女帝が引っかき回すお話   作:天神神楽

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纏幽玄香、翻白銀絲とでも書きましょうか。
今回のキャラは茄子さんと和服美人(年上)です。


幽玄な香りを纏いて、白銀の絲を翻す その一

 

 ライブも近付いて来ており、忙しいはずのエレーナなのだが、他の仕事も精力的にこなしている。

 この日エレーナは京都を訪れていた。

 「茄子ちゃん、着物を着るのは久し振りなのね」

 エレーナは共演者である鷹富士茄子の着付けをしていた。

 「はい。お仕事では着させてもらうことはあるんですけど、紗枝ちゃんみたいに普段から着ているわけではないですから」

 「茄子ちゃんは和装がとても似合うから勿体無い気もするわね。さ、出来たわ。うん、やっぱり和服美人さんね」

 締めた帯をポンと叩くと、満足気に頷いた。

 「ありがとうございます。でも、エレーナさんの振袖姿は、本当に天女様みたいですねー」

 エレーナも茄子と同じく振袖を纏っていた。茄子は赤地の華やかな柄の振袖を着ていたが、エレーナは黒の落ち着いた柄の振袖を着ていた。それでも、エレーナの銀髪が輝き、星が瞬く夜のようにきらびやかであった。

 「ふふ、実は神楽さんの振袖をお借りしたの。あ、でも似合うというのなら、神楽さんが一番似合っているはずよ」

 「あら、私の居らん所で内緒話どすか?」

 噂をすれば、二人が着替えていた和室に一人の女性が入ってきた。

 白地を金糸で彩った豪華絢爛の振袖を見事に着こなし、エレーナよりも長い黒髪を揺らす女性の姿に、茄子は言葉を失ってしまう。

 「あら、内緒話だなんて人聞きの悪い。神楽さんは世界で一番お着物が似合う素敵な女性だって話してたんです」

 御神神楽(みかみかぐら)。名家が多い京都において、それら全ての上をいくとも言われる御神の若き当主である。

 「似合うゆうてくれるんは嬉しいけど、そろそろ袖取りたいんやけどなぁ」

 「あらあら。私はまだ神楽さんの振袖姿をみていたいですよ。改めて紹介しますね。こちらが鷹富士茄子さん。私の可愛い可愛い後輩さんです」

 「エレーナはんがアイドルの娘紹介するとき、いっつもそれやなぁ。とと、失礼しました。私は御神神楽いいます。エレーナはんと一緒やと色々大変やろうけど、よろしゅうお頼申します」

 にこりと微笑む神楽に、茄子は更に照れてしまう。

 それが不満なのがエレーナだ。

 「ぷー、神楽さんまで後輩を取るんだからー。ずるいわー」

 「全く、エレーナはんかてええ歳なんやし、そないなこと言わんといてや」

 「……神楽さんの方が歳上のくせに」

 「しばくで?」

 「♪~~」

 「あはは……」

 わざとらしく口笛を吹くエレーナに、神楽は諦めたように溜め息をついた。

 「全く、エレーナはんに何言うても暖簾に腕押しやね。こんなんならエレーナはんやなくてお紗枝はんのが良かったわ」

 御神家と小早川家は京都の名家同士交流があり、神楽と紗枝は仲が良い。

 しかし、そんなことを言えば、エレーナが放っておくはずがなく。

 「あー、神楽さん、茄子ちゃんだけじゃなくて、紗枝ちゃんまで取っちゃうの?」

 「じゃあかしいわ。第一、エレーナはん、後輩ちゃん達取られるの定番やないの。仁禛はんとアンヌはんと会ったのやろ? 何人奪われたん?」

 「うぐっ……それは言わないで……」

 トップアイドルで皆の憧れであるはずなのに、可愛がっている後輩を次々盗られている(と思っている)ことには薄々気付いていたのだが、それをキッパリと指摘され項垂れるエレーナであった。

 「ま、エレーナはんいじりはこんくらいにいときましょ。茄子はん、機材の準備は出来とるさかい。行きまひょか」

 この日の仕事はエレーナと茄子と神楽の三者会談。御神神社が所有する、山百合の花畑の中に建つ東屋で行われるのであった。

 「あぁ、とっても良い香り。最近お花を活けてないけど、ここに来るとお花に触りたくなるわ」

 「ふふ、そう言うと思うてたから、準備しておいてもらろたんよ。絵になるから言うて華耶はんもオッケーしてくだはったわ」

 いたずら成功とクスクス笑う神楽。その絶世の美女が見せる可愛い姿に、撮影スタッフも見惚れてしまっていた。

 「まぁ、私は構わないけれど、それだと茄子ちゃんが退屈じゃないかしら?」

 「もーまんたいどすえ。茄子はんは私がお茶でもてなすさかい。エレーナはんの艶姿を肴にほっこりさせてもらうわ」

 「えぇと、いいんでしょうか?」

 「ええのええの。さ、着きましたえ。御神自慢の《樂香庵(らくこうあん)》、たーんと、夏の香りを楽しんで遅れやす」

 山を暫し歩き到着したその場所は、一面を山百合に囲まれていた。屋外にも拘わらず山百合の貴い香りが立ち込め、気を抜けばその香りに酔ってしまうのではと錯覚してしまうほどの香気である。

 ふと茄子は、自分の前にいるエレーナと神楽を見る。二人ともこの香りにうっとりとしており、その色気は同性の茄子でもクラリときてしまいそうだった。

 その為か、この山百合の香りがほんの少しだけ薄らいだような気さえしてしまったのであった。

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