女帝が引っかき回すお話   作:天神神楽

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浮気ではない。
愛である。


ふみふみ

翌日。エレーナはアナスタシアとレッスンルームにいた。約束の十時よりも早く九時。

「じゃあ、軽くレッスンね。基本のステップからしてみよっか」

「はい!」

エレーナに言われて、基本のステップをしていくアナスタシア。所々エレーナに指摘されながら、あっという間に三十分過ぎていた。

「ちょっと休憩しよっか。はい、ドリンク」

用意しておいたスポーツドリンクをアナスタシアに渡す。

「ありがとう。んくっ、んくっ」

「どう? だいぶ良くなってきたと思うけど」

「はいっ。私じゃ気付けなかった所が、いっぱい分かりました!」

今回エレーナが見ていたのは基本的な動きだったが、その中で改善点を指摘していき、確実にアナスタシアのダンスは動きが良くなっていた。

「そっか。なら良かったわ。じゃあ、もう少しやりましょうか。今度は私も一緒にやろうかしらね」

十時まで、二人で動きを確認しながらダンスのレッスンをしていった。十時前になり、レッスンを終え、皆が来るのを待っていると、すぐに皆がやってきた。他にも武内Pや華耶も来ていた。

「じゃあ、始めましょうか。お名前と、簡単なステップを踊ってもらおうかしら。それと、この後で私がやる動きをやってね」

そうして始まると、次々とみなエレーナのステップを真似していく。しかし、エレーナが踊るダンスは今のメンバーには難しいもので、みな苦戦していた。

「では、次はアナスタシアさんですね。お願いします」

そして次はアナスタシアの番である。指示されたダンスを終えると、今度はエレーナのダンスを踊る番である。

「じゃあアーニァちゃんにはこれね」

アナスタシアに見せたのは、激しい動きのダンスではなく、静かな、だからこそ指の先まで神経を研ぎ澄まさせなければならない類いのダンスである。

「っと、これを踊ってね」

踊り終えると、エレーナは席に戻る。一人になったアナスタシアは、呼吸を整えると、エレーナの踊りを踊り出した。

エレーナに比べればまだまだ未熟である。しかし、他のメンバーに増して動きは洗練されていた。

「アーニァちゃん、凄い……」

「(ダンスをするときは、手の先指の先にまで意識して。そして全身で表現して)」

エレーナから先程、そしてずっと教わってきたダンスをするときの心構えを心の中で振り返りながらダンスを踊るアナスタシア。

そして、ダンスを終える。

前に座っていた三人を見ると、それぞれ皆違う表情をしていた。華耶は感心したような表情を、武内Pは驚いた表情を。そしてエレーナはもの凄く嬉しそうな表情を。

「お疲れ様でした。ではこれで終了といたします。結果は決まり次第ご連絡いたします」

「みんなお疲れ様。多分今日中には連絡出来るから、待っててね。じゃあ武内プロデューサー、行きましょうか」

「はい。では、皆さんはレッスンの準備をお願いします。卯月さん達と新田さん達はライブに向けた練習も始まりますので、頑張って下さい」

そうして三人はレッスンルームを出て行った。

残ったメンバーは、お互いのダンスを評価し合っていた。

「アーニァちゃん、凄かったよ!」

「ありがとうございます美波。でも、私、どんな風に踊っていたのか……」

「覚えてないの?」

美波の驚いたような声に、アナスタシアは恥ずかしそうに頷く。

「はい……夢中で……」

「凄かったにゃ! アーニァちゃん、何があったのにゃ!?」

みくもアナスタシアのダンスには驚愕していた。

「昔からお姉ちゃんに言われてたことを振り返ったです」

「言われてたこと?」

「はい。『ダンスをするときは、手の先指の先にまで意識して。そして全身で表現して』って言われたんです。だから、それを意識してたら、どんな風に踊ってたか、覚えてなくて」

