女帝が引っかき回すお話   作:天神神楽

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幽玄な香りを纏いて、白銀の絲を翻す その三

 

 「茄子はん、大丈夫?」

 「は、はい。ご迷惑をお掛けしました」

 「迷惑かけたんはエレーナはんやから。さ、煎茶やけどどうぞ」

 撮影も終わり、チェックの間三人は神社の奥の応接室で休憩していた。茄子は神楽と共にお茶を飲んでいたが、そこにはエレーナはいなかった。

 「はーい、用意出来たわよー」

 そのエレーナはお盆を持って部屋に入ってきた。神楽はエレーナが持ってきたものを見てパッと笑みを浮かべた。

 「待ってたわー。ふふふ、エレーナはんのご飯大好きやわぁ」

 「わ、美味しそう」

 「ふふふ、神楽さんがとっても美味しそうな鮎を用意してくれてたから。私もここの皆さんと久しぶりに料理が出来て楽しかったわ」

 個人的にもよくこの神社に来ているエレーナは神楽家の侍女たちとも仲が良く、料理に関しては日頃も連絡を取り合っている仲であった。

 「あん娘達もエレーナはんが来る聞いて、張り切っとったからね。だから、今日のお昼は楽しみやったんよ」

 話もそこそこに、神楽は手を合わせると鮎に手を伸ばした。

 「ん~、エレーナはんの鮎の塩焼きは絶品やわぁ。エレーナはんも仁禛はんみたいにお店開かへん? 京都に開くんならウチで出資するで?」

 「ふふふ、アイドルを引退したら考えるわ。それに、私がこの味を出すにはここの皆がいないとできないもの。だから、この料理を出すのは神楽さん達にだけなのよ」

 「……ふふふ、ほんに嬉しいこと言うてくれはるなぁ。そんなら、しっかり味わいましょ。さささ、茄子はんも食べて食べて」

 「はい。わ……美味しい」

 自分の料理に舌鼓を打つ二人を見て、エレーナは嬉しそうに微笑みながら自分も席についた。

 「……うん、やっぱり京のお野菜は美味しいわ」

 「全く、東京にいる皆が羨ましいわぁ。アンヌはもう来てはるみたいやし、システィナもそろそろ日本に来るんやろ?」

 「えぇ。イギリスでの引き継ぎも終わったみたいだし、こっちでの開店の用意も終わったみたいだから、近い内に来るはずよ」

 「こっちに来るとは思うとったけど、まさか独立までするとは思わんかったわ。ほんと、あの娘はエレーナはん大好きやねぇ」

 「ふふふ、私もシスティナちゃん大好きよ。それに……」

 思わせ振りな笑みに、神楽は食いついた。

 「ん? 何なん、思わせ振りな笑み見せて。ほれほれ、言うてみ?」

 「あーん、駄目よ。事務所未発表だから口外禁止なのー」

 神楽に脇腹を擽られ、身を悶えさせるエレーナ。そんな仲の良い二人を見て茄子もクスクス笑っていた。

 「ほらー、神楽さんのせいで茄子さんに笑われちゃったわ」

 「あら、それは堪忍。せや、二人ともこの後街回るんやろ?」

 「えぇ。遠くまでは行けないから、お土産を見ようと思ってるけど」

 「せやったら、私が案内するわ。私のオススメもあるし。どやろか?」

 「是非!! 神楽さんとの京見学だなんて、最高のご褒美だわ!!」

 パッと顔を輝かせたエレーナに、神楽も笑顔を浮かべる。

 「茄子はんも構わんか? こっちで勝手に決めてもうたけど」

 「はい。私からも是非。とても楽しみです」

 茄子も大いに賛成であり、子供のようにはしゃぐエレーナを見て、改めて笑ってしまった。

 

 

 

 

 「んー、アーニャちゃん最近お漬け物に嵌まっているみたいだから千枚漬けもいいけど、それだけじゃ女の子のお土産としてダメな気がするわ……」

 「女の子www」

 エレーナと神楽のじゃれつきを横目に、茄子もお土産を見繕っていた。

 店員に出された試食の千枚漬けをポリポリ食べていると、エレーナを弄くり倒した神楽が茄子の所にやって来た。

 「美味しいやろ、ここは私もお気に入りでな。いつもお漬け物を用意してもろてるんよ」

 「はい。とても上品な味で美味しいです」

 「ふふ、そう言うて貰えると私も嬉しいわ。女将はん、ウチに卸してくれとるのまだあります?」

 「えぇ。少々お待ち下さいな。今お持ちしますね」

 女将が下がると、神楽も試食の漬け物を食べる。

 「そや、茄子はん、和服とかは持っとるの?」

 「実家には何枚かありますけど、自分では持っていませんね。お仕事ではよく着させてもらってますけど」

 「茄子はん、黒髪がとっても綺麗やし和服が似合うと思うから、勿体無いなぁ。せやせや、茄子はんまだ時間はある?」

 「は、はい。まだ時間には余裕がありますけど」

 「せなら、次の目的地は決まりやな。エレーナはん、いつまで漬け物試食しとんの。お土産は見繕っ解いたから次のお店いくで!!」

 「むごっ!?」

 アイドルあるまじき声をあげたエレーナを尻目に、神楽は女将から商品を受けとると茄子とともに店を出た。

 「ま、待っふぇ~」

 アイドルとしての最後の矜持なのか、口にしていた漬け物を飲み込んでから女将にお礼を言ってから店を出た。

 「もぅ、神楽さんったら。それでどこにいくの?」

 「茄子はんがお着物持っとらんいうから、《雀屋》はんとこ行こう思とるんよ。エレーナはんもええやろ?」

 「《雀屋》さん? それじゃあ、アンヌ仕込みのセンスが火を吹くわね!」

 「センスやなくて扇子がええとこやね。ま、茄子はん可愛えから私も張り切ってきてるんよ」

 「え? えぇ!?」

 どこか(エレーナにとって)見覚えのある状況に、茄子は嫌な予感がしたのであった。

 

