<エルダー・テイル>が現実になって早くも十日程が 過ぎた夜、桜花は初日から拠点としている廃ビルの屋上で適当に買った果物を食べていた。なんと!果物をはじめとした素材アイテムにはその素材そのものの味があるのだ。とはいえ、これに気づいたのは本当に偶然だった。
あの料理を食べた次の日、食べ物を買いに行ったが初日のあの料理から<エルダー・テイル>には味のする食べ物が無いと思い「味がしないなら何を食べても一緒。」という考えをもとに素材アイテムを買って食べたら素材そのものの味がしたのだ!
これで食事は大丈夫だと思ったのだが、新たな問題がでてきた。
その問題は今日の昼にさかのぼる。
いつものようにゾーンで魔物と戦おう森の中を歩いていた。
なんだろう?周りには居るような感じがするのにいっこうに魔物に会える気がしない。どちらかというと、私が近づくとその分離れて行っているような……。
~そして、さらに歩くこと3時間~
……避けられてる。もしかして魔物にも自我が目覚めたということ?そうなるとやはり、この世界はゲームではなく現実になったってことでいいのかな。
それじゃあ、このゾーンでは魔物としばらく戦えなくなるかもしれない……。
トランスポーター(都市同士を繋ぐ転移装置)の使えない状況でこれはまずい。
桜花が割と真剣に考えていると、後ろの方からあきらかに魔物ではない気配を感じ、すぐに思考を切り替え後ろち振り向く。
「誰?」
「よく気づいたな。けどよぉ女がこんなところで一人でいると悪いやつにさらわれるぞ。」
「馬鹿。お前、それって俺たちのことじゃねぇか。」
「そりゃあ、ちげぇねぇ。」
「「ぎゃははははは!!!!」」
茂みから出てきたLv63の<暗殺者>とLv56の<妖術師>の二人組の男が下世話な笑い声と共に此方に近づいてくる。どうやら、女でさらに一人ということで相手のステータスさえも確認していないようだ。
「・・・」
「おいおい、怖くて声がでねぇのか?」
「お!それはちょうどいいじゃねぇか。有り金と装備、置いていくならPKしないでやるよ。神殿送りされるよりはマシだろ?」
桜花はその二人をゴミを見るような目で見ながら、会話の中のある言葉について考えていた。
神殿送りってことは、ゲームと同じで冒険者は神殿で復活するってこと。なら、さっさと終わらせる。
「おい!黙ってねぇで、なん……。」
<暗殺者>の男がしびれを切らし、大声で怒鳴り散らそうとしたが最期まで言うことは出来なかった。
なぜなら、一瞬のうちに相手の懐に入り込んだ桜花によって放たれた神速の居合が相手の首筋を切り裂き、血を吹き出しながら崩れ落ちたからだ。
そして、アイテムと金貨を残して消えた仲間を呆然と見ていた<妖術師>は桜花の返し刃の一撃をくらい<暗殺者>と同じようにアイテムと金貨を残して消えたのだった。
あの後、町に戻った桜花はススキノに入るとき異様に視線を感じたが、特に気にしたような様子もなく、いつも食べ物を買っている大地人の店に来ていた。
「なぁ、嬢ちゃん気をつけなよ。なんでも、仲間が殺られた報復だ!って赤い着物を着た女を、さっき一部の冒険者が怒鳴りちらしながら探してたからな。」
いつもは商品だけを渡す店主の忠告を桜花は頷くだけで返し、いつもの廃ビルに帰ろうとしたのだがその途中、誰がに付けられている気配を感じ、路地の物陰に入り様子を見た。
「さっきの女、どこにいった!」
「てめぇが、しっかり見張ってねぇからだろうが!」
「お前ら!まだ近くにいるはずだ!言い争ってねぇで、さっさと探すぞ!」
「そうだな。こんなことでギルマスの怒りを買いたくねぇからな。」
そう言って、男達はその場を離れて行った。
その会話を桜花は物陰から聞いていた。
その後、誰にも見つからずに廃ビルに戻り、今に至る。
桜花は一人、今後について考えていた。
探してる容姿とタイミングから見て、おそらくあの二人組はどこかのギルドに入ってて、あの男達はさっきの男達の仲間。それで探しているのは私だと思うけど、まぁなんとかなるかな。
否、考えていなかった……。
考えていたとしても彼女の場合、戦闘に水をさされるのが嫌だとか、弱い相手に絡まれるのが面倒ということ位だろう。
リーン。リーン。
そんな彼女は着物の帯に付いている鈴を鳴らしながら、月をボーと見ていると、後ろに誰かの気配を感じた。しかし、彼女は全く反応しなかった。
なぜなら、
「桜花っちは相変わらず高い所が好きなみたいですにゃ。おかげで探す手間が省けましたにゃ。」
彼女は、その気配が誰かを分かっていたからである。
「うん。高い所は空がよく見えるから好き。にゃん太、私に何か用事?」
「そうですにゃ。桜花っちが、このススキノに居ると分かったので探していたのですにゃ。」
「何で分かったの?」
「今、町であるギルドが探し回っている人物の容姿とそのときの行動で、吾が輩は桜花っちの可能性が高いと思ったにゃ。いやはや、当たっていて良かったですにゃ。」
「そう、それで?」
「桜花っちに1つお願いがあるんですにゃ。」
「お願い?」
「はいですにゃ。実は今、吾が輩が保護している少女を護衛して欲しいんですにゃ。」
「……にゃん太だけじゃダメなの?」
「ずっと一緒というわけではなく、吾が輩が買い物などで留守のときに誰か信用できる人にいて欲しいのですにゃ。」
「……」
桜花はゆっくりと顔を上げ、月を見ながら受けるか否かを考えた。そんな彼女をにゃん太は静かに彼女の答えを待っていた。
「いいよ。受ける。」
「よかったですにゃ。では、吾が輩の縁側に行きましょうか、ここは少し冷えますからにゃ。」
「分かった。」
そう言うと彼女はゆっくりと立ち上がり、にゃん太の元に歩し出した。