なので、五人でユニットを組んだら華耶さんは胃痛で倒れる。
《樂香庵》に入ると、そこは既に撮影の準備が出来ていた。それに加えて、神楽の言っていた通り、花の用意もされていた。エレーナはその花達を見て、クスリと笑う。
「もう、神楽さんったら。これって、アレでしょう?」
「あらら、エレーナはん相手やと遣り甲斐がないなぁ」
「ふふふ、それじゃあ、茄子ちゃんのお話相手は神楽さんがお願いね」
そう言うとエレーナは花を生け始めた。突然のことにあたふたしそうになった茄子だったが、それを神楽がきっちりとフォローする。
「私の我儘でお客人をほったらかしにしたらあきまへんね。茄子はん、私とお話しまひょ」
「は、はい。でも、何についてお話しましょう……」
本来はエレーナを中心にしてアイドルと日本文化について話す予定だったのだが、初手にしてエレーナが離脱したのである。これには茄子も戸惑うしかなかった。
「せやねー……せっかくやし、茄子はんがこれまで袖にしてきはった勇者はん達についてでもよろしいんやけど……」
「はへっ!?」
「ふふっ、じょーだんやで? そや、茄子はん。うちらについて、何か聞きたいことある?」
「神楽さん達についてですか?」
「せや。エレーナはんのことだから、こーはいちゃんたちのことばっかりで、自分のことあんま話しとらんやろうし、せっかくやからぜーんぶ話してみよ思いましてな」
確かに茄子はエレーナ自身の話というのは、あまり聞いたことがなかった。エレーナとは話す機会は多いものの、楓の面白エピソードや、妹であるアナスタシアとユニット仲間の美波のらぶらぶエピソードやふみふみマジゴッデス、といった話ばかりであった。
茄子も華の女子大学。つまりは、興味津々であった。
「是非」
「ふふふ、素直な子は好きやで。ほな、何からお話しようかねぇ」
グイグイ前のめりな茄子にクスクス微笑みながら顎に指を当て考える。
「せや、エレーナはんの好きな物とか知っとる?」
「エレーナさんの好きなもの? ……可愛い子?」
「あはは、それもそうやけど。エレーナはんのプロフィールには確かカステラ書いとりましたけど、ありゃよそ行き用のやね」
「カステラ……普通といえば普通ですよね?」
エレーナさん、カステラ好きなんだー、と思いつつ、よそ行き用という言葉に首を傾げる。
「いやね、私もエレーナはんにカステラ送ったりしとるし、カステラ好きも嘘やないんやけど、本当に好きなんはな……」
「ちょいちょいちょいちょいーっ!! 私のイメージ!! 威厳ーっ!!」
神楽の言葉をぶち切り、エレーナが慌てて割り込んでくる。
「んなもん、欠片もあらへんやろ。それに華耶はんにはおーけーもろとるから問題なしや。ほれ、お花の方に戻り」
「華耶さんヒドス」
涙目になりながら花を生ける作業に戻るエレーナ。しかし、耳は二人の方に向いていた。
「全く話の腰折られてもうたわ」
「い、いいんですか?」
「ええのええの、華耶はんに許可もろとるし。それに、気取ってばっかじゃあきまへん」
申し訳ないと思いつつも、やはり気になるのか茄子は少々前のめりになっていた。
「そんでな、エレーナはんの大好物って、カレーライスなんよ」
「カレーライス……ですか?」
思ったよりも普通の解答に首を傾げる茄子。
「そ。普通やろ? 別に隠さんでもええと思うんやけど、この子、皆の先輩だからカッコよくなきゃダメなのー言うて。そんなら、カステラもどうか思うんやけど」
神楽の言う通り、エレーナがカレー好きと聞いても特に違和感を感じない茄子だったが、エレーナ本人はそうではないようで。
「うー……だって、みんなの先輩さんなんだから、格好良くないとだめじゃない?」
「せやから、そんなことあらへんよって、いっつも言うとるやろ」
「うー……」
項垂れつつもエレーナはしっかりと生け花を持ってきていた。
「そんなんでもしっかりと作ってこれるんやから流石やなぁ」
「まぁ、あんなお題を出されちゃ、形は決まってきちゃうからね」
「へ? お題ですか?」
二人の会話に、何のことか分からない茄子は首をかしげた。
「簡単に言えば和歌のお勉強ね。万葉集の歌なんだけど、まぁ詳しくは省略しましょうか。ユリのことを詠んだ歌があるの。それをイメージして生けたのよ」
エレーナが生けた花は、大きな山百合を中心にいくつかの花を合わせて出来ていた。
「流石はエレーナはんやね。ひっかけ問題にも引っ掛かりやせん。つまらんわぁ」
「こんなにあからさまなのに引っ掛かったら、華耶さんにどやされるわよ、もぅ」
「???」
エレーナと神楽は分かりあっているのだが、茄子はますます首を傾げるしかなかった。そんな茄子に対して、エレーナは山百合の周りに添えられている小さめな花を指差した。
「本当はね、元々京都には山百合は自生していなかったの」
「え? そうなんですか?」
「そうやよ。明治ん頃に輸入されてきたんを、京都でも育て始めたんよ。そん頃から山百合も人気出始めたからね」
「へー、知らなかったです。でも、和歌とかによく百合が詠われてますよね?」
「そ。その歌に詠われている百合の花がこの姫百合なの。日本古来から人々を魅了し続けた気高くて、とっても可愛らしいお花。だから……」
エレーナは徐に姫百合を抜くと、茎を短く切るとそのまま茄子の髪に姫百合を指した。
「へ?」
「うん。やっぱり茄子ちゃんには姫百合が似合うわ。とっても美人さんよ」
そのまま頭から頬に手をずらして撫でる。そんなことをされては茄子もポカンとして、数秒の後ボンッと顔を真っ赤に染め上げた。
「あ、ああああのっ!?」
「はぁ……やっぱり気障ゆうか、タラシゆうか……。なぁなぁ、私は美人さんやないの?」
「神楽さんは傾国傾城の美女よー。だから……うん、山百合がとってもお似合い」
「ふふふ、そんなら許したろ。さてと、スタッフはん、ええ写真撮れたやろ?」
神楽の言葉に、撮影スタッフはグッと親指を立てた。
「ん、そんならウチに戻りまひょ。茄子はんがそろそろ限界やし、介抱してあげなアカンし」
神楽の言う通り、茄子はもう限界と言わんばかりにグルグル目を回し、頭からは湯気が出ていた。
「あらら、じゃあお姫様抱っこして運んであげましょうか」
「そら止めやわ」
神楽の言葉もあってか、茄子は無事(?)に神社に戻ることが出来たのであった。