照れたように言うアナスタシアに、みく達はポカンとしてしまったのであった。

一方こちらはシンデレラプロジェクトルーム。審査を終えたエレーナ達がその件で話し合っていた。

「では、やはり新田さんとアナスタシアさんですか?」

「えぇ。お二人が良いかと思います。踊りの質が、エレーナのステージに合っていると思います」

「質、ですか?」

「はい。激しい中にもどこが艶がある。そのようなダンスが出来ていたのはお二人だと思います。城ヶ崎さんや前川さんもお上手でしたが、どちらかというと元気に溢れるダンスでしたので、今回のステージとは少し違うと思います」

「そうですか……エレーナさんはどうでしょうか?」

一人お茶を飲んでいたエレーナは武内Pに言われて顔を上げる。

「私は華耶さんの意見と同じです。ミニライブもあるから少し不安な所もあるけど、そこは私の方でもフォローするから大丈夫だと思いますよ」

エレーナも二人の意見に賛成であった。武内Pの懸念材料であった二人への負担についてもエレーナがフォローしてくれるというので、そこもクリア出来る。

「では、エレーナさんのバックダンサーは新田美波さんとアナスタシアさんということで。お二人もよろしいですか」

「えぇ。部長には私の方からお伝えしておきます」

「私もオーケーです。ふふっ、レッスンが楽しみね」

バックダンサーも決まり、エレーナも自分のレッスンに向かう。部屋に残された華耶と武内Pは互いに息をつく。

「ふぅ……突然申しわけありませんでした、武内プロデューサー。お忙しいときに面倒事を持ち込んでしまって」

「いえ。こちらとしてもとても良いおさそいでしたので」

苦労性のプロデューサー達であった。

 

 

 

「はい、文香ちゃん。約束の本」

レッスンが終わると、エレーナは待ち合わせをしていたカフェで文香に本を渡す。

「あ、ありがとうございます。私も持ってきたんです。えっと」

文香が渡してきたのは、三冊。二冊は読書家の間で評判の本、もう一冊は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』であった。

「ありがと、文香ちゃん。この版、中々見つけられなくって。流石は346プロ一の読書家さんね」

「そ、そんな、エレーナさんに比べたら……。私は洋書は読めないし」

「あらあら。じゃあ、今度一緒にお話ししましょうか。そうね……近代の翻訳文学についてとかどう? 文香ちゃん、鴎外の『ファウスト』とか好きだったわよね」

「は、はいっ! もし今夜空いているなら……、あっ、ごめんなさい」

本のこととなると、興奮してしまう文香は、自分の行動に顔を赤くする。

「ふふ、大丈夫よ。今夜ね。明日の仕事は夜からだから、一杯お話ししましょうね。美味しいコーヒー用意するわ」

「は、はいっ! えへへ、楽しみです」

大人しい文香だが、エレーナにはよく懐いている。それは、エレーナが読書家であり、文香と濃い話が出来る数少ない人物だからである。そんな尻尾がついていたらぶんぶん振り回しながらすり寄ってくる犬のような文香は、エレーナにとってとても可愛い後輩なのであった。

「どうする? 家に行く前に、どこかに寄っていく? 予約はしてないけど、美味しい中華のお店があるの」

「で、でもいきなりなのに……」

「いいのいいの。ちょっと連絡してみるから、待っててね」

エレーナは連絡をするために、席を立つ。すぐに戻ってくると、文香に指で丸を見せる。

「席取れたわ。七時に取れたから、少し洋服でも見ましょうか」

「え、えぇっ!?」

慌てる文香の手を取り引っ張って、エレーナは自分のよく行く店に連れて行った。

買い物も終わり、予約していた中華料理店に入る。よく訪れているエレーナは気軽にしていたが、文香は小さくなっていた。それは店の雰囲気にやられたのではなく、その服装にあった。

「え、エレーナさぁん……」

「ほら、そんな俯かないの。よく似合ってるんだから、顔を上げて。ね?」

「うぅ……」

エレーナに言われ、顔を真っ赤にさせながら顔を上げる。前髪は綺麗にまとめられ、服装も豪華すぎない控えめなワンピースである。エレーナがせっかくだからと、着替えさせたのである。化粧はブティックのスタッフにお願いして。コーディネートを終えたスタッフがやりきった顔をしていたのは印象的であったとか。

