普通は無理だろうけど君なら大丈夫かな?いや前置きは大事だよ。
「うーん、それなら少し小話挟ませてもらってもいいかな?」
「時間稼ぎか?」
「まさか、そんなことしないよ。さて話させてもらうよ。いいかな?」
「………」
今回は了承という顔をしてくれたね。しかし昨日とかは眼を合わせようとしても逸らされたのに、こんな時はしっかりこっちを向いてくれるんだね。ふふ、相も変わらず腐ったいい眼をしているよ。
「私は一人っ子でね、小さい時から甘やかされて育ったよ。甘やかされたと言ってもちゃんとダメなら叱られたね。それでも欲しいものは大体買ってもらえたよ。」
「………」
彼は無言で聞いてくれる。その腐った眼で私の真意を読み取ろうとこっちに向けてくる。君の眼に映る私はどんな人かな?嫌な奴?どうでもいい奴?危険人物とかかな?
出来ればそうは思われたくないね。
「それで大きくなると自分で手に入れるという手がとれる様になるよね?欲しいものは沢山あったけど心から欲しいと思った物は一つもなかったよ。」
「………」
彼は無言で続きを促す。私は一度、目を閉じて息を吸う。
「それから少しの時が経って私は初めて心から欲しいと思ったものが見つかってね。つまり……」
ここで言葉を切り、真っ直ぐ彼の眼を見つめる。
愛の告白をするわけでもないのに、鼓動が速くなる。
君の眼には「まさか!?」という動揺とそれを抑えようとする色が見える。
「私は君のその腐った眼が欲しい……」
「……………………………はい?」