ふみっ
色々な事があった翌日。エレーナは早朝テレビ局に向かっていた。楓と文香も一緒である。
「ふふ、文香ちゃん、緊張しすぎよ。まだ到着してもいないじゃない」
「は、ははははいぃぃぃぃ」
「ほらリラックスして」
楓が文香に水を渡す。文香はその水を一気に飲んだが、それでも緊張は取れていなかった。
「もうすぐ着きますよ。楽屋に入ったら挨拶回りをお願いします」
いつの間にかテレビ局前に到着していた。駐車場に車を入れ、楽屋に入る。そして準備も早々に、スタジオの方に向かった。
「お、来たね。今日はよろしく」
番組コメンテーターが三人に気が付くと、近付いてくる。エレーナが前に出て始めに挨拶をする。
「今日はよろしくお願いいたします。新曲は歌えませんが、精一杯歌いますわ」
「エレーナさんの歌が聞けるのだから幸せ者だよ。そちらの二人のことも紹介してくれるのかな?」
「もちろんですわ。こちらは高垣楓さん、そしてこちらの子が鷺沢文香さん。文香さんは私の可愛い可愛い後輩さんです」
エレーナに促され、楓と文香が前に出る。
「お久しぶりです。今日はよろしくお願いいたします」
「さ、鷺沢文香です! 今日はよろしくお願いします!」
楓は落ち着いていたが、緊張がピークに達したのか、文香は必要以上の大きな声で挨拶をしてしまった。大きな声を出せば注目される。文香は自分が失敗してしまったことに気が付き、アワアワと慌ててしまう。
しかし、エレーナはそんな文香の手を取ると、目の前で目を丸くするコメンテーターにニコニコしながら声をかける。
「文香さん、とっても可愛いんです。でも、もう一度ちゃんと挨拶しましょうか?」
パチンと文香にだけウインクするエレーナ。文香はハッとすると、もう一度背筋を伸ばし、しっかりとお辞儀をしてから顔をあげる。
「は、初めまして。今日はご迷惑をおかけしないよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
今度はしっかり言えた文香。エレーナは後ろから満足そうに頷いていた。コメンテーターも笑みを浮かべたため、文香は内心でホッとした。
「ははは。私も新人の頃はそんなだったよ。そういうときは一呼吸すると良い。そうするだけで、スッと気が楽になるからね。エレーナさん、とても可愛らしい後輩じゃないか。今日の歌、楽しみにしているよ」
そう言うとコメンテーターは三人から離れていった。
その後もアナウンサー達出演者に挨拶をし、軽い打ち合わせを終え、一旦楽屋に戻る。
楽屋に戻った瞬間、文香がガクっと床に座り込んでしまった。
「き、緊張しました~」
「でも、後からはしっかり出来ていましたよ。自信を持って下さい」
座り込んだ文香に手をさしのべながら励ます楓。文香はその手を取って起き上がると、少しフラフラしながら椅子に座る。
「ふふふ、緊張する文香ちゃんもふみふみね」
「ですから、そのふみふみって何なんですか?」
「ふみふみはふみふみよ。それより衣装合わせしないとね。スタイリストさんも来る頃だし」
エレーナの言うとおり、スタイリストはすぐに来た。
「あら、肌がとても綺麗ね。それに髪の毛もサラサラ。エレーナさん、この子といい楓さんといい、凄い子達メンバーにしましたね」
文香を担当するスタイリストが文香の肌や髪を絶賛する。エレーナはそれを自分のことのように自慢げに誇る。
「ふふーん、だって、自慢の後輩ちゃんですもの。いつもより200%増量で可愛くしてね?」
「了解です。さ、ちょっと目を閉じてね。わっ、まつげも長い……」
「はわわ……」
少し目が座るスタイリストになすすべもなく、されるがままにされる文香。楓やエレーナに助けを求めてたくても、二人ともそれぞれ楽しそうにスタイリストと会話しているのでそれは出来ない。
本気になりすぎて少し怖いスタイリストに、あちこち弄くられた結果。
「文香ちゃん、マジ天使ー!!!!」
「えぇ。とても可愛いです」
エレーナが少し壊れるくらいになってしまった。
「うぅぅ……変じゃないですか……?」
衣装への着替えとメイクを済ませた文香は先程よりも驚くほど華やかになっていた。そんな文香を見ているエレーナと楓も非常に輝いていたため、余計文香が自信を持てない理由となっていたのだが。
「何を言っているの。文香ちゃんはとってもステキよ。ほら」
エレーナは文香を改めて鏡に向かわせる。そこにはニコニコしているエレーナと楓、そしてきょとんとしている文香が映っていた。
「ほら、綺麗な髪で、綺麗な睫毛。それに、ステキな衣装。ホント、お姫様みたい」
「そ、それならエレーナさんの方が」
「あー、エレーナさんはお姫様じゃなくて女帝だから」
スタイリストが言うように、エレーナの風格はお姫様では収まらない。まさしく女帝たる堂々としていた。
「じゃあ私はロバ役かしら? ふふふ、華耶さんに衣装用意してもらわないといけませんね」
楓も嬉しそうに文香のことを見ていた。和やかな雰囲気が楽屋を包み、文香の緊張もほぐれていた。
「《TITANIA》の皆さん、スタンバイお願いします」
番組も中盤となり、エレーナ達の出番が近付く。スタジオの袖に移動する。
「文香ちゃん、緊張は大丈夫?」
「……はい。緊張はしてますけど、大丈夫です」
少し表情は硬いが、それでも文香はしっかりと前を見ていた。エレーナは楓と顔を見合わせ、クスリと笑う。そして、二人で文香の頬を挟む。
「ふみっ!?」
「ほら、表情が硬いですよ。リラックスして下さい」
「そうそう。ほら笑顔笑顔」
二人で文香の頬をムニムニとほぐす。うにゅうにゅとする文香を見て、二人は手を離す。
「うん、大丈夫みたいね」
「うぅ……ありがとうございます」
頬を抑えながらも、笑みを浮かべる文香。そこにスタジオ内に入るよう指示が入る。
「さ、行きましょう文香ちゃん、楓ちゃん」
「はい。さ、文香さん」
先輩二人に手を差し出され、文香は笑顔で二人の手を取る。
「はいっ!」
文香にとって大きな一歩となる《TITANIA》の活動は、とても素敵な笑顔で幕を開けるのだった。
次はアニメの話かも。
番外編として、エレーナがいつもより10倍はっちゃけるのを書こうかと。
具体的に言えばあーにゃんのところ。えれにゃん爆誕かも。