「さ、なんでも食べてね。ここの料理はすっごく美味しいんだから」

「じゃ、じゃあ……エビチリを」

何を頼めばいいか分からなかった文香は定番を一つだけ頼む。エレーナがいくつか追加で料理を頼むと、奥から調理服を着た女性がやってきた。

「いらっしゃいませ、エレーナ。久しぶり」

「えぇ。最近は中々来られなくてごめんなさい。あ、この子は後輩の文香ちゃん。文香ちゃん、この人は料理長の朱仁禛さん」

エレーナが文香に仁禛のことを紹介すると、文香が慌てて仁禛に頭を下げる。

「あ、私、鷺沢文香です!」

「ふふっ、仁禛よ。今日は飛びっきり美味しい料理を作るから楽しみにしててね」

「は、はいっ!」

仁禛は文香に手を振ってから厨房に戻っていく。

「ふふ、どうしたのそんなに緊張して」

「そ、その、仁禛さん、とてもお綺麗でしたので……」

「そうね。テレビ番組とかもオファーされてるけど、全部断っているの。このお店も、仁禛さんの料理に惚れ込んだオーナーが頼み込んで出店したお店なの」

内装は竹などが盛り込まれており、落ち着いた雰囲気である。奥の影になった所に案内された二人だったが、そこも綺麗で文香は段々落ち着いてきていた。

料理も運ばれてきて、食事も進み、デザートの杏仁豆腐を食べていた。

「その、エレーナさんはここによく来るんですか?」

「えぇ。いつもは一人で仁禛さんと食べてたけど。そう言えば事務所の子とくるのは初めてね」

「えぇっ!? その楓さんとは来ていないんですか?」

「えぇ。楓ちゃんとはいつもお酒を飲みに行っちゃうし、他の子達とも別の所に行くわね」

成人組(うさみん含む)とは大体はお酒の席になるし、未成年組とはイタリアンなどをよく食べにいっている。

「えと、じゃあ、どうして今日は?」

文香は恐る恐るエレーナに尋ねる。そんな文香にエレーナは優しい声で答える。

「そう大した理由はないのだけれど。そうね、文香ちゃんに美味しいものを食べてもらいたかったからかしら」

「そ、それだけ?」

「えぇ。文香ちゃんは可愛い後輩ちゃんだけど、大切な読書仲間ですもの。もし、文香ちゃんとお仕事をさせてもらえたなら……あ、そうだわ」

途中で何かを思いつき、言葉を区切るエレーナ。

「どうしたんですか?」

「ふふふ、まだ内緒。それで、文香ちゃんといるととっても楽しいの。秘密のお店を教える位にはね」

「で、でも私地味だし」

「そんなことないわ。文香ちゃんはとってもステキな女性よ。そうね、太陽のような綺麗さじゃなくて、月のように神秘的な美しさ。あなたもそう思うでしょ、仁禛さん?」

エレーナは文香の後ろに来ていた仁禛に声を掛ける。文香はきていることに気が付いていなかった文香はヒャッと声を上げる。

「そうね。文香さんはとっても綺麗だわ。はい、私からのサービス。文香ちゃんはまだ未成年だから、白茶ね」

「あら、じゃあ私達は?」

「私も白茶。まだ仕事の最中なんだから。今もエレーナがきているから、少し休憩をもらったの。で、貴女は紹興酒。車じゃないんでしょ?」

「えぇ。文香ちゃん、一人だけで申し訳ないけど、いただくわね」

「は、はいっ」

エレーナは仁禛に酒を注いでもらうと、美味しそうにそれを飲んだ。常連であるエレーナの嗜好を仁禛は熟知しているため、エレーナは酒の味に顔を綻ばせた。

「さ、文香ちゃんもどうぞ。今、淹れるわね」

仁禛は持ってきていたガラス製のポットにお湯を注ぐ。すると、中の茶葉が綺麗に揺れる。

「わぁ……」

「このお茶は淹れるとき、とても綺麗なのよ。そして、味もね。はい、どうぞ」

しっかりと味を出されたお茶を文香に渡す。文香は息を吹きかけてから口に含むと、その味に驚いた。

