「会心の出来」
「お美しいですわ」
イギリスとロシアが誇る絶世の美女二人が、可愛らしくハイタッチしている傍らで、ドレスアップされた美優が、システィナの店のスタッフに写真を撮られていた。小さいながらも本格的なスタジオと無駄に凝っており、美優は顔を真っ赤にさせていた。
「こ、こんなにしてもらっていいんでしょうか」
「いいのよ。美優さんは名前の通りに美しくて優しい女性だから、こういう衣装がとっても似合うわ」
「えぇ。まるで月のお姫様のよう。日本にはかぐや姫というお話がありましたが、再び地上に降りてきて下さったようです」
黒のドレスを纏った美優は、二人の言葉に更に顔を赤らめる。そんな姿も周囲に突き刺さり、スタッフ一同を更に張り切らせた。
「それじゃあ美優さんのおめかしも終わったし、私たちも着替えましょうか」
「はい。ミラ、私たちが着替えている間、美優さんのお相手をお願いいたします」
二人は美優のことをスタッフに任せて奥へと移動した。ミラと呼ばれたスタッフはカメラを置き、代わりに美優をソファに案内してお茶を出した。
「お疲れ様でした。僅かな間ではございますが、私が美優様のお世話をさせていただきますね」
ニッコリと微笑むスタッフに美優は恐縮してお茶を受け取る。
「あ、ありがとうございます。えっと、貴女も《Prim Rose》のスタッフの方なんですよね?」
「はい、ミラ・ステラと申します。私はブリテンからシスティナ様とともに来させていただきました。美優様のご活躍は様々な所で拝見しておりますよ」
「きょ、恐縮です。私もミラさんの作品はとても好きで、よく使わせてもらっています。そ、それと様と呼ばれるのは……」
ミラ自身もシスティナと同様に有名な調香師兼デザイナーであり、美優も彼女の香水などを愛用していた。
「ふふふ、では美優さんとお呼びさせていただきますね。でも、私の香水を使っていただけるだなんて光栄です。今使っていただいてる香水も私がデザインしたものですよね」
「はい。ミラさんの香水が普段でも特別な時でも使いやすくてよく使っているんです」
「ありがとうございます。システィナ様にはまだまだ及びませんが、これは自信作なんです。なのでとても嬉しいですわ」
美優にとってはミラも凄い人だったが、自身と同じく到達点とも言えるほどの憧れの存在がいる同士として、意外にも話が盛り上がった。
「あら、ミラさんったら、私のお友達を奪っちゃ駄目よ?」
「奪うだなんてとんでもない。ただ、お互いの苦労話で盛り上がっただけですよ」
「「苦労話?」」
なんの事か全く思い当たらないのか、首を傾げる二人に、美優とミラは思わず笑ってしまった。
「変な美優さん。ま、そんなことよりも、どうかしら?」
じゃん、とポーズをとるエレーナとそれにノッてじゃじゃん、とポーズをとるシスティナ。流石は世界トップクラスの美女二人だけあり、妙な迫力があった。
「お二人とも、とってもお綺麗です」
「ふふふ、システィナ様ったら、少しはしゃぎ過ぎですよ?」
「だってお姉様とのペアルックですもの。はしゃいじゃうわ。ロゼ姉様におねだりした甲斐がありました」
確かにシスティナとエレーナのドレスは色違いなデザインであった。エレーナは銀髪が生える濃い瑠璃色のドレス。システィナは金髪が映える東雲色。
「ロゼ姉様には私のドレスは朝を、お姉様のドレスは夜をイメージして頂いたのよ。そしたら、こんなに素晴らしいドレスを贈ってくださったの」
エレーナの親友達の中では一番歳下であるシスティナは、皆から妹のように愛されている。そのため全員システィナには甘いのだ。
「あらあら、システィナ様ったら。はしゃぐお姿も可愛らしいですけど、お時間も押しているんですから、移動の準備をしてください」
「はーい。あ、私はお土産を確認してから車に向かいますので、お二人は先に車で待っていて下さい」
「あ、それなら私も確認したいことがあるから一緒に行くわ。ミラさん、申し訳無いのですけれど美優さんのエスコートをお願いしてもいいかしら?」
「はい。車の準備は出来ていますけど、なるべく早めにお願いしますね」
ミラの言葉にはーいと子どもっぽい返事を返すと、二人は部屋から出ていった。
「さてと……美優さんも車にいきましょうか。さぁ、お手をどうぞ」
ミラは演技っぽく美優に手を差し出す。そんな姿は妙に様になっており、その姿が自分の先輩に重なり、思わず笑ってしまった。
「ふふふ」
「あら? 似合わなかったかしら?」
「いいえ、とてもお似合いです。でも今のミラさん、エレーナさんやシスティナさんとそっくりで」
そう言われたミラは驚いたように目を見開いた。華耶の場合はげんなりとするのだが、ミラは満面の笑みを浮かべた。
「それは、私にとって最高の褒め言葉です。だって、私が心から憧れた最高の女性に近づけたんですもの。ありがとう美優さ……いいえ、美優。ありがとう、本当に嬉しいわ」
「そ、そんな……ミラさんは本当に素敵な方ですし」
「いいえ、そうじゃないわ。私のことはミラって呼んで? 貴女とはそんな関係でありたいわ」
「きゃっ!?」
ミラに抱きしめられ、思わず悲鳴をあげる美優。そして、愛情を溢れさせながら写真に収めるスタッフ達。彼女たちにとっては、ミラも憧れの存在なのである。
「さ、もう一度♪」
真正面からニコニコしながら見つめられ、あわあわする美優だったが、ミラが微動だにしないため諦めるしかなかった。
「み、ミラ……」
「はぁい。さ、仲良くなれたことだし、車に向かいましょ」
名前を呼ばれご満悦なミラは、美優の腕を取り車へと案内した。
そして、お土産の準備を終えたエレーナとシスティナが車で見たものとは。
「大切な妹とお土産を選んで」
「憧れのお姉様と幸せな時間を過ごしていたら」
「私の可愛い後輩が」
「私の頼れるパートナーが」
「「イチャイチャしている件について」」
車の中で美優の腕を抱き抱えるミラと、顔を真っ赤にして二人に向かって首をぶんぶん振っている美優の姿であった。