 

 

 案の定というか、呉服屋《雀屋》では、和服ファッションショーが行われた。

 「まぁ、仕立ててもらうから意味はあまりないんだけどね」

 「こ、こんなに高価なものをもらうわけには……」

 着せ替え祭りから解放された茄子は、まさか和服をプレゼントすると言われ恐縮していた。

 「ええのええの。二人で折半やから然程高額にもならんしな。それに、エレーナはんやないけど、可愛い娘見るんは私も好きなんよ。貯金ばっかり溜まって中々使う機会もないんや。せやから、遠慮せずに受け取ってや。おねーさんからのお願いや」

 「で、でも……」

 そうは言われても、値段を見てしまった茄子は素直に頷けない。

 「大丈夫よ。しっかりお仕事に組み込まれるから、遠慮しないの。雀さん、茄子ちゃん可愛いでしょう?」

 エレーナが話しかけたのは、女将である雀京(すずめみやこ)。神楽の付き添いで常連となっているエレーナが来たため、奥から出てきてくれたのである。

 「せやなぁ。テレビではよう拝見しとりますけど、ほんに可愛らしいお方やわぁ。せや、みーはーで悪いんやけど、サインいただけないやろか? ウチの娘が大ふぁんなんよ」

 「は、はい。勿論です」

 渡された色紙にサインをする茄子。そんな茄子を見て、エレーナもいそいそと動き出した、のだが神楽に摘ままれて動きを止められた。

 「ちょい待ち。雀さんとこにどんだけエレーナはんのサインがある思とるの? あんたはん、事あるごとに書くんはえぇけど、流石に限度ちゅうもんがあるやろ?」

 現在《雀屋》には、エレーナの歴代サインがズラリと並んでいる。量が莫大なもののなりつつあるのだが、それらは全て京の娘の部屋に納められている。

 「ウチ、というか娘が喜ぶから大歓迎やけどね」

 「京はん、エレーナはんを甘やかしたらアカンよ」

 「私は甘やかされて大きくなったのよー」

 エレーナがそう言うが、神楽も京もスルーした。

 「ぶー」

 「ははは……。あ、それでしたら、私のサインと一緒に書いてくれませんか? エレーナさんと一緒だなんて緊張しちゃいますけど」

 茄子の言葉に、エレーナはガバッと顔をあげる。目もキラキラである。

 「ほんとっ!? 是非お願いするわ!」

 思わぬ反応に、茄子は恐る恐る色紙をエレーナに渡す。ウキウキしながらサインを書くエレーナを見ていると、神楽が茄子に耳打ちした。

 「エレーナはん、後輩ちゃんと一緒にサイン書きたいんやけど、本人が皆の憧れやろ? せやから、遠慮されてもうて、数えるくらいしか書けへんかったんよ。だから、あんに舞い上がっとるんよ」

 「あはは……確かに恐縮かもしれませんね」

 今回は思わず自分から提案していたが、エレーナから持ち掛けられていたら、確かに遠慮していたかもしれない。

 「ま、今日のエレーナはんは、随分素でおったし、茄子はんもリラックスしていれたんやろなぁ」

 嬉しさのあまり、京の娘に直接渡してくると部屋を飛び出していったエレーナを、まるで困った妹を見つめるような視線で見送る神楽。そんな神楽の姿を見て、茄子はクスリと微笑む。

 「どしたの、茄子はん? 急にわろうて?」

 「エレーナさんがいつも以上に笑っていたのは、多分、神楽さんと一緒だったからですよ。いつもは、私たちの頼れるお姉さんですけど、神楽さんといらっしゃるエレーナさんは、お姉さんが大好きな妹さんみたいでしたから」

 茄子の言葉に、神楽はキョトンとすると、カーっと顔を真っ赤にさせる。

 「い、嫌やわぁ。そんに歳上の女を照れさせて、どないするつもり?」

 「ふふ、私も大好きなエレーナさんの後輩ですから」

 茄子の自信満々な表情に、神楽もお手上げであった。

 と、その時、奥の部屋から、甲高い悲鳴が聞こえる。

 「あらあら、舞華ったら。お二人とも、ちょっと失礼しますね」

 「いいえ、京はん。私達もご一緒しますわ。多分、あの二人を抑えるんは重労働でしょうし。茄子はんもよろし?」

 「はい。私もファンの娘にお会いしたかったですから」

 この日、遠い憧れの存在であったエレーナの、可愛らしい一面を知った茄子。東京へと戻った後も、度々食事を一緒にとったり、休みが合った日には、一緒に料理をするほどに仲良くなったのであった。

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