「お気に召してもらえたみたいね」

「は、はいっ。とっても美味しいです!」

本当に美味しかったのか、文香は満面の笑みを浮かべて頷いた。

「あら、仁禛さんったら羨ましい。初対面なのにそんなに可愛い笑顔を向けられるなんて」

「へ? あ、あわわ……」

自分の行動に気が付いた文香は顔を真っ赤にさせる。

「さてと、お茶も淹れたことだし、私は失礼するわ。ごゆっくり」

それだけ言うと、エレーナは下がっていった。文香は去って行く仁禛の後ろ姿を見ながらぽつりと呟く。

「素敵な人です」

そんな呟きをエレーナが聞き逃すはずもなく。

「あれー、文香ちゃんは私より仁禛さんがいいの?」

「へっ!? そ、そんなことはっ!?」

慌てる文香に、エレーナは嬉しそうに文香の頭を撫でる。

「ふふふ、かーわい。もう、ふみふみしちゃう」

「ふみふみって何ですかぁ……」

もうやりたい放題である。エレーナは一頻り文香をイジリ倒す。

「ふぅ、堪能したわ。それじゃ、お茶を飲み終わったらでましょうか。簡単につまめるものを買ったらウチに行きましょう」

「は、はいぃ……」

若干へろへろな文香だったが、最高級のお茶を飲むことでいくらか持ち直す。

会計をすると、その際に一つの袋を渡された。

「あら、これは?」

「料理長からでございます。お二人で楽しんで欲しいとのことです」

「あら、ならありがたく頂くわ。仁禛さんにはまたきますと伝えて下さいな」

仁禛からのお土産を受け取ると、エレーナは一端買い物をしてから家に帰る。

「さ、お話の前に用意しちゃうわね」

「あ、私も一緒に……」

「そうね。じゃあ、一緒にやりましょうか」

エレーナは文香と一緒に簡単な食事を作った。所々アドバイスしながらバゲットなどの軽い食事を作る。

「じゃあどんなお話をしましょうか」

「あ、それならお父さんが送ってくれた本があるんですけど……」

その後、二人は夜が明けるまで語り明かしたのであった。

「ふわぁ……」

「昨日は夜更かしですか?」

車の中であくびをしていたエレーナに、華耶は運転席から声をかける。

「えぇ。文香ちゃんと語り明かしちゃったから。そうだ、昨日メールした件、大丈夫そうかしら?」

「その件でしたら今朝伝えてあります。あちらとしては是非と言ってくれましたが、本人には貴女から伝えて下さい」

「分かったわ。いつがいいかしら?」

「今日、仕事終わりに事務所に帰ってくるようですので、その時にと。全く……まだ本格始動する前だからいいですけど、こういうことはあまりしないで下さい」

華耶はため息をつくが、幾分諦めてもいた。

「えぇ。これ以上は増やしにくいしね。じゃあ、事務所まで目を閉じてるから、着いたら起こしてね?」

そう言うと返事を聞く前に目を閉じてしまう。そしてすぐに寝息を立て始める。

「全く……ともあれ、ユニット名は《TITANIA》に決定ですね」

そう苦笑を浮かべる華耶の隣には、文香について書かれた書類が置かれていた。

 




だって、可愛いんだもの。
エレーナ
楓さん
ふみふみ

最強ユニットだと思う。

因みにエレーナとふみふみとの読書トークはマニアック過ぎたのでカットしました。
取り敢えず、ふみふみはフリフリ悩殺妖精ドレスで真っ赤になることが決定しています。
エレーナ? 彼女は女帝です。
楓さん? 彼女は……男役? いや、女性の男役は花形ですから。《TITANIA》の楓さんはイケメン予定(駄洒落は言う)
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